説明

パン類の製造方法

【課題】 パン類に独特の香ばしさを付与し、醤油の独特な風味が少ないパン類を得ること、並びにタンパク質原料由来のこく味、旨味を有するパン類を得ること。
【解決手段】 タンパク質原料および澱粉質原料を含有する原料に種麹菌を接種して製麹を行い、得られたタンパク性麹を食塩非存在下又は低食塩存在下、46〜64℃の温度範囲で加水分解に付することを特徴とする方法にて製造した調味料を、小麦その他の製パンに常用される原料とともに混合した後、発酵せしめ、次いで焼成することにより目的とする醤油っぽさのないすぐれた香味を有するパン類を製造することができる。タンパク質原料としては大豆、澱粉質原料としては小麦が、それぞれ、例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類の製造方法に関するものであり、更に詳細には、タンパク質加水分解物を含有する調味料を使用することにより、香ばしく、こく味を有する美味なパンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンの香ばしい香りは、発酵と焼成時のカラメル化およびアミノカルボニル反応により生じることが知られている。特に表皮の焼成臭は2−アセチルピロリンが強い影響を与えていると考えられている(非特許文献1参照)。しかし、消費者ニーズに合わせてパンも多様化が進んでおり、従来のパンとは異なる風味付与が求められている。現在まで醤油、特に白醤油をパン原料と共に混合、発酵、焼成させることを特徴とするパン類の製造法(特許文献1参照)が知られているが、濃口醤油では香ばしさは認められるものの醤油の風味が強く違和感があり、また、白醤油では醤油の風味はないが香ばしい風味は感じられず、現在の各種醤油では改良の余地があるものであった。
【特許文献1】特開昭58−220638
【非特許文献1】「食の科学」 2002年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来にない独特の香ばしさを付与し、醤油などの独特な風味が少ないパン類を得ること、ならびに、こく味や旨味を有する新しいタイプのパン類を製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、しかもその際、従来パンの製造に用いられてきた添加物を用いることなく上記目的を達成するためになされたものであって、各方面から検討の結果、醤油の風味が強く違和感があり、パンの製造には問題があった醤油にあえて注目し、使用原料、製造方法、製造条件等広範囲にわたり鋭意研究を行ったところ、全く予期せざることに、大豆や小麦といったタンパク質含有豆類および穀類に種麹菌を接種して製麹を行い、食塩の非存在下又は低食塩存在下(8%以下)において、高温(46〜64℃)加水分解を行い、得られた調味料を小麦粉等の製パン原料に添加して製パンしたところ、旨味、コクがあり、一方、異味異臭はない非常にすぐれた香ばしいパンが得られることをはじめて見出し、この新知見に基づき、更に検討、研究を行い、遂に完成されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、タンパク質含有豆類および穀類(例えば、大豆、小豆、ソラ豆、エンドウ豆、落花生、インゲン豆、小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦、裸麦、フスマ、米(モチ米、ウルチ米、インディカ米、ジャポニカ米、発芽玄米、古代米(黒米、赤米、緑米、香り米))、米糠、ソバ、アワ、ヒエ、コウリャン、トウモロコシ等であり、それらを加工したり(例えば、脱脂大豆、大豆粉、ひきわり大豆、小麦粉砕物、小麦グルテン、加工小麦、コーングルテン等)、それらを単独もしくは2種以上を混合して使用することもできる。なお、豆類および穀類は、その含有成分に応じて、タンパク質原料、澱粉質原料と区別して使用することもできる。)を加水分解して得たタンパク質加水分解物(調味料ということもある)を用いて製パンすることを特徴とし、香ばしい香味を有し、醤油っぽさやその他の異味異臭のないすぐれたパンを新規に提供するものである。
【0006】
本発明は、特に製パンに好適なタンパク質加水分解物(発酵調味料、又は単に調味料ということもある)を見出し、これを製パンに利用して香ばしい高品質のパン類の創製にはじめて成功したものであって、特許請求の範囲によって特定されるものであるが、その態様としては、例えば次のものが包含される。なお、本発明において、調味料には醤油は含まれない。醤油とは「しょうゆの日本農林規格(平成16年9月13日、農林水産省告示第1703号)」に規定されているものをいう。
【0007】
(態様1−1)
豆類及び穀類(例えば、大豆及び小麦)からなる原料あるいは豆類及び穀類を含有する原料を、酸、酵素(例えば、精製酵素、酵素製剤)、酵素含有物(例えば、粗製酵素、麹)から選ばれる少なくともひとつによって加水分解し、得られたタンパク質加水分解物をそのまま調味料として用いあるいはタンパク質加水分解物の含有物を調味料として用い、これを小麦粉その他常用される製パン原料と共に混合し、あるいは、調味料を除く製パン原料を混合した後に調味料を添加し、しかる後に、発酵、焼成すること、を特徴とするパン類の製造方法。但し、調味料から醤油は除く。
【0008】
(態様1−2)
豆類及び穀類を、含有成分(タンパク質と澱粉質)量にしたがって、タンパク質含量の高い原料をタンパク質原料とし、澱粉質含量の高い原料を澱粉質原料として区分して使用する。
加水分解する原料としてのタンパク質原料とは、豆類および穀類の中で、タンパク質に富む原料(大豆、落花生、ソラ豆、エンドウ豆その他の豆類、小麦グルテン、加工小麦、大麦、裸麦、ライ麦、ソバ、キビ等)からなるか、あるいはそれを主成分としてなるものである。タンパク質に富む原料以外の原料としては、例えば澱粉質原料があり、澱粉質に富む原料(小麦、加工小麦、米、小豆、トウモロコシ、アワ、ヒエ等)が使用可能である。なお、これらの豆類や穀類は、タンパク質原料および澱粉質原料として厳格に区別されるものではなく、前者として使用するものを後者として使用すること、及びその逆も可能である。
【0009】
(態様2)
調味料が、タンパク質原料70〜90重量部に対して澱粉質原料10〜30重量部の比率で両者を含有する原料に種麹菌を接種して製麹を行い、得られたタンパク性麹を食塩非存在下又は低食塩存在下、例えば46〜64℃の温度範囲で加水分解に付することを特徴とする調味料であることを特徴とするパン類の製造方法。
【0010】
タンパク質原料として例えば大豆(丸大豆のほか、ひきわり大豆、大豆粉、脱脂大豆を含む)が使用され、澱粉質原料として例えば小麦(丸小麦、小麦粉砕物、小麦グリッツ、加工小麦、小麦粉を含む)が使用される。また、所望する場合には、上記したタンパク質に富む原料の1種又は2種以上をタンパク質原料として使用することができるし、澱粉質に富む原料の1種又は2種以上を澱粉質原料として使用することができ、これらの原料は粉砕したり、粗砕したり、粉末化したりしてもよい。
【0011】
(態様3)
好ましくは、加水分解にあたり、食塩濃度は醤油よりも低く、8%以下、好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下であって、0%、すなわち食塩が不存在の場合においても高品質のパンが得られる。また、加水分解温度も醤油より高く、46〜64℃であり、好ましくは48〜62℃、更に好ましくは52〜60℃であり、食塩及び加水分解温度のいずれの面からも、本発明で使用する加水分解物(調味料)は、醤油とは相違するものである。
【0012】
(態様4)
上記した方法の少なくともひとつの方法で製造してなるパン類、これらのパン類は、風香味がすぐれ、特に香ばしい香りを有する点では特徴的であり、このようなパン類は従来未知の新規食品である。
【0013】
(態様5)
タンパク質原料(例えば大豆)/澱粉質原料(例えば小麦)(v/v)を80/20〜20/80の比率で含有する原料に、麹菌を接種して製麹した麹を添加し、食塩の非存在下又は低食塩存在下にて、醤油の常法よりも高温で(例えば、46〜64℃)加水分解に付することによって得た調味料(但し、醤油は除く)を、小麦粉その他のパン原料と共に混合、発酵、焼成すること、を特徴とするパン類の製造方法。上記調味料を有効成分として含有する風味改善剤。なお、これらにおいて、該醤油麹にかえて各種の麹も使用可能である。
【0014】
(態様6)
本発明は、上記した調味料(但し、醤油を除く)を有効成分とするパンの風味改善剤及びこれを使用することによるパンの風味改善方法にも関する。
本発明に係るパンの風味改善剤は、液状、ペースト状、固体状(粉末、顆粒、ペレット、錠剤、カプセル等)といった各種の形状とすることができる。なお、本発明において、タンパク質原料としては、小麦グルテンをその一部に使用することができる。
【0015】
また、本発明の調味料としては、本発明方法と同じ方法で製造したものであれば市販品も使用可能であるが、その場合は、例えば、タンパク質原料として豆類及び穀類を20〜100重量部有する原料を食塩の非存在下又は低食塩存在下にて高温で加水分解して得た加水分解物を含有し、パンの風香味改善作用を有するものであることを特徴とし、パンの風香味改善のために用いられるものである旨の表示を付した調味料(但し、醤油を除く)とすることにより、通常の単なる調味料として使用する場合と明確に区別することができる。本発明は、これら市販の調味料について新しい用途を見出したものであって、一種の用途発明でもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パン類に独特の香ばしさを付与し、醤油の独特な風味が少ない(例えば醤油っぽさがない)パン類を得ることができ、また、タンパク質原料由来のこく味、旨味を有する従来にない全く新しいタイプのパン類を製造できるという著効が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するには、上記したように、豆類および穀類を原料とし、あるいは、タンパク質原料と澱粉質原料との混合物を原料とし、これを加水分解し、得られた加水分解物を調味料として製パン原料に用いるほかは、通常の製パン法と同様にして行えばよい。
【0018】
例えば、主原料として小麦粉に加水分解物(調味料)を0.1〜15%、好ましくは0.5〜10%、更に好ましくは1〜5%添加し、さらに食塩、パン酵母(イースト)、その他の副原料を所定量添加して均一に混和し、水を用いて混捏し(生地を調製し)、20〜40℃で30〜150分一次発酵した後、所定の形状に成形し、所定の温度、時間二次発酵し、焼成することによって製造することができる。また、この調味料は、これ以外の原料を混合した後に添加混合し、しかる後に発酵させてもよい。
【0019】
加水分解物(調味料)は、原料を加水分解して製造する。加水分解としては、酸、酵素(精製酵素、酵素剤)、酵素含有物(粗製酵素)、麹等を使用して行う。例えば、米、麦、大豆、フスマを原料とした液体麹、固体麹、それらの処理物(例えば、培養濾液、粗酵素抽出液)、市販のプロテアーゼ製剤が使用可能である。
【0020】
また、次のようにしても加水分解物(調味料)を製造することができる。
【0021】
本発明で使用するタンパク質原料としては、通常の醤油製造に使用されるタンパク質原料を使用することができる。例えば、粉砕した澱粉質原料、特に好ましくは粉砕した小麦(小麦粉砕物)を配合して麹ができるタンパク質原料であれば種類を問わず、好ましいものとして使用することができる。そのようなタンパク質原料として、好ましくは大豆、より好ましくは脱脂大豆を使用することができる。この他に大麦、米、とうもろこし、米の分離タンパク質、小麦グルテン、ビール醸造副製品(ビール粕)等のタンパク質原料も使用できる。
【0022】
製麹に先立ち、好ましくはタンパク質原料の加熱変性処理を行う。例えば、脱脂大豆を例にすると、重量換算で1.0〜1.3倍の水を加えた後、1.5〜2.0kg/cm2の条件で高温高圧処理されたものを用いることができる。
【0023】
本発明で使用する澱粉質原料には小麦、ふすま、大麦、トウモロコシ等が使用される。その使用に際し好ましくは、澱粉質原料を粉砕し、粉末の粒径としてより好ましくは大きくとも18メッシュパス(18メッシュパス以下)の粒子を90%以上、更に好ましくは大きくとも30メッシュパス(30メッシュパス以下)の粒子を90%以上含有する程度まで粉砕して使用することができる。澱粉質原料の粉砕は、グラインダー、ロール割砕機、石臼等を用いて行い、その後必要に応じて篩分を行うこともできる。
【0024】
タンパク質原料と澱粉質原料、好ましくは粉砕した澱粉質原料との配合比率については、重量比でタンパク質原料70〜90部に対して澱粉質原料を10〜30部、好ましくは重量比で80部:20部程度である。澱粉質原料の配合比率が1割(10部)未満では望ましい製品が得られず、配合比率の減少に応じて製麹も困難になり、無添加では麹ができない。一方、配合比率が3割(30部)を超えると製品の穀物臭が強くなり、好ましくはないが、食用に供し得ない程度の製品とまではならない。
【0025】
製麹に用いる種麹としては、醤油用の種麹として常用されている種麹菌(アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ等)を使用することができ、市販の醤油用種麹を使用すればよいが、プロテアーゼ活性、ペプチダーゼ活性、グルタミナーゼ活性等を十分有するものを選択するのが望ましい。
【0026】
製麹方法については、従来の醤油製造法で行われる製麹方法に従って行えばよく、例えば培養床上で、加熱処理を施したタンパク質原料と粉砕した澱粉質原料の混合物に種麹菌(アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ等)を接種し、22〜40℃程度で約40時間培養して麹を製造することができる。
【0027】
製麹工程で得られた麹(出麹)を加水分解する際に、麹に加える水の量については、好ましくは麹の重量の1〜4倍程度、更に好ましくは麹の重量の1.5〜2.5倍程度の水を使用することができる。加水分解を行う場合は、食塩を添加しない食塩非存在(無塩条件)下で行うのが望ましい。また、低食塩存在下、例えば5%以下(重量)の低濃度の食塩存在(低塩条件)下で行うこともできる。食塩濃度が高くなり10%を超えると、パンに醤油様の風味が付与されてしまい、望ましい製品が得られない。
【0028】
無塩又は低塩条件下で麹の加水分解を行うが、その時の温度範囲は、46〜64℃、更には52〜60℃であり、好ましくは55〜60℃程度、更に好ましくは55〜58℃である。加水分解温度が60℃を超え、特に65℃では、麹臭、豆臭及び収斂味が強い調味料になり、異風味を感じ、70℃ではコゲ臭や、褐変風味の強い調味料になり異風味を感じてしまう。一方、加水分解温度が46℃未満の温度では、非常に酸味が強い調味料となる。
【0029】
加水分解が終了した諸味を圧搾して、液体部分、即ち生揚を分離する。更に必要な場合、生揚を濾過し、不溶性のオリを取り除くことができる。濾過の際、適当な濾過助剤を使うことができる。例えば、「ラジオライト#900」(昭和化学工業)、「トプコパーライト#38」(東興パーライト工業)等を使用することができる。
【0030】
濾過して得られた生揚は殺菌処理を施し、これを珪藻土等で濾過して目的とする清澄な液体調味料を得ることができる。以上本発明の方法において、加水分解工程を経て得られる調味料は、液状、粉末状、その他の形状とすることもできる。
【0031】
この調味料としては、態様2で示した調味料が市販されているので、市販品(発酵調味料:正田醤油(株)製品)も使用することができ、すぐれた品質を有するあんぱん、揚げパン、クリームパン、ジャムパン等の菓子パン;ピザパン、カレーパン等の調理パン;食パン;クロワッサン、バゲット、フランスパン;ロールパン等各種のパン類を製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
タンパク質加水分解物を使用してパンを製造した。
【0034】
(1)使用した試料
タンパク質加水分解物としては、下記表1に示した各試料を使用した。
【0035】
〔表1〕
<使用した試料>
―――――――――――――――――――
小麦・大豆を主原料とした加水分解物
(A)発酵調味料(正田醤油(株))
(B)醸造調味料1(A社)
―――――――――――――――――――
大豆を主原料とした加水分解物
(C)アミノ酸液(B社)
―――――――――――――――――――
小麦を主原料とした加水分解物
(D)醸造調味料2(A社)
(E)醸造調味料3(C社)
―――――――――――――――――――
本醸造醤油
(F)濃口醤油(C社)
(G)白醤油(D社)
―――――――――――――――――――
【0036】
使用した試料の加水分解の条件を下記表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(2)配合と工程
下記表3の配合及び下記表4の工程にてロールパンを製造した。なお、表3において、タンパク質加水分解物(調味料)は調味液の欄に示し、コントロール(対照)としては食塩を使用した
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
(3)官能結果
当社(正田醤油(株)食品研究所)の熟練したパネル15名により、5点評価法(1弱い〜5強い)にて評価を行った。得られたパネルテストの結果を下記表5(醤油感)、表6(香ばしさ)に示した。
【0042】
〔表5〕
<官能結果>
○醤油感
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コントロール (D) (A) (E) (G) (B) (C) (F)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均値 1.00 1.33 1.33 1.37 1.43 1.47 1.47 3.77
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0043】
5点評価法により、各々の平均値の差が0.5以上の場合、有意水準5%で有意となる。よって、上記結果において、濃口醤油(F)とその他すべての間にはそれぞれ有意差がある。
【0044】
〔表6〕
○香ばしさ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コントロール (G) (C) (E) (F) (D) (B) (A)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均値 3.00 3.10 3.67 3.70 3.70 3.77 3.83 4.50
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0045】
5点評価法により、各々の平均値の差が0.49以上の場合、有意水準で5%で有意となる。
【0046】
よって、上記において、コントロールとアミノ酸液(C)・醸造調味料3(E)・濃口醤油(F)・醸造調味料2(D)・醸造調味料1(B)・発酵調味料(A)との間に、そして、白醤油(G)とアミノ酸液(C)・醸造調味料3(E)・濃口醤油(F)・醸造調味料2(D)・醸造調味料1(B)・発酵調味料(A)の間に、そして更には、発酵調味料(A)とその他全ての間にそれぞれ有意差がある。
【0047】
上記結果から明らかなように、発酵調味料(正田醤油(株))を使用した場合に著効が奏されることが立証された。また、上記市販品(正田醤油(株)製品)にかえて、他のタンパク質加水分解物含有調味料を用いて製パンした場合も同様な著効が奏されたが、醤油の場合、濃口醤油では香ばしさは認められるものの醤油の風味が強く違和感があり、また白醤油では醤油の風味はないが香ばしい風味は感じられなかつた。
【0048】
上記調味料の例として、次のようなタンパク質加水分解物が例示される。
蒸煮脱脂大豆4重量部と蒸煮したフスマ1重量部の混合物に醤油麹菌を接種し、25〜30℃で45時間の通風製麹を行い、得られた28℃のフスマ使用醤油麹(40kg)と75℃の熱水(70kg)を混合して、品温55℃のもろみを調製する。このもろみを1時間に1回の間欠通気によって攪拌し、無塩の状態で加水分解して、酵素分解もろみを得る。次いで、これを圧搾濾過して、無塩のタンパク質分解酵素調味液を製造する。
【0049】
(実施例2)
本発明に係る調味料を用いて各種のパンを製造し、得られた各種パンにおける香ばしさについて、官能テストを行った。
【0050】
調味料としては、発酵調味料(正田醤油(株))を用い、表7に示す配合及び工程にてあんぱん、表8に示す配合及び工程にて食パン、表9に示す配合及び工程にてピザパン、表10に示す配合及び工程にてカレーパン、表11に示す配合及び工程にてフランスパンをそれぞれ製造した。なお、各表中、調味料は発酵調味料と表示した。
【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
【表9】

【0054】
【表10】

【0055】
【表11】

【0056】
製造した各種のパンについて、以下によりパネルテストを行った。
パネル:正田醤油(株)食品研究所所員15名
方法: 5点評価法(1弱い〜5強い)
それぞれの発酵調味料無添加品を香ばしさ3とし比較する。
平均値を下記表12に示す。
【0057】
【表12】

【0058】
上記結果から明らかなように、実施例1のロールパンの香ばしさの平均値は4.5であり、食パン・あんぱんはそれに劣る。また、カレーパン・ピザパン・フランスパンは4.5を上回り、各種パンのなかでもこれらパンにおいて発酵調味料の特徴を出すことができる。
【0059】
(実施例3)
調味液の製造における加水分解条件の違いがパンの風味に与える影響について、以下により検討した。
【0060】
<調味液製造方法>
・脱脂大豆に110重量%撒水し、オートクレーブで130℃、10分加熱処理を行い、30分放冷し、粉砕した小麦を混合して脱脂大豆80重量%と小麦20重量%の原料を調製する。
・加熱処理した原料に市販の種麹を加え常法に従って、30〜35℃で40時間製麹を行う。
試験1:得られた出麹に水および3〜10%(w/v)の食塩水を加えて混合し、55℃24時間加水分解を行う。
試験2:得られた出麹に水を加え混合し、45〜65℃24時間加水分解を行う。
・各試験区の加水分解終了後、圧搾して固液分離を行い、液部を80℃30分加熱殺菌後、珪藻土濾過をして調味液とする。なお、水量は出麹の2倍量とする。
【0061】
<パンの製造方法>
下記表13の配合にて以下によりパンを製造した。
1)ドライイーストを40℃位のお湯10gを注いで5分位ふやかしておく。
2)フードプロセッサーに強力粉、砂糖、塩、溶き卵、バター、1)のドライイーストを入れ水を注ぎながらパルスでかき混ぜる。混ざったら連続運転を3分弱する。
3)ボールに生地をまるめて入れラップをし、35℃に設定した恒温槽に50分保温する。(一次発酵)
4)打ち粉をしたまな板の上で生地を折りたたみながらたたく(ガス抜き)。
5)ボールに4)を入れてラップをし、再度35℃恒温槽にて10分位休ませる(ベンチタイム)。
6)5)を40gずつ分けて成形し、レンジシートを敷いた鉄板にのせ、ラップをかけて38℃恒温槽にて50分間発酵させる。(二次発酵)
7)180℃に温めたガスオーブンの中段で12分焼く。
【0062】
【表13】

【0063】
<評価方法:5点評点法>
パンとして適さないもの(1〜2点)
パンとして添加効果が薄いもの(2.1〜3.5点)
パンとして添加効果が高いもの(3.6〜5点)
パネル;正田醤油(株)食品研究所所員15名
【0064】
<結果>
得られた結果を下記表14(試験1:食塩濃度の影響)及び表15(試験2:反応温度の影響)にそれぞれ示した。
【0065】
【表14】

【0066】
【表15】

【0067】
上記試験1の結果から明らかなように、食塩濃度が7%をこえて10%になると醤油感が増える傾向にあり、違和感を感じるようになることから、食塩濃度は8〜9%程度を上限とするのがよく、好ましくは7%以下が好適であると認められた。無塩の場合、高い評価が得られた。
【0068】
また、上記試験2の結果から明らかなように、加水分解温度が45℃では酸味が目立つ傾向にあり、一方、65℃では豆臭が目立つ傾向が認められた。これらの結果から、反応温度は、46〜64℃とするのがよく、更に好ましくは51〜59℃とするのがよいものと認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆類及び穀類を有する原料を加水分解して得たタンパク質加水分解物を含有する調味料(但し、醤油を除く)を、小麦粉その他のパン原料と共に混合、発酵、焼成すること、を特徴とするパン類の製造方法。
【請求項2】
加水分解が、豆類及び穀類を対象とし、酸、酵素製剤、酵素含有物の少なくともひとつを用いて行われること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵素含有物が麹であること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質原料70〜90重量部に対して澱粉質原料10〜30重量部の比率で両者を含有する原料に種麹菌を接種して製麹を行い、得られたタンパク性麹を食塩非存在下又は低食塩存在下にて加水分解に付することによって得られた調味料(但し、醤油を除く)を使用すること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質原料として大豆を用い、澱粉質原料として小麦を用いること、を特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質原料/澱粉質原料(v/v)を80/20〜20/80の比率で含有する原料に、種麹菌を接種して製麹した麹を添加し、食塩の非存在下又は低食塩存在下にて加水分解に付することによって得られた調味料(但し、醤油を除く)を、小麦粉その他のパン原料と共に混合、発酵、焼成すること、を特徴とするパン類の製造方法。
【請求項7】
小麦粉その他のパン原料を混合した後に、該調味料(但し、醤油を除く)を添加し、しかる後に発酵せしめること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
食塩濃度が8%以下、加水分解温度が46〜64℃であること、を特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で製造してなる風香味のすぐれたパン。
【請求項10】
香ばしい香りを有するパンであること、を特徴とする請求項9に記載の風香味のすぐれたパン。
【請求項11】
豆類及び穀類を有する原料を加水分解して得た加水分解物を含有する調味料(但し、醤油を除く)を有効成分としてなること、を特徴とするパンの風味改善剤。
【請求項12】
豆類及び穀類の混合物からなる原料に麹菌を接種して、食塩の非存在下又は低食塩存在下において、通常の醤油醸造の場合よりも高温にて加水分解を行い、得られた加水分解物を含有する調味料(但し、醤油を除く)を有効成分としてなること、を特徴とするパンの風味改善剤。

【公開番号】特開2006−262892(P2006−262892A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373974(P2005−373974)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【出願人】(000195052)正田醤油株式会社 (5)
【Fターム(参考)】