説明

パルプの退色性改善方法および退色性を改善したパルプ

本発明が解決しようとする課題は、パルプの退色性改善方法であって、あらゆる種類のパルプに適用できる汎用性を有する技術であり、その処理が短時間で済み、退色抑制効果が大きくかつ永続的であり、環境に優しい、などの特徴を有するパルプの退色性改善方法の提供と、該退色性改善方法により退色性を著しく改善したパルプの提供にある。漂白済みである、機械パルプ、半化学パルプ、化学パルプ、古紙パルプのうちの1種類あるいは2種類以上の混合物に、還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの1種類あるいは2種類以上の添加剤を添加し、これに紫外及び/又は可視光を照射することにより、パルプの退色を著しく改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、パルプの退色性改善方法、更に詳しくは特定の化合物を用いるパルプの新規な退色性改善方法に関するものであり、また、該退色性改善方法により製造される退色性を改善したパルプに関するものである。
【背景技術】
パルプの経時による白色度の低下、すなわち退色の問題は、KP、AP、SPなどの化学パルプ(以下、CPと記す)、半化学パルプ(以下、SCPと記す)、SGP、RGP、PGW、TMP、CTMP、BCTMPなどの機械パルプ(以下、MPと記す)、古紙パルプ(以下、DIPと記す)などのパルプの種類に関係なく、共通した問題である。パルプの退色の程度は、主に、パルプ中のリグニンあるいはその変性物の残留量に影響され、リグニンあるいはその変性物の残留量が多いほど退色が進行しやすい。従って、パルプの種類では、漂白程度が低いMPが最も退色が進み、次にSCP、CPの順となる。DIPの退色は、含有されるMP量などに大きく左右される。
パルプの漂白時にリグニンが酸化され、変性物であるハイドロキノンが生成する。このハイドロキノンは化1に示すような反応で容易に酸化されてキノンとなり、着色する。さらに、酸化されずにパルプ中に残留しているリグニンも、化2に示すような反応で、紫外光により励起、酸化分解されることでキノン系化合物が新たに生成し着色する。従って、パルプの退色性を改善する従来技術としては、パルプ漂白工程において、漂白薬品やアルカル薬剤を添加することにより、退色原因物質であるリグニンやその変性物などを分解あるいは除去することが、通常行われている。


CPにおける退色性改善の従来技術としては、退色原因物質であるリグニンあるいはヘキセンウロン酸を化学薬品などで分解および除去する方法が行われている。しかし、この方法ではリグニンを分解除去するために多量の化学薬品などを使用しなければならないし、これらの処理により、漂白後のパルプの収率低下やパルプ繊維の強度低下という問題が起こる。また、ヘキセンウロン酸の除去には多量の酸が必要で、これもまたパルプ繊維の強度低下という問題を引き起こす。前記のキノン系化合物をあらかじめ分解できれば、CPを原料とする紙製品の品質安定となるし、新製品の開発も可能となる、などの効果が期待される。
従来技術の例としては、アルカリ性条件下の過酸化水素漂白段において、高温で、過酸化水素添加率が高く、反応時間が長いほど退色性が改善されるという文献がある(非特許文献1参照。)。また、リグノセルロース物質より得られたパルプを、塩素および/または二酸化塩素段−アルカリ/酸素段−二酸化塩素段−二酸化塩素段の漂白シーケンスで漂白する際に、連続する二酸化塩素段の最初の反応後期にアルカリを添加し、かつ第1段と第2段の二酸化塩素比率を40/60〜70/30とすることを特徴とする漂白方法が登録されている(特許文献1参照。)。また、リグノセルロース物質より得られたパルプを塩素、アルカリ抽出に次いで次亜塩素酸塩で処理する工程を含む多段の漂白方法において、該次亜塩素酸塩による漂白段で、絶乾パルプ重量当たり1.0%以上のアルカリを添加し、かつ60℃以上の温度下でパルプを処理することを特徴とする漂白方法が登録されている(特許文献2参照。)。また、漂白段として、少なくとも一段以上の塩素系の漂白段を含むシーケンスによって漂白されたパルプを、キシラナーゼで処理し、更に次亜塩素酸塩段と二酸化塩素段の漂白シーケンスで漂白することを特徴とする技術が開示されている(特許文献3参照。)。また、リグノセルロース物質より得られた漂白パルプを、更に高温高アルカリハイポ晒段と二酸化塩素晒段の連続したシーケンスからなる工程で漂白する高白色度パルプの製造方法において、該二酸化塩素晒段の工程が、二酸化塩素添加率が対絶乾パルプ当たり1重量%から3重量%の範囲で、二酸化塩素/アルカリ比率が1/0.05から1/0.3の範囲で、かつ高温度下で実施する技術が開示されている(特許文献4参照。)。
また、ECFまたはTCF漂白パルプの退色に係わる物質に関する最近の新たな知見として、従来のリグニンやその変性物以外にヘキセンウロン酸が関与していることが知られ出している。このヘキセンウロン酸は、蒸解工程においてヘミセルロース中のメチルグルクロン酸から脱メチルすることで生成する。このヘキセンウロン酸はパルプの退色性に関与していると言われている。このヘキセンウロン酸を除去する方法の一つとして、比較的高温の酸処理技術が提示されている。これは、漂白前のパルプを高温且つ酸性下で処理することにより、このヘキセンウロン酸およびリグニン変性物を酸加水分解し除去するものである。例えば、硫酸塩法またはアルカリ法によって製造したセルロースパルプの懸濁液を加熱し、約85〜150℃で約2〜5のpHで処理し、セルロースパルプ中のヘキセンウロン酸の少なくとも約50%を除去し、パルプのカッパー価を2〜9単位減少させる技術が開示されている(特許文献5参照。)。
MPは木材を摩砕して繊維化するため、パルプ収率は90〜95%にも達する。そのため、森林資源の有効利用の観点からMPの用途拡大が望まれている。しかし、MPは退色が大きいという問題があるため、その主な用途は中質紙や下級紙および新聞用紙などであり、白色度が高く、かつ保存性が要求される、例えば、印刷用紙や記録用紙などへの使用が限定されているのが現状である。MPの退色のメカニズムは、前記のパルプのリグニンによる退色と同じであるが、MPはCPやSCPに比較して、リグニンやその変性物の残留量が多いので、CPやSCPよりも退色が激しい。MPでは過酸化水素漂白時に酸化されたリグニンからハイドロキノンが生成し、このハイドロキノンは容易に酸化されてキノンとなることが、強く着色することの大きな要因の一つである。また、ハイドロキノンは漂白を強化するほど生成量が多くなるため、高白色度を有するMPほど退色は激しくなる。さらに、MP中に含まれる酸化されずに残留しているリグニンも、紫外光より励起、酸化分解され、キノン系化合物が新たに生成し着色する。従って、MPの激しい退色の主要因はキノン系化合物であり、このキノン系化合物をあらかじめ分解できれば、MPの著しい退色を大幅に抑制でき、▲1▼現状のMPを含有する紙製品の品質安定となるし、▲2▼現状、MPの退色が原因でMP配合率が制限されている紙製品において、MP配合率を高められるし、▲3▼MPを含有する新製品の開発も可能となる、などの多くの効果が期待される。
このMPの退色の問題を解決するために、古くから、数多くの提案がなされており、最近でも、例えば水溶性紫外線吸収剤と光安定剤を併用する方法が示されている(非特許文献2参照。)。また、MP中のリグニンが有する芳香環を還元する方法が示されている(非特許文献3参照。)。しかし、紫外線吸収剤等も紫外線により劣化するため、その効果は長期にわたり持続しない欠点を有する。一方、リグニン芳香環の還元にロジウム系触媒を用いた場合、木材から単離したリグニンの芳香環水素化反応を室温、アルコール水溶液中で行った結果、芳香環を部分的水素化するのに5日間という長期間を要し、さらに、使用する触媒がエマルションであるため、パルプ繊維内に存在するリグニンと直接反応することは極めて困難であると考えられる。従って、これらの従来の方法は、いずれの場合も十分な退色抑制効果が得られない、処理時間が長い、経済性、実用性が無いといった問題点を抱えているのが現状である。
尚、本発明の出願人の一つでもある独立行政法人産業技術総合研究所は、パルプの漂白方法に関して、紫外及び/又は可視光を照射することを内容とした3件の出願を既にしている。この中で、還元剤を用いるパルプの漂白において紫外及び/又は可視光を照射する技術を開示している(特許文献6参照。)。また、酸化剤として、ROOR’で示される有機過酸化物の存在下、紫外及び/又は可視光を照射する技術を開示している(特許文献7参照。)。また、過酸化水素と紫外及び/又は可視光を併用する技術を開示している(特許文献8参照。)。本発明は、これらの先願発明の技術を漂白済みのパルプに応用した、パルプの退色性改善方法に関する発明である。
従来技術の非特許文献及び特許文献は、次のとおりである。
The Bleaching of Pulp,P382,P384,TAPPI PRESS(1979)、N.Hartler、TAPPI 43(11)903(1960)(非特許文献1)、特許第1983064号明細書(特許文献1)、特許第2115315号明細書(特許文献2)、特開平6−101185号公報(特許文献3)、特開平9−105091号公報(特許文献4)、特表平10−508346号公報(特許文献5)、Yuan,Z.,et al.,J.Pulp Paper Sci.,28(5),159(2002)(非特許文献2)、Hu,T.Q.,et al.,J.Pulp Paper Sci.,25(9),312(1999)(非特許文献3)、特開2002−88671号公報(特許文献6)、特開2002−88672号公報(特許文献7)、特開2002−88673号公報(特許文献8)。
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、パルプの退色性改善方法であって、
(1)あらゆる種類のパルプに適用できる汎用性を有する技術であり、
(2)その処理が短時間で済み、
(3)退色抑制効果が大きく、かつ永続的であり、
(4)悪臭や毒性が無く、環境に優しい
などの特徴を有するパルプの退色性改善方法の提供と、該退色性改善方法により退色性を著しく改善したパルプの提供にある。
【課題を解決するための手段】
漂白済みCP、SCP、MP、DIPのうちの1種類あるいは2種類以上の混合物に、還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物の群の中から選ばれる1種類あるいは2種類以上の添加剤を添加し、これに紫外及び/又は可視光を照射することにより、パルプの退色を著しく改善できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、白色度を指標としたレーザー照射時間の違いによる退色抑制効果に関するグラフである。
図2は、白色度を指標にしたレーザー波長の違いによる退色抑制効果に関するグラフである。
図3は、L色差を指標にした照射時間の違いによる退色抑制効果に関するグラフである。
図4は、L色差を指標にしたレーザー波長の違いによる退色抑制効果に関するグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の退色性改善の対象となるパルプには、木材より得られる通常の漂白済みのCP、SCP、MP、DIPが包含される。これらの1種類のパルプでも良いし、2種類以上のパルプの混合物であっても良い。この漂白済みとは、例えば、CPにおいては、通常の多段漂白あるいはショートシーケンス漂白を全て終了したという意味である。
本発明で用いる特定の化合物としては、漂白剤・脱色剤として使用されている公知の還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物が使用できる。これらの群の中の少なくとも1種類の化合物の存在下、パルプを処理する。
このような還元剤としては、例えば、亜硫酸塩もしくは亜硫酸水素塩イオン、ハイドロサルファイト、水素化ホウ素化合物等が挙げられる。この水素化ホウ素化合物は、通常、下記一般式(1)または(2)で表される。
M(BR4−n 一般式(1)
(n=1〜4の整数、m=1〜3の整数、M=金属イオン、有機イオンまたは無機イオン、R=炭化水素基又は置換した炭化水素基)
BR3−n 一般式(2)
(n=1〜3の整数、R=炭化水素基又は置換した炭化水素基)
上記一般式(1)における金属イオンとしてはアルカリ金属を始めとする一価の金属イオン、アルカリ土類金属を始めとする二価の金属イオン、および三価の金属イオンが包含され、有機物イオンとしては安定なイオンであれば良いが、特に四級アンモニウムイオンが適している。また、Rとしては、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、好ましくは炭素数7〜40、より好ましくは炭素数7〜24の置換した炭化水素基などが挙げられる。また、二つ以上の置換基Rがある場合にはRは同一でも異なっていても良い。本発明で特に好ましく用いられる水素化ホウ素化合物は水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素テトラブチルアンモニウムである。
過酸化物としては、有機過酸化物と無機過酸化物のどちらでも使用できる。有機過酸化物としては、下記の一般式(3)で示される化合物を使用できる。
ROOR’ 一般式(3)
(R及びR’は、同一でも異なっていても良く、炭化水素基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、ホルミル基または水素を表す。)
炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基などの芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、それらの置換体、などが挙げられ、アルキルカルボニル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピオニルカルボニル基、それらの置換体、などが挙げられ、アリールカルボニル基としては、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、ビフェニルカルボニル基、それらの置換体、などが挙げられ、アルコキシルカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、それらの置換体、などが挙げられ、アリーロキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基、ビフェニロキシカルボニル基、それらの置換体、などが挙げられる。R及びR’は、同一でも異なっていても良い。これらの有機過酸化物の具体例としては、例えば、過安息香酸及びその誘導体、過酢酸、過蟻酸などの過酸、それら過酸のエステル類、過炭酸及びそのエステル類等が挙げられる。無機過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム等が挙げられる。
水素供与性有機化合物としては、下記の一般式(4)で表される一級アルコールが良く、具体的には、エチルアルコール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコールなどが挙げられる。
RCHOH 一般式(4)
(Rは、アルキル基、アリール基など)。
また、本発明における還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物は溶媒を使用せず単独で用いても良いが、紫外及び/又は可視光を透過する溶媒に分散もしくは溶解させて使用することが望ましい。このような溶媒としては、水、アルコール類、鎖状または環状のアルカン類、エーテル類等の単独溶媒あるいはこれらの混合溶媒が挙げられるが、水が好ましく使用される。
還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物の使用量は、溶媒に対する該化合物の飽和濃度以下であれば特に制限はないが、好ましくは溶媒に対して、0.01〜40%(重量/容積)、より好ましくは0.1〜20%とするのが適当である。また。還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のパルプ固形分に対する使用量は、0.05〜50固形分重量%、より好ましくは0.1〜25固形分重量%である。
紫外及び/又は可視光としては、特別な制約はないが、波長が180〜800mm、好ましくは200〜500nm程度のものを用いることが望ましい。これはリグニン、パラキノン、オルソキノンの最大吸収波長がそれぞれ280nm、360nm、390〜410nmであるためである。その光源としては低圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノン灯等の通常の光源や、各種エキシマランプや各種レーザー等も用いることができるが、高速処理の点からみてレーザー光源を用いることが望ましい。レーザー光源としては別に制限はなく、またレーザー光はパルス光でも連続照射光でも良いが、エキシマレーザー(ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー、XeFエキシマレーザー等)、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、YAGレーザーの第2、および第3高調波等が好ましく使用される。
光照射強度に特に制限はないが、パルス光では0.1mJ/パルス・cm〜1.0kJ/パルス・cm、連続光は0.1mW〜10kW/cmが適している。光照射温度にも特に制限はないが、好ましくは−80〜100℃、より好ましくは0〜80℃である。光照射時間は、原料パルプに含まれる潜在的着色物質量、添加剤あるいは溶媒の種類やその濃度さらには、照射紫外及び/又は可視光の種類や光強度等を考慮することにより適宜定められるが、通常、1〜60分もあれば充分である。
本発明は、▲1▼漂白済みパルプと、▲2▼還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物とを、接触させたところに、▲3▼紫外及び/又は可視光を照射すればよく、特にその実施の態様に制限はない。好ましい実施の態様としては、例えば、▲1▼還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物を含む紫外及び/又は可視光を通過する溶媒に、▲2▼原料パルプを分散した後、▲3▼紫外及び/又は可視光を照射する方法が挙げられる。具体的には、該溶媒が水である場合、漂白を終え、漂白工程から出てきたパルプ水懸濁液に還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物を添加混合後、紫外及び/又は可視光を照射する。また、▲1▼原料パルプをシート状、あるいは薄片状に成形した後、▲2▼これを還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物を含む溶媒に含浸、あるいは含浸させた後、▲3▼紫外及び/又は可視光を照射する方法等が挙げられる。具体的には、該溶媒が水である場合、漂白を終え、漂白工程から出てきたパルプ水懸濁液をパルプシートマシンのような機械で脱水し、シート状にしたパルプに還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物を含浸させ、これに紫外及び/又は可視光を照射する。
本発明による退色抑制の機構について詳細は未だ不明であるが、本発明者らは以下のように推察している。すなわち、本発明における、紫外及び/又は可視光照射により、パルプ中に含まれている潜在的な着色物質、例えばMPではその漂白時にリグニンが酸化的分解されハイドロキノンを生成する。また漂白時に酸化されずに残った未変性リグニンから様々なキノンが生成される。これらキノンがさらに紫外及び/又は可視光により基底状態から励起状態へと電子励起され、その結果、より活性な物質を有する状態に転じ、そのことにより共存する還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物との反応が高まり該着色物質の分解反応もしくは二重結合の水素化反応が促進される現象、あるいは、その逆に該紫外及び/又は可視光照射により、還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物がより活性な物質に転じ、そのことにより着色物質との反応性が向上し、該着色物質の分解反応もしくは二重結合の水素化反応が増大する現象を巧みに利用したものである。
本発明の退色性改善方法は、退色抑制方法として従来から提案されている添加剤、例えばチオール系化合物等をMPからなる紙に添加するといった方法では、キノンのハイドロキノンへの反応を促進するにすぎないため、添加剤が消費されてしまうと紫外光により再度退色し、根本的な改善には至らないだけでなく、悪臭および毒性が高いといった問題を包含していたが、本発明においては、還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物のうちの少なくとも1種類の化合物の共存下で、紫外及び/又は可視光を照射するという特殊な手段を採用したことから、これらの問題が全て解消され、さらには、環境に優しいといった顕著な作用効果を呈する。
【実施例】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
針葉樹を原料とする漂白済みMPと漂白済みCPを配合比1:1で配合した手抄紙(200cm、坪量60g/m)を1/4分割し、レーザー処理用サンプルとした。このサンプルを6%水素化ホウ素ナトリウム(w/v)水溶液に浸漬した後、ガラスプレート上に置いた。この時点で水素化ホウ素ナトリウムの含浸量は、パルプ固形分重量に対して18固形分重量%であった。これに40mJ/cm・パルス、5HzのKrFエキシマーレーザーを10分間照射した。レーザー照射終了後、サンプルを水洗し、シリンダードライヤーで乾燥した。退色試験はキセノンランプウェザーメーターを用いて行った。サンプルにキセノンランプから発生する紫外線を0.5、1.0、2.0時間照射した後、ISO白色度[JIS 8148]およびL色差(デルタEab)[JIS Z 8701]を測定した。退色試験はブラックパネル温度63℃、湿度50%、放射照度70Wで実施した。
【実施例2】
実施例1のKrFエキシマーレーザーの照射時間を20分間に代えた以外は同様の操作を行った。
【実施例3】
実施例1のKrFエキシマーレーザーの照射時間を40分間に代えた以外は同様の操作を行った。
【実施例4】
実施例2のKrFエキシマーレーザーに代えて、XeClエキシマーレーザーを用いた以外は同様の操作を行った。
[比較例1]
実施例1のレーザー処理用サンプルを水に浸漬した後、シリンダードライヤーで乾燥し、退色試験を実施した。
[比較例2]
実施例2において、レーザー照射することなく、20分間ガラスプレート上に静置した以外は同様の操作を行った。
結果を図1〜4に示した。
【実施例1】
針葉樹を原料とする漂白済みMPと漂白済みCPを配合比1:1で配合した手抄紙(200cm、坪量60g/m)を1/4分割し、レーザー処理用サンプルとした。このサンプルを6%水素化ホウ素ナトリウム(w/v)水溶液に浸漬した後、ガラスプレート上に置いた。この時点で水素化ホウ素ナトリウムの含浸量は、パルプ固形分重量に対して18固形分重量%であった。これに40mJ/cm・パルス、5HzのKrFエキシマーレーザーを10分間照射した。レーザー照射終了後、サンプルを水洗し、シリンダードライヤーで乾燥した。退色試験はキセノンランプウェザーメーターを用いて行った。サンプルにキセノンランプから発生する紫外線を0.5、1.0、2.0時間照射した後、ISO白色度[JIS 8148]およびL色差(デルタEab)[JIS Z 8701]を測定した。退色試験はブラックパネル温度63℃、湿度50%、放射照度70Wで実施した。
【実施例2】
実施例1のKrFエキシマーレーザーの照射時間を20分間に代えた以外は同様の操作を行った。
【実施例3】
実施例1のKrFエキシマーレーザーの照射時間を40分間に代えた以外は同様の操作を行った。
【実施例4】
実施例2のKrFエキシマーレーザーに代えて、XeClエキシマーレーザーを用いた以外は同様の操作を行った。
[比較例1]
実施例1のレーザー処理用サンプルを水に浸漬した後、シリンダードライヤーで乾燥し、退色試験を実施した。
[比較例2]
実施例2において、レーザー照射することなく、20分間ガラスプレート上に静置した以外は同様の操作を行った。
結果を図1〜4に示した。
MPにKrFエキシマーレーザーを照射した場合、照射時間が長くなるに従って退色しにくくなることが明らかとなった(図1、3)。特に、レーザーを40分間照射したサンプルはほとんど退色せず、2時間の退色試験後におけるブランクとの白色度差は16ポイントと顕著であった。また、KrFエキシマーレーザーとXeClエキシマーレーザーの退色抑制効果について比較した結果、両者でほとんど違いが認められなかった(図2、4)。MPにKrFエキシマーレーザーを照射した場合、照射時間が長くなるに従って退色しにくくなることが明らかとなった(図1、3)。特に、レーザーを40分間照射したサンプルはほとんど退色せず、2時間の退色試験後におけるブランクとの白色度差は16ポイントと顕著であった。また、KrFエキシマーレーザーとXeClエキシマーレーザーの退色抑制効果について比較した結果、両者でほとんど違いが認められなかった(図2、4)。
【発明の効果】
還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物の群から選ばれた少なくとも1種類の化合物の存在下、パルプに紫外及び/又は可視光を照射するという新規なパルプ退色性改善方法の提供により、あらゆる種類のパルプを処理でき、その処理が短時間で済み、退色抑制効果が大きくかつ永続的であり、環境に優しいなどの効果が得られる。また、該退色性改善方法により退色性を著しく改善したパルプを原料として、紙製品の品質安定、新製品の開発、MPの用途拡大などの効果も得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプの退色性改善方法であって、還元剤、過酸化物、水素供与性有機化合物の群の中から選ばれた少なくとも1種類の化合物の存在下、パルプに紫外及び/又は可視光を照射することを特徴とするパルプの退色性改善方法。
【請求項2】
パルプが、漂白済みの機械パルプ、漂白済みの半化学パルプ、漂白済みの化学パルプ及び漂白済みの古紙パルプの中の1種類あるいは2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のパルプの退色性改善方法。
【請求項3】
紫外及び/又は可視光が、レーザー光であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパルプの退色性改善方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のいずれか1つの退色性改善方法により、退色性を改善したパルプ。

【国際公開番号】WO2004/042139
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549641(P2004−549641)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014209
【国際出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】