説明

パルボウイルス癌治療及び化学療法との組み合わせ

(a)パルボウイルス及び(b)化学療法剤を、好ましくは、別々の構成として有する医薬組成物に関する。パルボウイルスは、パルボウイルスH1、LuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)又はラットウイルス(RV)に基づいているか、上記ウイルス種に基づくベクタ及び/又は上記ウイルス種を活発に作成できる細胞であってよい。医薬組成物は腫瘍の治療に用いることができる。パルボウイルス又は本発明の適用が特に有益な腫瘍には、神経膠腫、髄芽腫、髄膜腫及び膵臓癌が包含される。好ましい化学療法剤はゲムシタビン及びテモゾロジンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)パルボウイルスと(b)化学療法剤を有する医薬組成物、及び脳腫瘍又は膵臓癌などの癌治療のための該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
膵管腺癌(pancreatic ductal adenocarcinoma:PDAC)は、最も致死性の高い胃腸悪性腫瘍の1つである。PDACは、北米では4番目、ヨーロッパでは6番目、英国では5番目に多い癌関連死亡の原因である(非特許文献1、2)。この疾患は、現在利用可能な治療法に対して高い抵抗性を示す。外科的切除は、長期生存の可能性が最も高いが、少数の患者に対してのみ適用可能であり、リスクがないわけではない(非特許文献3)。手術ができない進行した疾患の場合には、特にゲムシタビン(gemcitabine)又は5−フルオロウラシル(5−fluorouracil:5−FU)を使用する化学療法が行われるが、その効果は依然として余り高くなく、常に強い一般毒性を伴う(非特許文献4)。ゲムシタビンは、局所進行性又は転移性膵臓癌患者の第一選択薬としてFDAに承認されている。本薬は、代謝拮抗系の細胞周期依存性デオキシシチジン類似体であり、ヒト受動拡散型ヌクレオシドトランスポーター(human equilibrative nucleoside transporter:hENT)を介して細胞内に輸送され、デオキシシチジンキナーゼ(deoxycitidine kinase:dCK)によりリン酸化されて活性型三リン酸塩型となる。ゲムシタビン治療における重要な問題は、この化学療法に対して耐性が生じることである。この耐性は、薬剤の取り込み及びリン酸化の低下、並びに/又は、ABCトランスポーターファミリのメンバであるMDR及びMRP1/2による細胞からの放出の亢進によるもので、ゲムシタビンの細胞内プールが枯渇する(非特許文献5)。耐性変異体を除去して抗癌作用を改良するか、又は化学療法剤の用量を下げて毒性を下げることができる、他の治療法とゲムシタビンとの組み合わせが探索されている。
【0003】
腫瘍性形質転換細胞を特異的に殺す(腫瘍溶解)ウイルスや武装ベクタ誘導体を使用する癌治療は、この致死性疾患の新しい治療方法である(非特許文献6)。自律増殖型パルボウイルスには、腫瘍溶解性ウイルスと呼ばれるカテゴリに属するものもある(非特許文献7)。パルボウイルスは、2つの非構造蛋白質(NS1、NS2)及び2つのキャプシド蛋白質(VP1、VP2)を発現する5.1kbの一本鎖DNAゲノムを含有する、小さな非エンベロープ粒子(25〜30nm)である(非特許文献8)。パルボウイルスH−1PVは、少なくとも脳腫瘍及び他のいくつかの腫瘍において独特の死亡過程を引き起こす、すなわち、リソソームプロテアーゼ(カテプシン)の細胞質への配置及び活性化を引き起こす点で、優れた利点を有する(非特許文献12)。げっ歯類が自然宿主であるパルボウイルス属(H−1PV、MVM、LuIII)のメンバのあるものは、宿主細胞を形質転換せず、ヒトへの無症候性感染が可能で、腫瘍性形質転換細胞に優先的に伝播し(腫瘍指向性)、殺す(腫瘍溶解)能力を有するため、現在、癌の遺伝子治療への応用が考えられている(非特許文献9、10)。MVMp及びH−1PVウイルスは、生体内で腫瘍抑制活性を発揮すること、すなわち、実験動物に対して、自然に、化学的に、又はウイルスによって誘発した癌の形成を抑制することができることが示されている。パルボウイルスの発現カセットに基づくベクタは、野生型ウイルスの腫瘍指向性を保有する(非特許文献11)。優れた効果を達成しているもの、ヒトへの臨床応用が最も期待できるパルボウイルス候補(H−1PVを含む)には、例えば、診断後の寿命を延ばすなどの抗癌活性における改良が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jemal A,Thomas A,Murray Tら, Cancer statistics,2002.Cancer J Clin 2002;52:23−47.
【非特許文献2】Pisani P,Parkin DM,Bray FIら, Estimates of the worldwide mortality from 25 cancers in 1990.Int J Cancer 1999;83:18−29.
【非特許文献3】Finlayson E,Birkmeyer JD.Effects of hospitalvolume on life expectancy after selected cancer operations in older adults:a decision analysis.J Am Coll Surg 2003;196:410−17.
【非特許文献4】Burris HA 3rd, Moore MJ, Andersen Jら, Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first−line therapy for patients with advanced pancreas cancer: a randomized trial. J Clin Oncol 1997;15:2403−13.
【非特許文献5】Giovannetti E, Mey V, Nannizzi Sら, Pharmacogenetics of anticancer drug sensitivity in pancreatic cancer. Mol Cancer Ther 2006;5:1387−95.
【非特許文献6】Hecht JR, Bedford R, Abbruzzese JLら, A phase I/II trial of intratumoral endoscopic ultrasound injection of ONYX−015 with intravenous gemcitabine in unresectable pancreatic carcinoma. Clin Cancer Res 2003;9:555−61.
【非特許文献7】Rommelaere J, Cornells J. Antineoplastic activity of parvoviruses. J Virol Methods 1991;33:233−51.
【非特許文献8】Cotmore SF, Tattersall P. The autonomously replicating parvoviruses of vertebrates. Adv Virus Res 1987;33:91−174.
【非特許文献9】Haag A, Menten P, Van Damme Jら, Highly efficient transduction and expression of cytokine genes in human tumor cells by means of autonomous parvovirus vectors; generation of antitumor responses in recipient mice. Hum Gene Ther 2000;ll:597−609.
【非特許文献10】Russell SJ,Brandenburger A,Flemming CLら, Transformation−dependent expression of interleukin genes delivered by a recombinant parvovirus.J Virol 1992;66:2821−8.
【非特許文献11】Olijslagers S, Dege AY, Dinsart Cら, Potentiation of a recombinant oncolytic parvovirus by expression of Apoptin. Cancer Gene Ther 2001;8:958−65.
【非特許文献12】Di Piazza M, Mader C, Geletneky Kら, Cytosolic activation of cathepsins mediates parvovirus H−1−induced killing of cisplatin and TRAIL−resistant glioma cells. J Virol 2007;81:4186−98.
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明は、改良されたパルボウイルスに基づく治療方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明によれば、前記課題は特許請求の範囲に記載の内容により達成される。本発明は、パルボウイルスとゲムシタビン(現時点で膵臓癌及び他の癌に使用できる最も効力のある化学療法剤であるが、なお強い毒性プロファイルを有する)のような化学療法剤との併用治療によって、該薬剤の毒性が低減され、かつ、治療効率が改善されるという発見に基づく。ルイス(Lewis)ラットに膵臓腫瘍を同所移植し、異なる治療レジメンで、ゲムシタビン、H−1PV又は両者の併用で治療した。骨髄、肝及び腎の機能を臨床的に関連するマーカのレベルによりコントロールしながら、腫瘍サイズをコンピュータ断層撮影法により測定した。ヒト膵細胞株とそのゲムシタビン耐性誘導株について、H−1PV又は薬剤との組み合わせに対する感受性を生体外で試験した。ゲムシタビン及びその後のH−1PVの腫瘍内注入は、腫瘍の成長を遅らせ、CTスキャンでは転移が認められず、動物の生存を引き伸ばすことが示された。毒物学的スクリーニングでは、H−1PVは、ゲムシタビンとの併用によって組織に何ら損傷を与えることはないことが示された。生体外の検討では、パルボウイルス複製に対するゲムシタビンの負の効果にもかかわらず、併用によりそれぞれの治療効果が相乗的に働くことを示した。耐性細胞は、H−1PVによる殺作用に対して感受性のままであり、ゲムシタビンの存在下でもウイルス発現を維持することができた。パルボウイルスと化学療法剤テモゾロマイド(temozolomide)の併用による神経膠腫の治療においても同様の結果を得た。従って、パルボウイルスは、PDACや神経膠腫のような癌の治療において、好ましくは、2段階プロトコルによる化学療法との併用による癌の治療において、非常に高い効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】H−1PV単独又はゲムシタビンとの併用による毒性作用に対するヒトPDAC細胞株の感受性を示す。(A)示されたMOIでのH−1PV感染後のPanc−1細胞及びBxPC−3細胞の残留コロニ形成能を示す。コロニは、クリスタル・バイオレット染色後に計数し、生存数を擬似処理細胞に対する百分率として示す。(B)異なる濃度でのゲムシタビン処理の24時間後に、10cfu/細胞のMOIでH−1PVを感染させた上記細胞の死滅を示す図である。生存細胞を、感染の72時間後にMTTアッセイにより測定し、擬似処理培養(100%)と比較したものを、細胞死として逆に表現した。平均値及びSDバーは、3回の独立した実験を3重で行って得たものを示す。
【図2】ゲムシタビン耐性細胞株及びそのH−1PVに対する感受性の特徴を示す図である。A:RT−PCRにより測定した、親(−)及びゲムシタビン耐性()Panc−1細胞及びBxPC−3細胞における薬剤耐性マーカの発現を示す。β−アクチン転写レベルを参照とした。B:MOI=10RU/細胞でH−1PVを感染させ(H−1PV)又は感染させていない(mock)、ゲムシタビン耐性()Panc−1細胞及びBxPC−3細胞の顕微鏡写真(40倍)を示す。C:ゲムシタビン耐性()及び親の、Panc−1細胞(上図)及びBxPC−3細胞(下図)のH−1PV又はゲムシタビンに対する感受性を示す図である。細胞は、96ウェルプレートに2×10個/ウェルの密度で播種し、H−1PV(10RU/細胞、H−1PVカラム)又はゲムシタビン(40ng/mL、Gemcitabineカラム)で処理した。MTT細胞毒性アッセイは、処理の144時間後に行った。3回の独立した実験の結果を示す。統計的な有意差はアスタリスクで示す(*はP<0.05、**はP<0.005)。D:Panc−1細胞及びPanc−1細胞への組換えH−1PVによるEGFPの形質導入の結果を示す。培養物は、ゲムシタビン(40ng/mL)で処理し(上図)又は処理せず(下図)、同時にウイルスベクタ(5RU/細胞)を感染させた。形質導入遺伝子を発現する細胞は、感染の48時間後に蛍光顕微鏡により検出した。代表的な領域を示す。
【図3】PDAC形成ラットモデルに対するH−1PVの効果を示す図である。皮下HA−RPC腫瘍由来細胞懸濁液を、ラット(n=26)の膵臓へ注入し、2週間後に、形成している腫瘍に対して1×10RUのH−1PV(n=16)を腫瘍内播種処理し、又は擬似処理(n=10)した。
【図3A】H−1PV処理及び擬似処理腫瘍の成長を示す図である。腫瘍の体積はmCTスキャンによる時間の関数として測定し、平均値にSDバーを付して表した。
【図3B】H−1PV処理及び擬似処理動物の生存を示す図である。各群10匹のラットを、実験を終了した120日目までモニタした。
【図3C】担癌ラットにおけるH−1PV発現の分布を示す図である。H−1PV処理群のラットを、感染後2日目、10日目及び20日目に2匹ずつ屠殺し、臓器をウイルス転写産物のRT−PCR検出用に処理した。腸(Int)、パイエル板(Pey)、肝(Liv)、脾(Spl)、リンパ節(LN)、膵(Pan)及び腫瘍(Tu)について、ウイルスDNA、前駆体RNA(DNA/RNA)及びmRNAに対応するPCR産物を示す。
【図3D】感染膵臓腫瘍におけるH−1PVのNS1蛋白質(矢印)の免疫組織化学的検出を示す図である。担PDACラットを、腫瘍内に接種した3時間後、3日後、及び7日後に3匹ずつ屠殺した。パラフィン包埋した腫瘍切片を免疫組織化学分析した(20倍)。
【図3E】ラット腫瘍モデルの特徴:H−1PV感染に対する感受性及び組織構造を示す図である。(a)細胞を96ウェルプレートで培養し、異なる濃度(4〜4000ng/mL)のゲムシタビンで処理し、24時間後にH−1PV(10RU/細胞)で感染させた。生存細胞は感染の72時間後にMTTアッセイにより測定し、擬似処理培養(100%)と比較したものを、細胞死率として逆に表現した。(b)正常ラット膵臓及び膵臓腫瘍から得たパラフィン包埋腫瘍切片をヘマトキシリン−エオシン染色した。NPは正常膵臓を、PDACは膵管癌を示す。
【図4】同所性膵臓腫瘍のmCTイメージングを示す図である。A:腫瘍発生後初期(2週間)におけるラット腹部CTスキャンを示す。膵尾部において直径約5mmの腫瘍(点線)がみられる。B:ウイルス治療をしない場合のPDACの進行を示す。腫瘍発生の8週間後に、大きな原発腫瘍塊(点線)、並びにリンパ節及び肝臓における転移癌(矢印)が認められる。C:腫瘍発生の2週間後及び8週間後、H−1PV処理ラットにおいて原発腫瘍の退縮が認められ、転移は認められなかった。原発腫瘍及び転移癌の局在を説明するために矢状、軸状及び冠状mCTスキャンイメージを選択した。
【図5】ゲムシタビン及びパルボウイルスの併用治療後の担癌動物の生存を示す。A:膵臓内腫瘍を有するラットを4群(n=11)に分け、PBS処理(対照)、ゲムシタビン単独処理(ゲムシタビン)、ゲムシタビンとウイルスとの同時処理(H−1パルボウイルス及びゲムシタビン)、又はゲムシタビンで最初に処理し、その14日後にH−1PVで処理(ゲムシタビン プレ H−1パルボウイルス)した。動物の生存を100日に亘って観察し、カプラン・マイヤ曲線として示した。生存中央値及びP値をその下に示した。B:皮下にBxPC−3腫瘍を有するヌードマウスを4群(n=5)に分け、腫瘍発生の21日後にPBS処理(対照)、ゲムシタビン単独処理(ゲムシタビン)、ウイルス(3×10RU)単独処理(H−1パルボウイルス)、又はゲムシタビンで最初に処理し、7日後にH−1PVで処理(ゲムシタビン プレ H−1パルボウイルス)した。
【図6】ゲムシタビンとH−1PVとの併用の毒性評価を示す図である。最後の治療処理の2週間後に、対照群、ゲムシタビン群、及びゲムシタビンプレH−1パルボウイルス群(図4A参照)の各群の担PDACラット3匹から血液を採取した。血液検体について、(A)赤血球(RBC)、血小板、白血球(WBC)の数、及び関連パラメータ、並びに(B)肝臓(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate amino transferase:ASAT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine amino transferase:ALAT)、及び腎(クレアチニン)マーカを分析した。データはSDバー及び平均値で示す。
【図7】処理6日後の星状膠細胞を示す。H−1PV処理(ウイルス)、H−1PVとTMZとの併用処理(V+TMZ)、又はTMZ単独処理(TMZ)の6日後の生存ヒト星状膠細胞を百分率(%)で示す。
【図8】処理の3日後及び6日後のRG2細胞を示す。H−1PV処理(ウイルス)、H−1PVとTMZとの併用処理(V+TMZ)、又はTMZ単独処理(TMZ)の3日後(A)及び6日後(B)の生存RG2細胞を百分率(%)で示す。
【図9】処理の3日後及び6日後のU87MG細胞を示す。H−1PV処理(ウイルス)、H−1PVとTMZとの併用処理(V+TMZ)、又はTMZ単独処理(TMZ)の3日後(A)及び6日後(B)の生存U87MG細胞を百分率(%)で示す。
【図10】処理の3日後及び6日後のU373MG細胞を示す。H−1PV処理(ウイルス)、H−1PVとTMZとの併用処理(V+TMZ)、又はTMZ単独処理(TMZ)の3日後(A)及び6日後(B)の生存U373MG細胞を百分率(%)で示す。
【図11】処理の3日後及び6日後のU343MG細胞を示す。H−1PV処理(ウイルス)、H−1PVとTMZとの併用処理(V+TMZ)、又はTMZ単独処理(TMZ)の3日後(A)及び6日後(B)の生存U343MG細胞を百分率(%)で示す。
【図12】処理の3日後及び6日後のA172細胞を示す。H−1PV処理(ウイルス)、H−1PVとTMZとの併用処理(V+TMZ)、又はTMZ単独処理(TMZ)の3日後(A)及び6日後(B)の生存A172細胞を百分率(%)で示す。
【図13】H−1PV単独又はゲムシタビンとの併用の毒性作用に対するヒトPDAC細胞株の感受性を示すグラフである。Colo357細胞、T3M−4細胞、SU86.86細胞、MiaPaCa−2細胞、Panc−1細胞、及びBxPC−3細胞を96ウェルプレート上で、2×10細胞/ウェルの密度で培養し、ゲムシタビン(0.4〜4000ng/mL)で処理し、24時間後にH−1PV(1、10又は100RU/細胞)で処理した。生存細胞は、感染の72時間後にMTTアッセイにより測定し、擬似処理培養(100%)と比較したものを、細胞死率として逆に表現した。データは、3回の独立した実験を4重で行った平均値である。
【図14】処理後PDAC細胞株のカテプシンB活性を示す。Panc−1細胞、BxPC−3細胞、及びCapan−1細胞を、H−1PV(10RU/細胞)、及びゲムシタビン(4ng/mL)の各単独又は組み合わせで処理し、細胞質及びリソソームのカテプシンB活性を測定した。グラフはリソソームに対する細胞質の比を3回の独立した実験の平均値と共にSDバーを示している。
【図15】H−1PV誘導死に対するゲムシタビン耐性Colo357細胞及びT3M−4細胞の感受性を示す。反復薬剤被爆後にゲムシタビン耐性として選択した細胞を、播種の24時間後にゲムシタビン(1ng/mL)又はH−1PV(10RU/細胞)のいずれかで処理した。生存を評価するために、処理の144時間後にMTTアッセイを行った。データは、擬似処理対照に対する死亡細胞の割合を示し、3回の独立した実験を4重で行った平均値と共にSDバーを示している。
【0008】
本発明は、パルボウイルス及び化学療法剤を含む医薬組成物を提供し、好ましくは、(a)パルボウイルス及び(b)化学療法剤を独立した構成要素として、例えば、別々の容器内に含有する医薬組成物を提供する。
【0009】
好ましくは、上記医薬組成物では、パルボウイルス及び化学療法剤の有効量が薬学的に許容される担体と組み合わせて含まれる。「薬学的に許容される」には、有効成分の生物学的活性の効果を妨げることなく、投与される患者に有毒でない、任意の担体が包含される。好適な薬学的担体の例は、本技術分野において周知であり、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、油/水乳液などの乳液、種々の湿潤剤、殺菌溶液などを含む。そのような担体を、従来の方法により製剤化し、有効量を患者に投与することができる。
【0010】
「有効量」とは、疾患の経過及び重篤度に影響し、その病状を軽減又は寛解するのに十分な有効成分の量を意味する。これらの疾患や障害を治療及び/又は予防するために有用な「有効量」は、当業者に公知の方法により決定することができる(例えば、Fingl et al.,The Pharmocological Basis of Therapeutics,Goodman and Gilman,eds.Macmillan Publishing Co.,New York,pp.1−46 (1975)参照)。
【0011】
その他の薬学的に適合する担体としては、ゲル、生体吸収可能なマトリクス材料、治療剤含有移植用構成物、又は他の好適な運搬媒体、送達又は調剤の手段又は物質を含むことができる。
【0012】
化合物の投与は、様々な方法、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋内、局所又は皮内投与により行ってもよい。当然、投与経路は治療の種類、及び医薬組成物に含有される化合物の種類に依存する。好適な投与経路は静脈内投与である。パルボ治療剤と化学療法剤の投与レジメンは、患者データ、診断の他、例えば、患者の大きさ、体表面積、年齢、性別、投与される特定のパルボウイルス、細胞や化学療法剤など、投与時間や経路、腫瘍の種類や特性、患者の全体的な健康状態、患者が受けている他の薬剤治療などの他の臨床因子に基づいて、担当医の技術の範囲で容易に決定することができる。
【0013】
本発明による薬剤を組み合わせたパルボ治療薬が血液脳関門を通過できる感染性ウイルス粒子を有する場合、ウイルス治療剤、例えば、H1ウイルスの静脈注射により治療を行い、又は少なくとも治療を開始することができる。好ましい投与経路は腫瘍内投与である。
【0014】
長期の静脈注射治療は、ウイルス治療薬に対する中和抗体の形成により効果がなくなりやすいので、静脈内投与によるウイルスの初回投与後に他の投与方法を採用することができる。あるいは、そのような他の投与方法、例えば、頭蓋内又は腫瘍内ウイルス投与を、パルボウイルス処理の全工程を通して使用することもできる。
【0015】
その他の具体的投与方法としては、パルボ治療薬(ウイルス、ベクタ及び/又は細胞剤)は、患者に移植された放出源から患者に投与することができる。例えば、シリコーンや他の生体適合性物質のカテーテルを、腫瘍を摘出する際、又はこれと独立した手順によって患者に埋め込まれた小さな皮内リザーバ(リッカム(Rickham)リザーバ)に連結し、更なる外科的介入を必要とせずに、パルボ治療用組成物を局所的に、様々な回数注入することができる。パルボウイルス又はそれに由来するベクタは、定位手術法又はニューロナビゲーション標的法により、腫瘍に注入することもできる。
【0016】
パルボウイルス剤又は組成物の投与は、埋め込み式カテーテルを介して、蠕動輸液ポンプや対流増進送達(CED)ポンプなどの適当なポンプシステムを使用して、低流速でウイルス粒子又はウイルス粒子を含有する液を持続的に注入することにより行うこともできる。
【0017】
更に他のパルボ治療組成物の投与方法では、パルボ治療薬を目的の腫瘍組織に投与するように構築、配置した埋め込み式デバイスから投与する。例えば、パルボウイルスH1などのパルボ治療組成物を含浸させたウエハを用いることができ、当該ウエハは、外科的腫瘍摘出の結果生じた切除腔の端に取り付ける。そのような治療介入では複数のウエハを使用することができる。パルボウイルスH1やH1ベクタなどのパルボ治療剤を活発に産生する細胞を、腫瘍や腫瘍摘出後の腫瘍腔に注入することもできる。
【0018】
本発明の併用治療は、癌、特に、脳腫瘍や膵臓癌、好適には膵管腺癌(PDAC)の治療に有用であり、当該疾患の予後を著しく改善することができる。パルボウイルスH1感染は、腫瘍細胞を死滅させる効果を有するが、正常細胞を傷つけない。また、そのような感染は、例えば、パルボウイルスH1などの好適なパルボウイルスや関連ウイルス、又はそれらのウイルスに基づくベクタを脳内で使用することにより、神経学的副作用や他の副作用なしに、腫瘍特異的治療を行うことができる。
【0019】
本発明はまた、癌の治療用医薬組成物の製造のための(a)パルボウイルス及び(b)化学療法剤の使用に関し、好ましくは、(a)及び(b)は連続して(又は別々に)投与される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、薬剤の併用は、(a)神経膠腫、髄芽腫、髄膜腫などの脳腫瘍、又は(b)膵臓癌の治療に用いることができる。神経膠腫は、好ましくはヒト悪性膠芽細胞腫である。
【0021】
本明細書で使用される用語「パルボウイルス」は、野生型及び複製能を有するその修飾誘導体に加え、関連ウイルス又はそれらウイルスや誘導体に基づくベクタを含む。パルボウイルス、誘導体など、及びパルボウイルスを活発に産生し、治療に使用可能である細胞の公的な形態は、当業者であれば、過度の実験を行うことなく、本明細書の開示に基づいて容易に決定可能である。
【0022】
本発明の他の好ましい実施形態では、組成物のパルボウイルスは、パルボウイルスH1(H1PV)又はLuIII、マウス微小ウイルス(Mouse minute virus:MMV)、マウスパルボウイルス(Mouse parvovirus:MPV)、ラット微小ウイルス(Rat minute virus:RMV)、ラットパルボウイルス(Rat parvovirus:RPV)、ラットウイルス(Rat virus:RV)などの関連するパルボウイルスが含まれる。
【0023】
本発明の薬剤の併用により治療可能な患者には、ヒトの他、非ヒト動物も含まれる。非ヒト動物は、これに限定されるものではないが、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコなどの動物を含む。
【0024】
本発明の目的に有用な化学療法剤には、腫瘍の成長阻害に効果的な全ての化合物が含まれる。化学療法剤の投与は、非経口及び経腸経路による全身的な経路を含む、種々の方法(上記参照)により達成される。好ましくは、パルボウイルスと化学療法剤は別々の化合物として投与される。
【0025】
更に好ましい実施形態では、パルボウイルスは化学療法剤の投与後に投与される。化学療法剤の投与とパルボウイルスの投与との間の好ましい期間は、14〜35日である。
【0026】
好適な化学療法剤としては、ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン化合物、スルホン酸アルキルなどのアルキル化剤;葉酸、プリン及びピリミジン拮抗剤などの代謝拮抗物質;ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン誘導体などの分裂抑制剤;細胞毒性抗生物質;DNA発現を損傷し又は妨げる化合物;成長因子レセプタ拮抗剤を挙げることができる。
【0027】
併用治療に好適な化学療法剤の特別な例として、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテレ)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、ダカルバジン、フロクリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イフォスファミド、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパルガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル及びそれらの組み合わせを挙げることができる。特に、好ましい化学療法剤はゲムシタビンとテモゾロジンである。
【0028】
最後に、本発明はまた、膵臓癌の治療用の医薬組成物の調製のための、パルボウイルスH1(H1PV)又は関連するげっ歯類パルボウイルス、例えば、LuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)、ラットウイルス(RV)の使用に関する。好ましい使用は、薬剤耐性癌、例えば、ゲムシタビンに耐性を有する膵臓癌の治療である。
【0029】
下記実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0030】
実施例1.材料及び方法
(A)細胞培養及び処理
ヒト膵臓癌細胞株及び転移腫瘍(Colo357、T3M−4、及びSU86.86)をATCC(マサチューセッツ、バージニア州)から取得し、10%ウシ胎仔血清(FCS)を添加した、RPMI1640(MiaPaCa−2、BxPC−3、及びCapan−1)又はDMEM(Panc−1)培地中で培養した。0.0004μg/mLの濃度で2時間から開始して0.004μg/mLの濃度で24時間までゲムシタビン用量を増加させて細胞を複数回継代して耐性細胞を生成させた。
【0031】
SV40形質転換新生ヒト腎細胞293T細胞及びNBK細胞(ATCC)を、10%FCSを添加したDMEMで培養した。ルイス(Lewis)ラット内に化学誘導した膵管腺癌から作成した癌細胞株HA−RPCを、10%FCS含有DMEM内で培養した(Evrard S,Keller P,Hajri Aら,Experimental pancreatic cancer in the rat treated by photodynamic therapy.Br J Surg 1994;81:1185−89)。全ての培地にペニシリン(100μg/mL)及びストレプトマイシン(100U/mL)を添加し、細胞を5%CO雰囲気下で37℃に保持した。ゲムシタビン(ゲムザール(Gemzar)(登録商標)、Lilly、インディアナポリス、インディアナ州、米国、より購入)を図に示す濃度で添加した。
【0032】
細胞毒性の評価では、細胞を96ウェルプレートの各ウェルに2×10細胞の密度で播種し、図に示す通りに処理した。細胞の生存率は、比色3−(4,5−ジメチルチアゾイル-2)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにより、製造者(Sigma、Deisenhofen、ドイツ)の推奨する方法に従って測定した。
【0033】
(B)細胞の生存率
96ウェルディッシュ上に播種し、図に示すように処理した細胞について、比色3−(4,5−ジメチルチアゾイル-2)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにより、その生存率を評価した。コロニ形成能の測定のため、細胞を6cm皿当たり250(Panc−1)又は800(BxPC−3及びCapan−1)の密度で播種し、示す通りに処理し、更に14日間培養した。培地を吸引後、細胞コロニをクリスタル・バイオレットで染色し、水道水で洗浄し、顕微鏡下で計数した。生存画分(surviving fraction:SF)は、式:SF=コロニ数の平均/(播種細胞数×(PE/100))により決定した。ここで、PEは、処理を行わなかった場合の各細胞の播種効率である。
【0034】
(C)顕微鏡法
培養物は、ライカ倒立顕微鏡を使用して40倍で観察した。画像取込は、ライカDFC350FXカメラ(Leica Microsystems、ケンブリッジ)及びマッキントッシュ用ライカFireCamソフトウェアを使用して行った。EGFP蛍光は、ライカDMRBE蛍光顕微鏡(Leica,Bensheim、ドイツ)及び分析ソフトウェア(Olympus、ドイツ)を使用して測定した。
【0035】
(D)ウイルス作製及び検出
野生型H−1ウイルスをNBK細胞を感染させることにより作製し、イオジキサノール勾配遠心分離により精製し、リンガ液に対する透析を行った。H−1PVEGFP組換えウイルスは、293T細胞を組換えベクタDNA及びトランスにウイルスキャプシド遺伝子を発現するヘルパープラスミドでコトランスフェクトして作製した(Wrzesinski C,Tesfay L,Salome Nら, Chimeric and pseudotyped parvoviruses minimize the contamination of recombinant stocks with replication−competent viruses and identify a DNA sequence that restricts parvovirus H−1 in mouse cells.J Virol 2003;77:3851−8)。ウイルスの力価は、以前記述したとおりに測定し、複製中心作成ユニット(cfu)として表す。すなわち、精製ウイルスの段階希釈物をNBK細胞に添加して行った。感染の48時間後に、感染培養物をフィルタ上にブロットし、複製中心をDNA特異的放射性プローブを使用するハイブリダイゼーションにより検出した(Russell SJ,Brandenburger A,Flemming CLら, Transformation−dependent expression of interleukin genes delivered by a recombinant parvovirus.J Virol 1992;66:2821−8)。
【0036】
処理動物の臓器又はPDAC細胞培養物におけるウイルス転写の分析のために、トリゾール(Trizol)試薬(Invitrogen,Karlsruhe、ドイツ)を使用して製造者の取扱説明書に従い、採取組織又は細胞沈殿物試料から全RNAを抽出した。RNAをcDNAに逆転写し、以前詳細に記載したRT−PCRにより定量した(Giese NA,Raykov Z,DeMartino Lら, Suppression of metastatic hemangiosarcoma by a parvovirus MVMp vector transducing the IP−10 chemokine into immunocompetent mice.Cancer Gene Ther 2002;9:432−42)。H−1PV転写産物は、一対のプライマ:5’−TCAATGCGCTCACCATCTCTG−3’(フォワード)及び5’−TCGTAGGCTTCGTCGTGTTCT−3’(リバース)を使用して、短いイントロンの切除に基づく512及び415bpのPCRフラグメントの形で検出した。hENT及びdCKmRNAに特異的なプライマは以下の通りである:hENTについては、5’−AAAGGAGAGGAGCCAAGAGC−3’(フォワード)及び5’−GGCCCAACCAGTCAAAGATA−3’(リバース)、dCKについては、5’−CCCGCATCAAGAAAATCTCC−3’(フォワード)及び5’−TCCATCCAGTCATGCCAGTC−3’(リバース)。ヒトβ−アクチン、及びMDR、MRP1、MRP2遺伝子の発現を検出するために使用したプライマは、以前記載した通りである(Schaarschmidt T,Merkord J,Adam Uら, Expression of multidrug resistance proteins in rat and human chronic pancreatitis.Pancreas 2004;28:45−52)。
【0037】
(E)動物実験
(i)麻酔:全ての外科的及び画像処置は、純粋酸素中に3%イソフルラン(Aerrane(登録商標)、Baxter、Maurepas、フランス)を含有するガス麻酔下に行い、外科的処置では、鎮痛剤として2〜3mg/kgの塩酸キシラジン(Rompun(登録商標)、Bayer、Leverkusen、ドイツ)を同時に筋肉内注射した。
【0038】
(ii)腫瘍モデル:180〜200gのオスのルイスラット(Janvier、Le Genest Saint Isle、フランス)を膵臓癌移殖用に使用した。5×10HA−RPC細胞を膵臓実質に注入した。注入後最初の3週間では、腫瘍形成は膵臓尾部に限定されるが、4週目にリンパ節に浸潤する。肝臓への転移は5〜6週間で現れ、6〜9週間で肺転移を起こし死に至る(Mutter D,Hajri A,Tassetti Vら,Increased tumor growth and spread after laparoscopy vs laparotomy:influence of tumor manipulation in a rat model.Surg Endosc 1999;13:365−70)。ラットは、バランスのとれたペレット餌と水を制限なく摂取できる、標準的状態(温度:22±2℃、相対湿度:55±10%、明暗周期:12時間)に保持した。動物実験は、動物愛護に関するフランス及びヨーロッパコミュニティの指令(1986年11月24日、No.86/609/EEC)に従って行った。
【0039】
ゲムシタビンは腹腔内注射(100mg/kg)により投与した。H−1PVは腫瘍内(intratumorally:i.t.)に植菌した。血液試料は最後の治療処理の2週間後に尾部静脈より採取した。毒性マーカは、自動臨床検査分析(生化学的複数パラメータ解析装置Biochime ADVIA160:Siemens、Cergy Pontoise、フランス)を使用してストラスブルグ大学病院内でアッセイした。
【0040】
(iii)画像取得及び再構築:画像は、80kVp X線電圧、500μAアノード電流を使用して、イムテックマイクロCTスキャナ(microCAT−II、Imtek Inc.、Knowville、テネシー州)上に取得した。腹部臓器位置の変化及びそれによる像のぼやけを避けるために、呼吸ゲート取得を使用した。イメージングの9時間前に、肝臓及び持続血管造影のために、それぞれFenestra(登録商標)LC及びFenestra(登録商標)VC造影剤(Alerion Biomedical Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州) を腹腔内に同時に注入した。画像データは、Imtek認可ソフトウェア(Cobra version 4.1−4、Exxim computing corporation、Knoxville、テネシー州)を使用して取得、再構築した。3D画像は、アミラソフトウェア(Amira Advanced Visualization,Data analysis,and Geometry Reconstruction v.3.1、サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用して可視化した。コントラスト化した肝又は膵葉内に黒い異常として現れる腫瘍又は転移は、アミラ3Dデータセットを使用して三次元的に測定した。
【0041】
(F)免疫組織化学的解析
パラフィン包埋腫瘍切片をキシレンで脱蝋し、段階的なアルコール溶液で再水和した。内因性パーオキシダーゼ活性は、メタノール中0.3%過酸化水素で抑制した。非特異的結合を阻止するために、スライドを非免疫正常ウサギ血清(Dako、チューリッヒ、スイス)で1時間処理した。H−1PV NS1蛋白質特異的3D9抗体(1:50)(Nathalie Salome博士からの供与、DKFZ、Heidelberg、ドイツ)と一晩静置(4℃)した後、スライドを洗浄し、ウサギ抗マウス西洋ワサビパーオキシダーゼ標識二次抗体(1:200、Sigma)で処理し、DakoEnvision+TMシステム(Dako)を使用して現像し、マイヤー・ヘマトキシリン(Mayer's hematoxylin)により対比染色した。
【0042】
(G)統計的分析
(i)生体外実験:3重で行った生体外実験から、平均値と標準偏差(SD)を算出した。H−1PV及びゲムシタビンが生体外で相乗的に相互作用するかどうかを調べるために、他の化学及びウイルス療法において既に説明されているように、MTTアッセイから得られたデータに基づいてアイソボログラフィック(isobolographic)分析を行った(Nowak AK,Robinson BW,Lake RA.Gemcitabine exerts a selective effect on the humoral immune response:implications for combination chemo−immunotherapy.Cancer Res 2002;62:2353−8)。ゲムシタビンとH−1PVの50%及び75%有効濃度(EC)値(EC5O及びEC75)は、それぞれ濃度(0.4〜4000ng/mL)及びMOI(1、10、100RU/細胞)の範囲に基づいて実験的に決定した。アイソボログラム(isobologram)は、2つの薬剤の組み合わせから得られたデータにより作製した。組み合わせ(CI)及び感作(SI)の指標は、次の等式を使って算出した。CI=(DH1.c/DH1.a)+(DG.c/DG.a)+(DH1.c*DG.c/DH1.a*DG.a)、SIH−1PV=DH1.a/DH1.C、SIgem=DG.a/DG.c、ここで、DH1.c、DH1.a、DG.c、DG.aは、それぞれH−1PV又はゲムシタビン単独(Hl.a、G.a)又は組み合わせ(Hl.c、G.c)におけるEC50/75用量である。CI=1は、不変アイソボログラムを示し、相加効果を意味する。CI値が1以下の場合は、期待される相加効果よりも高い(相乗)ことを意味する。
【0043】
(ii)生体内実験:3重で行った生体内実験から、平均値と標準偏差(SD)を算出した。mCTスキャンサイズ測定により生体内で測定された腫瘍体積の差は、等分散性を示したバートレット検定としてパラメトリック不対スチューデントt−検定に従い一元配置分散分析を行った。P<0.05の場合、値の相違は有意であると判断した。生存曲線はカプラン・マイヤ法により作成し、曲線間の相違は対数階数検定により評価した。P値<0.05の場合、統計学的に有意差を有すると判断した。Instat2.00マッキントッシュソフトウェア(GraphPad Software、サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用した。
【0044】
(H)細胞分画及びプロテアーゼ活性測定
ゲムシタビン単独(4ng/mL)、H−1PV単独(10RU/細胞)、又は両薬剤の組み合わせで処理したPanc−1細胞及びBxPC−3細胞から取得した細胞質及びリソソーム画分におけるカテプシンB活性を測定した。培養物をリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で回収し、遠心分離でペレット化し、低張緩衝液(0.25Mショ糖、50mM HEPES−NaOH(pH7.4)、1mM EDTA)に再懸濁させ、細胞分解装置でホモジナイズした。4℃、2500×gで、10分間の遠心分離して、核及び重ミトコンドリアをペレット化した。上清部(post−nuclear suspension:PNS)を保存し、潜在する酵素の測定に使用した。PNSを4℃、17000×gで、20分間遠心分離することにより、軽ミトコンドリア画分(LMF)を得た。上清は細胞質抽出物として回収し、LMFペレットは低張緩衝液に再懸濁させた。細胞質及びLMF画分のそれぞれを、50mMモルホリンエタンスルホン酸(MES)(pH6.0)、0.25Mショ糖、1mM EDTA及び2mM N−アセチル−L−システインからなる反応混合液に添加した。10分間静置後、1mMの基質Z−Arg−Arg−AMC(Calbiochem)を加え、360nmで励起後の、波長455nmにおける発光をFluoroskan&FL光度計(Thermolabsystem)で1時間測定した。
【0045】
(I)ゲムシタビン耐性Colo357及びT3M−4細胞の単離
ゲムシタビン耐性Colo357細胞及びT3M−4細胞は、それぞれの親株について決定されたゲムシタビンEC50(T3M−4は、1.2ng/mL、Colo357は、1.5ng/mL)で48時間細胞を処理することを含む選択サイクルを5回行って単離した。親細胞及び耐性細胞の薬剤感受性は、MTTとクローン生存アッセイの両方で評価した。
【0046】
実施例2.H−1PVは、単独及びゲムシタビンと協調して培養ヒト膵臓癌細胞を殺し、細胞質に活性カテプシンBを遊離する
6つのヒトPDAC細胞株、Colo357、T3M−4、SU86.86、MiaPaCa−2、Panc−1、及びBxPC−3について、H−1PV及びゲムシタビン毒性に対する感受性を試験した(表1、図1、及び図13)。MiaPaCa−2、SU86.86、及びT3M−4は、ウイルス誘導性細胞死に過敏であり、Colo357、SU86.86、及びT3M−4はゲムシタビンに対して最も感受性を示した。重要なことは、ゲムシタビン処理に強い抵抗性を示した細胞株(Panc−1、BxPC−3、及びMiaPaCa−2)はH−1PVに感受性を示したことである。
【0047】
【表1】

【0048】
培養物を96ウェルプレートに2×10細胞/ウェルで播種し、ゲムシタビン(0.4〜4000ng/mL)で処理し、24時間後に異なるMOI(1、10、100RU/細胞)でH−1PVを感染させた。細胞毒性は、感染の72時間後にMTTアッセイにより評価した。単独(mono)と併用(comb)処理におけるEC50は、異なるMOI(H−1PV)及び濃度(ゲムシタビン)で得られたMTT測定結果を使って作成したアイソボログラムから算出した。組み合わせ指標(CI)及び感作指標(SI)は、材料及び方法で説明したように決定した。
*示す細胞株は、H−1PV殺作用に対して過敏であるため、統計分析にはEC75を使用した。H−1PV及びゲムシタビン単独治療でのEC50値を括弧内に示す。
【0049】
表1に示すように、併用治療の細胞毒作用はほとんどの場合に相乗的であり(CI<1)、特に、MiaPaCa−2細胞、Panc−1細胞、及びSU86.86細胞で相乗効果が高かった。効果的なウイルス用量は、1.3ng/mL(Colo357、組み合わせ1)から200ng/mL(Panc−1、組み合わせ1)までの用量範囲のゲムシタビン存在下において、因子(SIH−1PV)で35倍まで下げることができた。反対に、細胞増殖の阻害に必要な効果的な薬剤濃度は、細胞をH−1PV(MiaPaCa−2、組み合わせ2)を感染させた場合、因子(SIGem)で15倍まで下げられた。2週間の全ての細胞株のコロニ形成能は、両方のH−1PVにより効果的に阻害された(データは非図示)。
【0050】
更に、PDAC由来株のカテプシンB活性の細胞内分布が上記処理後に変化したかどうかを決定した。これは、3つのヒトPDAC細胞株を使用して試験した。図14に示すように、機能性カテプシンBの細胞質蓄積は、H−1PV/ゲムシタビン併用により著しく促進され、このメカニズムが観察された累積した毒性に関与していることが強く示唆された。
【0051】
実施例3.H−1PVはゲムシタビン感受性及び耐性細胞の両方を同様の効率で殺すことができる
ゲムシタビンに対する耐性の形成は、PDAC患者の本薬剤での長期治療の大きな障害であるため、ゲムシタビンに対する天然の感受性が異なる前記細胞株の2つ(Panc−1及びBxPC−3)から誘導したゲムシタビン耐性細胞変異体に対する、H−1PVの細胞変性効果を試験した(表1)。耐性()群は、薬剤の用量を増加させて細胞を連続的に処理することにより単離した。耐性変異体は、MDR及びMRP1/2薬剤送出マーカの発現促進など、その成長速度の低下及び安定な表現型の変化によりそれぞれの親細胞株から区別できた(図2A)。取り込み(hENT)及び活性化(dCK)マーカのレベルは変化しないか又は僅かな減少にとどまっており(図2A)、耐性表現型は、主により強いゲムシタビン送出によるものと思われる。薬剤耐性変異体はH−1PV感染への感受性を維持している(図2B、図2C、H−1PVカラム)一方、元の細胞株に毒性であるゲムシタビン(40ng/mL、144時間)との長時間の培養には耐性であった(図2C、ベムシタビンカラム)。H−1PVにより誘導された細胞死が、BxPC−3細胞に対して、BxPC−3細胞で僅かではあるが有意に上昇していることが観察された。これは、H−1PVが、ゲムシタビンに対して獲得した耐性を回避するPDACの第二選択治療として使用できる可能性を示唆している。更に、ゲムシタビン耐性表現型は、パルボウイルス生活環の進行に対する毒性薬剤用量による障害の低下に関連していることが見出された。実際、Panc−1細胞内における、組換えパルボウイルスベクタにより発現されるマーカ蛋白質EGFPの発現は、親細胞におけるEGFP形質導入を阻止するゲムシタビン用量で曝露した後であっても促進された(図2D)。従って、ゲムシタビン治療が続けられている状況下においても、化学療法剤耐性腫瘍細胞変異体はH−1PVの標的のままであると結論づけることができる。効果的なウイルス殺作用は、高ゲムシタビン用量で短期処理して選択したゲムシタビン耐性Colo357細胞及びT3M−4細胞の感染後でも、同様に観察された(図15)。これらのデータに一致して、耐性及び親のColo357細胞株及びT3M−4細胞株はウイルス複製について同様の能力を有していた(データは非図示)。
【0052】
以上、生体外実験により、H−1PVが、薬剤耐性細胞に対する殺作用全体を強化し、かつ薬剤治療の後期に現れる化学療法剤耐性変異体を除去することによって、ゲムシタビンの治療効果を改善することが示された。
【0053】
実施例4.H−1PVは同所性膵臓腫瘍の部分的から完全な抑制を誘導し、それにより動物の生存を引き伸ばす
臨床状態をより近似させるために、PDACを同所的に移植した同系ラットモデルをH−1PVの抗癌活性を評価するために使用した。ラットはH−1PVの自然宿主であるので、前記系は、臨床応用に必須である、この腫瘍溶解性薬剤の毒性評価にも適している。モデル(HA−RPC)に使用されるラットPDAC細胞は、まずH−1PV感染に対する感受性を生体外で検査し、ウイルスとゲムシタビン毒性に対して前記ヒト細胞と同様の範囲の感受性を有することを確認した(図3E(a))。
【0054】
膵臓へのHA−RPC細胞の移植の2週間後に、H−1PVを単回腫瘍内注入により生体内に投与した。腫瘍の大きさ(mCTスキャンニング及び死後の肉眼検査により測定)、動物の生存、及びウイルス分布を測定した。ウイルス治療は腫瘍成長を遅らせ(図3A)、図3Bに示すように、ウイルス処理群のラットは、擬似処理対照群より有意に長く生存し、16週目(実験の最後まで)には20%が無病であった。重要なことに、H−1PVは、正常組織とは対照的に腫瘍選択的に発現していた。このことを確認するために、ウイルス転写産物の存在について内臓組織を検査した(RT−PCR)。図3Cに示すように、感染後直ぐに腫瘍とその周りの膵臓組織に初期ウイルス発現を観察した。他のモデルによる以前の観察結果と一致して、H−1PVはリンパ組織にも分布していた(Giese NA,Raykov Z,DeMartino Lら, Suppression of metastatic hemangiosarcoma by a parvovirus MVMp vector transducing the IP−10 chemokine into immunocompetent mice.Cancer Gene Ther 2002;9:432−42)。10日目から、ウイルス発現は衰えた。これはウイルス中和抗体が現れ、ウイルスの広がりを低減したためと思われる(Raykov Z,Balboni G,Aprahamian Mら,Carrier cell−mediated delivery of oncolytic parvoviruses for targeting metastases.Int J Cancer 2004;109:742−9)。しかし、ウイルス発現は接種の20日後まで腫瘍内で続いた。また、ウイルスの腫瘍内分布は免疫組織化学分析により確認された(図3D)。
【0055】
予め存在していた腫瘍の完全な消失がmCTスキャンにより確認されたケースもある(図4、A及びCの比較)。原発腫瘍の局所的拡大に加えて、上部腹腔の内臓リンパ節及び肝臓にそれぞれ影響するリンパ及び血行性転移は、PDACの死亡に大きな役割を果たしている。予測されたとおり、非感染ラットのmCTモニタリングでは、局所膵、幽門、肝リンパ節及び肝臓への転移浸潤が観察された(図4B、矢印)。初期段階で原発腫瘍にH−1PVを播種した場合には(図4Aの像に対応)、その後に、原発腫瘍と同様に遠隔転移が45%まで抑制された(図4C)。興味深いことに、このモデルでの肝臓への転移疾患の広がりは、臓器での遅発性ウイルス発現と相互に関連しており(図3C)、これはH−1PVが腫瘍浸潤を能動的に制御できることを示唆している。
【0056】
実施例5.H−1PVはゲムシタビン治療が効かないPDAC腫瘍を抑制する
H−1PVが、生体外で観察されたように、生体内でもゲムシタビンの治療効果を促進できるかどうかを検討した(表1、図13)。臨床的状況に近似させるために、PDAC担持ラットをまずゲムシタビンで処理し、2週間後に手術的にH−1PVを腫瘍に播種した。図5A(ゲムシタビン プレ H1−パルボウイルス)に示すように、当該処置は、擬似処理(対照)、又は化学療法剤単独治療(ゲムシタビン)と比較してラットの生存を有意に伸ばした。両方を同時に投与した場合(H−1PV及びゲムシタビン)には、H−1PVはゲムシタビンの治療効果を改善しなかった。これは、遺伝毒性薬のパルボウイルス生活環への負の作用によるものと思われる(図2Dも参照)。
【0057】
ヒト細胞を使用した異なる生体内モデルにおけるゲムシタビンとH−1PVの効果について試験するために、BxPC−3腫瘍をヌードマウスに誘発し、ラットと同様な治療レジメンにより治療した(図5B)。治療を受けた全てに動物において、対照と比較した生存期間が長かった。併用治療(ゲムシタビン プレ H1−パルボウイルス、n=5)及びH−1PV単独治療(n=5)では、最高の抗腫瘍効果を達成し、各群において1匹は実験開始の70日後まで無腫瘍であった。この時点で、併用処理群の動物の40%は生存していた。一方で全ての対照群マウスは移植後40日目までにサクリファイスされなければならなかった。
【0058】
以上、これらのデータによりゲムシタビンはPDACに対して一時的に保護効果を示し、それに続くH−1PVの投与が動物の生存を引き伸ばすことができることが確認された。更に、ラットモデルで行われた本治療法の毒性評価により、ゲムシタビン処理による網状赤血球及び単球におけるレベルの低減を除けば、骨髄活性の血液伝播性マーカは概して影響を受けないことが示された(図6A)。臨床的結果は、同様に肝臓及び腎臓機能をモニタすることを促すものであった(図6B)。ビリルビン、ASAT、及びALATレベルは、非治療及びゲムシタビン処理群で上昇しており、PDAC担持ラットの肝臓では溶菌作用が低いことを示していた。追加のパルボウイルス治療により、これらのマーカのレベルは生理的範囲に回復した。クレアチニンレベルは安定のままであり、腎クリアランスに影響しないことを証明した。すなわち、検出した血液パラメータの異常は、完全にゲムシタビン治療に起因するものであり、引き続くH−1PV投与により更に悪化しなかった。
【0059】
実施例6.H1−PV感染は、生体外で膠芽細胞腫に対するテモゾロミドの治療効果を改良できる
まず、検討に使用された細胞株がH−1PV感染及びテモゾロジン(TMZ)処理に対して感受性であるかどうかを検査するために、これらの細胞株の生存率をMTTアッセイにより測定した。また、H−1PVとTMZの併用治療後の生存率を測定した。明らかに効果を示すが、細胞の完全な溶菌は起こさない濃度であると推定される、5pfU/細胞のMOI及び25μMのTMZで細胞を感染及び処理した。図7〜11は、3日後及び6日後の結果を示すグラフである。処理3日後には既に明確な効果が観察された。処理6日後に対照細胞が既にコンフルエントな状態となったため実験を中止した。また、6日後には(特定の細胞株によるが)生存率が非常に低かったため、更なる分析は行えなかった。
【0060】
対照として、ヒト星状膠細胞を、(a)H−1PVで感染するか、(b)TMZで処理するか、又は(c)両者の併用治療を行った。図8に示されるように、これらの処理のいずれも星状膠細胞に何の影響も示さなかった。
【0061】
図8に示すように、RG2細胞は、H−1PV感染に非常に感受性が高く、感染の3日後には約90%の細胞が既に溶菌された。同様の結果が併用治療(H−1PV+TMZ)により得られている。6日後には、全ての細胞が死滅した。また、結果は該細胞がTMZ処理に感受性を有さないことを示している。
【0062】
図9に示すように、H−1PV感染の3日後では、U87MG細胞の約10%のみが溶菌され、TMZ単独の処理後では、約20%の細胞が死滅した。併用治療(H1−PV+TMZ)は強い細胞溶解作用を示し、約40%の細胞が死滅した。しかし、治療の6日後にはこの作用はもはや存在せず、併用治療を施された細胞の生存率は、TMZ単独処理(TMZ)細胞の生存率と同等であった。
【0063】
図10に示されるように、TMZでの処理はU373細胞に対して細胞毒性作用を示さなかった(処理の6日後)。H−1PVでの感染では、約60%の細胞が6日後には溶菌された。同様の結果が併用処理(H1−PV+TMZ)でも得られた。
【0064】
図11は、TMZ処理に非常に感受性の高いU343細胞について得られた結果を示す。6日後には、80%以上の細胞が死滅した。処理3日後では、H−1PV及びTMZの併用は、単独処理に比較して強い細胞変性効果を示した。しかし、6日後には、この効果は低減し、併用治療後の生存細胞の割合がTMZ単独処理後の生存細胞の割合に近づいた。
【0065】
図12に示すとおり、H−1PVとTMZとの併用治療は、H−1PV単独及びTMZ単独処理に比較して、細胞変性効果が促進されている。
【0066】
要約すれば、樹立ヒト及び動物(ラット)膠芽細胞腫細胞株は、ヒト膠芽細胞腫由来の短期細胞株と同様、ウイルス仲介細胞死に非常に感受性が高いということが示された。この結果は、H−1PVで溶菌的に感染させた樹立ラット細胞株TG2及び種々のヒト膠芽細胞腫細胞株U87MG、U373MG、U343MG及びA172(the Deutsches Krebsforschungszentrum (DKFZ)、Heidelberg、ドイツから入手可能)を使った本検討で確認することができた。細胞当たり感染性粒子5個という低用量で、72時間後に明らかな細胞変性効果を得るのに十分であった。更に、H−1PVで感染させたヒト星状膠細胞は溶菌しないことが示された。正常星状膠細胞、RG2細胞及びU373細胞を25μMのテモゾロミド(TMZ)で処理しても細胞死に至らなかった。これらの細胞は更に高用量の投与に対しても耐性を示した。
【0067】
更に他のヒト細胞株もTMZ処理に感受性を示した。H−1PVとTMZとの併用治療は、ウイルスの腫瘍溶解効果がTMZ処理によって低減されないことを示した。一方、ウイルスはTMZ処理による効果を抑制しなかった。膵臓癌のH−1PVとゲムシタビンとの併用治療における結果と同様、H−1PVとTMZの併用治療により、生体内において相加的を超えた相乗的効果が達成できると考えられる。
【0068】
(参照文献)
Harrop R,Carroll MW.Viral vectors for cancer immunotherapy.Front Biosci 2006;11:804−17.
Raykov Z,Grekova S,Galabov ASら, Combined oncolytic and vaccination activities of parvovirus H−1 in a metastatic tumor model.Oncol Rep 2007;17:1493−9.
Plate JM,Plate AE,Shott Sら, Effect of gemcitabine on immune cells in subjects with adenocarcinoma of the pancreas. Cancer Immunol Immunother 2005;54:915−25.
Bennett JJ,Adusumilli P,Petrowsky Hら, Up−regulation of GADD34 mediates the synergistic anticancer activity of mitomycin C and a gammal34.5 deleted oncolytic herpes virus(G207).FASEB J 2004;18:1001−3.


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルボウイルス及び化学療法剤を含有する医薬組成物。
【請求項2】
(a)パルボウイルス及び(b)化学療法剤を別々の構成として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
癌治療用医薬組成物の製造のためのパルボウイルス及び化学療法剤の使用。
【請求項4】
(a)パルボウイルス及び(b)化学療法剤が連続的に投与されることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
癌が脳腫瘍又は膵臓癌である、請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
膵臓癌が膵管腺癌(PDAC)であることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
脳腫瘍が神経膠腫、髄芽腫又は髄膜腫であることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
神経膠腫がヒト悪性膠芽細胞腫であることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
パルボウイルスがH1(H1PV)又は関連するげっ歯類パルボウイルスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物、あるいは請求項3〜8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項10】
関連するげっ歯類パルボウイルスがLuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)又はラットウイルス(RV)であることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物又は使用。
【請求項11】
化学療法剤がゲムシタビン又はテモゾロジンであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項12】
パルボウイルス(a)を化学療法剤(b)の投与後に投与することを特徴とする、請求項3〜11のいずれか1つに記載の使用。
【請求項13】
パルボウイルスを腫瘍内投与することを特徴とする、請求項3〜10のいずれか1つに記載の使用。
【請求項14】
膵臓癌治療用医薬組成物の製造のためのパルボウイルスH1(H1PV)又は関連するげっ歯類パルボウイルスの使用。
【請求項15】
膵臓癌が薬剤耐性癌であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
薬剤がゲムシタビンであることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
関連するげっ歯類パルボウイルスがLuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)又はラットウイルス(RV)であることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1つに記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−507923(P2011−507923A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540070(P2010−540070)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/011075
【国際公開番号】WO2009/083232
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(500030655)
【出願人】(509161141)ルプレヒト−カールス−ウニヴェルジテート ハイデルベルク (6)
【氏名又は名称原語表記】Ruprecht−Karls−Universitaet Heidelberg
【住所又は居所原語表記】Grabengasse 1, D−69117 Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】