説明

パルプ由来キシラン、キシラン誘導体、及びこれらの製造方法、並びに、ポリマー成形体

【課題】その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、パルプ由来キシラン、キシラン誘導体、及びこれらの簡便で効率のよい製造方法、並びに、前記キシラン誘導体を含み、プラスチック材料として好適に使用できるポリマー成形体の提供。
【解決手段】高分子量のパルプ由来キシラン、側鎖にエステル基を有するキシラン誘導体、及びこれらの製造方法、並びに、前記キシラン誘導体を含むポリマー成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ由来キシラン及びその製造方法、キシランを原料としたキシラン誘導体及びその製造方法、並びに、該キシラン誘導体を含むポリマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料の大半は、石油をベースとしているが、化石資源は限られていることや、焼却により温室効果を増すこと、石油ベースのプラスチック材料は一般に分解できないことなど、環境保護の観点からその代替材料が望まれている。
【0003】
このような代替材料として、近年、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスの有効利用が注目されている。
キシランは、針葉樹や広葉樹等の木材、牧草等の草本類などに存在する天然多糖類であるヘミセルロースに最も多く含まれる成分である。一般に木材は、セルロース40質量%、ヘミセルロース30質量%、及びリグニン30質量%で構成されている。
リグニンが取り除かれたパルプには、キシランがセルロースと結合した状態で存在しており、該パルプ中のキシラン含有量は、7質量%〜25質量%程度であることが知られている。
【0004】
キシランを抽出する方法としては、従来より、酵素により抽出する方法や、1質量%〜2質量%程度のアルカリで抽出する方法などが用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。これらの方法により得られたキシランは、生理活性物質として利用されることはあるものの、分子量が低いこと、分岐があること、リグニン除去過程でそのほとんどが除去されてしまうためキシランのみで大量に抽出することが困難であることなどの理由から、プラスチック材料としては利用できないものとされてきた。
【0005】
したがって、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、パルプ由来キシラン、キシラン誘導体、及びこれらの簡便で効率のよい製造方法、並びに、前記キシラン誘導体を含み、プラスチック材料として好適に使用できるポリマー成形体の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−136390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、パルプ由来キシラン、キシラン誘導体、及びこれらの簡便で効率のよい製造方法、並びに、前記キシラン誘導体を含み、プラスチック材料として好適に使用できるポリマー成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、側鎖にエステル基を有するキシラン誘導体は、新規な構造を有し、ポリマー成形体を形成できるためプラスチック材料として好適に使用できること、パルプ原料に高濃度のアルカリ溶液を用いて長時間アルカリ抽出することにより、前記パルプ原料から高分子量のキシランを高収率で得ることができることを知見し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 側鎖にエステル基を有することを特徴とするキシラン誘導体である。
<2> エステル基が、水酸基とカルボン酸とのエステル化反応により形成された前記<1>に記載のキシラン誘導体である。
<3> カルボン酸が、プロピオン酸及びラウリン酸の少なくともいずれかである前記<2>に記載のキシラン誘導体である。
<4> エステル基のキシランにおける水酸基に対する置換度が、1.6以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載のキシラン誘導体である。
<5> 25℃のクロロホルムに対して95質量%以上溶解する前記<1>から<4>のいずれかに記載のキシラン誘導体である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載のキシラン誘導体を含むことを特徴とするポリマー成形体である。
<7> フィルムである前記<6>に記載のポリマー成形体である。
<8> ファイバーである前記<6>に記載のポリマー成形体である。
<9> 平均直径が1,000nm以下である前記<8>に記載のポリマー成形体である。
<10> キシランにカルボン酸をエステル化反応させることを特徴とするキシラン誘導体の製造方法である。
<11> エステル化反応が、温度25℃〜100℃で1時間〜20時間反応させることを特徴とするキシラン誘導体の製造方法である。
<12> 重量平均分子量が8,000以上であることを特徴とするパルプ由来キシランである。
<13> 裁断したパルプ原料に対し、濃度5質量%以上のアルカリ溶液を用いてアルカリ抽出を行うことを特徴とするキシランの製造方法である。
<14> アルカリ溶液が水酸化ナトリウム水溶液であり、アルカリ抽出が室温で10時間以上行われる前記<13>に記載のキシランの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、パルプ由来キシラン、キシラン誘導体、及びこれらの簡便で効率のよい製造方法、並びに、前記キシラン誘導体を含み、プラスチック材料として好適に使用できるポリマー成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、エレクトロスピニング装置の概略図を示す図である。
【図2】図2は、広葉樹パルプ由来キシラン(破線で示す)、針葉樹パルプ由来キシラン(点線で示す)、及びオーツ麦由来キシラン(実線で示す)のIRスペクトルを示す図である。縦軸は透過率(%)、横軸は波長(cm−1)を示す。
【図3】図3は、広葉樹パルプ由来キシラン(実線で示す)及び広葉樹パルプ由来キシランラウレート(破線で示す)のIRスペクトルを示す図である。縦軸は透過率(%)、横軸は波長(cm−1)を示す。
【図4】図4は、針葉樹パルプ由来キシラン(実線で示す)及び針葉樹パルプ由来キシランラウレート(破線で示す)のIRスペクトルを示す図である。縦軸は透過率(%)、横軸は波長(cm−1)を示す。
【図5】図5は、オーツ麦由来キシラン(実線で示す)、オーツ麦由来キシランプロピオネート(破線で示す)、及びオーツ麦由来キシランラウレート(点線で示す)のTG曲線を示す図である。縦軸は重量減量率(%)、横軸は試料温度(℃)を示す。
【図6】図6は、広葉樹パルプ由来キシランラウレートから製造したフィルムを示す図である。矢印は、フィルムの先端部を示す。
【図7】図7は、針葉樹パルプ由来キシランラウレートから製造したフィルムを示す図である。矢印は、フィルムの先端部を示す。
【図8】図8は、オート麦由来キシランラウレートから製造したフィルムを示す図である。矢印は、フィルムの先端部を示す。
【図9】図9は、広葉樹パルプ由来キシランプロピオネートから製造したフィルムを示す図である。
【図10】図10は、オート麦由来キシランプロピオネートから製造したフィルムを示す図である。
【図11】図11は、広葉樹パルプ由来キシランラウレート(破線で示す)及びオート麦由来キシランラウレート(実線で示す)のX線回折曲線を示す図である。縦軸は回折X線強度(arbitrary unit(a.u.))、横軸は回折角度(2θ(deg))を示す。
【図12】図12は、オート麦由来キシランプロピオネートから製造したナノファイバーを5,000倍率で撮影した図である。
【図13】図13は、オート麦由来キシランプロピオネートから製造したナノファイバーを撮影した図である。スケールバーは300μmである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(キシラン誘導体及びその製造方法)
本発明のキシラン誘導体の製造方法は、キシランにカルボン酸をエステル化反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明のキシラン誘導体は、本発明の前記キシラン誘導体の製造方法により好適に得ることができ、側鎖にエステル基を有するものである。
以下、前記キシラン誘導体の製造方法の説明と併せて、前記キシラン誘導体について説明する。
【0013】
<キシラン誘導体の製造方法>
本発明のキシラン誘導体の製造方法は、キシランにカルボン酸をエステル化反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0014】
<<エステル化反応工程>>
前記エステル化反応に用いるキシランとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述するパルプ原料由来のキシランが好ましい。
【0015】
前記エステル化反応に用いるカルボン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炭素数が、大きいほど好ましく、1〜18がより好ましく、3〜18が更に好ましい。
このようなカルボン酸としては、例えば、プロピオン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記カルボン酸は、プロピオン酸、ラウリン酸が好ましく、ラウリン酸がより好ましい。
【0016】
前記カルボン酸の使用量としては、特に制限はなく、カルボン酸の種類などに応じて適宜選択することができるが、10モル以上が好ましく、2モル〜3モルがより好ましい。前記使用量が2モル未満であると、前記キシランのエステル化が不十分となり、キシラン誘導体の製造効率が悪くなることがある。前記カルボン酸の使用量の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20モル以下であることが好ましい。前記カルボン酸の使用量が20モルを超えると、低分子化が生じることがある。
【0017】
前記エステル化反応を行う方法としては、特に制限はなく、前記カルボン酸の種類などに応じて適宜選択することができるが、トリフルオロ無水酢酸(TFAA)、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等の溶媒に所望の種類及び量のカルボン酸と、キシランとを添加して混合する方法などが挙げられる。
【0018】
前記エステル化反応を行う温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃〜100℃が好ましく、40℃〜80℃がより好ましく、50℃〜60℃が更に好ましい。前記温度が、25℃未満であると、エステル化反応を十分に行うことができず、キシラン誘導体の製造効率が悪くなることがあり、100℃を超えると、分子量低下や着色などが生じることがある。一方、前記反応温度が前記好ましい範囲であると、キシランを効率よくエステル化することができる。
【0019】
前記エステル化反応を行う時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜24時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましく、1時間〜12時間が更に好ましい。前記温度が、1時間未満であると、エステル化反応を十分に行うことができず、キシラン誘導体の製造効率が悪くなることがあり、24時間を超えると、エステル化反応が飽和し、それ以上はキシランのエステル化が起こらないため非効率になることがある。一方、前記反応時間が前記より好ましい範囲であると、キシランを効率よくエステル化することができる。
【0020】
<<その他の工程>>
前記キシラン誘導体の製造方法における前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、沈殿工程、洗浄工程、ろ過工程、乾燥工程などが挙げられる。
【0021】
−沈殿工程−
前記沈殿工程は、前記エステル化反応後のキシラン誘導体を沈殿させる方法である。前記キシラン誘導体の製造方法が、前記沈殿工程を含むと、前記キシラン誘導体の回収率が向上する点で好ましい。
前記沈殿工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノール等の低級アルコールを添加して沈殿させる方法などが挙げられる。
前記沈殿させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低温で行われることが好ましく、0℃〜25℃がより好ましい。
前記沈殿させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、24時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。
【0022】
−洗浄工程−
前記洗浄工程は、前記エステル化反応工程で得られたキシラン誘導体を含む反応液、更に必要に応じて、前記沈殿工程を経た反応液を洗浄する工程である。
前記洗浄に用いる溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記洗浄を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応液と前記洗浄用溶媒とを混合し、遠心分離する方法、カラムを用いる方法などが挙げられる。
洗浄回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
−ろ過工程−
前記ろ過工程は、前記エステル化反応工程で得られたキシラン誘導体を含む反応液、更に必要に応じて、前記沈殿工程、前記洗浄工程を経た前記反応液をろ過する工程である。また、前記ろ過工程は、前記洗浄工程と同時に行われてもよい。
前記ろ過を行う方法とてしは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離する方法、カラムを用いる方法などが挙げられる。
【0024】
−乾燥工程−
前記乾燥工程は、前記エステル化反応工程で得られたキシラン誘導体を含む反応液、更に必要に応じて、前記沈殿工程、前記洗浄工程、前記ろ過工程を経た前記反応液を乾燥する工程である。
前記乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法などが挙げられる。
【0025】
<<誘導体化の確認>>
前記キシラン誘導体の製造方法により、前記キシランがエステル化されたか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、質量分析法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法(LC−MS)、ガスクロマトグラフ−質量分析法(GC−MS)、プロトン核磁気共鳴法、炭素13核磁気共鳴法、赤外分光法などが挙げられる。
【0026】
<キシラン誘導体>
本発明のキシラン誘導体は、前記キシラン誘導体の製造方法により好適に得ることができ、側鎖にエステル基を有するものである。
前記キシランは、下記構造式(1)で表される多糖であり、前記キシラン誘導体は、前記キシランが有する2つの水酸基に前記エステル基が導入されたものである。
【化1】

前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【0027】
前記エステル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水酸基とカルボン酸とのエステル化反応により形成されたものであることが好ましく、プロピオネート基、ラウリル基がより好ましく、ラウリル基が更に好ましい。
【0028】
前記キシラン誘導体における前記エステル基の置換度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.6以上が好ましく、2.0が特に好ましい。前記置換度が1.6未満であると、後述するポリマー成形体を形成できないことがある。
【0029】
前記置換度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、質量分析法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法(LC−MS)、ガスクロマトグラフ−質量分析法(GC−MS)、プロトン核磁気共鳴法、炭素13核磁気共鳴法、赤外分光法などが挙げられる。
【0030】
前記キシランは、水酸基を有するため親水性の化合物であるが、前記キシラン誘導体は、該水酸基がエステル化されるため、親油性の化合物である。
前記キシラン誘導体は、25℃でクロロホルムに対して95質量%以上溶解する性質を有することが好ましい。
【0031】
<用途>
前記キシラン誘導体は、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用したものであり、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料であるため、石油の代替資源として用いることができ、環境保全材料や、生体吸収材料等の高機能性材料、フィルムやファイバーなどのポリマー成形体の原料として好適に利用可能である。
【0032】
(パルプ由来キシラン及びその製造方法)
本発明のキシランの製造方法は、裁断したパルプ原料に対し、アルカリ溶液を用いてアルカリ抽出を行う工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の前記パルプ由来キシランは、前記キシランの製造方法により好適に得ることができ、重量平均分子量が8,000以上のものである。
以下、前記キシランの製造方法の説明と併せて、前記パルプ由来キシランについて説明する。
【0033】
<キシランの製造方法>
本発明のキシランの製造方法は、裁断したパルプ原料に対し、アルカリ溶液を用いてアルカリ抽出を行う工程を少なくとも含む。
【0034】
<<アルカリ抽出工程>>
前記パルプ原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、バイオマス原料から抽出されたものを使用することが好ましく、木材、草本類、ワラ、竹等の原料から抽出されたものであることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、木材が、前記キシランを多く含む点で好ましい。前記木材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、広葉樹原料、針葉樹原料などが挙げられる。
前記キシランの製造方法において、原料としてパルプを用いることは、セルロースとキシランを含むヘミセルロースとが複合体を形成しており、リグニンが除去されているため、効率よくキシランを抽出することができる点で好ましい。
【0035】
前記パルプ原料を裁断する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウィレーミル、カッターミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。なお、前記パルプ原料としては、既に裁断されている市販品を用いてもよい。
【0036】
前記アルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0037】
前記アルカリ溶液の濃度としては、5質量%以上であるが、16質量%以上が好ましい。前記アルカリ溶液の濃度が、5質量%未満であると、キシランの回収率が悪くなることや、高分子のキシランを得ることができないことがある。一方、前記アルカリ溶液の濃度が16質量%以上であると、前記キシランの回収率が向上し、高分子のキシランを得ることができる点で好ましい。
前記アルカリ溶液の濃度の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
前記アルカリ抽出を行う時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10時間以上が好ましく、16時間以上が更に好ましい。前記アルカリ抽出の時間が、10時間未満であると、キシランの回収率が悪くなることがある。
前記アルカリ抽出時間の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
前記アルカリ溶液の使用量としては、用いるパルプ原料の量や処理容器の大きさなどにより、適宜選択することができるが、前記パルプ原料100質量部に対して、20質量部〜400質量部が好ましく、100質量部〜320質量部がより好ましい。前記アルカリ溶液の使用量が、20質量部未満であると、前記キシランの回収率が悪くなることがあり、400質量部を超えると、アルカリ濃度が濃すぎてコスト的に不利である。
【0040】
<<その他の工程>>
前記キシランの製造方法における前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調整工程、沈殿工程、洗浄工程、ろ過工程、乾燥工程などが挙げられる。
【0041】
−pH調整工程−
前記pH調整工程は、前記アルカリ抽出後のキシランを含む反応液のpHを調整する工程である。
前記pHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5〜8が好ましく、6〜7がより好ましい。前記pHが前記好ましい範囲外であると、後述する沈殿工程において、キシランを含む沈殿を得ることができないことがある。
前記pH調整に用いる試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塩酸、酢酸、ギ酸等の酸が好ましい。
前記pHを測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0042】
−沈殿工程−
前記沈殿工程は、前記アルカリ抽出後の反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程を経た反応液に含まれるキシランを沈殿させる方法である。前記キシランの製造方法が、前記沈殿工程を含むと、前記キシランの回収率が向上する点で好ましい。
前記沈殿工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノール等の低級アルコールを添加して沈殿させる方法などが挙げられる。
前記低級アルコールの使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アルカリ抽出物に対して、2倍容量〜10倍容量が好ましく、5倍容量〜10倍容量がより好ましい。前記低級アルコールの使用量が、2倍容量未満であると、キシランの沈殿効率が悪くなることがあり、10倍容量を超えると、コスト的に不利である。
前記沈殿させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低温で行われることが好ましく、0℃〜25℃がより好ましい。
前記沈殿させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜6時間がより好ましい。
【0043】
−洗浄工程−
前記洗浄工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程を経た前記反応液を洗浄する工程である。
前記洗浄に用いる溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記洗浄を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応液と前記洗浄用溶媒とを混合し、遠心分離する方法、カラムを用いる方法などが挙げられる。
洗浄回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
−ろ過工程−
前記ろ過工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程、前記洗浄工程を経た前記反応液をろ過し、不要物を除去する工程である。また、前記ろ過工程は、前記洗浄工程と同時に行われてもよい。
前記ろ過を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離する方法、カラムを用いる方法、フィルターを用いる方法、公知のろ過装置を用いる方法などが挙げられる。これらの処理は、1種単独で行われてもよく、2種以上を組み合わせて行われてもよい。
前記ろ過工程は、前記アルカリ抽出後及び前記沈殿工程後の両方に行われることが、精製度の高いキシランを得ることができる点で好ましい。
【0045】
−乾燥工程−
前記乾燥工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程、前記洗浄工程、前記ろ過工程を経た前記反応液を乾燥する工程である。
前記乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法などが挙げられる。
【0046】
<パルプ由来キシラン>
本発明のパルプ由来キシランは、重量平均分子量が8,000以上のものであり、下記構造式(1)で表される多糖である。前記パルプ由来キシランは、前記キシランの製造方法により好適に得ることができる。前記パルプ由来キシランの重量平均分子量は、10,000以上が好ましく、12,000以上がより好ましい。前記キシランは、高分子であるほど、後述するポリマー成形体を形成しやすい点で好ましい。
【化1】

前記構造式(1)において、nは重合度を表し、50以上が好ましく、100以上がより好ましい。
【0047】
前記キシランは、側鎖を有していてもよく、前記側鎖としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アラビノース、ガラクトースなどが挙げられる。
【0048】
前記キシランの重量平均分子量を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシランは、前記構造式(1)で表される多糖構造を有しており、有機溶媒に不溶であるため、直接測定することが困難である。そのため、例えば、前記キシラン誘導体の重量平均分子量を測定し、該キシラン誘導体の重量平均分子量から算出する方法などが挙げられる。
【0049】
前記キシラン誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、蒸気圧法、浸透圧法、沸点上昇法、超遠心法などが挙げられる。
【0050】
前記キシラン誘導体の重量平均分子量から前記キシランの重量平均分子量を算出する方法について、前記キシラン誘導体がキシランラウレートである場合を例に以下に説明する。なお、下記算出方法は、キシラン誘導体におけるエステル基の種類にかかわらず、同じ算出方法を用いることができる。
例えば、前記キシラン誘導体が、キシランの側鎖にラウリル基を有するキシランラウレートである場合、ラウリル基はC1223で表され、該ラウリル基の重量平均分子量は199であり、前記キシランのモノマーは(Cで表され、該キシランモノマーの重量平均分子量は132である。キシランのモノマーは水酸基を2つ有し、前記キシランラウレートは、該2つの水酸基にラウリル基が導入されたものであるため、キシランラウレート1分子の重量平均分子量は530である。したがって、キシランの重量平均分子量は、下記式(1)により算出することができる。
キシラン重量平均分子量(Mw)=キシランラウレート1分子の重量平均分子量/530×132 ・・・式(1)
【0051】
<用途>
前記パルプ由来キシランは、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用したものであり、更に石油の代替資源としても利用できるため、環境保全材料や、生体吸収材料等の高機能性材料、フィルムやファイバーなどのポリマー成形体の原料として好適に利用可能である。
【0052】
(ポリマー成形体)
本発明のポリマー成形体は、本発明の前記キシラン誘導体を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0053】
<キシラン誘導体>
前記キシラン誘導体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、パルプ由来のキシランから製造したキシラン誘導体が好ましく、キシランプロピオネート、キシランラウレートがより好ましく、強度及び柔軟性の高い前記ポリマー成形体を得ることができる点で、キシランラウレートが特に好ましい。
【0054】
前記ポリマー成形体における前記キシラン誘導体の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。前記キシラン誘導体の含有量が、90質量%未満であると、前記ポリマー成形体の強度が弱くなることがある。なお、前記ポリマー成形体は、前記キシラン誘導体そのものであってもよい。
【0055】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の添加剤などが挙げられる。また、その他の樹脂を混合してもよい。
前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0056】
前記ポリマー成形体の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フィルム又はファイバーであることが好ましい。
【0057】
<<フィルム>>
前記フィルムを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記キシラン誘導体を所望の溶媒に溶解し、所望の容器に入れた後、乾燥させる方法などが挙げられる。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の揮発性の高い有機溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記溶媒は、クロロホルムが好ましい。
【0058】
前記溶媒の使用量としては、前記キシラン誘導体を溶解することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記キシラン誘導体が溶解できないと、不均一なフィルムが形成されることがある。
【0059】
前記乾燥させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法、風乾する方法などが挙げられる。
【0060】
前記フィルムの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0061】
<ファイバー>
前記ファイバーを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体を所望の溶媒に溶解し、印加電圧をかけ、ポリマー溶液を噴射させファイバーを形成させるエレクトロスピニング法により製造する方法が、ナノファイバーを製造できる点で好ましい。前記ファイバーの製造を、湿式紡糸法や乾式紡糸法で行なうと、通常、繊維の平均直径は、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの範囲のものしか得ることができない。
【0062】
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、クロロホルム、ジクロロメタン等の揮発性の高い有機溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記溶媒は、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールが好ましい。
【0063】
前記溶媒の使用量としては、前記キシラン誘導体を溶解することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記キシラン誘導体が溶解できないと、不均一なファイバーが形成されることがある。
【0064】
前記エレクトロスピニング法について、図1を用いて以下に説明する。図1において、1はキシラン誘導体を含む紡糸溶液、2はシリンジ、3はニードル型電極、4はコレクタ電極である。コレクタ電極4は、図1のように平板であってもよいし、円筒状など他の形態であってもよい。ニードル型電極3とコレクタ電極4との間に高電圧、例えば、数kVから数十kV程度の電圧が付与され、シリンジ2から紡糸溶液1の一定量が放出される。この一定量の放出は、シリンジ2内のプランジャー5を一定速度で押動することにより行うことができる。
【0065】
このときエレクトロスピニングは次のようにして起こる。ニードル型電極3に、例えば、前記高電圧が印加されると、シリンジ2、ニードル型電極3等を有するキャピラリー先端の液滴表面に、基板電極と反対符号の電荷をもつ帯電粒子が集まる。液体表面に蓄積された電荷と電場の相互作用によって、キャピラリー先端ではメニスカスが半円球状に盛り上がる。より高い電場の下では、キャピラリー先端で電界集中の効果により強力な電界が発生し、液体表面に荷電を持つイオンが集まりテイラーコーンと呼ばれる円錐状のメニスカスが形成される。
電荷の反発力が溶液の界面張力以上に達すると、紡糸溶液1の一部がテイラーコーンから飛び出し、液滴あるいはジェットとして噴出を始める。噴出された液滴あるいはジェットは、強く帯電しており、電場により導電性基板へ引き寄せられる。その時、ジェットは静電気力の反発によりスプレーとなる(クーロン爆発)。場合によっては液滴内部での静電気力反発によって更に分解して細かい液滴あるいはジェットを形成する。
形成された液滴のサイズは極めて小さく、表面積が体積よりも非常に小さいため、極めて短時間のうちに溶媒が蒸発する。通常、溶媒は噴出中に蒸発するので、コレクタ上には乾燥した溶質分子がデポジットされる。
【0066】
エレクトロスピニングにおいては、溶媒の蒸発が必要とされることから、エレクトロスピニングが行われる周囲雰囲気は、一般的には湿度が低い方が好ましく、通常相対湿度50%以下で行うことが好ましいが、本発明のナノファイバーを製造する際は、これに限定されるものではない。
また前記エレクトロスピニングにおける温度としても、特に制限はなく、紡糸条件などに応じて適宜選択することができ、室温より低温で行ってもよく、室温より高温で行ってもよい。
【0067】
前記ファイバーの平均直径としては、特に制限はなく、前記エレクトロスピニング法に用いる溶媒の種類、前記キシラン誘導体の重合度、印加電圧、流量などに応じて適宜選択することができるが、1,000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0068】
<用途>
前記ポリマー成形体は、前記キシラン誘導体を含むため石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、包装材料、フィルター、不織布などに好適に利用可能である。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(製造例1:広葉樹パルプ由来キシランの製造)
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP、日本製紙株式会社製)25gに表1に示す各濃度の水酸化ナトリウム水溶液500mLを添加し、室温にて攪拌しながら1時間又は16時間それぞれアルカリ抽出を行った。
このアルカリ抽出物を、ろ紙(No.1、アドバンテック東洋株式会社製)によりろ過し、このろ液に塩酸を添加してpHを7.0に調整した。次いで、エタノール(純度99%、和光純薬工業株式会社製)を前記pH調整後のアルカリ抽出物の2倍容量(約1,000mL)添加し、25℃にて12時間放置した。次いで、11,000rpmにて3分間遠心分離を行い、沈殿を回収し、該沈殿を凍結乾燥して乾固し、広葉樹パルプ由来キシランを得た。
【0071】
得られた広葉樹パルプ由来キシランの質量を量り、原料として用いた広葉樹晒クラフトパルプに対する各キシランの回収率を次式により算出した。
キシラン回収率(質量%)=キシラン質量/原料パルプ質量×100
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果より、高濃度のアルカリで長時間アルカリ抽出を行うことにより、キシランを効率よく回収できることがわかった。以下の製造例及び試験例において、広葉樹パルプ由来キシランとしては、15質量%水酸化ナトリウムで16時間抽出したものを用いた。
【0074】
(製造例2:針葉樹パルプ由来キシランの製造)
製造例1において、広葉樹晒クラフトパルプに代えて、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP、日本製紙株式会社製)を用い、アルカリ抽出の条件を表1に記載の条件に変えて、15質量%水酸化ナトリウムで16時間行ったこと以外は、製造例1と同様の方法で、針葉樹パルプ由来キシランを得た。
得られた針葉樹パルプ由来キシランの回収率を、製造例1と同様の方法で算出したところ、16質量%であり、針葉樹パルプからもキシランを効率よく回収することができた。
【0075】
(試験例1:赤外分光法によるキシランの確認)
製造例1及び製造例2において、広葉樹パルプ及び針葉樹パルプからキシランを得ることができたか否かについて、常法に従い臭化カリウム(KBr)法により錠剤を調製し、赤外分光分析(Nicolet Magna−IR 860、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて赤外分光法(infrared spectroscopy:IR)により測定を行った。標準品としては、オート麦由来キシラン(Serva社製)1mgを用いた。
【0076】
得られたIRスペクトルを図2に示す。このスペクトルより、製造例1で得られた広葉樹パルプ由来キシランのスペクトル(破線で示す)、及び製造例2で得られた針葉樹パルプ由来キシランのスペクトル(点線で示す)は、オート麦由来キシラン(実線で示す)と一致し、前記製造方法によりキシランが抽出されたことが確認された。
【0077】
(製造例3:広葉樹パルプ由来キシランラウレートの製造)
製造例1で得られた広葉樹パルプ由来キシランを用いて、以下の方法により、キシラン誘導体であるキシランラウレートを製造した。
トリフルオロ無水酢酸(TFAA)8mLにラウリン酸 5gを添加し、50℃にて20分間、攪拌することにより混合した。この混合物に、広葉樹パルプ由来キシラン0.5gを添加して懸濁した。次いで、50℃にて攪拌しながら3時間、5時間、及び7時間それぞれエステル化反応を行った。エステル化後の反応液に、該反応液の5倍量(約300mL)の100質量%冷メタノール(4℃)を添加し、25℃にて0.5時間放置した後、ろ紙(No.1、アドバンテック東洋株式会社製)によりろ過することにより洗浄を行った。回収したろ液を用いて再度同様の操作で洗浄を行い、回収したろ液を凍結乾燥して乾固し、広葉樹パルプ由来キシランラウレートを得た。
【0078】
(製造例4:広葉樹パルプ由来キシランプロピオネートの製造)
製造例3において、TFFAと同時にクロロホルム 20mLを添加し、ラウリン酸 5gに代えて、プロピオン酸 6mLを用いたこと、また、エステル化反応時間を14時間、16時間、及び20時間に変えたこと以外は、製造例3と同様の方法で、広葉樹パルプ由来キシランプロピオネートを得た。
【0079】
(製造例5:針葉樹パルプ由来キシランラウレートの製造)
製造例3において、広葉樹パルプ由来キシランに代えて、製造例2で得られた針葉樹パルプ由来キシランを用いたこと以外は、製造例3と同様の方法で、針葉樹パルプ由来キシランラウレートを得た。
【0080】
(製造例6:針葉樹パルプ由来キシランプロピオネートの製造)
製造例4において、広葉樹パルプ由来キシランに代えて、製造例2で得られた針葉樹パルプ由来キシランを用いたこと、及びエステル化反応時間を3時間、5時間、及び7時間に変えたこと以外は、製造例4と同様の方法で、針葉樹パルプ由来キシランプロピオネートを得た。
【0081】
(製造例7:オート麦由来キシランラウレートの製造)
製造例3において、広葉樹パルプ由来キシランに代えて、オート麦由来キシラン(Serva社製)を用いたこと以外は、製造例3と同様の方法で、オート麦由来キシランラウレートを得た。
【0082】
(製造例8:オート麦由来キシランプロピオネートの製造)
製造例4において、広葉樹パルプ由来キシランに代えて、製造例2で得られたオート麦由来キシラン(Serva社製)を用いたこと、及びエステル化反応時間を1時間、3時間、5時間、及び7時間に変えたこと以外は、製造例4と同様の方法で、オート麦由来キシランプロピオネートを得た。
【0083】
(試験例2:キシラン誘導体及びキシランの重量平均分子量の測定)
広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)、及びオート麦由来キシランラウレート(製造例7)をそれぞれ10mg用い、クロロホルム1mLに懸濁し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)により重量平均分子量(Mw)以下の測定条件で測定した。結果を表2に示す。
[測定条件]
装置 :Shimadzu 10A(株式会社島津製作所製)
カラム :Shodex K−G/806K/802連結カラム(Shodex社製)
カラム温度:40℃
移動層 :クロロホルム
流速 :0.8mL/分間
アプライ :50μL
【0084】
【表2】

【0085】
表2に示す広葉樹パルプ由来キシランラウレート及びオート麦由来キシランラウレートの重量平均分子量から、広葉樹パルプ由来キシラン及びオート麦由来キシランの重量平均分子量を、下記式(1)により算出した。結果を表3に示す。
キシラン重量平均分子量(Mw)=X/530×132 ・・・式(1)
前記式(1)において、「X」は、表3に示す各重量平均分子量*1を示す。また、「530」は、キシランラウレートの1分子の重量平均分子量の値であり、「132」は、キシランのモノマーの重量平均分子量の値である。
【化1】

前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3より、パルプ由来キシランは、オート麦由来キシランと比較して高分子であることが確認された。したがって、パルプを高濃度のアルカリで長時間抽出することにより、キシランの回収率が向上するだけでなく、高分子量のキシランを得ることができることがわかった。なお、エステル化反応時間が長いほど分解が生じ、分子量が低下していた。
【0088】
(試験例3:キシランの誘導体化の確認)
広葉樹パルプ由来キシラン(製造例1)及び針葉樹パルプ由来キシラン(製造例2)、並びに、5時間エステル化反応を行った広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)及び5時間針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5)を用いて、試験例1と同様の方法で赤外分光法による測定を行った。
【0089】
広葉樹パルプ由来キシラン(製造例1)及び広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)のIRスペクトルを図3に示す。このスペクトルより、広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3:破線で示す)では、広葉樹パルプ由来キシラン(製造例1:実線で示す)でピークが認められなかった1750cm−1に顕著なピークが認められ、エステル置換していることが確認された。
また、図4に示す、針葉樹パルプ由来キシラン(製造例2:実線で示す)及び針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5:破線で示す)のIRスペクトルより、針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5)も同様に1750cm−1に顕著なピークが認められ、エステル置換していることが確認された。
【0090】
(試験例4:エステル置換度の確認)
広葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例4)及びオート麦由来キシランプロピオネート(製造例8)を用いて、500MHzにおける重クロロホルム中でプロトン核磁気共鳴(1H NMR)の測定を行い、リングプロトンとメチルプロトンとの積分値を用いて計算することによりエステル基の置換度(DS)を求めた。結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
(試験例5:キシラン誘導体及びキシランの熱安定性の測定)
オート麦由来キシラン(Serva社製)、5時間エステル化反応を行ったオート麦由来キシランラウレート(製造例7)、及び5時間エステル化反応を行ったオート麦由来キシランプロピオネート(製造例8)それぞれ2mgを、ThermoPlus DSC8320(株式会社リガク製)に入れ、窒素雰囲気下で、50℃〜450℃まで20℃/分間で昇温した。
【0093】
TG曲線を図5に示す。この結果より、キシランは、誘導体化(エステル化)することにより熱安定性が向上することがわかった。なお、広葉樹由来キシラン誘導体及び針葉樹由来キシラン誘導体も同様の結果が得られた。
【0094】
(試験例6:フィルムの製造)
広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)、広葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例4)、針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5)、オート麦由来キシランラウレート(製造例7)、及びオート麦由来キシランプロピオネート(製造例8)を200mg用い、それぞれクロロホルム10mLに溶解し、シャーレ(直径5cm)に流し込み、ドラフト内(25℃)にて12時間乾燥させた。
【0095】
乾燥後の写真を図6〜10に示す。図6が広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)、図7が針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5)、図8がオート麦由来キシランラウレート(製造例7)、図9が広葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例4)、及び図10がオート麦由来キシランプロピオネート(製造例8)の写真である。
フィルムを観察したところ、キシランプロピオネート(製造例4及び8)から製造したフィルムに比べて、キシランラウレート(製造例3、5、及び7)から製造したフィルムは、透明度が高く、強度及び柔軟性の高いフィルムであった。また、オート麦由来のキシランラウレート及びキシランプロピオネートから製造したフィルムは透明ではあるものの、広葉樹及び針葉樹由来のキシランラウレート及びキシランプロピオネートから製造したフィルムと比べて黄色かった。
なお、図6〜8及び10は、3時間エステル化反応を行ったキシラン誘導体を用いてフィルム化したもの、図9は、14時間エステル化反応を行ったキシラン誘導体を用いてフィルム化したものの写真であるが、これらの広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)、広葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例4)、針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5)、オート麦由来キシランラウレート(製造例7)、及びオート麦由来キシランプロピオネート(製造例8)は、エステル化反応の時間に関わらず全てのキシラン誘導体で同様の方法によりフィルムを製造することができた。
一方、エステル化を行っていない広葉樹パルプ由来キシラン(製造例1)、針葉樹パルプ由来キシラン(製造例2)、及びオート麦由来キシラン(Serva社製)は、同様の方法を用いてもフィルムを製造することはできなかった。
【0096】
広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)及び広葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例4)の5時間エステル化反応したものを用いて製造したフィルムについて、X線回折の測定を行った。X線回折は、X線回折装置(RINT−UltraX−18、株式会社リガク製)により反射法に従って行った。
結果を図11に示す。この結果、結晶に由来する明瞭な回折点は認められなかった。これより、キシラン誘導体は非結質であることがわかった。
【0097】
(試験例7:ナノファイバーの製造)
オート麦由来キシランプロピオネート(製造例8)の1時間エステル化反応したもの250mgを1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール1mLに溶解した。図1に示す電解紡糸装置(ES−2000、Fuence社製)を用いて、下記に示す条件にて電解紡糸法(エレクトロスピニング法)によりキシランプロピオネートのナノファイバーを製造した。
[エレクトロスピニング条件]
印加電圧:30kV
TCD :15cm
温度 :20℃
相対湿度:40%
【0098】
得られたナノファイバーを走査型電子顕微鏡(SEM:S−4000、株式会社日立製作所製)で5,000倍率にて撮影し、50箇所の外形を撮影した写真上で計測し、平均直径を求めたところ、178nmのナノファイバーであり、良好な長さを有するものであることがわかった。製造できたナノファイバーを図12(5,000倍率)及び図13に示す。ここでは、エステル化反応時間1時間のものを示すが、エステル化反応時間にかかわらず同様の方法でナノファイバーを製造することができた。
なお、広葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例3)、広葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例4)、針葉樹パルプ由来キシランラウレート(製造例5)、針葉樹パルプ由来キシランプロピオネート(製造例6)、及びオート麦由来キシランラウレート(製造例7)についても同様にエステル化反応時間にかかわらずナノファイバーを製造することができた。
一方、エステル化を行っていない広葉樹パルプ由来キシラン(製造例1)、針葉樹パルプ由来キシラン(製造例2)、及びオート麦由来キシラン(Serva社製)は、同様の操作を行ってもファイバーを形成することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のパルプ由来キシラン、キシラン誘導体は、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として好適に利用可能である。また、環境保全材料や生体吸収材料等の高機能性材料としても好適に利用可能である。
また、本発明のポリマー成形体は、前記キシラン誘導体を含むため、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しいプラスチック材料、包装材料、フィルター、不織布などに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 紡糸溶液
2 シリンジ
3 ニードル型電極
4 コレクタ電極
5 プランジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にエステル基を有することを特徴とするキシラン誘導体。
【請求項2】
エステル基が、水酸基とカルボン酸とのエステル化反応により形成された請求項1に記載のキシラン誘導体。
【請求項3】
カルボン酸が、プロピオン酸及びラウリン酸の少なくともいずれかである請求項2に記載のキシラン誘導体。
【請求項4】
エステル基のキシランにおける水酸基に対する置換度が、1.6以上である請求項1から3のいずれかに記載のキシラン誘導体。
【請求項5】
25℃のクロロホルムに対して95質量%以上溶解する請求項1から4のいずれかに記載のキシラン誘導体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のキシラン誘導体を含むことを特徴とするポリマー成形体。
【請求項7】
フィルムである請求項6に記載のポリマー成形体。
【請求項8】
ファイバーである請求項6に記載のポリマー成形体。
【請求項9】
平均直径が1,000nm以下である請求項8に記載のポリマー成形体。
【請求項10】
キシランにカルボン酸をエステル化反応させることを特徴とするキシラン誘導体の製造方法。
【請求項11】
エステル化反応が、温度25℃〜100℃で1時間〜20時間反応させることを特徴とするキシラン誘導体の製造方法。
【請求項12】
重量平均分子量が8,000以上であることを特徴とするパルプ由来キシラン。
【請求項13】
裁断したパルプ原料に対し、濃度5質量%以上のアルカリ溶液を用いてアルカリ抽出を行うことを特徴とするキシランの製造方法。
【請求項14】
アルカリ溶液が水酸化ナトリウム水溶液であり、アルカリ抽出が室温で10時間以上行われる請求項13に記載のキシランの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−178940(P2011−178940A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46213(P2010−46213)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】