説明

パンクシーリング剤収納容器

【課題】低温環境下での耐衝撃性、および、パンクシーリング剤の保存安定性に優れたパンクシーリング剤収納容器を提供する。
【解決手段】結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含み、前記非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を分散相とした海島構造を有する樹脂材料を含有するパンクシーリング剤収納容器である。前記樹脂材料は、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのブロック共重合体であることが好ましく、前記ブロック共重合体中の結晶性ポリプロピレンの結晶化度が、55%〜90%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパンクシーリング剤収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々のパンク修理用のパンクシーリング剤を市場で入手することができる。これらのパンクシーリング剤は液状であり、一般的には、パンクシーリング剤を収納する収納容器に保存されている。パンクシーリング剤の収納容器は、従来から加工が容易な樹脂が用いられている。
例えば、パンクシーリング剤の収納容器を、エチレン・ビニルアルコール共重合体で作製することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、パンクシーリング剤は、様々な環境下で用いられる。自動車内にパンクシーリング剤を積載し、タイヤがパンクしたときにパンクシーリング剤を使用する場合、日光の当たる車内は、高温となり、パンクシーリング剤が凝固する場合がある。一方、ロシアや中国等の極寒地でも使用できるよう、低温下でのニーズも高まってきている。具体的には、−40℃環境下での様々な使用態様にも耐え、パンクシーリング剤を保管し得る容器が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−26217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のパンクシーリング剤収納容器は、−40℃環境下では、例えば、地上20cmの高さから落下した場合に、破壊し、中に入っているパンクシーリング剤が漏れ出すことがあった。
【0006】
本発明は、上記従来における問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、低温環境下での耐衝撃性、および、パンクシーリング剤の保存安定性に優れたパンクシーリング剤収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく鋭意検討の結果、本発明者らは、下記本発明により前記課題を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、
<1> 結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含み、前記非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を分散相とした海島構造を有する樹脂材料を含有するパンクシーリング剤収納容器である。
【0008】
<2> 前記樹脂材料は、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのブロック共重合体である前記<1>に記載のパンクシーリング剤収納容器である。
【0009】
<3> 前記ブロック共重合体中の結晶性ポリプロピレンの結晶化度が、55%〜90%である前記<2>に記載のパンクシーリング剤収納容器である。
【0010】
<4> 前記非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度が、−40℃以下である前記<1〜前記<3>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤収納容器である。
【0011】
<5> 前記ブロック共重合体を加工成形して構成される前記<2>〜前記<4>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤収納容器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温環境下での耐衝撃性、および、パンクシーリング剤の保存安定性に優れたパンクシーリング剤収納容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<パンクシーリング剤収納容器>
本発明のパンクシーリング剤収納容器は、結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含み、前記非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を分散相とした海島構造を有する樹脂材料を含有する。
パンクシーリング剤収納容器を上記構成とすることで、低温環境下での耐衝撃性、および、パンクシーリング剤の保存安定性に優れた容器とすることができる理由は、明らかではないが、次の理由によるものと考えられる。
【0014】
ボトル材料として樹脂が用いられた場合、樹脂としては、従来から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が用いられている。
パンクシーリング剤収納容器は、一般に、パンクシーリング剤を圧力でタイヤに導入するポンプアップ装置と結合して用いられ、耐圧性が要求される。そのため、容器の材料を1mm〜3mm程度の肉厚とする必要があり、ポリエチレンや、ポリプロピレンが用いられている。
【0015】
パンクシーリング剤収納容器は、上記の耐圧性のほか、種々の性能が要求される。例えば、パンクシーリング剤収納容器が収納するパンクシーリング剤が、酸化劣化しないように、酸素非透過性ないし空気非透過性が要求される。また、高温にさらされる車内(例えば、ダッシュボード)に保管されたり、パンク修理時に、日光で熱くなった路面上に置かれることが多い。そのため、高温で容器が軟化して、外力により変形したり、ポンプアップ装置からの圧力により破損してパンクシーリング剤が漏れ出す等のことがないように、高温での耐圧性、耐衝撃性が求められる。
一方、氷点下数十度にもなる極寒地等の低温環境下での使用にも耐え得る耐圧性や耐衝撃性が求められている。特に、極寒地では、パンクシーリング剤収納容器が硬くなり、容器を落下した場合に容器が破損し易いため、かかる条件下でも容器が破損し難い耐衝撃性が求められている。
【0016】
以上見地より、パンクシーリング剤収納容器が耐圧性と耐衝撃性を有するには、高温環境下から低温環境下の広い温度範囲において、パンクシーリング剤収納容器が、熱に対して軟化せず、圧力に対応可能な、強固な性質であると共に、容器の落下等の外力を吸収し得る柔軟性を併せ持つことが重要であると考えられる。
【0017】
ここで、従来からパンクシーリング剤収納容器の材料として用いられてきたポリエチレンは、ガラス転移温度(以下、「Tg」とも称する)が低く、低温環境下でも柔軟性を有するが、低温耐衝撃性は十分ではなかった。また、ポリエチレンの融点(以下、「Tm」とも称する)は130℃前後であり、ポリエチレンは高温で軟化し易い。そのため、高温特性が芳しくなく、特に80℃前後での使用環境下における容器の耐圧性を確保することが困難であった。
一方、同じく従来からパンクシーリング剤収納容器の材料として用いられてきたポリプロピレンは、融点(Tm)が160℃前後であるので、高温環境下での耐圧性に優れる。しかし、ガラス転移温度(Tg)が10℃前後であることから、低温環境下で柔軟性が低いため、ポリプロピレンの低温での耐衝撃性は、特にマイナス20℃(−20℃)以下において著しく低下してしまった。
【0018】
上記事情に鑑み、本発明では、パンクシーリング剤収納容器を、結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含む樹脂材料を含有する構成としている。
結晶性ポリプロピレン構造部位は、上述のポリプロピレンの有する耐圧性を発現し得る部位である。一方、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位は、エチレン−プロピレン共重合体がEPRゴム(エチレンプロピレンゴム)と称されるように、ゴム弾性を有する部位であり、柔軟性に優れる。従って、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位は、落下等に起因する外力を分散または吸収して耐衝撃性を発現し得る部位である。
すなわち、樹脂材料が、結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含むことで、高温環境下および低温環境下の広い温度範囲において、パンクシーリング収納容器が耐圧性および耐衝撃性を発現し得ると考えられる。
【0019】
本発明では、さらに、樹脂材料が、結晶性ポリプロピレン構造部位を海部(連続相)、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を島部(分散相)とした海島構造を有する。
海島構造を有する樹脂材料は、島部を構成する部位と、海部を構成する部位とが、性質上なじみにくい性質である場合、一般に、海部と島部との界面(海島界面)でクラックが発生し易い。このような樹脂材料は耐衝撃性を十分に発現できないことがある。
しかし、本発明における樹脂材料は、既述のように、結晶性ポリプロピレン構造部位を海部、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を島部としており、海部と島部共に、互いになじみ易いプロピレン由来の構造を有している。従って、本発明における樹脂材料は、海島界面でのクラックを生じにくく、このような観点からも、耐衝撃性に優れると考えられる。
【0020】
樹脂材料が海島構造を有することで、本発明のパンクシーリング剤収納容器は、さらに、酸素非透過性をも発現し得ると考えられる。
パンクシーリング剤収納容器の柔軟性に寄与すると考えられる非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位は、酸素非透過性に優れない。しかしながら、結晶性ポリプロピレンは、分子が規則正しく配列した結晶構造を有するため、酸素非透過性に優れ、酸素を透過し難い。従って、酸素を透過し難い結晶性ポリプロピレン構造部位を連続相である海部とすることで、本発明における樹脂材料は、柔軟性と耐圧性を発現しつつ、さらに酸素非透過性も発現し得るものと考えられる。
【0021】
樹脂材料が海島構造を有するか否かは、例えば、日立製作所社製の透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)(型式;H−8100)、及び、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の動的粘弾性測定装置(DMA;Dynamic Mechanical Analysis)(型式;Thermo Plus 2)により確認することができる。具体的には、次のようにして確認すればよい。
樹脂材料の海島構造の直接的観察としては、パンクシーリング剤収納容器から切り出した観察用サンプルを、四酸化ルテニウムで染色した後、クライオウルトラミクロトームにより約100mm厚の超薄切片を作製し、その後にカーボン蒸着を施し、TEMで観察する。これにより、ゴム相が黒く、樹脂相が白く観察されるため、白い樹脂相を海部とし、黒いゴム相が島部として分散している様子を観察することができる。
また、樹脂材料が海島構造を有する場合、樹脂材料の動的粘弾性にその特徴が顕著に表れることが知られている。そのため、動的粘弾性の特徴値の1つである動的損失正接(tanδ)を、DMA測定で確認することで、樹脂材料が海島構造を有するか否かを確認することもできると考えられる。
【0022】
樹脂材料が海島構造を有する場合、海部と島部との2つの相を有し、各相についてガラス転移温度Tgを有する(Tgが2つある)ところ、樹脂材料が海島構造を有しない場合、相は1つであり、Tgも1つであると考えられる。
測定対象の樹脂材料を加熱しながらDMA測定によりtanδを測定し、tanδを縦軸にとり、温度を横軸にとって測定値をプロットして、tanδ−温度曲線を得る。tanδ−温度曲線のピークの数は、樹脂材料のTgの数に相当する。従って、樹脂材料が海島構造を有さず、相が1つである場合、tanδ−温度曲線のピークは1つ得られ、樹脂材料が海島構造を有し、相が2つである場合には、樹脂材料の海部および島部の各々の相のTgに相当するピークが2つ得られる。
【0023】
次に、樹脂材料が有するポリプロピレンの相(PP相とも称する)が、海部を形成しているか否かは、PP相の結晶化度(樹脂材料の結晶性ポリプロピレンの比率)から判断すればよい。結晶性ポリプロピレンは、PP相でのみ形成されると考えられる。従って、結晶性ポリプロピレンの比率が樹脂材料の全体の50%以上であるとき、PP相の樹脂材料中の比率は、結晶性ポリプロピレンの比率よりも大きいことを意味し、このとき、すなわち、結晶化度が50%以上である場合に、PP相が海部(連続相)を形成するといえる。
上記結晶化度は、示差走査型熱量分析(DSC)装置〔理学電機社製、Thermo Plus2〕を用い、ペレット状の樹脂材料を、−60℃から220℃まで10℃/分で昇温することにより測定される値である。
以下、本発明における樹脂材料の詳細を説明する。
【0024】
〔樹脂材料〕
本発明における樹脂材料は、結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含み、前記非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を分散相とした海島構造を有する。
ここで、「結晶性ポリプロピレン構造部位」とは、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位の部位を表し、「結晶性ポリプロピレン構造部位」を有する化合物は、結晶性ポリプロピレンであってもよいし、当該部位、および、他の繰り返し単位からなる部位を同一分子内に含む共重合体であってもよい。
また、「非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位」とは、非晶質であり、かつ、エチレンの繰り返し単位とプロピレンの繰り返し単位とを有する部位を表す。「非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位」を有する化合物は、非晶性エチレン−プロピレン共重合体であってもよいし、当該部位、および、他の繰り返し単位からなる部位を同一分子内に含む共重合体であってもよい。
【0025】
従って、本発明における樹脂材料は、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位との、少なくとも2つの繰り返し単位を同一分子内に有する共重合体であってもよいし、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体との、少なくとも2成分を含む樹脂組成物であってもよい。
以下、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位との、少なくとも2つの繰り返し単位を同一分子内に有する共重合体を、「特定共重合体」とも称する。
また、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体との、少なくとも2成分を含有する樹脂組成物を、「特定樹脂組成物」とも称する。
【0026】
−特定共重合体−
本発明における樹脂材料が、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位との、少なくとも2つの繰り返し単位を同一分子内に有する共重合体(特定共重合体)である場合には、特定共重合体は、本発明の効果を損なわない限度において、更に、他の繰り返し単位を同一分子内に含んでいてもよい。
他の繰り返し単位としては、機能性官能基(例えば、パンクシーリング剤を紫外線から守るための紫外線吸収機能を有するフェニルエステル基等)を有する繰り返し単位が挙げられる。また、他の繰り返し単位として、非晶性エチレン−プロピレン共重合体以外のプロピレン系共重合体(プロピレン由来の繰り返し単位を含む共重合体をいう。結晶性、非晶性を問わない)の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0027】
特定共重合体は、例えば、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを共重合することにより得ることができる。
結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを共重合する際の、共重合の形態は、ブロック共重合であることが好ましい。ブロック共重合とすることで、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位、すなわち、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を、特定共重合体分子中に、ブロック状に存在させ易く、島部とし易い。また、海島構造の共重合成分を、共有結合によるブロック共重合体という1つの分子鎖で固定することができるために、加工成形(例えば、ブロー成形)において、溶融状態の特定共重合体が延伸等の作用を受けた際にも、海島構造を損ないにくい。
【0028】
特定共重合体中の結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位、すなわち、結晶性ポリプロピレン構造部位の割合は、特定共重合体中のポリプロピレンの結晶化度に依存すると考えられる。すなわち、特定共重合体中のポリプロピレンの結晶化度が大きいほど、特定重合体中の結晶性ポリプロピレン構造部位の割合が大きい。
特定重合体(特にブロック共重合した特定重合体)中のポリプロピレンは、結晶化度が、55%〜90%であることが好ましい。特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度の上限は80%であることが好ましく、下限は60%であることが好ましい。より好ましくは60%〜80%である。
【0029】
特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度が55%以上であることで、酸素非透過性および耐圧性を発現し得る結晶性ポリプロピレン構造部位を連続相とし易いため、パンクシーリング剤収納容器の酸素非透過性と耐圧性をより向上し得る。その結果、収納容器を、ポンプアップ装置による圧力に耐える容器にすると共に、収納容器内に収納されるパンクシーリング剤の酸化劣化をより抑制することができ、パンクシーリング剤の保存安定性の観点からも好ましい。
一方、特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度が90%以下であることで、特定重合体中の非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位によるゴム弾性を発現し易く、パンクシーリング剤収納容器に柔軟性を持たせ易い。その結果、収納容器の落下等による外力に対して耐衝撃性を発現し易い。
【0030】
特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度は、樹脂材料の海島構造の確認と同様に、示差走査型熱量分析(DSC)装置〔理学電機社製、Thermo Plus2〕を用い、ペレット状の重合体を、−60℃から220℃まで10℃/分で昇温することにより測定される値である。
【0031】
−特定樹脂組成物−
本発明における樹脂材料が、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体との、少なくとも2成分を含む樹脂組成物(特定樹脂組成物)である場合、特定樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限度において、他の樹脂や、添加剤を含有していてもよい。
添加剤としては、例えば、パンクシーリング剤収納容器に装飾性をもたせるための着色剤(例えば、顔料)や、パンクシーリング剤を紫外線から守るための紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0032】
特定樹脂組成物中の結晶性ポリプロピレンの割合は、特定樹脂組成物全質量に対し、55質量%〜90質量%であることが好ましい。特定樹脂組成物中の結晶性ポリプロピレンの割合の上限は80質量%であることが好ましく、下限は60質量%であることが好ましい。より好ましくは60質量%〜80質量%である。
【0033】
特定樹脂組成物中の結晶性ポリプロピレンの割合が55%以上であることで、酸素非透過性および耐圧性を発現し得る結晶性ポリプロピレン構造部位を連続相とし易いため、パンクシーリング剤収納容器の酸素非透過性と耐圧性をより向上し得る。その結果、収納容器を、ポンプアップ装置による圧力に耐える容器にすると共に、収納容器内に収納されるパンクシーリング剤の酸化劣化をより抑制することができ、パンクシーリング剤の保存安定性の観点からも好ましい。
一方、特定樹脂組成物中の結晶性ポリプロピレンの割合が90%以上であることで、特定重合体中の非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位によるゴム弾性を発現し易く、パンクシーリング剤収納容器に柔軟性を持たせ易い。その結果、収納容器の落下等による外力に対して耐衝撃性を発現し易い。
【0034】
特定樹脂組成物は、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを混合することにより得ることができる。特定樹脂組成物を、結晶性ポリプロピレンが海部(連続相)、非晶性エチレン−プロピレン共重合体が島部(分散相)である海島構造とする方法は、特に制限されないが、例えば、乳化分散法等により得ることができる。より具体的には、非イオン性界面活性剤等の乳化剤を用いて、分散相となる非晶性エチレン−プロピレン共重合体を乳化粒子とし、結晶性ポリプロピレン溶液中に、乳化粒子を分散させることが挙げられる。
【0035】
特定共重合体および特定樹脂組成物は、既述のように、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを共重合(好ましくはブロック共重合)し、または、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを混合することで得ることができる。
以下、特定共重合体および特定樹脂組成物の原料となる結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体について説明する。
【0036】
(結晶性ポリプロピレン)
結晶性ポリプロピレンは、耐圧性の観点から、融点(Tm)が160℃〜180℃であることが好ましい。
【0037】
(非晶性エチレン−プロピレン共重合体)
非晶性エチレン−プロピレン共重合体は、柔軟性および耐衝撃性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が、マイナス40℃(−40℃)以下であることが好ましい。
特に、ガラス転移温度(Tg)が、マイナス40℃以下であることで、ロシアのような極寒地での低温環境下で、パンクシーリング剤収納容器に柔軟性を持たせることができる。その結果、低温環境下でもより耐衝撃性に優れたパンクシーリング剤収納容器とすることができる。
非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度(Tg)の下限は、マイナス70℃(−70℃)であることが好ましく、より好ましくはマイナス60℃(−60℃)である。非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度(Tg)が、マイナス70℃以上であることで、特定共重合体および特定樹脂組成物中の非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位が柔らかくなりすぎることを抑制し、パンクシーリング剤収納容器としての耐圧性が低下することを抑制することができる。
【0038】
なお、非晶性エチレン−プロピレン共重合体は、エチレン由来の共重合単位およびプロピレン由来の共重合単位以外の共重合単位を含んでいてもよいが、エチレン由来の共重合単位およびプロピレン由来の共重合単位以外の共重合単位の割合は、非晶性エチレン−プロピレン共重合体中、10モル%以下であることが好ましい。
【0039】
結晶性ポリプロピレン、非晶性エチレン−プロピレン共重合体、特定重合体、及び樹脂材料のガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)は、各々ペレット状にしたものについて、特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度測定に用いられる既述のDSC測定装置を用いて測定される。DSC測定における温度範囲は、マイナス60℃(−60℃)〜220℃とする。
【0040】
〔加工成形〕
本発明のパンクシーリング剤収納容器は、特定ブロック共重合体を加工成形して構成されることが好ましい。加工成形の方法は、特に制限されず、圧縮成形、吹込成形(ブロー成形)、射出成形や、これらの加工成形の組合せにより特定ブロック共重合体を加工成形すればよい。中でも、吹込成形により特定ブロック共重合体をパンクシーリング剤収納容器に加工することが好ましい。
樹脂材料として、特定樹脂組成物を用いる場合には、特定樹脂組成物を金型に流し込み溶融および冷却することにより、パンクシーリング剤収納容器を加工成形することが考えられる。
【0041】
〔パンク修理キット〕
本発明のパンクシーリング剤収納容器は、二体型、一体型、セミ一体型等、種々のパンク修理キットに用いることができる。
二体型パンク修理キットとは、パンクシーリング剤収納容器と、パンクシーリング剤を圧力でタイヤ内に導入するポンプアップ装置とが別個独立して分離しているキットであり、パンク修理時に、パンクシーリング剤収納容器とポンプアップ装置とをホース等で結合して用いるものである。
一体型パンク修理キットとは、パンクシーリング剤収納容器とポンプアップ装置とが、予め結合されたキットであり、一般に、パンクシーリング剤収納容器およびポンプアップ装置はケースで覆われている。
セミ一体型パンク修理キットとは、パンクシーリング剤収納容器とポンプアップ装置とが分離しているものの、ポンプアップ装置とパンクシーリング剤収納容器とを結合する経路が予め備わっているために、使用時に、ポンプアップ装置とパンクシーリング剤収納容器とをホース等で結合する手間がかからないキットである。タイヤ修理時は、一般に、パンクシーリング剤収納容器を、キットに押し込む等して容器を開栓すると共に、キットに固定して用いる。
【0042】
本発明のパンクシーリング剤収納容器は、柔軟性があり、耐衝撃性に優れるため、上記のパンク修理キットの中でも、一般にパンクシーリング剤収納容器がケースで覆われていない二体型パンク修理キット、及びセミ一体型パンク修理キットに用いることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
<樹脂材料の用意>
パンクシーリング剤収納容器の材料(樹脂材料)として、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのブロック共重合体1〜5(実施例1〜5)および、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのランダム共重合体101(比較例1)を用意した。詳細は次のとおりである。
【0045】
〔実施例1〕
−ブロック共重合体1の作製−
・結晶性ポリプロピレン1(Tg=12℃)
・非晶性エチレン−プロピレン共重合体1(Tg=−29℃)
上記結晶性ポリプロピレン1と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体1とを反応させ、共重合し、ブロック共重合体1を作製した。
なお、共重合は、チーグラー・ナッタ系触媒による配位アニオン重合により行なった。
【0046】
〔実施例2〕
−ブロック共重合体2の作製−
・結晶性ポリプロピレン2(Tg=11℃)
・非晶性エチレン−プロピレン共重合体2(Tg=−42℃)
上記結晶性ポリプロピレン2と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体2とを反応させ、共重合し、ブロック共重合体2を作製した。
なお、共重合は、チーグラー・ナッタ系触媒による配位アニオン重合により行なった。
【0047】
〔実施例3〕
−ブロック共重合体3の作製−
・結晶性ポリプロピレン3(Tg=11℃)
・非晶性エチレン−プロピレン共重合体3(Tg=−42℃)
上記結晶性ポリプロピレン3と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体3とを反応させ、共重合し、ブロック共重合体3を作製した。
なお、共重合は、チーグラー・ナッタ系触媒による配位アニオン重合により行なった。
【0048】
〔実施例4〕
−ブロック共重合体4の作製−
・結晶性ポリプロピレン4(Tg=11℃)
・非晶性エチレン−プロピレン共重合体4(Tg=−57℃)
上記結晶性ポリプロピレン4と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体4とを反応させ、共重合し、ブロック共重合体4を作製した。
なお、共重合は、チーグラー・ナッタ系触媒による配位アニオン重合により行なった。
【0049】
〔実施例5〕
−ブロック共重合体5の作製−
・結晶性ポリプロピレン5(Tg=17℃)
・非晶性エチレン−プロピレン共重合体5(Tg=−54℃)
上記結晶性ポリプロピレン5と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体5とを反応させ、共重合し、ブロック共重合体5を作製した。
なお、共重合は、チーグラー・ナッタ系触媒による配位アニオン重合により行なった。
【0050】
〔比較例1〕
結晶性ポリプロピレンと非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのランダム共重合体(Tg=10℃)を、比較例1の共重合体(ランダム共重合体101)として用いた。
【0051】
ブロック共重合体1〜5およびランダム共重合体101について、海島構造の有無をDMA測定により確認したところ、ブロック共重合体1〜5は、非晶性エチレン−プロピレン共重合体(EPR)由来の島部と結晶性ポリプロピレン(PP)由来の海部とからなる海島構造を形成していることがわかった。一方、ランダム共重合体101は海島構造を有していなかった。
【0052】
ブロック共重合体1〜5およびランダム共重合体101の原料である結晶性ポリプロピレンおよび非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度(Tg)をDMA測定により求め、結晶性ポリプロピル樹脂構造部位の結晶化度をDSC測定により求め、それぞれ、表1に示した。なお、ランダム共重合体101は、海島構造を有していなかったため、表1の島部欄には、「なし」と記載した。
また、ブロック共重合体1〜5およびランダム共重合体101をペレット状にしたものを用い、ブロック共重合体1〜5およびランダム共重合体101の結晶性ポリプロピレンの結晶化度をDSC装置により測定し、表1に示した。
【0053】
<樹脂材料のブロー成形>
ブロック共重合体1〜5およびランダム共重合体101を用いてブロー成形することにより、パンクシーリング剤を最大1000mL収納可能な、壁厚2mm〜4mmの円筒状パンクシーリング剤収納容器を製造した。
【0054】
<評価>
次のようにしてパンクシーリング剤Pを調製し、800mLパンクシーリング剤Pを収納した実施例1〜実施例5及び比較例1のパンクシーリング剤収納容器を用いて、各評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0055】
−パンクシーリング剤Pの調製方法−
SBRラテックス40質量部と水5質量部との混合液Aと、プロピレングリコール45質量部とロジン系樹脂10質量部との混合液Bとを、それぞれ用意した。混合液Aと混合液Bと混合し、36時間静置し、次いで、200メッシュのフィルターを使用して濾過を行い、パンクシーリング剤Pとした。
【0056】
1.パンクシーリング剤収納容器の耐衝撃性評価
マイナス40℃(−40℃)の温度条件下において、パンクシーリング剤Pを収納した実施例1〜実施例5及び比較例1のパンクシーリング剤収納容器を、地上15cm、地上30cm、地上45cm、地上60cm、地上75cm、及び地上90cmから、コンクリートの地面に自由落下させた。
パンクシーリング剤収納容器が欠損しない最大の高さを測定した。
【0057】
パンクシーリング剤収納容器が欠損しない最大の高さは、30cm以上が好ましく、45cm以上であることが特に好ましい。
「地上45cm」は、タイヤの補修のために、パンクシーリング剤収納容器とタイヤバルブとをホースで接続する接続作業等で、作業者が地面に膝をついたときに、パンクシーリング剤収納容器を持ち上げられる最大の高さと考えられる。上記の好ましい高さは、かかる観点を考慮して決定した。
【0058】
2.パンクシーリング剤の保存安定性
パンクシーリング剤Pを収納した実施例1〜実施例5及び比較例1のパンクシーリング剤収納容器を、開口部をアルミニウム製のシールにより封止した上で90℃のオーブンに保管し、パンクシーリング剤Pが凝固するまでに要する日数を測定した。
保存安定性の評価は、比較例1の収納容器を用いた際に、パンクシーリング剤Pが凝固するのに要した日数を100としたとき、実施例1〜実施例5のパンクシーリング剤収納容器を使用した際に、パンクシーリング剤Pが凝固するまでにかかる日数がどれほどとなるかを指数化することより行なった。評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含み、前記非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を分散相とした海島構造を有する樹脂材料を含有するパンクシーリング剤収納容器。
【請求項2】
前記樹脂材料は、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのブロック共重合体である請求項1に記載のパンクシーリング剤収納容器。
【請求項3】
前記ブロック共重合体中の結晶性ポリプロピレンの結晶化度が、55%〜90%である請求項2に記載のパンクシーリング剤収納容器。
【請求項4】
前記非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度が、−40℃以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤収納容器。
【請求項5】
前記ブロック共重合体を加工成形して構成される請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤収納容器。

【公開番号】特開2012−25403(P2012−25403A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163291(P2010−163291)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】