説明

パンの製造方法

【課題】 従来のパンより食感、風味などの嗜好性を高めたパンを提供するものである。
【解決手段】 本発明のパンの製造方法は、精麦された小麦粒を水に浸漬するとともに、前記小麦粒に付着していた乳酸菌もしくは水に含有された乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続して小麦粒を軟化処理した後、該軟化小麦粒を粉砕処理することなく用いてパン生地を調製して製パンするものである。そして、軟化処理は、小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力が220〜490gとなるように行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌により軟化処理された小麦粒を用いたパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパンは、小麦粉を主原料として、これに、副原料としてイースト、イーストフード、糖類、食塩、油脂、鶏卵、乳製品等を用いてパン生地を調製して製造されている。近年、消費者の嗜好の多様化から、食感、風味、製品外観等が優れたパンが求められている。このようなパンとしては、例えば、全粒粉を用いた全粒粉パン、レーズン等を生地に練り込んだフルーツブレッド、コーンを生地に練り込んだコーンブレッド、ライ麦を用いたライ麦ブレッド、玄米を用いた玄米ブレッドなど嗜好性を高めたバラエティーブレッドが製造されている。しかしながら、これらのパンよりさらに嗜好性を高めたパンが求められている。
また、本件出願人は、新しい小麦の精麦方法として、特開2004−314037号(特許文献1)を提案している。
【特許文献1】特開2004−314037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、上記問題点を解決し、従来のパンより食感、風味などの嗜好性を高めたパンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するものは以下の通りである。
(1) 精麦された小麦粒を水に浸漬するとともに、前記小麦粒に付着していた乳酸菌もしくは水に含有された乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続して小麦粒を軟化処理した後、該軟化小麦粒を粉砕処理することなく用いてパン生地を調整して製パンするパンの製造方法。
(2) 前記浸漬時間は、6時間〜24時間である上記(1)に記載のパンの製造方法。
(3) 前記軟化処理は、小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力が220〜490gとなるように行うものである上記(1)または(2)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(4) 前記浸漬開始時の小麦粒水浸漬物のpHは、5〜6である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のパンの製造方法。
【0005】
(5) 前記浸漬終了時の小麦粒水浸漬物のpHは、4〜4.5である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(6) 前記軟化処理は、浸漬開始時の小麦粒水浸漬物のpHに対して、前記浸漬終了時のpHが、0.3〜1低下するように行うものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(7) 前記精麦された小麦粒は、玄麦を乳酸菌による発酵処理および/または酵素による酵素処理を行った後、精麦したものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(8) 前記パンの製造方法は、前記精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉が150重量部以下となるように前記軟化処理後の小麦粒に該小麦粉を添加したものよりパン生地を調製するものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のパンの製造方法。
(9) 前記パンの製造方法は、前記精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉が1〜100重量部となるように前記軟化処理後の小麦粒に該小麦粉を添加したものよりパン生地を調製するものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のパンの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、精麦された小麦粒を水に浸漬するとともに、前記小麦粒に付着していた乳酸菌もしくは水に含有された乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続して小麦粒を軟化処理した後、該軟化小麦粒を粉砕処理することなく用いてパン生地を調整して製パンするパンの製造方法である。
このため、本発明のパンの製造方法によれば、従来のパンより食感、風味などの嗜好性を高めたパンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施例であるパンの製造方法について説明する。
本発明のパンの製造方法は、精麦された小麦粒を水に浸漬するとともに、小麦粒に付着していた乳酸菌もしくは水に含有された乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続して小麦粒を軟化処理した後、軟化小麦粒を粉砕処理することなく用いてパン生地を調製して製パンするものである。
【0008】
最初に、精麦された小麦粒を準備する。
精麦とは、玄麦から外皮を剥離するものであり、特に、本発明では、小麦粒が粉砕されず粒形状を保持したものを準備する。精麦方法としては公知の方法を用いることができる。
精麦方法の一例としては、玄麦を洗浄・除菌を行う。洗浄・除菌は、玄麦を60〜70℃に加熱した0.1〜1.0%クエン酸溶液に入れて攪拌して行うことが好ましい。そして、水で洗浄した後、水に浸漬して調湿する。そして、摩擦機(摩擦式精麦機)や研磨機(研削式精麦機)を使用して、小麦が粉砕されないように外皮を剥離する。このように外皮を剥離した小麦粒を準備する。なお、玄麦から外皮を剥離する方法としては、上述したものに限定されるものではない。
【0009】
また、準備する小麦粒は、玄麦を酵素による酵素処理を行った後、精麦したものであってもよい。酵素処理により、セルロース、ヘミセルロースの含有量が多い玄麦の外皮がより軟化して剥がれ易くなるため、剥離作業が容易になる。
また、胚乳部もセルラーゼ、ヘミセルラーゼにより水が浸透し易くなるため、小麦を粒のまま加工を行ったときの2次加工性が良くなる。酵素処理は、玄麦を酵素溶液に浸漬して行われる。酵素処理は、玄麦と酵素溶液とを密封して行われる。
【0010】
酵素処理に用いられる場合の酵素及び酵素の添加量としては、0.01〜0.1重量部(玄麦100重量部に対して)が好ましい。酵素としては、ヘミセルラーゼを用いることが好ましい。このように、酵素処理を行うことにより、玄麦の外皮が軟化して剥がれ易くなるため剥離処理を容易に行うことができる。酵素溶液を調製する際に用いられる水は、玄麦100重量部に対して80〜150重量部であることが好ましい。ヘミセルラーゼは、水溶液中に4.5〜90.0u/g(またはu/ml)、9.0〜18.0u/g含有されていることが好ましい。
洗浄・除菌された玄麦を水で洗浄した後、酵素溶液に浸漬し、液切り後、密封して所定時間放置することにより酵素処理が行われる。なお、酵素処理は、洗浄・除菌後の玄麦を水で洗浄した後、酵素溶液に浸漬し液切りをせず密封して所定時間処理させることにより酵素処理を行ってもよい。酵素処理は、使用する酵素の至適温度領域および至適pH領域にて行われることが好ましい。
【0011】
次に、精麦した小麦粒の軟化処理について説明する。
上述したように準備した小麦粒を水に浸漬するとともに、水に含有された乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続して小麦粒を軟化処理する。
この実施例では、軟化処理は、小麦粒を乳酸菌が添加された水に浸漬することにより行われる。乳酸菌含有水には、乳酸菌とともに糖類を添加しても良い。
乳酸菌含有水は、乳酸菌が1X10〜1X10個/ml程度、好ましくは、10個/mlとなるように調製することが好ましい。
【0012】
乳酸菌含有水の調製に用いられる乳酸菌としては、ホモ型あるいはヘテロ型のいずれの菌も使用可能であるが、特にホモ型の菌が好ましい。
乳酸菌含有水の調製に用いられる乳酸菌としては、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptcoccus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・フェカリス(Slreptococcus faecalis)等のストレプトコッカス・ラクティス属の菌、レコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)等のレコノストック属の菌、ラクトバチルス・ブルガリア(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・デルブルエッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)等のラクトバチルス属の菌、スポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)等のスポロラクトバチルス属の菌等を使用することが好ましく、特に、ラクトバチルス属の菌を用いることが好ましい。
【0013】
乳酸菌含有水には、乳酸菌生育補助のための糖類を添加してもよい。糖類としては、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、リポース、マンノース、フラクトース等の単糖類、ショ糖、麦芽糖、乳糖、ラフィノース、スタキオース等のオリゴ糖、デンプン、グリコーゲン、セルロース、イヌリン等の多糖類が挙げられ、特に、ショ糖を用いることが好ましい。これらの糖類は使用する乳酸菌の菌種によって1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。
そして、上述したように外皮を剥離した小麦粒を乳酸菌含有水に浸漬して乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続することにより、小麦粒の軟化処理が行われる。具体的に、乳酸菌発酵により小麦粒の胚乳部が乳酸菌もしくは乳酸菌が産生する酵素により軟化される。
【0014】
小麦粒の乳酸菌含有水への浸漬(言い換えれば、小麦粒の軟化処理)は、乳酸菌が良好に生育可能な至適温度条件、具体的には、使用する乳酸菌によっても相違するが、20℃〜40℃にて行われることが好ましい。
乳酸菌含有水は、小麦粒100重量部に対して、60〜100重量部、特に、60〜70重量部用いることが好ましい。小麦粒軟化処理は、軟化処理後の小麦粒に芯が残っていない程度まで行うことが好ましい。特に、軟化小麦粒が指で容易に潰すことができる硬さでべたつきが無い程度まで行うことが好ましい。軟化小麦粒がこのようになるまで浸漬を行えば、軟化小麦粒を破砕することなく混捏することによりパン生地を調製することができる。
【0015】
具体的には、小麦粒軟化処理は、軟化処理後の小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力が220〜490g、より好ましくは、280〜400gとなるように行うことが好ましい。このようにすることにより、軟化小麦粒を粉体化することなく混捏することによりパン生地を調製することができる。抗力は、以下の測定法により測定することができる。
(硬さの測定法)
測定器:Stable Micro systems社製 Texture Analyser TA-XT2
測定方法:軟化小麦粒の粒形の整ったものをピンセットで3粒取り出し、粒の陥入部を上に向け等間隔に並べ、直径25mmの円柱のプランジャーで40%圧縮した際の応力(単位g)を測定した。各サンプルは8回ずつ測定し最大値、最小値を棄却して平均値を算出した。プランジャーの下降スピードは、1mm/secであった。
【0016】
また、軟化処理時間(浸漬時間)は、乳酸菌濃度にもよるが、6〜24時間、特に、10〜20時間であることが好ましい。また、軟化処理としては、浸漬開始時(軟化処理開始時)の小麦粒浸漬物のpHが、5〜6であることが好ましい。さらに、軟化処理は、浸漬終了時(軟化処理終了時)の小麦粒水浸漬物のpHが、4〜4.5となるように行うことが好ましい。さらに、軟化処理における浸漬開始時(軟化処理開始時)の小麦粒水浸漬物のpHに対して、浸漬終了時(軟化処理終了時)のpHが、0.3〜1低下するように行うことが好ましい。
特に、軟化処理は、浸漬開始時(軟化処理開始時)の小麦粒水浸漬物のpHに対して、浸漬終了時(軟化処理終了時)のpHは、0.3〜1低下し、かつ、浸漬時間が6〜24時間、特に10〜20時間であることが好ましい。pH及び浸漬時間がこの程度であれば、小麦粒が適度に軟化処理される。
【0017】
軟化処理した軟化小麦粒を用いて、軟化小麦粒を破砕処理することなくパン生地を調製して製パンする。
パン生地の調製に用いられる材料としては、破砕していない軟化小麦粒のみ又は破砕していない軟化小麦粒と、小麦粉、ライ麦、全粒粉、玄米、米粉、大麦、コーン、大豆粉などの他の穀物粉との混合物であってもよい。
パン生地の調製に用いられる副材料としては、イースト、イーストフード、モルト、糖類、食塩、油脂、鶏卵、乳製品等の副原料が用いられる。以上のような材料を用いてミキシングしてパン生地を生成する。
【0018】
本発明の製造方法により軟化処理された軟化小麦粒は破砕処理しなくても、ミキシングによりパン生地となる。
本発明の実施例に用いられるパンの製法としては、中種法、直捏法、液種法、冷凍生地製法、冷蔵生地製法、連続製パン法、中麺法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、チョリーウッド法等の種々の製パン法が使用できる。
また、パンの製法としては、低温長時間発酵法によるものであってもよい。低温長時間発酵法とは、調製されたパン生地を低温で長時間発酵させることにより生地の発酵を行う工程を含むものである。本発明の実施例の低温長時間発酵法は、調製されたパン生地を0℃で12〜96時間発酵させることが好ましい。また、特に、調製されたパン生地を0℃で65〜80時間発酵させることが好ましい。低温長時間発酵工程を有することにより、伸展性、膜伸び、ハンドリングの良いパン生地を調製することができる。また、低温長時間発酵法により、柔らかく、しっとりした食感で香ばしい風味のパンを得ることができる。低温長時間発酵法を直捏法に応用した場合、全材料をミキシングしてパン生地を調製した後低温長時間発酵を行った後、分割、整形工程等を行うことが好ましい。
【0019】
また、本発明の実施例に用いられるパンの製造方法としては、リミックス法を用いてもよい。リミックス法とは、イーストの一部と原料の一部を除いた、またはすべての原料をミキシング(1次ミキシング)して生地を製造し発酵させた後、残りのイーストと原料を加えて、またはそのまま再度ミキシング(2次ミキシング)することによりパン生地を製造する工程を含む方法をいう。リミックス法を用いることにより、ボリュームがあり、柔らかくしっとりした食感を有し、香ばしい風味のあるパンを製造することができる。また、リミックス法によりパン生地のハンドリングが良くなる。また、リミックス法により、パン生地の冷凍保存性を良くすることができる。
【0020】
各種の製造法を二法または三法以上組み合わせても良い。
パンの製造方法は、パンの製造方法は、精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉が150重量部以下となるように軟化処理後の小麦粒に小麦粉を添加したものよりパン生地を調製するものであってもよい。特に、パンの製造方法は、精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉66.7重量部以下となるように添加することが好ましい。また、精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉が1〜100重量部となるように軟化処理後の小麦粒に小麦粉を添加したものであってもよい。
【0021】
また、本発明の製造方法は、軟化処理された軟化小麦粒を粉砕処理することがなくパン生地を調製して製パンするものである。よって、製粉した小麦粉と比較してグルテンや澱粉が傷つくことがないため、嗜好製の高い独特な風味と食感を得ることができる。また、本発明の実施例の軟化小麦粒は製粉工程がないため製品製造工程におけるエネルギーの消費が少なくなる。本発明の製造方法により軟化処理された軟化小麦粒は破砕処理しなくても、ミキシングにより生地となる。
【0022】
イーストとしては、生イースト、ドライイースト等が挙げられる。イーストフードとしては、無機質の酸化剤やカルシウム塩などのミネラルを配合した無機質タイプ、酵素剤を主体として配合した有機質タイプ、両者を混合配合した無機・有機質混合タイプ、混合タイプに酸化剤を多く配合した速攻タイプに分類される。このイーストフードの原料としては、主としてカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩などの無機塩化合物、アスコルビン酸などの抗酸化剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、リポキシゲナーゼなどの酵素剤、グルタチオンやシステインなどの還元剤および澱粉などが挙げられる。
糖類としては、果糖、転化糖、砂糖、ブドウ糖、水あめ、麦芽糖、乳糖等が挙げられる。油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング、ラード等が挙げられる。鶏卵としては、冷凍卵、液体卵、乾燥卵、濃縮卵等が挙げられる。乳製品としては、市乳、粉乳、練乳、チーズ、生クリーム、ヨーグルト等が挙げられる。
【0023】
本発明のパンの製造方法により製造されるパンとしては、生地を焼成、揚げる、蒸す等の処理をしたパン類すべてを包含している。例えば、食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール、デニッシュペストリー、クロワッサン、他の各種菓子パン、あんまん、肉まん、蒸しパン、べーグル、マフィン、イーストドーナツなどがある。
以上、本発明のパンの製造方法について説明したが上述した方法に限定されるものではない。
【0024】
次に、本発明の他の実施例について説明する。
この実施例では、特開2004−314037号に開示されているような玄麦を乳酸菌による発酵処理を行った後、精麦したものを準備する。
この実施例で使用される精麦された小麦粒は、以下のようにして準備される。
最初に、玄麦の洗浄・除菌を行う。洗浄・除菌は、玄麦を60℃〜70℃に加熱した0.1〜1.0%クエン酸溶液に入れて攪拌して行うことが好ましい。そして、洗浄・除菌された玄麦を水で洗浄した後、乳酸菌含有水に浸漬し、液切り後、密封して所定時間放置することにより乳酸菌発酵処理が行われる。なお、乳酸菌発酵は、洗浄・除菌後の玄麦を水で洗浄した後、乳酸菌含有水に浸漬し液切りをせず密封して所定時間発酵させることにより乳酸菌発酵を行ってもよい。乳酸菌含有水を液切りする場合、乳酸菌発酵処理は、30〜40℃で、16〜24時間放置することにより行われることが好ましい。また、乳酸溶液を液切りしない場合は、30〜40℃で、18〜24時間放置することにより行うことが好ましい。このように玄麦を乳酸菌発酵処理することにより、玄麦の外皮が乳酸菌により生成される乳酸もしくは乳酸菌が産生する酵素により軟化されるため外皮が剥離し易くなる。
【0025】
本発明の実施例の乳酸菌含有水は、水に乳酸菌及び糖類、または乳酸菌のみを溶解することにより調製される。乳酸菌含有水の調製に用いられる乳酸菌としては、上述したものが使用できる。また、乳酸菌含有水の調製に用いられる糖類としては、上述したものが使用できる。
乳酸菌含有水を調製する際に用いられる水は、玄麦100重量部に対して80〜150重量部であることが好ましい。また、糖類は、玄麦100重量部に対して、1.0〜20.0重量部であることが好ましい。乳酸菌含有水の乳酸菌濃度は、乳酸菌が1X10〜1X10個/mlとなるように調製されることが好ましい。
【0026】
乳酸菌発酵処理後は、玄麦を水洗いしその後乾燥させる。なお、この実施例では、精麦時において用いた乳酸菌を利用して、小麦粒の軟化処理を行うものである。このため、玄麦は、乳酸菌がある程度残留する程度に水洗する。なお、玄麦の水洗を行わないものとしてもよい。その後、乾燥させた玄麦を摩擦機、研磨機等を使用して外皮を剥離する剥離処理を行う。剥離処理は、上述したように乳酸菌発酵処理により玄麦の外皮が軟化しているため容易に行うことができる。以上のような方法により、精麦された小麦粒が製造される。このように精麦された小麦粒には、微量の乳酸菌が付着している。
【0027】
また、本発明の製造方法に用いられる精麦された小麦粒は、玄麦を乳酸菌による発酵処理及び酵素による酵素処理の両方を行った後、精麦したものであってもよい。具体的に、発酵及び酵素処理は、上述した乳酸菌及び酵素を添加した溶液に玄麦を浸漬して行うことが好ましい。酵素としては、セルロース、ヘミセルロースを分解する酵素であることが好ましく、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等が好ましく、特に、ヘミセルラーゼを使用することが好ましい。このような酵素を添加することにより、酵素処理により、セルロース、ヘミセルロースの含有量が多い玄麦の外皮がより軟化して剥がれ易くなる。また、胚乳部もセルロース、ヘミセルロースにより水が浸透し易くなるため、粒のまま加工を行ったときの2次加工性が良くなる。ヘミセルラーゼとしては、一般に食品に用いられているものであればいずれを用いてもよい。
ヘミセルラーゼは、水溶液中に4.5〜90.0u/g(またはu/ml)、特に9.0〜18.0u/g含有されていることが好ましい。
【0028】
具体的には、上述したように洗浄・除菌された玄麦を、乳酸菌及び酵素含有溶液に浸漬して液切り後、密封して所定時間放置することにより乳酸菌発酵及び酵素処理が行われる。なお、乳酸菌発酵及び酵素処理は、洗浄・除菌後の玄麦を水で洗浄した後、乳酸菌含有水に浸漬し液切りをせず密封して所定時間発酵させることにより乳酸菌発酵を行ってもよい。液切りは、小麦粒の乳酸菌含有水を軽くきる程度に行うことが好ましい。乳酸菌含有水を液切りする場合、乳酸菌発酵処理は、30〜40℃で、16〜24時間放置することにより行われることが好ましい。また、乳酸溶液を液切りしない場合は、30〜40℃で、18〜24時間放置することにより行うことが好ましい。このように玄麦を乳酸菌発酵処理することにより、玄麦の外皮が乳酸菌により生成される乳酸により軟化されるため外皮が剥離し易くなる。
【0029】
乳酸菌発酵及び酵素処理後は、玄麦を水洗いしその後乾燥させる。なお、この実施例では、精麦時において用いた乳酸菌を利用して、小麦粒の軟化処理を行うものである。このため、玄麦は、乳酸菌がある程度残留する程度に水洗する。なお、玄麦の水洗を行わないものとしてもよい。その後、乾燥させた玄麦を摩擦機、研磨機等を使用して外皮のみを剥離する剥離処理を行う。剥離処理は、上述したように乳酸菌発酵及び酵素処理により玄麦の外皮が軟化しているため容易に行うことができる。以上のような方法により、精麦された小麦粒が製造される。このように精麦された小麦粒には、微量の乳酸菌が付着している。
以上のような乳酸菌発酵処理又は、乳酸菌発酵処理及び酵素処理の両方を用いて精麦した小麦粒を用いて以下のような軟化処理を行う。
【0030】
軟化処理は、小麦粒に付着していた乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続することにより行われる。上述したように、乳酸菌発酵処理又は、乳酸菌発酵処理及び酵素処理を行った後に外皮を剥離した小麦粒には、上述したように乳酸菌が付着している。
このような小麦粒を水に浸漬して乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続することにより小麦粒が軟化される。具体的に、乳酸菌発酵により小麦粒の胚乳部が軟化される。
【0031】
乳酸菌付着小麦粒の水浸漬(軟化処理)は、乳酸菌が良好に生育可能な至適温度条件、具体的には、使用する乳酸菌によっても相違するが、20℃〜40℃にて行われることが好ましい。
軟化処理における水は、小麦粒100重量部に対して、60〜100重量部、特に、60〜70重量部用いることが好ましい。軟化処理において小麦粒に吸収されなかった水は、その後の工程において仕込み水として使用してもよく、また廃棄してもよい。小麦粒軟化処理は、軟化処理後の小麦粒に芯が残っていない程度まで行うことが好ましい。特に、軟化小麦粒が指で容易に潰すことができる硬さでべたつきが無い程度まで行うことが好ましい。軟化小麦粒がこのようになるまで浸漬を行えば、軟化小麦粒を破砕することなく混捏することによりパン生地を調製することができる。
【0032】
具体的には、小麦粒軟化処理は、軟化処理後の小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力が220〜490g、より好ましくは、280〜400gとなるように行うことが好ましい。このようにすることにより、軟化小麦粒を粉体化することなく混捏することによりパン生地を調製することができる。抗力は、上述した測定法により測定することができる。
浸漬時間(軟化処理時間)は、小麦粒に付着していた乳酸菌数にもよるが、6〜24時間であることが好ましい。この程度の浸漬時間であれば、小麦粒を破砕せずに混捏したとき伸展性と弾力性のバランスの良いグルテン膜を形成することができる。また、この程度の浸漬時間であればパン生地を調製する際にハンドリングの良い生地を生成することができる。また、この程度浸漬された小麦粒を使用すれば十分にボリュームを有するパンを製造することができる。特に、浸漬時間は、小麦粒に付着していた乳酸菌数にもよるが、特に、10〜20時間であることが好ましい。浸漬時間がこの程度のものであれば上述した効果をより達成することができる。
【0033】
浸漬時間が6時間より長いものであれば、十分に軟化処理され、小麦粒に芯が残ることが極めて少なく破砕せずに混捏した際に十分にまとまるとともに、粉砕せずに混捏したものであってもパン生地が十分なガス保持力を備え、その結果、製造されたパンは十分なボリュームを有する。
一方、浸漬時間が24時間以下であれば、乳酸菌により生成される乳酸により浸漬水のpHの過剰低下によるグルテン蛋白の変性に起因するパン生地の弾性力の低下(過剰軟化)となることがない。
【0034】
また、浸漬開始時の小麦粒浸漬物のpHは、5〜6であることが好ましい。この程度のpHであれば、乳酸菌の初期生育条件として良好である。浸漬終了時の小麦粒水浸漬物のpHは、4〜4.5であることが好ましい。この程度のpHであれば、乳酸菌による乳酸の産生量も適度であり、小麦粒が過剰軟化となることがない。また、浸漬開始時の小麦粒水浸漬物のpHに対して、浸漬終了時のpHは、0.3〜1低下しているものである。この程度のpH低下であれば、乳酸菌発酵処理により適度に小麦粒を軟化することができる。
また、浸漬開始時の小麦粒水浸漬物のpHに対して、浸漬終了時のpHは、0.3〜1低下している低下しているものであり、かつ、浸漬時間が6〜24時間、特に10〜20時間であることが好ましい。pH及び浸漬時間がこの程度であれば、小麦粒が適度に軟化処理される。
以上のように、軟化処理した小麦粒を用いて、軟化小麦粒を破砕処理することなくパン生地を調製して製パンする。製パン方法としては、上述した方法が使用できる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
<直捏法>
以下のような工程により実施例1の食パンを製造した。
軟化処理:乳酸菌発酵処理され外皮が剥離され、かつ表面に微量の乳酸菌が付着した小麦粒(以下、「乳酸菌保有小麦粒」という、株式会社バイオテックジャパン製)1000g(100重量部)を水650g(65重量部)に30℃の条件下で6時間浸漬し、小麦粒の軟化処理を行った。軟化処理における開始時(浸漬開始時)のpH、終了時のpH、軟化処理後の小麦粒の硬さおよび抗力(小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力)等は、図1(表1)に示す通りであった。なお、軟化処理開始時に比べて終了時のpHが低下していることおよび乳酸臭より乳酸菌の生育を確認した。
ミキシング:乳酸菌処理軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水20g(2重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
フロアタイム:室温、60分
分割:450g毎
ベンチタイム:室温、20分
整形:ワンローフ(モルダー整形)
ホイロ:38℃、85%RH、60分
焼成:200℃、25分
この実施例1における生地作業性、製造されたパンについてのボリューム、外観、内相・触感、風味・食感は、図1(表1)に示す通りであった。なお、それらの評価方法について表8(図8)に示す通りである。
【0036】
(実施例2〜実施例5)
実施例1の軟化処理時間(浸漬時間)を10時間、16時間、20時間、24時間としてそれぞれ実施例2,実施例3,実施例4,実施例5の食パンを製造した。実施例2および3についての軟化処理における開始時(浸漬開始時)のpH、終了時のpH、軟化処理後の小麦粒の硬さおよび抗力(小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力)等は、図1(表1)に示す通りであった。実施例4および5についての軟化処理における開始時(浸漬開始時)のpH、終了時のpH、軟化処理後の小麦粒の硬さおよび抗力(小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力)等は、図2(表2)に示す通りであった。
また、実施例2および3における生地作業性、製造されたパンについてのボリューム、外観、内相・触感、風味・食感は、図1(表1)に示す通りであった。また、実施例4および5における生地作業性、製造されたパンについてのボリューム、外観、内相・触感、風味・食感は、図2(表2)に示す通りであった。なお、それらの評価方法について表8(図8)に示す通りである。
【0037】
(参考例1〜参考例3)
実施例1の軟化処理時の浸漬時間を4時間、30時間、40時間として、それぞれ参考例1,参考例2,参考例3の食パンを製造した。参考例1についての軟化処理における開始時(浸漬開始時)のpH、終了時のpH、軟化処理後の小麦粒の硬さおよび抗力(小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力)等は、図1(表1)に示す通りであった。参考例2および3についての軟化処理における開始時(浸漬開始時)のpH、終了時のpH、軟化処理後の小麦粒の硬さおよび抗力(小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力)等は、図2(表2)に示す通りであった。
また、参考例1における生地作業性、製造されたパンについてのボリューム、外観、内相・触感、風味・食感は、図1(表1)に示す通りであった。また、参考例2および3における生地作業性、製造されたパンについてのボリューム、外観、内相・触感、風味・食感は、図2(表2)に示す通りであった。なお、それらの評価方法について表8(図8)に示す通りである。
【0038】
(実施例6)
<直捏法>
以下のような工程により実施例6の食パンを製造した。実施例6は、実施例1の乳酸菌保有小麦粒の60%を小麦粉に置き換えたものである。実施例6のミキシング工程以降の工程は実施例1と同様である。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒400g(40重量部)を水260g(26重量部)に30℃の条件下で6時間浸漬した。処理結果は、実施例1と同じであった。
ミキシング:乳酸菌処理軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、小麦粉600g(60重量部)、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水410g(41重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
実施例6により製造されたパンについての総合評価は、図3(表3)に示す通りであった。
【0039】
(実施例7〜実施例10)
実施例6の軟化処理時の浸漬時間を10時間、16時間、20時間、24時間としてそれぞれ実施例7,実施例8,実施例9,実施例10の食パンを製造した。
実施例7および8により製造されたパンについての総合評価は、図3(表3)に示す通りであり、実施例9および10により製造されたパンについての総合評価は、図4(表4)に示す通りであった。
【0040】
(参考例4〜参考例6)
実施例6の軟化処理時の浸漬時間を4時間、30時間、40時間として、それぞれ参考例4,参考例5,参考例6の食パンを製造した。
参考例4により製造されたパンについての総合評価は、図3(表3)に示す通りであり、参考例5および6により製造されたパンについての総合評価は、図4(表4)に示す通りであった。
図1ないし図4に示した評価結果より、合計点及び総評から軟化小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力が、220〜490gが好ましく(実施例1〜実施例5)、特に、280〜400gであることが好ましことを確認した(実施例2〜実施例4)。また、浸漬時間は、6〜24時間が好ましいこと(実施例1〜実施例5)、特に、10〜20時間(実施例2〜実施例4)が好ましいことを確認した。このような、抗力、浸漬時間であれば、生地作業性、ボリューム、外観、内相・触感、風味・食感のいずれにも優れた嗜好性の高いパンを製造することができた。
浸漬時間が短すぎる場合(参考例1)は、乳酸菌軟化処理小麦粒が十分に軟化処理されておらず粒感が多く、ガス保持力がないためボリュームがない縮んだ製品となった。一方、浸漬時間が長すぎる場合(参考例2,参考例3)、pHが低下しすぎてグルテン蛋白が変性し、弾力性が劣りボリュームがなくボソボソとした硬い食感の製品となった。
【0041】
(実施例11)
<低温長時間発酵法>
以下のような工程により実施例11の食パンを製造した。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒1000g(100重量部)を水650g(65重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
ミキシング:乳酸菌処理軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水20g(2重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
低温長時間発酵:0℃、72時間
分割:450g毎
ベンチタイム:室温、20分
整形:ワンローフ形状(モルダー整形)
ホイロ:38℃、85%RH、60分
焼成:200℃、25分
実施例11により製造されたパンについての総合評価は、図5(表5)に示す通りであった。
【0042】
(実施例12)
<低温長時間発酵法>
以下のような工程により実施例12の食パンを製造した。実施例12は、実施例11における乳酸菌保有小麦粒の10%を小麦粉に置き換えたものである。実施例12のミキシング工程以降の工程は実施例11と同様である。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒900g(90重量部)を水585g(58.5重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
ミキシング:乳酸菌処理軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、小麦粉100g(10重量部)、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水85g(8.5重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
実施例11により製造されたパンについての総合評価は、図5(表5)に示す通りであった。
図5に示すように、乳酸菌軟化処理小麦粒100%、乳酸菌軟化処理小麦粒90%の両方において、製品外観に優れ、やわらかく、ソフトな食感で独特な香ばしい風味のパンが得られた。
【0043】
(実施例13)
<リミックス法>
以下のような工程により実施例13の食パンを製造した。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒1000g(100重量部)を水650g(65重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
1次ミキシング:乳酸菌処理軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水20g(2重量部)を混合して、低速で3分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
発酵:室温、60分
2次ミキシング:低速1分、中速6分
フロアタイム:室温、20分
分割:450g毎
ベンチタイム:室温、20分
整形:ワンローフ形状(モルダー整形)
ホイロ:38℃、85%RH、60分
焼成:200℃、25分
実施例13により製造されたパンについての総合評価は、図6(表6)に示す通りであった。結果、製品外観に優れ、やわらかく、ソフトな食感で香ばしい独特な風味を有するパンを製造することができた。
【0044】
(実施例14)
<直捏法>
以下のような工程により実施例14の食パンを製造した。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒1000g(100重量部)を水650g(65重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
ミキシング:軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水20g(2重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
フロアタイム:室温、60分
分割:450g毎
ベンチタイム:室温、20分
整形:ワンローフ(モルダー整形)
ホイロ:38℃、85%RH、60分
焼成:200℃、25分
実施例14により製造されたパンについての総合評価は、図7(表7)に示す通りであった。結果、嗜好性の高い独特な風味と食感が得られた。
【0045】
(実施例15)
<直捏法>
以下のような工程により実施例15の食パンを製造した。実施例15は、実施例14における乳酸菌保有小麦粒の20%を小麦粉に置き換えたものである。実施例15のミキシング工程以降の工程は実施例14と同様である。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒800g(80重量部)を水520g(52重量部)に 30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
ミキシング:軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、小麦粉200g(20重量部)、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水160g(16重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
実施例15により製造されたパンについての総合評価は、図7(表7)に示す通りであった。結果、嗜好性の高い独特な風味と食感が得られた。
【0046】
(実施例16)
<直捏法>
以下のような工程により実施例16の食パンを製造した。実施例16は、実施例14における乳酸菌保有小麦粒の40%を小麦粉に置き換えたものである。実施例16のミキシング工程以降の工程は実施例14と同様である。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒600g(60重量部)を水390g(39重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
ミキシング:軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、小麦粉400g(40重量部)、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水300g(30重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
実施例16により製造されたパンについての総合評価は、図7(表7)に示す通りであった。結果、嗜好性の高い独特な風味と食感が得られた。
【0047】
(実施例17)
<直捏法>
以下のような工程により実施例17の食パンを製造した。実施例17は、実施例14における乳酸菌保有小麦粒の60%を小麦粉に置き換えたものである。実施例17のミキシング工程以降の工程は実施例14と同様である。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒400g(40重量部)を水260g(26重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。処理結果は、実施例3と同じであった。
ミキシング:軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、小麦粉600g(60重量部)、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水440g(44重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
実施例17により製造されたパンについての総合評価は、図7(表7)に示す通りであった。結果、嗜好性の高い独特な風味と食感が得られた。
【0048】
(参考例7)
<直捏法>
以下のような工程により参考例7の食パンを製造した。参考例7は、実施例15における乳酸菌保有小麦粒の80%を小麦粉に置き換えたものである。参考例7のミキシング工程以降の工程は実施例14と同様である。
軟化処理:実施例1において用いた乳酸菌保有小麦粒200g(20重量部)を水130g(13重量部)に30℃の条件下で16時間浸漬した。
ミキシング:軟化小麦粒(浸漬水をそのまま使用)に、小麦粉800g(80重量部)、イースト30g(3重量部)、上白糖70g(7重量部)、食塩20g(2重量部)、脱脂粉乳30g(3重量部)、ショートニング50g(5重量部)、水580g(58重量部)を混合して、低速で3分、中速で6分で混捏した(捏ね上げ温度28℃)。
参考例7により製造されたパンについての総合評価は、図7(表7)に示す通りであった。結果、乳酸菌軟化処理小麦粒を使用した嗜好性の高い独特な風味と食感を得る為には、乳酸菌保有小麦粒40〜100%であることが好ましいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、乳酸菌保有小麦粒100%を用いて浸漬時間を変化させたときの製パン試験の結果を示す表1である。
【図2】図2は、乳酸菌保有小麦粒100%を用いて浸漬時間を変化させたときの製パン試験の結果を示す表2である。
【図3】図3は、乳酸菌保有小麦粒40%を用いて浸漬時間を変化させたときの製パン試験の結果を示す表3である。
【図4】図4は、乳酸菌保有小麦粒40%を用いて浸漬時間を変化させたときの製パン試験の結果を示す表4である。
【図5】図5は、乳酸菌保有小麦粒100%、乳酸菌保有小麦粒90%を用いて低温長時間発酵させたときの製パン試験の結果を示す表5である。
【図6】図6は、乳酸菌保有小麦粒100%を用いる場合において、リミックス法を用いたときの製パン試験の結果を示す表6である。
【図7】図7は、乳酸菌保有小麦粒100%、乳酸菌保有小麦粒80%、乳酸菌保有小麦粒60%、乳酸菌保有小麦粒40%、乳酸菌保有小麦粒20%を用いる場合の製パン試験の結果を示す表7である。
【図8】図8は、生地作業性、ボリューム、外観、内相・触感、風味・食感の評価方法を示す表8である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精麦された小麦粒を水に浸漬するとともに、前記小麦粒に付着していた乳酸菌もしくは水に含有された乳酸菌が生育可能な温度環境にて浸漬を継続して小麦粒を軟化処理した後、該軟化小麦粒を粉砕処理することなく用いてパン生地を調整して製パンすることを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
前記浸漬時間は、6時間〜24時間である請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
前記軟化処理は、小麦粒3粒を40%圧縮した際の抗力が220〜490gとなるように行うものである請求項1または2のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項4】
前記浸漬開始時の小麦粒水浸漬物のpHは、5〜6である請求項1ないし3のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項5】
前記浸漬終了時の小麦粒水浸漬物のpHは、4〜4.5である請求項1ないし4のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項6】
前記軟化処理は、浸漬開始時の小麦粒水浸漬物のpHに対して、前記浸漬終了時のpHが、0.3〜1低下するように行うものである請求項1ないし5のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項7】
前記精麦された小麦粒は、玄麦を乳酸菌による発酵処理および/または酵素による酵素処理を行った後、精麦したものである請求項1ないし6のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項8】
前記パンの製造方法は、前記精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉が150重量部以下となるように前記軟化処理後の小麦粒に該小麦粉を添加したものよりパン生地を調製するものである請求項1ないし7のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項9】
前記パンの製造方法は、前記精麦された小麦粒100重量部に対して、小麦粉が1〜100重量部となるように前記軟化処理後の小麦粒に該小麦粉を添加したものよりパン生地を調製するものである請求項1ないし7のいずれかに記載のパンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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