説明

パルプモールド容器およびその製造方法

【課題】飲料・液状食品に適したパルプモールド容器を製造するとともに、食品残渣が付着する樹脂部分を容易に分離可能な構造とし、パルプモールド成形体のリサイクルにより、資源を有効利用する。
【解決手段】パルプモールド容器Cは、容器形状のパルプモールド成形体からなる本体部1と、本体部1の内表面を覆う樹脂層2を備え、樹脂層2は、本体部1の内表面に非接着かつ密接して配置される内容器部21と、フランジ部11を非接着で巻き込み保持する係止部22を有し、使用後に容易に分離可能な構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性・耐水性が必要とされる飲料・液状食品用として適しており、しかもリサイクルが容易なパルプモールド容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばファストフード店において提供されるコーヒー、紅茶、具入りスープといった飲料・液状食品には、従来、使い捨て紙カップ等の紙容器が多用されている。一般に、このような紙容器は、扇状の紙基材を貼り合わせて胴部とし、底部となる紙部材を取り付けて製造され、容器内外表面は、通常、熱可塑性樹脂層で被覆されている。また、紙基材に無機化合物蒸着フィルムや金属蒸着フィルム等よりなるバリア層を積層して、耐水性を付与し、強度を高めている(特許文献1)。
【0003】
紙容器は、高温の飲料・液状食品を注いだ場合に手に熱が伝わりやすく、強度が不十分で容易に変形する。そこで、紙容器の耐熱性、保形性を高めるために、板紙からなる紙基材の外面に水溶性樹脂と無機粉体を含む発泡層を積層した断熱性原紙とし、加熱発泡させて形成した断熱性紙容器が提案されている(特許文献2)。
【0004】
一方、断熱性の良好な紙容器として、パルプモールド成形体を用いたパルプモールド容器がある。パルプモールド容器は、パルプ繊維を含むスラリーに抄紙型を浸漬して、その表面にパルプ繊維を堆積させ、得られた含水状態の成形体を、脱水・乾燥させる湿式パルプモールド法で得られる。
【0005】
湿式パルプモールド法では、脱水・乾燥工程において、一対の雌型と雄型からなる成形型を用い、加圧圧縮して、水分を排出する。この時、シリコーンゴム等の弾性変形可能な材料からなる凸型を抄紙型として用い、その外表面にパルプ層を形成して成形用の雄型とする方法が提案されている(特許文献3)。これを、成形体に対応する形状とした雌型の凹部内に挿通し、パルプ層の底部を凹部の底部に当接させて、凹部の隙間を埋めるように凸型を押圧変形させると、両者の間に挟まれたパルプ層が圧縮、脱水される。
【0006】
この方法によると、所望の容器形状を有し、従来のものより硬質で、平滑な外観を有するパルプモールド容器が容易に得られる。この場合も、製品とするためには、さらに、パルプモールド容器の内面およびフランジ部を覆うように、樹脂シートを融着させた被覆層が形成される。
【0007】
また、紙基材やパルプモールド成形体を用いた食品容器の製品例として、カップ原紙層に断熱材となるエンボス紙やコルゲート紙を設けた断熱容器が知られている(特許文献4)。あるいは、紙基材やパルプモールド成形体を用いた食品容器の製品例として、パルプモールド成形体の食品収容部を、生分解性樹脂よりなる保護層で被覆した食品容器(特許文献5)や、紙基材の表面に生分解性樹脂製シートを剥離可能に貼り合わせて積層体とし、折り曲げ成形した食品用の紙箱がある(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−106843号公報
【特許文献2】特開2008−247399号公報
【特許文献3】特開2002−146700号公報
【特許文献4】特開平10−211973号公報
【特許文献5】特開平11−171238号公報
【特許文献6】特開2004−67192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、資源の有効利用や環境への配慮のために、使い捨て紙容器等の使用を抑制し、分別廃棄を行うとともに、リサイクルを促進することが求められている。しかしながら、食品残渣があると容器のリサイクルができず、食品用の容器リサイクルは進んでいないのが原状である。例えば、特許文献1、2のように、蒸着フィルムや発泡層と一体化した紙容器は、分離が困難で焼却処理せざるを得ない。
【0010】
特許文献3の方法で得られるパルプモールド容器は、表面の樹脂シートを分離することで、パルプモールド成形体を回収可能である。ところが、パルプモールド成形体と樹脂シートは全面が接着している上、飲料・液状食品用の容器は比較的深型のカップ状のものが多いため、樹脂シートの剥離は容易でない。また、剥離した樹脂シートにパルプ繊維が付着し、液ダレも生じやすい。このため、ファストフード店において、食品残渣が付着しているパルプモールド容器を、購入者に分別してもらうことは難しく、大量に使用されるパルプモールド容器を分別するのに手間がかかる。さらに、液ダレによりパルプモールド成形体が汚れると、分別回収してもリサイクルできないおそれがある。
【0011】
また、特許文献4の断熱容器は構成が複雑であり、容器表面に凹凸があるため印刷ができず、さらに印刷を施したプラスチックフィルムで覆う必要がある。なお、特許文献5のパルプモールド容器は、生分解性樹脂を用いることで、自然界へ放置された場合の環境への負荷は小さくなるが、リサイクルは考慮されていない。特許文献6の紙容器は、生分解性樹脂製シートが剥離可能に貼合された基材を浅型の箱状に組み立てたもので、四隅が折り込まれて接着されており、飲料・液状食品用の容器形状には適用できない。また、分離に先立って箱を開く必要があり、手間がかかる。
【0012】
そこで本発明は、断熱性を有するパルプモールド成形体を用いて、飲料・液状食品に適したパルプモールド容器を製造するとともに、食品残渣が付着する樹脂部分を容易に分離可能な構造とし、パルプモールド成形体のリサイクルにより、資源を有効利用することのできる環境配慮型の食品容器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1の発明は、上面が開口する容器形状のパルプモールド成形体からなる本体部と、該本体部の内表面を覆う樹脂層を備えるパルプモールド容器であって、
上記本体部は、開口周縁に沿う外向きのフランジ部を有しており、
上記樹脂層は、上記本体部の内表面に非接着かつ密接して配置される内容器部と、該内容器部の上端開口縁から上記フランジ部の上部表面および側部表面に沿って下部表面に至り、上記フランジ部を非接着で巻き込み保持する係止部を有することを特徴としている。
【0014】
本願請求項2の発明において、上記本体部は、一対の雄型と雌型の間に含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより一体的に成形された硬質パルプモールド成形体からなる。
【0015】
本願請求項3の発明において、上記樹脂層の内容器部は、軟化した樹脂フィルムを真空吸引することにより上記本体部内表面に沿う形状に成形される。
【0016】
本願請求項4の発明において、上記樹脂層の係止部は、樹脂フィルムをカール処理することにより形成される。
【0017】
本願請求項5の発明において、上記本体部は、カップ状、椀状またはトレイ状の容器形状を有している。
【0018】
本願請求項6の発明において、上記樹脂層は、耐熱温度が80℃以上の樹脂フィルムからなる。
【0019】
本願請求項7の発明は、上面が開口する容器形状のパルプモールド成形体からなる本体部と、該本体部の内表面を覆う樹脂層を備えるパルプモールド容器の製造方法であって、
一対の雄型と雌型の間に含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより、開口周縁に沿う外向きのフランジ部を有する容器形状の硬質パルプモールド成形体を一体的に成形して、上記本体部とする本体部成形工程と、
上記樹脂層となる樹脂フィルムを加熱軟化させて、型内に配置した上記本体部内に挿入し、真空脱気することにより、上記樹脂フィルムを上記本体部内表面に非接着で密接させた内容器形状とする、内容器部成形工程と、
上記樹脂フィルムを上記内容器の上端開口から外方に張り出すフランジ形状に切断するフィルムカット処理工程と、
切断したフランジ形状の樹脂フィルムをカール処理して、上記本体部の上記フランジ部を非接着で巻き込み保持する係止部とする係止部成形工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本願請求項1の発明によれば、パルプモールド成形体からなる本体部の内表面に樹脂層が密接し、係止部にて本体部の上端縁部に固定されているので、飲料や液状食品を注いでも十分な断熱性と保形性を有する。しかも、本体部と樹脂層は非接着であるので、使用後には、係止部を外すことで容易に樹脂層と本体部を分離することができる。したがって、液ダレ等を生じずに容易に分別ができ、パルプモールド成形体を回収してリサイクルすることができる。
【0021】
本願請求項2の発明によれば、本体部が高密度に圧縮された硬質のパルプモールド成形体からなるので、高強度で保形性に優れる。また、表面が平滑で外観が良好で、印刷性に優れる。
【0022】
本願請求項3の発明によれば、樹脂層は、軟化した樹脂フィルムを真空吸引して内容器部を形成することで、本体部内表面に接着せずに密接する形状とすることができる。
【0023】
本願請求項4の発明によれば、樹脂層は、樹脂フィルムの端縁部を本体部のフランジ部表面に配置し、カール処理することでフランジ部を保持する係止部を形成することができる。
【0024】
本願請求項5の発明のように、本体部は、カップ状、椀状またはトレイ状の容器形状とすることができる。特に、深型の容器は、従来構成では内側の樹脂被覆層の分離が難しく、本発明を適用する効果が高い。
【0025】
本願請求項6の発明のように、樹脂層としては、耐熱温度が80℃以上の樹脂フィルム、例えばポリプロピレン等を使用すると、高温耐久性に優れた容器とすることができる。
【0026】
本願請求項7の方法によれば、含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより、硬質パルプモールド成形体からなる容器状の本体部を製作し、加熱軟化させた樹脂フィルムを真空吸引することにより、非接着の内容器を密接形成することができる。さらに、樹脂フィルムをカットしてカール処理することで、フランジ部を保持する係止部とし、非接着の樹脂層を有するパルプモールド容器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態であり、(a)はパルプモールド容器の全体斜視図、(b)はパルプモールド容器の全体断面図、(c)はパルプモールド容器の構成を説明するための全体斜視図、(d)はパルプモールド容器の構成を説明するための全体断面図である。
【図2】(a)、(b)は、パルプモールド容器の係止部構成を示す要部拡大断面図である。
【図3】パルプモールド容器の本体部となるパルプモールド成形体を製作する工程を説明するための図である。
【図4】(a)、(b)は、パルプモールド成形体に樹脂層を形成する工程を説明するための図である。
【図5】本発明の第2実施形態であり、(a)はパルプモールド容器の全体斜視図、(b)はパルプモールド容器の全体断面図、(c)はパルプモールド容器の構成を説明するための全体斜視図、(d)はパルプモールド容器の構成を説明するための全体断面図である。
【図6】(a)〜(d)は、本発明の第3〜6実施形態となるパルプモールド容器の全体斜視図である。
【図7】本発明実施例におけるパルプモールド成形体を製作する工程を説明するための図である。
【図8】本発明実施例におけるパルプモールド成形体に樹脂層を形成する工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は、本発明を適用したパルプモールド容器Cの具体的形状を示す第1実施形態であり、例えばコーヒー、紅茶、ジュース等の飲料またはスープ、ポタージュ等の液状物を含む食品用の容器として使用できる。図1(a)、(b)は、二層構造のパルプモールド容器Cの構成を説明するための図、図1(c)、(d)は、パルプモールド容器Cの使用後の分別方法を説明するための図である。
【0029】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態において、パルプモールド容器Cは、パルプモールド成形体からなる本体部1と、本体部1の内側に非接着で収容される樹脂層2からなる。本体部1は、上端が開口する深型カップ形状の容器体で、下方へ向けて徐々に縮径するテーパ状に成形されており、上端開口の外径が底面の外径より大きくなっている。上端開口縁部には、全周に径方向外方へ突出するフランジ部11が一定幅で一体的に形成されている。本体部1を構成するパルプモールド成形体は、特に、一対の雄型と雌型の間に含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより、フランジ部11と一体的に成形された硬質パルプモールド成形体とすることが望ましい。
【0030】
硬質パルプモールド成形体は、型内で加圧乾燥することにより、全体が高密度に圧縮された成形体であり、通常のパルプモールド成形体より硬質で高強度となる。また、肉厚の調整が容易で断熱性に優れ、表面が平滑面となり良好な外観を有する。型表面形状を精密に転写するので、フランジ部や段部も良好に形成できる。
【0031】
樹脂層2は、本体部1の内表面に沿う深型カップ形状の内容器部21と、内容器部21の上端開口縁部に設けられる係止部22からなる。内容器部21は、本体部1の内表面と接着することなく密接するように配置されており、本体部1に耐水性を付与している。係止部22は、内容器部21の上端開口縁の全周から径方向外方へ延出し、本体部1のフランジ部11を巻き込むように、その上部表面から側部表面および下部表面に沿って屈曲する略コ字状に形成されている。係止部22は、フランジ部11と接着することなく、これを挟み込むように保持して、本体部1と樹脂層2を一体化している。
【0032】
図2(a)に示すように、係止部22の先端は、本体部1のフランジ部11の下部表面から本体部1の外周壁に沿ってさらに下方に折り曲げられている。このように、フランジ部11全体を包み込むように形成することで、本体部1に樹脂層2を確実に固定し、位置ずれ等を抑制することができる。図2(b)に示すように、係止部22がフランジ部11の下部表面に当接する位置にあるように形成しても、もちろんよい。
【0033】
上記構成のパルプモールド容器Cは、硬質パルプモールド成形体からなる本体部1の内表面に樹脂層2が密接し、かつ係止部22にて本体部1の上端縁部に固定されているので、飲料や液状食品を注いでも十分な断熱性と保形性を有し、従来の樹脂フィルムで被覆されたパルプモールド容器と同様に、耐水性を兼ね備えた容器となる。本実施形態のパルプモールド容器Cのサイズは、例えば、開口部外径が60〜120mm、深さが50〜200mmの範囲で設定される。
【0034】
一方で、本体部1と樹脂層2は非接着であるので、使用後には、図1(c)、(d)に示すように、樹脂層2の係止部22を外方に拡げて捲くり上げるだけで、容易に樹脂層2を本体部1から外すことができる。この時、従来のように樹脂フィルムを引き剥がす必要がないので、食品残渣があっても液ダレを生じさせずに、容易に分離することができ、分離した樹脂層2にパルプ繊維が付着することもない。したがって、店舗や家庭等での分別に手間がかからず、樹脂層2を分離した本体部1を汚染させずに回収することができるので、古紙としてリサイクルすることができる。
【0035】
次に、図3、4を用いて、上記構成のパルプモールド容器Cを製造するための具体的な方法について説明する。本体部1を構成するパルプモールド成形体は、パルプ繊維を主として含有する天然系原料繊維からなり、木材系パルプ繊維の他、非木材系パルプ繊維を使用することができる。また、古紙を解繊した繊維を使用することもでき、これら繊維を単独でまたは適宜配合した原料繊維を用いる。これら繊維の繊維長や繊維径、配合割合等は任意に選択可能である。硬質パルプモールド成形体は、通常、抄紙型を用いて所定の概略形状とした含水状態のパルプ系繊維集合体(以下、適宜含水繊維集合体と略称する)を得る抄紙工程と、図3に示す乾燥型を用いて含水繊維集合体の脱水と乾燥を行い、所定の最終形状とする脱水・乾燥工程によって成形される。
【0036】
図3において、乾燥型は、雄型である乾燥コア31とヒータ加熱される雌型32からなる。剛性体からなる雌型32には、本体部1の外表面形状に対応する内表面形状の凹部が設けられ、乾燥コア31の凸部は、本体部1の内表面形状に対応する。(i)工程で、雌型32の凹部に予備脱水した含水繊維集合体12を配置し、上方から雄型31を内挿して、(ii)工程で、乾燥コア31の凸部により含水繊維集合体12を厚み方向に加圧圧縮する。(iii)工程で、乾燥コア31を上方へ抜き、(iv)の工程でパルプモールド成形体13を型から外し、フランジ部11を有するカップ形状の本体部1とする。本体部1の厚みは断熱性を確保するために、通常は1.2〜2.5mm程度とすることがこのましい。
【0037】
樹脂層2は、加熱により十分軟化して、本体部1の内表面形状に追従して変形し、かつ接着せずに密接状態を保持すること、成形後の変形を生じないことが要求される。具体的には、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂フィルム、非晶質ポリエチレンテレフタレート(A−PET)等のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム、ポリスチレン(PS)等のポリスチレン系樹脂フィルム等を使用することができ、良好な成形性が得られる。樹脂フィルムは、用途に応じて適宜選択することができ、高温の液状食品用としては、通常80℃程度ないし以上の耐熱性を持った樹脂フィルムが好適に使用される。例えば、PPフィルムは高融点であり(165℃)、耐熱温度が高いため(130℃程度)、好適に使用される。PSフィルムも80℃程度の耐熱温度を有し、A−PETフィルムは、成形工程において結晶化させることで耐熱性を高めることができる。
【0038】
図4は、樹脂フィルムを加工して樹脂層2を形成するための工程を示す。図4(a)において、樹脂フィルムFは、上下一対のヒータHの間に配置することにより軟化して流動性を有する状態とする。ヒータH温度は、例えばPPフィルムであれば420℃程度とし、PPフィルムを軟化温度以上に加熱する。PPフィルムとヒータHとの距離は、例えば50mm程度である。図4(b)において、この樹脂フィルムFを、加熱したプラグPを用いて、金型4内に配置したカップ状の本体部1内に降下させる。プラグP温度は、PPフィルムの融点以下(例えば150℃)として、樹脂フィルムFが流動性を維持するように制御するとよい。金型4には、底面および側面に複数の通孔41が貫設してあり、図示しない真空装置で真空吸引することにより、樹脂フィルムFを、本体部1内表面に沿う内容器21形状に成形することができる。
【0039】
ここで、樹脂フィルムFを本体部1に接着させずに、内容器21形状に成形するには、金型4の温度を、プラグP(例えば150℃)、すなわち樹脂フィルムF温度より低くして、金型4内での樹脂フィルムFの冷却タイミングを調整することが望ましい。好適には、金型4を予熱せず、プラグPを本体部1底部まで降下させた後、速やかに上昇させることで、樹脂フィルムFを自身の流動性で本体部1の内表面に密接させ、かつ非接着とすることができる。また、冷却後の成形不良を防止することができる。樹脂層2の厚さは、非接着で形状を保持できるように設定され、例えば80〜400μm、好ましくは、80〜300μm程度の範囲とすることが望ましい。
【0040】
その後、金型4外に露出する樹脂フィルムFの端縁を、本体部1のフランジ部11を十分覆う大きさに切断し、カール処理することで、フランジ部11を巻き込む係止部22を成形することができる。
【0041】
図5は、本発明のパルプモールド容器Cの具体的形状を示す第2実施形態である。図5(a)、(b)に示すように、本実施形態のパルプモールド容器Cも、深型のカップ形状とした例であり、本体部1とフランジ部11の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。本実施形態では、樹脂層2の係止部22の一部を径方向外方向に延出し、略楕円形状のフラップ23を設けている。このようにすると、図5(c)、(d)に示すように、パルプモールド容器Cを分別回収する際に、フラップ23を引き上げるだけで、樹脂層2を本体部1から容易に外すことができる。フラップ23は、係止部22となる樹脂フィルムFの切断時に、同時に形成することができるので、製造工程を追加することなく、分別が容易なパルプモールド容器Cを製作することができる。
【0042】
図6は、本発明のパルプモールド容器Cの他の形状例を示す第3〜6実施形態である。本実施形態のパルプモールド容器Cは、深型のカップ形状に限定されるものではなく、図6(a)に示すように、スープまたはラーメン、カップヌードル等の液状食品に好適な椀形状またはどんぶり形状(例えば、開口部径80〜200mm、深さ50〜100mm、)、あるいは図6(b)に示すように、開口径のやや広いカップ形状(例えば、開口部径60〜150mm、深さ80〜200mm、)とすることができる。また、図6(c)に示すように、ソース入焼きそば等の液状部を含む食品に好適な角形トレイ形状の容器(例えば、開口部幅80〜200mm、深さ50〜100mm、)へ適用することが可能である。これらいずれも容器形状においても、フランジ部11を有する本体部1と、その内部に収容される内容器部21とフランジ部11を保持する係止部22を有する樹脂層2からなるパルプモールド容器Cとすることで、同様の効果が得られる。
【0043】
なお、スープ、ラーメン等に適用される容器に関しては、透湿バリア性が要求される。この場合、樹脂層の素材としては、HDPE(高密度ポリエチレン)、Nylon(ポリアミド)等のバリア機能を持ったフィルム層を挟んだ多層樹脂フィルムを使用することが望ましい。この場合も、厚みは80〜400μm、好ましくは、80〜300μm程度とする。さらに、硬質パルプモールドは、表面が平滑であるため印刷性に優れる。例えば、図6(d)に示すように、本体部1の外表面に、公知の曲面印刷法を用いて印刷部C1を形成することができるので、外観に優れる低コストな製品を実現できる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
上記第1実施形態の構成のパルプモールド容器Cを、図7、8に示す工程によって実際に製作した。パルプモールド容器Cの設計寸法は、開口部径:約80、深さ:約110mmとした。まず、図7の(1)〜(5)の抄紙工程では、公知の抄紙型5を用いてパルプ層を堆積させた。抄紙型5は網状体からなり、硬質パルプモールド成形体よりなる本体部1の概略形状に応じたカップ容器形状を有している。(1)、(2)の工程で、この抄紙型5を、抄紙台51に載置した抄紙筒52内に配置し、原料パルプ繊維を含むパルプスラリーを投入した。真空を引き水分を吸引するとともに、抄紙型5外表面にパルプ繊維を堆積させた含水繊維集合体12を得た。(3)、(4)の工程で、搾水型53に抄紙型5とともに含水繊維集合体12を挿入し、真空を引きながら抄紙型5を外した。さらに、(5)の工程で、含水繊維集合体12にゴム製バルーン54を挿入して膨らませ、真空を引きながら搾水した。
【0045】
(6)〜(8)の工程は、上記図3に示した脱水・乾燥工程であり、乾燥型として、雄型である乾燥コア31と加熱ヒータ(図略)を内蔵する雌型32を用いた。(6)の工程で、雌型32の凹部に含水繊維集合体12を配置し、上方から雄型31を内挿した。(7)の工程で、真空を引き加圧圧縮しながら、含水繊維集合体12を乾燥させた後、雌型32から取り出した。加熱温度は約100℃、保持時間は3か〜4分間程度とした。その後、(8)の工程で、乾燥コア31からパルプモールド成形体13(本体部1)を取り出した。
【0046】
図8の(1)〜(5)の工程は、上記図4に示した樹脂層2の形成工程を示す。(1)の工程で、予め上下一対のヒータH(420℃)の間で加熱し、軟化させた樹脂フィルムF(PPフィルム:300μm)を、カップ状の本体部1を収容した金型4上方に配置した。(2)の工程で、加熱したプラグ(150℃)をカップ状の本体部1内に降下させて、本体部1を押圧変形させるとともに、真空吸引して、本体部1内表面に沿う形状に成形した。金型4は加熱せず、プラグPは本体部1の底部に達するまで降下させた後、上昇させて離型した。(3)の工程で、樹脂フィルムFの上端縁部を、本体部1のフランジ部11より幅広に切断し、(4)、(5)の工程で、カール処理してフランジ部11を巻き込む係止部22を成形して、本発明のパルプモールド容器Cを得た。
【0047】
得られたパルプモールド容器Cは、ほぼ設計寸法通りの形状であり、内外表面は平滑で、全体が均一に圧縮され、良好な概観が得られた。また、樹脂層2の成形性は良好で変形等は見られず、本体部1との接着はなく、係止部22から容易に外すことができた。
【0048】
(実施例2、3)
樹脂フィルムFとして、実施例1のPPフィルムに代えて、実施例2ではA−PETフィルム(300μm)、実施例3ではPSフィルム(300μm)を使用し、同様の形状のパルプモールド容器Cを製作した。A−PETフィルムは、結晶化温度以下となるようにヒータHの温度を制御し(275℃)とし、プラグPの温度を実施例1より高くして(165℃)、金型4内で結晶化させた。PSフィルムは、ヒータH(275℃)、プラグP(150℃)に温度制御した。
【0049】
実施例2、3においても、得られたパルプモールド容器Cは、ほぼ設計寸法通りの形状であり、内外表面は平滑で、全体が均一に圧縮され、良好な概観が得られた。また、樹脂層2の成形性は良好で変形等は見られず、本体部1との接着はなく、係止部22から容易に外すことができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
このようにして形成されるパルプモールド容器は、飲料または液状物を含む食品に適しているが、それ以外の食品さらには食品以外の用途に利用することももちろんでき、分別回収が容易な容器として有用である。
【符号の説明】
【0051】
C パルプモールド容器
F 樹脂フィルム
H ヒータ
P プラグ
1 本体部
11 フランジ部
12 含水繊維集合体
14 パルプモールド成形体
2 樹脂層
21 内容器部
22 係止部
31 乾燥コア
32 雌型
4 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口する容器形状のパルプモールド成形体からなる本体部と、該本体部の内表面を覆う樹脂層を備えるパルプモールド容器であって、
上記本体部は、開口周縁に沿う外向きのフランジ部を有しており、
上記樹脂層は、上記本体部の内表面に非接着かつ密接して配置される内容器部と、該内容器部の上端開口縁から上記フランジ部の上部表面および側部表面に沿って下部表面に至り、上記フランジ部を非接着で巻き込み保持する係止部を有することを特徴とするパルプモールド容器。
【請求項2】
上記本体部は、一対の雄型と雌型の間に含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより一体的に成形された硬質パルプモールド成形体からなる請求項1記載のパルプモールド容器。
【請求項3】
上記樹脂層の内容器部は、軟化した樹脂フィルムを真空吸引することにより上記本体部内表面に沿う形状に成形される請求項1または2記載のパルプモールド容器。
【請求項4】
上記樹脂層の係止部は、樹脂フィルムをカール処理することにより形成される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のパルプモールド容器。
【請求項5】
上記本体部は、カップ状、椀状またはトレイ状の容器形状を有している請求項1ないし4のいずれか1項に記載のパルプモールド容器。
【請求項6】
上記樹脂層は、耐熱温度が80℃以上の樹脂フィルムからなる請求項1ないし5のいずれか1項に記載のパルプモールド容器。
【請求項7】
上面が開口する容器形状のパルプモールド成形体からなる本体部と、該本体部の内表面を覆う樹脂層を備えるパルプモールド容器の製造方法であって、
一対の雄型と雌型の間に含水状態のパルプ系繊維集合体を挟んで加圧圧縮することにより、開口周縁に沿う外向きのフランジ部を有する容器形状の硬質パルプモールド成形体を一体的に成形して、上記本体部とする本体部成形工程と、
上記樹脂層となる樹脂フィルムを加熱軟化させて、型内に配置した上記本体部内に挿入し、真空脱気することにより、上記樹脂フィルムを上記本体部内表面に非接着で密接させた内容器形状とする、内容器部成形工程と、
上記樹脂フィルムを上記内容器の上端開口から外方に張り出すフランジ形状に切断するフィルムカット処理工程と、
切断したフランジ形状の樹脂フィルムをカール処理して、上記本体部の上記フランジ部を非接着で巻き込み保持する係止部とする係止部成形工程とを有することを特徴としているパルプモールド容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−77420(P2012−77420A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225026(P2010−225026)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】