説明

パン類の製造方法

【課題】焼成したパン類において、デンプンおよびタンパク質の老化を抑制して、品質の低下を防止すると共に、完全焼成品を冷凍したのちに解凍した場合であっても、焼きたてパンの品質を保持することができるパン類を提供することを目的とする。
【解決手段】主原料と副原料とを混合し、混捏してパン種を作り、これを発酵させた後に焼成するパン類の製造方法において、前記副原料の一つとして、アルカリイオン水と食用油脂とを混合することによって生成した乳化油脂組成物を、前記主原料100重量部に対して、1〜20重量部の範囲で、主原料を混捏する前に混入することを特徴としているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプン及びタンパク質の老化を抑制すると共に、焼成後における品質の早期低下を防止し、さらに、完全焼成品を冷凍したのちに解凍した場合であっても、焼きたて直後と同様の品質を保持できるパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食パンやイギリスパンなどのパン類は、従来より、概ね次のような方法によって製造されている。
まず、主原料である小麦粉と、副原料であるイースト、塩、水等をミキサーボールに入れて混捏し、小麦粉に含まれるタンパク質が水和して互いに結合し、グルテンが形成されたら、バター、マーガリン等の油脂類を適量混入して混捏しパン種を作る。そして、このパン種を一次発酵させたのち、成形して二次発酵させ焼成する。
【0003】
ところで、このようにして焼成したパン類は、時間の経過に伴い、水分が蒸散すると共に、デンプン、タンパク質、油脂等が、直接空気に触れて老化する。その結果、風味や食感が悪くなるため、商品としての価値が下がることが避けられなかった。
【0004】
また、近年では、健康指向の見地から、乳化剤等の保存料を添加しないパン類が普及しているが、これらのパン類は、焼成後における品質の低下が特に早いという問題があった。
【0005】
従って、パン類が売れる時間帯に焼きたてのパンを提供できるようにするには、パン類を製造する時間帯が夜間もしくは早朝の場合が多く、労働条件が良くないことから、改善が求められていた。
【0006】
また、パン類の一日の販売量は、日によって異なることから、いままでの経験則でその日の製造量を決めても、目算が外れることがあり、商品が無駄になることがあった。
【0007】
これらの問題点を克服するために、パン種の状態で冷凍保存しておき、適宜解凍して焼成するという方法が行われている。
しかし、このようにパン種の状態で冷凍保存した場合、発酵力の低下や、パン種の表面乾燥などの問題があった。また、この冷凍のパン種は、パン類を店頭に並べるまでにパン種の解凍、発酵、焼成の工程があることから、店頭でパン類が品切れ状態になっても、すぐに供給できるわけではなかった。
【0008】
このようなことから、上記の問題点の改善策として、焼成したパン類を冷凍保存するという方法が考えられる。この場合、解凍したものを販売することにより、作業の効率化が図れると共に、店頭への供給がスムーズになる。
なお、一般家庭においては、焼成後のパン類の品質の低下を防止する目的で、冷凍することが行われている。しかし、パン類に含まれる水分が凍結して表面に氷の結晶ができるなど、パン類の商品価値が低下することから、販売を目的とするような場合において、焼成したパン類を冷凍保存しておき、適宜解凍して販売するというようなことは行われていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2000−37157号公報
【特許文献2】特開平6−70673号公報
【特許文献3】特開平8−24865号公報
【特許文献4】特開2004−337011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、焼成したパン類は、冷凍することで老化を防ぐことができるが、従来の製法により焼成したパン類を冷凍すると、パン生地に含まれる水分が、他の成分と分離して氷の結晶になる。そして、水分が氷になる際に体積が膨張すると共に、近傍にある氷の結晶が纏まって、大きな結晶に成長することから、パン生地の組織が破壊されてしまう。
そうすると、パン類の表面に皺が発生したり、縮み変形等の性状変化(冷凍障害)が起きやすくなり、さらに、解凍したのち水分が蒸散すると、デンプン、タンパク質、油脂等が、直接空気に触れる確率が高くなるため、デンプン、タンパク質、油脂等の老化が速まるという弊害があった。
【0011】
また、冷凍保存したのち解凍したパン類は、氷の結晶が溶けると同時に、パン類の表面に接する空気が氷の結晶と接触して冷却され、空気中の水分がパン類の表面に結露する。よって、パン類自体に含まれていた水分と、結露とがあいまって、パン類の表面が水に濡れたようになり、パン生地の表面の組織の腰がなくなる。
【0012】
こうしたパン類は、サンドイッチ等の調理パンとして加工する際に、マーガリンを塗るなどの作業をすると、パン生地の表面が潰れてしまうため、食感が悪くなり、商品の価値が低下する。従って、冷凍したパン類は、解凍したのち、常温下に放置するなどして表面の水分が蒸散するのを待つことから、解凍から調理作業に移るのに時間がかかり作業効率が悪いという問題があった。
【0013】
本発明は、焼成したパン類を冷凍して、品質の早期低下を防止すると共に、解凍するだけで、焼きたて直後と同様の品質を有するパン類を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
主原料と副原料とを混合し、混捏してパン種を作り、これを発酵させた後に焼成するパン類の製造方法において、
前記副原料の一つとして、アルカリイオン水と食用油脂とを混合することによって生成した乳化油脂組成物を、前記主原料100重量部に対して、1〜20重量部の範囲で、主原料を混捏する前に混入することを特徴としている。
【0015】
前記乳化油脂組成物は、pH12以上のアルカリイオン水100重量部に対し、食用油脂を1〜50重量部の範囲で混合すると共に、適量の砂糖を混入し、攪拌して、微粒子化させた食用油脂を、アルカリイオン水の界面活性力によってアルカリイオン水と結合させ、エマルジョン化したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のパン類の製造方法によって焼成したパン類は、パン種を造る工程において、主原料(小麦粉、大麦粉、ライ麦粉など)を混捏する前に、水等の副原料と共に乳化油脂組成物を混入することにより水が改質され、焼成したパン類に耐凍性が付与される。よって、このパン類は、冷凍してもパン生地の組織が崩れてパン生地の表面に皺が発生したり、縮み変形等の性状変化(冷凍障害)を起こすというようなことがない。
【0017】
また、この冷凍したパン類は、解凍してもパン生地の組織が崩れずにしっかりしていて、直接空気に触れるパン生地の表面積が少ないことから、デンプン、タンパク質、油脂等の老化を抑制することができる。しかも、乳化油脂組成物に含まれる強アルカリ性のアルカリイオン水の還元作用により、パン類の酸化が抑制されるので、パンの風味が持続するという利点を有している。
【0018】
本発明の製造方法により焼成されたパン類は、包装後、数日間冷凍しても、目立った氷の結晶がみられず、また、解凍してもパン類の表面や包装材に殆ど結露が生じないことから、冷凍保存したものを解凍して、商品として販売することを可能にした。
【0019】
また、本発明によって得られたパン類は、解凍しても表面が水に濡れたような状態にならない。従って、調理パンを造る場合、ある程度解凍してパンの表面に弾力がでてきたら、マーガリンを塗るなどの作業が始められるので作業性に優れている。
【0020】
さらに、この乳化油脂組成物は、成分がアルカリイオン水と植物油脂のみであることから、人体に害を与えないと共に、パン種に混入する全体水分量の一部を、乳化油脂組成物に置き替えて混入すればよいので、混入量の割り出しが容易であるという利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るパン類の製造方法について説明する。
例えば、食パンを製造する場合は、ミキサーボール内に、主原料である小麦粉と、副原料であるイースト、塩、水等を投入すると共に、小麦粉100重量部に対して乳化油脂組成物5重量部を混入する。そして、最初は低速で攪拌して、小麦粉と副原料である水等を全体に満遍なく混ぜ合わせ、小麦粉が水により纏まってきたら、攪拌速度を徐々にあげて混捏する。これにより、小麦粉中のタンパク質が水と接触して水和し、粘りのあるグルテンが形成される。
この時点において、乳化油脂組成物は、水と融合し小麦粉等の原料内に分散され、デンプンやタンパク質等の間に浸透する。
【0022】
そして、前記グルテンの量が所定値に達したら、混捏の速度を落とし、パンの種類に応じてバターあるいはショートニングなどの油脂を徐々に加え、この油脂をまんべんなく混ぜ合わせてパン種を形成する。
その際、乳化油脂組成物は、親油性を有しているので、パン種が形成された時には、油脂と融合し、この油脂が水の粒子を包んだ状態になる。
【0023】
次に、このパン種を所定の温度および湿度環境に設定したホイロに入れて一次発酵させたのち、分割成形し再びホイロに入れて二次発酵を行う。そしてこの発酵熟成させたパン種をオーブンに入れて焼成することにより、食パンが焼き上がる。
【0024】
なお、主原料としては、小麦粉のほかに、パンの原材料になるものであれば、大麦粉、ライ麦粉、蕎粉、米粉などであっても良いことは勿論である。
【0025】
また、上記の食パンの製造方法では、小麦粉100重量部に対して乳化油脂組成物を5重量部混入することが好ましいが、小麦粉100重量部に対し、乳化油脂組成物を1〜20重量部の範囲内で混入することができる。なお、乳化油脂組成物の混入量が20重量部を超えると発酵阻害を起こすおそれがあり、混入量が1重量部以下のときは、期待する効果が得られないという不利益がある。
【0026】
前記乳化油脂組成物において、食パンなどの脂肪分の少ないパン類に使用するものについては、アルカリイオン水100重量部に、食用油脂5重量部を混入し、適量の糖類を添加したものであることが好ましい。
【0027】
また、バターロールやクロワッサンなどの脂肪分の混入量の多いパン類の場合は、アルカリイオン水に対して、食用油脂の混入量が多くても良く、パンの種類によるが、アルカリイオン水100重量部に対し、食用油脂を1〜50重量部の範囲内で混入したものを使用することができる。
【0028】
この乳化油脂組成物は、アルカリイオン水と食用油脂とを混合し、攪拌して食用油脂を微粒子状にして、アルカリイオン水のイオン化された水分子の界面活性力により、微粒子状の食用油脂とアルカリイオン水をイオン結合させて、エマルジョン化したものであり、これに適量の糖類を混入することで、この乳化油脂組成物と、パン類の原材料である水と油脂との結合をより促進させる。
【0029】
前記アルカリイオン水は、界面活性力を備えたものであれば、どのようなものであっても良いが、安定したエマルジョンを形成するためには、pH12以上の強アルカリ性で、かつ、化学的反応を起こすおそれのある化合物および合成物を含んでいないものが望ましく、例えば、結晶性粘土鉱物、又は、非結晶性粘土鉱物を溶解させた原料水を電気分解して得られたものなどを、好適に使用することができる。
【0030】
また、食用油脂としては、オリーブ油、綿実油、ナタネ油、大豆油、コーン油等の、融点の低い植物油脂が好ましい。
【0031】
本発明のパン類の製造方法における乳化油脂組成物は、微粒子状の食用油脂とアルカリイオン水をイオン結合させて、エマルジョン化したものであって、親水性及び親油性の両方の性質を兼ね備えていることから、水に容易に分散する。また、この水は、アルカリイオン水により、アルカリ性に改質されている。
従って、この乳化油脂組成物を分散させた水は、乳化油脂組成物の親油性と、水がアルカリ性であるという性質により、小麦粉の混捏の途中で投入されるバターやショートニングなどの油脂とも馴染み、水の微粒子の間に油脂が介在する。
【0032】
これにより、パン種に含まれる水分は、水の微粒子が油脂で包まれたような形になることから、このパン種を焼成してできたパン類を冷凍し凍結させても、パン生地に含まれる水分が、他の成分と分離して氷の結晶になる確率が低いと共に、近傍の氷の結晶が纏まり、大きな結晶に成長することもない。
すなわち、焼成したパン類は、耐凍性が付与されるので、凍結してもパン生地の組織が崩れてパン生地の表面に皺が発生したり、縮み変形等の性状変化(冷凍障害)が起こらなくなる。しかも、互いの水分の粒子間に油脂皮膜が介在しているので、冷凍しても、目立った氷の結晶に成長することがないので、このパン類を解凍した際に、氷の溶解による濡れた状態になることもない。
【0033】
さらに、乳化油脂組成物は、pH12以上の強アルカリ性のアルカリイオン水の界面活性作用と還元作用が、パン類を製造する上で好適に作用し、デンプン、タンパク質、油脂の老化を抑制する。そして、焼成したパン類を冷凍したのちに解凍したものであっても、焼きたてのパン類と同様の品質が保持されることから、商品として販売することが可能である。
さらに、この乳化油脂組成物は、化学合成された添加物ではなく、従来の乳化剤のように増粘剤が添加されているものでもないことから、健康指向に合ったパン類を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料と副原料とを混合し、混捏してパン種を作り、これを発酵させた後に焼成するパン類の製造方法において、
前記副原料の一つとして、アルカリイオン水と食用油脂とを混合することによって生成した乳化油脂組成物を、前記主原料100重量部に対して、1〜20重量部の範囲で、主原料を混捏する前に混入することを特徴とするパン類の製造方法。
【請求項2】
前記乳化油脂組成物は、pH12以上のアルカリイオン水100重量部に対し、食用油脂を1〜50重量部の範囲で混合すると共に、適量の砂糖を混入し、攪拌して、微粒子化させた食用油脂を、アルカリイオン水の界面活性力によってアルカリイオン水と結合させ、エマルジョン化したものであることを特徴とする請求項1に記載のパン類の製造方法。