説明

パンの製造方法

【課題】 煩雑な工程を伴わず、特別な材料や大掛かりな機材を揃えることなく、弾力性の高いパン、及びサクサク感が長持ちするパン粉を製造することができるパンの製造方法、当該製造方法により製造されたパン及びパン粉、並びに当該製造方法に用いるパンケース及びオーブンの提供。
【解決手段】 パン生地1を入れたパンケース2の内部を大気圧以上に加圧しつつオーブンで焼成するパンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、弾力性の高いパン、当該パンの製造方法、及び当該パンから製造される揚げ上がった後のサクサク感が長持ちするパン粉、並びにそれに用いるパンケース及びオーブンに関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、一般的にふっくらと弾力性(加圧された後の復元性)があり、口に含んだ際にも団子状にならない物が良好な食感を持つものとされ、またその様なパンから製造されたパン粉は、揚げ上がった後もベッタリ感を伴った団子状となる事無くパン粉が立ち、そのサクサク感を長時間保つ食品を形作るとされている。従来は、その様な要求を満足すべく、種々の品種改良剤をパン生地に混入する手法が採られていた。しかしながら、今日ではその様な品質改良剤を混入せず、いわゆる自然食品のみからなるパン生地に価値が見出され、粉砕された穀粉類又は澱粉類及びその加工品及びその分解品を添加することにより、上記要求を満たす製法が紹介されている(例えば、下記特許文献参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−210098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の製法では、先に示した自然の添加剤を製造するという煩雑な工程が不可欠である他、当該工程に要する材料や機材を調達する必要もあった。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、煩雑な工程を伴わず、特別な材料や大掛かりな機材を揃えることなく、弾力性の高いパン、及びサクサク感が長持ちするパン粉を製造することができるパンの製造方法、当該製造方法により製造されたパン及びパン粉、並びに当該製造方法に用いるパンケース及びオーブンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に為された本発明によるパンの製造方法は、パン生地を入れたパンケースの内部を大気圧以上に加圧しつつオーブンで焼成することを特徴とする。具体的には、上に開口したケース本体と、当該ケース本体の開口部を封鎖する蓋と、当該蓋の封鎖状態を維持するロック機構と、規定の内気圧を上限として維持するガス抜き機構を具備するパンケースを用いオーブンで焼成する方法や、パンケースに入れられたパン生地を、気密性を有する炉、及び当該炉の内気圧を調整する気圧制御手段を具備したオーブンで焼成する方法が挙げられる。これらの製造方法によって、弾力性の高いパン、及びサクサク感が長持ちするパン粉を製造することができる。
【0007】
上記課題を解決する為に為された本発明によるパンの製造方法に用いるパンケースは、上に開口したケース本体と、当該ケース本体の開口部を封鎖する蓋と、当該蓋の封鎖状態を維持するロック機構と、規定の内気圧を上限として維持するガス抜き機構を具備することを特徴とし、同パンの製造方法に用いるオーブンは、気密性を有する炉、及び当該炉の内気圧を調整する気圧制御手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明によるパンの製造方法によれば、なんら添加剤を加えることなく弾力性があり、口に含んだ際にも団子状にならないパンを製造することができ、またその様なパンから製造されたパン粉を用いれば、揚げ上がった後もベッタリ感を伴った団子状となる事無
くパン粉が立ち、そのサクサク感を長時間保つ食品を製造することができる。
【0009】
また、本発明によるパンケースやオーブンを用いれば、上記本発明によるパンの製造方法を容易且つ確実に実施することができ、従来のパンの製造方法の課題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明によるパンの製造方法の実施の形態をパン粉を製造する実施例に基づき詳細に説明する。
当該実施例に用いるパン生地1は、小麦粉100部、イースト2部、イーストフード0.1部、グルコース2部、ショートニング3部、食塩1.2部及び水60部を原料として用い、ミキシング:低速2分,高速2分,ショートニング投入後、低速2分,高速8分、第一発酵:20℃下360分、分割・まるめ、第二発酵:38℃下50分の工程を経たものである。
【0011】
上記パン生地1を、パンケース2の比容積(ケース容積/パン生地の重量):3.5の状態でパンケース2に入れ、炉内温度約220℃のオーブンで約35分焼成する。
【0012】
ここで用いるパンケース2は、上面全体が開口した方形箱状のケース本体3と、当該ケース本体3の開口部を封鎖する蓋4とで構成される。前記ケース本体3の側壁上縁には、当該周縁に沿った無端状或いはそれに近い構造のガスケット7が装着され、当該蓋4が前記ケース本体3に装着されることによって、そこへ当接する前記蓋4の周縁裏面と当該ケース本体3の側面上縁の両者は相互に気密状態に密着する。
【0013】
当該例によるパンケース2の素材は、鉄・クロム・ニッケル合金のステンレス製であり、耐食性及び耐熱性が高く丈夫でありながら、パンケース2を薄手に出来るというメリットがある。アルミ等を用いたとしてもパンケース2を厚手にして強度を高めることも出来るが、焼成されたパンに焼き色を付けたい場合も比較的多いパンケース2としては、パンケース2を薄手に仕上げても所定の強度が得られる素材を用いることが望ましい。
【0014】
当該蓋4には、ケース本体3の側壁上縁との密着状態、即ち、パンケース2の封鎖状態を維持するロック機構5が設けられている。ロック機構5としては、例えば、前記ケース本体3の開口部及び蓋4の周縁部を離隔不能に連結するフック8を、前記ケース本体3又は蓋4のいずれか一方に揺動自在に枢支し他方の周縁部に掛止し得る構造(図1乃至図3参照)、又は、前記フックの摺動によりケース本体の開口部と蓋各々の周縁の連結をロック・解除する構造(図示省略)等、パンケース2の封鎖状態を維持できる適当な構造を選択して採れば良い。
【0015】
前記蓋4には、更に、規定の内気圧(約1.3〜3気圧)を上限として維持するガス抜き機構6が設けられている。当該ガス抜き機構6は、例えば、前記蓋4に、パンケース2の内部に連通しその先端部がニードル弁9の台座となるノズル10を立設し、前記ニードル弁9を一体的に内包した傘状のウエイト11が、当該ノズル10上でのバランスを維持しつつ当該ノズル10前記台座からニードル弁9が脱落しない様に遊嵌されている構造を持ち、且つ当該ウエイト11が、前記規定の内気圧が発生した場合において、前記ニードル弁9の先端が台座から浮上しガス抜きを行う作用を生じる重さに設定したもの(例えば、特開2002−34789号参照)が挙げられるが、当該構造は、パンの焼成時における熱に十分耐用でき、且つ規定の内気圧でガス抜きが出来る構造を持ったものであれば、出来る限り簡素な構造を持った安価なものが望ましいので、適宜選択して適用すればよい。
【0016】
図5は、前記パン生地を等量用い、焼成中におけるパンケース2内の気温と気圧の時間的推移を、上記封鎖されたパンケース2を用いた場合(実施例)と、従来通り開口部が開かれた状態のパンケースを用いた場合(対照例)とで比較したものである。
【0017】
対照例にあっては、気圧は殆ど変化せず炉内の雰囲気を直接受けて比較的早い時期から温度が上昇し加熱終了によってなだらかに温度が下がる放物線状の軌跡をたどるが、実施例は、前記対照例より遅れて、加熱によるパンケース2の内気圧の上昇が始まる時期から比較的急激に温度が上昇し、最終的には前記対照例の最高到達温度を10℃前後超える温度に達する。加熱終了後は、ガス抜き機構6の開放により比較的急激にパンケース2の内気圧が低下し、それと同じタイミングでパンケース2内の気温も比較的急激に下降する。そして、パンケース2の内気圧が常圧に達すると、パンケース内の 気温下降も比較的緩やかなものとなる。
【0018】
この様に、オーブンでの加熱に伴うパンケース2の内気圧の上昇を受ける環境下で焼き上げられた(以下、加圧焼成法と記す。)パンは、握っても団子になることもなく、極めて高い復元性を持ったものとなる。
【0019】
上記加圧焼成法で得られたパンの特性を、1.食味(表1参照)、2.パンのデンプンの糊化度の測定結果(表2参照)、3.クラムのブラベンダー社ビスコグラフによる測定結果(図6及び図7参照)、及び4.クラムの応力測定結果(表3参照)からなる四つの要素から評価した。上記各要素の食味以外の測定方法を以下に示す。
【0020】
〔パンのデンプンの糊化度の測定方法〕
BAP法と呼ばれる方法(貝沼、松永、板川、小林:澱粉科学,13,69(1981))により測定した。
【0021】
〔ビスコグラフによる測定方法〕
乾物換算10%水懸濁液500gを試料とし、測定開始温度30℃から96℃まで昇温、96℃で10分間保持した後、30℃まで降温した。
【0022】
〔クラムの応力測定方法〕
山電レオナー:RE35005を用いて測定した。
<測定条件>
サンプル厚さ:18±2mm(約5cm平方)
プランジャ:直径16mm円盤
進入距離:サンプルの厚さの75%及び50%
進入速度:5mm/秒
【0023】
〔糊化度及びビスコグラフ測定用試料調整〕
パン焼成2時間後にパンのクラムを採取し、十二分に浸る量以上のエタノールを加えて1時間振とう後エタノールを傾斜廃棄し、再び同程度量のエタノールを加えて同様の操作を行い、次にアセトンを用いて同様の操作を行った後に、室温で風乾を行う。当該風乾物を遠心粉砕機(レッチ社)で粉砕し、その際、眼開き0.5mmのスクリーンを装着して得られた粉砕物をビスコグラフ測定用試料とし、更に、眼開き0.1mmのスクリーンを装着して得られた粉砕物を糊化度測定用試料とした。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
食味は、前記実施例の方が前記対照例に比べて弾力性と噛み応えがあり、もっちり感が高いという結果が得られた。パンに含まれるデンプンの糊化の程度は、前記対照例のような通常の焼きたてパンでは約60%から65%と言われているところ、前記実施例にあっては、焼成後2時間経過後において約73%と高い値が得られた。因みに、前記対照例にあっては、焼成後2時間経過後において約63%となっている。
【0028】
ブラベンダー社ビスコグラフの測定結果は、未糊化のデンプン量と関係が深いとされており、昇温過程での変化が大きい方が未糊化のデンプン量が多いとされている。前記対照例が昇温過程において420BU上昇しているのに対し、前記実施例では200BUしか上昇していない、この結果は、対照例の方が未糊化のデンプン量が多いことを示唆しており、前記パンに含まれるデンプンの糊化度の測定結果と一致するものである。
【0029】
また、クラムの応力測定結果は、弾力性(噛み応え)に相当する75%圧縮時応力、及び50%圧縮時応力を測定すると共に、75%圧縮時応力/50%圧縮時応力を算出したものである。測定結果では、前記75%圧縮時応力、並びに、75%圧縮時応力/50%圧縮時応力の双方について実施例の方が対照例よりも高い値を示しており、この結果からも実施例の方が対照例よりも弾力性があり、もっちり感があると推察され、前記食味の観測結果と一致するものである。
【0030】
以上の結果から、同じパン生地で焼き上げられたパンが、上記加圧焼成法によってパン内部の温度が100℃を超えるなど、従来の製造方法で得られるパンよりもデンプンの糊化度が高い性状を持つに足る焼成条件が与えられたことによるものと考えられる。当該性状を得た結果、食してすぐに口の中で団子状となって不快なベタベタ感を伴うことなく、飲み込むまでフワフワとしたパンとしての食感を維持するため、餅の様に喉につかえたりすることが極めて少ないものとなる。
【0031】
一方、本発明によるパン粉は、上記の如く加圧焼成法にて焼き上がったパンのブロックを粉砕することによって製造される。具体的には、焼きたてのパンを24時間放冷後、50mmの厚みに縦方向スライスし、そのスライスした面をロール(ロールギャップ4mm,ロール圧比0.08)で圧延し、その後、8mmの網目を有するパン粉粉砕機で粉砕し生パン粉とする。そして、更に乾燥させれば、乾燥パン粉となる。尚、パン粉の大きさは、最大辺長が、3mm〜20mm程度が良い。
【0032】
上記パン粉を用いた揚げ物は、衣内にパン粉が溶け込んで団子になったり、寝たりすることが少ないために、表面がカラッと揚がったサクサク感やアッサリ感を持ち、ベトベトとした油っぽさ等の不快感を伴うことなく食することが出来る食品となる。
【0033】
上記パンの製造方法は、炉の内気圧を大気圧以上(約1.3〜3気圧)に高めることが出来る気密性をもった炉、及び当該炉の内気圧を調整する気圧制御手段を具備したオーブンで、前記温度条件及び気圧条件を炉内において実現すれば同様のパンを得ることが出来る。前記気圧制御手段は、少なくとも前記パンケース2のガス抜き機構6程度に規定の内気圧の上限を維持し得るものであることが必要であり、専ら一定の性状を持つパンを焼成する用途に用いるのであれば、その様な構造をもって足りる一方、例えば、電子的な制御により炉の内気圧を綿密に調整できるシステムを用いれば、焼成によって得られるパンの性状をより綿密に調節することも出来るので、時代や消費者の要請に応じた多様なパン又はパン粉が得られ、新規なメニューにも適格に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
焼成によって得られるパンの性状をより綿密に調節すれば、時代や消費者の要請に応じた多様なパン又はパン粉が得られ、新規なメニューにも適格に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるパンの製造方法に用いるパンケースの一例を一部切欠して示した側面図である。
【図2】本発明によるパンの製造方法に用いるパンケースのロック機構の一例を拡大して示した側面図である。
【図3】本発明によるパンの製造方法に用いるパンケースの一例示した平面図である。
【図4】本発明によるパンの製造方法に用いるパンケースのガス抜き手段の一例を拡大して示した側面図である。
【図5】本発明によるパンの製造方法におけるパンケース内の気温と気圧の時間的推移の一例を実施例と対照例とで比較したタイムチャートである。
【図6】本発明によるパンの製造方法で焼き上げられたパンの糊化の程度の一例を示すタイムチャートである。
【図7】従来のパンの製造方法で焼き上げられたパンの糊化の程度の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 パン生地,2 パンケース,3 ケース本体,4 蓋,5 ロック機構,
6 ガス抜き機構,7 ガスケット,8 フック,
9 ニードル弁,10 ノズル,11 ウエイト,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン生地(1)を入れたパンケース(2)の内部を大気圧以上に加圧しつつオーブンで焼成するパンの製造方法。
【請求項2】
上に開口したケース本体(3)と、当該ケース本体(3)の開口部を封鎖する蓋(4)と、当該蓋(4)の封鎖状態を維持するロック機構(5)と、規定の内気圧を上限として維持するガス抜き機構(6)を具備するパンケース(2)を用いオーブンで焼成するパンの製造方法。
【請求項3】
パンケース(2)に入れられたパン生地(1)を、気密性を有する炉、及び当該炉の内気圧を調整する気圧制御手段を具備したオーブンで焼成するパンの製造方法。
【請求項4】
上記請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパンの製造方法によって製造されたパン。
【請求項5】
上記請求項4に記載のパンを粉砕して製造されたパン粉。
【請求項6】
上に開口したケース本体(3)と、当該ケース本体(3)の開口部を封鎖する蓋(4)と、当該蓋(4)の封鎖状態を維持するロック機構(5)と、規定の内気圧を上限として維持するガス抜き機構(6)を具備するパンケース。
【請求項7】
気密性を有する炉、及び当該炉の内気圧を調整する気圧制御手段を具備したオーブン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−158352(P2006−158352A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358249(P2004−358249)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(598031431)
【Fターム(参考)】