説明

パン生地及びその製造方法

【課題】油分・糖分が高いリッチな配合でありながら歯切れが良好なパン類を得ることができるパン生地、及び該特徴を有するパン類を安定して容易に製造することができるパン生地の製造方法を提供すること。
【解決手段】スポンジケーキクラムを含有することを特徴とするパン生地。また、スポンジケーキクラムを、ベースとなるベーカリー用生地に分散させる工程、及び/又は、ベースとなるベーカリー用生地に巻き込む工程を含むことを特徴とするパン生地の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯切れが良好であるパン類を得るためのパン生地、及びその製造方法に関し、詳しくは、油分・糖分が高いリッチな配合でありながら歯切れが良好なパン類を得ることができるパン生地、及び該特徴を有するパン類を安定して容易に製造することができるパン生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食パン、菓子パン、デニッシュ等のパン類では、最近、風味に加え、食感が大きな嗜好要因となってきており、ソフトな食感、もっちりした食感、歯切れのよい食感、軽い食感、シトリ感など、食感を前面に掲げて販売されるパン類が増加している。
ここで、油分や糖分の少ない食パン等のリーンな配合のパン類であれば、水分の調整や、でんぷんの糊化度の調整である程度の食感の制御は可能である。このような例としては湯種法や液種法が実際に普及している。
しかし、菓子パンに代表される油分・糖分の多いパン類、すなわちリッチな配合のパン類においては、イーストの醗酵阻害や生地の比重が高く焼き落ちしやすいなどの理由で、どうしても食感は重くねちゃついた食感になってしまい、歯切れのいい食感は得られない。
【0003】
このようなリッチな配合のパン類に対し、良好な歯切れを付与するために、昔からさまざまな改良成分の添加が行われている。たとえば、生地のグルテンを強化することで、パン類のボリュームをアップさせて食感を改良する方法(例えば特許文献1〜3参照)、ミセルを強化して膨潤力を抑制した特定のでんぷんを使用する方法(例えば特許文献4〜6参照)などが提案されている。
しかし、グルテンを強化するだけでは、でんぷん質自体の性質に由来するねちゃついた食感の根本的な解決とはならず、歯切れの改良は十分なものではなかった。また、特定のでんぷんを使用する方法では、たしかに歯切れのよい食感は付与されるものの、しとり感に欠けるという問題があった。
また上記のような生地配合成分による改良では、生地物性が大きく変化してしまい、上記の特許文献1〜6に記載の方法では、生地の伸展性が大きく損なわれることが多いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−219886号公報
【特許文献2】特開平04−144632号公報
【特許文献3】特開平08−256670号公報
【特許文献4】特開平08−224057号公報
【特許文献5】特開平05−153897号公報
【特許文献6】特開平11−009174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、油分・糖分が高いリッチな配合でありながら歯切れが良好なパン類を得ることができるパン生地、及び該特徴を有するパン類を安定して容易に製造することができるパン生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、生地の配合成分ではなく、洋菓子において恒常的に発生する廃棄物であるスポンジケーキクラムを利用することで上記課題を解決可能であり、好ましくは該スポンジケーキクラムに油脂を含浸させてから使用することで、生地物性に影響なく上記効果を高めることが可能であることを、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、スポンジケーキクラムを含有することを特徴とするパン生地を提供するものである。
また、本発明は、スポンジケーキクラムを、ベースとなるベーカリー用生地に分散させる工程、及び/又は、ベースとなるベーカリー用生地に巻き込む工程を含むことを特徴とするパン生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパン生地を使用することで、油分・糖分が高いリッチな配合でありながら歯切れが良好なパン類を得ることができる。
また、本発明のパン生地の製造方法によれば、上記特徴を有するパン類を生地物性に影響なく、安定して容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明で使用するスポンジケーキクラムについて述べる。
本発明で使用するスポンジケーキクラムは、通常のスポンジケーキ生地同様、主要原料として、澱粉類、油脂類、糖類、卵類、水等の原料を使用して得られたスポンジケーキ生地を、焼成して得られたスポンジケーキを、破砕し、小片状としたものである。
【0010】
上記澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉などの澱粉や、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理などの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられるが、本発明では、澱粉類中、小麦粉類を50質量%以上使用することが好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0011】
また、上記油脂類としては、ショートニング、マーガリン、バター等の可塑性油脂組成物や、サラダ油、流動ショートニング、溶かしバター等の流動状〜液体の形態であっても、粉末油脂の形態であってもよいが、ソフトでしとり感に優れた食感のパンが得られることから、常温で液状である油脂を使用することが好ましい。該油脂類が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。また、上記油脂類に使用される油脂は特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0012】
上記糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、シクロデキストリン、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、還元澱粉糖化物、還元糖、ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、異性化液糖、ショ糖結合水飴、キャラメル、かえで糖、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノース、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ヘミセルロース、モラセス、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
上記卵類としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄などを用いることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
上記水としては、水道水や天然水が挙げられる。なお、水の一部または全部を、例えば、下記のその他の原材料のうち、牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、加工乳、果汁、コーヒー飲料、紅茶飲料等の、水を多く含む食品や添加物で置換しても良い。
【0014】
なお、上記スポンジケーキ生地の好ましい油分含量は、上記油脂類の純油分、及び、卵類や下記のその他の原材料に含まれる油分もあわせた純油分として、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
なお、上記スポンジケーキ生地の好ましい糖類含量は、卵類や下記のその他の原材料に含まれる糖分もあわせ、固形分として、20〜50質量%、より好ましくは20〜35質量%である。
【0015】
なお、上記スポンジケーキ生地の好ましい水分含量は、上記水の純水分、及び、卵類や下記のその他の原材料に含まれる水分もあわせ、純水分として、20〜65質量%、より好ましくは25〜50質量%である。
また、上記スポンジケーキ生地には、本発明の目的の範囲内で所要により上記成分以外の、その他の原材料を使用することが出来る。
【0016】
上記のスポンジケーキ生地に使用できるその他の原材料としては、例えば、牛乳・部分脱脂乳・脱脂乳・発酵乳・乳酸菌飲料・乳飲料・加工乳・クリーム・チーズ・濃縮ホエイ・濃縮乳・脱脂濃縮乳・無糖練乳・無糖脱脂練乳・加糖練乳・加糖脱脂練乳・全粉乳・脱脂粉乳・クリームパウダー・ホエイパウダー・蛋白質濃縮ホエイパウダー・バターミルクパウダー・加糖粉乳・調製粉乳等の乳製品、甘味料、岩塩・精製塩・天塩等の食塩、デキストリン類、カゼインカルシウム・カゼインナトリウム・カゼインカリウム等の乳蛋白、アミラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・カタラーゼ・リポキシゲナーゼ・アスコルビン酸オキシダーゼ・スルフィドリルオキシダーゼ・ヘキソースオキシダーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、グリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・グリセリン有機酸脂肪酸エステル・レシチン・ショ糖脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤、重炭酸アンモニウム・重曹、ベーキングパウダー・イスパタ等の膨張剤、アスコルビン酸・シスチン等の酸化剤や還元剤、トコフェロール・茶抽出物・アスコルビン酸脂肪酸エステル等の酸化防止剤、β−カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料類、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、塩化カリウム等の呈味剤、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、酒類、魚介類、果汁、珈琲、コーヒー飲料、紅茶、紅茶飲料等の食品素材、着香料等が挙げられる。
【0017】
上記スポンジケーキの製法はとくに限定されず、オールインミックス法、後粉法等の一般の方法を採ることができる。
本発明で使用するスポンジケーキクラムは、上記スポンジケーキを、破砕してなるものである。
破砕する方法については特に限定されず、各種ミキサーを使用する方法等一般的な方法を適宜選択することができる。
【0018】
また、本発明で使用する上記スポンジケーキクラムの大きさは、塊状の場合はその平均粒径が好ましくは、0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mmであり、薄板状の場合は、その厚さが好ましくは0.01〜2mm、より好ましくは0.03〜1mmである。該範囲外であると、ベースとなるベーカリー用生地への分散性が悪化するおそれがある。
また、上記スポンジケーキクラムは、油脂を含浸したものであってもよい。このような油脂を含浸させたスポンジケーキクラムを使用することで、ベースとなるベーカリー用生地の油分含量が少ない場合であっても、ブリオッシュ様の油分含量の高いパンを、生地物性にあまり影響を与えることなく製造可能であり、また、直接油脂を生地に配合して製造したブリオッシュに比べ、食感、とくに歯切れの優れたパンとすることが可能である。
【0019】
また、含浸させる油脂は上記スポンジケーキクラムの製造に使用する油脂と同様のものを使用することができ、常温で液状である油脂を使用することが、得られるパンの食感をソフトにすることが可能な点で好ましい。
又、含浸させるタイミングは、焼成時でもいいし、破砕後でもいいが、均質なサイズのクラムとすることが可能な点で、破砕後に含浸させることが好ましい。
なお、油脂の含浸量は、スポンジケーキクラムが保持可能な量であれば問題ないが、好ましくはスポンジケーキクラム100質量部に対し、純油分として、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは50〜120質量部となる量である。
【0020】
本発明のパン生地は、上記スポンジケーキクラムを少なくとも含有するものであるが、ベースとなるベーカリー用生地100質量部に対しての添加量(以下「対生地添加量」ということがある)は、好ましくは15〜60質量部、更に好ましくは20〜50質量部、最も好ましくは25〜40質量部含有するものである。
なお、ベースとなるベーカリー用生地に含まれる澱粉類100質量部に対しての添加量(以下「対粉添加量」ということがある)は、好ましくは50〜120質量部、更に好ましくは60〜100質量部である。
【0021】
ここで、対生地添加量が5質量部未満または対粉添加量が50質量部未満であると本発明の効果が得られず、対生地添加量が80質量部超または対粉添加量が120質量部超であると、生地物性、とくに生地伸展性が悪化し、また得られるパンも脆い食感になりやすく、さらには、得られるパンが老化しやすくなる。
【0022】
該ベースとなるベーカリー用生地としては、食パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、クロワッサン、フランスパン、セミハードロール、ワッフル、スコーン等の製造に用いられる生地として従来から使用されているものを用いることができるが、本発明では、食感の改良効果が高い点、老化耐性が高いことから、油分含量が澱粉類100質量部に対して好ましくは8質量部以上、より好ましくは15質量部以上であるパン生地を用いることが好ましい。 また、同様の理由で、糖類の含量が固形分として、穀粉類100質量部に対して好ましくは8質量部以上、より好ましくは15質量部以上であるパン生地を用いることが好ましい。なお油脂類の含量の上限や糖類の含量の上限は、ともに好ましくは70質量部、より好ましくは50質量部である。
【0023】
なお、このベースとなるベーカリー用生地に使用することのできる原材料は、通常のパン生地の製造に使用することのできる原材料を特に制限なく使用することができ、具体的には澱粉類、油脂類、糖類、卵類、水、イースト、イーストフード、及び、その他の原材料を挙げることができる。なお、澱粉類、油脂類、糖類、卵類、水、及び、その他の原材料については、上述のスポンジケーキ生地の製造に使用することのできる澱粉類、油脂類、糖類、卵類、水、その他の原材料と同様のものを問題なく使用することができる。
【0024】
また、得られたパン生地は、油分含量が澱粉類100質量部(なお、スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として好ましくは8〜70質量部、より好ましくは15〜55質量部、より好ましくは30〜45質量部であることが好ましい。また、同様の理由で、糖類の含量が固形分として8〜70質量部、より好ましくは15〜55質量部、より好ましくは30〜45質量部であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明のパン生地の好ましい製造方法について述べる。
本発明のパン生地は、スポンジケーキクラムを、ベースとなるベーカリー用生地に分散させる工程、及び/又は、ベースとなるベーカリー用生地に巻き込む工程を含むものである。
【0026】
上記スポンジケーキクラムをベースとなるベーカリー用生地に分散させる工程は、例えば、ベースとなるベーカリー用生地製造のミキシング途中でスポンジケーキクラムを添加し、軽く混合することにより行なうことができる。
なお、より簡易な方法として、ベースとなるベーカリー用生地製造のミキシング時に、スポンジケーキを破砕することなく添加することで、スポンジケーキを破砕しながらベースとなるベーカリー用生地に分散させることも可能である。
【0027】
また、上記スポンジケーキクラムを上記ベースとなるベーカリー用生地に巻き込む工程は、例えば、ベースとなるベーカリー用生地を成形するときに、スポンジケーキクラムをベースとなるベーカリー用生地上に散布し、これを巻き込むことにより行なうことができる。
なお、上記製造方法で用いるスポンジケーキクラムは、1種でもよいが、2種以上を同時に、又は、別々に添加してもよい。その具体的な方法としては、スポンジケーキクラムを分散させたパン生地を成形するときに別のスポンジケーキクラムを巻き込む方法や、ベースとなるベーカリー用生地を成形するときに、2種のスポンジケーキクラムをベースとなるパン生地上に数条の帯状に散布し、これを巻き込む方法等が挙げられる。
【0028】
次に本発明のパン類について述べる。
本発明のパン類は、上記のパン生地を使用したものであり、その具体的な製法としては、上記のパン生地を通常のパン生地と同様に、必要に応じ、丸めたり、延展したり、さらに打抜く等の成形、型入れ、ホイロ等を行なった後、焼成、フライ、蒸す等の加熱工程に供することにより、得ることができる。
【0029】
また、本発明のパン生地は、ホイロをとらずに冷凍又は冷蔵しても良いし、ホイロをとった後に冷凍又は冷蔵しても良い。ホイロをとらずに冷凍又は冷蔵したものも、ホイロをとった後に冷凍又は冷蔵したものも、常法に従い、焼成してパン類とすることができる。
また、本発明のパン生地を焼成等の加熱工程に供して得られたパン類は、冷凍保存することが可能であり、冷凍保存した該パン類は、電子レンジで解凍調理することが可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明で用いられるスポンジケーキクラムの製造例、及び製造例で得られたスポンジケーキクラムを用いた本発明のパン生地の実施例等を挙げ、本発明のパン生地を更に詳しく説明する。しかしながら、本発明は、これらの製造例及び実施例等により何等制限されるものではない。
【0031】
<スポンジケーキクラムの製造>
〔製造例1〕スポンジケーキクラムAの製造
全卵(正味)170質量部、上白糖100質量部、異性化液糖10質量部、ケーキ用起泡性水中油型乳化物(「トルテ」:株式会社ADEKA製)15質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーにてワイヤーを用いて高速5分ホイップ(比重0.35)した後、薄力粉100質量部、ベーキングパウダー1質量部を混合して低速1分混合、さらに大豆サラダ油15質量部を添加し、低速1分、中速1分混合し、スポンジケーキ生地を得た。6取り展板に敷き紙を敷き、このスポンジケーキ生地を800g流しこみ、200℃の固定オーブンで10分焼成し、スポンジケーキを得た。このスポンジケーキを室温で10分冷却後、ミキサーで破砕し、篩にかけて粒子を揃え、平均粒径2mmのスポンジケーキクラムA(油分含量9質量%、水分含量22質量%、糖分含量28質量%、澱粉含量26質量%)を得た。
【0032】
〔製造例2〕スポンジケーキクラムBの製造
上記スポンジケーキクラムA100質量部、及び、大豆サラダ油100質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーにてビーターを用いて低速5分混合し、油脂を含浸させたスポンジケーキクラムである、スポンジケーキクラムB(油分含量54.5質量%、水分含量11質量%、糖分含量14質量%、澱粉含量13質量%)を得た。
【0033】
〔製造例3〕バターケーキクラムの製造
バター100質量部、上白糖100質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーにてビーターを用いて低速3分、中速7分クリーミングした後、食塩0.2質量部、全卵(正味)70質量部を投入して、中速2分クリーミングした。ついで、強力粉30質量部、薄力粉70質量部、ココアパウダー5質量部、ベーキングパウダー0.5質量部を混合し、低速1分、中速2分ミキシングし、バッターの一種であるバターケーキ生地を得た。このバターケーキ生地をパウンド型に敷き紙を敷き、このバターケーキ生地を400g流しこみ、200℃の固定オーブンで30分焼成し、バターケーキを得た。このバターケーキを室温で10分冷却後、ミキサーで破砕し、篩にかけて粒子を揃え、平均粒径2mmのバターケーキクラム(油分含量24質量%、水分含量20質量%、糖分含量27質量%、澱粉含量27質量%)を得た。
【0034】
<パンの製造>
〔実施例1〕
まず、ベースとなるベーカリー用生地として下記の配合及び製法でセミハードロール生地を製造し、該セミハードロール生地と上記製造例1で得られたスポンジケーキクラムAを使用して本発明のパン生地を製造し、さらに該パン生地を用いて本発明のパン(セミハードロール)を得た。
【0035】
(配合及び製法)
強力粉70質量部、生イースト2質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で4時間、中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、強力粉20質量部、薄力粉10質量部、食塩1.8質量部、上白糖3質量部及び水22質量部を添加し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで、練込油脂(マーガリン:油分80%)7質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分、高速で1分ミキシングを行ない、セミハードロール生地(油分含量が澱粉類100質量部に対して5.6質量%、糖分含量が3.0質量%)を得た。捏ね上げ温度は28℃であった。
【0036】
次いで、得られたセミハードロール生地100質量部に、上記スポンジケーキクラムA33質量部(対粉添加量は58質量部)を添加し、さらに低速で1分混合し、本発明のパン生地を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として10.8質量部、糖分含量は固形分として19.3質量部であった。
ここで、フロアタイムを30分とった後、70gに分割・丸目を行ない、次いでベンチタイムを20分とった後、モルダーを使用し、セミハード型成形した。38℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、クープを入れ、210℃に設定した固定窯に入れ、蒸気を入れ、15分焼成して、本発明のパン(セミハードロール)を得た。
【0037】
〔実施例2〕
スポンジケーキクラムA33質量部に代えて、製造例2で得られたスポンジケーキクラムB33質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のパン生地を製造し、該パン生地を用いて本発明のパン(セミハードロール)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として37.2質量部、糖分含量は固形分として11.1質量部であった。
【0038】
〔実施例3〕
まず、ベースとなるベーカリー用生地として下記の配合及び製法でブリオッシュ生地を製造し、該ブリオッシュ生地と上記製造例1で得られたスポンジケーキクラムAを使用して本発明のパン生地を製造し、さらに該パン生地を用いて本発明のパン(ブリオッシュ)を得た。
【0039】
(配合及び製法)
強力粉70質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、卵黄15質量部、全卵(正味)10質量部、上白糖5質量部及び水23質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で2時間、中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、薄力粉30質量部、脱脂粉乳5質量部、食塩1.5質量部、上白糖20質量部、生イースト1質量部及び牛乳22質量部を添加し、低速で3分、中速で4分ミキシングした。ここで、練込油脂(マーガリン)38質量部を2回にわけて投入し、フックを使用し、低速で4分、中速で2分、高速で3分ミキシングを行ない、ブリオッシュ生地を得た。捏ね上げ温度は28℃であった。
【0040】
次いで、得られたブリオッシュ生地100質量部に、上記スポンジケーキクラムA33質量部(対粉添加量は80.4質量部)を添加し、さらに低速で1分混合し、本発明のパン生地を得た。
【0041】
ここで、フロアタイムを30分とった後、70gに分割・丸目を行ない、次いでベンチタイムを20分とった後、ロール成形した。38℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、180℃に設定した固定窯に入れ、15分焼成して、本発明のパン(ブリオッシュ)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として37.6質量部、糖分含量は固形分として47.5質量部であった。
【0042】
〔実施例4〕
スポンジケーキクラムAの添加量を33質量部から43質量部に変更した以外は、実施例3と同様にして、本発明のパン生地を製造し、該パン生地を用いて本発明のパン(ブリオッシュ)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として39.8質量部、糖分含量は固形分として54.3質量部であった。
【0043】
〔実施例5〕
スポンジケーキクラムAの添加量を33質量部から23質量部に変更した以外は、実施例3と同様にして、本発明のパン生地を製造し、該パン生地を用いて本発明のパン(ブリオッシュ)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として35.4質量部、糖分含量は固形分として40.7質量部であった。
【0044】
〔比較例1〕
スポンジケーキクラムAを無添加とした以外は、実施例1と同様にして、比較例のパン生地を製造し、該パン生地を用いて比較例のパン(セミハードロール)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部に対して純油分として5.6質量部、糖分含量は固形分として3.0質量部であった。
【0045】
〔比較例2〕
スポンジケーキクラムA33質量部に代えて、製造例3で得られたスポンジケーキクラムC33質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のパン生地を製造し、該パン生地を用いて本発明のパン(セミハードロール)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として19.5質量部、糖分含量は固形分として18.7質量部であった。
【0046】
〔比較例3〕
スポンジケーキクラムAを無添加とした以外は、実施例3と同様にして、比較例のパン生地を製造し、該パン生地を用いて比較例のパン(ブリオッシュ)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部に対して純油分として30.4質量部、糖分含量は固形分として25.0質量部であった。
【0047】
〔比較例4〕
スポンジケーキクラムA33質量部に代えて、製造例3で得られたスポンジケーキクラムC33質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のパン生地を製造し、該パン生地を用いて本発明のパン(ブリオッシュ)を得た。
なお、得られたパン生地の油分含量は、澱粉類100質量部(スポンジケーキクラムに含まれる澱粉類の含量は含まない)に対して純油分として44.3質量部、糖分含量は固形分として40.7質量部であった。
【0048】
<生地物性、及び、パン類の評価>
上記実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたパン生地の生地物性について下記評価基準に従って評価を行い、結果を表1に記載した。
また、上記実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたパン類を、それぞれ、袋に詰めて25℃で3日静置した後、厚さ15mmにスライスし、その内相、及び、食感(歯切れ・ソフト性・しとり感)について下記評価基準に従って評価を行い、結果を表1に記載した。
【0049】
[評価基準]
・生地物性
◎:べとつきもなく伸展性もよく、極めて良好な作業性であった。
○:良好な作業性であった。
○−:べとつきが感じられないが、やや伸展性が劣る。
△:ややべとつきが感じられ、若干劣る作業性であった。
×:べとつきがあり、作業性が劣るものであった。
【0050】
・食感(歯切れ)
◎:歯切れが極めて良好。
○:歯切れが良好。
○−:歯切れは良好であるがやや脆い食感である。
△:ややねちゃつく。
×:ねちゃつきが激しい。
【0051】
・食感(ソフト性)
◎:極めて良好。
○:良好。
△:やや悪い。
×:悪い。
【0052】
・食感(しとり感)
◎:極めて良好。
○:良好。
△:ややぱさついた感じである。
×:全く感じられない。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1、実施例2、及び、実施例3を比較するとわかるように、油脂を含浸させたスポンジケーキクラムを使用すると、リーンな配合のパン生地(セミハードロール生地)を使用しても、リッチな配合のパン(ブリオッシュ)と同等のソフト性としとり感を有するパンを製造することが可能であることがわかる。
実施例3〜5を比較するとわかるように、スポンジケーキクラムの添加量が一定以上であれば良好なブリオッシュが得られるが、パン生地の油分含量及び糖分含量が澱粉類100質量部に対し共に30〜45質量部の範囲内であると特に良好なブリオッシュが得られることがわかる
【0055】
また、比較例1、2と実施例1、あるいは、比較例3、4と実施例3を比較するとわかるように、バターケーキクラムでは本発明の効果が得られないことがわかる。
また、比較例2と実施例2を比較するとわかるように、ケーキクラムの油分含量や水分含量が近似していても、油脂を含浸させたスポンジケーキクラムに代えてバターケーキクラムを使用すると本発明の効果が得られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポンジケーキクラムを含有することを特徴とするパン生地。
【請求項2】
上記スポンジケーキクラムが、油脂を含浸させたスポンジケーキクラムであることを特徴とする請求項1記載のパン生地。
【請求項3】
上記油脂が常温で液状である油脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のパン生地。
【請求項4】
パン生地の油分含量が、澱粉類100質量部に対して8〜70質量部、且つ糖分含量が澱粉類100質量部に対して8〜70質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパン生地。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のパン生地を使用したパン類。
【請求項6】
スポンジケーキクラムを、ベースとなるベーカリー用生地に分散させる工程、及び/又は、ベースとなるベーカリー用生地に巻き込む工程を含むことを特徴とするパン生地の製造方法。
【請求項7】
上記スポンジケーキクラムが、油脂を含浸させたケーキクラムであることを特徴とする請求項6記載のパン生地の製造方法。
【請求項8】
上記油脂が常温で液状である油脂であることを特徴とする請求項6又は7記載のパン生地の製造方法。
【請求項9】
上記ベースとなるベーカリー用生地の油分含量が、澱粉類100質量部に対して8質量部以上、且つ、糖分含量が8質量部以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のパン生地の製造方法。