説明

パン類の製造方法

【課題】パン生地の伸展性がよく作業性に優れ、焼成後のパン類の内相が豊かな色合いと独特の良好な風味及び食味を有し、しかもソフトで歯切れや口溶けのよい食感を有する良好なパン類を容易に得ることができるパン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】小麦粉を主体とする穀粉原料100質量部に対して、α−アミラーゼ活性が10〜100unit/gを有するように部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕物を0.5〜9質量部添加し、常法に従って製パンするパン類の製造方法や、さらに、L−アスコルビン酸、グルコースオキシターゼ、ヘミセルラーゼの少なくとも1種を添加するパン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕物を添加するパン類の製造方法に関する。詳細には、部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕物を特定の量で添加することにより、生地の伸展性がよく作業性に優れ、内相が豊かな色合いと独特の良好な風味及び食味を有し、しかもソフトで歯切れや口溶けのよい食感を有する良好なパン類が得られる、パン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製パン時の作業性の向上、得られるパン体積の増大や風味、食感の改善の目的で、製パン原料に麦芽粉末(モルトフラワー)を添加することが行われている。麦芽粉末は、大麦や小麦、ライ麦を発芽させた後、乾燥して粉砕したもので、アミラーゼやプロテアーゼ等の酵素の他に、多くの糖類や無機質、ビタミン類を含むことが知られている。さらに、加熱処理した麦芽の粉砕物を製パン原料に添加することも知られており、例えば風味調整を目的として押出し加熱処理した穀物モルトを粉砕してライ麦パンを得る方法(例えば、特許文献1参照)や、高血圧や肥満などの成人病の予防を目的として黒小麦麦芽を焙煎して挽砕したものを使用してパン類を製造する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、麦芽中の酵素が完全に失活しているため、製パン性の向上等の効果は得られず、しかもここで得られるものは強いライ麦風味となるため、用いられるパン類の種類がライ麦パンやライ麦風味のパンに限られてしまう。
また、上記特許文献2には、焙煎処理した黒小麦の麦芽の粉砕物を添加して食パンを得る例が記載されているが、やはり麦芽中の酵素が完全に失活しており、その効果としてγ−アミノ酪酸に富むパン類が得られるだけであり、製パン性向上等の効果は得られない。また、黒小麦は、表皮が濃い茶色であるだけでなく、遺伝学的にも小麦や大麦とは全く異なる穀物であり、主に中国黒竜江省で僅かに生産されているに過ぎず、その入手は困難である。
【0004】
また、麦芽粉末とL−アスコルビン酸等を組み合わせる技術として、小麦粉に対してモルト末(麦芽粉末)0.1〜0.5%及びアスコルビン酸20〜100ppmを添加する、パン生地成型済みホイロ後冷凍の製法に関する技術(例えば、特許文献3参照)、大きな空洞を有するパン類を得ることが目的として、小麦粉100部に対し、アスコルビン酸3〜60ppm、増粘剤0.05〜0.5部、バイタルグルテン0.5〜5.0部及びモルトフラワー0.1〜0.8部を添加する技術(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【0005】
これらの技術は、使用する麦芽粉末(モルトフラワー)中の酵素が多少でも失活するような加熱処理を受けておらず、含まれるプロテアーゼやアミラーゼなどの酵素活性を利用するものであり、従来の製パン技術において使用される酵素製剤の代わりに麦芽粉末を用いる技術である。よって、独特の良好な風味は得られず、添加量のコントロールが難しいという欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表昭63−502483号公報
【特許文献2】特開2002−95443号公報
【特許文献3】特開平7−8159号公報
【特許文献4】特許第3172814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、パン生地の伸展性がよく作業性に優れ、焼成後のパン類の内相が豊かな色合いと独特の良好な風味及び食味を有し、しかもソフトで歯切れや口溶けのよい食感を有する良好なパン類を容易に得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、通常は含まれる酵素が十分に活性を有する状態で用いられる麦芽を、部分的に焙煎処理を施して酵素活性を一部失活させて粉砕した、焙煎処理麦芽の粉砕物を特定の量で配合して製パンすることにより、上記課題を解決しうることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)小麦粉を主体とする穀粉原料100質量部に対して、α−アミラーゼ活性が10〜100unit/gを有するように部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕物を0.5〜9質量部添加し、常法に従って製パンすることを特徴とするパン類の製造方法や、(2)さらに、L−アスコルビン酸、グルコースオキシターゼ、ヘミセルラーゼの少なくとも1種を添加する、上記(1)記載のパン類の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、(3)上記(1)又は(2)記載のパン類の製造方法により製造されるパン類に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパン類の製造方法によると、生地の伸展性がよく、内相が豊かな色合いと独特の良好な風味及び食味を有し、しかもソフトで歯切れや口溶けのよい食感を有する良好なパン類を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のパン類の製造方法としては、小麦粉を主体とする穀粉原料100質量部に対して、α−アミラーゼ活性が10〜100unit/gを有するように部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕物を0.5〜9質量部添加し、常法に従って製パンする方法であれば、特に制限されるものではないが、用いる麦芽としては、麦類、例えば大麦、ライ麦、小麦の麦芽を挙げることができ、これらの中でも得られるパン類の風味や食味の点で大麦麦芽が好ましい。麦芽は定法に従って製造すればよく、また市販の麦芽を用いてもよい。
【0013】
麦芽は、部分的に焙煎処理を行い、少なくとも麦芽中に含まれる酵素類(アミラーゼ、プロテアーゼ等)のうちプロテアーゼをほぼ失活させると共に、アミラーゼを部分的にないし一部失活させることが必要である。すなわち、α−アミラーゼ活性が10〜100unit/gを有するように部分的に焙煎処理を行う。ちなみに、焙煎処理する前の麦芽のα−アミラーゼ活性は500〜1,500unit/g程度である。かかる部分的焙煎処理は、例えば品温110〜160℃になるような条件で、10〜60分間の条件で行うことができる。この部分的焙煎処理により、少なくとも麦芽中に含まれる酵素類のうちプロテアーゼをほぼ失活させると共に、α−アミラーゼ活性を部分的に低減させ、元の麦芽の1〜10%程度、好ましくは2〜5%程度にする。なお、ここでいうアミラーゼ活性は、α−アミラーゼ活性として、Blue Value法により27℃でpH6.5の条件下で測定した場合の活性単位とする。また、これらの焙煎処理は、生の麦芽をそのまま、あるいは乾燥した後に行ってもよく、また、粉砕前または粉砕後のいずれにおいて焙煎処理に供してもよいが、粉砕前に粒の状態で焙煎処理するのが好ましい。
【0014】
部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕は、ロール粉砕、気流粉砕、ハンマーミルなど公知の方法で行うことができる。粉砕物の粒度は、製パンに差し支えない範囲であれば特に限定されないが、通常は平均粒径が50〜250μmの範囲、好ましくは平均粒径が70〜200μmの範囲である。
【0015】
このように得られた部分的焙煎処理麦芽の粉砕物は、穀粉原料100質量部に対して、0.5〜9質量部、好ましくは1〜5質量部を添加する。当該麦芽の粉砕物の添加量が0.5質量部未満であると、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物の添加効果が十分に奏されず、9質量部を超えて配合すると、当該麦芽の粉砕物に起因する風味が強くなりすぎ、また、パン生地が緩みすぎて却って作業性が劣るようになり、得られるパンのボリュームが小さくなるため、好ましくない。なお、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物の代わりに、未加熱麦芽の粉砕物、いわゆるモルトフラワーを上記の量で配合すると、生地が緩みすぎて製パン時の作業性が劣るだけでなく、得られるパンのボリュームも小さく、また風味や食感にも劣ったものになる。
【0016】
本発明において、製パン用穀粉原料としては、通常、製パンに用いる小麦粉のいずれもが使用でき、例えば強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉を挙げることができるが、中でも強力粉、準強力粉、デュラム小麦粉が好ましい。また、小麦粉として全粒粉やローストフラワーを用いることもできる。さらに小麦粉以外の穀粉としては、ライ麦粉、ライ小麦粉、コーンフラワー、米粉、各種澱粉類、それらの混合粉など目的とするパンの種類などに応じて適宜選択して使用することができるが、原料穀粉の10質量%以下とすることが好ましい。特に、ライ麦粉やライ小麦粉を配合する場合には原料穀粉の5質量%以下とすることが必要である。ライ麦粉やライ小麦粉を5質量%より多く配合すると、焙煎麦芽の粉砕物による風味や食味がマスキングされてしまうばかりでなく、製パン性に劣るようになるため好ましくない。
【0017】
さらに、好ましくはアスコルビン酸、グルコースオキシターゼ、ヘミセルラーゼの1種以上を添加する。これらの副原料を部分的焙煎処理麦芽の粉砕物と組み合わせることで、その相乗効果から、製パン時の作業性がより向上し、得られるパン類のボリュームがより大きなものとなるなどの効果が奏されるため好ましい。例えば部分的焙煎処理麦芽の粉砕物にさらにアスコルビン酸やグルコースオキシターゼを添加することにより、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物により伸展性がよくなったパン生地に適度の弾性が付与される。この場合、アスコルビン酸の添加量は、穀粉原料質量に対して0.1〜250ppm、好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは5〜70ppmである。アスコルビン酸の添加量が0.1ppm未満であると、パン生地への適度の弾性を付与するといった期待される効果が十分に奏されにくく、250ppmを超えると、生地の弾性が強くなりすぎるため、却って好ましくない。
【0018】
また、グルコースオキシターゼの添加量は、穀粉原料100gに対して0.1〜50unit、好ましくは0.5〜20unitの範囲である。グルコースオキシターゼの添加量が0.1unit未満であると、パン生地への適度の弾性を付与するといった期待される効果が十分に奏されず、50unitを超えると、弾性が強くなりすぎて、却って作業性が低下する恐れがある。
【0019】
部分的焙煎処理麦芽の粉砕物にさらにヘミセルラーゼを添加することにより、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物により伸展性がよくなったパン生地が適度にしまるようになり、得られるパンのボリュームもより大きなものとなる。この場合、ヘミセルラーゼの添加量は、穀粉原料100gに対して0.05〜500unit、好ましくは0.1〜200unitの範囲である。ヘミセルラーゼの添加量が0.05unit未満であると、パン生地への適度のしまりの付与や得られるパンのボリュームの点で期待される効果が十分に奏されにくく、500unitを超えると、生地表面がべとつくようになりやすく、また得られるパンのボリュームが低下する恐れがでてくるため、却って好ましくない。
【0020】
さらに、本発明において、通常、パン類の製造に用いられる副原料、例えば各種発酵種やイースト(生イースト、ドライイースト等);砂糖やその他の糖類;イーストフード;卵または卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品;増粘剤;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;グルテンや乳蛋白等の蛋白質;食物繊維を適宜使用することができる。
【0021】
本発明におけるパン類とは、上記製パン用穀粉原料を用い、イーストや各種副原料を使用して発酵させる食品であれば特に限定されないが、食パン、菓子パン、フランスパン、ロールパン等の各種のパン、ピザ類、イーストドーナッツ等が含まれるが、穀粉原料にライ麦等を比較的多く配合するライ麦パンは含まれない。また、本発明において、常法に従って製パンする方法としては、製パン用穀粉原料にイーストや各種副原料を用いて発酵させる通常のパン類の製造方法を例示することができ、例えばストレート法、中種法、速成法等により行うことができる。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0023】
[製造例1]
市販の醸造用大麦麦芽(α−アミラーゼ活性:約1,200unit/g)を、品温140℃で約30分間、部分的焙煎処理を行った。次いで、衝撃式粉砕機(ターボミル,東京製粉機製作所製)を用いて粉砕し、製造例1の部分的焙煎処理麦芽の粉砕物を得た。この部分的焙煎処理麦芽の粉砕物の平均粒径は約95μmで、α−アミラーゼ活性は35unit/gであった。
【0024】
[製造例2]
市販の醸造用大麦麦芽(α−アミラーゼ活性:約1,200unit/g)を、品温110℃で20分間、部分的焙煎処理を行った。次いで、衝撃式粉砕機(ターボミル,東京製粉機製作所製)を用いて粉砕し、製造例2の部分的焙煎処理麦芽の粉砕物を得た。この部分的焙煎処理麦芽の粉砕物の平均粒径は約120μmで、α−アミラーゼ活性は70unit/gであった。
【0025】
[α−アミラーゼ活性の測定法](Blue Value法)
可溶性澱粉を基質とする反応を行い、基質の青色ヨウ素呈色が減少する程度を分光光度計を用いて測定する。
【0026】
1.試薬
1)0.4Mリン酸緩衝液(pH6.5)
約500mLの蒸留水に62.4gのリン酸二水素ナトリウム二水和物を溶かし1N水酸化ナトリウム溶液(pH3.6〜で約50mL程度入る)でpH6.5に調製し蒸留水で1Lにメスアップする。
2)0.5M酢酸(反応停止用)
酢酸29mLを蒸留水に溶かして1Lとする。
3)4%可溶性澱粉溶液(用時調製)
可溶性澱粉(和光純薬)2gを沸騰水浴中で加温した蒸留水約30mLにゆっくり加え溶解、放冷してから0.4Mリン酸緩衝液(pH6.5)で50mLにメスアップする。
4)1/3000Nヨウ素溶液(用時調製)
1/10Nヨウ素溶液1mLに10mLの1N塩酸を加え、蒸留水で300mLにメスアップする。(褐色のメスフラスコを使用)
なお1/10Nヨウ素溶液は、ヨウ化カリウム約50gを100mL蒸留水に溶解、さらにヨウ素12.69gを加え、完全に溶解し蒸留水で1Lとし、褐色瓶に保存する。
【0027】
2.操作
1)酵素サンプルの調製
各酵素サンプルは発泡スチロール容器にクラッシュアイスを入れ、常に保冷しながら、作業する。各酵素サンプル0.1gと0.4Mリン酸緩衝液(pH6.5)10mLを、15mL容のチューブに入れ、40秒撹拌する。その後、10000rpm、4℃で10分遠心分離し上澄み液を取り、必要に応じ希釈して用いる。
【0028】
2)反応
i)試験管(中試験管)に4%可溶性澱粉溶液2mL(pH6.5)と0.4Mリン酸緩衝液1mL(pH6.5)とを入れて混合し、この試験管を恒温槽(27℃)内で5分間インキュベートする。その後、前記試験管に酵素液1mLを混和し、27℃で正確に30分間反応させる。30分後、反応停止のため、0.5M酢酸10mLを加え、この液から直ちに1mLの反応液を取り出して10mLの1/3000Nのヨウ素溶液と混合させ、700nmの吸光度を測定する。また、1mLの蒸留水に10mLの1/3000Nのヨウ素溶液を加えた混合液を対照としてゼロ合わせをする。
ii)別にブランクとして、上記酵素溶液の代わりに精製水1mLを用いて上記(i)と同様の処理操作を行い、700nmの吸光度を測定する。
【0029】
3.アミラーゼ活性の算出
上記の条件で1分間に澱粉100mgのBlue Value(700nmの吸光度)を1%低下させる酵素量を1unitとする。上記実験条件下では、全反応液4mL中に澱粉80mgを含み、使用酵素量は1mLであるから、酵素サンプル1gあたりの酵素活性は次のようになる。
酵素活性(units/g)=4×(E−E30)/E×(100)×(1/30)×D×(100)×(0.1/S(g))
[上記式中、E=ブランクの吸光度、E30=反応後の吸光度、D=酵素液希釈倍率、S(g)=実サンプル量、4は反応系中の酵素液量補正を表す。]
【0030】
[実施例1〜7及び比較例] 中種法によるプルマン型食パンの製造
下記表1に示す配合及び下記製パン工程により、プルマン型食パンを製造した。
【0031】
【表1】

【0032】
<工程>
〔中種〕
ミキシング : 低速2分 中速2分
捏ね上げ温度: 24℃
発酵時間 : 240分(温度27℃/湿度75%)
〔本捏〕
ミキシング : 低速2分→中速5分→ショートニング添加→低速2分→中速4分
捏ね上げ温度: 27℃
発酵時間 : 25分温度27℃/湿度75%)
分割重量 : 240g(比容積4.0)
ベンチタイム: 25分
成型 : 型詰め
ホイロ時間 : 40分(温度38℃/湿度85%)
焼成 : 35分(温度210℃)
【0033】
得られたプルマン型食パンを表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価した。得られた結果の平均を表3に示す。なお、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物、アスコルビン酸及びヘミセルラーゼを用いない以外は実施例1と同様にして製造したプルマン型食パンを対照(対照例1)とした。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表3に示す結果から明らかなとおり、本発明の実施例1〜7により得られたプルマン型食パンは、比較例1、2及び対照例1により得られた食パンに比べて、生地伸展性、風味及び食感において優れていることが分かった。実施例4及び実施例5では特にソフトで口溶けが良いものであり、実施例2〜3及び実施例6〜7は、香ばしく、旨味があった。生地伸展性については、比較例1、2が対照例1に比してややベタつきがあるなど劣っており、麦芽を部分的焙煎処理することが特に生地伸展性に良い効果を及ぼすことが分かった。また、実施例1〜6は、部分的焙煎処理麦芽として製造例1によるα−アミラーゼ活性が35unit/gのものを、実施例7は、製造例2によるα−アミラーゼ活性が70unit/gを用いていることから、本発明のα−アミラーゼ活性が10〜100unit/gの範囲内のものが適していることが分かった。さらに、実施例2では部分的焙煎処理麦芽とアスコルビン酸を、実施例3では部分的焙煎処理麦芽とヘミセルラーゼを、並びに実施例4〜7では部分的焙煎処理麦芽とアスコルビン酸及びヘミセルラーゼを併用しており、これらの併用によりパン生地の生地伸展性がよくなるとともに適度の弾性が付与され、製パン時の作業性が良好なものとなり、相乗的に効果を奏していることが分かった。
【0037】
〔実施例8〜12及び比較例3〜4〕 ストレート法によるロールパンの製造
下記表4に示す配合及び下記の製パン工程により、ロールパンを製造した。
【0038】
【表4】

【0039】
<工程>
ミキシング : 低速2分→中速4分→マーガリン添加→中速2分 中速4分
捏ね上げ温度: 27℃
発酵時間 : 60分(温度27℃/湿度75%)
分割重量 : 50g
ベンチタイム: 15分(温度27℃/湿度75%)
成型 :
ホイロ時間 : 45分(温度38℃/湿度85%)
焼成 : 13分(温度210℃)
【0040】
得られたロールパンを表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価した。得られた結果の平均を表5に示す。なお、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物及びグルコースオキシダーゼを用いない以外は実施例8と同様にして製造したロールパンを対照(対照例2)とした。
【0041】
【表5】

【0042】
表5に示す結果から明らかなように、本発明の実施例8〜12は、対照例2、比較例3及び4に比べてパン生地伸展性に優れ、また、本発明の実施例8〜12により得られたロールパンは、比較例3及び4に比べて、風味及び食感がよいことが分かった。このように部分的焙煎処理麦芽の添加量は、少なすぎても多すぎても所望のロールパンを得ることができず、本発明は、部分的焙煎処理麦芽を0.5〜9質量%の範囲で添加すると、生地伸展性に優れ、得られたロールパンは、香ばしく、旨味があり、さらに食感は、ソフトで口溶けがよいものであった。また、実施例8〜12では、部分的焙煎処理麦芽とグルコースオキシダーゼを併用することにより、パン生地の伸展性がよくなるとともに適度の弾性が付与され、製パン時の作業性が良好になるとの効果が得られている。比較例3、4も同様に前記成分を併用したものである。しかしながら、比較例3、4は部分的焙煎処理麦芽の添加量が適量でないことからみてグルコースオキシダーゼの併用の効果を奏し得ず、従って、本発明の前記適量範囲の部分的焙煎処理麦芽とグルコースオキシダーゼの使用により、相乗的に効果を奏することが分かった。
【0043】
[実施例13〜17] 速成法による食パンの製造
下記表6に示す配合及び下記の製パン工程により、ワンローフ型食パンを製造した。
【0044】
【表6】

【0045】
<工程>
ミキシング : 低速2分→中速5分→バター添加→中速5分→高速2分
捏ね上げ温度: 29℃
発酵時間 : 30分(温度27℃/湿度75%)
分割重量 : 450g
ベンチタイム: 20分
成型 : 型詰め
ホイロ時間 : 30分(温度38℃/湿度85%)
焼成 : 35分(温度210℃)
【0046】
得られた食パンを表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価した。得られた結果の平均を表7に示す。なお、部分的焙煎処理麦芽の粉砕物、ヘミセルラーゼ及びグルコースオキシダーゼを用いない以外は実施例13と同様にして製造した食パンを対照(対照例3)とした。
【0047】
【表7】

【0048】
表7に示す結果から明らかなとおり、実施例13〜17は、対照例3に比べて、パン生地の伸展性がよくなるとともに適度の弾性が付与され、製パン時の作業性が良好であった。また、得られたワンローフ型食パンは、内相が豊かな色合いを有し、風味、食感において優れていることが分かった。また、実施例13〜17は、部分的焙煎処理麦芽と共にアスコルビン酸、ヘミセルラーゼ及びグルコースオキシダーゼを併用したものであるのに対し、対照例3では、部分的焙煎処理麦芽を添加せず、アスコルビン酸を5ppm添加したものである。この対照例3の場合、所望の生地の伸展性、優れた食パンの風味、食感は得られないが、実施例14〜17では、豊かな色合いにさらに独特の香ばしさと旨味、さらにソフトで口溶けがよいワンローフ型食パンが得られたことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を主体とする穀粉原料100質量部に対して、α−アミラーゼ活性が10〜100unit/gを有するように部分的に焙煎処理した麦芽の粉砕物を0.5〜9質量部添加し、常法に従って製パンすることを特徴とするパン類の製造方法。
【請求項2】
さらに、L−アスコルビン酸、グルコースオキシターゼ、ヘミセルラーゼの少なくとも1種を添加する、請求項1記載のパン類の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のパン類の製造方法により製造されるパン類。