説明

パルス状の電流およびワイヤによるMIG法を用いた金属部品の一部分の製造

本発明は、タービンエンジンの金属部品の幅Lを有する少なくとも一部分を製造するための方法に関する。本方法は、前記一部分が、パルス電流発生器とパルス状の溶着ワイヤの流れとを有しており、前記電流および前記流れを変化させるために使用されるMIG溶接装置を用い、金属の溶着によって製造され、製造が、連続する複数の層の金属ビード(10)の形態で実行されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンエンジンの金属部品の製造および補填(refilling)に関する。より詳しくは、本発明は、連続的でない部分(特に、フランジまたはボス)の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的でない部分の生成は、現在のところ、鍛造、鋳造、または2つの部分の溶接など、従来からの方法によって実現されている。これらの方法の大きな欠点は、特にバッチが少量であり、あるいは部品の形状が複雑である場合に、これらの方法に関する製造コストである。
【0003】
TIG(タングステン不活性ガス)方式の溶接は、ガスの雰囲気下での非消耗電極によるアーク溶接の方法である。この技法は、タービンエンジンの翼などの部品の製造または補填のために、溶加材とともに使用される。通常はアルゴンまたはヘリウムを主体とする中性ガスが、溶けた金属、高温領域、およびタングステン電極を空気から遮断して、酸化を防止する。中性ガスの流れの中で、電気アークが、非消耗のタングステン電極と溶接されるべき部品との間に確立される。アークによって放出される熱が、部品の縁および溶加材を溶かす。いずれかがあるとすれば、結果として、ビードの形成がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/125234号
【特許文献2】国際公開第2006/089322号
【特許文献3】国際公開第2005/042199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、部品または部品の一部分の製造または再製のための技法であって、大断面のビードを形成することによって大きな金属付着を可能とする技法を提供することにある。従来技術から知られている手作業でのTIG法は、断面が最大で10mmであるビードを溶着できるようにしているが、本発明の目的は、断面がより大きく、特に25mmを超える断面を有するビードの溶着をもたらすことにある。
【0006】
部品に残留ひずみを生じさせず、あるいは少なくとも部品に生じうる残留ひずみを最小限にすることが、重要である。
【0007】
溶着領域の材料の良好な一体性を保証することも、目的である。本発明は、これらの目的を、パルス状の電流およびワイヤによるMIG法を使用することによって達成する。
【0008】
溶接においてCMT(コールドメタルトランスファ)という略称によって知られ、国際公開第2006125234号、国際公開第2006089322号、または国際公開第2005042199号に記載されている方法など、パルス状の電流およびワイヤによるMIG法は、パルス状の電流によるMIG法の原理を採用し、それを、特にワイヤの展開の細かい管理によって補っている。ワイヤが、ワイヤの端部が部品に接触したときに生じる短絡の発生まで、連続的に展開される。この瞬間にワイヤが引っ込められ、金属の滴を溶着させることができる。次いで、プロセスが再開される。このサイクルが、70Hzにもなりうる周波数で繰り返される。したがって、エネルギーの供給が抑えられる一方で、コンピュータ制御のおかげで、高い冶金学的品質が保証される。さらには、溶接が、実質的にスプレイ移行(spraying)を生じることなく実行される。パルス状の電流およびワイヤによるMIG溶接は、以下の理由で、連続電流によるMIG溶接を超える利点を提供する。すなわち、熱の供給がより少なく、より大径のワイヤを使用することができ、実質的にスプレイ移行が存在せず、溶け込みが一定である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、タービンエンジンの金属部品の少なくとも所定の幅の一部分を製造するための方法であって、この一部分が、パルス電流発生器とパルス状のフィラワイヤ送り速度とを有しており、電流および送り速度を変化させるMIG溶接装置を使用して、金属付着によって製造され、製造が、連続する複数の層の金属ビードの形態で実行されることを特徴とする方法が採用される。
【0010】
パルス状の電流およびワイヤによるMIGの技法は、部品の互いの溶接において知られているが、本発明によれば、適切に制御されたときに、大断面を有するビードの形態の高い溶着速度のおかげで、部品の一部分を製造する可能性を切り開くことが確認された。変形が少ない一方で、TIG技法によって得られる冶金学的品質に匹敵する冶金学的品質も維持される。
【0011】
第1の実施形態によれば、第1の層Aについて、第1のビードが、第1の主軸に沿って所定の第1の幅にて生成され、次いで第2のビードが、第1のビードへの重なりを保証しつつ、第2の主軸に沿って第2の所定の幅にて生成され、前記重なりは、第1のビードの幅の1/4から1/2までさまざまであり、ビードによって覆われる表面が前記一部分の幅Lよりも大きくなるために必要な数のビードが生成され、第2の層Bについて、第1のビードが、第1のビードの軸を第1の層Aの最初の2つのビードの交差部に心合わせしつつ生成され、第2のビードが、前記第2の層の第1のビードへの重なりを保証しつつ生成され、前記重なりは、第1のビードの幅の1/4から1/2までさまざまであり、ビードによって覆われる表面が前記一部分の幅Lよりも大きくなるために必要な数のビードが生成され、いくつかの層が、部品の前記一部分の所望の高さHを得るように製造される。
【0012】
製造方法の一変形例によれば、第1の層Aについて、第1のビードが、第1の主軸に沿って所定の第1の幅にて生成され、次いで第2のビードが、第1のビードへの重なりを保証しつつ、第2の主軸に沿って第2の所定の幅にて生成され、前記重なりは、第1のビードの幅の0から1/4までさまざまであり、ビードによって覆われる表面が前記一部分の幅よりも大きくなるために必要な数のビードが生成され、第2の層について、第1のビードが、第1のビードの軸を第1の層の第1のビードの軸に心合わせしつつ生成され、さらに第3の層が、第1のビードを第1のビードの軸を第2の層Bの最初の2つのビードの交差部に心合わせしつつ生成することによって生成され、必要な数のビードが、ビードの軸の配置の規則を遵守しつつ生成され、作業が、部品の前記一部分の所望の高さを得るように繰り返される。
【0013】
本発明の製造方法は、厚さが3mm以上である部品に特に適している。
【0014】
パルス状の電流およびワイヤによるMIG法を使用する1つの利点は、同じ溶け込みおよび速度において、平均溶接エネルギーがTIG法よりも少ない点にあり、それゆえに薄い製品の溶接に適用される。さらに、エネルギーの供給が少ないことで、プレートに伝えられる熱が少なくなり、変形が抑えられる。
【0015】
本発明によれば、該当の部品の素材が、ステンレス鋼、ニッケルまたはコバルトベースの合金、あるいはチタニウム合金である。
【0016】
本発明の目的、態様、および利点が、後述される種々の実施形態の説明によって、さらに明瞭に理解されるであろう。それらは、あくまでも本発明を限定するものではない例として提示される。添付の図面が、以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フランジまたはボスの製造/補填を概略的に示している。
【図2】ボスの最初のビードの製造を示している。
【図3】層による製造の方法を示している。
【図4】ビーズの重ね合わせによる製造の方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、円筒形の形状であって、少なくとも3mmに等しい厚さを有しているベース部品1を示しており、ベース部品1上に、フランジ2またはその代わりにボス3が生成されるように意図されている。フランジ2は、ここでは、円筒形の部品の端部に位置する環状の部位の形態であり、部品1の全周にわたって所定の高さH1および幅L1にて生成される。
【0019】
本発明の方法にとって適切な材料は、ステンレス鋼(化学式X5CrNiCu17.4またはW11CrNiMoV12を有するステンレス鋼など)、ニッケルベースの合金(化学式NiCr19Fe19Nb5Mo3を有する合金など)またはコバルトベースの合金(化学式CoCrNi22Wを有する合金など)、ならびにチタニウム合金(化学式TiAl6Vを有する合金など)である。
【0020】
ボス3は、金属部品の表面の一部分に生成される。ボス3の高さH2および幅L2も、所定である。
【0021】
フランジまたはボスを製造するために、図3または4の製造方法において開発された方法のうちの1つを使用することができる。
【0022】
図2が、ボスまたはフランジを形成するための部品1への溶接ビード10の溶着を示している。本目的のために、本発明によれば、例えばマイクロプロセッサ(図には示されていない)によって制御される電流発生器を備えているパルス状のワイヤおよび電流によるMIG溶接機が使用される。
【0023】
例として、Fronius社によって提供され、本発明の実行を可能にするパルスMIG装置に適用できるパラメータは、Inconelについて曲線参照(curve reference)CrNi 19−9であり、チタニウムについてCuSi 301である。Fronius社は、顧客に対して、本発明を各々の材料に適合させることを可能にするあらかじめ定められたパラメータセットを提供する。
【0024】
溶接ヘッドの先端を、ノズル5によって囲まれた溶加材7を構成するワイヤとともに、見て取ることができる。溶加材および溶融槽が、ヘリウムおよび/またはアルゴンで構成された遮蔽ガスの流れ9によって囲まれている。ノズル5が、ビード10の製造方向に駆動される。ビードの長さおよび幅は、ワイヤの送りの速度に応じて定められる。ワイヤが、電気アークの形成において重大な役割を果たし、具体的には、ワイヤの直径が大きいほど、溶着速度および溶け込み深さが減少し、ビードの幅が大きくなり、溶融に必要なエネルギーが大になる。アセンブリが、溶接に影響するすべてのパラメータを制御し、ワイヤの直径、ワイヤの種類、または遮蔽ガスの種類などといったパラメータの間の両立性を維持しつつ安定なプロセスを可能にするプログラマブルな自動装置へと接続される。
【0025】
従来技術によれば、部品を製造するための技法が、TIGまたはレーザ補填(レーザビームに取り込まれた粉末)などの方法を使用するが、溶着の速度は低い。ビードの断面は、10mm未満のままであり、部品のかなりの変形につながる。したがって、パルス状の電流およびワイヤでのMIGによる製造方法は、ビードの断面を少なくとも2.5倍にし、部品が被る変形を少なくすることを可能にする。ビードの生成の技法が、変形をさらに最小化することを可能にする。
【0026】
図3が、層による製造の方法を示している。本方法の第1の段階は、部品1の清浄化および脱脂にて始まる。第1の層Aを生成するために、材料が、連続する互いに平行なビードにて溶着させられる。遮蔽ガスが、例えば製造される部品の面へと適用され、随意により反対側の面にも適用される。
【0027】
ビードは、以下の方法で溶着させられる。第1のビード11が、第1の主軸に沿って、所定の第1の幅にて溶着させられ、次いで第2のビード12が、第1のビード11への重なり112を保証しつつ、第2の主軸に沿って、所定の第2の幅にて溶着させられる。重なりは、第1のビードの幅の1/4から1/2まで、さまざまであってもよい。必要な数のビード13、14、などが、重なりの規則を遵守しつつ生成される。すべての幅の協働によって覆われる表面は、幅Lおよび長さの両方について、部品の部位の所望の表面よりも大きい。ビードを生成するために、ノズルは常に同じ方向に動かされる。ノズルを、交互の方向に移動させてもよい。
【0028】
次いで、第2の層Bが、第1の層上に配置される。第2の層の第1のビード11’が、先の層Aの最初の2つのビード11、12の重なりの領域112に心合わせしながら、第1の層のビードと平行に形成される。次に、第2のビード12’が、第1のビードへの重なりを保証しつつ、先のビードと同様に生成されるが、重なりは、ビードの幅の1/4から1/2まで、さまざまである。必要な数のビードが、重なりの規則を遵守しつつ生成される。第1の層Aについて、ビードによって覆われる表面は、部品の部位の所望の表面よりも大きい。
【0029】
ボスまたはフランジのための所望の高さを得るために、上述の段階が、必要な回数だけ繰り返される。好ましくは、第2の層のビードを生成するために、ノズルが、第1の層の生成における方向とは反対の方向に動かされる。
【0030】
図4が、ビードの重なりによる製造の他の方法を示している。
【0031】
先の方法と同様に、最初の段階は、部品の清浄化および脱脂にて始まる。
【0032】
第1の層Aを生成するために、第1のビード21が、第1の主軸に沿って、所定の第1の幅にて溶着させられ、次いで第2のビード22が、先の事例よりも少ない第1のビードへの重なりを保証しつつ、第2の主軸に沿って、所定の第2の幅にて溶着させられる。重なりは、ビードの幅の0から1/4まで、さまざまである。ビードによって覆われる表面が部品の部位の最終的な表面よりも大きくなるように、所望の数のビード21、22、および23が、重なりの規則を遵守しつつ生成される。この段階におけるビードの生成のために、ノズルは同じ方向に動かされる。
【0033】
第2の層Bのために、第1のビード21’が、他のビードに平行に溶着させられる。第1のビード21’の軸は、先の層Aにおいて生成された第1のビード11の軸に心合わせされる。次いで、第2の層の第2のビード22’が、先の段階において説明した小さな重なりを保証しつつ、溶着させられる。重なりの規則を遵守しつつ、所望の数のビードが生成される。ビードによって覆われる表面は、部位の所望の表面よりも大きい。この第2の段階のビードを生成するために、ノズルは、先の層の生成時の移動方向とは反対の移動方向を有する。
【0034】
方法の第3の段階は、均質化層Cを生成することからなる。この目的のために、第1のビード21’’が、第1のビード21’’の軸を先の層Bのビード21’および22’の交差部に心合わせしつつ、先のビードと平行に生成される。図に見て取ることができるとおり、ビード22’’は、下方の2つの層AおよびBの隣り同士のビードの間の材料を均質化するように生成される。
【0035】
第2のビード22’’が、第2のビード22’’の軸を下方の層Bのビード22’および23’の交差部に心合わせして生成される。ビードの軸の位置づけについての規則を遵守しつつ、覆われる表面が部品の部位に所望される表面よりも大きくなるように、必要な数のビードが生成される。ノズルは、好ましくは、先の層の方向とは反対の方向に動かされる。ボスまたはフランジのための所望の高さを得るために、上述の各段階を、必要な回数だけ繰り返さなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンエンジンの金属部品の幅Lおよび高さHの少なくとも一部分を製造するための方法であって、
前記一部分が、パルス電流発生器とパルス状のフィラワイヤ送り速度とを有しており、電流および送り速度を変化させるMIG溶接装置を使用して、金属を付着することによって製造され、製造が、連続する複数の層の金属ビード(10)の形態で実行されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
第1の層Aについて、第1のビード(11)が、第1の主軸に沿って所定の第1の幅にて生成され、次いで第2のビード(12)が、第1のビード(11)への重なり(112)を保証しつつ、第2の主軸に沿って第2の所定の幅にて生成され、前記重なりが、第1のビードの幅の1/4から1/2までさまざまであり、ビードによって覆われる表面が前記一部分の幅Lよりも大きくなるために必要な数のビードが生成され、
第2の層Bについて、第1のビード(11’)が、第1のビード(11’)の軸を第1の層Aの最初の2つのビード(11、12)の交差部に心合わせしつつ生成され、第2のビード(12’)が、第1のビード(11’)への重なり(112)を保証しつつ生成され、前記重なりが、第1のビード(11’)の幅の1/4から1/2までさまざまであり、ビードによって覆われる表面が前記一部分の幅Lよりも大きくなるために必要な数のビードが生成され、
いくつかの層が、部品の前記一部分の所望の高さHを得るように製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の層Aについて、第1のビード(21)が、第1の主軸に沿って所定の第1の幅にて生成され、次いで第2のビード(22)が、第1のビード(21)への重なりを保証しつつ、第2の主軸に沿って第2の所定の幅にて生成され、前記重なりが、第1のビードの幅の0から1/4までさまざまであり、ビードによって覆われる表面が前記一部分の幅よりも大きくなるために必要な数のビードが生成され、
第2の層Bについて、第1のビード(21’)が、第1のビード(21’)の軸を第1のビード(21)の軸に心合わせしつつ生成され、
さらに第3の層Cが、第1のビード(21’’)を第1のビード(21’’)の軸を第1の層Bの最初の2つのビード(21’、22’)の交差部に心合わせしつつ生成することによって生成され、
必要な数のビードが、ビードの軸の位置決め規則を遵守しつつ生成され、
作業が、部品の前記一部分の所望の高さを得るように繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
部品の厚さが、3mm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の部品の少なくとも一部分を製造するための方法。
【請求項5】
該当の部品の素材が、ステンレス鋼、ニッケルベース、コバルトベース、およびチタニウム合金であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
遮蔽ガスが、ヘリウムおよびアルゴンで構成される混合物である、請求項1に記載の部品の製造または補填のための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−521787(P2011−521787A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511025(P2011−511025)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056620
【国際公開番号】WO2009/144301
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】