説明

パルプ製造装置、パルプ製造方法及び高濃度パルパー

【課題】1つの高濃度パルパー内で原材料からパルプ生成まで行えるパルプ製造装置等の提供。特に単子葉ヤシ科植物を原料とし、大気圧雰囲気中で低い温度環境下でパルプを生成できるパルプ製造装置等の提供。
【解決手段】硝酸を含む第1薬液、湯水を含む第2薬液、加熱苛性ソーダを含む第3薬液を、この順番でタンク10に供給する薬液供給装置20と、タンク10に設けられ、タンク10に満たされた第1乃至3の薬液の温度を複数段階に制御する液温度制御装置30と、タンク10に設けられ、タンク10に供給された原材料と第3の薬液に渦流を生成する渦流生成装置40と、タンク10の底部12近傍に設けられ、第1乃至3の薬液を次行程で投入する前に、タンク10にすでに供給されている第1乃至3の薬液のいずれかを排出する薬液排出装置50と、を備え、第1乃至3の薬液供給の各工程をバッチ処理により行い原材料をパルプ化するパルプ製造装置1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプの製造に関し、特に、油ヤシに代表されるヤシ科植物の樹幹や空果房からパルプを効率的に生成できるパルプ製造装置、パルプ製造方法及び高濃度パルパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材などから化学パルプを製造する方法として、クラフト法(KP法)とサルファイト法(SP法)が広く知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したクラフト法(KP法)及びサルファイト法(SP法)は、いずれも高圧下(例えば、5〜8気圧)、且つクラフト法(KP法)では150〜170℃(1〜2時間)、サルファイト法(SP法)では120〜130℃(7〜8時間)の環境下で蒸解処理を行うため、高度に耐久性のある製造設備を要求され、その結果、設備投資額が大きくなるという問題があった。
【0004】
さらに、クラフト法(KP法)は、パルプ強度面では非常に優れているが、苛性ソーダと硫化ソーダの混合水溶液を用いるため、硫化水素ガスによる臭気対策が必要であり、環境面での多大な設備投資を必要とするという問題があった。
【0005】
一方、サルファイト法(SP法)は、高白色度のパルプを生成できることが評価されているが、亜硫酸カルシウム水溶液を用いているため、カルシウム(Ca)ベース故にパルプの原材料チップへの薬液の浸透が悪く、パルプ化可能樹種が限定されてしまうという問題があった。また、生成されるパルプの品質は、パルプに硫酸基が残留し、原料パルプとして用途制限があるという問題があった。さらに、亜硫酸ガス対策と、黒液の処理対策にも多額の投資を要する大型環境設備が必要であるという問題があった。
【0006】
また、従来、油ヤシに代表される単子葉ヤシ科植物は、パーム油採取を目的として、熱帯地域のプランテーションで多く栽培されている。また、パーム油を採取した後の油ヤシの大半は、焼却廃棄されているという現状がある。一方、パーム油を採取した後の油ヤシをパルプの原材料として利用する方法も考えられている。しかし、油ヤシに代表される単子葉ヤシ科植物の樹幹は非木質の柔組織細胞が多く含まれている。柔組織細胞は、吸水性が良く、パルプ製造工程で使用される薬液を多く吸収するので、製造工程で多量の薬品が必要になり、採算が悪化するという問題があった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、1つの高濃度パルパー内で原材料からパルプ生成まで行えるパルプ製造装置等を提供するとともに、上述したクラフト法(KP法)及びサルファイト法(SP法)の問題点を解決し、クラフト法パルプに準じた強度と、サルファイト法パルプの高白色度の特徴を兼ね合わせ持つパルプの製造装置等を提供しようとするものである。
【0008】
また、特に油ヤシに代表される単子葉ヤシ科植物を原料とし、大気圧雰囲気中で、且つクラフト法よりも低い温度環境下でパルプ生成を行うことができる、パルプ製造装置等を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0010】
(1)本発明は、硝酸を含む第1の薬液、湯水を含む第2の薬液、及び加熱された苛性ソーダを含む第3の薬液を、この順番でタンク本体に供給する薬液供給装置と、前記タンク本体に設けられ、該タンク本体に満たされた前記第1乃至3の薬液の温度を複数段階に制御する液温度制御装置と、前記タンク本体に設けられ、該タンク本体に供給された原材料と前記第3の薬液に渦流を生成する渦流生成装置と、前記タンク本体の底部近傍に設けられ、次工程処理で使用する前記第1乃至3の薬液のいずれかを前記タンク本体に投入する前に、前記タンク本体にすでに供給されている前工程処理で使用した前記第1乃至3の薬液のいずれかを排出する薬液排出装置と、を備え、前記タンク本体において、前記第1乃至3の薬液による各製造工程をバッチ処理により行い、前記タンク本体内において前記原材料をパルプ化することを特徴とするパルプ製造装置である。
【0011】
(2)また、本発明は、前記タンク本体に設けられ、前記第2の薬液供給により発生したガスを回収し、再利用するガス回収装置と、を更に備えることを特徴とする、(1)に記載のパルプ製造装置である。
【0012】
(3)また、本発明は、前記薬液排出装置には、前記第1乃至3の薬液を通過させるが、前記原材料又は生成されたパルプを通過させないストレーナが更に設けられていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のパルプ製造装置である。
【0013】
(4)また、本発明は、前記ストレーナの穴径は、1.5mm以上であることを特徴とする、(3)に記載のパルプ製造装置である。
【0014】
(5)また、本発明は、前記ストレーナの穴径は、10mm以上であることを特徴とする、(4)に記載のパルプ製造装置である。
【0015】
(6)また、本発明は、前記薬液排出装置により排出された前記第1乃至3の薬液を、一時的に貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクに貯留した前記第1乃至3の薬液に含まれる異物を除去する異物除去装置と、前記異物を取り除いた後の前記第1乃至3の薬液を、前記タンク本体に再供給する、再利用液供給装置と、を更に備えることを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれかに記載のパルプ製造装置である。
【0016】
(7)また、本発明は、前記タンク本体に設けられ、前記生成されたパルプを前記第1乃至3の薬液と分けて排出するパルプ排出用ストレーナがさらに設けられていることを特徴とする、(1)乃至(6)のいずれかに記載のパルプ製造装置である。
【0017】
(8)また、本発明は、前記原材料は、アオイ科フヨウ属の植物、アサ科アサ属の植物、バショウ科バショウ属の植物、その他の非木材の植物であることを特徴とする、(1)乃至(7)のいずれかに記載のパルプ製造装置である。
【0018】
(9)また、本発明は、前記原材料は、禾本科植物であることを特徴とする、(1)乃至(8)のいずれかに記載のパルプ製造装置である。
【0019】
(10)また、本発明は、前記禾本科植物は、単子葉植物ヤシ科の植物、麦藁又はイネ科サトウキビ属の植物であることを特徴とする、(9)に記載のパルプ製造装置である。
【0020】
(11)本発明は、タンク本体に、硝酸を含む第1の薬液を供給して原材料に浸透させ、該原材料を多孔質化する酸化工程と、前記第1の薬液を排出した後、前記タンク本体に、湯水を含む第2の薬液を供給するとともに、前記原材料を煮沸して、前記酸化工程が施された前記原材料の酸化反応を促進させるとともに、残存硝酸を蒸散させる煮沸工程と、前記第2の薬液を排出した後、前記タンク本体に、加熱された苛性ソーダを含む第3の薬液を供給して前記原材料に浸透させてリグニンを分解するとともに、渦流によって前記原材料同士を接触させることで、多孔質化された前記原材料を解きほぐす蒸解工程と、を少なくとも備えることを特徴とするパルプ製造方法である。
【0021】
(12)また、本発明は、前記第3の薬液を排出した後、前記タンク本体に、加熱された苛性ソーダを含む第4の薬液を供給して前記原材料の蒸解を促進し、残存リグニンを抽出するとともに、渦流によって前記原材料同士を接触させることで、多孔質化された前記原材料を解きほぐす第2蒸解工程を、更に備えることを特徴とする、(11)に記載のパルプ製造方法である。
【0022】
(13)また、本発明は、単子葉植物ヤシ科の植物を破砕及び選別して繊維状チップを取り出して、前記タンク本体に供給する為の前記原材料を生成する破砕工程を、更に備えることを特徴とする、(11)又は(12)に記載のパルプ製造方法である。
【0023】
(14)また、本発明は、少なくとも前記酸化工程、前記煮沸工程及び前記蒸解工程は、大気圧雰囲気中で行われることを特徴とする、(11)に記載のパルプ製造方法である。
【0024】
(15)また、本発明は、少なくとも前記酸化工程、前記煮沸工程及び前記蒸解工程は、105℃以下の温度下で行われることを特徴とする、(11)又は(14)に記載のパルプ製造方法である。
【0025】
(16)また、本発明は、前記第2の薬液は、温度99℃以上、重量濃度10%以下の苛性ソーダであることを特徴とする、(11)に記載のパルプ製造方法である。
【0026】
(17)また、本発明は、前記蒸解工程は、前記タンク本体の中で生成されるパルプの濃度が2〜20%となるように、前記タンク本体に供給された前記原材料及び前記第3の薬液の中で、渦流によって前記原材料同士を接触させることで、リグニンを分解して多孔質化された前記原材料を解きほぐすことを特徴とする、(11)乃至(16)のいずれかに記載のパルプ製造方法である。
【0027】
(18)本発明は、パルプを生成する原材料及び該原材料に浸透させる薬液を投入するタンク本体と、前記原材料に浸透させた前記薬液から発生するガスを回収するガス回収装置と、前記原材料に浸透させた前記薬液の温度を複数段階で制御する液温度制御装置と、反応済みの薬液を排出するための薬液排出装置と、前記原材料と前記薬液に渦流をおこす渦流生成装置と、生成されたパルプを排出するためのパルプ排出用ストレーナと、を備えることを特徴とする高濃度パルパーである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、1つの高濃度パルパー内で原材料からパルプ生成まで行えるパルプ製造装置等を提供するとともに、特に油ヤシに代表される単子葉ヤシ科植物を原料とし、大気圧雰囲気中で、且つ従来よりも低い温度環境下でパルプ生成を行うことができる、パルプ製造装置等を提供できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態に係るパルプ製造装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態に係るパルプ製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】第2実施形態に係るパルプ製造装置の概略を示す全体構成図である。
【図4】第3実施形態に係るパルプ製造装置の概略を示す全体構成図である。
【図5】第4実施形態に係るパルプ製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0031】
<全体構成>
【0032】
図1は、本発明の第1実施形態に係るパルプ製造装置1の全体構成が示されている。
【0033】
パルプ製造装置1は、タンク本体10と、薬液供給装置20と、液温度制御装置30と、渦流生成装置40と、薬液排出装置50と、ガス回収装置60と、を備えて構成されている。なお、本明細書では、タンク本体10、液温度制御装置30、渦流生成装置40、薬液排出装置50、ガス回収装置60を含めて、高濃度パルパー100と言う。
【0034】
高濃度パルパー100のタンク本体10は、内部で効率的に乱流を起こすことができる内容構造を有する箱状の容器である。タンク本体10の底面12には、薬液排出装置50が設けられている。そして、薬液排出装置50の上側には、渦流生成装置40が設けられている。また、高濃度パルパー100のタンク本体10には、薬液(後述する第1乃至3の薬液)や温水の温度を複数段階で制御するための液温度制御装置30が設けられ、タンク10本体の上側には、原材料と薬液の化学反応で発生するガスを回収するガス回収装置60が設けられている。さらに、高濃度パルパー100のタンク本体10には、外部に設けられている薬液供給装置20から供給される第1乃至3の薬液をタンク本体10内に導入するための3つの薬液供給管14A〜14C(以下、単に薬液供給管14と言うことがある)と、温水又は洗浄水を導入するための温水供給管16A、洗浄水供給管16Bが設けられている。第1乃至3の薬液の詳細は後述する。
【0035】
なお、高濃度パルパー100は、蒸解工程において、渦流生成装置40により、タンク本体10内部に渦流(乱流)を生成し、パルプ繊維束を離解できるようになっている(詳細は後述)。したがって、高濃度パルパー100のタンク本体10は、内部に乱流を効率的に発生させることができる内部構造であることが好ましい。
【0036】
また、薬液供給管14は、本実施形態では、第1乃至3の薬液ごとに別々に設けているが、タンク本体10に導入される薬液供給管14を1つであっても好ましい。この場合、1つの薬液供給管14に接続されるとともに、各薬液タンク(後述する、第1乃至3薬液タンク21〜25)に接続されている各薬液供給管にバルブを設け、必要な薬液に対応するバルブを開放することによって、第1乃至3の薬液を選択してタンク本体10に供給することが好ましい。
【0037】
薬液供給装置20は、異なる薬液を入れる複数の薬液タンク、温水や洗浄水を入れる温水タンクや洗浄水タンクを備えて構成されている。詳細に、薬液供給装置20は、硝酸を含む第1の薬液を貯留する第1薬液タンク21、温水を含む第2の薬液を貯留する第2薬液タンク23、苛性ソーダを含む第3の薬液を貯留する第3薬液タンク25、温水を貯留する温水タンク28、洗浄水を貯留する洗浄水タンク29から構成されている。
【0038】
さらに、薬液供給装置20は、第1乃至3薬液タンク21〜25からタンク本体10に第1乃至3の薬液を誘導する薬液供給管14A〜14C、ポンプ21A〜25Aを備えて構成されている。ポンプ21A〜25Aは、第1乃至3薬液タンクから第1乃至3の薬液を吸い上げ、薬液供給管14A〜14Cを通して、タンク本体10に薬液を供給できるようになっている。また、温水タンク28及び洗浄水タンク29も同様に、温水供給管16A、洗浄水供給管16Bが接続され、ポンプ28A、29Aによって、温水や洗浄水をタンク本体10に供給できるようになっている。
【0039】
液温度制御装置30は、電流制御装置32と、電流制御装置32に接続された電熱線34と、熱電対36から構成されている。電熱線34は、タンク本体10内に満たされた薬液を温めることができる位置に配設され、熱電対36は、タンク本体10内に満たされた薬液の温度を測定できる位置に配設されている。したがって、電流制御装置32は、熱電対36により薬液の液温を検出し、その検出結果に基づいて電熱線34に流す電流を制御することによって、タンク本体10内の薬液の温度が所定の設定温度にすることができる。また、電流制御装置32は、薬液の加熱タイミングや薬液の種類に応じて、薬液の温度を複数段階に調整(制御)できるようになっている。
【0040】
なお、液温度制御装置30による薬液の加熱方法は、電熱線34により加熱する方法に限定されるものではない。例えば、パルプ製造装置やその他の設備において発生した熱(スチーム熱)を再利用しても良く、ガス遠赤外線により加熱する方法を用いても良く、オイルを触媒として、そのオイルを温めることによって加熱しても良い。さらに、電磁誘導による発熱を熱源として用いても良い。もちろん、薬液を加熱するだけでなく、タンク本体10を冷却水などで冷却するようにしても好ましく、このような冷却手段を設けることによって、より短時間で、精度良く薬液の温度を制御することができる。
【0041】
次に、渦流生成装置40は、タンク本体10内に投入された原材料をせん断しないで、タンク本体10内に渦流を生成できる渦流生成構造を有する装置である。渦流生成装置40は、効率的に渦流を生成できる形状に形成された羽根をモータ42によって回転させることによって、薬液に回転水流(渦流)を発生させるとともに、渦流によって薬液の中で原材料同士を接触させて、互いに絡まっている原材料の繊維を解きほぐすことができる。1例として、渦流生成装置40の羽根は、中心から外縁方向になだらかに凸状になるように形成されている。渦流生成装置40の羽根は、略90度間隔で4か所形成されている。もちろん、羽根の形状は、原材料の繊維を切らず、且つ効率よく解きほぐすことができるものであれば本実施形態の形状に限定されるものではない。
【0042】
薬液排出装置50は、タンク本体10の底面12に設けられた孔(以下、ストレーナ52と言う)を備えて構成される。薬液排出装置50は、少なくとも1つのストレーナ52を有していれば良いが、例えば、同心円状に複数のストレーナ52を有していても良い。本実施例では、ストレーナ52は、渦流生成装置40と同心円状に8つ形成されている。また、ストレーナ52は、第1乃至3の薬液により化学反応し難い材質で形成されていることが好ましく、特に耐酸性及び耐アルカリ性などの耐薬品性や温度に対する耐久性が高い材料で形成されていることが好ましい。
【0043】
渦流生成装置40は、ストレーナ52の上側で、任意の間隔L(例えば、2〜10mm)だけ離れ、略平行になるように設けられている。そして、渦流生成装置40が回転することによって、渦流生成装置40とストレーナ52の間に引き込む方向(図1の矢印A方向)に流れる水流が作られる(これをサクション効果と言う)。つまり、渦流生成装置40を駆動させることによって、使用済みの第1乃至3の薬液を渦流生成装置40とストレーナ52の間に引き込み、ストレーナ52からタンク本体10の外に排出することができる。
【0044】
また、ストレーナ52の孔径は、1.5〜10.0mmの範囲(原材料チップがストレーナ52を通過できない孔径)であることが好ましい。ストレーナ52の孔径をこの範囲に設定することによって、薬液の排出初期の段階では、薬液と混合している原材料のうち、比較的大きい原材料チップがストレーナ52を通過できずに引っ掛かり、ストレーナ52の上に次々と堆積して目の大きいフィルターと同様の効果を持つようになる。その後、排出初期段階で作られた大きい原材料チップが堆積したフィルターにより、より小さい原材料チップが引っ掛かってさらに堆積し、最終的には目の細かいフィルターを形成する。この状態になると、ストレーナ52は、原材料チップで作られる目の細かいフィルターにより原材料チップの排出をほぼ防止し、薬液のみを排出できるようになる。このように、薬液の排出初期段階では、比較的小さな原材料チップは、薬液と一緒に排出されてしまうが、薬液排出の過程で、原材料チップの堆積物からなるフィルターが比較的早い段階で形成され、専用のスクリーンなどを設けなくても、原材料チップの流出を防止できるようになっている。
【0045】
ガス回収装置60は、タンク本体10の上部に設けられ、タンク本体10内で発生したガスを排出及び回収する装置である。ガス回収装置60は、排気口62、排気ダクト64、ガス回収タンク66から構成されている。なお、発生ガスは水に溶かして回収し、タンク本体10に供給する薬液として再利用することが好ましい。具体的には、ガス回収タンク66に回収されたガスを、スクラバー等で回収し、不純物等を取り除いた後、発生したガスに対応する薬液を貯留している第1、2薬液タンクに戻すようにしても良い。なお、本実施形態では、スクラバーで回収したガスを目的となる濃度になるまで一時的に貯留し、タンク本体10に直接供給するようにしている。
【0046】
<パルプ製造方法>
【0047】
次に、本実施形態に係るパルプ製造装置1によるパルプの製造方法について説明する。図2は、パルプの製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0048】
まず、ステップS110では、破砕工程を行う。油ヤシに代表される単子葉ヤシ科植物(以下、ヤシと言う)の樹幹の場合は、軸方向に輪切り(例えば、軸長さ150〜200mm)にしたものをハンマーミル等で粉砕する。粉砕した樹幹は、さらに5mm角程度の格子状の振動スクリーン(ふるい)にかけて、繊維状チップ(原材料チップと言うこともある)と柔組織細胞(木質でない部分)を選別し、繊維状チップのみを取り出す。なお、原材料がヤシの空果房の場合は、柔組織細胞は殆ど含まれていないので、振動スクリーンで柔組織細胞を選別する必要はなく、空果房をハンマーミルで破砕して、そのまま原材料チップとして使用することができる。
【0049】
また、最終的に生成するパルプの品質を向上させるため、原材料は、同一種類の材料であることが好ましく、可能な限りヤシ科植物の樹幹と空果房は、ハンマーミルで別々に粉砕するのが好ましい。
【0050】
次に、ステップS112では、タンク本体10に温水と硝酸の混合液を供給するとともに、繊維状チップ(又は原材料チップ、以下同じ)を投入して酸化処理(酸化工程)を行う。この硝酸を第1の薬液と言う。詳細に、まず、薬液供給装置20は、温水タンク28及び第1薬液タンク21から、90℃以上に加熱した温水と、硝酸をタンク本体10に供給するとともに、ステップS110で破砕した繊維状チップを投入する。その後、液温度制御装置30により、第1の薬液の温度を80〜87℃の範囲で制御しつつ、酸化反応を行う。処理後の第1の薬液は、薬液排出装置50から排出される。
【0051】
なお、温水と硝酸の混合比は、原材料の種類によって異なり、上記に限定されるものではない。
【0052】
ステップS114では、煮沸処理(煮沸工程)を行う。詳細に、薬液供給装置20は、第2薬液タンク23から、沸騰した温水を含む第2の薬液をタンク本体10に供給する。そして、液温度制御装置30により、第2の薬液の温度を99℃以上で煮沸し、ステップS112の酸化工程による繊維状チップの酸化反応を促進させるとともに、残存硝酸を蒸散させる。したがって、この煮沸工程により、原材料に付着した残存硝酸を取り除くことができ、洗浄も同時に行うことができる。処理後の第2の薬液は、薬液排出装置50から排出される。
【0053】
上述した酸化工程(ステップS112)、煮沸工程(ステップS114)により、タンク本体10内の残存不純物、ゴミや塵及び柔組織細胞を効果的に除去することができる。
【0054】
ステップS116では、蒸解処理(蒸解工程)を行う。詳細に、薬液供給装置20は、第3薬液タンク25から、苛性ソーダを含む第3の薬液をタンク本体10に供給する。また、液温度制御装置30は、タンク本体10に満たされた第3の薬液を加熱し、90〜95℃で温度制御を行い、繊維状チップの蒸解反応(リグニンの分解)を促進する。なお、タンク本体10に供給される第3の薬液は、予め95℃以上に加熱されていることが望ましく、このようにすることによって、蒸解反応の反応時間を短縮することができる。
【0055】
また、この蒸解工程では、上述した第3の薬液による繊維状チップの蒸解と共に、渦流生成装置40を駆動して薬液の中で過流を生成し、繊維状チップを構成する繊維質を生成された渦流によって解きほぐす。この時、タンク本体10に投入される繊維状チップの量は、生成されるパルプの濃度が2〜20%(重量%)の範囲であることが好ましい。これによって、渦流によるパルプ同士の接触によるせん断力を利用し、パルプ繊維の解離を効果的に行えるとともに、蒸解におけるセルローズの損傷を最小限にすることができる。
【0056】
また、上述した、酸化工程(ステップS112)、煮沸工程(ステップS114)、蒸解工程(ステップS116)の各工程は、少なくとも105℃以下の温度環境下で行われることが好ましい。
【0057】
その後、反応済みの第3の薬液(黒液と言う)は、薬液排出装置50から排出される。
【0058】
上述した、酸化工程(ステップS112)〜蒸解工程(ステップS116)により、繊維状チップからパルプが生成される。
【0059】
そして、ポンプ29Aを駆動して、洗浄水タンク29から洗浄水等をタンク本体10に供給した後、ストレーナ52のバルブ(図示省略)を開き、生成されたパルプをポーチャー等のパルプ貯留タンク(図示省略)に移動させる。
【0060】
その後、生成したパルプを希釈させ、更に洗浄しPhをコントロールする洗浄工程、パルプに含まれる異物やゴミを分離して除去する精選工程(一次精選、二次精選)、パルプの繊維を離解させる離解行程、パルプ中の着色成分を脱色、又は分解、除去する漂白工程を行い、より高品質なパルプが生成される。
【0061】
上述したように、パルプ製造装置1は、原材料チップを酸化、煮沸、蒸解するために用いられる第1乃至3の薬液を、この順番でタンク本体10に供給する薬液供給装置20と、タンク本体10に供給された薬液ごとに温度を複数段階に制御する液温度制御装置30と、少なくとも第3の薬液と混合した原材料チップに渦流を生成する渦流生成装置40と、タンク本体10の薬液を次行程の薬液供給前に排出する薬液排出装置50を備えている。これによって、同一のタンク(タンク本体10)内で、バッチ処理により原材料チップをパルプに生成することができ、パルプ製造設備の簡素化や小型化、さらに低コスト化を図ることができる。
【0062】
また、タンク本体10の上側には、薬液と原材料チップが反応して発生したガスを、タンク本体10の外に排気して回収するガス回収装置60が設けられている。ガス回収装置60は、発生したガスを水に溶かして回収する構造となっている。これによって、タンク本体10から発生したガスを水に溶かして迅速に回収できるとともに、回収したガスが溶融した目的の濃度の水溶液を薬液として再利用することができる。
【0063】
また、ストレーナ52の孔径は、原材料チップの大きさの平均値のよりも小さく設定する。これによって、排出初期は、薬液とともにストレーナ52から排出される原材料チップの中で大き目の原材料チップがストレーナ52に堆積し、徐々に小さ目の原材料チップも堆積し、最終的にストレーナ52の開口部に原材料チップが堆積してできたフィルターが形成されるようになっている。つまり、ストレーナ52には、フィルターを設けなくても、原材料チップが排出されながらフィルターを形成し、薬液は排出するが原材料チップは排出しないようになっている。
【0064】
また、原材料は、禾本科植物であることが好適である。禾本科植物を破砕して作った繊維状チップをパルプ製造装置1により、同一タンク内で容易にパルプ化することができる。
【0065】
また、原材料の禾本科植物は、特に油ヤシに代表される単子葉植物ヤシ科であることが好適である。ヤシ科の植物は、木質が大半を占める空果房と、非木質である柔組織細胞が約35〜45%を占める樹幹がある。本実施形態のパルプ製造装置1は、破砕工程で樹幹から柔組織細胞を略取り除いて(90%以上)、木質部でアスペクト比20〜400となる繊維状チップ(例えば、直径0.5mm×長さ200mm(アスペクト比400)の繊維状チップ)を選別してパルプの原材料としてタンク本体10に供給できるので、従来難しかったヤシ科植物の樹幹を、簡単な工程でパルプの原料とすることができる。
【0066】
なお、原材料となる禾本科植物は、上述した単子葉植物ヤシ科の植物に限定されるものではなく、例えば、麦藁、イネ科サトウキビ属の植物でも好ましい。
【0067】
また、パルプの原材料は、非木質であっても好ましい。例えば、ケナフに代表されるアオイ科フヨウ属の植物、麻に代表されるアサ科アサ属の植物、バナナに代表されるバショウ科バショウ属の植物であっても好ましい。
【0068】
また、本実施形態では、蒸解工程(ステップS116)において、渦流生成装置40を用いて、タンク本体10内に渦流を生成し、第3の薬液の中で原材料の繊維束を離解するようにしているが、酸化工程(ステップS112)、煮沸工程(ステップS114)においても、タンク本体10内に渦流を発生させるようにしても好ましい。
【0069】
また、パルプ製造方法は、繊維状チップと酸化反応して多孔質化させる第1の薬液を、タンク本体10内の繊維状チップに浸透させる酸化工程と、湯水を含む第2の薬液を、タンク本体10内の繊維状チップに浸透させて煮沸して酸化反応を促進させる煮沸工程を備えている。パルプ製造方法は、さらに、酸化工程及び煮沸工程により多孔質化した繊維状チップに苛性ソーダを浸透させるとともに、渦流によって繊維状チップの繊維を解きほぐす蒸解工程を少なくとも備えている。これによって、1つのタンク本体10内で、原材料となる繊維状チップからパルプを生成できるので、低温蒸解で、さらに蒸解時間を短縮できるとともに、製造設備自体を小型化することができる。
【0070】
また、本実施形態に係るパルプ製造方法は、原材料を破砕する破砕工程を備えている。つまり、特に原材料が油ヤシに代表される単子葉植物ヤシ科の植物の樹幹を使用する場合、樹幹を破砕して、柔組織細胞を選別除去した後の繊維状チップのみを取り出して原材料とするので、従来パルプの原料としては極めて使用し難かった、ヤシ科植物の樹幹を簡単な工程でパルプの原料にすることができる。
【0071】
また、上述したパルプ製造方法の、少なくとも酸化工程(ステップS112)、煮沸工程(ステップS114)、蒸解工程(ステップS116)は、大気雰囲気中で行われる。したがって、特別な加圧装置や、気密を保ったタンクの中で各処理する必要がなく、パルプ製造装置自体を小型化、低コストにすることができるとともに、安全性の向上と、装置寿命を向上させることができる。
【0072】
また、上述したパルプ製造方法の、少なくとも酸化工程(ステップS112)、煮沸工程(ステップS114)、蒸解工程(ステップS116)は、105℃以下の温度環境下で行われる。したがって、装置の耐熱寿命を延ばすことによって、装置の信頼性を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態におけるパルプ製造方法では、煮沸工程(ステップS114)における第2の薬液の温度を99℃以上にしている。これによって、タンク本体10や繊維状チップに付着した残存硝酸を確実に蒸散することができる。
【0074】
また、本実施形態におけるパルプ製造方法では、蒸解工程(ステップS116)において、生成されるパルプ濃度が2〜20%(重量%)となる、第3の薬液と繊維状チップの混合液の中で渦流を生成して、繊維状チップの繊維同士を接触させる。これによって、渦流の中における繊維同士の接触によるせん断力により、繊維が切れることなく、パルプの繊維どうしが接触し合いながら解きほぐれ、蒸解を短時間で行えるとともに、生成されるパルプの品質を向上させることができる。
【0075】
次に、第2実施形態に係るパルプ製造装置について説明する。図3は、第2実施形態に係るパルプ製造装置2の全体構造図である。パルプ製造装置2は、処理済みの第1乃至3の薬液を貯留タンク70に一時的に貯留し、異物除去装置80によって各薬液の不純物を取り除いた後、再利用液供給装置90を介して薬液供給装置20に戻すことによって、第1乃至3の薬液を再利用できることころに特徴がある。なお、タンク本体10、薬液供給装置20、液温度制御装置30、渦流生成装置40、薬液排出装置50、ガス回収装置60については、第1実施形態と同じ構造、機能を持つものであるので、同じ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0076】
貯留タンク70は、薬液排出装置50の排出側に接続され、タンク本体10から排出された薬液を溜めることができる。異物除去装置80は、貯留タンク70と管72で接続されている。また、管72には、開閉バルブ(図示省略)が設けられており、開閉バルブを開放することによって、貯留タンク70に溜められた薬液を異物除去装置80に移すことができる。さらに、異物除去装置80には、再利用液供給装置90が接続されている。再利用液供給装置90は、異物除去装置80で異物除去処理がされた第1乃至3の薬液を、対応する第1乃至3薬液タンクに導くための管91〜95、異物除去後の薬液をどの管91〜95に流すかを選択するための開閉バルブ91A〜95Aを備えて構成されている。つまり、異物除去装置80は、いずれかの開閉バルブ91A〜95Aを開放することによって、異物が除去された薬液を対応する第1乃至3薬液タンク21〜25に戻すことができる。なお、本実施形態のように、異物除去装置80に接続されている再利用液供給装置90は、第1乃至3薬液タンク21〜25に接続し、処理済みの薬液を第1乃至3薬液タンク21〜25に戻す構造に限定されるものではない。例えば、再利用液供給装置90(具体的には、管91〜95)をタンク本体10に接続し、必要な処理タイミング(例えば、第1乃至3の薬液の順番)で、異物除去後の薬液をタンク本体10に直接供給するようにしても好ましい。
【0077】
上記の構造によって、高濃度パルパー100のタンク本体10で処理された第1乃至3の薬液は、薬液排出装置50によって排出された後、薬液排出装置50と接続されている貯留タンク70に溜められる。そして、貯留タンク70の処理済みの薬液は、任意のタイミング(例えば、異物除去装置80において、前回の処理で使用した処理済みの薬液中の異物を除去し終わった後)に、管72を通して異物除去装置80に移される。
【0078】
異物除去装置80では、例えば、振動スクリーンやストレーナなどを通すことによって、処理済み薬液中の異物や不純物を除去する。そして、再利用液供給装置90の開閉バルブ91A〜95Aを開くことによって、異物等を取り除いた薬液を対応する第1乃至3薬液タンク21〜25に戻すことができる。薬液を第1乃至3薬液タンク21〜25に戻した後、再利用液供給装置90の開閉バルブ91A〜95Aは閉じられる。そして、貯留タンク70、異物除去装置80に、洗浄水や温水が供給され、排出口(図示省略)から排出される。これによって、前回処理で、貯留タンク70や異物除去装置80に付着した薬液を洗い流すことができる。
【0079】
第2実施形態では、上記のように、薬液排出装置50により排出された第1乃至3の薬液を、一時的に貯留する貯留タンク70、貯留タンク70に貯留した第1乃至3の薬液に含まれる異物を除去する異物除去装置80、異物を取り除いた後の第1乃至3の薬液を、この順番でタンク本体10に再供給する、再利用液供給装置90を備える構造とした。したがって、処理済みの第1乃至3の薬液を再利用することができるので、薬液の全体としての使用量を少なくできるとともに、処理済みの薬液を廃棄するための手間とコストの削減ができる。
【0080】
次に、第3実施形態に係るパルプ製造装置について説明する。図4は、第3実施形態に係るパルプ製造装置3の全体構造図である。パルプ製造装置3は、蒸解工程で生成されたパルプを高濃度パルパー100のタンク本体10から排出するための、パルプ排出用ストレーナ110をタンク本体10に設けたところに特徴がある。なお、タンク本体10、薬液供給装置20、液温度制御装置30、渦流生成装置40、薬液排出装置50、ガス回収装置60については、第1実施形態と同じ構造、機能を持つものであるので、同じ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0081】
本実施形態に係る高濃度パルパー100のタンク本体10には、生成されたパルプを排出するための、パルプ排出用ストレーナ110(スクリーン)が設けられている。また、パルプ排出用ストレーナ110には、開閉バルブ112が設けられており、開閉バルブ112を開放した場合に生成されたパルプをタンク本体10から排出して、次行程のタンクには移動できるようになっている。換言すると、パルプ排出用ストレーナ110は、生成されたパルプをパルプ排出用ストレーナ110から排出するか否かを選択できるようになっており、例えば、通常は薬液排出装置50から生成パルプを排出し、薬液排出装置50から排出されないような大きなパルプ塊がある場合には、パルプ排出用ストレーナ110から排出するようにしても良い。
【0082】
パルプ排出用ストレーナ110(スクリーン)は、直径1.5〜10.0mmの孔が設けられている。従って、第1実施形態で説明した酸化工程(ステップS112)〜蒸解工程(ステップS116)でパルプを生成した後、開閉バルブ112を開放することによって、生成されたパルプを別のタンクに移動できるようになっている。
【0083】
したがって、パルプ排出用ストレーナ110を設けたことによって、第3実施形態に係るタンク本体10は、第1乃至3の薬液と生成されたパルプを分けて排出できる。つまり、第1乃至3の薬液を排出する薬液排出装置50には、生成したパルプを通過させないフィルターを設け、薬液だけを通し、生成されたパルプは、薬液とは別にパルプ排出用ストレーナ110から排出することがでる。したがって、第2実施形態で説明した、貯留タンク70に排出される処理済みの薬液に混入する異物や不純物を少なくすることができ、異物除去装置80の負担を減らし、又は、異物除去装置80を削除することができ、設備の簡素化、設備、製造コストの削減を行うことができる。
【0084】
なお、タンク本体10に、未蒸解パルプを採取する未蒸解パルプ採取装置を設けるようにしても好ましい。詳細に、未蒸解パルプ採取装置は、パルプ排出用ストレーナ110に設けられた金網部材である。上述したパルプ排出用ストレーナ110からパルプを排出する際、この金網部材に、蒸解が十分に行われていないパルプ(未蒸解パルプ)が引っ掛かるようになっている。採取された未蒸解パルプを再度タンク本体10に投入して再蒸解を行うことにより、パルプの収率を向上させることができる。もちろん、未蒸解パルプ採取装置は、上述した薬液排出装置50のストレーナ52に設けても好ましい。
【0085】
また、図5に示されるように、原材料が木質の場合は、ステップS110Aの一次破砕工程の後、更に二次破砕工程(ステップS120)により繊維状チップに移行することが好ましく、ステップS116の蒸解工程の後、第2の蒸解工程(ステップS130)を行うように構成しても好ましい。図5は、第4実施形態に係るパルプ製造方法の流れを示すフローチャートである。なお、一次破砕工程(ステップS110A)は、第1実施形態で説明した破砕工程(ステップS110)と同様の工程であるので、詳細な説明は省略する。また、酸化工程(ステップS112)、煮沸工程(ステップS114)、蒸解工程(ステップS116)については、第1実施形態で説明した各工程と同じ処理内容、効果であるので、同じステップ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0086】
ステップS110Aでは、原材料を破砕して、繊維状チップ(又は原材料チップ、以下同じ)を取り出す破砕処理(一次破砕工程)を行う。
【0087】
ステップS112では、二次破砕後の繊維状チップを、任意の濃度の硝酸液に浸漬し、80〜87℃の温度で酸化させる(酸化処理)。その後、硝酸液をタンク本体10から排出する。
【0088】
ステップS114では、酸化処理後の繊維状チップを沸騰した温水に浸漬し、酸化反応の促進と残存硝酸の蒸散を行う(煮沸工程)。その後、熱水をタンク本体10から排出する。
【0089】
ステップS116では、タンク本体10の繊維状チップに苛性ソーダを供給し、90〜95℃の温度で蒸解を行い(蒸解工程)つつ、渦流生成装置40によりタンク本体10内の薬液に渦流を生成することによって、薬液の中の繊維状チップ同士を接触させながら、繊維状チップの繊維を解きほぐしてパルプを生成する。その後、苛性ソーダをタンク本体10から排出する。
【0090】
ステップS130では、蒸解後の繊維束に、更に第4の薬液となる苛性ソーダを供給し、沸騰状態で蒸解を行い(第2蒸解工程)つつ、上述と同様に、薬液の中の繊維束を接触させながら、繊維を解きほぐしてパルプを生成する。第2の蒸解工程では、比較的濃度の高い苛性ソーダ(重量濃度8〜10%)溶液で繊維束を蒸解することが好ましい。蒸解温度や時間の目安としては、収率等を考え、K-値測定結果で判断するのが良い。その後、苛性ソーダと生成されたパルプをタンク本体10から排出する。
【0091】
上述のように、第2の蒸解工程(ステップS130)は、20%以上のリグニンを含有している木質を原材料とする場合に、含有リグニンを段階的に取り除くのに特に有効であり、リグニン含有量が20%以下の場合には、1回の蒸解工程(ステップS116)だけでも良い。
【0092】
この後、第1実施形態と同様に、高濃度パルパー100から排出されたパルプを希釈させる希釈行程、パルプに含まれる異物やゴミを分離して除去する精選工程(一次精選、二次精選)、パルプの繊維を離解させる離解行程、パルプ中の着色成分を脱色、又は分解、除去する漂白工程を行い、より高品質なパルプが生成される。
【0093】
また、本発明の実施形態に記載された作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係るパルプ製造装置、パルプ製造方法及び高濃度パルパーは、油ヤシに代表される科本科植物をパルプ化するパルプ製造装置等へ適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 パルプ製造装置
10 タンク本体
20 薬液供給装置
30 液温度制御装置
40 渦流生成装置
50 薬液排出装置
60 ガス回収装置
100 高濃度パルパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸を含む第1の薬液、湯水を含む第2の薬液、及び加熱された苛性ソーダを含む第3の薬液を、この順番でタンク本体に供給する薬液供給装置と、
前記タンク本体に設けられ、該タンク本体に満たされた前記第1乃至3の薬液の温度を複数段階に制御する液温度制御装置と、
前記タンク本体に設けられ、該タンク本体に供給された原材料と前記第3の薬液に渦流を生成する渦流生成装置と、
前記タンク本体の底部近傍に設けられ、次工程処理で使用する前記第1乃至3の薬液のいずれかを前記タンク本体に投入する前に、前記タンク本体にすでに供給されている前工程処理で使用した前記第1乃至3の薬液のいずれかを排出する薬液排出装置と、
を備え、
前記タンク本体において、前記第1乃至3の薬液による各製造工程をバッチ処理により行い、前記タンク本体内において前記原材料をパルプ化することを特徴とするパルプ製造装置。
【請求項2】
前記タンク本体に設けられ、前記第2の薬液供給により発生したガスを回収し、再利用するガス回収装置と、を更に備えることを特徴とする、
請求項1に記載のパルプ製造装置。
【請求項3】
前記薬液排出装置には、前記第1乃至3の薬液を通過させるが、前記原材料又は生成されたパルプを通過させないストレーナが更に設けられていることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のパルプ製造装置。
【請求項4】
前記ストレーナの穴径は、1.5mm以上であることを特徴とする、
請求項3に記載のパルプ製造装置。
【請求項5】
前記ストレーナの穴径は、10mm以上であることを特徴とする、
請求項4に記載のパルプ製造装置。
【請求項6】
前記薬液排出装置により排出された前記第1乃至3の薬液を、一時的に貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクに貯留した前記第1乃至3の薬液に含まれる異物を除去する異物除去装置と、
前記異物を取り除いた後の前記第1乃至3の薬液を、前記タンク本体に再供給する、再利用液供給装置と、
を更に備えることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパルプ製造装置。
【請求項7】
前記タンク本体に設けられ、前記生成されたパルプを前記第1乃至3の薬液と分けて排出するパルプ排出用ストレーナがさらに設けられていることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパルプ製造装置。
【請求項8】
前記原材料は、アオイ科フヨウ属の植物、アサ科アサ属の植物、バショウ科バショウ属の植物、その他の非木材の植物であることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のパルプ製造装置。
【請求項9】
前記原材料は、禾本科植物であることを特徴とする、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のパルプ製造装置。
【請求項10】
前記禾本科植物は、単子葉植物ヤシ科の植物、麦藁又はイネ科サトウキビ属の植物であることを特徴とする、
請求項9に記載のパルプ製造装置。
【請求項11】
タンク本体に、硝酸を含む第1の薬液を供給して原材料に浸透させ、該原材料を多孔質化する酸化工程と、
前記第1の薬液を排出した後、前記タンク本体に、湯水を含む第2の薬液を供給するとともに、前記原材料を煮沸して、前記酸化工程が施された前記原材料の酸化反応を促進させるとともに、残存硝酸を蒸散させる煮沸工程と、
前記第2の薬液を排出した後、前記タンク本体に、加熱された苛性ソーダを含む第3の薬液を供給して前記原材料に浸透させてリグニンを分解するとともに、渦流によって前記原材料同士を接触させることで、多孔質化された前記原材料を解きほぐす蒸解工程と、
を少なくとも備えることを特徴とするパルプ製造方法。
【請求項12】
前記第3の薬液を排出した後、前記タンク本体に、加熱された苛性ソーダを含む第4の薬液を供給して前記原材料の蒸解を促進し、残存リグニンを抽出するとともに、渦流によって前記原材料同士を接触させることで、多孔質化された前記原材料を解きほぐす第2蒸解工程を、更に備えることを特徴とする、
請求項11に記載のパルプ製造方法。
【請求項13】
単子葉植物ヤシ科の植物を破砕及び選別して繊維状チップを取り出して、前記タンク本体に供給する為の前記原材料を生成する破砕工程を、更に備えることを特徴とする、
請求項11又は12に記載のパルプ製造方法。
【請求項14】
少なくとも前記酸化工程、前記煮沸工程及び前記蒸解工程は、大気圧雰囲気中で行われることを特徴とする、
請求項11に記載のパルプ製造方法。
【請求項15】
少なくとも前記酸化工程、前記煮沸工程及び前記蒸解工程は、105℃以下の温度下で行われることを特徴とする、
請求項11又は14に記載のパルプ製造方法。
【請求項16】
前記第2の薬液は、温度99℃以上、重量濃度10%以下の苛性ソーダであることを特徴とする、
請求項11に記載のパルプ製造方法。
【請求項17】
前記蒸解工程は、前記タンク本体の中で生成されるパルプの濃度が2〜20%となるように、前記タンク本体に供給された前記原材料及び前記第3の薬液の中で、渦流によって前記原材料同士を接触させることで、リグニンを分解して多孔質化された前記原材料を解きほぐすことを特徴とする、
請求項11乃至16のいずれか1項に記載のパルプ製造方法。
【請求項18】
パルプを生成する原材料及び該原材料に浸透させる薬液を投入するタンク本体と、
前記原材料に浸透させた前記薬液から発生するガスを回収するガス回収装置と、
前記原材料に浸透させた前記薬液の温度を複数段階で制御する液温度制御装置と、
反応済みの薬液を排出するための薬液排出装置と、
前記原材料と前記薬液に渦流をおこす渦流生成装置と、
生成されたパルプを排出するためのパルプ排出用ストレーナと、
を備えることを特徴とする高濃度パルパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−92454(P2012−92454A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142894(P2009−142894)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【特許番号】特許第4604136号(P4604136)
【特許公報発行日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(505328775)株式会社 東亜興業 (4)
【Fターム(参考)】