説明

パン用熱処理小麦粉及びその製造方法並びにこれを使用したパン類

【課題】小麦粉の空気輸送中に熱処理を行うことによりグルテンが失活せず変性のみがおこる製造条件を設定することでパン用途において特徴ある二次加工性を有するパン用熱処理小麦粉及びその製造方法並びにこれを使用したパン類を提供すること。
【解決手段】小麦粉の空気輸送中に小麦粉を熱処理する熱処理小麦粉の製造方法であって、空気輸送中の混合比が1以上10以下となる輸送条件で90℃以上120℃以下の温度の空気により小麦粉を1分間以上60分間以下熱処理することを特徴とするパン用熱処理小麦粉の製造方法である。また、前記製造方法により製造したパン用熱処理小麦粉及び該熱処理小麦粉を使用したパン類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン用熱処理小麦粉及びその製造方法並びにこれを使用したパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
食感や二次加工性の改良を目的として、小麦粉を加熱処理することが知られている。
小麦粉の加熱処理の例として、小麦粉を開放系中で乾熱処理するに当たり、小麦粉の水分含量を5%以上に保持しつつ小麦粉の品温を90〜110℃に達せしめ、次いで前記品温および水分含量の条件下に10〜50分間保持することを特徴とする焙焼小麦粉の製造法が知られている。
焙焼小麦粉の調製方法として、バンドオーブンその他のオーブン中で加熱する方法、パドルドライヤー等の加熱装置付きミキサーで加熱する方法、焙焼釜で加熱する方法が例示されている(例えば特許文献1参照)。
また、小麦粉または小麦粉および澱粉からなる原料粉を品温110〜160℃の条件下で50〜150分間焙焼することを特徴とする、グルテンバイタリティ10〜65%を有する焙焼小麦粉の製造法が知られている。
焙焼小麦粉の調製方法として、バンドオーブンその他のオーブン中で加熱する方法、パドルドライヤー等の加熱装置付きミキサーで加熱する方法、焙焼釜で加熱する方法が例示されている(例えば特許文献2参照)。
また、小麦粉及び/又はコーンスターチを水分含量が5質量%以下、好ましくは4.5質量%以下にまで、乾燥すること、乾燥後の品温が100℃を越えないこと、更には、乾燥処理後にシフターによって粒度調製することを特徴とするルウ用乾燥小麦粉及び/又は乾燥コーンスターチの製造方法が知られている。
焙焼小麦粉/又はコーンスターチの調製方法として、気流乾燥による方法、流動層乾燥による方法が例示され、乾燥条件として流動層乾燥の場合は、品温70℃〜100℃で5分間〜40分間、気流乾燥を使用する場合は、1秒〜10秒、ないし数十秒という条件が開示されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−45838号公報
【特許文献2】特開2002−345421号公報
【特許文献3】特開2008−271824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱処理小麦粉の調製方法として湿熱処理やパドルドライヤー等の加熱装置付きミキサーを使用する場合は熱伝導率が高すぎるため品質制御が困難でありグルテンが失活してしまうことがあるのでパン用などの用途での使用が制限されるという問題があった。
本発明の目的は、小麦粉の空気輸送中に熱処理を行うことによりグルテンが失活せず変性のみがおこる製造条件を設定することでパン用途において特徴ある二次加工性を有する熱処理小麦粉及びその製造方法並びにこれを使用したパン類を提供することである。
なお、本発明においてグルテン失活とはグルテンが熱変性を起こしグルテン特有の性質である弾性と伸展性が完全に失われた状態をいい、グルテン変性とは非加熱のグルテンからその性質は変化しているものの、グルテン失活には至っていない状態をいう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、小麦粉の空気輸送中に特定の混合比、空気温度、加熱時間により小麦粉を熱処理することで、生地性の改善(ベタつきの防止)、吸水増加、食感改善(口溶けの良化)があるパン用熱処理小麦粉を製造できることを見出し本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、小麦粉の空気輸送中に小麦粉を熱処理するパン用熱処理小麦粉の製造方法であって、空気輸送中の混合比が1以上10以下となる輸送条件で90℃以上120℃以下の温度の空気により小麦粉を1分間以上60分間以下熱処理することを特徴とするパン用熱処理小麦粉の製造方法である。
また、前記製造方法により製造したパン用熱処理小麦粉及び該パン用熱処理小麦粉を使用したパン類である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のパン用熱処理小麦粉の製造方法により生地性の改善(ベタつきの防止)、吸水増加、食感改善(口溶けの良化)があるパン用熱処理小麦粉を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する小麦粉には特に限定はなく、求める製品に応じて薄力小麦粉、中力小麦粉、強力小麦粉を適宜使用することができる。
これらは単独で又は2種以上を混合して熱処理を行うことができる。
本発明のパン用熱処理小麦粉はパンの生地性においてベタつきを減らす効果があるためパン類全般に使用できるが、食パンやフランスパンに使用する場合が特に効果的である。
【0008】
小麦粉の空気輸送方法は特に限定はなく、圧送方式や吸引方式を使用することができる。
循環輸送することによる加熱も可能である。
混合比は、1以上10以下である。
本発明の混合比とは、空気の輸送流量(kg/h)/小麦粉の輸送流量(kg/h)で求められる。
空気輸送では、混合比は適宜選択され高濃度輸送なども行われているが、本発明においてグルテン失活を起こさずグルテン変性を効率的に起こす熱処理を行うには、その混合比が、1以上10以下となる条件が必要である。
混合比が1未満の場合はグルテン変性が不十分となり不適当であり、混合比が10を超えるとグルテンが失活してしまい不適当である。
好ましい混合比は、3以上6以下である。
グルテンは熱処理をすることにより弾力が増すといった加工性に変化が生じるという変性を起こすことが知られており、さらに強い熱処理をした場合にはグルテンが失活して加工性を著しく損なうことも知られている。
湿熱処理やパドルドライヤーによる熱処理では水蒸気や金属の熱伝導率が高いため、同じ温度、時間で熱処理を行った場合グルテン失活や焦げが生じるが、空気加熱ではこれが起こらずにグルテン変性のみを起こすことが可能である。
【0009】
小麦粉の加熱は空気輸送に使用する空気を加熱して行う。
空気の温度は90℃以上120℃以下である。
90℃未満の場合はグルテン変性が不十分となり、120℃を超えるとほとんどのグルテンが失活してしまいパン用途として不適当である。
好ましい温度は、100℃以上110℃以下である。
【0010】
小麦粉の加熱時間は、1分間以上60分間以下である。
1分間未満だとグルテン変性が不十分であり、60分間を超えるとほとんどのグルテンが失活するためパン用途として不適当である。
【実施例】
【0011】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜12、比較例1〜9]食パン
強力小麦粉(日本製粉株式会社製 商品名:イーグル)を熱交換器により過熱した空気によりブロアーを使用して輸送圧力0.2kPaで空気輸送し、表1〜3に示す処理時間、空気温度、混合比で熱処理しパン用熱処理小麦粉を得た。
前記強力小麦粉は水分13.5質量%ベースで水分補正し試験を行った。
小麦粉の水分をm質量%とした場合の水分補正の方法は次のとおりである。
小麦粉の実際の使用量(単位:質量部)=100×(100−m)/(100−13.5)
水の実際の使用量(単位:質量部)=(100+加水量)−小麦粉の実際の使用量
食パンの製造及び評価方法は次のとおりである。
1.小麦粉100質量部、イースト2.5質量部、イーストフード0.1質量部、塩2質量部、上白糖5質量部、脱脂粉乳2質量部に水70質量部を加え、低速2分、中速4分間ミキシングしショートニング5質量部を加えて、さらに低速1分間、中速5分間ミキシングして生地を得た。
2.生地を60分間フロアタイムをとった後、240gに分割しベンチタイムを20分間とった。
3.分割した生地を4つプルマン2斤型の型に入れさらにホイロを40分間とった後、200℃35分間焼成し食パンを得た。
[評価]
これを10名の熟練のパネラーにより、以下の評価基準で評価を行った。
生地性
5点・・・生地の弾力と伸展性のバランスが非常によい
4点・・・生地の弾力と伸展性のバランスがよい
3点・・・普通
2点・・・生地の弾力と伸展性のバランスが悪い
1点・・・生地の弾力と伸展性のバランスが非常に悪い
食感
5点・・・ソフトで口溶け良い
4点・・・ややソフトで口溶け良い
3点・・・普通
2点・・・やや硬く団子状になり、口溶け悪い
1点・・・硬く団子状になり、口溶け悪い
総合評価は、◎、○、△、×の順に悪い評価となる。
結果を表1〜3に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
[実施例13〜24、比較例10〜18]フランスパン
フランスパン用小麦粉(日本製粉株式会社製 商品名:Fナポレオン)を熱交換器により過熱した空気によりブロアーを使用して輸送圧力0.2kPaで空気輸送し、表1〜3に示す処理時間、空気温度、混合比で熱処理しパン用熱処理小麦粉を得た。
前記フランスパン用小麦粉(は水分13.5質量%ベースで水分補正し試験を行った。
小麦粉の水分をm質量%とした場合の水分補正の方法は次のとおりである。
小麦粉の実際の使用量(単位:質量部)=100×(100−m)/(100−13.5)
水の実際の使用量(単位:質量部)=(100+加水量)−小麦粉の実際の使用量
食パンの製造及び評価方法は次のとおりである。
1.小麦粉100質量部、インスタントドライイースト0.5質量部、塩2質量部、モルト0.3質量部に水68質量部を加え、低速5分、中速3分間ミキシングして生地を得た。
2.生地を60分間フロアタイムをとった後、300gに分割しベンチタイムを25分間とった。
3.分割した生地をバゲットの形に整形し、さらにホイロを60分間とった後生地にクープ(切れ込み)を入れ240℃30分間焼成しフランスパンを得た。
[評価]
これを10名の熟練のパネラーにより、以下の評価基準で評価を行った。
生地性
5点・・・生地の弾力と伸展性のバランスが非常によい
4点・・・生地の弾力と伸展性のバランスがよい
3点・・・普通
2点・・・生地の弾力と伸展性のバランスが悪い
1点・・・生地の弾力と伸展性のバランスが非常に悪い
食感
5点・・・クラストのサクミがあり、噛み応えがある
4点・・・クラストのサクミがややあり、噛み応えがややある
3点・・・普通
2点・・・クラストのサクミがやや弱く、噛み応えがやや弱い
1点・・・クラストのサクミが弱く、噛み応えが弱い
総合評価は、◎、○、△、×の順に悪い評価となる。
結果を表4〜6に示す。
【0016】
【表4】

【0017】
【表5】

【0018】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉の空気輸送中に小麦粉を熱処理する熱処理小麦粉の製造方法であって、空気輸送中の混合比が1以上10以下となる輸送条件で90℃以上120℃以下の温度の空気により小麦粉を1分間以上60分間以下熱処理することを特徴とするパン用熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造したパン用熱処理小麦粉。
【請求項3】
請求項2に記載のパン用熱処理小麦粉を使用したパン類。


【公開番号】特開2012−228195(P2012−228195A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97719(P2011−97719)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】