説明

パンザマスト解体工具

【課題】従来のパンザマストの解体工具は、嵌合部分が錆付き、硬く固まってしまっていると、スクリュージャッキにかかる力が固定駒にかかる。すると、固定駒側では、締結部分を支点として回転方向にトルクが働き、テコの原理により固定駒の下端にパンザマストの表面を垂直に押し込む力が働き、パンザマストが凹むという課題があった。
【解決手段】一対の押上駒と、前記一対の押上駒をパンザマストに緊締する第1の緊締手段と、前記一対の押上駒のそれぞれに揺動可能に連結されたジャッキ手段と、前記ジャッキ手段のそれぞれを支持する支持台と、前記支持台のそれぞれを固定する固定駒と、前記それぞれの固定駒を前記支持台より上方で前記パンザマストに緊締する第2の緊締手段とを有することを特徴とする、パンザマスト解体工具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送配電線等に使用される組み立て式鉄柱を解体する装置に関し、特にパンザマストと呼ばれる組み立て式鉄柱を直立させたまま解体するための解体工具に関する。
【背景技術】
【0002】
パンザマストとは、送配電線等に利用される組み立て式の鉄柱である。パンザマストは、高抗張力鋼板をプレス加工および溶接によって円錐筒状に形成した単位マストを軸方向に嵌合させながら積み上げることで形成される。単位マストに分解して運搬でき、それぞれの単位マストは、円錐筒状であるため軽量である。従って、重機を設置できない交通不便な場所でも鉄柱を設立できる。
【0003】
不要となったパンザマストは、解体され、再利用される。パンザマストは金属製であるため、経年的にいずれ酸化し、もろくなって倒壊するおそれがあるためと、資源の再利用のためである。
【0004】
従来パンザマストの解体は、台棒、ウインチ、クレーン等の工具を用いて、建立したパンザマストを地面から引き抜き、倒置させた後に、ワイヤーロープと緊張機と掛矢などを用いて単位マスト間の嵌合部分に打撃を与えながら脱着させていた。また、ガス切断機や電動カッターによって単位マスト本体を切断してゆく方法も採用されていた。
【0005】
また、倒置させたパンザマストの単位マスト間を緊張装置(チェンブロック)で引っ張り、単位マスト毎に引っ張り抜いて解体する方法がある(特許文献1)。
【0006】
特許文献2では、建立させた状態、若しくは倒置させた状態のいずれかの状態で、単位マスト毎に分解するために油圧ジャッキを用いる方法が開示されている(特許文献2)。
【0007】
パンザマストを倒置させて単位マスト毎に解体してゆく方法は、作業性もよく、やりやすい解体方法である。しかし、パンザマストは、もともと足場の悪い山間部等に設置される場合が多く、そもそもパンザマストを地面から引き抜き、倒置させること自体が困難である場合が多い。
【0008】
より具体的には、長年嵌合状態にあった嵌合部分は、固着しているため、容易には脱着させることはできず、設置する場合よりも、解体する場合の方が大きな労力が必要となる。したがって、組み立てる場合より頑強な足場や、広い機材の搬入ルートを確保する必要がある。しかし、山間部等では、そのような条件が揃わない場合もある。
【0009】
また、単位マストで運び込み、組み立てできた場所であっても、長い状態のパンザマストを倒置する場所がない場合もある。以上のことより、建立したままのパンザマストを、単位マスト毎に解体でき、軽量で持ち運びが容易にできる解体工具が必要とされる。
【0010】
特許文献2の油圧ジャッキを用いる方法は、解体のための力を容易に引き出すことができるため、利点は多い。しかし、小型とはいえ油圧ジャッキは重く、高所へ持ち上げるのは多くの労力を有する。また、油圧ジャッキを作用させる部分が、パンザマストの一側面であるので、嵌合した単位マストを引き抜くとき、片方の側面だけに力がかかり、嵌合部分が噛みこみを起こすおそれもある。
【0011】
特許文献3は、従来から用いられている解体工具を開示している。これはスクリュージャッキ、レバーブロックやチェーンを用いて、単位マスト毎に引き抜く装置である。スクリュージャッキは、パンザマストの左右の対側面に配置されるので、錆付き固まった嵌合部分に均等に引き抜き方向の力を与えることができる。また、この装置は、比較的重量が軽く、高所に持ち上げるのも容易であるため、利便性は高い。
【0012】
図5に特許文献3の分解工具を示す。この解体装置100は、上位単位柱体101と下位単位柱体102との嵌合部の直下に取りつけ、第1の装置103と第2の装置104と、第1の装置103および第2の装置104の間に連結されるジャッキ105からなっている。また、第1の装置103はワイヤーロープ131とワイヤーロープ131に支持された2個の可動駒132と、ワイヤーロープ131を緊張させるためのワイヤーロープ緊張装置134を備えた可動駒133からなっている。
【0013】
また、第2の装置104も、第1の装置103に類似した構成を有しており、チェーン141とチェーン141に固定もしくは支持された5個の固定駒142〜145(図3では1つは裏側で見えない)と、そのうちの2個の固定駒144、145によって形成されたチェーン緊張装置146とを有している。
【0014】
そして、第1および第2の装置103、104をパンザマスト102に固定し、ジャッキ105を操作することで、第1の装置103がパンザマスト102の表面をずり上がり、上位単位柱体101を下位単位柱体102から持ち上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−303059号公報
【特許文献2】実用新案登録3103725号公報
【特許文献3】実開昭62−29272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献3の解体装置は、軽量なスクリュージャッキを用いるため、高所までパンザマストを持ち上げることができるが、設置したのち、人力でスクリュージャッキを回転させなければならない。しかも、できるかぎり左右対称に力を加えなければ、嵌合部分が噛みこみを起こし、さらに解体しにくくなる。
【0017】
また、スクリュージャッキ105は下方の固定駒142、143を反力受けとして、可動駒132を押し上げるため、パンザマストの嵌合部分が錆付き、硬く固まってしまっていると、スクリュージャッキ105にかかる力が固定駒142、143にかかる。すると、固定駒142、143側では、締結部分を支点として回転方向にトルクが働き、テコの原理により固定駒の下端にパンザマストの表面を垂直に押し込む力が働く。
【0018】
解体されるパンザマストは、脆くなっている場合が多く、この力に抵抗できず、表面が凹んでしまうという課題があった。パンザマストを建立させたまま解体する方法では、上部の単位マストから順に抜いてゆくので、解体工具下方の固定駒の部分でパンザマストの表面が凹んでしまうと、上方にある単位マストを引き抜く反力受けを失うのと同時に、下方の単位マストの引き抜きも困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上記課題に鑑みて想到されたもので、パンザマストを建立させたままで、単位マスト毎に解体する装置であって、解体の際にかかる力でパンザマストにダメージを与えにくい解体工具を提供するものである。
【0020】
より具体的には、本発明のパンザマスト解体工具は、
一対の押上駒と、
前記一対の押上駒をパンザマストに緊締する第1の緊締手段と、
前記一対の押上駒のそれぞれに揺動可能に連結されたジャッキ手段と、
前記ジャッキ手段のそれぞれを支持する支持台と、
前記支持台のそれぞれを固定する固定駒と、
前記それぞれの固定駒を前記支持台より上方で前記パンザマストに緊締する第2の緊締手段とを有することを特徴とする。
【0021】
また、前記押上駒は磁石を有することを特徴とする。
【0022】
さらに、前記ジャッキ手段は、前記押上駒に連結された可動ロッドと、回転することで前記可動ロッドを伸縮させるジャッキと、前記ジャッキの前記支持台端に前記ジャッキの回転軸に同心させたギアを有し、
前記支持台には、前記ギアと係合し、駆動軸を露設させた減速手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のパンザマスト解体工具では、固定駒の反力受けの位置より上方で固定駒をパンザマストに緊締するため、固定駒の緊締位置を支点としてパンザマスト表面を押す力(力点)は固定駒の反力受けの点(支持台)と同じ位置となる。したがって、テコの原理が働かず、パンザマストの表面はダメージを受けにくくなる。
【0024】
また、支持台の位置より上側に固定駒とパンザマストの接触面を形成することができるので、パンザマスト解体工具自体の長さを長くすることなく、固定駒の設置面積を広くすることができ、反力を受ける面積を広くすることができる。すなわち、パンザマストの表面へダメージを与えにくくできる。
【0025】
したがって、スクリュージャッキに減速機を設け、より大きな力でジャッキアップできるようにしても、パンザマストを凹ませることなく、嵌合部分に力を与えることができる。
【0026】
さらに、減速機の駆動軸を電動モータ等で駆動することで、より大きなトルクでスクリュージャッキを回転させることができると共に、一度嵌合が外れだした単位マストをジャッキアップさせるのに、電動モータで楽に持ち上げることができる。
【0027】
また、押上駒には、磁石を配置させることとしたので、最初にパンザマストに取付ける際に、押上駒が鉄製のパンザマストに吸着し、固定駒を緊締するのが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のパンザマスト解体工具の構成を示す図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1の一部拡大図である。
【図4】本発明のパンザマスト解体工具の固定駒の作用を説明する図である。
【図5】従来のパンザマスト解体工具の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。図1は、本発明のパンザマスト解体工具1(以後単に「解体工具1」とも記載する。)である。図はパンザマストに固定した状態を示している。なお、図2、図3は、図1の部分拡大図であり、適宜参照する。また、符号で示した部品の中で本明細書中では一対あるものとして説明する場合であっても、図2若しくは図3に、その一方だけにしか指示していないものがある。しかし、符号が図面に明示されていないだけで、実際には存在する。
【0030】
本発明のパンザマスト解体工具1は、一対の押上駒2a、2b(以後区別なく記載する場合は単に「押上駒2」と記載する。)とそれらに揺動可能に連結されたジャッキ手段3a、3b(以後区別なく記載する場合は単に「ジャッキ手段3」と記載する。)と、ジャッキ手段3を支える支持台4a、4b(以後区別なく記載する場合は単に「支持台4」と記載する。)と、支持台4を固定する固定駒5a、5b(以後区別なく記載する場合は単に「固定駒5」と記載する。)、押上駒2と固定駒5をパンザマスト9に緊締する第1および第2の緊締手段6、7からなる。
【0031】
押上駒2は、少なくとも一対(2a、2b)あり、パンザマスト9の略直径方向の表面に設置される。押上駒2の数は特に2つに限定されるわけではない。複数ある場合は、それぞれ等角度毎に設置する。パンザマスト9を嵌合部分10の周に沿って均等に力を加えるためである。しかし、押上駒2に均等に力を加えるのは、一人の作業者が両手で行うのが、最も簡単であるので、少なくとも一対あればよい。なお、図1の上側の単位マストを符号9aで示し、下側の単位マストを符号9bで示す。
【0032】
押上駒2のパンザマスト9表面に接触する面2af、2bfには磁石が配置される。鉄製のパンザマスト9表面に吸着させるためである。後述するように、本発明の解体工具1は、個々の部品に分けてパンザマスト9上に持って上がり、押上駒2から下方に向かって、組み付ける場合が多い。また、押上駒2は、パンザマスト9の周表面で180°の関係にあたる位置同士に配置し緊締されるため、パンザマスト9に吸着すると、緊締しやすく、作業性が著しく向上する。
【0033】
図2を参照して、押上駒2は、解体する単位マストの嵌合部分10の端面(下部端面)10tに、上部端2at、2bt(以後区別なく記載する場合は単に「上部端2t」と記載する。)を当接させて設置する。押上駒2の上部端2tを下から押し上げて、上側単位マスト9aを押し上げ、解体するためである。上側単位マスト9aの嵌合部分10の下部端面10tは、上側単位マスト9aの下部端面10tであり、上側単位マスト9aの側面に略直角で、上側単位マスト9aの厚みを幅とする環状面である。
【0034】
押上駒2の上部端2tは特に特殊な形状を有する必要はない。しかし、上側単位マスト9aの下部端面10tは、約1から2mmの上側単位マスト9aの板厚分9tしかなく、その下部端面10tを効率的に押し上げなければならない。したがって、押上駒2の上部端2tは、パンザマスト9の表面にできるだけ近づく位置からパンザマスト9の表面に垂直な方向に形成された面を有するのが好ましい。
【0035】
また、押上駒2の下方には、ジャッキ手段3との連結部2aj、2bj(以後区別なく記載する場合は単に「連結部2j」と記載する。)がある。ジャッキ手段3との連結部2jの構造は、連結部2jを枢軸として、少なくともジャッキ手段3が下側単位マスト9bの表面から離れる方向に揺動可能であれば、特に限定されない。上側単位マスト9aが押し上げられるに従い、ジャッキ手段3と下側単位マスト9bの間のなす角度θは、小さくなるため、この方向へ揺動可能である必要があるためである。
【0036】
また、押上駒2には、第1の緊締手段6が押上駒2を下側単位マスト9bに拘持させるための拘持部2av、2bv(以後区別なく記載する場合は単に「拘持部2v」と記載する。)が形成される。押上駒2の上部端2tが上側単位マスト9aの下部端面10tを効果的に押し上げることができるようにするため、押上駒2はパンザマスト9表面に圧接させておく必要があるからである。拘持部2vは、孔であってもよいし、溝であってもよい。
【0037】
図1を再び参照して、第1の緊締手段6は、押上駒2をパンザマスト9表面に拘束できるものであれば、特に限定されない。押上駒2は、パンザマスト9表面に緊締されるとはいえ、ジャッキ手段3によって上方にずり上がるため、移動可能な程度に緊締できる方法が望ましい。より具体的には、布バンドやワイヤーロープ等を用いることができる。
【0038】
ジャッキ手段3は、それぞれの押上駒2に連結される。従って、ジャッキ手段3は少なくとも一対(3a、3b)あり、それぞれの押上駒2a、2bに連結される。ジャッキ手段3は、スクリュージャッキが好適に利用されるが、その他のジャッキであってもよい。多少重量が増えても、作業場所までそれを持ち上げることができる環境で作業をする場合もあるからである。スクリュージャッキは、可動ロッド3av、3bv(以後区別なく記載する場合は単に「可動ロッド3v」と記載する。)と、自身が長さ方向の軸を枢軸として回転することで、可動ロッドを伸縮させるジャッキ3aj、3bj(以後区別なく記載する場合は単に「ジャッキ3j」と記載する。)からなる。
【0039】
スクリュージャッキは、通常、円筒のジャッキ3jの中に可動ロッド3vが差し込まれた形状をしている。可動ロッド3vの側面には、雄ネジが形成してあり、ジャッキ3jの先端部分に雄ネジと螺合する雌ネジが形成されている。そして、ジャッキ3jが長さ方向の軸の周りに回転すると、雌ネジに螺合した可動ロッド3vの雄ネジが螺進若しくは螺退することでジャッキ手段3が伸縮する。なお、可動ロッド3vとジャッキ3jに設けられた雄ネジと雌ネジの関係は、逆であってもよい。
【0040】
図3を参照して、また、ジャッキ3jには、ジャッキ3jを回転させるためのギア3ag、3bg(以後区別なく記載する場合は単に「ギア3g」と記載する。)が形成されていてもよい。ジャッキ3jは回転させるための道具で回転させるのが、作業の労力を低減させるために効果的であるからである。また、ギア3gはジャッキ3jの下端に設けておいてもよい。ジャッキ3jの下端に設けたギア3gには、減速機12a、12b(以後区別なく記載する場合は単に「減速機12」と記載する。)を係合させるのが容易となるからである。
【0041】
ジャッキ手段3の下端は支持台4で支持する。支持台4にはジャッキ手段3が押上駒2に加える力の反力が加わるため、強固に形成される。また、固定駒5とジャッキ手段3を連結するための連結部材としての役目も負う。なお、支持台4は固定駒5と一体に形成されていてもよい。すなわち、支持台4は、ジャッキ手段3を固定駒5と連結させている部分をいい、固定駒5と一体に形成されているか、固定駒5と分離して形成されるものかを問わない。
【0042】
支持台4には、ジャッキ手段3の下端に設けられたギア3gを係合する減速機12が搭載されていてもよい。減速機12は、駆動軸の回転トルクを大きくしてジャッキ3j下端のギア3gを回転させることができる。特に、上側単位マスト9aの動かし始めには大きな力が必要であるので、減速機12によって大きな回転トルクを得ることができると、大きな力で押上駒2に力を与えることが出来るからである。なお、減速機12と支持台4は一体的に作られていてもよい。
【0043】
再び図1を参照して、減速機12を駆動する駆動軸12ad、12bd(以後区別なく記載する場合は単に「駆動軸12d」と記載する。)は、どちらの方向に設けても良い。しかし、作業者は、パンザマスト9に対面して位置取り、上側単位マスト9aの嵌合部分10を見ながら解体工具1を操作する。すると作業者の手は、パンザマスト9の両側面若しくは相対する面に向いているので、ジャッキ手段3に平行に上向き若しくは、作業者の方向に向いているが好ましい。もちろん、減速機12を支持台4若しくは固定駒5に対してある程度の角度揺動可能に設置し、駆動軸12dの角度を可変できるようにしてもよい。
【0044】
駆動軸12dには、電動モータ14a、14b(以後区別なく記載する場合は単に「電動モータ14」と記載する。)の駆動軸との連結部を設けても良い。電動モータ14は市販のハンディタイプの電動ドリルもしくは電動ドライバを用いることで、大きな回転トルクをスイッチ操作一つで得ることができ、作業者は上側単位マスト9aと下側単位マスト9bの間の嵌合部分10に注視しながら、作業ができる。
【0045】
電動モータ14を用いる場合は、電動モータ14に、所定形状のドライバを固定しておく。そのドライバの先端に嵌合する受けを駆動軸12dの先端に設ける。また、電動モータ14の回転トルクが作業者の手にそのまま戻らないように、電動ドリル自体を支持台4(若しくは減速機12)に固定する固定枠15a、15b(以後区別なく記載する場合は単に「固定枠15」と記載する。)を設ける。固定枠15は例えば、電動モータ14の外形で円でない断面に嵌合する枠を設けるのが好適である。電動モータ14の回転によって電動モータ14自身が回転しないようにするためである。
【0046】
上記のような構成であれば、電動モータ14は、固定枠15に対して電動モータ14を差し込むだけで、脱着でき、また、駆動軸12dとの間で連結のための作業が不要となるので、作業が容易となる。もちろん、減速機12はジャッキ手段3毎に設けられる。
【0047】
固定駒5は、パンザマスト9の長さ方向に所定の長さを有する板材である。固定駒5は、ジャッキ手段3および支持台4毎に用意される。従って、本発明の解体工具1では、押上駒2、ジャッキ手段3、支持台4、固定駒5は、それぞれ少なくとも一対、つまり、2つずつは有することとなる。
【0048】
再び図3を参照して、固定駒5には、押上駒2同様、パンザマスト9に押接する押接面5af、5bf(以後区別なく記載する場合は単に「押接面5f」と記載する。)に磁石20a、20b(以後区別なく記載する場合は単に「磁石20」と記載する。)が配置されていてもよい。支持台4を固定駒5に取付ける際には、固定駒5もパンザマスト9に吸着できれば作業性が上がるからである。固定駒5には、支持台4が固定される。本発明の解体工具1では、支持台4は固定駒5の下方に固定される。そして、支持台4より上方で固定駒5同士が第2の緊締手段7によって緊締される。
【0049】
なお、固定駒5に磁石20を設ける場合は、押接面5fの面積が小さくならないように磁石20を設けることが必要である。後述するように押接面5fの面積はジャッキ手段3からの力を分散して受けるため広い方がよいからである。図3では、固定駒5の押接面5fと下側単位マスト9bの表面との間に磁石20が挟持されているが、この場合、押接面5fは磁石20と上側単位マスト9aの表面の吸着面となる。
【0050】
第2の緊締手段7が緊締される緊締位置5ax、5bx(以後区別せず記載する場合は単に「緊締位置5x」と記載する。)は、支持台4が固定駒5に固定されている位置5ay、5by(以後区別せず記載する場合は単に「固定位置5y」と記載する。)より上方(押上駒2側)である。後述するように、ジャッキ手段3を支持する支持台4の固定位置5yと緊締位置5xをこのような関係にすることで、パンザマスト9への押圧力を低減させることができ、解体作業をおこなっても下側単位マスト9bが凹むというおそれがほとんどなくなる。
【0051】
また、固定駒5の上端5au、5bu(以後区別せずに記載する場合は単に「上端5u」と記載する。)は、押上駒2の方向に延設するのが好ましい。上端5uを押上駒2の方向に延設し、固定駒5のパンザマスト9への圧接面積5Sを大きくすることで、パンザマスト9への押圧力を分散させることができるからである。なお、固定駒5の押接面積は押接面5fによってきまるが、上述のように、磁石20が間に挟持されている場合は、磁石20の面積が圧接面積5Sとなる。
【0052】
第2の緊締手段7も、第1の緊締手段6同様、布帯やロープに加え、鎖や金属ワイヤーを用いても良い。固定駒5は、パンザマスト9に確実に固定される必要があるからである。
【0053】
次に、本発明の解体工具1の特に固定駒5の構造が有する作用について詳細に説明する。図4は、従来技術(特許文献3)の固定駒(図4(a))と本発明の固定駒(図4(b))の作用を説明する図である。従来の固定駒50は、ジャッキ手段30からの力Fjを受けていた、略三角形の固定駒50の受け面(上面)50fの下部を緊締手段70によってパンザマスト59に固定していた。ジャッキ手段30は、固定駒5の上面50fで支持されており、本発明でいうところの支持台4と固定駒5が一体となって形成されている場合に属する。
【0054】
従来例のような構成の場合は、ジャッキ手段30の反力受けは、固定駒50の上面50fであり、緊締手段70より上方にある。すると、固定駒50の上面50f、緊締手段70、固定駒50の下端50bがそれぞれ力点、支点、作用点となり、固定駒50の下端50bには、パンザマスト59表面を内側に押し込む方向に大きな力Fpが加わる。しかも、パンザマスト59の表面から反力受け(固定駒の上面である受け面50f)までの距離より緊締手段70から固定駒50の下端50bまでの距離が短ければ、ジャッキ手段30から受ける反力は増幅されてパンザマスト59の表面を押圧する。
【0055】
一方、本発明の構成(図4(b))であると、ジャッキ手段3から受ける反力をパンザマスト9表面に振り変る支点(緊締手段7で固定される緊締位置5x)は、力点となる反力受け(支持台4)の点より上方にあるため、パンザマスト9の表面を凹ませる方向にはテコの原理が働かない。作用点は、固定駒5の上端5uとなるが、固定駒5の上端5uはパンザマスト9表面から離れる方向に力Fuが働くからである。パンザマスト9の表面を押す力は、ジャッキ手段3からの力Fjの分力Fiのみである。
【0056】
また、固定駒5を上方に向かって延設しても、解体工具1自体の長さが長くならない。従って、ジャッキ手段3からの反力を広い面5Sで受けることが出来るので、パンザマスト9の表面を凹ませる力Fiを分散させることができる。この点、従来例の構成では、パンザマストの表面への力Fpを減らすためには、固定駒50の下端50bを下方に延設する必要があるが、これでは、解体工具1全体の長さが伸びてしまい、取り扱いの利便性が低下する。
【0057】
次に本発明の解体工具1の使用方法について説明する。再び図1を参照する。作業者は、本発明の解体工具1を個々の部品若しくは組み上げた状態で携帯する。パンザマストは単位マストが嵌合しながら積み上げられているので、作業者は、頂上の単位マストと2番目の単位マストの嵌合部が見やすい位置まで登る。
【0058】
また、別途頂上の単位マストには、釣り上げ手段などを施しておき、2番目の単位マストとの嵌合部分がはずれたら釣り上げてから地面に下ろすことができるようにしておく。
【0059】
作業者は、作業足場を確保した後、押上駒2を頂上の単位マストの下端面に当接させる。図1では、2点鎖線で示した位置である。押上駒2には磁石20が組み込まれているので、鉄製のパンザマストには容易に吸着する。押上駒2はパンザマストの直径方向に対向させる位置に取り付け、第1の緊締手段6によって、第2の単位マストに固定する。
【0060】
次にジャッキ手段3等を組付けてゆく。すでに組上がった解体工具1である場合は、固定駒5を第2の緊締手段7によって第2の単位マストに固定する。
【0061】
パンザマスト解体工具1を第2の単位マストに取付けたら、電動モータ14を固定枠15に差し込む。上記の説明のように電動モータ14は固定枠15に差し込むだけで、減速機12の駆動軸12dに連結させることができる。
【0062】
頂上の単位マストと第2の単位マストとの嵌合部分を注視しながら、電動モータ14を操作し、嵌合部分10を上方にずりあげる。この時、嵌合部分10が錆びついて固着していても、上記の説明のように、固定駒5さえ下方に動かなければ、パンザマストの表面が凹む心配がないので、大きなトルクでジャッキ手段3を操作してもよい。また、固定枠15によって電動モータ14は空回りすることがないので、電動モータ14のトルクはロスなく減速機12に伝える事ができる。
【0063】
最初の動き出しが始まれば、後はジャッキ手段3で頂上の単位マストは容易に上に抜くことができる。この際、減速機12によって、駆動軸12dを多く回転させなければジャッキ手段3は伸張しないが、電動モータ14があるので、作業者はボタン操作だけで頂上の単位マストを持ち上げることができる。持ち上げた状態が図1の実線の押上駒2の位置である。後は、頂上の単位マストを吊りあげて地面に下ろす。そして、パンザマスト解体工具1の緊締を緩め、次の単位マストに移り、再び同じ操作を繰り返す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明のパンザマストの解体工具を用いれば、単位マスト間の嵌合部分が固着していても、パンザマストを凹ませることなく、単位マストを抜く方向に力を加える事ができるので、気候の厳しい山間部などのように、大きな設備の搬入が難しい場所であって、厳しい風雨で嵌合部分が固着するおそれの多い場所に設置されたパンザマストの解体に大変有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 パンザマスト解体工具
2、2a、2b 押上駒
2af、2bf 押上駒のパンザマスト表面の接触面
2j、2aj、2bj 連結部
2t、2at、2bt 押上駒の上部端
2v、2av、2bv 拘持部
3、3a、3b ジャッキ手段
3v、3av、3bv 可動ロッド
3j、3aj、3bj ジャッキ
3g、3ag、3bg ギア
4、4a、4b 支持台
5、5a、5b 固定駒
5f、5af、5bf 押接面
5x、5ax、5bx 緊締位置
5y、5ay、5by 固定位置
5u、5au、5bu 上端
5S 圧接面積
6 第1の緊締手段
7 第2の緊締手段
9 パンザマスト
9a 上側単位マスト
9b 下側単位マスト
9t 単位マストの厚み
10 嵌合部分
10t 下部端面
12、12a、12b 減速機
12d、12ad、12bd 駆動軸
14、14a、14b 電動モータ
15、15a、15b 固定枠
20、20a、20b 磁石
30 ジャッキ手段
50 固定駒
50b 固定駒の下端
50f 受け面(上面)
59 パンザマスト
70 緊締手段
100 解体装置
101 上位単位柱体
102 下位単位柱体
103 第1の装置
104 第2の装置
105 ジャッキ
131 ワイヤーロープ
132、133 可動駒
134 ワイヤーロープ緊張装置
141 チェーン
142〜145 固定駒
146 チェーン緊張装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の押上駒と、
前記一対の押上駒をパンザマストに緊締する第1の緊締手段と、
前記一対の押上駒のそれぞれに揺動可能に連結されたジャッキ手段と、
前記ジャッキ手段のそれぞれを支持する支持台と、
前記支持台のそれぞれを固定する固定駒と、
前記それぞれの固定駒を前記支持台より上方で前記パンザマストに緊締する第2の緊締手段とを有するパンザマスト解体工具。
【請求項2】
前記押上駒は磁石を有する請求項1に記載されたパンザマスト解体工具。
【請求項3】
前記ジャッキ手段は、前記押上駒に連結された可動ロッドと、回転することで前記可動ロッドを伸縮させるジャッキと、前記ジャッキの前記支持台端に前記ジャッキの回転軸に同心させたギアを有し、
前記支持台には、前記ギアと係合し、駆動軸を露設させた減速手段とを有する請求項1または2のいずれかの請求項に記載されたパンザマスト解体工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−192495(P2012−192495A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58607(P2011−58607)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【Fターム(参考)】