説明

パンツ

【課題】見た目は通常のパンツと変わらず、ヒップアップ効果と腹部締め付け効果があり、着用快適性に優れたパンツを提供すること。
【解決手段】開き部を有しないパンツの内側に、後身頃のヒップ部から脇線を通り前身頃の一部を被う裏地と内股から前ウエストにかけて帯状の腹部押さえ布をウエストベルトと股下に縫着して表地と一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒップアップ効果のあるパンツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伸縮性の高いパンツをはくと履き心地は楽で良いが、シルエットがあまりきれいではなかった。特に腹部や尻部を押さえないため、体型が表に出て美観を損なうことも多かった。また、パンツの下にガードルなどの補正下着を着けることにより、体型を整えることは可能であったが、それらは締め付け感が強く着用快適性に劣るものであった。これらの問題を解決するため、昨今、パンツやスカートの裏に伸縮性裏地を縫い付け、体型補整を狙ったものが多く出てきた。
【0003】
一方、従来の技術として、後身頃の裏にパワーネット生地を縫い付けたズボン(特許文献1参照)、パワーネットでできた裏地を表身頃の裏側全周に縫い付けたスパッツやスカート(特許文献2、3参照)、前後身頃裏に股布を吊り下げたパンツやスカート(特許文献4参照)、等が提案されている。
【特許文献1】実用新案登録第3098702号公報
【特許文献2】特開平9−13206号公報
【特許文献3】実用新案登録第3008616号公報
【特許文献4】特開平8−296103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の後身頃の裏にパワーネット生地を縫い付けたズボンは、裏地と表地とがほぼ同じ寸法であるため、ヒップを持ち上げる効果は小さかった。
【0005】
一方、特許文献2、3のパワーネットでできた裏地を表身頃の裏側全周に縫い付けたスパッツやスカートは、締め付けの強い補正下着をつけているのと同じ効果は得られるものの、着用中の快適性や着脱のしやすさなどに劣るものであった。また、特許文献4は腹部矯正裏布に前後方向に股布を固着させ、両股布を股部で着脱自在に止着させたものであるため、股部での止着がしにくく、違和感のあるものであった。
【0006】
また、市場で販売されている補整布付きパンツのうち、後身頃のみ、前身頃のみに裏地を脇で縫着しているものを着用したところ、縫着している箇所が引きつれて、美観を損なうという欠点があったし、前後全周裏地を縫着しているものは、ガードルをはいているのと変わらず窮屈で着脱しにくいものであった。
【0007】
そこで、本発明の目的はかかる従来技術の欠点を改良し、見た目も通常のパンツと変わらず、ヒップアップ効果があり、着用快適性に優れたパンツを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のパンツは以下の構成からなる。
【0009】
(1)身頃の表地の内側に、後身頃のヒップ部から脇線を通り前身頃の一部を被う裏地と内股部から前身頃ウエスト部にかけて帯状の腹部押さえ布を付設したパンツであって、該裏地および腹部押さえ布が少なくともウエストラインと内股部で身頃表地に接合されていることを特徴とするパンツ。
【0010】
(2)前記腹部押さえ布の幅が、内股部で8〜15cm、前ウエスト部で12〜25cmとなるよう漸増させたことを特徴とする前記(1)に記載のパンツ。
【0011】
(3)前記腹部押さえ布の一部に腹部補強布を付設したことを特徴とする前記(1)または(2)のいずれかに記載のパンツ。
【0012】
(4)前記裏地には、後身頃のヒップライン下から前身頃に向かい斜め上方に傾斜した帯状のヒップアップ別布を付設したことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のパンツ。
【0013】
(5)前記表地または/および前記腹部押さえ布、腹部補強布、および裏地、ヒップアップ別布がタテまたは/およびヨコ方向に伸縮可能な織編物であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のパンツ。
【0014】
(6)前記腹部押さえ布、腹部補強布、および裏地、ヒップアップ別布の伸長率が30〜200%、伸長回復率が80〜100%の範囲であり、これらの伸長率および伸長回復率のそれぞれがほぼ同等であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のパンツ。
【0015】
(7)前記腹部押さえ布および裏地に、破裂強力が200〜260kPaのサテンネット、前記腹部補強布およびヒップアップ別布に、破裂強力が261〜320kPaのパワーネットを使用したことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のパンツ。
【発明の効果】
【0016】

本発明により、見た目も通常のパンツと変わらず、ヒップアップ効果があり、さらに脇腹と腹部もシェイプすることのできる着用快適性に優れたパンツを得ることができる。特に淡色、もしくは白色のパンツを着用する時、下着のラインが表に映らず、透け防止の効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示す一形態を参照しつつ、本発明のパンツを詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明のパンツの一態様を正面表からみた図であり、図2、図3は、本発明のパンツの一態様を裏返して裏面からみた前身頃と後身頃の図である。図4は本発明のパンツで使用する裏地と腹部押さえ布をパンツに縫着する前の図である。
【0019】
本発明のパンツは、図1に示すようなファスナーやボタンなどで開き部を有しないパンツ、例えばジャージやトレーニングパンツ、パジャマズボン、スパッツなどのようなウエスト部分に全周あるいは部分的にゴムを挿入したパンツの裏に、図2、図3に示すように裏地3および腹部押さえ布10を付設したパンツである。図4に示すように裏地3と腹部押さえ布10を表地に内股部6と前ウエストライン5や後ウエストライン12で接合することができる。
【0020】
さらに詳細に述べると、裏地3は、後身頃2のヒップ部から脇線4を通り前身頃1の一部を被うように後身頃から前身頃にかけて連続した形状とし、前ウエストライン5、後ウエストライン12と内股6で表地と接合する。後身頃から前身頃に連続した形状で設置することにより、臀部を臀溝から上方およびななめ前方に向かって持ち上げることができ、さらに、脇の贅肉も一部引き上げ、サイドラインの締め付け効果も期待することができる。ここでいう臀溝とは、臀部と大腿部との境界部分をいう。一方、前身頃1に腹部押さえ布10を内股6と前ウエストライン5で表地と接合し、それ以外の部分は縫い付けずにフリーにしておくことにより身体にフィットさせ、腹部を締め付ける効果を期待することができる。
【0021】
これに対し、裏地をパンツ全周に付設すると補整下着を着用している場合と同じように、着脱しにくく蒸れやすいため着用快適性に劣るパンツとなるので好ましくない。また、後身頃のみ、前身頃のみに裏地を付設すると脇線部分で引きつれが発生したり、サイドラインを締め付ける効果がなく、好ましくない。従って、前身頃には腹部押さえ布10を、後身頃から前身頃の一部には連続した裏地3を、それぞれ独立させて設置することにより、運動時にも追随でき、着脱性、着用快適性の面で好ましい。裏地と腹部押さえ布は前ウエストライン5で表地と縫着する時にウエストラインの前中心に向かって1〜3cm程度重ねると、ヒップから脇、脇から腹部と連続した補正効果が期待できる。この時、両者をウエストライン以外で縫い止めると、窮屈感があり、着用快適性に劣ったり、破損の原因となる可能性がある。
【0022】
該腹部押さえ布10の幅は、内股部6で8〜15cm、前ウエストライン5で12〜25cmとなるよう漸増させることが好ましい。内股部6で8cmより狭いと帯状の腹部押さえ布が安定せず、紐状になってしまい着用感に劣り好ましくない。一方15cmを越えると身体の股部巾より広くなるため、帯状の腹部押さえ布がよじれて巾方向に折れ曲がってしまい下腹部をサポートすることができなく、着用感も悪いので好ましくない。さらに、前ウエストライン5で12cmより狭くなると腹部全体をサポートすることができないため好ましくない。また、前ウエストライン5で25cmより広くなると後身頃から前身頃の一部にかけて設置した裏地3と重なる部分が多くなるため、着用感が悪く、またパンツの表から裏地3と腹部押さえ布10の段差が出て美観を損なうため好ましくない。
【0023】
さらに腹部を押さえる効果を上げるためには、図4に示すように、腹部押さえ布10に腹部補強布11を付設することが好ましい。付設は縫い付けが好ましく、縫い付ける方法としてはオーバーロックや千鳥縫いのように生地の伸びを止めない縫い方で、さらに使用する縫糸はナイロンウーリー糸やレジロン糸を使用することも生地の伸びを止めないので好ましい。腹部補強布11は腹部押さえ布10とほぼ同じ大きさであることが好ましく、具体的には、腹部補強布の幅は、腹部押さえ布より外側にはみ出さないように0.2cm〜0.5cm狭くし、長さ方向では内股部6からウエスト方向に向かって2cm〜5cm間には腹部補強布11は付設しない。腹部補強布11を腹部押さえ布10と同じように内股部6まで付設すると、特に股部のごろつき、ムレ感、縫製しやすさに問題がある。なお、腹部補強布11は、表地と腹部押さえ布10の間に付設してもよいが、腹部押さえ布10と身体の間に付設してもどちらでもよい。
【0024】
一方、後身頃から前身頃の一部にかけて設置する裏地3の形状は、図4に示すように、前ウエストライン5の上端部Aから内股の端部Bを結ぶ仮の直線から外側に膨らんだ曲線状とすることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明のパンツにおいて、表地の内側に付設した裏地3に、後身頃のヒップライン下から前身頃に向かい斜め上方に傾斜した帯状のヒップアップ別布8を付設することにより、ヒップアップおよびサイドの締め付け効果を向上させることができる。なお、付設は縫い付け、接ぎ合わせ、接着、融着など、どのような方法であってもよいが、洗濯耐久性、肌触り、作業性の点から縫い付けが好ましい。なお、ヒップアップ別布8は、図4のように表地と裏地3の間に付設してもよいが、裏地3と身体の間に付設してもよい。また、ヒップアップ別布8の端は、図2、図3のようにウエストラインまで延着することが脇腹矯正効果向上の点で好ましい。
【0026】
本発明で使用する腹部押さえ布10と裏地3、腹部補強布11とヒップアップ別布8は夫々同素材を使用していることが好ましい。特に、腹部押さえ布10と裏地3に異素材を使用すると、伸長率や伸長回復率、厚さなどの素材特性が異なるため、内股部6の接合部が破損しやすいし、前身頃と後身頃で違和感があるため好ましくない。
【0027】
本発明のパンツにおいては、表地または/および裏地3および腹部押さえ布10にタテまたは/およびヨコ方向に伸縮可能な織編物を使用することにより、着用感、運動機能性、美観全てにおいてさらに顕著な効果を得ることができる。
【0028】
伸縮可能な織編物としては、綿やウールなどの天然繊維やレーヨンなどの再生繊維、アクリル系繊維やポリエステル系繊維などの合成繊維などに弾性繊維(ポリウレタン繊維など)を混用したストレッチ織物等を使用することができる。また、弾性繊維を使用しないで、例えば一方がポリトリメチレンテレフタレート(以下、PPTと略する)を主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さに沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維のマルチフィラメントを、タテ糸およびヨコ糸の少なくとも一方に用いたポリエステル系ストレッチ織物を使用してもよい。サイドバイサイド型の複合繊維は、固有粘度や共重合成分、共重合率等が異なる重合体を貼り合わせ、それらの弾性回復特性や収縮特性の差によって、捲縮を発現するものである。固有粘度差を有するサイドバイサイド型複合の場合、紡糸、延伸時に固有粘度の高い方に応力が集中するため、2成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および織物の熱処理工程での熱収縮率差により固有粘度高い方が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は、固有粘度が高い成分(高収縮成分)と固有粘度が低い成分(低収縮成分)との収縮差(弾性回復率差を含む)によって決まると言ってもよく、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。ストレッチ素材として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多い(伸長特性に優れ、見栄えが良い)、コイルの耐へたり性が良い(伸縮回数の応じたコイルのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れる)、さらにはコイルの伸長回復時におけるヒステリシスロスが小さい(弾発性に優れ、フィット感が良い)等である。これらの要求を全て満足しつつ、ポリエステルとしての特性、例えば適度な張り腰、ドレープ性、高染色堅牢性を有することで、トータルバランスに優れたストレッチ素材とすることができる。この特性を満足させるためには、高収縮成分にPPTを主体としたポリエステルを用いることが好ましい。PPTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。低収縮成分には、高収縮成分であるPPTとの界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであれば特に限定されるものではないが、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、繊維形成能のあるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0029】
このようにして得られたサイドバイサイド型複合繊維糸条をタテ糸およびヨコ糸の少なくとも一方のストレッチ付与を所望する方向に用いたストレッチ織物を本発明のパンツに使用することにより着用感、運動機能性、美観等に顕著な効果が得られる。当該ストレッチ織物をパンツの表地に使用する場合、タテ方向およびヨコ方向の少なくとも一方の伸長率は、1.5kg荷重下で10%以上40%以下であることが好ましく、伸長回復率は60%以上あることが着用快適性、型くずれ防止の観点からも好ましい。
【0030】
かかる伸長率とは、織編地の伸びの程度を表すものであり、この数値が大きい程、パンツを着用した時、体の動きに追従し易く、着脱も容易である。パンツの表地はかかる伸長率が10%未満であると伸びが少ないため着用時に窮屈で動きにくいという問題があり、反対に40%以上あると、身体にフィットするが、身体のシルエットが表面に出やすくなり、美観に劣るという問題があった。
【0031】
かかる伸長回復率とは身体の動きで伸長した生地が、素早く元の状態に戻ろうとする回復程度を表すものであり、この数値が大きい程、パンツを着用した時の型崩れが少なく、着用前後で形態変化を起こしにくい。本発明のパンツにおいて、表地の伸長回復率は60%以上、より好ましくは80%以上である。表地の伸長回復率が60%より低いと臀部や膝等の身体の凸部のみ生地が回復せずに表地が伸びた状態になり、美観を損なう。
【0032】
なお、かかる伸長率はJIS L 1096「一般織物生地試験方法」のA法(定速伸長法)のストリップ法に基づいて測定、また、かかる伸長回復率はJIS L 1096「一般織物生地試験方法」のA法(繰り返し定速伸長法)のストリップ法に基づいて測定したものである。なお、詳細な試験方法については後述する実施例に記載した。
【0033】
さらに、裏地3に使用する素材は、破裂強力が200〜260kPaのサテンネットを使用することが好ましい。また、ヒップアップ別布8には破裂強力が261〜320kPaのパワーネットを使用することが好ましい。使用する裏地3、腹部押さえ布10、腹部補強布11およびヒップアップ別布8の伸長率、伸長回復率をほぼ同じにすると、パンツに縫着する全素材の追随性が向上し、着用時の違和感が低減する上、縫目の破損などの問題が発生しにくくなる点で好ましい。一方、破裂強力については、部分的なサポート効果をより向上させるため、腹部押さえ布10および裏地3より、腹部補強布11およびヒップアップ別布8の破裂強力を上げることが好ましい。
【0034】
かかる破裂強力は後述する実施例に記載したとおり、JIS L 1018「ニット生地試験方法」のA法(ミューレン形法)に基づいて測定したものである。
【0035】
ここでいうサテンネットとは経編の一種で、ファンデーション一般、特にソフトガードルに使用される素材であり、ネットの目が詰まっておりサテン調の滑らかな風合い、表面の光沢感が特徴である。また、パワーネットも経編の一種ではあるが、サテンネットとは編み方が異なり、見た目は網状である。パワーネットはサテンネットよりも強力が高いため、主にブラジャーやボディスーツなど補整下着に使用される。従って、ヒップ形状を崩さず、裏地として必要な滑り性と伸長率をもつサテンネットを本発明の腹部押さえ布10および裏地3に使用し、臀溝から脇腹部へのサポートを強化するためにパワーネットを腹部補強布11およびヒップアップ別布8に使用することが最適である。
【0036】
本発明において、ヒップアップ効果、および腹部締め付け効果の確認は、次のようにして行う。
【0037】
パンツの表地の素材やサイズ、デザインを同一にし、裏地等の有無のみを変更したパンツを準備する。同一の着用者にパンツを着用させ、床面から腰の位置まで表示したメジャーのヨコに立たせ、体側面からカメラ、好ましくはデジタルカメラで写真撮影を行いう。その後、パソコン上でヒップアップ効果や腹部締め付け効果を確認する。まず、ヒップアップ効果は、床面から臀部頂点の距離を測定する。裏地等の有無による臀部頂点の位置の違いを差寸で表すことができる。次に、臀部頂点から床面に垂線をひき、腹部頂点からも同様に垂線をひく。この両者の距離を測定し、距離が短い方が腹部締め付け効果があるとする。
【0038】
また、部位別の衣服圧を測定することにより、効果の有無を確認することができる。衣服圧は、後述する実施例に記載した方法で測定することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において用いたパンツ表地および裏地の品質評価は次の方法で実施した。
【0040】
(測定方法)
(1)伸長率
表地及び裏地の伸長率はJIS L 1096「一般織物試験方法」のA法(定速伸長法)のストリップ法に準じて測定した。
【0041】
すなわち、まず、5cm×30cmの試験片をタテ、ヨコ方向にそれぞれ3枚ずつ採取した。測定には自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を20cmとし、試験片のたるみや張力を除いて、試験片をつかみに固定した。引張速度20cm/minで14.7N(1.5kg)まで伸ばし、その時のつかみ間隔を測り、次の式により伸長率LA(%)を求め、3枚の平均で表した。
伸長率LA(%)=[(L1−L)/L]×100
L :つかみ間隔(mm)
L1:14.7Nまで伸ばした時のつかみ間隔(mm)
(2)伸長回復率
表地及び裏地の伸長回復率はJIS L 1096「一般織物試験方法」のA法(繰り返し定速伸長法)のストリップ法に準じて測定した。
【0042】
すなわち、まず、5cm×30cmの試験片をタテ、ヨコ方向にそれぞれ3枚ずつ採取した。測定には自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を20cmとし、試験片のたるみや張力を除いて、試験片をつかみに固定した。引張速度20cm/minで別に求めた伸長率(前項LA)の値の80%まで伸ばして、1分放置した後、同じ速度で元の位置まで戻し、3分間放置する。この操作を10回繰り返した後、再び同じ速度で初荷重以上の荷重まで引き伸ばす。記録した荷重−伸長曲線から残留伸びを測り次式により伸長回復率LB(%)を求め、3枚の平均で表した。
伸長回復率LB(%)=[(Lb1−Lb)/Lb]×100
Lb :伸長率LAの80%の伸びに相当するチャート上の長さ(mm)
Lb1:10回繰り返し伸長後の残留伸びに相当するチャートの長さ(mm)
(3)破裂強力
裏地の破裂強力はJIS L 1018「ニット生地試験方法」のA法(ミューレン形法)に準じて測定した。
【0043】
すなわち、まず、15cm×15cmの試験片を5枚採取した。この試験片の表を上にして張力を加えずに普通の状態で、ミューレン形破裂試験機のつかみに取り付けた。加圧用油を98±4cm/minの速度で増加させ、ゴム膜が突き破った瞬間に加圧を止めて、その時の圧力を読みとった。引き続き、つかみをゆるめて試験片を取り除いた時の指針の示すゴム膜の圧力を読みとった。下式により破裂強度を算出し、5枚の平均値で表した。
破裂強度(kPa)=a−b
a:ゴム膜が試験片を突き破った時の圧力
b:試験片を取り除いた時のゴム膜の圧力
(4)臀部頂点の位置
本文中に述べたように、パンツの表地の素材やサイズ、デザインを同一にし、裏地等の有無のみを変更したパンツを準備する。同一の着用者にパンツを着用させ、床面から腰の位置まで表示したメジャーのヨコに立たせ、体側面からカメラ、好ましくはデジタルカメラで写真撮影を行う。着用中の写真を体側面からカメラで撮影し、パソコン上で床面から臀部頂点までの距離を測定し、距離の長い方がヒップアップ効果があるとする。3回の着用−撮影−測定の平均値を求めた。
【0044】
なお、臀部頂点については、体側面の画像に頭部から床面に垂直に補助線を入れ、臀部で交わる点を臀部頂点とした。
【0045】
(5)腹部締め付け効果の確認
臀部頂点位置の測定と同様に、着用中の写真を体側面からカメラで撮影し、パソコン上で次のように処理する。まず、体側面の画像に臀部頂点から床面に垂直に補助線を入れ、腹部頂点からも同様に床面に垂直に補助線を入れる。この両者の距離を測定し、距離が短い方が腹部締め付け効果があるとする。3回の着用−撮影−測定の平均値を求めた。
【0046】
(6)衣服圧の測定
(株)エイエムアイ社製の接触圧測定器のエアパックセンサーを着用者の臀部頂点、臀溝(臀部と大腿部との境界)、腹部の合計3箇所に貼り付ける。その上にパンツを着用して静止状態30秒、前屈運動30秒時の衣服圧の変化を計測し、3回の衣服圧計測結果の平均値を求めた。パンツの素材やデザインにより変化する値であるので、全く同じ素材、サイズ、デザインのパンツを同一人物が着用し、裏地の有無による衣服圧(kPa)の差寸を求め、各箇所について表1に従い3段階評価した。
【0047】
(7)審美性、着心地、肌触りの状態評価
出来上がったパンツの審美性および着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果についてモニターに着用してもらい、官能評価を実施した。その評価基準を表1に示す。
【0048】
モニターは年齢が20代から50代の女性10名で、着用した結果の平均点を各評価点数として示す。各評価点数の合計点数を総合評価とし、総合評価が大きいものほど優れていることを示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例1)
56デシテックスのポリエチレンテレフタレート糸100%の長繊維糸を使用して22Gの両面丸編機で編成し、通常の染色加工仕上げをして編地を得た。こうして得られた編物の伸度はタテ60%、ヨコ105%、伸長回復率はタテ85%、ヨコ81%であった。この編地を表地として用い、ウエスト部全周に3cm巾の平ゴムを挿入して前開きのない婦人パンツを縫製した。
【0051】
次に、310デシテックスのポリウレタン繊維に56デシテックスのナイロンをカバーリングした糸をラッセル編み機で編成した6コースサテンネットを、裏地と腹部押さえ布として使用した。このサテンネットの伸長率はタテ145%、ヨコ70%、伸長回復率はタテ93%、ヨコ92%、破裂強力は240kPaであった。
【0052】
また別に、310デシテックスのポリウレタン繊維に56デシテックスのナイロンをカバーリングした糸をラッセル編み機で編成した6コースパワーネットを、ヒップアップ別布と腹部補強布として使用した。このパワーネットの伸長率はタテ125%、ヨコ91%、伸長回復率はタテ94%、ヨコ90%、破裂強力は290kPaであった。
【0053】
この裏地類を次に示す工程で縫製して、表地に縫着し、図1に示す婦人用パンツを得た。
【0054】
まず、サテンネットを、内股部で15cm幅、前身頃ウエストラインで20cm幅となるように漸増させた帯状に裁断し腹部押さえ布とした。さらに腹部押さえ布の片面に、図4に示すように、腹部押さえ布の内股部から5cm控えたところまでの面積を持つ腹部補強布を千鳥ミシンで縫着した。腹部押さえ布と同じサテンネットを裏地として後身頃から前身頃ウエストラインに向かい斜め上方に傾斜した形状に裁断した。さらにこの裏地の片面に、腹部補強布と同じパワーネットを後中心線で5cm幅、前身頃のウエストラインで8cm幅となるように漸増させ、ヒップ形状に合わせた曲線帯状のヒップアップ別布を、伸びを止めないように下糸にナイロンウーリー糸を用いて千鳥縫いミシンで縫着した。このヒップアップ別布を縫い付けた裏地と腹部補強布を縫い付けた腹部押さえ布と表地の内股とをオーバーロックミシンにより接合した。次に、腹部補強布を縫い付けた腹部押さえ布を前中心線から左右均等な位置に表地の前ウエストラインに縫着し、裏地を後身頃から脇線を通り前身頃の一部を覆うように腹部押さえ布と左右夫々1cm重なるように縫着した。
【0055】
こうして得られた婦人用パンツの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の審美性、着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果について評価をした結果を表3に示した。
【0056】
(実施例2)
タテ糸にポリエチレンテレフタレートとレーヨンの混紡糸、ヨコ糸に44デシテックスの弾性糸にポリエチレンテレフタレートとレーヨンの混紡糸をカバーリングした糸を用い、3/1のサテン(朱子織)に製織、染色仕上げした織物を得た。こうして得られた織物の伸度はタテ21%、ヨコ22%、伸長回復率はタテ91%、ヨコ89%であった。この織物を表地として用い、ウエストには3cm巾のベルト芯を入れ脇線から前後5cm計10cm間のみに3cm巾の平ゴムを挿入して前明きのない婦人パンツを縫製した。
【0057】
次に、ポリビニルピロリドンを練り込んだ54デシテックスのポリアミド繊維と310デシテックスのポリウレタン繊維で編成したサテンネットを、裏地と腹部押さえ布として使用した。このサテンネットの伸長率はタテ160%、ヨコ80%、伸長回復率はタテ92%、ヨコ94%、破裂強力は226kPaであった。
【0058】
また別に、上記サテンネットと同じ糸を使い編成したパワーネットを、ヒップアップ別布と腹部補強布として使用した。このパワーネットの伸長率はタテ109%、ヨコ85%、伸長回復率はタテ97%、ヨコ89%、破裂強力は280kPaであった。
【0059】
この裏地類を次に示す工程で縫製して、表地に縫着し、図1に示す婦人用パンツを得た。
【0060】
まず、サテンネットを、内股部で12cm幅、前身頃ウエストラインで15cm幅となるように漸増させた帯状に裁断し腹部押さえ布とした。さらに腹部押さえ布の片面に、図4に示すように、腹部押さえ布の内股部から3cm控えたところまでの面積を持つ腹部補強布をオーバーロックミシンで縫着した。腹部押さえ布と同じサテンネットを裏地として後身頃から前身頃ウエストラインに向かい斜め上方に傾斜した形状に裁断した。さらにこの裏地の片面に、腹部補強布と同じパワーネットを後中心線で7cm幅、前身頃のウエストラインで10cm幅となるように漸増させ、ヒップ形状に合わせた曲線帯状のヒップアップ別布を、伸びを止めないように下糸にナイロンウーリー糸を用いて千鳥縫いミシンで縫着した。このヒップアップ別布を縫い付けた裏地と腹部補強布を縫い付けた腹部押さえ布と表地の内股とをオーバーロックミシンにより接合した。次に、腹部補強布を縫い付けた腹部押さえ布を前中心線から左右均等な位置に表地の前ウエストラインに縫着し、裏地を後身頃から脇線を通り前身頃の一部を覆うように腹部押さえ布と左右夫々2cm重なるように縫着した。
【0061】
こうして得られた婦人用パンツの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の審美性、着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果について評価をした結果を表3に示した。
【0062】
(実施例3)
綿40番手双糸と165デシテックスのポリトリメチレンテレフタレートを用い、18Gの両面丸編機で編成し、通常の染色加工仕上げをして編地を得た。こうして得られた編物の伸度はタテ40%、ヨコ80%、伸長回復率はタテ88%、ヨコ55%であった。この編地を表地として用い、ウエスト部全周に3cm巾の平ゴムを挿入して前明きのない紳士用パンツを縫製した。
【0063】
次に、実施例1で使用したサテンネットを用いて裏地と腹部押さえ布を次に示す工程で縫着して、図1に示す紳士用パンツを得た。
【0064】
まず、サテンネットを、内股部で15cm幅、前身頃ウエストラインで18cm幅となるように漸増させた帯状に裁断し腹部押さえ布とした。同じサテンネットを裏地として後身頃から前身頃ウエストラインに向かい斜め上方に傾斜した形状に裁断した。裏地と腹部押さえ布を表地の内股とオーバーロックミシンにより接合した。次に、腹部押さえ布を前中心線から左右均等な位置に表地の前ウエストラインに縫着し、裏地を後身頃から脇線を通り前身頃の一部を覆うように腹部押さえ布と左右夫々3cm重なるように縫着した。
【0065】
こうして得られた紳士用パンツの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の審美性、着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果について評価をした結果を表3に示した。
【0066】
(比較例1)
実施例1で用いた編物を表地に使用して、実施例1と同じ婦人用パンツを縫製した。ただし、裏地およびヒップアップ別布、腹部押さえ布は付設しなかった。
【0067】
こうして得られた婦人用パンツの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の審美性、着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果について評価をした結果を表3に示した。
【0068】
(比較例2)
実施例1で用いた編物を表地に使用して、実施例1と同じ婦人用パンツを縫製した。
【0069】
次に、実施例1で使用したサテンネットを用いて前身頃から後身頃に連続した半ズボン型の裏地を次に示す工程で縫着して、図1に示す婦人用パンツを得た。
【0070】
まず、サテンネットを、表地より巾、長さとも3%小さくした股下10cmの半ズボン形状に裁断、縫製した裏地をウエストラインと内股部に縫着した。
【0071】
こうして得られた婦人用パンツの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の審美性、着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果について評価をした結果を表3に示した。
【0072】
(比較例3)
実施例2で用いた織物を表地に使用して、実施例2と同じ婦人用パンツを縫製した。
【0073】
次に、実施例1で使用したサテンネットを用いて後身頃のみに股下10cmからウエストラインまでを覆う形状の裏地に裁断した。さらにこの裏地の片面に、後中心線で10cm幅、脇線上でも10cm幅のヒップ形状に合わせた曲線帯状のヒップアップ別布を、伸びを止めないように下糸にナイロンウーリー糸を用いて千鳥縫いミシンで縫着した。ここで用いるヒップアップ別布の伸長率はタテ125%、ヨコ91%、伸長回復率はタテ94%、ヨコ90%、破裂強力は290kPaのパワーネットとした。このヒップアップ別布を縫い付けた裏地を後ウエストライン、左右脇線、股下に表地とオーバーロックミシンにより接合した。こうして得られた婦人用パンツの縫製仕様を表2に、縫製品を着用した時の審美性、着用感、運動機能性、ヒップアップ効果、腹部締め付け効果について評価をした結果を表3に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、見た目が通常のパンツと変わらず、ヒップアップ効果があり、着用快適性に優れたパンツとして利用できる。また、ヒップアップ効果と共に腹部矯正効果を有するパンツとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明のパンツの一態様を正面表からみた図である。
【図2】図2は、本発明のパンツの一態様を裏返して裏面からみた前身頃の図である。
【図3】図3は、本発明のパンツの一態様を裏返して裏面からみた後身頃の図である。
【図4】図4は本発明のパンツで使用する裏地と腹部押さえ布をパンツに縫着する前の図である。
【符号の説明】
【0078】
1 :前身頃表地
2 :後身頃表地
3 :裏地
4 :脇線
5 :前ウエストライン
6 :内股
7 :後中心線
8 :ヒップアップ別布
9 :前中心線
10 :腹部押さえ布
11 :腹部補強布
12 :後ウエストライン
A :ウエストラインの上端部
B :内股の端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身頃の表地の内側に、後身頃のヒップ部から脇線を通り前身頃の一部を被う裏地と内股部から前身頃ウエスト部にかけて帯状の腹部押さえ布を付設したパンツであって、該裏地および腹部押さえ布が少なくともウエストラインと内股部で身頃表地に接合されていることを特徴とするパンツ。
【請求項2】
前記腹部押さえ布の幅が、内股部で8〜15cm、前ウエストラインで12〜25cmとなるよう漸増させたことを特徴とする請求項1に記載のパンツ。
【請求項3】
前記腹部押さえ布の一部に腹部補強布を付設したことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のパンツ。
【請求項4】
前記裏地には、後身頃のヒップライン下から前身頃に向かい斜め上方に傾斜した帯状のヒップアップ別布を付設したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパンツ。
【請求項5】
前記表地または/および前記腹部押さえ布、腹部補強布、および裏地、ヒップアップ別布がタテまたは/およびヨコ方向に伸縮可能な織編物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパンツ。
【請求項6】
前記腹部押さえ布、腹部補強布、裏地およびヒップアップ別布の伸長率が30〜200%、伸長回復率が80〜100%の範囲であり、これらの伸長率および伸長回復率のそれぞれがほぼ同等であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のパンツ。
【請求項7】
前記腹部押さえ布および裏地に、破裂強力が200〜260kPaのサテンネット、前記腹部補強布およびヒップアップ別布に、破裂強力が261〜320kPaのパワーネットを使用したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のパンツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106373(P2008−106373A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287213(P2006−287213)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】