説明

パワートレインの試験システム

【課題】実エンジンが発生するトルク脈動のシミュレーションを容易にしてその精度、特に加振シミュレーション精度を高める。
【解決手段】エンジントルクのシミュレーション演算部10のうち、実エンジンが発生するトルク脈動を、トルク脈動周波数演算回路14で演算する模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、トルク脈動振幅演算回路15で演算するエンジン回転数別にしたトルク振幅値マップまたは振幅比率マップから求める振幅または振幅比率で正弦波を模擬し、このトルク脈動をトルク指令に重畳させ、これをインバータ20のトルク指令として模擬モータ(ダイナモメータ)30を駆動する。模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅値三次元マップ又はトルク振幅比率三次元マップからトルク脈動の振幅を求めてシミュレーション試験を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象を模擬エンジンで駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムに係り、特に実エンジンに発生するトルク脈動分も含めたシミュレーション試験に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートレインの試験設備は、自動車のエンジン(動力源)からクラッチ、トランスミッション(変速機)、プロペラシャフト、デファレンシャル・ギア、ドライブシャフトまでの動力伝達系の屋内試験を可能とする。例えば、トランスミッションの耐久性試験では、トランスミッションをエンジンで駆動し、変速出力をダイナモメータで吸収し、トランスミッションの耐久劣化テストを行う設備構成とする。
【0003】
上記のエンジンを用いたトランスミッション試験を行うシステムに対し、ベンチ試験装置としては更に、エンジンの回転を擬似的に出力する駆動モータで構成したシミュレーション試験システムがある(例えば特許文献1参照)。この試験装置は、トランスミッションの入力軸側にエンジン相当の駆動力をもつモータが模擬エンジンとして接続され、出力軸側には負荷相当の吸収トルクを発生するダイナモメータが接続される。
【0004】
しかし、シミュレーション試験装置では、エンジンからトランスミッションへのエンジン入力には、平均トルクや爆発トルクなどの各種特性が影響していると考えられるものの、そうした特性を定性的には確認できるものの定量的に解析することはできない。そこで、エンジンをモータでシミュレートした試験装置として、駆動モータから出力される回転トルクに関し、複数のパラメータを任意に変化させるエンジンモデルを作成し、そのエンジンモデルに基づく制御データによって駆動モータを制御するようにしたものが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
この文献において、エンジンモデルは、スロットル開度とエンジン回転数によって求められる平均トルク、爆発トルク一次成分のみを考慮した正弦波で定義される爆発トルク、更にはトランスミッションの変速に伴うトルクダウンをパラメータとして、これらを任意に設定している。また、駆動モータによる爆発トルク発生手段として、モータのON/OFFを変化させることによって回転軸に振動を与える加振機とする場合もある。
【特許文献1】特許3045328号公報
【特許文献2】特開2006−170681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエンジンモデルによるシミュレーション試験において、実エンジンが発生するトルク脈動を決定するパラメータの1つとして、回転軸に振動を与える加振シミュレーションには模擬エンジン(モータ)に結合する加振機のON/OFF変化で設定しており、実エンジンが発生するトルク脈動とはその振る舞いにズレが大きくなり、シミュレーション試験性能の向上を難しくしていた。
【0007】
また、加振機を模擬エンジン(モータ)に結合するため、加振機の慣性分が模擬エンジン(モータ)に追加されることになり、シミュレーション精度が低下する。
【0008】
本発明の目的は、実エンジンが発生するトルク脈動のシミュレーションを容易にしてその精度、特に加振シミュレーション精度を高めたパワートレインの試験システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するため、実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルクから脈動分を抽出するためのトルク振幅値マップ又はトルク振幅比率マップから求める振幅又は振幅比率で正弦波を模擬してシミュレーション試験を行うものであり、さらには、模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅値三次元マップ又はトルク振幅比率三次元マップからトルク脈動の振幅を求めてシミュレーション試験を行うものであり、以下の構成を特徴とする。
【0010】
(1)模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルクから脈動分を抽出するためのトルク振幅値マップから求める振幅で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
(2)模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルクから脈動分を抽出するためのトルク振幅比率マップから求める振幅比率で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
(3)模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅値三次元マップから求める振幅値で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
(4)模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅比率三次元マップから求める振幅比率で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のとおり、本発明によれば、実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルクから脈動分を抽出するためのトルク振幅値マップ又はトルク振幅比率マップから求める振幅又は振幅比率で正弦波を模擬してシミュレーション試験を行うため、従来の模擬エンジン(モータ)に結合する加振機のON/OFF変化による加振シミュレーションに比べて、実エンジンが発生するトルク脈動のシミュレーションを容易にしてその精度、特に加振シミュレーション精度を高めたパワートレインの試験ができる。
【0015】
また、本発明は、模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅値三次元マップ又はトルク振幅比率三次元マップからトルク脈動の振幅を求めてシミュレーション試験を行うため、脈動トルクの振幅値の精度を上げたシミュレーション試験ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施形態1)
図1は、本実施形態を示すシミュレーション試験システムの要部構成図であり、波線ブロックにはエンジンモデルによるエンジントルクのシミュレーション演算部の構成を示す。
【0017】
シミュレーション演算部10は、コンピュータ資源を利用したソフトウェア構成で各演算機能が構成され、シミュレーション結果として得るトルク指令をインバータ20に与え、このインバータ20によって模擬エンジン出力手段になるダイナモメータ(試験対象を駆動するモータ)30を駆動する。
【0018】
シミュレーション演算部10のうち、平均トルク演算回路11は、トルク特性である平均トルクに関して、スロットル開度とエンジン回転数の値から実エンジンで発生させるトルク値を算出するためのエンジントルクマップが格納されている。
【0019】
過渡トルク特性演算回路12は、過渡トルク特性であるトルクダウン(トランスミッション変速時のトルク変動)を算出するもので、このトルクダウンはトランスミッションの変速、すなわち電磁弁制御における変速開始と変速終了の制御動作に連動するように、計測されるトルクダウン信号に基づいてトルクダウン演算を行い、トルクダウンの大きさをパラメータ設定され、この演算結果は過渡トルク成分としてスイッチ13によって平均トルク演算結果に付加される。
【0020】
トルク脈動周波数演算回路14は、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まるトルク脈動成分の周波数を算出する。トルク脈動振幅演算回路15は、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルク(実測値またはシミュレーショントルク)から交流分(脈動分)を抽出できるトルク振幅値マップが設定され、エンジン回転数別に発生するトルク脈動成分の振幅を算出する。
【0021】
爆発トルク一次成分演算回路16は、上記の演算回路14、15で算出されるトルク脈動の周波数と振幅を正弦波のパラメータとして設定されて爆発トルク成分として算出し、この爆発トルク成分がスイッチ17によって平均トルク演算結果に付加される。
【0022】
以上の構成とするシミュレーション試験システムにおいて、トルク加振シミュレーションには、トルク脈動周波数演算回路14の周波数出力およびトルク脈動振幅演算回路15の振幅出力の調整によって、エンジンのトルク変動を模擬したトルク加振機能を実現する。
【0023】
この加振トルクの波形成分は正弦波(振動波)とし、加振トルク分はベーストルク(平均トルク=設定トルク)に重畳させるだけのオープンループ制御とする。また、加振周波数は、模擬エンジン回転(入力軸回転)による周波数指令機能と任意の周波数指令機能により選択可能とし、最大200Hzまで制御可能とする。但し、機械的共振点は、制御保証周波数範囲から除くものとする。機械的共振点については、検収引渡し時にデータで確認可能とする。また、機械共振点域での加振指令は、共振倍率を考慮して振幅値を減衰させる特性とする。また、モータ30の機械系単独の伝達周波数は、目標250Hz以上として加振トルクとの共振を回避する。
【0024】
加振トルクの周波数と振幅についての設定項目としては(a)サイクル数:2サイクル/4サイクル、(b)エンジン気筒数:2〜12、(c)振幅値がある。このうち、トルク加振の振幅値設定には下記の2種類とするが、加振周波数により加振振幅の上限値が変更される。
【0025】
(c1)振幅値一定設定:回転周波数に関係なく一定の振幅値を設定可能とする。例えば、0〜±XXX[Nm]。
【0026】
(c2)振幅マップ設定:回転周波数毎の振幅値を設定する。トルク加振時には回転数に合わせて設定マップの振幅値をトルク加振させる。この振幅マップは、図2にイメージを示すように、同図の(a)では二次曲線で補間した脈動振幅設定マップを示し、これを(b)で示す脈動振幅比率マップ(振幅比率:トルク加振振幅値/ベーストルク値)に変更することでもよい。
【0027】
本実施形態によれば、加振トルクシミュレーションには、模擬エンジン回転数とエンジン気筒数を基にした加振トルク周波数と振幅を合成した爆発トルク一次成分でトルク指令に重畳することで済み、従来の模擬エンジン(モータ)に結合する加振機のON/OFF変化による加振シミュレーションに比べて、実エンジンが発生するトルク脈動のシミュレーションを容易にしてその精度を高めること、特に加振シミュレーション精度を高めることができる。
【0028】
(実施形態2)
図3は、本実施形態を示すシミュレーション試験システムの要部構成図である。同図が図1と異なる部分は、トルク脈動振幅演算回路15に設定する脈動振幅設定マップのパラメータにスロットル開度指令を追加した三次元マップとした点にある。
【0029】
図1の構成とする実施形態1では、エンジンの脈動トルクを近似するために、エンジンの気筒数と模擬エンジン回転数(ダイナモ回転数)から脈動周波数を算出し、脈動トルク振幅設定マップと模擬エンジン回転数(ダイナモ回転数)から脈動の振幅を算出している。
【0030】
ここで、エンジンの脈動の変化は、エンジン回転数にのみ依存するのではなく、スロットル開度にも依存しているため、エンジン回転数と振幅の2次元マップで表現されている脈動トルク振幅値設定マップでは十分な精度を出すことができない。
【0031】
そこで、本実施形態では、上記の課題を解決するために、脈動トルクの振幅を求めるためのマッブを三次元にして、脈動トルクの振幅値の精度を上げるものである。
【0032】
図4は、脈動トルクの振幅を求めるための「脈動トルク振幅値設定マップ」を、開度指令−エンジン回転数−脈動振幅値の三次元マップとした例を示し、算出される脈動トルクにはスロットル開度による変化を反映させることで加振トルクの振幅値の精度を上げることができる。
【0033】
(実施形態3)
図5は、本実施形態を示すシミュレーション試験システムの要部構成図である。同図が図3と異なる部分は、トルク脈動振幅演算回路15に設定するマップを、開度指令−エンジン回転数−脈動振幅比率の3つのパラメータとする「脈動トルク振幅比率設定3次元マップ」とする点にある。
【0034】
本実施形態においても、スロットル開度をパラメータに含めることで、算出される脈動トルクの振幅比率の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態1のシミュレーション試験システムの要部構成図。
【図2】振幅マップの例。
【図3】実施形態2のシミュレーション試験システムの要部構成図。
【図4】三次元マップの例。
【図5】実施形態3のシミュレーション試験システムの要部構成図。
【符号の説明】
【0036】
10 シミュレーション演算部
20 インバータ
30 ダイナモメータ
11 平均トルク演算回路
12 過渡トルク演算回路
14 トルク脈動周波数演算回路
15 トルク脈動振幅演算回路
16 爆発トルク一次成分演算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルクから脈動分を抽出するためのトルク振幅値マップから求める振幅で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とするパワートレインの試験システム。
【請求項2】
模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、エンジン回転数別にしたエンジン軸トルクから脈動分を抽出するためのトルク振幅比率マップから求める振幅比率で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とするパワートレインの試験システム。
【請求項3】
模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅値三次元マップから求める振幅値で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とするパワートレインの試験システム。
【請求項4】
模擬エンジンをトルク制御したモータで構成し、この模擬エンジンで試験対象を駆動してシミュレーション試験を行うパワートレインの試験システムであって、
実エンジンが発生するトルク脈動を、模擬エンジンの気筒数と回転数によって決まる周波数と、模擬エンジンのスロットル開度とエンジン回転数と脈動振幅値をパラメータとするトルク振幅比率三次元マップから求める振幅比率で正弦波を模擬し、このトルク脈動を前記モータのトルク指令に重畳させるトルク脈動発生手段を備えたことを特徴とするパワートレインの試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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