説明

パンコーティング装置

【課題】洗浄性の低下や製造コストの増大を招来することなく、撹拌能力を向上可能なバッフルを備えたパンコーティング装置を提供する。
【解決手段】パンコーティング装置1は中空の回転ドラム2にバッフル32を備える。バッフル32は、ドラム2の回転方向Xに対して斜め方向に延びる形で内壁3aに配置され、隣接するバッフル32同士は回転方向Xに対して互いに逆方向に傾斜した状態で配置される。バッフル32には、回転方向Xに向かって前傾状態に設けられた作用面33を有する傾斜翼32bと、バッフル32の回転方向X前方側に作用面33を含んで形成された抱持部34とを有する。ドラム2が回転すると、抱持部34には被処理物が抱え込まれ、抱持部34に抱え込まれた被処理物は、ドラム2の回転に伴って横方向に移動し撹拌混合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ドラムを用いて粉粒体のコーティング処理等を行うパンコーティング装置に関し、特に、回転ドラム内に設置され粉粒体の混合・撹拌を促進するバッフル部材の撹拌能力向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬品や食品等の製造装置として、回転ドラムを用いた造粒コーティング装置(パンコーティング装置)が知られている。例えば、特許文献1には、円形断面の回転ドラムを、水平軸線を中心に回転させる装置が示されている。このような回転ドラムはコーティングパンとも呼ばれ、内部にはコーティング液を供給するスプレー装置が設置される。回転ドラム内に投入された粉粒体はドラムの回転に伴って転動し、その表面にはスプレー装置からコーティング液が噴霧される。その際、回転ドラム内には、適宜、熱風や冷風が供給・排気され、コーティング層の形成や乾燥が促進される。
【0003】
また、パンコーティング装置では、混合撹拌効率を向上させるべく、回転ドラム内に、粉粒体の転動流を撹乱させるバッフルが配されている。このようなバッフルとしては、従来より、次の2つタイプが知られている。すなわち、ドラム内壁面に対し垂直に取り付けられた「垂直バッフル」と、バッフル先端部が回転方向に対して後ろ側に傾斜した「後退傾斜バッフル」が知られている。これらのバッフルは、ドラム回転方向に対して30〜45°斜めに取り付けられており、ドラムの回転に伴って錠剤等の被処理物を高くかき上げてしまわないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-328408号公報
【特許文献2】特表2009-505655号公報
【特許文献3】米国特許第4188130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の垂直バッフルでは、撹拌混合性を向上させるためにはバッフルを高くする必要がある。バッフルを高くすると、スプレー装置からの噴霧液がかかり易くなり、スプレーによる汚れが付き易く、洗浄作業の頻度が増加し、バッフルの洗浄性も低下する。このため、コーティング基材が被処理物に有効利用されずに効率が低下するうえ、洗浄作業工数も増加し、製品製造コストが増大するという問題があった。また、垂直バッフルでは、パンの回転に伴って被処理物層からバッフルが出た際、被処理物を抱え込むことができないため、バッフルに載っていた多くの被処理物は、すぐにバッフル上からこぼれ落ちてしまう。このため、被処理物の横方向への動きがなく、撹拌性に乏しいという問題もあった。
【0006】
これに対し後退傾斜バッフルは、それ自体、被処理物をかき上げにくい構造となっているため、被処理物が高くかき上げられることがなく、被処理物が高い位置から落とされず、被処理物にダメージを与えにくいというメリットがある。しかしながらその一方で、被処理物の横方向への移動もしにくく撹拌能力が低くなるというデメリットがあり、撹拌能力向上のためには、バッフルの設置個数を増加させる必要があり、装置製造コストの増加や洗浄工数の増加は避けられない。
【0007】
また、特許文献2には、バッフルの遠位端部に鉤形の突出部を設けたものが示されているが、このような突出部を設けると、被処理物が高くかき上げられていまい、高所からの落下により錠剤等に割れが生じてしまうおそれがある。特許文献2の装置は、専ら食肉を対象としたものであり、そこでは、被処理物の割れを考慮する必要はなく、また、横方向への移動性も問題とならない。このため、特許文献2のようなバッフルは、肉製品等の粘度の高い食品には採用し得るものの、流動性の高い粉粒体の処理装置には余り好適とは言えない。
【0008】
すなわち、従来のバッフルでは、撹拌能力向上のためには、バッフルを大きくしたり、バッフルの個数を増やしたりする以外に選択肢がなく、撹拌能力向上と引き換えに、洗浄性や装置製造コストを犠牲にせざるを得ないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、洗浄性の低下や装置製造コストの増大を招来することなく、撹拌能力を向上可能なバッフルを備えたパンコーティング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のパンコーティング装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された中空の処理容器と、前記処理容器内に設置され、前記処理容器に収容された被処理物を混合撹拌するバッフルとを備えてなるパンコーティング装置であって、前記バッフルは、前記処理容器の回転方向Xに対して斜め方向に延びる形で前記処理容器の内壁に配置されると共に、前記回転方向Xに向かって前傾状態に設けられた作用面を有する傾斜翼と、前記バッフルの前記回転方向X前方側に前記作用面を含んで形成され、前記処理容器の回転時に前記被処理物を抱え込みつつ横方向へ移動させる抱持部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、バッフルを処理容器回転方向Xに対して斜め方向に延びる形で配置すると共に、回転方向Xに向かって前傾状態に設けられた作用面を有する傾斜翼をバッフルに設け、この作用面を含む形で処理容器回転時に被処理物を抱え込みつつ横方向へ移動させる抱持部を形成することにより、被処理物の撹拌混合性を向上させることができ、従来よりも少ないバッフル数で従来と同等以上の撹拌混合性を得ることが可能となる。
【0012】
また、前記バッフルの先端縁とドラム回転方向Xが為す角度θ1を20°〜50°、好ましくは、30°〜45°に設定しても良く、これらの範囲に角度θ1を設定することにより、被処理物の抱え込みと横方向への移動がバランス良く調整され、抱持部に抱え込まれた被処理物が高く持ち上げられることなく、適度に横方向に移動してバッフルから離脱する。このため、例えば、錠剤のコーティング処理を行う場合などにおいても、錠剤にダメージを与えることが少なく、製品品質の向上が図られる。
【0013】
さらに、前記作用面の延長線と前記処理容器の内壁面との為す角度θ2を45°以上90度未満、好ましくは、60°〜85°に設定しても良く、これらの範囲に角度θ2を設定することにより、被処理物の抱え込みと横方向への移動がバランス良く調整され、被処理物が効率良く撹拌混合される。このため、コーティング処理が均一に進行し、例えば被処理物の色のバラツキが抑えられるなど、製品品質の向上が図られる。
【0014】
また、前記作用面の上端と前記抱持部の後端点とを結ぶ線と前記処理容器の内壁面との為す角度θ2を45°以上90度未満、好ましくは、60°〜85°に設定しても良く、これらの範囲に角度θ2を設定することにより、被処理物の抱え込みと横方向への移動がバランス良く調整され、被処理物が効率良く撹拌混合される。このため、コーティング処理が均一に進行し、例えば被処理物の色のバラツキが抑えられるなど、製品品質の向上が図られる。
【0015】
一方、前記バッフルを中空構造に形成しても良く、また、前記バッフルに通気性を持たせても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明のパンコーティング装置によれば、回転軸を中心に回転可能に配置された中空の処理容器と、処理容器内に設置され処理容器に収容された被処理物を混合撹拌するバッフルとを備えてなるパンコーティング装置にて、バッフルを処理容器回転方向Xに対して斜め方向に延びる形で配置すると共に、回転方向Xに向かって前傾状態に設けられた作用面を有する傾斜翼をバッフルに設け、この作用面を含む形で処理容器回転時に被処理物を抱え込みつつ横方向へ移動させる抱持部を形成したので、従来の垂直バッフルや後退傾斜バッフルに比して、被処理物の撹拌混合性を向上させることが可能となる。
【0017】
このため、従来よりも少ないバッフル数で従来と同等以上の撹拌混合性を得ることができ、また、バッフルサイズを小さく抑えつつ撹拌混合性を確保できるため、洗浄作業の頻度やバッフルの洗浄性が改善され、製品製造コストの低減を図ることが可能となる。さらに、被処理物を高い位置までかき上げて落下させることなく高い撹拌混合性を得ることができるため、錠剤等の被処理物へのダメージも小さく抑えられる。従って、本発明のパンコーティング装置を使用することにより、製品製造コストの低減を図りつつ、医薬品その他のコーティング製品に重要であるコーティング層の均一性が確保され、製品品質の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例であるパンコーティング装置の構成を示す説明図である。
【図2】主胴部内に設けられたバッフルの構成を示す説明図である。
【図3】主胴部の展開図である。
【図4】バッフルの断面図である。
【図5】バッフル配置角度θ1と撹拌能力及びかき上げ高さとの関係を示した表である。
【図6】バッフル傾斜角度θ2と錠剤の黄色度のバラツキとの関係を示すグラフである。
【図7】傾斜角度θ2と撹拌能力及びかき上げ高さとの関係を示した表である。
【図8】(a)〜(f)は、バッフルの変形例を示す説明図である。
【図9】バッフルの他の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例であるパンコーティング装置の構成を示す説明図である。図1のパンコーティング装置1は、回転ドラム2(処理容器、以下、ドラム2と略記する)の回転とそれを通過する処理気体およびコーティング液により、ドラム2内の粉粒体に対し、コーティング、乾燥、混合等の所望の処理を実施する。
【0020】
パンコーティング装置1は、その内部に錠剤や菓子等の被処理物を収容する横型ドラム状の処理容器であるドラム2を有している。ドラム2は水平な回転軸を中心として回転し、中空筒状の主胴部3と、主胴部3の軸方向両端側に設けられたコニカル部4a,4bとから構成されている。主胴部3は、多角筒形または円筒形の横断面形状を有しており、図1のパンコーティング装置1では、八角形断面となっている。コニカル部4a,4bは主胴部3の両端側に設けられ、軸方向に沿って外径が減少するテーパ状に形成されている。
【0021】
主胴部3の周囲数カ所または全周には、多孔板にて構成された通気部5が設けられている。通気部5は多孔板にて形成され、ここでは、八角形断面の主胴部各辺にそれぞれ形成されている。なお、通気部5の構成は多孔板に限定されるものではなく、メッシュ,スクリーン等、被処理物を保持し通気性を有するものであれば良い。主胴部3の外周側には、通気部5を覆うようにジャケット6が取り付けられている。ジャケット6内は、各辺の通気部5に対応して複数の通気室7に区画されている。
【0022】
コニカル部4a側のジャケット6には給排気路8が接続されている。給排気路8は各通気室7毎に個別に設けられており、各々隔壁によって区画されている。給排気路8は、ジャケット6からコニカル部4aの外面に沿ってドラム2の端部まで延び、その端部には通気口11が形成されている。ドラム2とジャケット6及び通気口11を含む給排気路8により、パンコーティング装置1の回転部分であるドラムユニット31が形成される。
【0023】
ドラムユニット31の端部近傍には、給排気用の外部ダクト12が配置されている。外部ダクト12は、ドラムユニット31の回転に伴い所定位置に来た通気口11と連通接続されるディスクバルブ機構を有している。外部ダクト12はさらに給排気導管13aに接続されている。また、ドラムユニット31の下方には、ドラム洗浄時等に、ディスクバルブ機構から流下した洗浄水を貯留するシンク25が設けられている。シンク25には、バルブ26を備えた排出ドレイン27が取り付けられている。
【0024】
ドラム2内には、給排気導管13bに接続された内部ダクト14が設けられている。また、ドラム2内にはコーティング材供給用のスプレーガン(図示せず)が設けられている。ドラム2に対しては、例えば、給排気導管13bから内部ダクト14を介して熱風や温風、冷風等の処理気体が供給される。内部ダクト14からドラム2内に供給された空気は、通気部5を介してジャケット6内に流入する。ジャケット6に流入した空気は給排気路8を通り通気口11に至り、連通した外部ダクト12から給排気導管13aを介して装置外へと排出される。
【0025】
ドラム2は、軸受15によって支持された回転軸16が取り付けられている。回転軸16は略水平に配置されており、ドラム2はこの回転軸16を中心に回転可能となっている。回転軸16は、モータ17によりチェーン18を介して駆動される。図1のパンコーティング装置1では、給排気導管13a,13bと外部ダクト12及び内部ダクト14は固定されており、ドラム2とジャケット6及び給排気路8がモータ17により回転される。
【0026】
コニカル部4aのほぼ中央部には、粉粒体原料の投入や製品の排出などに用いられる開口部19が形成されている。開口部19は、ドア枠21の図中右端部に対し所定の間隙を開けて配置されている。ドア枠21の左端側には、開閉可能な点検蓋22が設けられている。ドア枠21の下部には、製品排出口23が設けられている。製品排出口23にはバルブが設けられており、ここからドラム2内の製品が運搬容器24に排出される。
【0027】
一方、主胴部3の内周面には、粉粒体の混合・撹拌を促進するためのバッフル32が取り付けられている。図2は主胴部3内に設けられたバッフル32の構成を示す説明図、図3は主胴部3の展開図である。図2に示すように、バッフル32は、主胴部3の内壁3aに等分に8個取り付けられている。各バッフル32は、図3に示すように、ドラム2の回転方向Xに対して斜め方向に延びる形で内壁3aに配置され、隣接するバッフル32同士は、ドラム回転方向Xに対して互いに逆方向に傾斜した状態で配置されている。本発明によるパンコーティング装置1では、バッフル32は、その先端縁32pが回転方向Xに対して角度θ1(20°〜50°、好ましくは30°〜45°、標準的には30°)だけ傾斜した状態で配置されている。
【0028】
図4は、バッフル32の断面図である。図4に示すように、バッフル32は屈曲形状となっており、当該実施例では、断面が略「く」の字形となっている。バッフル32は、「く」の字の一辺側が他辺側よりも長くなっており、短い他辺側は基部32a、長い一辺側は傾斜翼32bとなっている。傾斜翼32bの回転方向Xに向う面は、ドラム回転時に粉粒体に接触する作用面33となっている。作用面33は、主胴部内壁3aに対しドラム回転方向Xに向かって前傾状態にて設けられている。作用面33の内壁面に対する傾斜角度θ2(作用面33の延長線が主胴部内壁3aと交わる位置における、前記延長線と内壁3aの接線との為す角度)は、45°以上90°未満、好ましくは60°〜85°に形成されている。また、バッフル32には、この作用面33を含む形で、回転方向X前方側に抱持部34が形成されている。ドラム2が回転すると、抱持部34には被処理物が抱え込まれ、抱持部34に抱え込まれた被処理物は、ドラム2の回転に伴って横方向(バッフル32の長手方向)に移動する。
【0029】
このようなパンコーティング装置1では、次のようにして粉粒体のコーティング処理を行う。ここではまず、ドラム2内に粉粒体原料を投入し、モータ17を駆動してチェーン18及び回転軸16を介してドラム2を正転方向に回転させる。ドラム2の回転に伴い、バッフル32は、次々に被処理物層に進入し、錠剤等の被処理物を傾斜翼32bにて抱え込む形で被処理物層から離脱する。傾斜翼32bにすくい上げられた被処理物は、図3に破線Sにて示したように、ドラム回転方向Xに対して傾斜配置されたバッフル32内を横方向(軸方向)に滑り落ち、バッフル端部からコニカル部4a,4b方向に排出される。
【0030】
つまり、被処理物は、ドラム2の回転と共にバッフル32に抱え込まれつつ、確実に横方向に移動し、効果的に撹拌混合される。また、この際、本発明のパンコーティング装置1では、隣接するバッフル32を交互に逆傾斜にて配置されているので、バッフル32に抱え込まれた被処理物は、各バッフル毎に左右に振り分けられる形で移動する。このため、バッフル32内の被処理物は、コニカル部4a側と4b側に交互に排出され、被処理物は効率良く撹拌混合される。
【0031】
また、バッフル配置角度θ1が20°〜50°、好ましくは30°〜45°に設定されているため、被処理物の抱え込みと横方向への移動がバランス良く調整される。図5は、バッフル配置角度θ1と撹拌能力及びかき上げ高さとの関係を示した表である。本発明者らの実験によれば、撹拌能力は角度θ1が大きい方が高く、かき上げ高さは角度θ1が小さい方が低く、両者はトレードオフの関係にある。その中で、撹拌能力とかき上げ高さが実用上差し支えない範囲として、前述の20°〜50°が選択でき、さらに、両者のバランスの良い範囲として、θ1=30°〜45°の範囲を選択できる。かかる範囲にθ1を設定することにより、抱持部に抱え込まれた被処理物が高く持ち上げられることなく、適度に横方向に移動してバッフルから離脱し撹拌される。このため、錠剤のコーティング処理を行う場合も、錠剤にダメージを与えることが少なく、製品品質の向上が図られる。
【0032】
当該パンコーティング装置1では、このようにして被処理物を撹拌混合しつつ、必要に応じて、コーティング材料を噴霧したり、ドラム2内に処理気体を供給したりして粉粒体のコーティング処理等を行う。その際、処理気体は、給排気導管13bから内部ダクト14を介してドラム2内に供給され、通気部5からジャケット6→給排気路8→通気口11→外部ダクト12→給排気導管13aと流れ、装置外へと排出される。そして、処理が終了した製品は、製品排出口23から取り出され運搬容器24に移される。
【0033】
ここで、バッフル32による撹拌混合性は、被処理物を抱え込む傾斜翼32bの傾斜角度θ2と相関性があり、傾斜角度はある程度大きくする必要がある。その一方、傾斜角度θ2が大きくなると、その分、被処理物が大きくかき上げられ、被処理物がドラム2から飛び出したり、弱い被処理物の場合、製品が破損したりするなどのトラブルが生じ得る。そこで、発明者らは、最適な傾斜角度θ2を求めて種々の実験を行った結果、45°超〜90度未満が好ましく、さらに撹拌混合性を確保したい場合やかき上げを少なくしたい場合には、60°〜85°の範囲で角度を適宜調節することにより、従来機以上の撹拌混合性が得られることが分かった。
【0034】
図6は、傾斜角度θ2と錠剤の黄色度のバラツキとの関係を示すグラフであり、フロイント産業株式会社製パンコーティング装置「HC-FPC-95」に傾斜角度θ2の異なるバッフル(θ2以外の条件は同一)を取り付けてコーティング処理を行った場合の結果を示している。また、図7は、バッフル傾斜角度θ2と撹拌能力及びかき上げ高さとの関係を示した表である。図6において、縦軸は、CV値(変動係数:Coefficient of Variation)=(標準偏差/平均値)×100(%)である。また、横軸は、スプレー量=(スプレー質量(固形分)/錠剤質量)×100(%)であり、例えば、10kgの錠剤をドラム2内に仕込んだ場合、固形分0.1kgの液を吹いた状態がスプレー量1%となる。なお、図7の表も処理条件は図6の場合と同様である。
【0035】
ここでは、プラセボ錠に、コーティング基剤としてTC−5R(HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース)8%、可塑剤としてPEG6000(ポリエチレングリコール)0.8%、黄色5号0.03%を含む水溶液をスプレーし、重量が0.5,0.75,1.0,1.25,1.5,2.0%増加したときサンプリングした。そのうちランダムに選んだ20錠について黄色度(Yellowness Index)を測定し(計測機器:日本電色株式会社製「SZ−Σ90」)、そのCV値をグラフ化したものが図6である。CV値は錠剤の色むらが少ないほどが小さくなる傾向があるため、パンコーティング装置の撹拌混合性の指標としてCV値を用いた。
【0036】
図6から分かるように、傾斜角度θ2が85°と75°では75°の方が撹拌混合性が高く、特に、色むらが生じ易いスプレー量0.5〜0.75%の時期に75°の方が有効であった。また、75°と45°では、撹拌混合性には余り差違がないことも分かった。一方、図7から分かるように、傾斜角度θ2から見て、撹拌能力とかき上げ高さが実用上差し支えない範囲として、45°を超え90度未満の範囲が採用できることが分かった。また、その中でもθ2=60°〜85°が好ましく、さらに、θ2=75°の場合に両者のバランスの良いことも分かった。従って、これらを総合的に判断すると、θ2の値としては、60°〜85°、特に、θ2=75°が好ましいことが分かった。
【0037】
このように、パンコーティング装置1の撹拌混合手段として、前述のようなバッフル32を採用することにより、従来の垂直バッフルや後退傾斜バッフルに比して、被処理物の撹拌混合性向上が図ることができ、従来よりも少ないバッフル数で従来と同等以上の撹拌混合性を得ることが可能となる。また、バッフルサイズを小さく抑えつつ撹拌混合性を確保できるため、スプレーによる汚れも抑えられ、洗浄作業の頻度やバッフルの洗浄性も改善され、製品製造コストの低減を図ることが可能となる。さらに、被処理物を高い位置までかき上げて落下させることなく高い撹拌混合性を得ることができるため、錠剤等の被処理物へのダメージが小さく、製品の歩留まりが向上し、この点においても製品製造コストの低減が図られる。なお、バッフル数やバッフル高さの削減により、装置製造コストの低減も図られる。
【0038】
従って、本発明のパンコーティング装置1を使用することにより、製品製造コストの低減を図りつつ、医薬品その他のコーティング製品に重要であるコーティング層の均一性が確保され、製品品質の向上が図られる。なお、従来のバッフルを当該バッフル32に交換することも容易であり、これにより、装置に大きな改造を施すことなく、より高い撹拌混合性を得ることも可能である。
【0039】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、バッフル32の形態は、図2〜4のものには限定されず、図8(a)〜(f)や図9のような種々の形態が採用可能である。この場合、図8(a)のバッフル41は、バッフル断面が屈曲形状とはなっておらず、図2のバッフル32で言う基部32aがない構成となっている。内壁3aには前傾姿勢にて傾斜翼41bが立設されており、傾斜翼41bの回転方向X側は、作用面42となっている。また、図8(b)のバッフル43は、バッフル32と同様に断面が略「く」の字形となっているが、「く」の字の両辺がほぼ同じ長さ、若しくは、傾斜翼43bが基部43aよりも若干長い程度となっている。この場合も、傾斜翼43bの回転方向X側は作用面44となっている。
【0040】
図8(c)のバッフル45は断面が略「W」字形となっており、傾斜翼を複数個備えている(46a,46b)。また、作用面47と抱持部48も2つ(47a,47b;48a,48b)設けられている。この場合、作用面の傾斜角度θ2は、図8(c)に示すように、先端側の第1作用面47aの傾斜角を採用する。図8(d)のバッフル49は、基部49aが内壁3aに垂直に立設され、その上端に、基部49aとほぼ同じ長さ、若しくは、それよりも若干長い傾斜翼49bが形成されている。このバッフル49のように、垂直に立設された基部49aの長さが傾斜翼49bの1/2以上となると、抱持部34における基部49aの影響が大きくなる。このため、作用面51の傾斜角度θ2としては、図8(d)に示すように、作用面51の先端部Pと、抱持部34の回転方向Xに対する最後部で内壁3aと最も近い後端点Q(ここでは、基部49aと内壁3aとの接点)とを結ぶ線と内壁面との為す角の角度を採用する方が好ましい。
【0041】
さらに、図8(e)のバッフル52は、内壁3aに垂直に立設された基部52aの上端部に、曲面状の作用面53を有する傾斜翼52bが形成されている。バッフル52においても、θ2は、作用面53の先端部Pと、抱持部34の回転方向Xに対する最後部で内壁3aと最も近い後端点Q(ここでは、基部52aと内壁3aとの接点)とを結ぶ線と内壁面との為す角となる。加えて、図8(f)のバッフル54は、曲面状の作用面55を有する傾斜翼54bを備えており、図2のバッフル32で言う基部32aがない構成となっている。この場合、θ2は、作用面55の先端部Pと、抱持部34の回転方向Xに対する最後部で内壁3aと最も近い後端点Q(ここでは、傾斜翼54bと内壁3aとの接点とはならない)とを結ぶ線と内壁面との為す角となる。
【0042】
一方、図9のバッフル56は、パンチングプレート等の多孔板57にて形成されており、バッフル内部が中空状となっている。このようなバッフル56は通気性を有するため、主胴部3に閉鎖部位が発生しない。このため、効率良くドラム2内に処理気体を供給することができる、錠剤等のコーティング処理を効率良く行うことが可能となる。
【0043】
なお、前述の実施例では、回転ドラム2が水平軸線を中心に回転する水平回転ドラム型のコーティング装置について説明したが、軸線は完全な水平状態でなくとも良く、概ね水平な略水平状態でも構わない。また、前述の実施例では、回転ドラム2の外周に給排気ジャケット6を配した、いわゆるジャケットタイプのコーティング装置に本発明を適用した例を示したが、回転ドラム2の外周にジャケットを有しないジャケットレスタイプのコーティング装置にも本発明は適用可能である。さらに、回転ドラム2の形態も前述のような八角形断面には限定されず、本発明は、円形断面の回転ドラムを備えた装置にも適用可能である。加えて、隣接するバッフル32を必ずしも交互に逆傾斜にて配置する必要はなく、隣接するバッフル32同士が同方向に傾斜した構成も採用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 パンコーティング装置
2 回転ドラム(処理容器)
3 主胴部
3a 内壁
4a,4b コニカル部
5 通気部
6 ジャケット
7 通気室
8 給排気路
11 通気口
12 外部ダクト
13a,13b 給排気導管
14 内部ダクト
15 軸受
16 回転軸
17 モータ
18 チェーン
19 開口部
21 ドア枠
22 点検蓋
23 製品排出口
24 運搬容器
25 シンク
26 バルブ
27 排出ドレイン
31 ドラムユニット
32 バッフル
32a 基部
32b 傾斜翼
32p 先端縁
33 作用面
34 抱持部
41 バッフル
41b 傾斜翼
42 作用面
43 バッフル
43a 基部
43b 傾斜翼
44 作用面
45 バッフル
46a,46b 傾斜翼
47 作用面
47a,47b 作用面
48 抱持部
48a,48b 抱持部
49 バッフル
49a 基部
49b 傾斜翼
51 作用面
52 バッフル
52a 基部
52b 傾斜翼
53 作用面
54 バッフル
55 作用面
56 バッフル
57 多孔板
P 先端部
Q 後端点
S 粉粒体移動軌跡
X ドラム回転方向
θ1 バッフル配置角度
θ2 作用面傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された中空の処理容器と、前記処理容器内に設置され、前記処理容器に収容された被処理物を混合撹拌するバッフルとを備えてなるパンコーティング装置であって、
前記バッフルは、前記処理容器の回転方向Xに対して斜め方向に延びる形で前記処理容器の内壁に配置されると共に、
前記回転方向Xに向かって前傾状態に設けられた作用面を有する傾斜翼と、
前記バッフルの前記回転方向X前方側に前記作用面を含んで形成され、前記処理容器の回転時に前記被処理物を抱え込みつつ横方向へ移動させる抱持部と、を有することを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項2】
請求項1記載のパンコーティング装置において、前記バッフルの先端縁とドラム回転方向Xが為す角度θ1が20°〜50°であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項3】
請求項2記載のパンコーティング装置において、前記角度θ1が30°〜45°であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のパンコーティング装置において、前記作用面の延長線と前記処理容器の内壁面との為す角度θ2が45°を超え90度未満であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載のパンコーティング装置において、前記作用面の上端と前記抱持部の後端点とを結ぶ線と前記処理容器の内壁面との為す角度θ2が45°を超え90度未満であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載のパンコーティング装置において、前記角度θ2が60°〜85°であることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のパンコーティング装置において、前記バッフルは中空構造に形成されてなることを特徴とするパンコーティング装置。
【請求項8】
請求項7記載のパンコーティング装置において、前記バッフルは通気性を有することを特徴とするパンコーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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