説明

パーキングブレーキ装置

【課題】パーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができるパーキングブレーキ装置を提供すること
【解決手段】
第2ブレーキキャリパ4bの支持部材4b1のディスクロータ10の径方向側に設けられた固定部13にタイロッド12が固定される。第2ブレーキキャリパ4bはディスクロータ10からの受熱により、支持部材4b1はピストン8の摺動方向に膨張し、放熱によって収縮する。ブレーキキャリパ4bの熱膨張率はタイロッド12の熱膨張率よりも大きいため、支持部材4b1の収縮量はタイロッド12の収縮量よりも大きくなる。そのため、第2ブレーキキャリパ4bの収縮によって、支持部材4b1の爪部4b2がアウタパッド9bを押す方向に変位し、アウタパッド9bがディスクロータ10を押圧し、パーキングブレーキ力を発生させている。これにより、パーキングブレーキの熱ゆるみを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングブレーキ装置に関し、特にパーキングブレーキの熱緩み防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パーキングブレーキ装置としてディスクブレーキ構造のパーキングブレーキ装置がある。ディスクブレーキ構造のパーキングブレーキ装置は、液圧回路を介してブレーキペダルとブレーキキャリパとが接続されるとともに、パーキングケーブルを介してパーキングレバーとブレーキキャリパとが接続される。運転者のブレーキペダル操作または、運転者のパーキングレバー操作によってブレーキキャリパ内に設けられているピストンが押動され、ピストンの押動によってブレーキパッドがディスクロータに押し付けられることで、車輪にサービスブレーキ力またはパーキングブレーキ力を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−30665
【発明の概要】
【0004】
ところで、サービスブレーキ力によって走行中の車両を減速・停止させるときは、ディスクロータとブレーキパッドとの間に摩擦が生じ、ブレーキパッドやディスクロータは熱を帯びる。この摩擦熱により、ディスクロータやブレーキパッドの温度は常温よりも高くなり、ディスクロータやブレーキパッドが熱膨張をする。その後、車両が停車した直後にパーキングレバー操作を行うと、ブレーキパッドが熱膨張した状態でパーキングブレーキ力が車輪に付与される。パーキングブレーキ力を長時間にわたって車輪に付与させた状態にしておくと、ディスクロータやブレーキパッドの放熱によって当該ディスクロータやブレーキパッドが収縮し、ブレーキパッドの収縮に伴い、ブレーキパッドのディスクロータへの押圧力が低下し、パーキングブレーキ力が低下(以下「パーキングブレーキ力の熱緩み」という)するという問題がある。
【0005】
そこで、本願発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ブレーキパッドの放熱によるパーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができるパーキングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ブレーキキャリパの内部で摺動するピストンと、前記ピストンの摺動方向に移動可能な支持部材と、前記ピストンの摺動及び前記支持部材の移動によりディスクロータへ押動されるブレーキパッドと、を備え、サービスブレーキ操作力に応じて前記ブレーキパッドが前記ピストン及び前記支持部材によって前記ディスクロータに向けて押動されるように構成されるとともに、パーキングブレーキ操作力に応じて前記ブレーキパッドが前記ピストン及び前記支持部材によって前記ディスクロータに向けて押動されるように構成されているパーキングブレーキ装置において、前記ピストンの摺動方向に延びるとともに、前記支持部材の前記ディスクロータ径方向側の部分に、少なくとも前記ピストンの摺動方向の2箇所で固定されるタイロッドを備え、前記支持部材は、前記タイロッドの熱膨張率よりも熱膨張率の高い材料で形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によると、走行中ブレーキパッドがピストン及び支持部材によってディスクロータに向けて押動されると、ブレーキパッドとディスクロータとの摩擦により、ブレーキパッド及びディスクロータに熱が発生する。発生した熱によりブレーキキャリパ及び支持部材に熱が伝達され膨張する。ブレーキキャリパ及び支持部材は放熱に伴い収縮するが、支持部材のディスクロータ径方向側の部分に、少なくともピストンの摺動方向の2箇所で固定されたタイロッドを備え、タイロッドよりも支持部材の熱膨張率が高い材料で形成されているため、支持部材はブレーキパッドを押圧する方向に収縮し変形する。支持部材の収縮による変形によって支持部材がブレーキパッドをディスクロータに押し付ける。そのため、ブレーキパッドの収縮によるパーキングブレーキ力の熱緩みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本願発明のパーキングブレーキ装置の概略図
【図2】本願発明のブレーキキャリパを示した図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を、図面を用いて説明する。車両のブレーキ装置1は、図1に示すように、ブレーキ液圧を用いて車輪FR,FL,RR,RLの夫々を制動する液圧ブレーキ手段2と、パーキングケーブル7を用いて後輪RR,RLを制動するパーキングブレーキ手段3と、を備えている。前輪FR,FLには、ブレーキ液圧により車輪を制動可能な第1ブレーキキャリパ4aが備えられ、後輪RR,RLには、ブレーキ液圧及びパーキングレバー6の引っ張りの夫々により車輪を制動可能な第2ブレーキキャリパ4bが備えられている。
【0010】
運転者がブレーキペダル5を踏むことによるサービスブレーキ操作が行われると、液圧ブレーキ手段2は、サービスブレーキ操作力に応じたブレーキ液圧を発生させ、そのブレーキ液圧を第1及び第2ブレーキキャリパ4a及び4bに付与して車輪FR,FL,RR,RLにサービスブレーキ力を付与する。運転者がパーキングレバー6を引くことによりパーキングブレーキ操作が行われると、パーキングブレーキ手段3は、パーキングブレーキ操作力によりパーキングケーブル7を引っ張り、その引っ張り力を第2ブレーキキャリパ4bに付与して後輪RR,RLにパーキングブレーキ力を付与する。
【0011】
第1ブレーキキャリパ4aは、ブレーキ液圧によりディスクロータ10に対するブレーキパッド9a、9bの押し付けを行う。第2ブレーキキャリパ4bは、ブレーキ液圧及びパーキングケーブル7の引っ張りの夫々によりディスクロータ10に対するブレーキパッド9a、9bの押し付けを行うビルトインキャリパである。
【0012】
第2ブレーキキャリパ4bは、車輪と一体的に回転するディスクロータ10の回転軸方向両側に、支持部材4b1により移動可能に支持された一対のインナパッド9a及びアウタパッド9bとを備え、インナパッド9a及びアウタパッド9bの夫々をディスクロータ10の側面に押し付けることにより車輪にブレーキ力を付与する。支持部材4b1は、マウンティング(図示しない)にピストン8の摺動方向X1、X2(ディスクロータ10の回転軸方向)に移動自在に設けられている。インナパッド9aは、ディスクロータ10のピストン8の摺動方向X1,X2に移動自在に支持部材4b1に支持されている。アウタパッド9bは、支持部材4b1の爪部4b2に支持されている。
【0013】
第2ブレーキキャリパ4bは、インナパッド9aを作動させるピストン8を備えた浮動型にて構成している。ピストン8を図中X1方向に作動させてインナパッド9aを押圧し、インナパッド9aをディスクロータ10の側面に押し付ける。その押し付けの反力を利用して支持部材4b1を図中X2方向に移動させて、アウタパッド9bをディスクロータ10の側面に押し付ける。これにより、インナパッド9a及びアウタパッド9bの夫々がディスクロータ10の側面に押し付けられる。第2ブレーキキャリパ4bにはピストン8を図中X2方向に付勢する弾性体11を設けてあり、この弾性体11の弾性力によって、非制動状態に復帰付勢するようにしている。
【0014】
第2ブレーキキャリパ4bの支持部材4b1のディスクロータ10の径方向側に固定部13がディスクロータ10の回転軸方向(ピストン8の摺動方向X1、X2)に離間して2つ設けられており、当該固定部13にピストン8の摺動方向に延びるタイロッド12が固定されている。タイロッド12は、ディスクロータ10、インナパッド9a及びアウタパッド9bからの受熱による膨張量が、支持部材4b1よりも小さくなっている。図2では、支持部材4b1のディスクロータ10の径方向外側(ディスクロータ10とは反対側)に、支持部材4b1よりも熱膨張率が低い素材で形成したタイロッド12を設けている。具体的には、支持部材4b1をアルミで、タイロッド12を鉄などで形成することが考えられる。なお、タイロッド12には、電蝕を防ぐために、亜鉛メッキや無機質メッキを施すことが好ましい。
【0015】
運転者のサービスブレーキ操作によるブレーキ液圧の発生、もしくは、運転者のパーキングブレーキ操作によるパーキングケーブル7の引っ張りによって、ピストン8は図中X1方向に作動されてインナパッド9aを押動し、インナパッド9aはディスクロータ10の側面に押し付けられる。その押し付けの反力を利用して支持部材4b1が図中X2方向に移動し、アウタパッド9bがディスクロータ10の側面に押し付けられる。これにより、インナパッド9a及びアウタパッド9bがディスクロータ10の側面に押し付けられる。
【0016】
車両の走行中、運転者のサービスブレーキ操作が行われると、ブレーキ液圧によるピストン8の押動で、ブレーキパッド9a,9bがディスクロータ10に押圧される。この時、ディスクロータ10とブレーキパッド9a,9bとの間に摩擦が生じ、車両が停止する時点では、ブレーキパッド9a,9bやディスクロータ10が熱を帯び温度が上昇している。ブレーキパッド9a、9bやディスクロータ10は、温度上昇により熱膨張をする。
【0017】
この状態で運転者がパーキングブレーキ操作を行うと、ブレーキパッド9a,9b及びディスクロータ10が熱膨張した状態でパーキングブレーキがかかってしまう。時間が経つとブレーキパッド9a,9b及びディスクロータ10の放熱により、熱膨張したブレーキパッド9a,9b及びディスクロータ10が収縮し、ブレーキパッド9a,9bのディスクロータ10に対する押圧力が低下してしまう。
【0018】
しかしながら、高温となったブレーキパッド9a,9b及びディスクロータ10と近い位置に配置されている第2ブレーキキャリパ4bも、ブレーキパッド9a,9b及びディスクロータ10から熱が伝わることで膨張する。そしてブレーキパッド9a,9bが収縮すると同時に、熱膨張した第2ブレーキキャリパ4bも放熱し収縮する。この時、第2ブレーキキャリパ4bの支持部材4b1はタイロッド12よりも熱膨張量が大きいため、支持部材4b1はタイロッド12よりも大きく収縮する。このため、支持部材4b1とタイロッド12との収縮量に差が生じるため、爪部4b2がアウタパッド9bを押す方向に変位する。その変位によって、爪部4b2のアウタパッド9bに対する押圧力が付与され、アウタパッド9bがディスクロータ10を押圧する。
【0019】
以上のように、熱膨張したブレーキパッド9a、9bの放熱によりブレーキパッド9a、9bが収縮した際にも、支持部材4b1が変位し、その変位により爪部4b2が直接アウタパッド9bを押圧しパーキングブレーキ力を発生させているため、パーキングブレーキの熱緩みを抑制することができる。
【0020】
(他の実施形態)
上記実施形態では、支持部材4b1のディスクロータ10の径方向外側に、支持部材4b1よりも熱膨張率が低い材料で形成したタイロッド12を設けて、タイロッド12のディスクロータ10、インナパッド9a及びアウタパッド9bからの受熱による膨張量を支持部材4b1よりも小さくした。
しかしながら、タイロッド12を支持部材4b1のディスクロータ10の径方向外側に設けたことにより、タイロッド12のディスクロータ10、インナパッド9a及びアウタパッド9bからの受熱が支持部材4b1よりも抑制されることにより、上記タイロッド12の熱膨張量が支持部材4b1よりも小さくなる限り、タイロッド12の熱膨張率は支持部材4b1の熱膨張率よりも小さくなくてもよい。
また、支持部材4b1のディスクロータ10の径方向内側(ディスクロータ10側)に、支持部材4b1よりも熱膨張率が高い材料で形成したタイロッド12を設けてもよい。タイロッド12を支持部材4b1のディスクロータ10の径方向外側に設けた場合と同様に、タイロッド12を支持部材4b1のディスクロータ10の径方向内側に設けたことにより、タイロッド12のディスクロータ10、インナパッド9a及びアウタパッド9bからの受熱が支持部材4b1よりも促進されることにより、上記タイロッド12の熱膨張量が支持部材4b1よりも大きくなる限り、タイロッド12の熱膨張率は支持部材4b1の熱膨張率よりも大きくなくてもよい。
上記実施形態では、支持部材4b1のディスクロータ10の回転軸方向に離間して2つの固定部13を設けて、タイロッド12を支持部材4b1に設けたが、固定部13がディスクロータ10の回転軸方向に離間して配設されている限り、支持部材4b1に固定部13を3つ以上設けてもよい。
本願発明は浮動型のブレーキキャリパに限らず、アウタパッドをピストンで押動させる、いわゆる対向型のブレーキキャリパでも実施可能である。
【符号の説明】
【0021】
1・・・ブレーキ装置
2・・・液圧ブレーキ手段
3・・・パーキングブレーキ手段
4・・・ブレーキキャリパ
4a・・・第1ブレーキキャリパ
4b・・・第2ブレーキキャリパ
4b1・・・支持部材
4b2・・・爪部
5・・・ブレーキペダル
6・・・パーキングレバー
7・・・パーキングケーブル
8・・・ピストン
9・・・ブレーキパッド
9a・・・インナパッド
9b・・・アウタパッド
10・・・ディスクロータ
11・・・弾性体
12・・・タイロッド
13・・・固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキキャリパの内部で摺動するピストンと、
前記ピストン摺動方向に移動可能な支持部材と、
前記ピストンの摺動及び前記支持部材の移動によりディスクロータへ押動されるブレーキパッドと、を備え、
サービスブレーキ操作力に応じて前記ブレーキパッドが前記ピストンによって前記ディスクロータに向けて押動されるように構成されるとともに、パーキングブレーキ操作力に応じて前記ブレーキパッドが前記ピストンによって前記ディスクロータに向けて押動されるように構成されるパーキングブレーキ装置において、
前記ピストンの摺動方向に延びるとともに、前記支持部材の前記ディスクロータ径方向側の部分に、少なくとも前記ピストンの摺動方向の2箇所で固定されるタイロッドを備え、
前記支持部材は、前記タイロッドの熱膨張率よりも熱膨張率の高い材料で形成されていることを特徴とするパーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−145152(P2012−145152A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2817(P2011−2817)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】