説明

パントテン酸又はその誘導体を含む組成物、及び食欲を増進するためのその使用

本発明は、食品組成物及びその使用の分野に関する。具体的には、食欲を増進するのに適した、少なくとも15En%のタンパク質、及びパントテン酸又はその均等物を含む組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品組成物及びその使用の分野に関する。詳細には、食欲を増進するのに適した、パントテン酸又はその均等物を含む組成物が提供される。
【背景技術】
【0002】
パントテン酸は、ビタミンB5としても知られる水溶性ビタミンであり、補酵素A(CoA)の一成分である。パントテン酸は、魚、肉、卵、乳製品及び野菜など、広い範囲の食品中に見られ、その結果、ヒトでは自然に欠乏することは極まれにしか認められない。これまで、パントテン酸欠乏食(例えば、Fry et al. 1976, J. Nutr. Sci. Vitamology 22, 339-346)、及び/又は抗パントテン酸様作用を示すことが知られているω−パントテン酸メチルのような化合物(例えば、Hodges et al. 1959, J. Clin. Invest. 38, 1421-1425を参照のこと)の投与により、パントテン酸欠乏をヒトにおいて実験的に誘発した研究が実施されてきた。このような試験の参加者が示した症状は、消化管愁訴(悪心、嘔吐、腹部仙痛)、易刺激性、落ち着きのなさ、疲労、無感情、倦怠感、頭痛、不眠症、手足のしびれ感若しくはピリピリ感、錯感覚、筋痙攣、よろめき歩行、低血糖症、及びインスリン感受性亢進であった(例えば、Hodges et al. 1958, J. Clin. Invest. 37, 1642-1657、及びReport "Expert Group on Vitamins and Minerals 2003" published by the Food Standards Agency, Aviation House, 125 Kingsway, London WC2B 6NH, UKを参照のこと)。ヒトが無パントテン酸食を摂取した他の研究では、欠乏の臨床徴候は発現しなかった(Fry et al. 1976, J. Nutr. Sci. Vitminol. 22(4), 339-346)。上記の研究のいずれからも、パントテン酸欠乏が食欲の不振に関係していることも、またパントテン酸を使用して食欲不振を回復できることも分からないと結論付けられる。こうした研究のいずれも、パントテン酸を使用して体重を回復できることも明らかにしていない。パントテン酸に対する需要の増大が、癌、AIDSなどの重度の疾患、肺気腫などの呼吸器疾患の結果である異化作用、外科手術などの重度外傷、及び例えば、炎症性腸疾患に伴って起こる重度の下痢に関連付けられることはこれまでなかったことに特に留意されたい。言い換えれば、一般に、重度のいずれの疾患に伴う食欲不良及び体重減少もパントテン酸欠乏によって引き起こされるとは考えられていない。
【0003】
Vaughan and Vaughan (J. Nutrition, (1960) 70: 77-80)は、パントテン酸欠乏ラットの体重、食物摂取、及びアセチル化活性に対する感冒の影響を記載した。彼らはいくつかのデータを提示し、そのデータから、タンパク源としてのカゼイン及び脂質源としての植物性油脂が使用されているがパントテン酸を欠く人工飼料を33日間与えることによりパントテン酸欠乏状態とした健常ラットにとって、パントテン酸の投与が体重の増加及び食物摂取という点で有益であることが導き出される可能性がある。しかし、その著者らは、パントテン酸のレベルと食物摂取の間には関係がなく、また食欲に関係付けられている成長に対してパントテン酸が影響を与えないと結論付けた。さらに、まったく異なる味覚を有するヒト患者における有益な潜在的作用に言及するものはなく、また末期癌、AIDS、COPD、又は他の重度な障害を患うヒトに言及するものも特にない。
【0004】
EP0914111は、悪液質及び食欲不振を予防及び治療するための方法並びに栄養組成物に関する。この文献には、食欲に対するパントテン酸の有益な作用を示唆するものはなく、また飽和脂肪酸、特にミリスチン酸の量に何らかの関連性があることを示すものもなかった。
【0005】
DE4304394は、体重減少に関係する問題を克服するための、腫瘍患者の経腸栄養補給用の調製物に関する。この調製物は、特定の種類の脂肪の、バランスのとれた組成物によって特徴付けられる。パントテン酸カルシウム及びパントテン酸を含む調製物も開示されているが、パントテン酸のレベルと食欲の増進との間の関係については言及も示唆もされなかった。
【0006】
DE29916231、JP5294833、及びUS6322821などいくつかの文献に、ヒト及びウシにおいてとりわけ食欲の不振を治療するのに有用なパントテン酸カルシウムを含む総合ビタミン組成物が記載されている。しかし、組成物中のパントテン酸のレベルの決定的に重要な役割は、こうした文献のいずれにも開示されていない。
【0007】
パントテン酸摂取に関するRDA(recommended dietary allowance推奨栄養所要量)は、米国医学研究所(Institute of Medicine)の食品栄養委員会(Food and Nutrition Board)によって設定されていない(Eissenstat et al. 1986, Am. J. Clin. Nutr. 44(6), 931-937)。その代わりに、AI(approximate adequate daily dietary intake value概算適正1日食物摂取量値)だけが、異なる年齢又は標的の集団について記載されており、幼児での1.7mg/日から、成人での4〜5mg/日、及び妊婦又は授乳期の女性での6〜7mg/日に及ぶ(Department of Health, 1991, In: Dietary reference values for food, energy and nutrients for the United Kingdom. HMSO, London, p113-115)。大量摂取による副作用がないようなので、パントテン酸に関する許容上限レベル(tolerable upper level)も設定されていない。記載されている唯一報告された副作用は、1日当たり10〜20mgのD−パントテン酸カルシウムの摂取に伴う下痢の発現である(Flodin 1988, Pharmacology of micronutrients; New York, Alan R. Liss, Inc.)。英国栄養評議会(UK Council for Responsible Nutrition)は、長期及び短期の補充に対してパントテン酸の上限安全レベル(Upper Safe Level)1000mg/日を推奨している(leaflet CRN 1999, The safe use of supplements benefit good health)。
【0008】
食事によるパントテン酸の取り込みとは別に、結腸に定着する細菌もパントテン酸を産生することができ、したがって、対象の腸で産生されるパントテン酸を吸着させて、このビタミンのさらなる供給源を提供することは実行可能である(Said et al. 1998, Am. J. Physiol. 275: C1365-1371)。しかし、内部で産生されたパントテン酸塩が全身のパントテン酸塩レベルに有意な量で寄与しているかどうかは分かっていない。実験的状況では、細菌によるパントテン酸の内部産生には、試験動物においてパントテン酸欠乏を誘発するために、抗体による処理が必要であることが多い(Stein and Diamond 1989, J. Nutr. 119(12), 1973-1983)。
【0009】
また、市販のビタミン補助食品はほとんど、パントテン酸、或いはパントテン酸よりも安定している、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、又はパンテノールなどその誘導体を含有している。ほとんどの場合、D−異性体が使用されるが、DL−ラセミ混合物も使用することができる。食事によって取り込まれたパントテン酸塩は腸内で吸着し、血液によって(主に、赤血球内で結合した形として)様々な体組織に輸送される。大部分の組織は、活性なナトリウム依存性共輸送機序を介してパントテン酸を血液から取り入れる。パントテン酸の血漿中レベルが食物摂取レベルと関連していることは見出されていないが、尿中のパントテン酸塩排泄量と食物摂取との間に十分な関連があることは見出されている(Eissenstat et al. 1986, American J. of Clinical Nutrition 44, 931-937)。
【0010】
パントテン酸補助食品は、肥満の治療において有益な作用を有する。Leung (1995, Medical Hypotheses 44, 403-405)は、低カロリー含有食(約1000カロリー/日)の摂取を、パントテン酸を高い1日用量(約10g/日)で同時投与することによって補充すると、1週間当たり約1kgの体重の漸減が達成されるが、規定食摂取者は飢餓又は脱力を覚えず、ケトン体形成が有意に低減する(尿中に微量でしか検出できない)ことを記載している。特に、低カロリー摂取の期間中にパントテン酸を大量に摂取する場合、パントテン酸を「飢餓抑制剤(hunger suppressant)」と呼ぶことができることが示唆される。
【0011】
しかし、この開示は、食事制限に伴う飢餓、脱力、及びケトン体形成の問題を解決するための低カロリー食への補充以外に、パントテン酸のいかなる使用も示唆していない。さらに、本開示は、パントテン酸の飢餓抑制剤としての使用を明確に教示している。これとは対照的に、本発明者らは、食欲不振、特に疾患又は疾患治療に起因する食欲不振を患う対象に対するパントテン酸、又はその均等物を含む組成物の投与は、(特定の集団の)ヒトにおいて食欲又は飢餓を増進し、また体重及び筋肉重量を増加させることを見出した。
【0012】
ミリスチン酸は、ヤシ油などいくつかの植物油中に存在している、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸と同様に、飽和脂肪酸である。したがって、ミリスチン酸は、人工の臨床栄養物中に少量で存在する可能性がある。飽和脂肪酸は、心血管障害を引き起こす恐れがある望ましくない脂質成分と見なされている。飽和脂肪酸及びヤシ油は、過剰なクリーミング性をもたらすことがあるので、液体製剤を製造する際に使用することが困難であり、したがって、それらを含めることは、当技術分野で避けられている。その代わりに、完全な製剤中で均質なエマルジョンを形成し、0.5%未満のミリスチン酸を含む、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ又はダイズ油を含める。こうした油は、非常に望ましいと考えられているリノール酸も大量に含む。
【0013】
定義
「パントテン酸」若しくは「パントテン酸塩」、又は「ビタミンB5」とは、β−アラニンサブユニット(パントイルβ−アラニン)にアミド結合したパントイン酸部分を表す。この定義は、パントテン酸塩の活性な立体異性体、即ちパントテン酸塩のD−異性体に限定される。
【0014】
本明細書では、「パントテン酸誘導体」又は「パントテン酸均等物」とは、パントテン酸に由来する化合物、及びパントテン酸と均等な、若しくは改良された食欲増進作用を有する化合物、例えば、それだけには限らないが;パントテン酸の塩(例えば、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム)、エステル若しくはエーテル;パントテノール(又はパンテノール、パントテニルアルコール);(R)−パントイン酸、又はその塩、エステル若しくはエーテル;パンテテイン(βメルカプトエチルアミン基と連結したパントテン酸)、又はその塩、S−アセチルパンテテインなどのエステル若しくはエーテル;例えば、アセチル補酵素A(CoA)、スクシニルCoAなどを含めて、3’−リン酸ヒドロキシルによって修飾されたアデノシン5’−一リン酸に、無水物結合により連結した4’−ホスホパンテテインからなるCoAを表すのに使用される。また、特に、活性なD−異性体は、例えばD−パントテン酸カルシウムなどが参照される。
【0015】
「食欲の不振」又は「食欲不振」とは、特に1〜5日など2、3日を超える期間の、食物を摂取したい欲望の喪失を表す。
【0016】
本明細書では、「経腸的」とは、対象の胃腸管への直接送達を表す(例えば、経口的に、又はチューブ、カテーテル若しくはストーマを介して)。
【0017】
本明細書では、「非経口的」とは、胃腸管以外への、特に静脈から血液へ、皮下、また筋肉内などへの送達を表す。
【0018】
本明細書では、「投与」は、対象への他の誰か又は対象自身による経腸的、又は非経口的送達を表すのに使用される。したがって、例えば対象による食物摂取が参照されることも理解されたい。
【0019】
本明細書では、「食品」は、飲料などの液体を含むものを表すのに使用される。
【0020】
本明細書では、「食品組成物」とは、ヒト対象への投与に適した組成物であって、少なくとも15En%(エネルギー百分率)のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質若しくはアミノ酸)、及び/又は少なくとも32En%の炭水化物、及び/又は少なくとも18En%の脂質を含み、1日用量当たり少なくとも100kcalを提供する組成物を表す。一実施形態では、この組成物は、少なくとも15En%のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質若しくはアミノ酸)及び少なくとも25En%の脂質、及び少なくとも40En%の炭水化物を含む。ヒトの完全栄養物にさらに寄与するために、1種又は複数のビタミン、無機質、微量元素、及び食物繊維、クレアチン及び/又はカルニチンなど他の食物成分を含めることもできる。完全食品組成物はこうした成分をすべて含むべきである。
【0021】
「含む(comprising)」という用語は、記載した部分、工程、又は成分の存在を指定するものと解釈すべきであるが、1種又は複数の追加の部分、工程、又は成分の存在を除外するものではない。
【0022】
食欲の不振は、望ましくない体重減少をもたらし、また疾患、疾病、又は障害により、或いは疾患治療又は療法の副作用として、或いは外科手術の後に生じることが多い異化プロセスを増強する深刻な症状である。食欲不振は、癌患者、HIV感染患者、若しくはAIDS患者、重度の呼吸器疾患、即ち異化作用を生じる疾患を患う対象、重度の下痢(例えば、炎症性腸疾患又はクローン病に伴う下痢)又は外科手術後の外傷を患う対象、化学療法若しくは放射線療法による治療を受けている、若しくは受けたことがある対象などによって説明されてきた。
【0023】
疾患若しくは障害自体、又はその治療影響を克服するのに寄与し、また体力を回復させるには十分な栄養が必要である。食欲不振がより長い期間持続した場合、深刻な体重減少及び食思不振をもたらす恐れがあり、患者の回復を遅延又は妨害し、また患者が死亡に至る恐れさえある。体格指数が20未満に低下すると死亡率が急激に増加するので、癌治療において、例えば癌での生存を決める上で栄養の重要性が十分に認識されている。さらに、食欲の欠如及び続く体重減少は、患者と身内のどちらにも心理的困難を引き起こすことが多い。
【0024】
現在、食欲を増進する様々な方法が、関連する状態又は治療に応じて使用されている。特別食、及び栄養士の治療(例えば、食事のサイズを縮小し、食事の回数を増加させ、風味を変更するなどにより、患者に食事をする気を起こさせることを試みる)に加えて、食欲増進組成物(即ち食欲増進物質)を投与することが多い。例えば、食欲誘発剤(例えば、プロゲステロン、コルチコステロイド、及びカンナビノイド)は、食欲を増進するのに寄与し、食思不振/体重減少を治療するのに使用することが多い。
【0025】
化学療法患者は、化学療法によって誘発される悪心及び嘔吐を低減させ、また食欲を増進するという2つの役割を有するドロナビノールを(合成カンナビノイド)を投与されることが比較的多い。ドロナビノールは、カプセル剤の形で経口投与され、2.5mg、5mg、又は10mgのいずれかの測定された用量のカプセル剤として製造され、したがって柔軟で、個別化された投薬が可能になる。ドロナビノールは、体重減少及び食思不振を治療するために、他の状況でも使用される。ドロナビノールは、体重減少を伴う食思不振の免疫不全症候群患者において、ちょうど4週間の治療後に、食欲を有意に増進し、体重及び気分の改善、並びに悪心の軽減への傾向を導くことが報告されている。
【特許文献1】EP0914111
【特許文献2】DE4304394
【特許文献3】DE29916231
【特許文献4】JP5294833
【特許文献5】US6322821
【非特許文献1】Fry et al. 1976, J. Nutr. Sci. Vitamology 22, 339-346
【非特許文献2】Hodges et al. 1959, J. Clin. Invest. 38, 1421-1425
【非特許文献3】Hodges et al. 1958, J. Clin. Invest. 37, 1642-1657
【非特許文献4】Report "Expert Group on Vitamins and Minerals 2003" published by the Food Standards Agency, Aviation House, 125 Kingsway, London WC2B 6NH, UK
【非特許文献5】Vaughan and Vaughan (J. Nutrition, (1960) 70: 77-80)
【非特許文献6】Eissenstat et al. 1986, Am. J. Clin. Nutr. 44(6), 931-937
【非特許文献7】Department of Health, 1991, In: Dietary reference values for food, energy and nutrients for the United Kingdom. HMSO, London, p113-115
【非特許文献8】Flodin 1988, Pharmacology of micronutrients; New York, Alan R. Liss, Inc.
【非特許文献9】leaflet CRN 1999, The safe use of supplements benefit good health
【非特許文献10】Said et al. 1998, Am. J. Physiol. 275: C1365-1371
【非特許文献11】Leung (1995, Medical Hypotheses 44, 403-405)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
いくつかの食欲増進物質が存在するが、新たな食欲増進物質、好ましくは望ましくない副作用を有していない増進物質が一般に必要とされている。既存の食欲増進物質は、大規模で費用のかかる、政府の認可手続きを必要とする医薬品を含むので、大量に摂取した場合でも無害であることが認められている天然の物質に基づいた食品又は補助食品組成物を提供することが有益であるはずである。また、食欲増進物質はそれ自体、食品組成物ではないが、通常食物摂取を補助するだけであるので、現在使用されている食欲増進物質は、食物を摂取するか、又は何らかの方法で栄養を取り入れるという患者の必要性に取って代ることはない。
【課題を解決するための手段】
【0027】
一実施形態では、本発明は、パントテン酸、或いはその1種又は複数の均等物を含む食品組成物(上記で定義した)を提供する。好ましくは、この食品組成物は、1日投与量当たり少なくとも14mgのパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物を含む。この食品組成物は、1日投与量当たり少なくとも4wt%のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質若しくはアミノ酸)及び/又は少なくとも1.5wt%の脂質をさらに含むことが好ましい。重量パーセントは、組成物100g当たりの成分の重量である。
【0028】
本発明の別の実施形態では、この食品組成物は、タンパク質(又は加水分解されたタンパク質若しくはアミノ酸)及び/又は脂質及び/又は炭水化物を、通常の身体の健康に必要とされる1日当たりのカロリー摂取量を提供するのに十分な量で提供する組成物を表す完全食品組成物である。これは、対象がこの完全食品組成物(食事代替物)を摂取し、又は投与される際に、他のいかなる食品を摂取し、又は投与される必要がない(対象はそうしてもよいが)ことを意味する。この完全食品組成物は、1日投与量当たり少なくとも14mgのパントテン酸又はその均等物を含むことが好ましい。治療した対象が体重を減らさず、好ましくは体重を増やすことが望ましいので、この完全食品組成物は、カロリーが高いことが好ましい。好ましくは、この完全食品組成物は、1日用量当たり少なくとも600kcal、より好ましくは少なくとも900kcal、又は少なくとも1200kcal以上を含む。
【0029】
本発明の食品組成物及び完全食品組成物は、十分な期間にわたって、好ましくは2、3日、例えば少なくとも2日から少なくとも2、3週間、例えば少なくとも2週間その組成物を、食欲不振を患う(又は食欲不振を発現するリスクが高い)対象が摂取し、又は対象に投与するとヒトにおいて食欲を増進する(又は食欲不振を予防する)のに十分な量(本明細書では「有効量」と呼ぶ)のパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物を含む。当分野の技術者であれば、本明細書に記載の組成物が所望の食欲増進作用を有するかどうかは、既知の方法を使用して容易に判定することができる。例えば、食欲不振患者を2群に無作為に分ける。一方の群にパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物を含む組成物を数週間にわたって投与し、他方の群にパントテン酸(又はその均等物)を欠く均等な組成物を投与する。数週間にわたって食欲を記録し、2群を比較する。体重も記録することが好ましい。次いで、標準的な統計的方法を使用して、この組成物が有意な食欲増進作用を有するかどうかを判定することができる。
【0030】
食品組成物及び完全食品組成物をどちらも数週間又は数カ月間にわたって有効量で投与すると、対象の安定した体重、より好ましくは体重増加がもたらされることも本発明の目的である。これは、対象の体重を一定の間隔をおいて少なくとも週1回、好ましくは毎日測定することによって容易に判定することができる。体重の増加が、単にこの組成物の投与によるものであることは要求されていない。明らかに、食欲が増進されると、より多くの食品を自発的に摂取することが対象の影響とすることができる。しかし、一完全食品組成物の投与がそれ自体、体重を安定化及び/又は増加させるのに十分な栄養、及び1日当たりのカロリー摂取量を提供することが好ましい。
【0031】
この食品組成物又は完全食品組成物は、1日用量当たり少なくとも14mgのパントテン酸又はその均等物を含むことが好ましい。より好ましくは、この組成物は、1日用量当たり少なくとも15mg、さらにより好ましくは少なくとも18mg、又はさらにより好ましくは25〜1000mg(例えば、25mg、26mg、27mg、28mg〜1000mg)を含む。パントテン酸均等物、特にパントテノール、(R)−パントイン酸又はその塩若しくはエステル、或いはパンテテイン又はその塩若しくはエステルを使用する場合、この組成物は、1日用量当たり少なくとも等モル量のパントテン酸14mgを含むことが好ましい。
【0032】
この食品若しくは完全食品組成物のタンパク質成分は、完全タンパク質、加水分解されたタンパク質、部分的に加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸、或いはこれらのうちのいずれかの混合物からなるものでもよい。この組成物のタンパク質成分は、1日用量当たり少なくとも4wt%、5wt%、又は10wt%以上であることが好ましい。一実施形態では、全タンパク質の少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%又は50%以上は、ホエータンパク質、好ましくは酸性のホエーである。記載の通り、このタンパク質成分は加水分解され得るが、そのままの、又は部分的にのみ加水分解されたもの(低分子ペプチド)が好ましい。
【0033】
さらなる一実施形態では、この組成物のタンパク質成分は、例えば、(部分的に)加水分解された植物タンパク質などの植物タンパク質、例えば、塊茎及び種子などのタンパク質貯蔵組織から抽出されたタンパク質、例えば、ジャガイモの塊茎由来のタンパク質、穀物タンパク質、例えば、コムギ、ソバ、オオムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、イネ由来のもの、マメ類由来のもの(例えば、ダイズ、インゲンマメ、シロインゲンマメなど)、エンドウマメ類由来のタンパク質、ヒマワリ種子、カシューナット、ピーナッツ、アブラナ種子、ルピナス種子などの種子由来のタンパク質からなる。原理上、どんな植物タンパク質組成物を使用してもよく、これはヒトにとって安全であり、食品用として得ることができる。また、使用するこのタンパク質組成物は、ヒトにとってアレルゲン性でないことが好ましい。アレルゲン成分が潜在的に存在する場合、こうした成分を使用前に除去してもよい。
【0034】
使用するタンパク質成分は、十分な量のメチオニン及びリシンを含むことが好ましい。メチオニンの割合は、全アミノ酸の1.8〜6wt%(例えば、2.0〜5.0wt%又は2.3〜4.0wt%)であることが好ましい。リシンは、1種(複数)のタンパク質中に全アミノ酸の5.8〜12.0wt%(例えば、6.0〜11.0wt%又は6.5〜10.0wt%)の量で存在することが好ましい。トリプトファンは、タンパク質成分中に全アミノ酸の1.5〜4wt%の量(またより好ましくは1.6〜3.0wt%の濃度範囲)で存在することが好ましい。ロイシンを、好ましくは全アミノ酸の8.0wt%、より好ましくは8.5〜35wt%の量で、例えば9〜15wt%の範囲で含める。
【0035】
さらに、使用するこのタンパク質成分のアミノ酸組成物は、セリン/グリシン比が高いことが好ましい。最終組成物中のセリン/グリシン比は、3.4以上であることが好ましい。
【0036】
塊茎若しくは種子などの植物組織からのタンパク質抽出又はその加水分解は、当技術分野の既知の方法を使用して行うことができる。タンパク質を自然の供給源から抽出する代わりに、合成アミノ酸を使用することもできる。所望のアミノ酸組成物を有する短鎖ペプチドは、例えばApplied Biosystems社(米国カリフォルニアFosters)によって供給される、例えばオリゴヌクレオチド合成装置を使用して新たに化学合成することができる。組換えDNA法により、即ち当技術分野で既知の方法を使用した、細菌宿主、植物若しくは植物細胞培養物、動物細胞など中での発現により、所望のアミノ酸組成物を有するタンパク質又はペプチドを産生することも同様に可能である。
【0037】
この食品組成物又は完全食品組成物は、十分な量の9種のいわゆる「必須」アミノ酸(ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、及び/又はシステイン、フェニルアラニン、及び/又はチロシン、トレオニン、バリン、及びトリプトファン)を含むことが好ましい。小児に投与する組成物については、アルギニンも十分な量で、即ちタンパク質ベースで3.8wt.%超で、好ましくは4.2wt.%〜7.2wt.%で存在することが好ましい。
【0038】
上記のタンパク質及び/又はアミノ酸の任意の混合物を使用して、食品若しくは完全食品組成物中に使用するための所望のタンパク質成分を作製できることは明らかである。例えば、植物タンパク質抽出物及び合成アミノ酸を所望の量で混合して、アミノ酸が所望の成分及び割合を有し、且つタンパク質/ペプチドが所望の長さ(分子量分布)である産物を作製することができる。
【0039】
一実施形態では、この食品若しくは完全食品組成物は、以下の成分のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0040】
システイン又はシステイン均等物、好ましくは1日用量当たり少なくとも0.2g、より好ましくは1日用量当たり約0.2〜5g。システイン均等物は、例えば、1種又は複数の0.2〜5gのL−システイン、システアミン、L−シスチン、又はL−シスチン二量体;0.25〜0.6gのN−アセチルシステイン;0.2〜5gのL−メチオニン(又はそれらの任意の組合せ)から選択することができる。
【0041】
1種又は複数のヌクレオチド又はヌクレオチド均等物、好ましくは1日用量当たり少なくとも0.2g、より好ましくは1日用量当たり約0.2〜5g。ヌクレオチド均等物は、例えば、1種又は複数の1〜10gの酵母、シチジン、ウリジン、及び/又はヌクレオシド、及びリボースから選択することができる。
【0042】
β−アラニン、好ましくは1日用量当たり少なくとも約0.1g、より好ましくは1日用量当たり約0.1〜5g。β−アラニンは、(R)−パントイン酸を含む組成物中で使用することが好ましい。
【0043】
葉酸又は葉酸均等物、好ましくは1日用量当たり少なくとも約300mg、より好ましくは1日用量当たり約300〜3000mg。葉酸均等物は、例えば、1種又は複数のモノ若しくはポリグルタミン酸塩(還元型及び/又は酸化型)、5−メチル、10−メチル、5,10−メチレン、5ホルミル、又は10−ホルミル葉酸塩などの一炭素変形体から選択することができる。
【0044】
ビタミンB6又はその均等物、好ましくは1日用量当たり少なくとも約0.5mg、より好ましくは1日用量当たり少なくとも約0.5〜50mg。ビタミンB6均等物は、例えば、1種又は複数のピリドキシン、ピリドキサール、又はピリドキサミンから選択することができる。
【0045】
最大の体重増加を得るために、ビタミン、特にビタミン葉酸、ビオチン、ビタミンB2、及びビタミンB6を含めることが好ましい。
【0046】
味覚の異常を回避するために、リポ酸の量は、50mg/L未満、より好ましくは33mg/L未満であることが好ましい。
【0047】
さらなる一実施形態では、この食品若しくは完全食品組成物中に脂質又は脂質分画を組成物100g当たり1.5gの量で含める。この脂質の量は、組成物100g当たり2.0〜10gの範囲にあることがより好ましく、その量は、組成物100g当たり2.7〜8gであることが最も好ましい。この脂質分画は、トリグリセリド、ジグリセリド、ステロール、スフィンゴ脂質、セラミド、リン脂質、脂肪酸、及び脂肪酸エステルとすることができる。この脂質分画は、比較的大量の飽和脂肪酸、特に最善の結果を得るためにはミリスチン酸を有することが好ましい。飽和脂肪酸の量は、脂肪酸100g当たり12gを超えることが好ましく、また脂肪酸100g当たり14〜50gを超えることがより好ましい。ミリスチン酸の量は、脂肪酸100g当たり4.0gを超えることが好ましい。脂肪酸の総量の百分率としたミリスチン酸の量は、6〜40wt%の範囲にあることが好ましく、また10〜20wt%など、約8〜30wt%の濃度であることが最も好ましい。さらに、パルミチン酸は、9wt%を超える量、好ましくは100g脂肪酸当たり12〜25gなど、10〜35wt%で存在することができる。
【0048】
ミリスチン酸は、そのトリグリセリド、リン脂質、遊離脂肪酸、及び/又はエステルとして存在することが好ましい。適当な供給源は、融点が55℃未満、好ましくは50℃未満である。これは、脂質を分画し、この基準を満たす成分、例えばトリグリセリドを選択することによって達成される。こうしたトリグリセリドは通常、脂質供給源中の脂肪酸の量に基づくと、12wt%未満、好ましくは8wt%未満のステアリン酸を有する。こうした脂質は、比較的大量の中鎖脂肪酸、α−リノレン酸、及びオレイン酸を含む。後者は通常、15wt%を超え、α−リノレン酸の量は12wt%を超える。リノール酸の量は通常、脂肪酸100g当たり45g未満、好ましくは38g未満、またさらにより好ましくは30g未満である。
ミリスチン酸の適当な供給源は、遊離脂肪酸、及びプロピオニル若しくはブチリルエステル、又はセチルエステルなどのエステルである。
【0049】
脂質混合物中に飽和脂肪酸が比較的大量にあるので、(n−3)、(n−6)及び(n−9)系のものなど不飽和脂肪酸の量が比較的少ないはずである。特に、(n−3)多価不飽和脂肪酸の量は、脂肪酸100g当たりで計算すると30%未満、より好ましくは25%未満、又はさらに好ましくは20%未満である。特に、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸の量は、味覚の低下を予防するために、比較的少なく、例えば脂肪酸100g当たり1〜16gである。こうした脂肪酸が極めて容易に酸化されることは周知である。したがって、(n−3)長鎖脂肪酸を(n−6)長鎖脂肪酸よりも少ない量で含めることが好ましい。(n−3)長鎖脂肪酸を産物中に含める場合、それをα−リノレン酸として20%を超える量で含めることが好ましい。
【0050】
リン脂質、例えば、ダイズ、卵、又は哺乳動物のミルクに由来するものを、脂質分画の2〜50wt%、好ましくは4〜40%、最も好ましくは5〜35wt%の量で含めることができる。特に、ホスファチジルコリンが豊富なリン脂質、例えば、30%を超える、より好ましくは脂質分画の35wt%を超えるホスファチジルコリンを含むものを使用することができる。
【0051】
他の適当なコリン供給源は、コリン、ベタイン、ジメチルグリシン、又はサルコシンである。特に、ジメチルグリシン又はベタイン供給源、特に、ベタインベース、その塩、例えば、クエン酸塩、ピルビン酸塩、又はリンゴ酸塩などの有機酸を含むものを1日用量当たり少なくとも0.5gの量で添加することができる。
【0052】
コレステロールを、1wt%を超える量で脂質分画中に含めることができる。その量は、好ましくは脂質100g当たり約2〜10g、最も好ましくは2.5〜6wt%の量である。コレステロールを多くの形で、例えば、純粋な合成化合物として、或いは1種又は複数種のコレステリルエステルとして含めることができる。
【0053】
臨床栄養物を製造する技術分野で行われることだが、無機質を含めることができる。しかし、ナトリウムの量は、通常使用する場合よりも多くするべきである。ナトリウムレベルは、液体組成物100ml当たり110〜400mg、より好ましくは組成物100ml当たり140〜360mgに達することが好ましい。
【0054】
また、可消化炭水化物の供給源を32〜60en%の量で含めることが好ましい。適当な供給源は当分野の技術者に知られている。
【0055】
この組成物を投与する方法は、組成物の剤形に依存する。この組成物は、飲料、エリキシル剤、シロップ剤、エアゾール剤、又は懸濁剤など任意の液体剤形であることが好ましい。或いは、この組成物は、固体剤形(カプセル剤、散剤、又は錠剤など)、又は半固体剤形(ゲル剤、乳剤など)であってもよい。
【0056】
投与は、経腸的(例えば、経口的、飲水/嚥下による、経管摂取など)、又は非経口的(例えば静脈内注射)であってよい。1日用量当たりの量は、より少ない有効量に再分割することができ、次いで日中様々な時点で投与されることを理解されたい。したがって、「1日当たりの投与量」又は「1日用量」に言及する場合、これは、投与量を一度で投与しなければならないことを意味するものではない。本発明の組成物は、他のビタミン(A、B1、B2、B3、B12、C、D、E、Kなど)、葉酸、プロバイオティクス、プレバイオティクスなど追加の有効成分を含むことができる。この組成物は、他の不活性成分及び担体、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルカム、炭酸マグネシウムなどを含むこともできる。この組成物は、水、電解質、非必須アミノ酸、微量元素、無機質、繊維、甘味剤、矯味剤、着色剤、安定剤、防腐剤、結合剤、芳香剤などを含むこともできる。
【0057】
この組成物が飲料である場合、毎日摂取又は投与する量(1日の有効量を含む)は、1日当たり100〜3000mlの範囲にあることが好ましい。特に投与の第1週目は1日当たり100ml、150ml、又は200mlなど少量であることが望ましい。
【0058】
一実施形態では、この食品若しくは完全食品組成物は、食品ベースに基づいて(即ち、それから開始して、又はそれを含むようにして)作製することもできる。一実施形態では、この食品若しくは完全食品組成物は、それだけには限らないが、ミルク、ヨーグルト、ヨーグルトベースの飲料、又はバターミルクを含めた発酵乳製品などの乳製品ベースであるか、又はそれを含む。このような組成物は、それ自体既知の方法で、例えば、有効量のパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物を適当な食品又は食品ベースに添加することによって調製することができる。適当な他の食品ベースは、植物ベース、肉ベースなどでもよい。例えば、最終組成物が1日用量当たり少なくとも14mgのパントテン酸又はその均等物を含むことが好ましいなど、食品及び完全食品組成物について記載したすべての実施形態は、食品ベースに基づいて作製された一組成物にも適用する。食品ベースがそれ自体この組成物の1種又は複数の成分(例えば、パントテン酸、システインなど)を既に含有する場合、この成分を所望の用量の最終組成物に達するまでそれほど添加する必要がないことは明らかである。
【0059】
本発明の食品若しくは完全食品組成物は、治療に、且つ/又は予防のために使用することができる。これは、この組成物は、対象において食欲不振であると既に診断された後、或いは食欲不振の症状が現れる前のいずれかに投与するということである。
【0060】
一般に、2、3日を超える間、食欲の不振を起こしている、又は発現する可能性がある対象は、本発明の組成物の投与が有用であるはずである。食欲の不振は、以下の多数の原因を有する可能性がある。感染症(肺炎、肝炎、HIV、インフルエンザ、腎盂腎炎など);慢性腎不全、うっ血性心不全、肝硬変などの重篤な肝疾患、腎疾患、又は心疾患;それだけには限らないが、結腸癌、胃癌、乳癌、白血病など任意の種類の癌;腸閉塞;炎症性腸疾患、例えば、膵炎、過敏性腸症候群、虫垂炎;内分泌の問題、例えば、糖尿病又は甲状腺機能低下症;関節リウマチ、強皮症などの自己免疫疾患又は自己免疫障害;うつ病又は統合失調症などの精神的疾患;食思不振又は過食症などの摂食障害;薬剤又は薬物、特に化学療法剤、アルコール、麻薬又は抗生物質、糖尿病治療剤(例えばメトホルミン);妊娠;痴呆(例えばアルツハイマー病);肺気腫などの肺疾患;外科後の外傷など。
【0061】
ヒトでは、食欲の不振は、通常の1日量を摂取することの拒否、食品及び/又は飲料に対する嫌悪により対象において容易に認められる。本発明の組成物は、食欲不振の診断の後に、又は予防のために、即ち食欲の不振を発現するリスクが高い対象に投与することができる。例えば、この組成物を、ある種の疾患又は疾病であると最近診断された対象に、又はある種の治療を開始する前に(例えば化学療法の前に)など投与することができる。完全食品組成物の使用は実質的に、通常の栄養摂取に取って代ることが好ましいが、食品組成物の使用は、他の栄養物に加えて投与することが好ましい。
【0062】
本発明の組成物を数週間例えば、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも2〜3週間、より好ましくは少なくとも2〜4又は2〜6週間以上にわたって投与する場合、対象の体重は、投与期間中、好ましくはほぼ一定の(安定した)ままであり、より好ましくは増加する。
【0063】
本発明の組成物の投与によるさらなる有益な影響としては、対象の生存の機会の増加が認められ、対象における薬剤の毒性の低下が認められ、インスリンへの感受性の増大及び癌患者における転移の発生の低減又は削除が認められることがある。
【0064】
本発明の組成物、即ち食欲不振の治療又は予防に適した組成物を製造する方法を提供することは、本発明のさらなる実施形態である。この方法は、様々な成分を適当な量で組み合わせるステップを含む。パントテン酸又はその均等物の適当な量は、少なくとも14mgの1日投与量であり、この用量をヒトに投与することが適当である。特に、パントテン酸又はその少なくとも1種の均等物の適当な量を他の1種又は複数の成分と組み合わせる(例えば、他の栄養物、上記のアミノ酸など)。十分な栄養物を提供するためには、少なくともタンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)の存在が有益である。タンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)は、少なくとも15En%で存在させるべきである。したがって、食欲増進法に使用する組成物を製造するための、パントテン酸又はその均等物のうちの少なくとも1種の使用は、本発明の一実施形態である。少なくとも15En%のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)を含み、食欲増進法に使用する、1日投与量中に少なくとも14mgのパントテン酸又はその均等物を含む組成物を製造するための、タンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)、及びパントテン酸又はその均等物の使用は、本発明の別の実施形態である。さらなる一実施形態では、体重を安定及び/又は増加させる方法で使用する組成物を製造するための、パントテン酸又はその均等物のうちの少なくとも1種の使用が提供される。さらなる一実施形態では、妊娠の(初期)段階で生じることが多い食欲不振を治療及び/又は予防する方法で使用する組成物を製造するための、パントテン酸又はその均等物のうちの少なくとも1種の使用が提供される。さらなる一実施形態では、妊娠中の悪心を治療する方法で使用する組成物を製造するための、パントテン酸又はその均等物のうちの少なくとも1種の使用が提供される。こうした方法は、14〜1000mgの1日用量のパントテン酸又はその均等物を含む組成物を投与するステップを含むことが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
本明細書で記載する組成物中で組み合わせるべき成分はすべて、当分野の技術者であれば容易に利用可能である。したがって、これらの成分は、当分野の技術者によって入手又は製造することができる。既知の方法を使用して、必要とされる成分の構成物を精製し、抽出し、混合し、安定化させ、且つ組み合わせることも、当分野の技術者の権限の範囲内である。
【0066】
パントテン酸は、市販されているが、参照により本明細書に組み込む、国際公開第03/29476号、国際公開第03/13452号、及び国際公開第03/04673号に記載の通り合成によって製造することもできる。パントテン酸の化学合成は、D−パントラクトンのβ−アラニンとの縮合を伴う。この化合物は、水に自由に溶け、中性溶液中で安定しているが、酸、塩基、及び熱には不安定である。
【0067】
或いは、パントテン酸を、例えば、パントイン酸とβアラニンサブユニットとのアミド結合を介してパントテン酸を合成する微生物(例えば細菌)など自然の供給源から精製することができる。
【0068】
パントテン酸の均等物を、入手又は当技術分野で既知の通り製造することもできる。例えば、市販のパントテン酸カルシウムを、イソブチルアルデヒド及びホルムアルデヒドから1,1−ジメチル−2−ヒドロキシプロピオンアルデヒド及びパントラクトンを介して合成によって調製する。
【0069】
以下の非限定的な実施例は、本発明の組成物を説明したものである。別段の記述がない限り、本発明の実施には、食品技術、分子生物学、ウイルス学、微生物学、化学の標準的な常法を使用する。
[実施例]
【実施例1】
【0070】
組成物1
100ml当たり100kcal、40en%のタンパク質、41.1en%の炭水化物、及び18.9en%の脂質を含む経口補助飲料
− タンパク質10.0g:そのうち、エンドウマメタンパク質加水分解物4g、ジャガイモタンパク質加水分解物4g、ダイズタンパク質分離物1.2g、メチオニン0.2g、L−リシン0.2g及びL−ロイシン0.2g、トリプトファン0.1g、L−セリン0.05g及びN−アセチルシステイン0.05gである。
− 脂質2.1g:乳脂肪、ミリスチン酸、アマニ油及びオリーブ油ベースであり、15wt%のミリスチン酸及び15wt%のパルミチン酸を含む。
− マルトデキストリンベースの炭水化物10.3g
− パントテン酸6mg
− 葉酸150μg
− ビタミンB6 0.6mg
− ビオチン20ug
− ナトリウム150mg
他の微量栄養物は、当技術分野で既知の臨床栄養物の一般的な推奨に従う。
【0071】
患者は、この補助飲料を少なくとも250ml摂取すべきであると規定する。
【実施例2】
【0072】
組成物2
100ml当たり166kcalのエネルギーを含む脂質組成物:タンパク質は18en%、可消化炭水化物は38.5en%、また脂質は43.4en%寄与している。
− タンパク質は、L−メチオニン0.2gで強化された酸性ホエー7.3gである。
− 脂質は、17wt%のミリスチン酸を含む、ヤシ油、オリーブ油、ミリストレイン酸セチル、及びダイズ油の配合物8.0gである。
− 炭水化物は、マルトデキストリン及びグルコースシロップの配合物16gである。
ビタミンA 164μg RE、ビタミンD 1.4μg、2.5mgαTE、ビタミンK 11μg、チアミン0.3mg、リボフラビン0.32mg、ナイアシン3.6mgNE、パントテン酸5mg、ビタミンB6 0.6mg、葉酸100mg、ビタミンB12 0.6ug、ビオチン8ug、及びビタミンC 20mgを供給するビタミン予備混合物を添加する。
ナトリウム200mg、カリウム200mg、塩化物120mg、カルシウム80mg、リン75mg、マグネシウム45mg、鉄3.2mg、亜鉛2.4mg、銅360ug、マンガン0.66mg、フッ化物0.2mg、モリブデン20ug、セレン11.4ug、クロム13.4ug、及び26.6ugヨウ化物を供給する無機質と微量元素との予備混合物を使用する。
さらにベタイン200mgを含める。
【0073】
この飲料を1日につき600〜800mlの量で摂取すべきであると規定する。
【実施例3】
【0074】
組成物3
100ml当たり21.5gの量で水で戻す散剤。
【0075】
エネルギーは100kcalであり、タンパク質は16en%、可消化炭水化物は49en%、脂肪は35en%寄与している。
− タンパク質は、L−セリン0.1g、リシン0.1g、L−メチオニン0.05g、及びL−トリプトファン0.05gで強化されたイネタンパク質加水分解物及びエンドウマメタンパク質加水分解物の混合物4.0gである
− 脂質は、30%卵リン脂質と、油及びミリスチン酸の配合物との混合物3.9gである;後者の量は脂肪酸100g当たり18gである。
− 炭水化物は、マルトデキストリン及び1gのリボースの混合物12.2gである。
無機質とビタミンとの予備混合物は、そのレベルが当技術分野で知られている他の微量成分は別として、S−アセチルパンテテイン2mg、葉酸35μg、ピリドキサル0.35mg、ナトリウム150mgを供給する。
ジメチルグリシンは0.2gである。
フラクトオリゴ糖(イヌリン及び加水分解されたイヌリンの配合物)を1.0gの量で含める。
【0076】
水で戻した飲料を1日当たり1500〜2000mlの量で摂取すべきであると規定する。
【実施例4】
【0077】
また、動物実験を設計して、パントテン酸の食欲増進作用を判定することができる。例えば、3カ月齢で、入手時の体重が±240グラムの雄ウィスターラット(HsdCpb: WU、Harlan、オランダ)を使用する。この動物において、例えば、癌、ストレス、外科手術、他の任意の関連処置の誘導により食欲不振を誘発させる。このラットを23.00h(ZT0)〜11.00h(ZT12)の照明下、20±1℃で、別段の記述がない限り随意水及び飼料(RMH-B standard lab chow、Hope Farms Woerden、オランダ)を用いて飼育する。
【0078】
Strubbe et al. Physiol Behav. 1986; 36: 489-493による記載の方法に従って、このラットの胃にイソフルラン/酸素/酸化窒素麻酔の下、留置シリコーンカニューレ(I.D.0.6mm、O.D.1.2mm)を入れる。これは、自由に動くラットで成分の頻回でストレスのない胃内投与を可能とするために行われる。動物が術前の体重を取り戻すまで、7日の回復期間を与える。
【0079】
外科手術後、ラットを飼料及び飲料の摂取のオンラインモニター(UgoBasile、イタリア)に適したケージ内に個別に収容する。食物及び水摂取に対するパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物を含む組成物の影響を個別の(プラセボ対照交差)実験でモニターする。個別の各実験を4日(96時間)続けた。体重を毎日求める。
【0080】
1日目、食物を除去して2時間後、照明を消す(ZT10.00)。ZT11.30で、無作為に分けたラットに胃内カニューレを通じてパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物(総量1mlの水で溶解する)を含む組成物又は同体積の水のみを与える。ZT12.00で飼料を戻し、投与の1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、及び48時間後に飼料及び飲料摂取をモニターする。
【0081】
3日目に、1日目のプロトコールを繰り返す。1日目にパントテン酸又はその少なくとも1種の均等物を含む組成物を与えたラットに今度はビヒクルを与え、逆も同様に行う。また、ZT12.00で食物を戻し、食物及び水摂取を1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、12時間、24時間、及び48時間でモニターする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食欲を増進するための組成物であって、1日投与形態中に14〜1000mgのパントテン酸又はその均等物、及び少なくとも15En%のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)、及び/又は少なくとも32En%の炭水化物、及び/又は少なくとも18En%の脂質を含み、また1日投与量当たり少なくとも100kcalのカロリー値を有する組成物。
【請求項2】
タンパク質が、植物、野菜、穀物、種子、又はホエーからなる群、好ましくは酸性ホエーに由来するタンパク質から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アミノ酸100g当たり1.8〜6gのメチオニン、5.8〜12.0gのリシン、1.5〜4.0gのトリプトファン、及び少なくとも8.0gのロイシンからなる群から選択される少なくとも1種を供するタンパク質を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
セリン/グリシン比が3.4以上である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
1日用量当たり0.2〜5gのシステイン又は1種若しくは複数のシステイン均等物、0.2〜5gのヌクレオチド又は1種若しくは複数のヌクレオチド均等物(1〜10gの酵母、シチジン、ウリジン、ヌクレオシド)、0.1〜5gのβ−アラニン(パントテン酸の均等物が(R)−パントイン酸である場合に限る)、300〜3000mgの葉酸又は1種若しくは複数の葉酸均等物、及び0.5〜50mgのビタミンB6又は1種若しくは複数のビタミンB6均等物、並びに0.5gのコリン、ベタイン、ジメチルグリシン、及びサルコシンから選択される少なくとも1種からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
1日投与量当たり少なくとも600kcal、好ましくは少なくとも900kcal、より好ましくは少なくとも1200kcalのカロリー値を有する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
組成物100g当たり少なくとも1.5gの量で、好ましくは2.0〜10gの範囲で、より好ましくは組成物100g当たり2.7〜8gの範囲で脂質を含む、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
脂質の量が、脂質100g当たり少なくとも12g、好ましくは脂肪酸100g当たり14〜50gの飽和脂肪酸を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
脂質の量が、脂肪酸100g当たり少なくとも4.0gのミリスチン酸を含む、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも15En%のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)、及び少なくとも25En%の脂質、及び少なくとも40En%の炭水化物を含む、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも15En%のタンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)を含み、食欲増進法に使用する、1日投与量中に少なくとも14mgのパントテン酸又はその均等物を含む組成物を製造するための、タンパク質(又は加水分解されたタンパク質、又はアミノ酸)、及びパントテン酸又はその均等物の使用。
【請求項12】
食欲増進法が体重を安定化及び/又は増加させる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
食欲増進法が、1日用量14〜1000mgのパントテン酸又はその均等物を含む組成物を投与するステップを含む、請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
パントテン酸又はその均等物が、パントテノール、(R)−パントイン酸又はその塩若しくはエステル、パントテン酸又はその塩、エステル若しくはエーテル、パンテテイン又はそのエステル若しくはエーテル、及び補酵素A、好ましくはパントテノール、(R)−パントイン酸又はその塩若しくはエステル、及びパンテテイン又はそのエステル若しくは塩からなる群から選択される、請求項11から13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
感染症、重篤な肝疾患、腎疾患、又は心疾患、任意の種類の癌、腸閉塞、炎症性腸疾患、膵炎、過敏性腸症候群、虫垂炎、内分泌の問題、糖尿病、甲状腺機能低下症、自己免疫疾患又は自己免疫障害、精神的疾患、摂食障害、薬剤又は薬物の悪影響、化学療法剤、アルコール、麻薬、抗生物質、糖尿病治療剤、痴呆、肺疾患、肺気腫、手術後の外傷を患う患者を治療する方法における、請求項11から14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
妊娠中の悪心を治療する方法における、請求項11から14のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
請求項11から16のいずれかに記載の使用のための、請求項1から10のいずれかに記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2007−517026(P2007−517026A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546872(P2006−546872)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000910
【国際公開番号】WO2005/060952
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(505296821)エヌ.ブイ.・ヌートリシア (32)
【Fターム(参考)】