説明

パワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置並びに移動体

本発明の目的は、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できる半導体素子を用いたパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置並びに移動体を提供することにある。パワー半導体素子(2)の表面電極と電極用の金属板(3)は、金属ワイヤ(8)により金属接合される。接合部特性検出回路(20)は、金属接合の接合部の特性を検出し、接合部の劣化による抵抗RT8の上昇と寿命の関係から決定したしきい値VLを用いて、接合部の劣化を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、半導体素子を用いたパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置並びに移動体に関する。
【背景技術】
近年、パワー半導体素子を用いたパワー半導体モジュールで構成された電力変換装置は、モータ等の負荷に効率良く電力を供給することができるため、電車,自動車等の移動体のモータ駆動に幅広く利用されている。特に、最近では、自動車用の燃費向上のためのアイドルストップ後の再始動用のモータの駆動に使われつつある。
パワー半導体素子は、電力変換装置の運転によるスイッチング、定常通電により発熱する。このため、異材間の接合部,例えば、単結晶シリコンからなるパワー半導体素子と、アルミからなるボンディングワイヤとの接合部では、線膨張係数の相違により、熱疲労による歪が生じる。そこで、従来は、長寿命化策として、温度上昇の少ない運転制御方法,パワー半導体モジュールを並列接続し電流密度を低減した構成,温度を低減するために冷却能力を拡大する方法,低熱抵抗の材料選定などにより、パワー半導体素子の温度上昇を抑え、温度マージンを大きくとることで、パワーモジュールの長寿命化、高信頼化を図ってきた。
一方では、突然の破壊で装置停止することによる損害を防ぐため、例えば、特開平7−14948号公報に記載されるように、熱電対等の温度センサをパワー半導体モジュールに内蔵し、各接合部劣化による熱抵抗変化を使用中の温度モニターにより把握するものが知られている。また、特開平8−275586号公報に記載されるように、寿命をスイッチング動作の開始回数で置き換え、動作の開始回数をカウントすることにより寿命を把握する方法も知られている。さらには、特開2002−101668号公報に記載されるように、パワー半導体モジュールに温度検出器をとりつけ、毎運転時の温度上昇から累積被害率を計算し、寿命を算出する方法も知られている。
【発明の開示】
しかしながら、従来の温度上昇の少ない運転制御方法等の長寿命化方法では、パワー半導体モジュールや冷却装置が大型化するという問題があった。
また、特開平7−14948号公報等に記載された寿命予測方法では、温度センサの精度や、予測精度をこれまで以上に向上させる必要がある。パワー半導体モジュールは基本的に低い熱抵抗材料で構成されているため、亀裂による金属接合部の熱抵抗増加を、温度検知するためには1℃以下の精度が必要で、冷却能力の変化、環境温度の変化を考慮すると、実現が厳しい。特に、ワイヤボンディング等の金属接合部の劣化は、パワー半導体素子による発熱に対して劣化部の発熱、放熱が少ないため温度検知が非常に厳しいという問題があった。
本発明の目的は、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できる、半導体素子を用いたパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置並びに移動体を提供する。
(1)上記目的を達成するために、本発明は、表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールにおいて、前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
(2)上記(1)において、好ましくは、前記接合部特性検出手段は、前記接合部の劣化による抵抗若しくは電圧の上昇と寿命の関係から決定したしきい値を用いて、前記接合部の劣化を予測するようにしたものである。
(3)上記(1)において、好ましくは、前記金属接合は、金属ワイヤにより接合されるものである。
(4)上記(1)において、好ましくは、前記接合部特性検出手段によって検出された接合部の特性を記憶する記憶手段を備えるようにしたものである。
(5)上記(1)において、好ましくは、前記接合部特性検出手段によって前記金属接合の接合部の特性を検出する電圧端子を備えたものである。
(6)上記目的を達成するために、本発明は、表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールにおいて、前記金属接合の接合部の特性を検出する電圧端子を備えるようにしたものである。
かかる構成により、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
(7)また、上記目的を達成するために、本発明は、表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールを複数個有し、直流ー交流変換をする電力変換装置において、前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
(8)上記(7)において、好ましくは、前記接合部特性検出手段は、検出された特性に基づいて予測された寿命に近づくと、定格運転より低い運転制御に切り替えるようにしたものである。
(9)上記目的を達成するために、本発明は、表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールを複数個有し、直流ー交流変換をする電力変換装置と、この電力変換装置によって直流から交流に変換された電力を用いて駆動するモータとを有する移動体において、前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
(10)上記(9)において、好ましくは、前記移動体は、前記移動体の停車時に動力を停止し、発進時に動力を起動するアイドリングストップの運転モードにより運転されるものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。
図2は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。
図3は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールに用いる接合部特性検出回路20によって検出される接合部の特性図である。
図4は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第2の回路図である。
図5は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第3の回路図である。
図6は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路図である。
図7は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路構成を用いて、素子の温度特性を利用しても接合劣化を検出する場合の原理説明の断面構成図である。
図8は、図7の構成における特性図である。
図9は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路構成における接合部特性検出回路20Bの詳細回路図である。
図10は、本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。
図11は、本発明のその他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。
図12は、本発明のその他の実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。
図13は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムのブロック図である。
図14は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムの動作を示すフローチャートである。
図15A、図15Bは、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムの動作を示すタイムチャートである。
図16は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の回路図である。
図17は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置のシステム構成図である。
図18は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第2の回路図である。
図19は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置による寿命予測の原理説明図である。
図20は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第3の回路図である。
図21は、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。
図22は、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの回路構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。
パワー半導体素子2は、ここでは、IGBTを例にして説明する。パワー半導体素子2は、上面電圧端子11と、ゲート端子12と、下面電圧端子13とを備えている。パワー半導体素子2のエミッタは、図2を用いて後述するように、複数の金属ワイヤ8および金属板3を介して、アースに接続される。また、パワー半導体素子2のコレクタは、ハンダを介して下面電圧端子13に接続される。ここで、パワー半導体素子2のエミッタと金属ワイヤ8は、超音波接合されるため、複数の第1の接合部が形成され、また、金属ワイヤ8と金属板3も、超音波接合されるため、複数の第2の接合部が形成される。抵抗Rt8は、これらの第1および第2の接合部の抵抗を示している。また、抵抗Rt9は、パワー半導体素子2のコレクタと下面電圧端子13を接合するハンダによる接合部の抵抗を示している。
接合部特性検出回路20は、上面電圧端子11と、新たに設けられた電圧端子10に接続され、抵抗Rt8の両端電圧を検出する。接合部特性検出回路20は、検出された電圧値,若しくは電圧値から求められた抵抗値により、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。寿命の判定方法については、図3を用いて後述する。判定した結果は、表示器30に表示され、接合部の寿命が短くなると警報器32により警報し、また、接合部の特性や寿命を記憶部34に記憶する。記憶部34に記憶された情報は、携帯端末40を接続することにより、外部から読み出すことができる。パワー半導体モジュールを電動車両等に用いる場合は、カーディーラや自動車の修理工場が携帯端末40を有しており、この携帯端末40を用いて、接合部の寿命に関するデータを読み出すことができる。
次に、図2を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
パワー半導体モジュール1は、表面に電極を持つパワー半導体素子2と、外部電極用の金属板3と、放熱用の金属板4と、両面が金属メッキ6され電極ともなる絶縁板5と、これらを支える絶縁樹脂の構造材7とを備えている。パワー半導体素子2の下面は、スイッチング時や定常通電時の発熱を放熱するため、放熱用の金属板4に、絶縁板5を介して、ハンダ9で金属接合されている。また、パワー半導体素子2の上面と外部電極用の金属板3は、複数の金属ワイヤ8により超音波接合されている。金属板3は、接地される。図1の回路図から理解されるように、パワー半導体素子2の上面電極(エミッタ)からアースに大電流が流れるため、金属ワイヤ8は複数本用いている。各電圧端子として、パワー半導体素子の上面電圧端子11,ゲート端子12,下面電圧端子13が設けられている。上面電圧端子11は、パワー半導体素子2のエミッタ電極に接続される。ゲート端子12は、パワー半導体素子2のゲート電極に接続される。下面電圧端子13は、パワー半導体素子2のコレクタ電極に接続される。
ここで、パワー半導体素子2のエミッタ電極と金属ワイヤ8との間に、複数の第1の接合部が形成され、金属ワイヤ8と金属板3との間に、複数の第2の接合部が形成され、これらの合成抵抗が、図1に示した抵抗Rt8である。また、パワー半導体素子2のコレクタ電極と下面電圧端子13を接合するハンダ9による接合部が形成され、この抵抗が、図1に示した抵抗Rt9である。
さらに、本実施形態では、第1の接合部の劣化の程度を判定するために、外部電極の電圧端子10を新たに設けている。パワー半導体素子2は、通電により発熱し、温度が上昇・下降を繰り返す。例えば、パワー半導体素子2は、主に単結晶シリコンからなり、線膨張係数は約4.2×10−6/℃であるのに対して、金属ワイヤ8は、純アルミまたは数ppmのニッケル含有のアルミからなり、線膨張係数は約23×10−6/℃で、約5倍の違いがある。このため、長い間の使用により、線膨張係数の違いによる歪が生じ、パワー半導体素子2の上面で接合された金属ワイヤ8の接合部には亀裂の発生・進展が生じる。この亀裂・進展により、金属ワイヤ8の接合面積は、長い間の使用により、徐々に小さくなり、この部分は電気抵抗が徐々に大きくなる。そして、図1に示したように、電圧端子10および上面端子11を用いて、第1の接合部の両端電圧を測定するようにしている。同様にして、下面の接合部であるハンダ9も電気抵抗が徐々に大きくなる。したがって、ハンダ9の接合部の抵抗によっても、接合部の劣化を判定することができる。
なお、以上の説明では、パワー半導体素子2として、IGBTを例にしているが、MOSFETを用いた場合についても同様である。
次に、図3を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールに用いる接合部特性検出回路20によって検出される接合部の特性について説明する。
図3は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールに用いる接合部特性検出回路20によって検出される接合部の特性図である。
図3において、横軸は、耐久回数,すなわち、パワー半導体素子のスイッチング回数を示している。縦軸は、接合部特性検出回路20によって検出される接合部の電圧を示している。なお、接合部を流れる電流を検出することができるので、接合部の抵抗であってもよいものである。
図3に示すように、耐久回数が増加するに従って、接合部の電圧は次第に増加する。パワー半導体素子の長い間の使用により、線膨張係数の違いによる歪が生じ、パワー半導体素子2の上面で接合された金属ワイヤ8の接合部には亀裂の発生・進展が生じる。この亀裂・進展により、金属ワイヤ8の接合面積は、長い間の使用により、徐々に小さくなり、この部分は電気抵抗が徐々に大きくなる。
この中で、点D1,D2,D3においては、特性を示す曲線が屈曲し、各点において、電圧値が急激に増加している。これは、図2に示したように複数本ある金属ワイヤ8の複数の接合部の内の、1カ所ないし数カ所が切断され、パワー半導体素子2のエミッタ電極と金属板3とを接続する金属ワイヤ8の本数が減少して、金属ワイヤ8の合成抵抗値が急激に増加したことを示している。
点D4では、全ての金属ワイヤ8の接合部が切断され、電圧値は無限大に上昇することを示している。したがって、点D1におけるように、接合部の最初の破壊を検出することにより、半導体パワーモジュールの寿命を知ることができる。点D1におけるしきい値VLを求めるには、予め、寿命時の金属接合部の抵抗を試験、または、面積計算によりもとめ、設計マージンをとった寿命時の金属接合部の抵抗、または電圧のしきい値を決定する。
図1に示した回路構成では、初期状態においては、金属ワイヤ8と金属板3の抵抗は小さく、初期電圧V0は、殆ど0Vである。一方、しきい値VLは、例えば、100mV程度となる。もちろん、このしきい値の値は、回路構成によって異なるものである。
さらに、上述の考え方から、現在の寿命を次のようにして求めることができる。すなわち、現在の寿命=(現在の金属接合部の電圧V−初期の金属接合部電圧V0)/(しきい値VL−初期の金属接合部電圧値V0)として、寿命(%)を求めることができる。
接合部特性検出回路20は、求められた寿命を表示器30に表示する。また、接合部特性検出回路20は、検出された接合部の電圧がしきい値VLとなるか、しきい値VLに近接した場合に、警報器32から警報を出力する。さらに、接合部特性検出回路20は、検出された接合部の電圧値若しくは求められた接合部の寿命を記憶部34に記憶する。記憶された内容は、外部端末40を用いることにより、記憶部34から読み出すことができる。
次に、図4を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの第2の回路構成について説明する。
図4は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第2の回路図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
接合部特性検出回路20Aは、下面電圧端子13と、新たに設けられた電圧端子10に接続され、抵抗Rt8および抵抗Rt9の両端電圧を検出する。すなわち、接合部特性検出回路20Aは、金属ワイヤ8の接合部の抵抗Rt8とハンダ9の接合部の抵抗Rt9をモニターする。
ただし、この場合、パワー半導体素子2の電圧も含むことになる。そして、パワー半導体素子2は、温度により電圧が変化する。そこで、パワー半導体素子2の温度を検出する温度センサ52と、温度センサ52によって検出されたパワー半導体素子2の温度に基づいて、パワー半導体素子2の温度特性を補正する温度補正回路50を備える。接合部特性検出回路20Aは、温度補正回路50の出力によって接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、図1に示したように、表示器30,警報器32,記憶部34に出力する。
なお、パワー半導体素子モジュールの使用開始直後のように、通電による発熱がまだ殆どなく、外気温と同じ状態であれば、毎回ほぼ同じ温度の状態で測定することができるので、金属接合部の抵抗による電圧の測定が可能となる。したがって、通電直後のようなほぼ同じ温度の状態で測定すれば、温度センサ52や、温度補正回路50は不要となる。
次に、図5を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの第3の回路構成について説明する。
図5は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第3の回路図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
接合部特性検出回路20Aは、下面電圧端子13と、上面電圧端子11に接続され、抵抗Rt9の両端電圧を検出する。すなわち、接合部特性検出回路20Aは、ハンダ9の接合部の抵抗Rt9をモニターする。
ただし、この場合、パワー半導体素子2の電圧も含むことになるので、温度センサ52と温度補正回路50とにより温度補正する。接合部特性検出回路20Aは、温度補正回路50の出力によって接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、図1に示したように、表示器30,警報器32,記憶部34に出力する。
次に、図6〜図9を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路構成を用いて、素子の温度特性を利用しても接合劣化を検出する方法について説明する。
図6は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路図である。図7は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路構成を用いて、素子の温度特性を利用しても接合劣化を検出する場合の原理説明の断面構成図である。図8は、図7の構成における特性図である。図9は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第4の回路構成における接合部特性検出回路20Bの詳細回路図である。なお、図1,図2と同一符号は、同一部分を示している。
図6に示すパワー半導体素子2Aとしては、パワーMOS−FETを用いている。パワーMOS−FETは、図8を用いて図示するように、温度上昇すると電気抵抗(若しくは通電電圧)が増加する特性を有している。図6の回路構成は、基本的には、図5に示したものと同様である。なお、接合部特性検出回路20Bの構成については、図9を用いて後述する。
パワーMOSFETの温度特性は、温度上昇すると電気抵抗が増加する特性を有しているため、ハンダ接合部の劣化時のハンダ9の電気抵抗Rt9が、パワーMOSFETの電気抵抗Rt2に比べて極めて小さくても、電圧の変化が生じ、ハンダ劣化が検出可能になる。接合部特性検出回路20Bによって検出される検出電圧は、ハンダ9の接合部の抵抗Rt9とパワー半導体素子2の抵抗Rt2で発生する電圧の和となるが、Rt9<< Rt2ではほぼパワー半導体素子の抵抗Rt2で発生する電圧となる。
ここで、図7を用いて、ハンダ9の劣化について説明する。図7(A)は劣化前の状態を示し、図7(B)は劣化後の状態を示している。図7(B)に示すように、ハンダ9(9A,9B)の劣化DTRは、パワー半導体素子2の下面側のハンダ9Bの端部から進むため、端部で熱抵抗が大きくなる。パワー半導体素子2の下面側には、冷却手段である放熱用金属板4が配置されており、パワー半導体素子2の発熱は放熱用金属板4から放熱されるため、パワー半導体素子2の面内で端部と中央部で放熱の差が生じる。従って、パワー半導体素子が温度上昇すると抵抗が増加する特性を有するときは、温度が高い端部で抵抗が大きく電流が少なくなる。つまり、素子面内で温度差が無くなる方向に、温度が均一化する方向に電流分担が生じる。すなわち、図7(A)に示すハンダ劣化前の電流ベクトルIVの分布に対して、図7(B)に示すように、劣化後の電流ベクトルIVの分布は偏った分布に変化する。
ここで、抵抗Rt2は、素子面積Sに対してRt2∝1/Sの逆比例関係にあり、面積Sが小さくなると抵抗Rt2が大きくなる。このようにパワー半導体素子2を電流が偏って流れる場合、パワー半導体素子2の通電面積が減少した形になり、パワー半導体素子2の特性劣化がなくても、パワー半導体素子2の抵抗Rt2が増大する。つまり、本実施形態の電圧検出では、ハンダの電気抵抗の増加ではなく、熱抵抗の増加を抵抗Rt2の増加により検出し、ハンダ接合劣化が検出可能となる。
ここで、図8を用いて、ハンダ劣化試験時のハンダ劣化検出結果を示す。図8において、横軸はパワー半導体素子の温度を示し、縦軸は検出された抵抗値を示している。実線Aは、劣化前のパワー半導体素子の抵抗特性を示している。実線Bは、6個の試験数について、劣化状態のパワー半導体素子の抵抗特性を示している。実線Bは、実線Aに比べ、抵抗値が上昇していることがわかる。
以上のようにして、パワー半導体素子に温度特性(温度上昇すると電気抵抗が増加する特性)があり、かつ、パワー半導体素子の発熱を冷却手段により放熱する構成であれば、接合部で発生する電圧を検出できるように電圧端子を配置しなくても、パワー半導体素子の両端電圧を検出することにより、接合部の劣化を検出することができる。
次に、図9を用いて、接合部特性検出回路20B及び温度補正回路50の構成について説明する。接合部特性検出回路20Bは、電圧検出回路22と、抵抗計算回路24と、劣化計算回路26と、温度特性リセット回路28とを備えている。
電圧検出回路22は、保護ダイオードD1と、A/DコンバータAD1とを備えている。保護ダイオードD1は、過電圧から検出装置を保護するために備えられている。検出すべき電圧V1,V2(接合部9とパワー半導体素子Aとで発生する電圧)は、A/DコンバータAD1によってディジタル信号に変換される。
抵抗計算回路24は、端子V1,V2間の電圧V3と、外部から入力された電流値Iから、現在の抵抗Rnを算出する。電流値Iは、モータ制御回路に用いている電流信号を流用してもよいし、新たに電流センサを取り付けて計測した電流値を用いてもよいものである。
温度補正回路50は、抵抗計算回路24によって算出された抵抗値Rnに対して、温度センサ52によって検出された素子温度Tjに基づいて、パワー半導体素子が温度Tjの時の初期抵抗R0,予測寿命抵抗RLを出力する。MOS−FETのようなパワー半導体素子は、初期R0特性CR0に示すように、温度上昇すると電気抵抗が増加する特性を有している。
また、接合部の劣化が進むと、図8に示すように、初期特性に対して、全体として抵抗値が増加する。例えば、図7(B)に示した構成において、劣化DTRがハンダ9による接続面積の50%になったときが劣化の限界(寿命)とすると、このとき、寿命時の抵抗値RLは、初期値R0の2倍となる。また、例えば、劣化DTRがハンダ9による接続面積の33%になったときが劣化の限界(寿命)とすると、このとき、寿命時の抵抗値RLは、初期値R0の1.5倍となる。このようにして、予め、どの程度の劣化が進んだ時を寿命とするかによって、予測寿命RL特性CRLを予め求めることができる。そこで、温度補正回路50は、初期R0特性CR0とともに、予測寿命RL特性CRLを有している。
そして、温度補正回路50は、抵抗計算回路24によって算出された抵抗値Rnに対して、初期R0特性CR0と、温度センサ52によって検出された素子温度Tjから、パワー半導体素子が温度Tjの時の初期抵抗R0を求め、また、抵抗計算回路24によって算出された抵抗値Rnに対して、予測寿命RL特性CRLと、温度センサ52によって検出された素子温度Tjから、パワー半導体素子が温度Tjの時の予測寿命抵抗RLを出力する。
劣化計算回路26は、抵抗計算回路24が算出した現在の端子間抵抗Rnと、温度補正回路50が出力する初期抵抗R0と、予測寿命抵抗RLとを用い、接続劣化割合Cr=(Rn−R0)/(RL−R0)を計算し、出力する。接続劣化割合Crは、寿命に対する現在の劣化の程度を示している。
なお、温度特性リセット回路28は、次のような場合に用いられる。すなわち、温度補正回路50に記憶されている初期抵抗R0,予測寿命抵抗RLの温度特性は、パワー半導体素子2のバラツキ,モジュール組み立て時のハンダ9の接合バラツキを考慮し、パワー半導体モジュールの出荷前に初期値を補正することが好ましいものである。そこで、出荷前に、温度特性リセット回路29に対してリセット信号Restを入力することで、温度特性を補正することができる。
ここで、図10を用いて、本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成について説明する。
図10は、本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。
図2に示した構成では、パワー半導体素子2の上面と外部電極用の金属板3は、複数の金属ワイヤ8により超音波接合されている。それに対して、本例では、パワー半導体素子2の上面と外部電極用の金属薄板3は、銅等の電気伝導性の良い板状のリード導体8Aにより、接続されている。パワー半導体素子2の上面と板状のリード導体8Aとの間、及び外部電極用の金属板3と板状のリード導体8Aとの間は、それぞれ、ハンダ9により接続されている。
この場合、上面電圧端子11,下面電圧端子13は、金属薄板8Aとパワー半導体素子2の接続部で発生する電圧を検出することはできないものである。しかし、図6〜図9を用いて上述のように、電気抵抗ではなく、パワー半導体から冷却部までのトータル熱抵抗の増加として検出できるため、パワー半導体素子の上面ハンダ,下面ハンダのトータルの劣化が検出できる。もちろん、金属薄板8Aとパワー半導体素子2の接続部を含むように電圧端子を配置を配置してもよいものである。
なお、パワー半導体素子モジュールの使用開始直後(例えば、電動車両やハイブリット車両用インバータとしてパワー半導体素子モジュールを場合であって、走行後の再始動時ではなく、最初の始動時)のように、通電による発熱がまだ殆どなく、外気温と同じ状態であれば、毎回ほぼ同じ温度の状態で測定することができるので、金属接合部の抵抗による電圧の測定が可能となる。したがって、通電直後のようなほぼ同じ温度の状態で測定すれば、温度センサ52や、温度補正回路50は不要となる。
また、接合部劣化検出回路20Aでは、劣化計算回路26を用いて接合劣化割合の結果を出力したが、予めしきい値となる抵抗値と比較してエラー信号を出力する比較回路に置き換えてもよいものである。
さらに、予め電流値が定まるタイミング、もしくは、定電流機構を搭載し、常に同じ電流値で接合部電圧を取り込めるようにすると、電流値は必要なく、電圧値のまま処理することもできる。
また、予めパワー半導体素子の温度が定まるタイミングにより、常に同じ温度で取りこむことにより、温度補正回路50を無くすことも可能である。この場合、定めたパワー半導体素子の初期抵抗R0、予測寿命抵抗RLの2値を記憶する回路のみとなる。
さらに、インバータ始動直後、もしくは停止直前に検出し、接合劣化検出を実施することにより、突然の破壊による損失を防ぎ、高信頼パワー半導体モジュールシステムを構築することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、外部端子を設けて、接合部の電圧を測定するだけでよいため、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
次に、図11および図12を用いて、本発明のその他の実施形態によるパワー半導体モジュールの構成及び動作について説明する。
最初に、図11を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成について説明する。
図11は、本発明のその他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態において、図2に示した実施形態と異なる点は、外部電極側の電圧端子10Aをパワー半導体素子の電極11,12,13と同様の形状で設けたところである。電圧端子10Aは、金属ワイヤ8Bによって外部電極3と接続されている。
次に、図12を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの回路構成について説明する。
図12は、本発明のその他の実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態において、図1に示した実施形態と異なる点は、接合部特性検出回路20は、上面電圧端子11と、電圧端子10Aに接続され、抵抗Rt8の両端電圧を検出することである。接合部特性検出回路20は、検出された電圧値,若しくは電圧値から求められた抵抗値により、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、図1と同様に、表示器30,警報器32,記憶部34に出力される。
本実施形態では、図2に示した例に対して、図2の外部電極3が発生する電圧の影響、図2の電圧端子10の接触抵抗による影響が除外され、ワイヤ接合部の抵抗による電圧を精度良く測定可能となる。
アイドルストップ等の極短時間に大電流を通電する運転モードで、放熱用の金属板4があまり温度上昇せず、ハンダ9の接合部よりも金属ワイヤ8の接合部の劣化進行が早い場合は、本例が有効である。
以上説明したように、本実施形態によれば、外部端子を設けて、接合部の電圧を測定するだけでよいため、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
次に、図13〜図15を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムの構成及び動作について説明する。
図13は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムのブロック図である。図14は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムの動作を示すフローチャートである。図15は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの制御システムの動作を示すタイムチャートである。なお、図6,図9と同一符号は、同一部分を示している。
図13において、コントロールユニット(CU)60は、パワー半導体素子2Aのゲート端子に、オンオフの制御信号V12を出力する。この制御信号V12によって、パワー半導体素子2Aは、オンオフのスイッチング動作を行う。接合部特性検出回路20Cは、パワー半導体素子2Aがオンしているタイミングでないと接合部の特性を検出できないため、電圧検出回路22Aのスイッチ回路SW1は、CU60からの制御信号VSWGによってオンとなり、パワー半導体素子2Aがオンしているタイミングで、電圧V1,V2を検出し、A/DコンバータA1によりディジタルの差電圧V3を出力する。
次に、図14及び図15を用いて、CU60の動作について説明する。
ステップs10において、CU60は、パワー半導体素子2Aがオン状態かオフ状態かを判定する。CU60は、パワー半導体素子2Aに対してオンオフするための制御信号V12を出力しているので、この制御信号V12の状態からパワー半導体素子2Aがオン状態かオフ状態かを判定することができる。
パワー半導体素子2Aがオン状態と判定されると、CU60は、所定時間td1の遅れ時間を設定し、この遅れ時間td1が経過すると、ステップs30に進む。
そして、ステップs30において、CU60は、電圧V1,V2を取り込むべく、制御信号VSWGをオンにして、スイッチ回路SW1を閉じる。これによって、電圧信号の取り込みを開始できる。
図15において、図15(A)は制御信号V12のオン・オフ状態を示し、図15(B)は制御信号VSWGのオン・オフ状態を示している。制御信号V12がオンになった直後は高周波の振動電圧が生じるため、制御信号V12がオンになった直後に電圧信号を検出すると、誤差が生じることになる。そこで、制御信号V12のオンに対して、制御信号VSWGのオンタイミングに、時間遅れtd1を持たせている。時間遅れtd1は、例えば、1〜2μs程度である。
次に、図14のステップ40において、ステップs30の電圧取り込みが終了した時点で、CU60は、パワー半導体素子2Aがオン状態かオフ状態かを再度判定する。すなわち、図15(B)に示す例で、時刻t3にステップs30の電圧取り込みが終了したとすると、このタイミングで、もし、制御信号V12がオフになっていると誤差が生じる恐れがある。そこで、ステップ40において、ステップs30の電圧取り込みが終了した時点で、CU60は、パワー半導体素子2Aがオン状態かオフ状態かを再度判定し、その時点でパワー半導体素子2Aがオン状態であれば正常な取り込みができたものとして処理を終了するが、パワー半導体素子2Aがオフ状態の場合には、ステップs10に戻り、再度の取り込みを行うようにしている。取り込みに要する時間(時刻t2〜t3)は、例えば、10〜20μs程度である。
なお、予め電流値が定まるタイミング、もしくは、定電流機構を搭載し、常に同じ電流値で接合部電圧を取り込めるようにすると、電流値は必要なく、電圧値のまま処理することもできる。
また、予めパワー半導体素子の温度が定まるタイミングにより、常に同じ温度で取りこむことにより、温度補正回路50を無くすことも可能である。この場合、定めたパワー半導体素子の初期抵抗R0、予測寿命抵抗RLの2値を記憶する回路のみとなる。
さらに、インバータ始動直後、もしくは停止直前に検出し、接合劣化検出を実施することにより、突然の破壊による損失を防ぎ、高信頼パワー半導体モジュールシステムを構築することができる。
次に、図16および図17を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の構成及び動作について説明する。
図16は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の回路図である。図17は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置のシステム構成図である。
図16に示すように、電力変換装置16は、3相交流モータ17を制御する場合、6個のパワー半導体素子2a,2b,2c,2d,2e,2fを備えており、バッテリ19の直流電流を3相交流電流に変換して、モータ17に供給する。例えば、パワー半導体素子2a,2bは、U相交流電流を生成し、パワー半導体素子2c,2dは、V相交流電流を生成し、パワー半導体素子2e,2fは、W相交流電流を生成する。パワー半導体素子2a,2b,2c,2d,2e,2fは、モータコントロールユニット(MCU)60によりゲート電圧を制御され、スイッチング動作する。なお、コンデンサ18は、フィルタコンデンサとして用いられている。
上側パワー半導体素子2a,2c,2eは高電圧に接続され、下側パワー半導体素子2b,2d,2fはグランドに接続されている。この場合、電圧測定しやすい、グランド側に接続されているパワー半導体モジュール2b,2d,2fのうち、さらにモジュール内で最も温度が高くなるパワー半導体素子の金属接合部の電圧を取り出すことにより、高電圧を考慮しなくても簡単に電圧を取り出すことができる。具体的には、下側パワー半導体素子2b,2fは両端部に配置されるために比較的放熱状態がよいの対して、中央の下側パワー半導体素子2dは放熱状態が悪く、高温になりやすい。そこで、接合部特性検出回路20は、中央の下側パワー半導体素子2dの金属ワイヤ接合部の両端電圧を、図1に示した構成により、検出する。
図17に示すように、モータコントロールユニット60は、運転者の加速の程度のような意図を検出するセンサ62の出力に応じて、電力変換装置16を構成するパワー半導体素子をスイッチング駆動する。これによって、バッテリ19からモータ17に供給されるモータ駆動電流が制御される。ここで、センサ62としては、例えば、アクセル開度センサが用いられる。
接合部特性検出回路20は、図1に示したようにして、接合部電圧Vとして、金属ワイヤの接合部の抵抗Rt8の両端電圧を検出する。なお、モータ駆動電流Iをモニタすることにより、接合部特性検出回路20は、接合部の抵抗値により劣化の具合を判定するようにすることもできる。接合部特性検出回路20は、検出された電圧値,若しくは電圧値から求められた抵抗値により、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、表示器30に表示され、接合部の寿命が短くなると警報器32により警報し、また、接合部の特性や寿命を記憶部34に記憶する。記憶部34に記憶された情報は、携帯端末を接続することにより、外部から読み出すことができる。
次に、図18および図19を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第2の構成及び動作について説明する。
図18は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第2の回路図である。なお、図16と同一符号は、同一部分を示している。図19は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置による寿命予測の原理説明図である。
図18に示すように、本例では、図16に示した構成に加えて、寿命予測回路22を備えている。寿命予測回路22は、図19に示すように、これまでの寿命推移から、直線近似で将来の寿命を予測する。この予測結果を表示器30に表示する。表示内容は、例えば、「本装置の寿命は、x年y月z日です」というようにする。これにより、使用者は、時間で寿命を把握することが出来る。
次に、図20を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第3の構成及び動作について説明する。
図20は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第3の回路図である。なお、図16と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態では、接合部特性検出回路20Bは、判定された半導体パワーモジュールの寿命が所定に寿命になると、モータコントロールユニット60に対して、パワーセーブ信号PSを出力する。モータコントロールユニット60は、パワーセーブ信号が入力すると、モータ17に供給する電流を減少させ、モータの出力トルクを小さくして、パワーセーブ運転とする。モータ電流が小さくなることにより、接合部に流れる電流も小さくなるため、接合部の寿命を長くすることができる。パワーセーブ信号を出力するときの寿命は、例えば、95%とする。また、パワーセーブ信号を出力したときは、表示器30に、「現在寿命xx%。パワーセーブ運転中」というような表示をする。これにより寿命に近づくと、運転が制限され、モータの停止による損害を防ぐことができる。
次に、図21を用いて、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体の構成について説明する。
図21は、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。なお、図20と同一符号は、同一部分を示している。
移動体70は、モータ17のみによって駆動される電気自動車や、モータとエンジンによって駆動されるハイブリット自動車等の電動車両である。モータ17は、図20に示した電力変換システムによって駆動される。接合部特性検出回路20Bがパワーセーブ信号を出力したときは、表示器30に、「現在寿命xx%。パワーセーブ運転中。点検してください」というような表示をする。これにより、電力変換装置の交換時期の把握ができるため、コストを低減が可能で、移動体に搭載することができる。特に、自動車用の燃費向上のためのアイドルストップ用のモータ駆動のような、通電モードの電力変換装置として有効である。
ここで、図22を用いて、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体の構成について説明する。
図22は、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。なお、図21と同一符号は、同一部分を示している。
本実施形態は、モータ17に加えて、エンジン80を備えているハイブリット自動車に適用した場合を示している。例えば、モータ17によって前輪を駆動し、エンジン80によって後輪を駆動する。なお、モータ17によって後輪を駆動し、エンジン80によって前輪を駆動するものでもよく、モータ17及びエンジン80によって前輪若しくは後輪を駆動するものであってもよいものである。
エンジンコントロールユニット(ECU)70は、クランク角センサ92によって検出されたエンジン回転数や、空気流量センサ93によって検出された吸入空気量等に応じて、エンジン80に対する燃料噴射量や点火時期を制御する。ECU70は、例えば、ブレーキペダルセンサ94によってブレーキが踏まれていることを検出し、しかも、車速センサ95によって車速が0km/hであり停止状態にあることを検出するなどの所定の条件を満たされると、エンジン80を停止して、アイドルストップする。その後、ブレーキペダルセンサ94によってブレーキの踏込みが中止され、アクセルペダルセンサ96によってアクセルペダルが踏み込まれたことを検出するなどの所定の条件を満たされると、MCU60にモータ駆動の指令を送る。MCU60によってモータ17が駆動されると、移動体が移動を始める。ECU70は、車速センサ95によって検出される車速が0km/hより早くなり、移動体が移動し始めたことを検出すると、燃料噴射制御や点火時期制御を開始して、エンジン80を再始動する。以上のようにして、アイドルストップ時には、モータ17により移動体を移動開始するとともに、その後はエンジン70を再始動する。
以上説明したように、本発明の各実施形態によれば、金属接合部の劣化を、その抵抗上昇や電圧上昇により検知することで、パワー半導体モジュール,それを用いた電力変換装置,電気自動車等の移動体において、保守費用のコストダウンや、小型化,軽量化による燃費等のユーザメリットの拡大、予期せぬ破壊による損害の低減を実現できる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できる半導体素子を用いたパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置並びに移動体を得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールにおいて、
前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備えたことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記接合部特性検出手段は、前記接合部の劣化による抵抗若しくは電圧の上昇と寿命の関係から決定したしきい値を用いて、前記接合部の劣化を予測することを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項3】
請求項1記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記金属接合は、金属ワイヤにより接合されることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項4】
請求項1記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記接合部特性検出手段によって検出された接合部の特性を記憶する記憶手段を備えたことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記接合部特性検出手段によって前記金属接合の接合部の特性を検出する電圧端子を備えたことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項6】
表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールにおいて、
前記金属接合の接合部の特性を検出する電圧端子を備えたことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項7】
請求項6記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記パワー半導体素子は、温度が上昇すると、電気抵抗若しくは通電電圧が増加する特性を有する素子であり、
前記電極用金属板は、前記パワー半導体素子からの発熱を放熱する冷却却手段としての機能を有することを特徴とする高信頼パワー半導体モジュール。
【請求項8】
請求項7記載のパワー半導体モジュールにおいて、さらに、
前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備え、
この接合部特性検出手段は、前記パワー半導体素子の電圧端子間の電気抵抗もしくは電圧を、温度補正した接合劣化前の初期電気抵抗もしくは初期電圧と、予め決定した接合部寿命時の電気抵抗もしくは電圧とを比較し、接合劣化割合を算出することを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項9】
表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールを複数個有し、直流ー交流変換をする電力変換装置において、
前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項9記載の電力変換装置において、
前記接合部特性検出手段は、検出された特性に基づいて予測された寿命に近づくと、定格運転より低い運転制御に切り替えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
表面に電極をもつパワー半導体素子の表面と電極用の金属板を金属接合した構造を有するパワー半導体モジュールを複数個有し、直流ー交流変換をする電力変換装置と、この電力変換装置によって直流から交流に変換された電力を用いて駆動するモータとを有する移動体において、
前記金属接合の接合部の特性を検出する接合部特性検出手段を備えたことを特徴とする移動体。
【請求項12】
請求項11記載の移動体において、
前記移動体は、前記移動体の停車時に動力を停止し、発進時に動力を起動するアイドリングストップの運転モードにより運転されることを特徴とする移動体。

【国際公開番号】WO2005/038919
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514715(P2005−514715)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012702
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】