説明

パン種をベースとする混合物

以下の工程を含むプロセスにより得られる混合物:a)水及び発芽ライ麦粒を含むカルチャーを細挽き又は粗挽きライ麦粉に添加し、この混合物を、3〜5時間以内の30〜34℃の加熱プロセスに供して、酵素反応による強いマルトース形成を開始させる工程;b)次いで、細挽き又は粗挽きライ麦粉、水、及びヘテロ発酵性乳酸菌群からの細菌接種物を更に添加する工程;c)微生物の代謝活性が止まるまで混合物を酸性化し、所望により90〜95℃で低温殺菌する工程;d)混合物を遠心により溶液及び沈殿に分離し、その後、溶液を所望により少なくとも1回濾過する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン種をベースとする混合物、本発明に係る混合物を含む医薬、疾患を処置するための本発明に係る混合物の使用、及び混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、パン種をベースとする焼いたパンの塊(baked leaven−based bread mass)の水性懸濁液(slurry)を乳酸含有培地中で酸性化することによって、乳酸及び生きた乳酸菌を含む発酵産物を製造する方法が既に知られており、酸性化されたパン生地を焼いた物がパンの塊として使用される。この発酵産物は、とりわけ、ヒト、動物、及び植物の生物体全体の処置における助剤として利用可能であると言われている。
【0003】
特許文献2から、発酵させて膨らませたパン(leaven bread)の自然発生的な酸性化による発酵スラッジ(sludge)から得られる生成物を、例えば、慢性的な炎症性皮膚疾患を処置するためのパック用の凝集材料(pack aggregate material)として使用することも既に知られている。
【0004】
特許文献3から、穀物の粗挽き粉及び/又は細挽き粉からパン及びベーカリー製品を製造するためのパン種を調製するために、どの細菌の代謝活性も停止するまで、前生地(pre−dough)を形成している穀物マッシュ(mash)中でパン種細菌を酸性化することが既に知られている。
【0005】
特許文献4では、C〜C18の脂肪酸の混合物を含む局所抗菌医薬組成物が開示されている。
【0006】
特許文献5は、血流促進、筋肉の緊張解放、スキンクリーニング、及び皮膚再生のための治療用及び手入れ用剤に関し、これは身体部位に塗布されるか、水浴の添加剤として使用される。この生成物は、酸性化されたパン種の発酵産物から形成されることを特徴とする。この文献は、基質として使用される粗挽きライ麦粉の前処置については何ら言及していない。
【0007】
特許文献6は、10週間冷蔵した後の,プラーク形成能が挽き粉(乾燥物質)1g当たり少なくとも5×10cfuである生きた液状パン種生成物の製造方法を開示している。この生成物が治療用又は手入れ用剤として適切であるという事実に関しては示されていない。この文献では、記載されている混合物のpH値が低下し過ぎないように緩衝剤として炭酸カルシウムを使用している。
【0008】
特許文献7は、発酵前にαアミラーゼで処理されている、ヘテロ発酵性乳酸菌を用いた粗挽き又は細引きライ麦粉の発酵産物、その製造プロセス、並びに治療薬及び手入れ用剤としてのその応用に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第38028402(A)号
【特許文献2】独国特許出願公開第3846186(A)号
【特許文献3】DT−B−2611972
【特許文献4】欧州特許第0530861(B)号
【特許文献5】独国実用新案29923627(U)号
【特許文献6】国際公開第00/10395(A)号
【特許文献7】欧州特許出願公開第1458334(A)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、以下の工程を含むプロセスにより得られる新規な混合物が医薬としての使用に適していることが見出された:
a)水及び発芽ライ麦粒を含むカルチャーを細挽き又は粗挽きライ麦粉に添加し、この混合物を、3〜5時間以内の30〜34℃の加熱プロセスに供して、酵素反応から強いマルトース形成を開始させる工程;
b)次いで、細挽き又は粗挽きライ麦粉、水、及びヘテロ発酵性乳酸菌群からの細菌種物を更に添加する工程;
c)微生物の代謝活性が止まるまで混合物を酸性化し、これを代謝活性が検出されなくなるまで90〜95℃に加熱する工程;
d)混合物を遠心分離により溶液及び沈殿に分離し、その後、所望により溶液を少なくとも1回濾過する工程。
【0011】
本発明に係る混合物は、トコフェロール及び他の活性物質、例えばα−トコトリエノール、ビタミンB1、B2、B6、葉酸、パントテン酸が、特許文献7の発酵産物と比べて高い含有量であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る混合物は、以下に更に詳細に説明するように、発芽した穀類を濾過及び超遠心の工程を用いる処理を行う本発明の特許請求されるプロセスにより製造することができる。本発明に係るプロセスは以下の工程を含む:
a)水及び発芽ライ麦粒を含むカルチャーを細挽き又は粗挽きライ麦粉に添加し、この混合物を、3〜5時間以内の30〜34℃の加熱処理に供して、酵素反応から強いマルトース形成を開始させる工程;
b)次いで、細挽き又は粗挽きライ麦粉、水、及びヘテロ発酵性乳酸菌群からの細菌接種物を更に添加する工程;
c)微生物の代謝活性が止まるまで混合物を酸性化し、所望により90〜95℃で低温殺菌する工程;
d)混合物を遠心分離により溶液及び沈殿に分離し、その後、所望により溶液を少なくとも1回濾過する工程。
【0013】
本発明に係るプロセスの特定の実施形態では、ラクトバチルスDSM 6037及び/又はラクトバチルスDSM 6129を使用することが好ましい。
【0014】
本発明では、保存料の添加は省略してもよい。
【0015】
発酵産物は通常、ゲル構造を破壊するために急速冷凍されてもよい。解凍後、生成物中に存在するふすま(bran)を特に超遠心機を用いて分離する。その後、所望によりもう一度凍結される。その後の解凍後、所望により、混濁物質(turbid matter)を除くために生成物を複数工程の濾過で精製してもよい。その後、無菌化濾過又は加熱滅菌がなされてよい。
【0016】
本発明に係る混合物を、医薬品として、例えば医薬、特に、外用及び/又は内服投与用のガレヌス製剤(Galenic formulation)として有利に使用してもよい。
【0017】
適用に際して、特に、ローション、軟膏、スプレー、クリーム、ゲル、チンキ剤、湿布(soaked compress)、パッチ、手術用被布、包帯、包帯材材料、タンポン、アンプル、セラム(sera)、カプセル剤に使用され得る。
【0018】
本発明に係る混合物は、特に、細菌及び/又はウイルスの感染症及び/又は真菌感染症の処置に使用することができる医薬品又は医薬用に製剤化することができる。
【0019】
例えば、本発明に係る混合物は、爪真菌症(onychmycoses)、特に紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)及び毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)の感染により起こる爪白癬(tinea unguium)、並びに足白癬(tinea pedis)に有効である。本発明に係る混合物は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)又は表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)等のざ瘡を引き起こす細菌を処置するための医薬として使用されてもよい。混合物は、アトピー性/脂漏性湿疹及びその他の皮膚疾患を引き起こすマラセチア・フルフル(Malassezia furfur)の感染の処置にも有用であることが証明されている。粘膜の感染症であるカンジダ症を引き起こし、口、咽頭、食道、胃、小腸、及び大腸で起こり、更に免疫不全症において日和見病原体として内臓にも感染(infest)し得る、カンジダ・アルビカンスの感染の処置を挙げることができる。例えば、がん、敗血症、AIDS等の疾患の存在の基で、肺炎が起こる可能性がある。本発明に係る医薬は、抗生物質又はコルチゾン含有製剤を投与している間に真菌が皮膚及び粘膜に感染することによる真菌感染症の防止にも使用されてもよい。
【0020】
本発明に係る混合物はβ−1,3−グルカンも含む。この生成物は、本発明によらなければ、ほとんど可溶性でない形態でのみ得られるが、本発明では、水に溶解しているので、医学分野での処理に特に良好に使用することができる。
【0021】
アレルギーを引き起こすかもしれない乳化剤なしで水性製剤を使用することができるので、この種の処理は特に医薬品において利点がある。
【0022】
本発明に係る混合物は、特に、擦り傷及び火傷に対する外傷用スプレーとして使用してもよく、また、水痘又は皮膚に影響を与えるその他の疾患、例えば日焼け、更には開いた水疱の症状を軽減するために使用することができる。
【0023】
別の応用は、例えば、足白癬、または足の真菌症(mycosis pedis)を処置するために本発明に係る医薬品を放出するスティックを用いることによって達成される。本発明に係る混合物で処置した場合に、既にいくつかの応用例の基で、掻痒の迅速な軽減及び爪真菌症の緩和が見られている。このことは、本発明に係る医薬の治癒効果を裏付けている。特に感染した粘膜を処置するために、本発明に係る医薬を耳、鼻、及び咽頭部で使用してもよい。例えば、ドライマウスシンドローム(dry mouth syndrome)、並びに口、鼻、及び耳における真菌の感染を挙げることができる。湿疹も、本発明に係る薬剤の局所的塗布により、外観が改善され、治癒され得る。
【0024】
本発明に係る混合物は、湿疹からの保護、日焼けに対する皮膚の保護、ざ瘡症状の更なる抑制、爪真菌症の再感染、手術中又は手術後に起こり得る感染症、膣真菌の防止等に使用されてもよい。
【0025】
本発明に係る医薬品は感染症予防に使用されてもよい。
【実施例】
【0026】
本発明に係るライ麦ゲルを調製するために、1部のライ麦挽き粉1150を2部の水と混合し、出発物質をベースとする10%発芽ライ麦粒を含むカルチャーを添加する。この混合物に、ラクトバチルスDSM 6037及びラクトバチルスDSM 6129と共に発酵培地を添加する。この混合物を、温度30〜34℃で24〜48時間発酵させる。酵素反応開始後、初回発酵(starting fermentation)は、1部のライ麦挽き粉1150を2部の水と混合することにより開始される。pH値が一定になったら発酵完了である。初回発酵から得られた混合物を、初回発酵の合計体積に基づいて60部の水と混合する。発酵時間は、一定のpH値に達するまで、30〜34℃の典型的な温度で更に24〜48時間である。その後、温度92〜95℃で3〜5時間熱処理する。保存料は添加しない。無菌容器中に高温充填することにより、長期の保存期間が確実となる。この生成工程の後、混合物を製造するための分離プロセスを行う。
【0027】
ゲル構造を破壊するために発酵産物を急速冷凍する。解凍後、生成物中に存在するふすまを超遠心機で分離する。その後、もう一度凍結する。再解凍後、折り畳みフィルター及びカートリッジフィルター中での複数の工程で混濁物質から生成物を精製し、その後、無菌化濾過及び60℃の加熱を行う。
【0028】
【表1】

【0029】
β−1,3−グルカンの含有量は103mg/lであったので、先行技術の比較の生成物より著しく少ない。欧州特許出願公開第1458334(A)号に従って得られる生成物の対応する値は約461mg/lである。β−1,3−グルカンの含有量は、ドイツ、フライジングのForschungszentrum Weihenstephan fur Brau− und LebensmittelqualitatによるMEBAK II 2.5.2法に従って測定した。MEBAKは、Mitteleuropaische Brautechnische Analyse−kommission e.V.の頭字語である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むプロセスにより得られる混合物:
a)水及び発芽ライ麦粒を含むカルチャーを細挽き又は粗挽きライ麦粉に添加し、前記混合物を、3〜5時間以内の30〜34℃の加熱プロセスに供し、酵素反応から強いマルトース形成を開始させる工程;
b)次いで、細挽き又は粗挽きライ麦粉、水、及びヘテロ発酵性乳酸菌群からの細菌接種物を更に添加する工程;
c)前記微生物の代謝活性が止まるまで前記混合物を酸性化し、所望により90〜95℃で低温殺菌する工程;
d)前記混合物を遠心により溶液及び沈殿に分離し、その後、前記溶液を所望により少なくとも1回濾過する工程。
【請求項2】
α−、β−、γ−、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、ビタミンB、B、B、葉酸、パントテン酸、ニコチン酸アミドの含有物を有する、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
β−1,3−グルカンを含む、請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の混合物を含む医薬。
【請求項5】
外用及び/又は内服用投与のためのガレヌス製剤(Galenic formulation)に含まれる、請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
適用するためのローション、軟膏、スプレー、クリーム、ゲル、チンキ剤、湿布(soaked compresses)、パッチ、手術用被布、救急絆、包帯材料、タンポン、アンプル、セラム、カプセルの形態である、請求項4又は5に記載の医薬。
【請求項7】
細菌感染症、ウイルス感染症、及び/又は真菌感染症を処置するための請求項1〜3に記載の混合物。
【請求項8】
傷害、皮膚及び粘膜の火傷、皮膚疾患を処置するための、請求項1に記載の混合物。
【請求項9】
以下の工程を含む、請求項1又は2に記載の混合物を製造するプロセス:
a)水及び発芽ライ麦粒を含むカルチャーを細挽き又は粗挽きライ麦粉に添加し、前記混合物を、3〜5時間以内の30〜34℃の加熱プロセスに供する工程;
b)次いで、細挽き又は粗挽きライ麦粉、水、及びヘテロ発酵性乳酸菌群からの細菌接種物を更に添加する工程;
c)前記微生物の代謝活性が止まるまで前記混合物を酸性化し、所望により90〜95℃で低温殺菌する工程;
d)前記混合物を遠心により溶液及び沈殿に分離し、その後、前記溶液を所望により少なくとも1回濾過する工程。
【請求項10】
前記ヘテロ発酵性乳酸菌が、ラクトバチルスDSM 6037及び/又はラクトバチルスDSM 6129である、請求項9に記載のプロセス。

【公表番号】特表2013−505978(P2013−505978A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531350(P2012−531350)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064333
【国際公開番号】WO2011/036304
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(512080996)ヴォルザン ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】