説明

パン生地発酵状態確認装置

【課題】パンの旨みの生成に最も重要な発酵工程において、発酵室内のパン生地の発酵状態を確認できる。
【解決手段】測定対象であるパン生地を収容する密閉容器と、該容器内の圧力を計測する圧力測定手段と、前記容器内のパン生地の高さを計測する高さ測定手段と、これらにより検知される圧力関連信号及び高さ関連信号が逐次入力される装置本体とを備えるパン生地発酵状態確認装置であって、前記装置本体は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られた経時的圧力変化の基準圧力データと経時的高さ変化の基準高さデータを記憶する基準データ記憶部と、前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号より得られる測定圧力データ及び測定高さデータと前記基準圧力データ及び基準高さデータを対比し、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パンの旨みの生成に最も重要な発酵工程において、パン生地の発酵状態の過不足を判定し、発酵状態及び発酵状態の進行状況を確認するパン生地発酵状態確認装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発酵パン特有のフレーバー成分ないし、フレーバー前駆物質が生成・蓄積されるパンの旨みの生成に最も重要な発酵工程は、温度・湿度を調整した発酵室内で製パン工程中特に長い時間を配分して行われる。この発酵工程において、イーストは小麦粉に存在する糖、及び副原料として配合された糖を利用して発酵し、生地中の糖分はイースト中のチマーゼ群によって炭酸ガスとアルコールに分解され、その炭酸ガスによってパン生地が膨張する。また、発酵によってできた炭酸ガスは多数の小さな気泡となり、グルテン組織へ入り込み全体を押し上げパン生地の体積を大きくしグルテンはそのガスを保持し生地の粘弾性を強化する。
そして、ガス漏洩点の高い生地は良く膨らむまでガスが漏洩しないので、焼成した後のパンがよく膨れた質の良いパンとなることが知られおり、パン生地のガス発生力とガス保持力を測定し発酵状態を確認することにより、品質のよいパンを製造することができる。
【0003】
そこで、従来からファーモグラフを使用し、測定しようとするパン生地を専用の恒温層に入れ、パンの発酵過程中に生成される発酵産物である発生ガス量を気液置換検定シリンダの液面の上昇圧力を個体圧力センサで電気信号に変換しデータ処理し、パン生地のガス保持力の測定を行っていた。(特許文献1参照)
また、パン生地膨張力を測定物の表面までの距離を非接触で測定しパン生地の体積変化からパン用酵母の発酵力、生地の形状保持力等の情報を得ることができるパン生地膨張力の測定・分析をする装置がある。(特許文献2参照)
【0004】
【特許文献1】特許第2019666号公報。
【特許文献2】特開平6−186016公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の特許第2019666号:「生物及び化学試料からの発生ガス量検定・分析装置」のファーモグラフを使用する方法は、上記したように専用の恒温層が必要であり、気液置換検定シリンダ等の機器は持ち運びが不可能でり、各工場の製造現場において、発酵させる中種生地をサンプリングし、実際の発酵室内に入れパン生地の発酵状態の測定をすることは不可能で、実験室レベルでの測定に留まり、製造現場の発酵室内に於ける発酵状態の経時的変化を計測することはできなかった。
それ故、ガス保持力を支配する要因である小麦粉のエージングが若いか古いか、ミキシングの加減、加水率の多い少ない、生地温度の高い低い、生地pH、イースト量、副原材料の糖の差、また、ガス発生力を支配する要因として、イーストの多い少ない、糖の多い少ない、糖化酵素の量、塩分の量、イーストフードの量、生地温度、生地pHにより、ガス保持力とガス発生量が微妙に左右されるため、製造現場において中種生地をサンプリングし、かつ、実際の発酵室内に収容してパン生地の発酵状態の測定ができなければ、優秀な測定装置をもってしても適正な発酵状態にあるか否かをリアルタイムで判定することができなかった。
また、特許文献2の特開平6−186016号の「パン生地膨張力の測定・分析装置」では、パン生地の膨張力を超音波センサー等を用いて測距しパン生地の性状に基づく測定誤差を排除し、同時に測距値を電子処理しデータの検索・比較をし、パン生地の高さからパン生地の膨張力を計測するものであり、パン生地から発生するガス圧力とパン生地の高さ等から判定するものではなく、正確にパン生地の発酵状態を把握することができなかった。
【0006】
この発明は、前記したこれらの問題点を解決できるようにしたもので、生地ボックスに入れた中種及び本捏生地を発酵させる発酵工程において、発酵室で行われる発酵条件下で、密閉容器に収容した測定対象となるパン生地を同様に発酵させ、圧力測定手段によりパン生地から発生するガスの圧力変化を計測し、また、高さ測定手段によりパン生地膨張の変化をパン生地の高さの変化と捉えて測定し、測定した圧力データと高さデータを、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られた基準となる圧力データ及び高さデータ、又は、両データから導き出される基準データと対比し、パン生地の発酵状態を発生するガスの経時的圧力変化とパン生地の経時的高さ変化とから判定し、適正な生地熟成がされたか、また、適正な生地発酵が進行しているかを、製造現場に持ち運びができリアルタイムで確認できるパン生地発酵状態確認装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1)測定対象であるパン生地を収容する密閉容器と、該密閉容器内の圧力を計測する圧力測定手段と、前記密閉容器内に収納されたパン生地の高さを計測するための高さ測定手段と、前記圧力測定手段により検知される圧力関連信号及び前記高さ測定手段により検知される高さ関連信号が逐次入力される装置本体とを備えるパン生地発酵状態確認装置であって、前記装置本体は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータを記憶する基準データ記憶部と、前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号より得られる測定圧力データ及び測定高さデータと前記基準圧力データ及び基準高さデータより、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部を備えることを特徴とするパン生地発酵状態確認装置。
【0008】
(2)測定対象であるパン生地を収容する密閉容器と、該密閉容器内の圧力を計測する圧力測定手段と、前記密閉容器内に収納されたパン生地の高さを計測するための高さ測定手段と、前記圧力測定手段により検知される圧力関連信号及び前記高さ測定手段により検知される高さ関連信号が逐次入力される装置本体とを備えるパン生地発酵状態確認装置であって、前記装置本体は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータとから作成された基準発酵状態データを記憶する基準発酵状態データ記憶部と、前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号より得られる測定圧力データと測定高さデータから対象発酵状態データを作成する対象発酵状態データ作成部とを備え、前記基準発酵状態データと対象発酵状態データより、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部を備えることを特徴とするパン生地発酵状態確認装置。
【0009】
(3)前記パン生地発酵状態確認装置の装置本体に、前記測定圧力データ及び測定高さデータと前記基準圧力データ及び基準高さデータ、もしくは、前記基準発酵状態データと対象発酵状態データの各データを対比可能に表示すると共に、判定結果を表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のパン生地発酵状態確認装置。
(4)前記圧力測定手段の圧力検知部及び前記高さ測定手段の高さ検知部は、前記密閉容器に取り付けられており、該密閉容器を発酵室内に収納させ、発酵室内に収容されている生地ボックスに入れられたパン生地と同等の発酵条件下に置かれ、前記装置本体は、該発酵室外とすることが可能となっている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
【0010】
(5)前記パン生地発酵状態確認装置において、前記密閉容器内に収納されたパン生地の温度を計測する温度測定手段を備え、かつ、該温度測定手段により検知される温度関連信号は、逐次前記装置本体に入力されるものであり、さらに、前記装置本体の前記基準データ記憶部は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データと、パン生地の経時的高さ変化の基準高さデータと、パン生地の経時的温度変化の基準温度データを記憶しており、これらの記憶されている基準データと前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号と温度関連信号より得られる測定圧力データと測定高さデータと測定温度データを対比し、前記判定部において前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する上記(1)、(3)又は(4)のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
(6)前記圧力測定手段の圧力検知部及び前記高さ測定手段の高さ検知部及び前記温度測定手段の温度検知部は、前記密閉容器に取り付けられており、該密閉容器をパン生地発酵装置内に収納させ、前記装置本体は、該発酵室外とすることが可能となっている上記(5)に記載のパン生地発酵状態確認装置。
(7)前記密閉容器は、容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋とからなるものであり、前記圧力測定手段は、前記密閉容器の前記蓋に設けた密閉容器内の圧力を誘導する高圧側誘導管と、大気圧を誘導する低圧側誘導管を備え、密閉容器内の圧力変化を大気圧と比較し計測する差圧計を備えるものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
(8)前記密閉容器は、容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋とからなるものであり、前記高さ測定手段は、前記密閉容器の前記蓋の中央に設置され、該密閉容器に収容したパン生地の表面までの距離を測定可能な距離センサを備えるものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
(9)前記密閉容器は、容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋とからなるものであり、前記温度測定手段は、前記密閉容器の底部中央に立設され、密閉容器に収容されるパン生地の内部に侵入し、該パン生地の内部温度を計測するための温度センサを備えるものである上記(5)ないし(8)のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
(10)上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置において、前記装置本体が、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部の判定結果を出力する出力部を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、密閉容器に測定対象であるパン生地を収容し発酵させ、該密閉容器内の圧力を圧力測定手段により検知しパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化を圧力関連信号として逐次装置本体に入力し、また、パン生地の高さ変化を高さ測定手段で検知しパン生地の高さ関連信号として逐次装置本体に入力することができ、これらの圧力関連信号から得られる測定圧力データ及び高さ関連信号から得られる測定高さデータと、基準データ記憶部に記憶されている最適な発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータとを判定部において対比し、パン生地の発酵状態の過不足が判定されるので、常時密閉容器に入れられた測定対象であるパン生地の発酵状態及び発酵状態の進行具合を確認することができる。
【0012】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記装置本体の基準発酵状態データ記憶部には、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータから作成された基準発酵状態データが記憶され、一方対象発酵状態データ作成部において前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号より得られる測定圧力データと測定高さデータから作成された対象発酵状態データを、記憶されている前記基準発酵状態データと判定器において対比し判定されるので、圧力変化のみ、或いは、高さ変化のみがそれぞれ判定されるのではなく、最適な発酵が行われた場合の圧力変化と高さ変化との相関関係も加味して一つの基準発酵状態データが作成され、一方測定して得た測定圧力データと測定高さデータから、同様に測定圧力データと測定高さデータの相関関係を加味して一つの対象発酵状態データが作成されるので、ガス発生圧力が高いから発酵状態が最適であるとか、生地高さが高いから発酵状態が最適であると判定するのではなく、例えば、ガス発生圧力は最高点からやや下降しパン生地の高さが最高点に近付いている状態がベストとする場合、圧力変化と高さ変化の相関関係を加味して過不足が判定されるので、一層正確に密閉容器に入れられたパン生地の発酵状態及び発酵状態の進行状況をリアルタイムで確認することができる。
【0013】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、装置本体に表示手段を備え、前記測定圧力データ及び測定高さデータと前記基準圧力データ及び基準高さデータを対比して表示したり、もしくは、前記基準発酵状態データと対象発酵状態データを対比して表示することが可能となっているので、測定対象であるパン生地の発酵状態が分かり、また、判定結果が表示されるので、現在の発酵状態が未成熟なのか、過成熟なのか、適切であるかが表示され、一目で理解することができる。
【0014】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記圧力測定手段の圧力検知部及び前記高さ測定手段の高さ検知部が前記密閉容器に取り付けられ、該密閉容器と共に圧力検知部及び高さ検知部を発酵室内に収納することができ、前記装置本体は該発酵室外に置くことが可能であるから、発酵室内に収容されている生地ボックスに入れられたパン生地と同等の発酵条件下で密閉容器に収容された測定対象であるパン生地の発酵を行うことができる。それ故、この密閉容器内のパン生地の発酵状態の過不足を判定することにより、発酵室の発酵条件が適切であるか否かを判定することができ、また、発酵室内に他の生地ボックスと共に測定対象であるパン生地を入れた密閉容器を収納して発酵させれば、測定対象であるパン生地の発酵状態を測定するこにより、生地ボックスに入れられた大量のパン生地の発酵状態の過不足を判定することができる。したがって、従来のように恒温槽を用いて発酵室の温度変化等を再現して実験室レベルで測定するのではなく、製造現場の発酵室においてパン生地の発酵状態をリアルタイムで判定でき、大量生産されるパンの生地ボックスに入れられたパン生地の発酵状態の進行に合わせて発酵が適正に進行しているか、また、熟成状態が適正であるかを確認することができ、さらには、発酵室の発酵条件が適切に制御されているか否かを知ることができる。
【0015】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、温度測定手段により前記密閉容器内に収納されたパン生地の温度を検知し温度関連信号として前記圧力関連信号と前記高さ関連信号と共に逐次前記装置本体に入力できるから、記憶されている予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータとパン生地の経時的温度変化の基準温度データと、前記圧力関連信号と前記高さ関連信号と温度関連信号より得られる測定圧力データと測定高さデータと測定温度データを判定部において対比することができ、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足をパン生地の温度変化を含めて判定することができ、一層パン生地の発酵状態を正確に確認することができる。
【0016】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記密閉容器に前記圧力測定手段の圧力検知部及び前記高さ測定手段の高さ検知部及び前記温度測定手段の温度検知部が取り付けられているので、該密閉容器と共にこれらの検知部を含めてパン生地の発酵室内に収納することができ、発酵室において生地ボックスに入れたパン生地の発酵条件と同等の条件において、密閉容器内のパン生地を発酵させ発酵状態の測定ができる。また、前記装置本体は、該発酵室外に置き判定結果を見ながら発酵状態を確認することができる。
【0017】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記圧力測定手段として前記密閉容器の蓋に設けた密閉容器内の圧力を誘導する高圧側誘導管と、大気圧を誘導する低圧側誘導管を備えた差圧計を用いたので、密閉容器内の圧力変化を大気圧と比較して検知し圧力関連信号として前記装置本体に入力できる。それ故、パン生地から発生するガスの圧力変化を差圧計を使用するという簡単な方法で、ガス圧力変化を正確に測定でき、パン生地発酵状態確認装置の小型化ができ持ち運びが容易にできる。その結果、各工場の製造現場にパン生地発酵状態確認装置を持ち込み、発酵室内に測定対象となるパン生地を入れた密閉容器を置き発酵状態を判定することができるので、発酵状態が適正に進んでいるか、熟成状態が適正であるかを確認することができ、また、発酵室の発酵条件の制御が適正にされているか否かを知ることができる。
【0018】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記高さ測定手段として距離センサを用い、該距離センサを前記密閉容器の上部開口に取り付けられる蓋の中央に設置しているので、パン生地の表面までの距離を測定することが容易であり、パン生地の発酵に伴う膨張するパン生地の高さ変化を検知することができる。
【0019】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記温度測定手段として温度センサを用い、該温度センサを前記密閉容器の底部中央に立設したので、密閉容器にパン生地を投入すると、該パン生地に温度センサが突き刺さるようにしてパン生地内部に侵入し、パン生地の内部温度を正確に検知することができる。
【0020】
この発明のパン生地発酵状態確認装置によれば、前記装置本体に、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部の判定結果を出力する出力部を備えているので、判定による発酵状態の過不足の度合に応じて電気信号で出力部から外部に伝達することが可能となり、この出力部からの電気信号により色々な機器の制御をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明のパン生地発酵状態確認装置を図に示す最良の実施形態に基づいて説明する。図1はこの発明のパン生地発酵状態確認装置を示す概略図である。
【0022】
1は、測定対象となるパン生地の試料で、この試料は発酵室で多数の生地ボックスに入れられ発酵させられる中種混合したパン生地からサンプリングしたもの、或いは、その他の測定したいパン生地である。2はパン生地の試料を収納する密閉容器で、密閉容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋3とからなっている。前記蓋3は発酵する際にパン生地から発生するガスが逃げないように密閉容器本体の上部開口に密嵌する構造となっている。
前記蓋3には前記圧力測定手段の差圧計4と前記高さ測定手段の距離センサ7が設けられ、密閉容器内の圧力変化とパン生地の表面の高さ変化を測定するようになっている。また、密閉容器内の底部中央には該容器に投入されるパン生地試料の内部に侵入し生地温度を検知する温度センサ8が突設されている。さらに、密閉容器2の外周には発酵室等に於ける雰囲気温度・湿度を計測する雰囲気温湿度センサ9が設けられている。
上記密閉容器2と差圧計4と距離センサ7と温度センサ8と雰囲気温湿度センサ9は、セットにして発酵室内に収納できる構成となっている。
それ故、生地ボックスに入れられた大量のパン生地と同等の発酵条件下にパン生地の試料の入った密閉容器等を置くことが可能となっている。
【0023】
前記差圧計4には、前記密閉容器の蓋3に密閉容器内と連通して設けられた高圧側誘導管5と大気圧又は発酵室内の空気圧を誘導する低圧側誘導管6が取り付けられ、例えばダイヤフラムの一方に密閉容器内の高圧側圧力を誘導し、他方に大気圧の低圧側圧力を誘導する構造とし、大気圧と密閉容器内の圧力差からダイヤフラムが変位し、その変位量を電気信号に変換して圧力関連信号として出力するもので、密閉容器内のガス圧の変化を正確に経時的に測定することができ、かつ、小型で持ち運びが容易である。
【0024】
前記距離センサ7は、パン生地の上面の高さの変化を測定するもので非接触型変位センサがよく、パン生地の表面までの距離を計測することによりパン生地の高さ変化を検知し高さ関連信号として出力するものである。
また、前記温度センサ8は、前記密閉容器内に投入されるパン生地試料に突き刺さり内部に侵入し易く細い形状のものがよい。この温度センサ8によりパン生地試料の内部温度の変化が検知でき温度関連信号として出力するものである。
【0025】
10はA/D変換器であり、上記の圧力関連信号、高さ関連信号、温度関連信号が入力され、A/D変換され発生ガスの圧力変化と生地の高さ変化と生地温度変化を各々デジタル量に変換し出力するものである。
これらのA/D変換された発生ガスの圧力変化、生地高さ変化、生地温度変化は数値化され、パン生地発酵状態確認装置の装置本体11に入力されることになる。
【0026】
上記装置本体11は、判定器12と基準データ記憶部又は基準発酵状態データ記憶部13と対象発酵状態データ作成部14とデータ表示部15から構成され、発酵室の外に於いて判定結果からパン生地の発酵状態及び発酵状態の進行具合を確認できるようになっている。
前記基準データ記憶部又は基準発酵状態データ記憶部13は、予め最適な発酵状態を多数測定し、その結果得られた判定基準となる基準圧力データ、基準高さデータ、基準温度データを記憶しておくデータストレージ等の記憶装置、又は、これらの各データと各データ間の相関関係を加味してより綿密に導き出された最適な発酵状態を表す一つの基準発酵状態データを記憶しておくデータストレージ等の記憶装置である。
前記対象発酵状態データ作成部14は、密閉容器に入れたパン生地試料の発酵時に検知し出力される圧力関連信号、高さ関連信号、温度関連信号をA/D変換して得られた測定圧力データ、測定高さデータ、測定温度データに基づき、上記基準発酵状態データと対比できるように、それぞれのデータと各データの相関関係を加味して発酵状態を最も忠実に表現できる一つの対象発酵状態データを作成するものである。
【0027】
前記判定器12は、密閉容器に入れたパン生地試料の発酵時の測定圧力データ、測定高さデータ、測定温度データと、上記基準データ記憶部13に記憶されている基準圧力データ、基準高さデータ、基準温度データとを対比し、パン生地の発酵状態が未成熟なのか、過成熟なのか、適正なのかを判定をするものである。 又は、測定圧力データ、測定高さデータ、測定温度データから作成される前記対象発酵状態データと、前記基準発酵状態データとを対比し、対象発酵状態データが基準発酵状態データに対し上方に振れが生じたのか、下方に振れを生じたのか、同じなのかを比較・演算し、パン生地の発酵状態が未成熟なのか、過成熟なのか、適正なのかを判定をするものである。
15は、表示手段である液晶表示部で、前記測定圧力データ、測定高さデータ、測定温度データと、前記基準データを対比して表示するもので、データの対比により適正な発酵状態にあるか否かを表示部で確認することができ、また、基準データに対し測定中の各測定データがリアルタイムで表示されるので、発酵状態の進行状況が適正に進んでいるか否かも表示部で確認できるものである。
或いは、基準発酵状態データと対象発酵状態データとを表示し発酵状態を確認でき、測定中の対象発酵状態データをリアルタイムで表示し基準発酵状態データと対比して表示できるので、発酵状態の進行状況が適正に進んでいるかも表示部で確認できるものである。
また、判定結果を未成熟・過成熟・適正で表示したり、さらに、発酵時間との関係において発酵状態が遅れているとか進み過ぎているか等の表示もすることいができる。
【0028】
15は出力部で、上記判定器12において測定データが基準データと対比され、或いは、対象発酵状態データと基準発酵状態データが対比され、発酵状態の過不足が判定され、その判定結果を電気信号として出力するもので、判定結果に基づき他の機器を制御し最適な発酵状態が得られるようにするものである。
【0029】
この発明のパン生地発酵状態確認装置は上記構成としたので、差圧計、距離センサ、温度センサで検知され得られる測定圧力データ、測定高さデータ、測定温度データと、基準データ記憶部に記憶されている最適な発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータとパン生地の経時的基準温度データと対比され、判定部においてパン生地の発酵状態の過不足が判定される。それ故、密閉容器に入れられたパン生地の発酵状態及び発酵状態の進行具合をリアルタイムで確認することができる。
また、最適な発酵が行われた場合の圧力変化と高さ変化との相関関係も加味して一つの基準発酵状態データを作成し、測定して得た測定圧力データと測定高さデータから作成部において対象発酵状態データが作られ、両者が対比されるので、圧力変化と高さ変化との相関関係を加えて一層正確に密閉容器に入れられたパン生地の発酵状態及び発酵状態の進行状況を確認することができる。
さらに、従来のように恒温槽を用いて発酵室の温度変化等を再現して実験室レベルで測定するのではなく、製造現場の発酵室において生地ボックスに入れたパン生地と同等の条件下で測定し発酵状態の過不足の判定ができるので、パン生地の発酵状態の進行に合わせて発酵が適正に進行しているかを確認しながら発酵状態を制御できる。また、発酵室の発酵条件の制御が適正にされているか否かも知ることができるので、測定データに基づき発酵室の温度・時間等の発酵条件を改善することで、一層優れた品質の製品を製造することができる。
さらにまた、ガス圧力の変化を差圧計を用いて計測しているので、装置が簡単で安価で持ち運びも自由にできるため、各工場の製造現場にこのパン生地発酵状態確認装置を持ち込むこと、及び、配備することができ、焼成するパン生地の試料を密閉容器に入れ、密閉容器を発酵室内に置き、生地ボックスに入れたパン生地と同一条件で発酵させ測定できる。それ故、発酵状態が刻々と判定され確認でき発酵室の温度、発酵時間等を制御し適正な熟成状態に導くことができる。
【0030】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の形態を実施しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明のパン生地発酵状態確認装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1 測定対象であるパン生地
2 密閉容器
3 蓋
4 差圧計
5 高圧側誘導管
6 低圧側誘導管
7 距離センサ
8 温度センサ
9 雰囲気温湿度センサ
10 A/D変換器
11 パン生地発酵状態確認装置の装置本体
12 判定部
13 基準データ記憶部又は基準発酵状態データ記憶部
14 対象発酵状態データ作成部
15 表示部
16 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象であるパン生地を収容する密閉容器と、該密閉容器内の圧力を計測する圧力測定手段と、前記密閉容器内に収納されたパン生地の高さを計測するための高さ測定手段と、前記圧力測定手段により検知される圧力関連信号及び前記高さ測定手段により検知される高さ関連信号が逐次入力される装置本体とを備えるパン生地発酵状態確認装置であって、前記装置本体は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータを記憶する基準データ記憶部と、前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号より得られる測定圧力データ及び測定高さデータと前記基準圧力データ及び基準高さデータより、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部を備えることを特徴とするパン生地発酵状態確認装置。
【請求項2】
測定対象であるパン生地を収容する密閉容器と、該密閉容器内の圧力を計測する圧力測定手段と、前記密閉容器内に収納されたパン生地の高さを計測するための高さ測定手段と、前記圧力測定手段により検知される圧力関連信号及び前記高さ測定手段により検知される高さ関連信号が逐次入力される装置本体とを備えるパン生地発酵状態確認装置であって、前記装置本体は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データとパン生地の経時的高さ変化の基準高さデータとから作成された基準発酵状態データを記憶する基準発酵状態データ記憶部と、前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号より得られる測定圧力データと測定高さデータから対象発酵状態データを作成する対象発酵状態データ作成部とを備え、前記基準発酵状態データと対象発酵状態データより、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部を備えることを特徴とするパン生地発酵状態確認装置。
【請求項3】
前記パン生地発酵状態確認装置は、その装置本体に、前記測定圧力データ及び測定高さデータと前記基準圧力データ及び基準高さデータ、もしくは、前記基準発酵状態データと対象発酵状態データの各データを対比可能に表示すると共に、判定結果を表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項4】
前記圧力測定手段の圧力検知部及び前記高さ測定手段の高さ検知部は、前記密閉容器に取り付けられており、該密閉容器を発酵室内に収納させ、発酵室内に収容されている生地ボックスに入れられたパン生地と同等の発酵条件下に置かれ、前記装置本体は、該発酵室外とすることが可能となっている請求項1ないし3のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項5】
前記パン生地発酵状態確認装置は、前記密閉容器内に収納されたパン生地の温度を計測する温度測定手段を備え、かつ、該温度測定手段により検知される温度関連信号は、逐次前記装置本体に入力されるものであり、さらに、前記装置本体の前記基準データ記憶部は、予め最適なパン生地の発酵状態を測定して得られたパン生地から発生するガスによる経時的圧力変化の基準圧力データと、パン生地の経時的高さ変化の基準高さデータと、パン生地の経時的温度変化の基準温度データを記憶しており、これらの記憶されている基準データと前記逐次入力される圧力関連信号と前記高さ関連信号と温度関連信号より得られる測定圧力データと測定高さデータと測定温度データを対比し、前記判定部において前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定するものである請求項1、3又は4のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項6】
前記圧力測定手段の圧力検知部及び前記高さ測定手段の高さ検知部及び前記温度測定手段の温度検知部は、前記密閉容器に取り付けられており、該密閉容器をパン生地発酵室内に収納させ、前記装置本体は、該発酵室外とすることが可能となっている請求項5に記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項7】
前記密閉容器は、容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋とからなるものであり、前記圧力測定手段は、前記密閉容器の前記蓋に設けた密閉容器内の圧力を誘導する高圧側誘導管と、大気圧を誘導する低圧側誘導管を備え、密閉容器内の圧力変化を大気圧と比較し計測する差圧計を備えるものである請求項1ないし6のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項8】
前記密閉容器は、容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋とからなるものであり、前記高さ測定手段は、前記密閉容器の前記蓋の中央に設置され、該密閉容器に収容したパン生地の表面までの距離を測定可能な距離センサを備えるものである請求項1ないし7のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項9】
前記密閉容器は、容器本体と該容器本体の上部開口に取り付けられる蓋とからなるものであり、前記温度測定手段は、前記密閉容器の底部中央に立設され、密閉容器に収容されるパン生地の内部に侵入し、該パン生地の内部温度を計測するための温度センサを備えるものである請求項5ないし8のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。
【請求項10】
前記装置本体は、前記測定対象のパン生地の発酵状態の過不足を判定する判定部の判定結果を出力する出力部を備えたものである請求項1ないし9のいずれかに記載のパン生地発酵状態確認装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−97458(P2007−97458A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289968(P2005−289968)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(591108927)敷島製パン株式会社 (18)
【Fターム(参考)】