説明

パン

【課題】ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したもっちりとした食感を有したパンを提供する。
【解決手段】寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とからなるゲル状物を配合することを特徴とするパン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したもっちりとした食感を有したパンに関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、小麦粉等の穀粉を主体とした原料に水を加え、混捏し、必要に応じて発酵した生地を焼成等により加熱することで製造され、食卓に欠かせない食品の一つである。種類も多く、さまざまなパンが市販されているが、食感に関しては、もっちりとした食感を有するパンが日本人の嗜好に叶うため消費者に好まれる傾向がある。
【0003】
パンの食感を改良する方法としては、例えば、特開平9−233993号公報(特許文献1)には加工澱粉、糖質分解酵素および食用油脂からなる製パン用油脂組成物が提案されている。しかしながら、この方法では十分にもっちりとした食感を有したパンは得られなかった。
【0004】
一方、ヒアルロン酸及び/又はその塩は、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、ヒアルロン酸を経口摂取することにより、生体本来の持つヒアルロン酸含量の低下を補い、皮膚の保湿、弾力性、および柔軟性を改善する効果が認められているため(特許文献2)、ヒアルロン酸及び/又はその塩を日常的に摂取できるようにした食品の開発が望まれている。
【0005】
このような状況下、本発明者は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を用いたパンが得られるならば、得られるパンは生理機能を併せ持つこととなり商品価値としてさらに有用なものになると考えこれを試みた。しかしながら、例えば、原料に小麦粉を用いた場合、従来のパンの製造工程中に単にヒアルロン酸及び/又はその塩の水溶液を配合しても、その高い保水性により、原料に水を加えて混捏した際に十分に吸水したグルテンの形成を抑制するためか、製したパンはもっちりとした食感に欠けるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−233993号公報
【特許文献2】特開2000−095660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したもっちりとした食感を有したパンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とからなるゲル状物をパンに配合するならば、意外にも、もっちりとした食感を有したパンが得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とからなるゲル状物を配合するパン、
(2)寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量が0.3〜3.5%であり、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が0.001〜0.5%であるゲル状物を配合する(1)記載のパン、
(3)前記ゲル状物を穀粉に対して1〜40%配合する(1)及び(2)記載のパン、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したもっちりとした食感を有したパンを提供できることから、パン市場の更なる需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0012】
本発明のパンのゲル状物は、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とを配合することにより、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したもっちりとした食感を有したパンが得られる。
【0013】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いる寒天は、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、一般に紅藻類から抽出して得られるアガロースとアガロペクチンを含有する多糖類であればいずれを使用しても構わない。
【0014】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いるゼラチンは、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、例えば、アルカリ処理ゼラチンや酸処理ゼラチン等、製造方法や原料の由来によって各種のものがあるが、いずれを使用しても構わない。
【0015】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いるジェランガムは、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、例えば、グルコースのC−2位にグリセリル基1残基が結合し、C−6位にアセチル基が平均1/2残基結合しているネイティブ型ジェランガムや、これを脱アセチル化して精製された脱アシル型ジェランガムがあるがいずれを使用しても構わない。
【0016】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いるカラギーナンは、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、一般に紅藻類から抽出して得られる硫酸基を持つガラクタンの一種であり、κ、λ、ιの3種があるが、これらの1種又は2種以上が混合した混合物のいずれを使用しても構わない。
【0017】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いる寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量は、特に限定されないが、ゲル状物に対し0.3〜3.5%が好ましく、1〜3%がより好ましい。寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量が、前記範囲より少ないともっちりとした食感に欠けたパンとなり易く、一方、前記範囲より多いと硬いゲル状物となるためか、もっちりとした食感に欠けたパンとなり易いため好ましくない。
【0018】
ヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。本発明で使用する原料ヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではないが、例えば鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生体組織、あるいはストレプトコッカス属等のヒアルロン酸産生微生物を培養して得られる培養液等を原料として、抽出(更に必要に応じて精製)して得られるものである。
【0019】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いるヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではなく、当該粗抽出物あるいは精製物の何れを用いても良いが、精製物、具体的にはヒアルロン酸及び/又はその塩の純度が90%以上のものが好ましい。純度が90%未満の場合は、保管中にヒアルロン酸及び/又はその塩が着色して、本発明のパンの外観を損なう恐れがあり好ましくない。
【0020】
本発明のパンの上記ゲル状物に用いるヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量は、特に限定されないが、ゲル状物に対し0.001〜0.5%が好ましく、0.005〜0.2%がより好ましい。ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が、前記範囲より少ないともっちりとした食感に欠けるパンとなり易く好ましくない。一方、前記範囲より多いとヒアルロン酸及び/又はその塩の風味が強くなるため好ましくない。
【0021】
本発明のパンに用いる上記ゲル状物の配合率は、特に限定されないが、穀粉に対し1%〜40%であることが好ましく、5%〜30%であることがより好ましく、10%〜30%であることがさらに好ましい。上記ゲル状物の穀粉に対する配合率が前記範囲より少ないともっちりとした食感に欠けるパンが得られ易いため好ましくない。一方、前記範囲より多いとヒアルロン酸及び/又はその塩の風味が強くなる傾向があるため好ましくない。
【0022】
本発明のパンは、薄力粉、強力粉、全粒粉等の小麦粉、もち米粉、うるち米粉、上新粉等の米粉、大麦粉、ライ麦粉、玄米粉、そば粉、とうもろこし粉等の1種又は2種以上を組み合わせた穀粉を主原料とし、これに水を加え、混捏し、必要に応じて発酵した生地を焼成等により加熱したものであれば特に制限はない。このような本発明のパンとしては、具体的には、例えば、クロワッサン、テーブルロール、バターロール、コッペパン、ジャムパン、アンパン、クリームパン、フランスパン、グラハムパン、山型食パン、プルマン型食パン、バンズパン、フォカッチャ、べーグル、ブリオッシュ及び蒸しパン等が挙げられる。
【0023】
なお、本発明のゲル状物及びパンには、上述したもの以外に、本発明の効果を損わない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等の増粘剤、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、ペクチン、プルラン、マンナン、ガラクトマンナン、キチン、キトサン、デキストリン等のゲル化剤、グルコース、ショ糖、乳糖、麦芽糖、オリゴ糖、ぶどう糖果糖液糖、水飴、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、キシリトール、トレハロース、パラチノース等の甘味料、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、デキストリンアルコール等の糖アルコール類、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、セラミド、イソフラボン、コエンザイムQ10、コラーゲン等の美容原料、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化剤、菜種油、卵黄油、ショートニング、バター、マーガリン、ラード等の油脂類、クルミ、アーモンド、ゴマ等のナッツ類、レーズン、アンズ、ブルーベリー、クランベリー等の果実類、人参、トマト、ホウレンソウ等の野菜類、粉乳、生乳、練乳、チーズ、生クリーム、ヨーグルト等の乳製品、食塩、醤油、味噌、胡椒、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、動植物由来のエキス類、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、各種ペプチド、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸等の有機酸又はその塩、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ナイアシン等のビタミン類、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等のミネラル類又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、香辛料、グレープフルーツフレーバー、オレンジフレーバー、りんごフレーバー、レモンフレーバー等の香料、イーストフード、湿熱処理澱粉、加工澱粉、色素等が挙げられる。
【0024】
本発明のパンの製造方法は、本発明で用いる寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種とヒアルロン酸及び/又はその塩とからなるゲル状物を、常法に則り製造したパンに配合したものであればよく、例えば、以下のように製造することができる。まず、ゲル状物は、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種、ヒアルロン酸及び/又はその塩、クエン酸等の酸剤、グラニュ糖、パラチノース及び清水をミキサーに入れ品温80℃で加熱混合攪拌後、品温5℃まで冷却することによりゲル化剤を増粘させて製した。次に、公知の直捏法(ストレート法)や中種法等に準じて、原料に上記ゲル状物及び水を加え、混捏し、製するパンの種類により、必要に応じて発酵した生地を焼成等により加熱することで本発明のパンが得られる。具体的には、例えば、山型食パンの等の場合は、生地を型に入れた後、必要に応じて最終発酵(ホイロ)してからオーブン等で焼成すればよい。なお、ゲル状物は、予め製した生地に塗布してもよいが、本発明においては、よりもっちりとした食感を有したパンが得られやすいため、原料にゲル状物及び水を加え、混捏する工程がより好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明のパンを実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0026】
〔実施例1〕
ゲル状物は、寒天0.7%、カラギーナン0.3%、ジェランガム0.3%、ヒアルロン酸及び/又はその塩(平均分子量10万〜50万)0.05%、クエン酸(結晶)0.1%、グラニュ糖5%、パラチノース5%、清水88.55%をミキサーに入れて品温80℃で加熱混合撹拌後、150g容のスパウトパウチに150gずつ充填した。さらに充填後、品温5℃まで冷却することによりゲル化剤を増粘させゲル状物を製した。次に、ホームベーカリーを用いて常法により山型食パンを得た。つまり、ホームベーカリーのパンケースに、清水170部を投入した後、上述の方法で製したゲル状物40部、全粒粉290部、上白糖16部、脱脂粉乳6部、食塩5部及び無塩バター10部とを投入し、更に、ドライイースト3部を投入して均一に混捏した後発酵して生地を得た。続いて、得られた生地を焼成して本発明の山型食パンを製した。
【0027】
〔試験例1〕
実施例1において、穀粉に対するゲル状物の配合率を表1に示す配合率に変えた他は、実施例1と同様の方法で6種類の山型食パンを製した。得られた山型食パンを用いて、よく訓練されたパネラーにより食感を以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表中の評価記号
<食感>
A:もっちりとした食感を有しており大変好ましい。
B:もっちりとした食感にやや欠けるが、問題のない程度である。
C:もっちりとした食感にやや欠ける。
D:もっちりとした食感に欠け、好ましくない。
【0030】
表1より、ゲル状物を配合しないともっちりとした食感に欠けたパンとなることが理解できる。
【0031】
〔実施例2〕
寒天0.7%、カラギーナン0.3%、ジェランガム0.3%をゼラチン2.0%に、ヒアルロン酸及び/又はその塩(平均分子量10万〜50万)0.05%をヒアルロン酸及び/又はその塩(平均分子量120万〜160万)0.005%に置き換えてゲル状物を製した以外は、実施例1の方法に準じて本発明のパンを製した。
【0032】
〔実施例3〕
寒天0.7%、カラギーナン0.3%、ジェランガム0.3%を寒天0.3%、キサンタンガム0.5%、グアーガム0.5%に置き換えてゲル状物を製した以外は、実施例1の方法に準じて本発明のパンを製した。
【0033】
〔実施例4〕
寒天0.7%、カラギーナン0.3%、ジェランガム0.3%をゼラチン3.5%に置き換えてゲル状物を製した以外は、実施例1の方法に準じて本発明のパンを製した。
【0034】
〔比較例1〕
ヒアルロン酸及び/又はその塩(平均分子量10万〜50万)0.05%を清水に置き換えてゲル状物を製した以外は、実施例1の方法に準じてパンを製した。
【0035】
〔比較例2〕
寒天0.7%、カラギーナン0.3%、ジェランガム0.3%をキサンタンガム1.3%に置き換えてゲル状物を製した以外は、実施例1の方法に準じてパンを製した。
【0036】
〔試験例2〕
寒天、ゼラチン及びカラギーナンの少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が、本発明の効果に及ぼす影響を調べるため、配合を表1のように変えて、実施例1〜4及び比較例1、2のパンを製した。このようにして得られた6種類のパンを用いて、試験例1と同様の方法で食感の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例1〜4の結果より、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とからなるゲル状物を配合することにより、もっちりとした食感を有したパンが得られることが理解できる。一方、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合しない場合、又は寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンを配合しない場合は、製したパンはもっちりとした食感に欠けており、好ましくないことが理解できる(比較例1及び比較例2)。また、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量がゲル状物に対し1〜3%であると、よりもっちりとした食感を有したパンが得られることが理解できる。
【0039】
〔実施例5〕
実施例1において、全粒粉をうるち米粉に変えた他は、実施例1と同様の方法を用いて本発明のパンを製した。得られたパンの食感を試験例1と同様の方法で評価したところ、もっちりとした食感を有しており、大変好ましいものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とからなるゲル状物を配合することを特徴とするパン。
【請求項2】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量が0.3〜3.5%であり、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が0.001〜0.5%であるゲル状物を配合する請求項1記載のパン。
【請求項3】
前記ゲル状物を穀粉に対して1〜40%配合する請求項1及び2記載のパン。