説明

パルス検出装置

【課題】簡単な装置構成で容易に自装置に送信されたパルスを検出する。
【解決手段】アンテナが受信した信号を入力すると、入力した受信信号の周波数成分を保持して信号レベルを対数変換するlog圧縮処理部105と、レベルが対数変換された受信信号をアナログ形式からディジタル形式に変換するAD変換器106と、ディジタル形式に変換された受信信号を所定の第1周波数の帯域で制限して得られた信号から信号レベルを検波する第1検波器110と、ディジタル形式に変換された受信信号を第1周波数よりも低い所定の第2周波数の帯域で制限して得られた信号から信号レベルを検波する第2検波器111と、第1検波器で検波された信号レベルと第2検波器で検波された信号レベルとの比較結果を利用し、所定周波数のパルスを自装置に送信された信号として検出するパルス検出部113とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機が位置を把握するために航空機との間で送受信されるパルスを検出するパルス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は様々な方法で位置を特定しながら飛行を行うが、飛行位置の特定に距離測定装置(DME:Distance Measuring Equipment)を利用する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
距離測定装置(DME)は、図4に示すように、地上に設置される装置であり、航空機6から送信されるパルスを受信すると、受信したパルスに応答するパルスを航空機6に送信する。航空機6では、距離測定装置5(5a〜5c)とのパルスの送受信を利用して飛行位置を特定する。
【0004】
航空機6は、図5に示す一例のように、質問パルスP1を送信する。航空機6から送信された質問パルスP1を受信した距離測定装置5は、質問パルスP1を受信してから決められた時間(Td)の経過後、航空機6に対して質問パルスP1に応答する応答パルスP2を送信する。航空機6は、距離測定装置5から送信された応答パルスP2を受信すると、質問パルスP1の送信時刻t1及び応答パルスP2の受信パルスの受信時刻t2とから求められる応答時刻Tと、電波(信号)の伝送速度とに基づいて、距離測定装置5から航空機6までの距離を測定している。
【0005】
ここで送受信される質問パルスP1及び応答パルスP2は、ツインパルスであり、国際的に運用モード毎のパルス間隔や遅延間隔等が規定されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
例えば、DME/Nモードの場合、質問パルスP1及び応答パルスP2のパルス幅は3.5μsで、パルス間隔は12μsである。また、各距離測定装置5には、送受信するパルスの周波数がそれぞれ定められている。図4に示す例では、第1距離測定装置5aの受信パルスの周波数が961MHz、この第1距離測定装置5aに隣接する第2距離測定装置5bの受信パルスの周波数が960MHz、第3距離測定装置5cの受信パルスの周波数が962MHzに規定されている。
【0007】
このとき、第1距離測定装置5aは、図6に示すように規定の周波数(961MHz)を中心とする所定範囲の質問パルスP1を受信した場合にのみ応答し、隣接チャネル(960MHz、962MHz)の質問パルスP1を受信しても応答しない。すなわち、距離測定装置5は、受信信号から規定される周波数の質問パルスP1を検出し、規定周波数の質問パルスP1に対して応答パルスP2を送信する。なお、図4に示す周波数質問パルスP1の受信用に定められる値であり、応答パルスP2には質問パルスP1とは異なる周波数が定められている。
【0008】
《アナログ方式》
したがって、距離測定装置5には、航空機6から自装置に送信された質問P1パルスを検出するパルス検出装置が搭載されている。
【0009】
例えば、図7に示すように、従来のアナログ方式のパルス検出装置2は、アンテナ201で受信する信号(RF信号)を増幅するRFアンプ202と、発振器203から出力される所定の周波数のRF信号と受信信号とをミキシングしてIF信号にするミキサ204と、ミキサ204から入力する信号の周波数帯域を第1周波数帯域(900kHz)に制限する第1フィルタ205と、ミキサ204から入力する信号の周波数帯域を第2周波数帯域(150kHz)に制限する第2フィルタ206と、第1フィルタ205から入力する信号の信号レベルを検波する第1ダイオード検波器207と、第2フィルタ206から入力する信号の信号レベルを検波する第2ダイオード検波器208と、ダイオード検波器207,208で検波された信号を比較する比較器209と、比較器209による比較結果を利用して自装置に送信された質問パルスP1を検出するパルス検出器210とを備えている。その後、このパルス検出装置2を搭載する距離測定装置5では、パルス検出装置2で検出された質問パルスP1に応答する応答パルスP2を生成し、航空機6に送信する。
【0010】
このアナログ方式のパルス検出装置2は、実際にはアナログ回路であり、アナログ回路部品である第1フィルタ205と第2フィルタ206の特性バランスの調整が困難であるという問題があった。アナログ回路部品は同じ部品であっても、個々の部品によって特性が異なり、複数の部品の中から特性バランスのとれる部品を選択する必要がある。また、アナログ部品は、経時変化するため、使用開始当初には特性バランスがとれていたフィルタ205,206であっても、使用を継続していると特性バランスがとれなくなり、パルスの検出に影響を与えるおそれがあった。
【0011】
《ディジタル方式》
アナログ方式の場合にフィルタ205,206の特性バランスの調整に関する問題を解決するため、フィルタ205,206の調整を不要としたディジタル方式のパルス検出装置がある。
【0012】
例えば、図8に示すように、従来のディジタル方式のパルス検出装置3は、アンテナ31で受信する信号(RF信号)を増幅するRFアンプ32と、発振器33から出力される所定の周波数のRF信号と受信信号とをミキシングしてIF信号にするミキサ34と、高レベルの信号を処理する高レベル信号処理部35と、低レベルの信号を処理する低レベル信号処理部36と、高レベル信号処理部35で検波された信号と低レベル信号処理部36で検波された信号とを比較する比較器37と、比較器37による比較結果を利用して自装置2に送信された質問パルスP1を検出するパルス検出部38とを備えている。
【0013】
このパルス検出装置3では、航空機6から送信される質問パルスP1を検出するため、質問パルスP1の信号レベル(振幅レベル)に対応する必要がある。一方、AD変換器が対応できる信号レベルには制限があるため、航空機6から受信する微少な信号から強大な信号の信号のレベルを調整せずにAD変換器で処理することはできない。また、信号のレベルを調整しようとすると、信号の周波数まで変動するおそれもある。したがって、パルス検出装置3は、高レベル信号処理部35においてAD変換器352の動作範囲内の高レベルの受信信号を処理し、低レベル信号処理部36においてAD変換器362の動作範囲内の低レベルの受信信号を別に処理し、別々に処理して得られた処理結果を合わせて質問パルスP1を検出することで、周波数情報を保持したまま質問パルスP1を検出している。
【0014】
ここで、高レベル信号処理部35は、ミキサ34から入力する信号のレベルを調整(増幅又は減衰)するアンプ351と、レベル調整された高レベルの信号(規格最大電力でAD変換器が飽和しない信号)をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換器352と、ディジタルに変換された信号をダウンコンバートして複素数データ(IQデータ)に変換するダウンコンバータ353と、IQデータに変換された信号の周波数帯域を第1周波数帯域(900kHz)に制限する第1フィルタ354と、IQデータに変換された信号の周波数帯域を第2周波数帯域(150kHz)に制限する第2フィルタ355と、第1フィルタ354から入力する信号のレベルを検波する第1検波器356と、第2フィルタ355から入力する信号のレベルを検波する第2検波器357とを有している。
【0015】
また、低レベル信号処理部36も、ミキサ34から入力する信号のレベルを調整(増幅)するアンプ361と、レベル調整された低レベルの信号(規格最小電力で検出できる信号)をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換器362と、ディジタルに変換された信号をダウンコンバートして複素数データ(IQデータ)に変換するダウンコンバータ363と、IQデータに変換された信号の周波数帯域を900kHz帯域に制限する第1フィルタ364と、IQデータに変換された信号の周波数帯域を150kHz帯域に制限する第2フィルタ365と、第1フィルタ364から入力する信号のレベルを検波する第1検波器366と、第2フィルタ365から入力する信号のレベルを検波する第2検波器367とを有している。
【0016】
すなわち、高レベル信号処理部35は、低レベルの信号は正確に検波できず、高レベルの信号のみを正確に検波して出力する。一方、低レベル信号処理部36は、高レベルの信号は飽和した信号となるため正確に検波できず、低レベルの信号のみを正確に検波して出力する。
【0017】
したがって、比較器37は、各検波器356,357,366,367から入力する信号を比較し、受信信号が高レベルである場合には高レベル信号処理部35から入力する信号をパルス検出器38に出力し、受信信号が低レベルである場合には低レベル信号処理部36から入力する信号をパルス検出器38に出力することができる。
【0018】
このディジタル方式のパルス検出装置3を搭載する距離測定装置5では、自装置に送信された質問パルスP1が検出されると、自装置にされた質問パルスP1に応答する応答パルスP2を生成し、航空機6に送信する。
【0019】
しかしながら、ディジタル方式のパルス検出装置3は、ダイナミックレンジ(信号レベルの強弱の対応幅)を確保するために、高レベル信号処理部35と、低レベル信号処理部36との2つの処理部が必要になり、装置構成が複雑になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2009-14398号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】“Aeronautical Telecommunications,ANNEX10,VOLUMEI”,1996年7月,27-40頁,ICAO
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述したように、従来のアナログ方式のパルス検出装置2では、第1アナログフィルタと第2アナログフィルタとの調整が困難であるという問題があった。また、ディジタル方式のパルス検出装置3では、装置構成が複雑になるという問題があった。
【0023】
したがって本発明は、簡単な装置構成で容易にパルスを検出することのできるパルス検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係るパルス検出装置は、アンテナが受信した信号を入力すると、入力した受信信号の周波数成分を保持して信号レベルを対数変換するlog圧縮処理部と、レベルが対数変換された受信信号をアナログ形式からディジタル形式に変換するAD変換器と、ディジタル形式に変換された受信信号を所定の第1周波数の帯域で制限して得られた信号から信号レベルを検波する第1検波器と、ディジタル形式に変換された受信信号を第1周波数よりも低い所定の第2周波数の帯域で制限して得られた信号から信号レベルを検波する第2検波器と、第1検波器で検波された信号レベルと第2検波器で検波された信号レベルとの比較結果を利用し、所定周波数のパルスを自装置に送信された信号として検出するパルス検出部とを備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡単な装置構成で容易に自装置に送信されたパルスを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るパルス検出装置について説明する図である。
【図2】比較器における比較について説明する機能ブロック図である。
【図3】比較器における比較について説明する図である。
【図4】一般的な距離測定装置について説明する概略図である。
【図5】航空機と距離測定装置で送受信されるパルスについて説明する図である。
【図6】距離測定装置で処理対象とする信号について説明する図である。
【図7】従来のアナログ方式のパルス検出装置の一例について説明する図である。
【図8】従来のディジタル方式のパルス検出装置の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1を用いて本発明の最良の実施形態に係るパルス検出装置1について説明する。パルス検出装置1は、例えば、図7を用いて上述したパルス検出装置2や図8を用いて上述したパルス検出装置3と同様に、地上局に設置される距離測定装置5に搭載され、航空機6に備えられるトランスポンダから送信される質問パルスP1を検出する。
【0028】
本発明の最良の実施形態に係るパルス検出装置1は、図1に示すように、アンテナ101で受信する信号(RF信号)を増幅するRFアンプ102と、発振器103から出力される所定の周波数のRF信号と受信信号とをミキシングしてIF信号にするミキサ104と、ミキサ104でミキシングされた受信信号を対数変換するlog圧縮処理部105と、対数変換されたアナログの受信信号をディジタル変換するAD変換器106と、ディジタル変換された信号をダウンコンバートして複素数データ(IQデータ)に変換するダウンコンバータ107と、IQデータに変換された受信信号の周波数帯域を第1周波数帯域(900kHz)に制限する第1フィルタ108と、IQデータに変換された受信信号の周波数帯域を第2周波数帯域(150kHz)に制限する第2フィルタ109と、第1フィルタ108から入力する信号から信号レベル(第1検波信号)L1を検波する第1検波器110と、第2フィルタ109から入力する信号から信号レベル(第2検波信号)L2を検波する第2検波器111と、第1検波器110で検波された信号レベルL1と第2検波器111で検波された信号レベルL2とを比較する比較器112と、比較器112の比較結果を利用してパルスを検出するパルス検出部113とを備えている。
【0029】
このパルス検出装置1では、log圧縮処理部105を備え、このlog圧縮処理部105で受信信号を周波数成分を保持した状態で信号強度を対数変換することで、受信信号をパルス検出装置1で対応するダイナミックレンジ(振幅レベル)をAD変換器106の動作範囲内に合わせることができる。したがって、図1に示すパルス検出装置1では、図8を用いて上述した従来のディジタル方式のパルス検出装置3のように、高レベルの受信信号を処理する高レベル信号処理部35と低レベルの受信信号を処理する低レベル信号処理部36とを利用して受信信号の信号レベル(振幅レベル)の範囲を確保する必要がない。
【0030】
図4及び図6を用いて説明したように、距離測定装置5ではそれぞれ質問パルスP1の周波数と応答パルスの周波数が予め規定されており、この規定される周波数は固有である。また、各距離測定装置で規定される周波数の差は、1MHz以上あるように規定されている。例えば、自装置で規定される周波数と隣接チャネルの周波数との差が1MHzであるとき、質問パルスP1を受信した距離測定装置5は、受信した質問パルスP1が自装置に送信された質問パルスP1であるか、隣接チャネルの質問パルスP1であるかを判定するためには、隣接チャネルとの周波数の差である1MHzよりも低い第1周波数で帯域を制限し、さらに第1周波数よりも低い第2周波数帯域を制限して得られた結果からパルスを検出する必要がある。したがって、第1フィルタ108で用いる第1周波数をチャンネル間隔より僅かに狭い900kHz程度とし、第2フィルタ109で用いる第2周波数をパルス幅の規格である100kHz(±100kHz)よりも僅かに広い150kHz程度とすることが望ましい。
【0031】
このように、第1周波数を900kHz、第2周波数を150kHzとすると、受信信号の周波数が処理対象である場合には、図2に示すように、第1検波器110から出力される第1検波信号L1は、第2検波器111から出力される第2検波信号L2よりも小さくなる。一方、受信信号が隣接チャネルに送信された信号である場合には、図2に示すように、第1検波器110から出力される第1検波信号L1は、第2検波器111から出力される第2検波信号L2よりも大きくなる。
【0032】
そのため、比較器112は、図3に示すように、第1検波器110から入力する第1検波信号L1と、第2検波器111から入力する第2検波信号L2の比較結果が「L1≦L2」であるとき、受信信号は「チャネル内出力」であると判定し、受信信号とともに、受信信号からパルスの検出を制御する「パルス検出制御信号」をパルス検出部113に出力する。また、比較結果が「L1>L2」であるとき、比較器112は、受信信号は「チャネル外出力」であると判定し、受信信号とともに、受信信号からパルスを検出しない旨を通知する「パルス検出抑制信号」をパルス検出部113に出力する。
【0033】
上述したように、本発明の実施の形態に係るパルス検出装置1では、受信信号の周波数成分を保持したまま信号レベルを対数変換してから扱う。したがって、上述したパルス検出装置1では、ディジタル信号処理を行なう場合であっても高レベル処理と低レベル処理とに分けて処理する必要がなくなり、簡単な装置構成でパルスを検出することができる。また、この距離測定装置では、このパルス検出装置1を搭載することで、簡単な装置構成でパルスを検出し、自装置に送信されるパルスに応答することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…パルス検出装置
101…アンテナ
102…RFアンプ
103…発振器
104…ミキサ
105…log圧縮処理部
106…AD変換器
107…ダウンコンバータ
108…第1フィルタ
109…第2フィルタ
110…第1検波器
111…第2検波器
112…比較器
113…パルス検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナが受信した信号を入力すると、入力した受信信号の周波数成分を保持して信号レベルを対数変換するlog圧縮処理部と、
信号レベルが対数変換された受信信号をアナログ形式からディジタル形式に変換するAD変換器と、
ディジタル形式に変換された受信信号を所定の第1周波数の帯域で制限して得られた信号から信号レベルを検波する第1検波器と、
ディジタル形式に変換された受信信号を前記第1周波数よりも低い所定の第2周波数の帯域で制限して得られた信号から信号レベルを検波する第2検波器と、
前記第1検波器で検波された第1信号レベルと前記第2検波器で検波された第2信号レベルとの比較結果を利用し、所定周波数のパルスを自装置に送信された信号として検出するパルス検出部と、
を備えることを特徴とするパルス検出装置。
【請求項2】
前記パルス検出部は、
比較の結果、前記第1信号レベルが前記第2信号レベル以下であるとき、受信信号を自装置に送信された所定周波数の信号であると判定し、当該受信信号から所定周波数のパルスを検出し、
比較の結果、前記第2信号レベルが前記第1信号レベル未満であるとき、受信信号を自装置に送信された所定周波数の信号ではないと判定し、パルスを検出しないことを特徴とする請求項1に記載のパルス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−286335(P2010−286335A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139879(P2009−139879)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】