説明

パン酵母の発酵方法

【課題】果実又は野菜に生育している出芽酵母及び低温発酵性乳酸菌を、その果実又は野菜そのものを培地として発酵させるパン酵母の発酵方法を提供する。
【解決手段】密閉可能な容器内に、果実又は野菜を60容量%〜80容量%入れて、密閉し、7日間〜20日間、2℃〜6℃、2日に1回果汁をまんべんなく行き渡るように、かつ、果実又は野菜が崩れないように前記容器を軽く振って攪拌を繰り返した後、20℃〜26℃で2日間〜10日間保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン酵母に使用する果実又は野菜に生育している出芽酵母及び低温発酵性乳酸菌を、その果実又は野菜を培地として低温で発酵させる発酵方法に関し、特に糖分を一切加えず、水分を一切加えずに、果実又は野菜そのものの糖分と水分を利用して発酵させる発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パン酵母(イースト)は、パンの量産製造に適した菌を工業的に培養したものが好まれて使用されてきた。近年、果実又は野菜の表面や樹液などさまざまな場所に生育している出芽酵母(いわるゆる天然酵母)を利用してパン種を作ると、酵母の出すアルコールと、もともと付着していた果実又は野菜のフレーバーがパンに独自の味と香りを付けることから、工業的に培養された酵母ではなく、天然果実又は野菜の酵母を利用してパンの製造が行われるようになってきた。
【0003】
果実又は野菜に生育している出芽酵母を、その果実又は野菜を培地として発酵させる天然酵母の発酵には、雑菌の発生を防ぐために水が使用され、また、パン酵母の増殖に際し、エネルギー源である糖類が添加されていた。
【0004】
しかし、パンの製造工程は長く複雑であり、天然果実又は野菜に生育している出芽酵母を、その天然果実又は野菜を培地として増殖させて使用した場合、諸条件の調節が困難であり品質的に安定した、パン酵母を作り出すのは困難であった。
【0005】
そのため、天然酵母を使用したパンであっても、品質的に安定し、膨らみが有って、粘土質のようにならず、また、表皮が切れたり、内側に大きな空洞が生じることのないものが望まれていた。
【0006】
干しぶどうから分離培養した菌株を用いた天然パン酵母が提案されているが、最終的に特定の菌株を分離抽出して、元々の素材を培地とせずに別に培養する過程を経ることから、結果的に市販のパン酵母と変らず、元々の生の果実又は野菜の素材を生かした天然パン酵母と言えなかった。
【特許文献1】公開特許公報 特開2006−325562
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、果実又は野菜に生育している出芽酵母及び低温発酵性乳酸菌を使用し、水を添加せず、その生育している果実又は野菜そのものを培地として、糖類を一切添加せずとも甘味とうま味があり、品質的に安定したパン酵母を作り出すための果実又は野菜の発酵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意研究し、試行錯誤を繰り返した結果、果実又は野菜に生育する出芽酵母及び低温発酵性乳酸菌を、その果実又は野菜を培地として低温の密閉された容器内で発酵させる方法を発見し、かかる酵母はパン酵母として最適であることを発見した。
【0009】
具体的には、一実施形態に係る本発明のパン酵母の発酵方法は、密閉可能な容器内に、果実又は野菜を60容量%〜80容量%入れて、密閉し、2℃〜6℃、好ましくは3℃〜5℃で、7日間〜20日間、好ましくは10日間〜14日間、少なくとも2日に1回果汁をまんべんなく行き渡るように、かつ、果実又は野菜が崩れないように前記容器を軽く振って攪拌を繰り返した後、20℃〜26℃で2日間〜10日間保存することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係る果実又は野菜の発酵方法によれば、果実又は野菜に生育している出芽酵母及び低温発酵性乳酸菌を使用し、水を添加せずその生育している果実又は野菜そのものを培地として、砂糖を添加せずとも甘味とうま味があり、品質的に安定したパン酵母を作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1により製造したまるパンの断面写真
【図2】従来の天然パン酵母により製造したまるパンの断面写真
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本明細書では、「天然パン酵母」とは、果実又は野菜に生育している出芽酵母を、その果実又は野菜を培地として発酵させたものであって、パン酵母に使用するものを意味する。
【0013】
まず、原料となる果実又は野菜について説明する。原料となる果実又は野菜は、りんご、ぶどう、柿、トマト、みかん、洋梨、いちごのうちいずれか一つを使用する。これらの果実又は野菜は、ショ糖、ぶどう糖、果糖などの糖分を含み、また、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸を含んでいる。
【0014】
原料となる果実又は野菜は、本発明では酵母の培地となるため、乳酸菌や酵母が好む品種であり、熟し過ぎておらず、糖分や有機酸が消費尽くされていないものが望ましい。
【0015】
次に、これら原料となる果実又は野菜を入れる容器について説明する。本発明に使用する容器は、密閉性が高いものでなければならない。いわゆるパッキン型の蓋ではなく、スクリュー型(ねじ込み型)の蓋で、強く締め付けることができるものを使用する。
【0016】
密閉度の高い容器は、煮沸消毒を行い、ヘタを取り除いた原料となる果実又は野菜を用意する。使用する果実又は野菜によって、皮をむくか否か、カットするか否か、すりおろすか否かが異なる。みかんと洋梨は外皮をむき、柿は外皮をむかずに、8等分のくし形切りにし、さらに半分に切る。外皮をむいた洋梨は6等分のくし形切りにし、さらに半分に切る。りんごは外皮をむかずにすりおろす。また、ぶどう、トマト及びみかんについては、皮から果汁が出てくるようにめん棒等を使用し、軽く皮が破れるように適度につぶす。いちごはめん棒で液状になるまですりつぶす。
【0017】
密閉度の高い容器に、果実又は野菜を60容量%〜80容量%入れるようにする。果実又は野菜を多く入れすぎると発酵による炭酸ガスの発生によって容器が膨張しふたが外れる危険がある。逆に、容器に入れる果実又は野菜の量が少なすぎると、カビが容器上部に繁殖する危険がある。
【0018】
容器に果実又は野菜を60容量%〜80容量%入れたら、容器を密閉する。密閉するのは、酸素量を減少させ、雑菌の侵入によるカビの発生や食味の低下を防ぐ効果がある。また、嫌気性または好気・嫌気両性の菌である乳酸菌と酵母に適した環境を確保することにもなる。
【0019】
果実又は野菜を60容量%〜80容量%入れた密閉容器を2℃〜6℃、好ましくは3℃〜5℃の条件で、7日間から20日間、好ましくは10日間から14日間保存する。2℃〜6℃の低温環境で保存することによって、低温に弱いバクテリアや雑酵母の増殖を抑制することになる。また、低温環境に強い乳酸菌(本明細書では「低温発酵性乳酸菌」という)の増殖を促し、乳酸菌が生産する乳酸が、低温環境に強いバクテリアの繁殖を抑える。6℃を超えると、雑酵母、雑菌が増殖しやすくなり好ましくない。2℃より低いと乳酸菌の増殖が弱くなるため、好ましくない。また、保存期間が7日間より短いと、低温に強い乳酸菌の増殖量が少ないため、パンを製造したときにうま味が出ず雑味が残ってしまう。保存期間が20日間を超えると、酵母の発酵のピークを超える場合があり、パンを製造したときに発酵力が弱く、甘みが出ないため好ましくない。
【0020】
上記低温(2℃〜6℃)で保存する期間中、果汁をまんべんなく行き渡るように、ときどき果物が壊れないように軽く上下にゆっくりと容器を振って撹拌する。少なくとも2日に1回撹拌することが望ましい。撹拌することによって、カビの発生や上部の褐変の進行を防ぐ。乳酸菌が生産する乳酸は、バクテリアの増殖を抑制するが、カビの繁殖を抑える効果がないため、少なくとも2日に1回撹拌することが望ましい。
【0021】
上記条件で、7日間から20日間、好ましくは10日間から14日間保存した後、20℃〜26℃の条件で2日間から10日間保存する。20℃〜26℃の環境に置くことにより、低温環境で乳酸菌と共生していた酵母の発酵を促す。この20℃〜26℃に保存する期間の経過に従って、酵母の状態が変化し、甘味、うま味、酸味も変化する。最終的に製造するパン(例えば、ベーグル、まるパン、食パン、スコーン、ピザ生地、クラッカー等)によって、この20℃〜26℃の条件下の発酵期間を2日間から10日間で使い分けるようにする。保存温度は20℃以上でないと、パンの製造に適した酵母の発酵が弱く好ましくない。26℃を超えると、カビが増殖しやすく好ましくない。
【0022】
最後に容器のふたを空け炭酸ガス量、香り、味などにより発酵状態を確認する。
【実施例】
【0023】
以下に示す具体的な実施例1〜7の記載では、いずれの実施例においても、密閉容器に入れる原料の割合を70%容量としているが、60%容量〜80%容量の範囲であればよい。また、冷蔵庫の保存温度については、いずれの実施例においても2℃〜6℃、好ましくは3℃〜5℃の範囲であればよい。また、冷蔵庫に保存する期間については、いずれの実施例においても14日間としているが、7日間から20日間、好ましくは10日間から14日間であればよい。また、冷蔵庫から取り出した後の発酵温度については、いずれの実施例においても25℃としているが、20℃〜26℃の範囲であればよい。さらに、この20℃〜26℃の発酵期間は、いずれの実施例においても、パンの種類によって2日間から10日間で使い分けるようにすればよい。
【0024】
(実施例1)
以下、具体的にりんごを例に本発明の具体的な実施例を示す。りんごは、熟し過ぎていないものを1個使用する。
【0025】
りんごを流水で洗い、りんごの皮を剥かず、おろし器ですりおろし、スクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、すりおろした皮つきりんごとりんごの芯を約70%容量入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も、砂糖などの糖類も一切加えない。
【0026】
上記すりおろした皮つきりんごが約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0027】
15日目に冷蔵庫から密封容器を取り出し、密閉したまま25℃で4日間保存する。時おり蓋を開けて、炭酸ガスやエチレンガスを発散させる。但し、長時間蓋を開けたままにしないようにする。25℃で4日間保存すると乳酸菌とともに酵母菌が活性化しており、密閉容器の蓋を空ければ、そのままパン酵母として利用することが可能となる。色は、濃い茶色に変色している。密閉容器を振ってから蓋を開けると、「プシュッ」と音が聞こえる。また、密閉容器を振ってから蓋を開けると、気泡が出てくる。香りはフルーティーで濃厚な甘い香りがする。味は強い甘味にさわやかな酸味とうま味が感じられる。
【0028】
以下、上記本発明の実施例1により発酵させたパン酵母により作ったまるパンと、従来の天然酵母の発酵方法により発酵させたパン酵母により作ったまるパンとを比較する。
【0029】
(従来例)
従来の天然酵母の発酵方法は下記のとおりである。市販のりんごを流水で洗い、外皮をむいた後、8等分にくし形に切り、さらに約1cm幅の薄切りにした。450ccの容器に8等分にくし形に切り、さらに約1cm幅の薄切りにしたりんごを120g、水を180cc加え、約25℃の常温で7日間保存した。最後に、密閉容器の蓋を空けて、その液体をパン酵母として利用する。
【0030】
次にまるパンの生地の製造方法は、下記の方法に依った。200g小麦粉に対して実施例1により発酵させたすりおろしりんご120ccを添加し、塩1%重量を添加し、10分間こねる。同じように200g小麦粉に対して従来例により発酵させた天然酵母を含む液体120ccを添加し、塩1%重量を添加し、8分間こねる。その後、実施例1の酵母を添加したものと、従来例の天然酵母を添加したものとを同じ25℃の温度環境に置き1次発酵させ、容積が3倍になる時間を測ったところ、下記表1のようになった。
【0031】
【表1】

【0032】
1次発酵させ、容積が3倍になった実施例1の酵母を使用したパン生地と従来例の天然酵母を使用したパン生地をそれぞれ、分割して、50gの丸型に整形し、水を霧吹きし、30℃の環境で1時間保存した。実施例1の酵母を使用したパン生地と従来例の天然酵母を使用したパン生地ともに約1.5倍の容積に膨らんだ。
【0033】
最後に実施例1の酵母を使用したパン生地と従来例の酵母を使用したパン生地をそれぞれ、160℃で13分間焼成し、まるパンが出来上がった。実施例1の酵母を使用したパン生地と従来例の酵母を使用したパン生地を比較すると表2のように違いが鮮明になった。パンの断面にも違いがみられた。図1は、実施例1の酵母を使用したまるパンの断面を示した写真であり、図2は、従来例の天然酵母を使用したまるパンの断面を示した写真である。図1を見ると丸く膨らんでおり、生地の出来上がりが均一になっているのに対し、図2では、丸く膨らまず半月形になっており、生地も内側に大きな空洞が見られ、均一とは言い難い。
【0034】
【表2】

【0035】
以上のように、本発明の実施例1によれば、従来例と比較し、低温の密閉された容器内で、りんごに生育する酵母を、りんごを培地として発酵させることによって、糖類を添加せず、水を添加せずとも、パン生地の1次発酵に掛かる時間が短く、りんごの風味と甘味があり、膨らみが有って、粘土質のようにならず、内側に大きな空洞が生じることもないパンを製造することが可能であることが分かる。以上は、りんごを使用した実施例であったが、以下、ぶどう、柿、洋梨、みかん、トマト及びいちごの各実施例を示す。
【0036】
(実施例2)
ぶどうを例に本発明の具体的な実施例を示す。ぶどうは、未だ熟し過ぎていないものを1房使用する。ぶどうの品種は、スチューベン、ベリーA、ナイアガラなどの品種や、山ぶどうのような酸味や渋みがあるものが望ましい。
【0037】
流水で洗ったぶどうを、丁寧に茎から1粒ずつ取り外し、煮沸消毒したスクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、約70%容量になるように入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も砂糖などの糖類も一切加えない。めん棒でゆっくりと密閉容器の底まで突き、ひと息に実をつぶす。これを2〜3回繰り返す。
【0038】
上記ぶどうが約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0039】
15日目に冷蔵庫から密閉容器を取り出し、密閉したまま25℃で保存する。時おり蓋を開けて、炭酸ガスを発散させる。このように常温に近い25℃の温度環境下に置くと、酵母が発酵を開始し、変化していく。25℃の温度に保存する期間を(1)2日〜3日、(2)3日〜5日、(3)5日〜8日、(4)8日〜10日と4つの段階に分けると、表3に示すように、酵母の状態が変化し、甘味、うま味、酸味も変化する。パンの生地によって、上記(1)〜(4)の酵母の発酵期間を使い分けるようにする。
【0040】
【表3】

【0041】
最後に、密閉容器の蓋を空け、内容物を取り出し万能こし器で、裏漉したものを、パン酵母として利用する。
【0042】
(実施例3)
柿を例に本発明の具体的な実施例を示す。柿は、硬く未だ熟し過ぎていないものを2個使用する。柿の品種は、赤色系よりも黄色系の「富有」、「刀根」など完全に渋みが抜けた品種が望ましい。
【0043】
柿を流水で洗い、ヘタと黒く変色した部分を取り除く。外皮のついたまま柿を8等分のくし形切りにし、さらに半分に切り、煮沸消毒したスクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、約70%容量になるように入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も砂糖などの糖類も一切加えない。
【0044】
上記外皮のついたまま柿を8等分のくし形切りにし、さらに半分に切った柿が約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0045】
15日目に冷蔵庫から密閉容器を取り出し、密閉したまま25℃で保存する。時おり蓋を開けて、炭酸ガスを発散させる。このように常温に近い25℃の温度環境下に置くと、酵母が発酵を開始し、変化していく。25℃の温度に保存する期間を(1)2日〜3日、(2)3日〜5日、(3)5日〜8日と3つの段階に分けると、表4に示すように、酵母の状態が変化し、甘味、うま味、酸味も変化する。パンの種類によって、上記(1)〜(3)の酵母の発酵期間を使い分けるようにする。
【0046】
【表4】

【0047】
最後に、密閉容器の蓋を空け、内容物を取り出し万能こし器で、裏漉したものを、パン酵母として利用する。
【0048】
(実施例4)
洋梨を例に本発明の具体的な実施例を示す。洋梨は、未だ熟し過ぎていないものを2個使用する。
【0049】
洋梨を流水で洗い、外皮をむき、6等分のくし形切りにし、さらに半分に切る。皮と芯は捨てず取っておく。6等分のくし形切りにし、さらに半分に切った洋梨とその皮と芯を、煮沸消毒したスクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、約70%容量になるように入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も砂糖などの糖類も一切加えない。
【0050】
上記6等分のくし形切りにし、さらに半分に切った洋梨とその皮と芯が約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0051】
15日目に冷蔵庫から密閉容器を取り出し、密閉したまま25℃で保存する。時おり蓋を開けて、炭酸ガスを発散させる。このように常温に近い25℃の温度環境下に置くと、酵母が発酵を開始し、変化していく。25℃の温度に保存する期間を(1)3日〜5日、(2)5日〜8日と2つの段階に分けると、表5に示すように、酵母の状態が変化し、甘味、うま味、酸味も変化する。パンの種類によって、上記(1)〜(2)の酵母の発酵期間を使い分けるようにする。
【0052】
【表5】

【0053】
最後に、密閉容器の蓋を空け、内容物を取り出し万能こし器で、裏漉したものを、パン酵母として利用する。
【0054】
(実施例5)
みかんを例に本発明の具体的な実施例を示す。みかんは、小ぶりで皮がむきにくく、身が締まった硬く未だ熟し過ぎていないものを5個使用する。
【0055】
みかんの外皮をむき、内側の薄皮つきのまま、1房ずつに分ける。煮沸消毒したスクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、1房ずつに分けた薄皮つきのみかんを約70%容量になるように入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も砂糖などの糖類も一切加えない。めん棒でゆっくりと密閉容器の底まで突き、ひと息に実をつぶす。これを2〜3回繰り返す。
【0056】
上記みかんが約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。時おり蓋を開けて、炭酸ガスを発散させる。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0057】
15日目に冷蔵庫から密閉容器を取り出し、密閉したまま25℃で保存する。このように常温に近い25℃の温度環境下に置くと、酵母が発酵を開始し、変化していく。25℃の温度に保存する期間を(1)3日〜5日、(2)5日〜8日と2つの段階に分けると、表6に示すように、酵母の状態が変化し、甘味、うま味、酸味も変化する。パンの種類によって、上記(1)〜(2)の酵母の発酵期間を使い分けるようにする。
【0058】
【表6】

【0059】
最後に、密閉容器の蓋を空け、内容物を取り出し万能こし器で、裏漉したものを、パン酵母として利用する。
【0060】
(実施例6)
トマトを例に本発明の具体的な実施例を示す。トマトは、未だ熟し過ぎていないミニトマトを5個〜10個使用する。トマトの品種は、水分量が少なく味や香りが強いミニトマトやミディトマト(中玉)で、身が締まり、皮がしっかりとしている物を選ぶ。形の大きなトマトは望ましくない。
【0061】
トマトは、へたを取り除いて流水で洗い、煮沸消毒したスクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、約70%容量になるように入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も砂糖などの糖類も一切加えない。めん棒でゆっくりと密閉容器の底まで突き、トマトの皮が破れる程度につぶす。
【0062】
上記トマトが約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0063】
15日目に冷蔵庫から密閉容器を取り出し、密閉したまま25℃で保存する。このように常温に近い25℃の温度環境下に置くと、酵母が発酵を開始し、変化していく。25℃の温度に保存する期間を(1)3日〜5日、(2)5日〜8日と2つの段階に分けると、表7に示すように、酵母の状態が変化し、甘味、うま味、酸味も変化する。パンの種類によって、上記(1)〜(2)の酵母の発酵期間を使い分けるようにする。
【0064】
【表7】

【0065】
最後に、密閉容器の蓋を空け、内容物を取り出し万能こし器で、裏漉したものを、パン酵母として利用する。
【0066】
(実施例7)
いちごを例に本発明の具体的な実施例を示す。いちごは、未だ熟し過ぎていないものを使用する。いちごは、ハウス栽培ではなく露地栽培のものが望ましい。小粒で身が締まり、甘味と酸味が濃いものを選ぶ。
【0067】
いちごは、へたを取り除いて流水で洗い、煮沸消毒したスクリュー型(ねじ込み式)の蓋で締め付ける450ccの密閉容器に、約70%容量になるように入れる。このとき、従来の天然酵母の製造方法に用いられていた水も砂糖などの糖類も一切加えない。めん棒で液状になるまで擦りつぶす。
【0068】
上記いちごが約70%容量入った密閉容器を冷蔵庫で14日間保存する。2日に1回冷蔵庫から密閉容器を取り出し、上下にゆっくりと振り攪拌し、また冷蔵庫に戻す。
【0069】
15日目に冷蔵庫から密閉容器を取り出し、密閉したまま25℃で保存する。このように常温に近い25℃の温度環境下に置くと、酵母が発酵を開始し、変化していく。5日〜8日間、25℃の温度に保存すると、乳酸菌とともに酵母菌が活性化しており、密閉容器の蓋を空ければ、そのままパン酵母として利用することが可能となる。いちごの実は、崩れており、生のいちごより色が薄くなり白っぽい色になっている。液体は、いちごの実からとろみのある水分が出て薄いピンク色になっている。密閉容器を振ってから蓋を開けると、「シューッ」と音が聞こえる。また、密閉容器を振ってから蓋を開けると、細かい泡が蓋に付く程に湧き上がる。香りはいちごの甘味が強まった濃厚な甘い香りがする。味はやわらかい甘味を感じ、酸味はあまり感じられない。
【0070】
最後に、密閉容器の蓋を空け、内容物を取り出し万能こし器で、裏漉したものを、パン酵母として利用する。蒸しパンやワッフルに好適なパン酵母として使用することができる。
【0071】
以上のように、本発明の一実施形態に係る果実又は野菜の発酵方法によれば、果実又は野菜に生育している出芽酵母を使用し、その生育している果実又は野菜を培地として、砂糖を添加せずとも甘味とうま味があり、品質的に安定したパン酵母を作り出すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実又は野菜に生育している出芽酵母及び低温発酵性の乳酸菌を、前記果実又は野菜を培地として発酵させる天然パン酵母の発酵方法であって、2℃〜6℃で7日間〜20日間発酵させる第1の発酵過程と、20℃〜26℃で2日間〜10日間発酵させる第2の発酵過程とからなる天然パン酵母の発酵方法。
【請求項2】
果実又は野菜に生育している出芽酵母及び低温発酵性の乳酸菌を、前記果実又は野菜を培地として発酵させる天然パン酵母の発酵方法であって、密閉可能な容器内に、前記果実又は野菜を60容量%〜80容量%入れて、密閉し、2℃〜6℃で7日間〜20日間、2日に1回果汁をまんべんなく行き渡るように、かつ、前記果実又は野菜が崩れないように前記容器を軽く振って攪拌を繰り返した後、20℃〜26℃で2日間〜10日間保存することを特徴とする天然パン酵母の発酵方法。
【請求項3】
前記果実又は野菜が、りんご、ぶどう、柿、トマト、みかん、洋梨、いちごのうちいずれか一つであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の天然パン酵母の発酵方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の発酵方法により得られた天然パン酵母。
【請求項5】
請求項1〜3に記載の発酵方法により得られた天然パン酵母を含有するパン生地。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−250717(P2011−250717A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125384(P2010−125384)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(509230115)
【Fターム(参考)】