説明

パワーモジュール

【課題】隣接するパワー半導体素子からの伝熱の影響を受けても寿命であるとの誤認識を防止することができるパワーモジュールを提供する。
【解決手段】パワー半導体素子であるIGBT2の表面中央部および表面周辺部の2箇所にダイオード6a,6bを取り付けてそれらの温度を検出し、温度勾配監視手段7が表面中央部の温度と表面周辺部の温度との温度勾配(温度差)を監視する。動作状態検出手段8がIGBT2の動作状態、すなわち、オン状態かオフ状態かを検出し、素子電流検出手段9がIGBT2の大電流動作を検出し、寿命推定手段10は、動作状態検出手段8がIGBT2のオン状態を検出し、素子電流検出手段9がIGBT2の大電流動作を検出しているときだけ、温度勾配監視手段7の監視結果に基づいた寿命の推定を行う。これで、寿命推定時に、他のパワー半導体素子からの熱の影響による誤認識を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパワーモジュールに関し、特に大電力制御を行うIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などのパワーデバイスおよびその保護用の還流ダイオードからなる複数のパワー半導体素子を備えたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
交流電動機可変速駆動装置やコンピュータの無停電電源装置などの電力変換装置は、パワー半導体素子をスイッチング動作させることにより電力変換を行っている。このようなパワー半導体素子は、負荷の大きさに応じ複数個組み合わされて1つのパッケージに収容され、パワーモジュールを構成している。
【0003】
図8は交流電動機を駆動する三相インバータの回路構成の一例を示す図である。
この三相インバータは、パワー半導体素子としてIGBT101および還流ダイオード102を使用した例を示している。この回路構成によれば、IGBT101を2個直列に接続した直列回路が三相分形成され、これらの直列回路の接続点が交流電動機103に接続されている。また、これらの直列回路は、直流電源104に対して並列に接続されている。さらに、それぞれのIGBT101には、還流ダイオード102がそれぞれ逆並列に接続されている。また、IGBT101のゲート端子には、それぞれ駆動回路105が接続され、これら駆動回路105は、パルス分配回路106を介して制御回路107に接続されている。この制御回路107は、出力電圧指令108および基準三角波109を入力とする比較演算部110を備えている。ここで、6組のIGBT101および還流ダイオード102が一体になってパワーモジュールを構成したり、さらに、駆動回路105、パルス分配回路106および制御回路107を含めてパワーモジュールを構成したりしている。
【0004】
三相インバータは、IGBT101を駆動回路105にて上下アームで交互にスイッチングすることにより、直流電源104の直流電力を三相交流電力に変換して負荷である交流電動機103に供給する。ここで、IGBT101がオフした際には、負荷電流を還流ダイオード102側へ還流させてIGBT101を保護している。なお、このIGBT101がオフ状態のとき、還流ダイオード102は、オン状態となっているため、このときのモジュール内部の温度分布は、IGBT101の側が低く、還流ダイオード102の側が高くなっている。
【0005】
IGBT101のスイッチング方法としては、制御回路107において、出力電圧指令108と基準三角波109との大小関係を比較演算部110により比較してスイッチングパターンを決定するパルス幅変調(PWM)が一般的に行われている。制御回路107により決定されたスイッチングパターンは、パルス分配回路106によりインバータの三相の各アームに分配され、さらに駆動回路105を介してIGBT101の駆動パルスが生成される。この駆動パルスによりIGBT101をスイッチングさせて直流−交流間の電力変換を行っている。
【0006】
一般に、パワー半導体素子(半導体チップ)が許容できるジャンクション温度の限界値は、150℃程度であり、電力変換装置の最大負荷条件においてもジャンクション温度が150℃以下となるようにパワーモジュールの定格の選定や、電力変換装置の負荷運転条件を設計している。
【0007】
しかし、パワー半導体素子がスイッチングするときに発熱や温度上昇が発生し、これが電力変換装置の運転ごとに繰り返されることにより、パワーモジュール各部の接合、特にIGBT101や還流ダイオード102のパワー半導体素子と絶縁配線基板との間の半田層、および、絶縁配線基板と金属ベース板との間の半田層に応力が発生し、この応力が繰り返して半田層に加わると、これらの半田層に亀裂が生じることがある。
【0008】
これは、パワーモジュールを構成しているセラミックス・銅・シリコンなどの材料の熱膨張係数がそれぞれ異なるため、温度が上昇すると熱膨張係数の違いが応力として内部に発生し、これが半田層に加わることに起因している。
【0009】
半田層に亀裂が生じると、パワー半導体素子において生じる熱の放散を妨げる原因になり、温度上昇を繰り返すごとにさらに亀裂が進展し、当初の素子温度設計値よりも高くなってしまうという現象を招く。
【0010】
この結果、電力変換装置の運転に伴ってパワー半導体素子の温度が次第に高くなり、ついにはジャンクション温度が150℃を超えて素子の破壊に至ってしまう。なお、このような運転の繰り返し回数に応じたパワー半導体素子の劣化(寿命)をパワーサイクル寿命と呼ぶ。
【0011】
電力変換装置の運転中にパワー半導体素子が破壊してしまうと、電力変換装置が異常停止することになり、停止原因の究明や修理・復旧に時間がかかってしまうことが多い。このため、パワー半導体素子が破壊する前に素子の劣化、特に半田層の劣化を検出できれば、電力変換装置が運転を停止しているときや定期点検時などに、劣化したパワー半導体素子をあらかじめ交換しておくことができる。
【0012】
このような半田層の劣化状態、ひいてはパワー半導体素子の劣化状態を検出して素子の破壊や装置の故障を未然に防止しようとする技術が提案されている。たとえば、パワー半導体素子の表面中央部および表面周辺部の2箇所の温度を検出し、これらの温度を比較して、表面周辺部の温度が表面中央部の温度よりも高くなった場合に、半田層が劣化したと推定し、パワー半導体素子は寿命であると判断する技術がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0013】
また、パワー半導体素子がオフしたときの温度とオンしたときの温度とを検出し、その温度差を設定値と比較し、温度差が設定値を超えたとき、半田層が熱疲労したと推定することにより、過電流による過熱とは区別して亀裂の発生を診断するようにした技術も知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−114575号公報
【特許文献2】特開2007−71796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記の特許文献1に記載のものは、パワー半導体素子の表面周辺部の温度が表面中央部の温度よりも高くなると、半田層が劣化したと推定しているので、表面周辺部が隣接するパワー半導体素子が発生した熱の影響を受けて表面中央部よりも高温になると誤認識してしまうことがある。また、特許文献2に記載のものについては、隣接するパワー半導体素子が発生した熱の影響を受けてオフしたときのパワー半導体素子の温度が低下しにくくなり、半田層が熱疲労したと推定する温度差を得ることができない場合がある。いずれにしても、従来のパワー半導体素子の寿命を判断する装置では、隣接するパワー半導体素子が発生した熱の影響を受けることによって、誤動作する場合があるという問題点があった。
【0016】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、隣接するパワー半導体素子から伝達される熱の影響を受けても寿命であるとの誤認識を防止することができるパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では上記の課題を解決するために、絶縁配線基板上に複数のパワー半導体素子を実装して構成されるパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子の表面中央部および表面周辺部の2箇所の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段によって検出された温度を基にして温度勾配を監視する温度勾配監視手段と、前記パワー半導体素子の動作状態を検出する動作状態検出手段と、前記表面周辺部の温度が前記表面中央部の温度以上となる温度勾配を前記温度勾配監視手段が検出し、かつ、前記パワー半導体素子が動作していることを前記動作状態検出手段が検出したとき、寿命信号を出力する寿命推定手段と、を備えていることを特徴とするパワーモジュールが提供される。
【0018】
このようなパワーモジュールによれば、温度勾配監視手段による温度監視結果に基づいて寿命推定手段がパワー半導体素子の寿命を推定するのは、動作状態検出手段がパワー半導体素子の動作状態を検出しているときだけに限定することができる。これにより、他のパワー半導体素子が発生した熱の影響を受けて、温度勾配監視手段が監視対象のパワー半導体素子の寿命時に現れる温度勾配と同じ温度勾配を検出したとしても、寿命推定手段は、誤って寿命信号を出力することはない。
【発明の効果】
【0019】
上記構成のパワーモジュールは、パワー半導体素子の動作状態を検出する動作状態検出手段を備えたことにより、監視対象のパワー半導体素子が実際に動作しているときの表面温度に基づいて寿命を推定しているので、動作していないパワー半導体素子が隣接するパワー半導体素子から伝達された熱によって寿命時に現れる温度勾配と同じ温度勾配を呈していたとしても、寿命であると誤認識することを防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用したパワーモジュールの原理的な構成を示す図である。
【図2】半田層正常時におけるパワー半導体素子の温度分布を示す説明図である。
【図3】半田層劣化時におけるパワー半導体素子の温度分布を示す説明図である。
【図4】第1の実施の形態に係るパワーモジュールの回路図である。
【図5】第2の実施の形態に係るパワーモジュールの回路図である。
【図6】第3の実施の形態に係るパワーモジュールの回路図である。
【図7】第3の実施の形態に係るパワーモジュールの寿命推定動作を説明するフローチャートである。
【図8】交流電動機を駆動する三相インバータの回路構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、IGBTおよび還流ダイオードの組みがパワー半導体素子として同一の絶縁配線基板上に実装されているパワーモジュールに適用した場合を例に図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明を適用したパワーモジュールの原理的な構成を示す図、図2は半田層正常時におけるパワー半導体素子の温度分布を示す説明図、図3は半田層劣化時におけるパワー半導体素子の温度分布を示す説明図である。
【0023】
パワーモジュール1は、IGBT2とこれを保護するための還流ダイオード2aとを有している。IGBT2は、熱伝導性のよい金属ベース板3に固着されたセラミックス製の絶縁配線基板4の上に半田層5によって接合されている。還流ダイオード2aも同様にして、絶縁配線基板4に接合されている。
【0024】
IGBT2の表面中央部および表面周辺部の2箇所には、ダイオード6a,6bが取り付けられている。これらのダイオード6a,6bは、一定の電流を流したときの順方向電圧が温度の上昇とともに低下するという温度依存特性を利用し、温度検出手段として使用している。ダイオード6a,6bの出力は、温度勾配監視手段7に接続され、この温度勾配監視手段7において、IGBT2の表面中央部の温度と表面周辺部の温度との温度勾配(温度差)が監視される。IGBT2は、また、その動作状態、すなわち、オン状態かオフ状態かを検出する動作状態検出手段8が接続され、さらに、IGBT2を流れる電流値を検出する素子電流検出手段9が接続されている。そして、温度勾配監視手段7、動作状態検出手段8および素子電流検出手段9の出力は、寿命推定手段10に接続されている。寿命推定手段10は、温度勾配監視手段7、動作状態検出手段8および素子電流検出手段9の出力を基に、IGBT2を絶縁配線基板4に接合している半田層5が劣化したかどうかを推定し、その結果を寿命信号として出力する。
【0025】
ここで、IGBT2を絶縁配線基板4に接合している半田層5の劣化とIGBT2の表面温度との関係について説明する。まず、IGBT2が搭載される部分を詳細に見ると、図2に示したように、絶縁配線基板4の両面に回路パターン4a,4bが形成され、IGBT2は、上面側の回路パターン4aに半田層5によって接合されている。絶縁配線基板4の下面側の回路パターン4bも、同様に、半田層5aによって金属ベース板3が接合されている。
【0026】
半田層5の劣化がない正常時には、IGBT2がオン状態で自身が発熱し、その熱は、半田層5、回路パターン4a、絶縁配線基板4、回路パターン4bおよび半田層5aを介して金属ベース板3側へ放散されている。このとき、ダイオード6a,6bの位置に対応する温度分布は、表面中央部の温度T1が高く、表面周辺部の温度T2が低くなっている。これは、IGBT2から外気への熱の放散量が表面中央部よりも表面周辺部の方が大きいからである。
【0027】
半田層5は、このパワーモジュール1を搭載した装置の運転・停止の繰り返しによる温度変化(パワーサイクル)に起因して、図3に示すように、半田層5に亀裂11が生じるようになる。この亀裂11がIGBT2から絶縁配線基板4の方向に至る熱の放散経路上に発生すると、この放熱経路上の熱抵抗が大きくなって熱の放散が阻害されるようになる。この結果、IGBT2の表面の温度分布は、表面中央部の温度T1に比べて表面周辺部の温度T2が高くなるといった逆転現象が生じる。
【0028】
このような亀裂11の発生が進行すると、絶縁配線基板4への熱の放散がさらに阻害されるため、IGBT2の表面周辺部の温度T2だけでなく、表面中央部の温度T1も次第に上昇していき、遂には過熱によるIGBT2の素子破壊に至ってしまう。
【0029】
そこで、本発明では、半田層5に亀裂11が生じた場合に生じるIGBT2の表面中央部と表面周辺部との温度差の逆転現象に着目し、そのような逆転現象がIGBT2の動作中にあった場合に、半田層5が劣化したと推定し、寿命信号を出力するようにしている。すなわち、温度勾配監視手段7がダイオード6a,6bによって検出されたIGBT2の表面中央部の温度と表面周辺部の温度とを監視し、寿命推定手段10がそれらの温度差の逆転現象があった場合に、寿命信号を出力する。この寿命信号は、たとえばこのパワーモジュール1を搭載した装置の制御回路に送られ、制御回路は、パワーモジュール1の交換を促すなどの保護動作を実行する。
【0030】
ただし、温度差の逆転現象は、隣接するパワー半導体素子の発熱の影響を受けて生じる場合がある。たとえば、IGBT2が動作していなかったり、動作していても小電流での動作であったりして、発熱量がないまたは非常に少ないはずであるにも拘わらず、IGBT2が隣接するパワー半導体素子の発熱する熱を受けて表面周辺部の温度T2が表面中央部の温度T1より高くなることがある。そのような場合においても、寿命推定手段10は、誤って寿命信号を出力することがないようにする必要がある。本発明では、IGBT2の動作状態を検出する動作状態検出手段8およびIGBT2の素子電流を検出する素子電流検出手段9の少なくとも一方を備え、寿命推定手段10は、温度勾配監視手段7、動作状態検出手段8および素子電流検出手段9の検出結果に基づいて寿命を推定している。
【0031】
寿命推定手段10は、温度勾配監視手段7からIGBT2の表面における温度勾配の監視結果を受けるとともに、動作状態検出手段8からIGBT2がオン状態であるかオフ状態であるかの動作状態を受け、素子電流検出手段9からIGBT2を流れる電流値が基準値を超えているかどうかの比較結果を受けて、IGBT2の寿命を推定している。これにより、温度勾配監視手段7の監視結果がIGBT2の寿命到達を表していたとしても、動作状態検出手段8がIGBT2のオフ状態を検出していれば、寿命推定手段10は、寿命信号を出力しない。また、温度勾配監視手段7の監視結果がIGBT2の寿命到達を表し、動作状態検出手段8がIGBT2のオン状態を検出していたとしても、IGBT2を流れる電流値が基準値を超えていないとの比較結果を素子電流検出手段9が出力していれば、寿命推定手段10は、寿命信号を出力しない。このように、寿命推定手段10は、温度勾配監視手段7の監視結果を、動作状態検出手段8または素子電流検出手段9の検出結果に基づいて判断することにより、隣接するパワー半導体素子から伝達される熱の影響を受けたとしても、IGBT2が寿命であるとの誤認識を防止することができる。
【0032】
なお、図1の原理的なパワーモジュールの構成によれば、動作状態検出手段8および素子電流検出手段9の両方を備えているが、必要に応じて、いずれか一方だけでもよい。特に、素子電流検出手段9については、素子電流が基準値より小さいことを検出することによって実質的にIGBT2のオフ状態を検出できるので、動作状態検出手段8の機能を兼用させることができる。また、IGBT2が小電流駆動頻度の少ない負荷用の駆動装置に適用される場合には、素子電流検出手段9を省略して、動作状態検出手段8だけにすることもできる。
【0033】
図4は第1の実施の形態に係るパワーモジュールの回路図である。なお、この図4において、図1に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0034】
この第1の実施の形態に係るパワーモジュールは、素子電流検出手段9に動作状態検出手段8の機能を兼用させて構成した場合の例を示している。パワー半導体素子としてのIGBT2のコレクタおよびエミッタには、パワー半導体素子としての還流ダイオード2aのカソードおよびアノードが逆並列に接続され、ゲートには、駆動回路12が接続されている。この駆動回路12は、図示しない制御回路に接続されている。
【0035】
IGBT2のチップ表面には、温度検出手段としてのダイオード6a,6bが配置されている。ダイオード6aは、チップの表面中央部に配置され、ダイオード6bは、チップの表面周辺部に配置されている。これらのダイオード6a,6bのアノードは、差動増幅器21の入力に接続されるとともに、直流定電流源22a,22bを介して駆動回路電源23に接続され、カソードは、IGBT2のエミッタに接続されている。差動増幅器21の出力は、比較器24の非反転入力に接続され、その反転入力には、基準電圧源25が接続されている。基準電圧源25は、ダイオード6a,6bによって検出された温度差が半田層5の劣化と推定すべき温度差に対応する電圧値を出力する。比較器24は、ダイオード6a,6bによって検出された所定の温度勾配での温度差が所定の温度差を超えていない場合には、論理レベルLの信号を出力し、所定の温度勾配での温度差が所定の温度差を超えている場合には、論理レベルHの信号を出力する。したがって、差動増幅器21および比較器24は、ダイオード6a,6bが検出したIGBT2のチップの表面中央部の温度が表面周辺部の温度より低いときの温度差が所定の温度差を超えているかどうかを監視するもので、温度勾配監視手段7に対応する。
【0036】
IGBT2は、センスエミッタを有し、そのセンスエミッタは、電流検出用の抵抗26を介してエミッタに接続されている。センスエミッタと抵抗26との接続点は、比較器27の非反転入力に接続され、その反転入力は、基準電圧源28に接続されている。ここで、この基準電圧源28は、IGBT2の状態検出が、そのオン・オフ状態の検出を主としているのか、小電流動作状態の検出を主としているかによって基準電圧の値が決められている。
【0037】
IGBT2のオン・オフ状態を主として検出する場合、基準電圧源28の基準電圧は、ゼロに近い電圧値に設定され、小電流動作状態を主として検出する場合には、発熱量が少ないときの電流に相当する電圧値に設定される。したがって、比較器27は、IGBT2を流れる電流に相当する抵抗26の端子電圧と基準電圧源28の基準電圧とを比較して、電流相当電圧が基準電圧より低い場合、論理レベルLの信号を出力し、電流相当電圧が基準電圧より高い場合、論理レベルHの信号を出力する。
【0038】
比較器24の出力および比較器27の出力は、論理積ゲート回路29の入力に接続されている。この論理積ゲート回路29は、比較器24の出力および比較器27の出力が論理レベルHの信号の場合のみ、寿命信号を出力し、比較器24の出力および比較器27のいずれか一方の出力が論理レベルLの信号の場合は、寿命信号を出力しない。したがって、論理積ゲート回路29は、所定の温度勾配での温度差が所定の温度差を超えていると比較器24が判断しても、IGBT2が実質的にオフ状態または小電流動作状態であると比較器27が判断すれば、寿命信号を出力しない。つまり、論理積ゲート回路29は、IGBT2がオン状態または大電流動作状態である場合のみ寿命の推定を行う寿命推定手段10に対応する。
【0039】
以上の構成のパワーモジュールによれば、IGBT2と絶縁配線基板4との間の半田層5に劣化のない正常状態で動作中においては、ダイオード6aによって検出されたチップの表面中央部の温度は、ダイオード6bによって検出されたチップの表面周辺部の温度よりも常に高い。このため、ダイオード6aの順方向電圧は、ダイオード6bの順方向電圧よりも低くなるので、差動増幅器21は、ゼロ以下の電圧を出力する。この電圧は、基準電圧源25の基準電圧よりも低いので、比較器24は、論理レベルLの信号を出力する。論理積ゲート回路29は、比較器24から論理レベルLの信号を受けることで、比較器27からの信号の論理状態に関係なく、寿命信号を出力しない。
【0040】
半田層5に亀裂11が生じた状態でIGBT2が動作していると、そのチップの表面中央部よりも表面周辺部の温度が高くなってくる。すると、差動増幅器21は、その温度差に応じた電圧値を出力する。表面中央部の温度と表面周辺部の温度との温度差が大きくなって差動増幅器21の出力する電圧値が基準電圧源25の基準電圧よりも高くなると、比較器24は、論理レベルHの信号を出力する。このとき、比較器27がIGBT2を流れる電流を監視していて、IGBT2が実質的にオフ状態または小電流動作状態である場合、比較器27は、論理レベルLの信号を出力する。このため、論理積ゲート回路29は、比較器24の出力が半田層5の劣化を現した信号を出力していても、寿命信号を出力しない。つまり、IGBT2が実質的に動作していないまたは小電流動作の場合に表面中央部よりも表面周辺部の温度が高くなる状態は、IGBT2自身の発熱によるものではなく、隣接するパワー半導体素子の発熱によるものであると論理積ゲート回路29が推定し、寿命信号を出力しない。
【0041】
もし、IGBT2を流れる電流を監視している比較器27が、IGBT2のオン状態または大電流動作状態を検出している場合、比較器27は、論理レベルHの信号を出力する。このとき、比較器24が半田層5の劣化を示唆する論理レベルHの信号を出力していれば、論理積ゲート回路29は、論理レベルHの信号、すなわち、寿命信号を出力することになる。
【0042】
図5は第2の実施の形態に係るパワーモジュールの回路図である。なお、この図5において、図4に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0043】
この第2の実施の形態に係るパワーモジュールは、動作状態検出手段8と素子電流検出手段9を別個に備えて構成した場合の例を示している。この実施の形態の温度検出手段としては、共通の直流定電流源22と、ダイオード6a,6bと、抵抗30a,30bとを備えている。ダイオード6aと抵抗30aとの接続点は、差動増幅器21の反転入力に接続され、ダイオード6bと抵抗30bとの接続点は、差動増幅器21の非反転入力に接続されている。
【0044】
IGBT2のゲートに接続されている駆動回路12の出力は、比較器31の非反転入力に接続され、その反転入力は、基準電圧源32に接続されている。この比較器31は、IGBT2がオン状態かオフ状態かを判断するもので、動作状態検出手段8に対応する。駆動回路12は、IGBT2を駆動しているときは、駆動電圧信号を出力している。このため、比較器31は、その駆動電圧信号が基準電圧源32の基準電圧より低いと判断したとき、IGBT2がオフ状態であるとして論理積ゲート回路29に論理レベルLの信号を出力する。一方、駆動電圧信号が基準電圧源32の基準電圧より高いとき、比較器31は、IGBT2がオン状態であると判断して論理積ゲート回路29に論理レベルHの信号を出力する。
【0045】
以上の構成では、比較器24が半田層5の劣化を示唆する論理レベルHの信号を出力していないときには、比較器27,31の出力信号の論理状態に関係なく、論理積ゲート回路29は、寿命信号を出力しない。
【0046】
比較器24が半田層5の劣化を示唆する論理レベルHの信号を出力しているとき、比較器27がIGBT2の大電流動作を現す論理レベルHの信号を出力し、かつ、比較器31がIGBT2のオン状態を現す論理レベルHの信号を出力している場合のみ、論理積ゲート回路29は、論理レベルHの寿命信号を出力する。
【0047】
図6は第3の実施の形態に係るパワーモジュールの回路図、図7は第3の実施の形態に係るパワーモジュールの寿命推定動作を説明するフローチャートである。なお、この図6において、図5に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0048】
この第3の実施の形態に係るパワーモジュールは、素子電流検出手段9を省略し、動作状態検出手段8でIGBT2がオン状態かオフ状態かを判断するよう構成した場合の例を示している。この実施の形態では、IGBT2がオン状態であるかオフ状態であるかは、IGBT2のコレクタ電圧を監視することによって判断している。すなわち、動作状態検出手段8としての比較器27は、その反転入力をIGBT2のコレクタに接続し、非反転入力を基準電圧源28に接続している。
【0049】
次に、このパワーモジュールの寿命推定動作の流れについて図7を参照しながら説明する。まず、寿命推定動作をするに当たって、動作状態検出手段8の比較器27は、IGBT2の主回路端子間電圧であるコレクタ・エミッタ間電圧Vceを監視し、温度勾配監視手段7のダイオード6aは、IGBT2のチップの表面中央部の温度T1を監視し、ダイオード6bは、IGBT2のチップの表面周辺部の温度T2を監視している。
【0050】
寿命推定動作は、比較器27がIGBT2のコレクタ・エミッタ間電圧Vceと基準電圧源28の基準電圧Vref1とを比較し、コレクタ・エミッタ間電圧Vceが基準電圧Vref1以下かどうかを判断する。コレクタ・エミッタ間電圧Vceが基準電圧Vref1より高ければ(S1:No)、IGBT2は駆動回路12によって駆動されていないオフ状態にあって、このIGBT2に関する寿命推定は不要であることから、論理積ゲート回路29は、比較器24の判断結果を無視する。
【0051】
コレクタ・エミッタ間電圧Vceが基準電圧Vref1以下であれば(S1:Yes)、IGBT2は、駆動回路12によって駆動されてオン状態にあると判断される。この場合、差動増幅器21によりチップの表面中央部の温度T1が表面周辺部の温度T2より高い温度勾配を有しているかどうかが判断される。表面中央部の温度T1が表面周辺部の温度T2以上となる温度勾配であるなら(S2:Yes)、IGBT2は、正常動作していると判断される。表面中央部の温度T1が表面周辺部の温度T2よりも低い温度勾配を有している場合(S2:No)は、その温度差(T2−T1)に対応する出力電圧Voutが比較器24にて基準電圧源25の基準電圧Vref2と比較される。出力電圧Voutが基準電圧Vref2以下なら(S3:No)、正常動作の範囲内と判断される。出力電圧Voutが基準電圧Vref2より大きくなると(S3:Yes)、半田層5が劣化したと推定され、論理積ゲート回路29は、寿命信号を出力する。寿命信号を受けた制御回路は、たとえばこのパワーモジュールを組み込んだ装置を運転停止したり、パワー半導体素子の寿命到来の注意を喚起したりなどして、何らかのアラームを発することになる。
【0052】
上記の実施の形態では、ダイオードの温度特性を使用してパワー半導体素子の寿命推定を行っているが、他の温度検出手段によっても同様の目的を達成できることは明らかである。たとえば、ダイオードの代わりにサーミスタを使用し、その抵抗値変化を検出することによってもパワーモジュール各部の温度勾配を検出することができる。また、サーミスタの代わりに熱電対を使用して温度を検出してもよい。
【0053】
また、温度検出手段が接続される温度勾配監視手段7、動作状態検出手段8、素子電流検出手段9および寿命推定手段10の機能は、パワーモジュールの内部および外部のいずれに配置してもよい。
【0054】
さらに、上記の実施の形態では、チップの表面周辺部の温度T2が表面中央部の温度T1より高い温度勾配を有し、かつ、その温度差が所定の温度差より大きい場合に半田層5が劣化したと推定しているが、その所定の温度差をゼロにして、チップの表面周辺部の温度T2が表面中央部の温度T1に等しくなった時点で半田層5が劣化したと推定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 パワーモジュール
2 IGBT
2a 還流ダイオード
3 金属ベース板
4 絶縁配線基板
4a,4b 回路パターン
5,5a 半田層
6a,6b ダイオード
7 温度勾配監視手段
8 動作状態検出手段
9 素子電流検出手段
10 寿命推定手段
11 亀裂
12 駆動回路
21 差動増幅器
22,22a,22b 直流定電流源
23 駆動回路電源
24 比較器
25 基準電圧源
26 抵抗
27 比較器
28 基準電圧源
29 論理積ゲート回路
30a,30b 抵抗
31 比較器
32 基準電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁配線基板上に複数のパワー半導体素子を実装して構成されるパワーモジュールにおいて、
前記パワー半導体素子の表面中央部および表面周辺部の2箇所の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度を基にして温度勾配を監視する温度勾配監視手段と、
前記パワー半導体素子の動作状態を検出する動作状態検出手段と、
前記表面周辺部の温度が前記表面中央部の温度以上となる温度勾配を前記温度勾配監視手段が検出し、かつ、前記パワー半導体素子が動作していることを前記動作状態検出手段が検出したとき、寿命信号を出力する寿命推定手段と、
を備えていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】
前記温度勾配監視手段は、前記表面周辺部の温度が前記表面中央部の温度より高いときの温度差を検出する比較器を有し、前記温度差が所定の温度差を超えたときに、劣化を現す信号を前記寿命推定手段に出力するようにしたことを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール。
【請求項3】
前記動作状態検出手段は、前記パワー半導体素子を流れる電流を検出する回路を有し、前記パワー半導体素子を流れる電流が所定の電流値を超えたときに、前記パワー半導体素子が動作状態にあることを現す信号を出力するようにしたことを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール。
【請求項4】
前記動作状態検出手段は、前記パワー半導体素子の駆動信号を検出する回路を有し、前記駆動信号を検出したときに、前記パワー半導体素子が動作状態にあることを現す信号を出力するようにしたことを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール。
【請求項5】
前記動作状態検出手段は、前記パワー半導体素子の主回路端子間電圧を検出する回路を有し、前記主回路端子間電圧が小さいことを検出したときに、前記パワー半導体素子が動作状態にあることを現す信号を出力するようにしたことを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール。
【請求項6】
前記パワー半導体素子に流れる電流値を検出する素子電流検出手段を備え、
前記素子電流検出手段が前記パワー半導体素子の小電流動作を現す信号を出力しているとき、前記寿命推定手段の出力を無効にするようにしたことを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−23569(P2011−23569A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167638(P2009−167638)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】