説明

パーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物

【課題】フッ素化合物の優れた特性を有すると共に、非フッ素系有機化合物との相溶性に優れ、さらに、光硬化可能なフッ素化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表わされる、パーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物。X−[Z−Rf−Z−X−Z−Rf−Z−X(1)式中、Rfは2価の分子量500〜30000のパーフルオロポリエーテル基であり、Xは互いに独立に、下記式(2)で表わされる基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化可能なパーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物に関し、詳細には環状シロキサン構造を備え、非フッ素系溶媒との相溶性に優れるパーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物(以下、「含フッ素アクリレート」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線などの光照射により硬化可能なフッ素化合物としては、側鎖にパーフルオロアルキル基を有する重合性モノマー、例えば、アクリル酸含フッ素アルキルエステルやメタクリル酸含フッ素アルキルエステルを含む重合体が広く知られている。代表的なものとして、下記の構造のものが基材表面に撥水撥油性、防汚性、耐摩耗性、耐擦傷性等を付与する目的で多く用いられてきた。
【化1】

【0003】
ところが近年、環境負荷の懸念から炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を含有する化合物の利用を制限する動きが強まっている。しかしながら炭素数8未満のパーフルオロアルキル基を含有するアクリル化合物は、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を持つものに比べ、その表面特性が顕著に悪いことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
一方、連続する炭素数が3以下のパーフルオロアルキル基とエーテル結合性酸素原子からなるパーフルオロポリエーテル類を導入した光硬化可能なフッ素化合物が知られている。たとえばヘキサフルオロプロピレンオキシドオリゴマーから誘導される下記のアクリル化合物が示されている(特許文献1)。
【化2】

【0005】
また、フッ素含有ポリエーテルジオールと2−イソシアネートエチルメタクリレートとの反応物からなるウレタンアクリレートが示されている(特許文献2)。しかし、フッ素含有化合物の撥水撥油特性から、光重合開始剤、非フッ素化アクリレート、及び非フッ素化有機溶剤との相溶性が低く、配合可能な成分及び用途が限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−194322号公報
【特許文献2】特開平11−349651号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高分子諭文集Vol.64,No.4,pp.181−190(Apr. 2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、フッ素化合物の優れた特性を有すると共に、非フッ素系有機化合物との相溶性に優れ、さらに、光硬化可能なフッ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は以下のものである。
【0010】
本発明は、下記式(1)で表わされる、パーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物である。
[化3]
−[Z−Rf−Z−X−Z−Rf−Z−X (1)
[式中、Rfは2価の分子量500〜30000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良く、
は互いに独立に、下記式(2)で表わされる基であり、
【化4】

(式(2)中、a及びcは0〜4、bは1〜4の整数、但しa+b+cは2、3、または4であり、
は互いに独立に、下記式(3)で表される基であり、
[化5]
−(CO)(CO)(CO)(CHO) (3)
(式(3)中、d、e、f、gはRの分子量が30〜600となる範囲において、互いに独立に0〜20の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、Rは炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基である。)
は下記式(4)で表されるアクリル基もしくはα置換アクリル基含有基であり、
【化6】

(式中、Rは、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rは炭素数1〜18のエーテル結合及び/又はエステル結合を含んでいてもよい2価もしくは3価の連結基であり、nは1又は2の整数である。)
及びQは、互いに独立に、炭素数3〜20のエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合を含んでいてもよい2価の連結基であり、途中環状構造や分岐を含んでいてもよく、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
は互いに独立に、下記式(5)で表わされる基であり、
【化7】

(式中、R、R、Q、Qは上記の通りであり、h、i、jは0〜3の整数であり、かつh+i+jは1〜3のいずれかの値であり、繰り返し単位の配列はランダムであってよい。)
Zは2価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造、不飽和結合を有する基であってもよく、vは0〜5の整数である。]
【発明の効果】
【0011】
本発明の含フッ素アクリレートは、非フッ素化有機化合物との相溶性に優れるだけでなく、光で硬化して撥水撥油性の硬化物を形成することができ、ハードコート用の添加剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明における含フッ素アクリレートは下記式(1)で示される。
[化8]
−[Z−Rf−Z−X−Z−Rf−Z−X (1)
【0014】
式(1)において、Rfは2価の分子量500〜30000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Rfは、一般式−C2iO−(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である)で表される繰り返し単位を1〜500個を含む2価のパーフルオロポリエーテル残基であり、好ましくは下記式(6)〜(8)で表されるパーフルオロポリエーテル残基である。
【0015】
【化9】

式(6)中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数、但しm+nは2〜200である。sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
【化10】

式中、jは1〜3の整数、kは1〜200の整数である。
【化11】

式中、YはF又はCF基、jは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数、但し、m+nは2〜200である。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
【0016】
式(1)において、Xはそれぞれ独立に下記式(2)で表わされる基である。
【化12】

【0017】
式(2)において、a及びcは0〜4、bは1〜4の整数であり、但しa+b+cは2、3、4のいずれかである。
【0018】
式(2)において、Q及びQは、互いに独立に、炭素数3〜20のエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合を含んでいても良い2価の連結基であり、途中、環状構造や分岐を含んでいても良く、同一でも異なっていても良い。Q及びQとしては、下記式で表わされる基が好ましい。
【0019】
【化13】

【0020】
式(2)において、Rは互いに独立に、下記式(3)で表される基であり、
[化14]

−(CO)(CO)(CO)(CHO) (3)
式中、Rは炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基である。c、d、e及びfはRの分子量が30〜600、好ましくは60〜300となる範囲において、それぞれ独立に0〜20の整数、好ましくは1〜10の整数である。各繰り返し単位の配列はランダムであってもよい。
【0021】
は炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基等があげられる。特に好ましくはメチル基、エチル基である。
【0022】
このようなRとしては、下記式で示される基が好ましい。
[化15]
−(CO)(CO)CH
p、qは0〜20の整数であり、p+qは1〜40であり、式中のプロピレン基は分岐していてもよく、各繰り返し単位はランダムに結合されていてもよい。
【0023】
は下記式(4)で表される、少なくとも一つのアクリル基、またはα置換アクリル基のいずれかを有する炭素数1〜20の一価の有機基である。
【化16】

【0024】
式中Rは、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、特に好ましくは水素原子、メチル基であり、Rは炭素数1〜18の、2価もしくは3価の連結基であり、エーテル結合性酸素やエステル構造、アクリル基構造、メタクリル基構造を含んでいてもよく、好ましくは下記式で示される基であり、特に好ましくは、エチレン基を含む基である。nは1又は2の整数である。
【0025】
【化17】

【0026】
式(1)において、Xは互いに独立に、下記式(5)で表わされる基である。
【化18】

式中、R、R、Q、Qは前述と同様であり、h、i、jは0〜3の整数であり、h+i+jは1、2、3のいずれかの値であり、各くりかえし単位の配列はランダムであってもよい。
【0027】
式(1)において、Zは2価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子を含んでいてもよい。また、Zは環状構造、不飽和結合を有する基であってもよく、vは0〜5の整数である。Zは、アクリル基の重合を阻害するようなものでなければ、構造は特に制限されない。Zの例としては、下記式に示す基が挙げられる。
【0028】
【化19】

【0029】
中でも、下記式で示される基が好ましい。
【化20】

【0030】
上記含フッ素アクリレート化合物は、以下の方法で合成することができる。
先ず、下記式(9)に示されるような、両末端オレフィン化パーフルオロポリエーテル化合物を触媒存在下、反応温度60〜150℃、好ましくは70〜120℃で、
[化21]
CH=CH−Z−Rf−Z−CH=CH (9)
(Rf及び、Zは上記の通りである。)

下記式(10)で示されるような、環状ハイドロジェンシロキサン
【化22】

(a、b、cは上記の通りである。)

と付加反応させると、下記式(11)に示されるようなパーフルオロポリエーテル基を有する多官能SiH化合物が製造される。
[化23]
[Z−Rf−Z−W−Z−Rf−Z−W (11)
(Rf、Z、vは上記の通りである。)
【0031】
式(11)において、Wは下記式で表わされる基である。
【化24】


(式中、a、b、cは上記の通りである。)
【0032】
式(11)において、Wは下記式で表わされる基である。
【化25】

(h、i、jは上記の通りであり、Wにおける繰り返し単位の配列はランダムであってよい。)
【0033】
付加反応は溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈しても良い。このとき該希釈溶剤は、ヒドロシリル化を阻害せず反応後に生成する化合物(11)が可溶であることが好ましく、目的の反応温度で化合物(9)及び化合物(10)の双方を溶解するもの、たとえばフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)など、フッ素変性された溶剤が望ましく、中でも、m−キシレンヘキサフロライドが好ましい。
【0034】
触媒は、例えば白金、ロジウムまたはパラジウムを含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金−オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。触媒の配合量は、化合物(9)に対し、含まれる金属量が0.1〜5000ppmとなることが好ましく、より好ましくは1〜1000ppmである。
【0035】
該付加反応において、各成分の仕込み順序は特に制限されないが、例えば化合物(9)、化合物(10)及び触媒の混合物を室温から徐々に付加反応温度まで加熱する方法、化合物(9)、化合物(10)及び希釈溶媒の混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(10)と触媒の混合物に化合物(9)を滴下する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(10)に化合物(9)と触媒の混合物を滴下する方法などをとることが出来る。この中でも、化合物(9)、化合物(10)及び希釈溶媒の混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、あるいは、目的とする反応温度まで加熱した化合物(10)に化合物(9)と触媒の混合物を滴下する方法が特に好ましい。これらの方法は、各成分あるいは混合物を必要に応じて溶剤で希釈して用いることが出来る。
【0036】
化合物(9)に対する、化合物(10)の配合量は、化合物(11)におけるvが0〜5の整数となる条件であればどのような配合量であってもよいが、三次元架橋を防ぐため、化合物(9)に対し、化合物(10)を2倍以上用いて付加反応を行った後に、未反応の化合物(10)を減圧留去等により除去することが望ましく、化合物(9)のアリル基1当量に対し、化合物(10)を1〜10当量、特に2〜6当量の存在下で反応させるのが好ましい。また必要に応じて、vが小さい中間体を合成してから、段階的に付加反応を行っても良い、例えばv=0の化合物(11)を合成した後に、2モルの化合物(11)に対して、1モルの化合物(9)を再度反応させることでv=3の化合物(11)を得ることが出来る、あるいは、vの異なる混合物中から任意の分離手段により目的とするvの値を持つ成分を分離することも出来る。例えば、v=0から3の混合物から分取クロマトグラフによりv=1の成分のみを取り出しても良い。
【0037】
次に、化合物(11)に対し、下記式(12)で示されるオレフィン化合物及び必要に応じて下記式(13)で示されるオレフィン化合物をヒドロシリル化で付加反応させる。
[化26]
V−Q−OH (12)
V−Q−OR(13)
【0038】
VはSi−H基と付加反応可能なオレフィン基であり、Qは互いに独立に、炭素数1〜18のエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合を含んでいても良い2価の連結基であり、途中環状構造や分岐を含んでいても良く、同一でも異なっていても良い。Rは上記のとおりである。
【0039】
化合物(11)に、化合物(12)及び(13)を付加反応させる場合は、化合物(11)と化合物(13)の付加反応を行った後に、過剰量の化合物(12)を用いて付加反応し、未反応の化合物(12)を除去精製することが望ましい。この時、化合物(12)及び(13)においてV、Q、Rが互いに異なる化合物を混合して用いてもよい。これにより下記式(14)で示される化合物が得られる。
【0040】
[化27]
−[Z−Rf−Z−U−Z−Rf−Z−U (14)
【0041】
式(14)において、Uは下記の基で表わすことができる。
【化28】

(式中、a、b、cは上記の通りである。)
【0042】
式(14)において、Uは下記の基で表わすことができる。
【化29】

(式中、h、i、jは上記の通りである。)
【0043】
上記式(14)の水酸基の全て/または一部を、下記式(15)で示されるウレタン化合物と反応させ、ウレタン結合を形成することで、式(1)の構造を有する、含フッ素アクリレート化合物を得ることが出来る。
[化30]
−N=C=O (15)
(式中、Rは上記の通りである。)
【0044】
化合物(11)と化合物(12)及び/または(13)の反応は、0〜120℃の条件下で両者を混合することで進行することができる。反応の速度を増加するために適切な触媒を加えてもよい。触媒としては、例えばジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクタン酸第1錫などのアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステルまたはチタンキレート化合物、ジルコウニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムキレート化合等が例示されるが、これらはその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用してもよい、これらの触媒を反応物総重量に対して、0.01〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%で加えることにより反応速度を増加させることができる。また、必要に応じて適当な溶媒で希釈して反応を行ってもよい。このような溶剤としては、イソシアネート及び水酸基と反応しない溶剤であれば特に制限なく用いることができるが、具体的にはテトラヒドロフラン,ジイソプロピルエーテル,ジブチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。
【0045】
得られる本発明の化合物は、非フッ素系のハードコート組成物に添加し、ハードコート層表面に防汚性、耐指紋性、撥水性、撥油性を付与するハードコート組成物を提供することができる。非フッ素系ハードコート組成物の有効成分100質量部に対する化合物(1)の配合量は、0.01〜20質量部であり、好ましくは0.05〜10質量部である。上記上限値超では添加した含フッ素アクリレート成分層が厚くなり、ハードコート剤としての性能を損なう可能性があり、下限値未満ではハードコート層の表面を十分に覆うことが出来なくなる。
【0046】
非フッ素系のハードコート組成物としては、本発明の化合物と混合、硬化可能であれば、いかなるものであっても使用することができるが、主剤がウレタンアクリレートであるものが好適である。該ウレタンアクリレートとしては、ポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリイソシアネートと末端ジオールのポリエステルに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリオールに過剰のジイソシアネートと反応させて得られるポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるものが挙げられ、中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、及びペンタエリスリトートリアクリレートから選ばれる水酸基を有する(メタ)アクリレートと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるポリイソシアネートを反応させたウレタンアクリレート類を含むものが好ましい。
【0047】
また他のハードコート組成物としては、主剤が、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素−(2,2,2−トリ−(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2〜6官能の(メタ)アクリル化合物、これらの(メタ)アクリル化合物をエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル、ウレタン変性品、エポキシ樹脂にアクリル酸を付加させて得られるエポキシアクリレート類、アクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等を含むものが挙げられる。
【0048】
このような紫外線や電子線など活性エネルギー線で硬化可能なハードコート剤は各社からさまざまなものが市販されている。例えば、荒川化学工業(株)「ビームセット」、大橋化学工業(株)「ユービック」、オリジン電気(株)「UVコート」、カシュー(株)「カシューUV」、JSR(株)「デソライト」、大日精化工業(株)「セイカビーム」、日本合成化学(株)「紫光」、藤倉化成(株)「フジハード」、三菱レイヨン(株)「ダイヤビーム」、武蔵塗料(株)「ウルトラバイン」等などの商品名が挙げられる。また、本発明の化合物は、フッ素系のハードコード組成物に配合することによって、撥水性、撥油性等をさらに増強することができる。
【0049】
本発明の化合物は、ハードコート組成物に配合することで、ハードコート層表面に防汚、撥水、撥油性、耐指紋性を付与するのに有用である。これによって、指紋、皮脂、汗などの人脂、化粧品等により汚れ難くなり、汚れが付着した場合であっても拭き取り性に優れたハードコート表面を与える。このため、本発明の化合物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある物品の表面に施与される、塗装膜もしくは保護膜を形成するために使用される、硬化性組成物の添加剤として有用である。このような物品としては、例えば、光磁気ディスク、CD・LD・DVD・ブルーレイディスクなどの光ディスク、ホログラム記録などに代表される光記録媒体;メガネレンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、光ファイバーや光カプラーなどの光学部品・光デバイス;CRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッシプロジェクションディスプレイ、トナー系ディスプレイ等の各種画面表示機器、特にPC、携帯電話、携帯情報端末、ゲーム機、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機自動車用等のナビゲーション装置、セキュリティーシステム端末等の画像表示装置、及びその操作も行うタッチパネル(タッチセンサー、タッチスクリーン)式画像表示入力装置;携帯電話、携帯情報端末、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機、リモートコントローラ、コントローラ、キーボード等、車載装置用パネルスイッチなどの入力装置;携帯電話、携帯情報端末、カメラ、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機などの筐体表面;自動車の外装、ピアノ、高級家具、大理石などの塗装及び表面;美術品展示用保護ガラス、ショーウインドー、ショーケース、広告用カバー、フォトスタンド用のカバー、腕時計、自動車用フロントガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプなどの透明なガラス製または透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネートなど)部材、各種ミラー部材等が挙げられる。
【0050】
また、本発明のパーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物は、紫外線硬化型レジスト液に添加し、露光を行うことで、硬化後のレジスト表面とレジストが除去された部分の撥液性に大きな差を付けることが可能であり、レジスト樹脂表面への現像液や液晶溶液の残存、汚染を防ぐことができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0052】
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた2000ml三口フラスコに、下記式(16)で示される両末端にα―不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル500gと、m−キシレンヘキサフロライド700g、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン361gを投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10−6モルを含有)を仕込み投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤や過剰のテトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式(17)で示す無色透明の液体パーフルオロポリエーテル含有化合物498gを得た(化合物I)。
【0053】
【化31】

Rf : −CF(OCF CF(OCFOCF
(p/q=0.9 p+q≒45)
【0054】
【化32】

【0055】
乾燥空気雰囲気下で、化合物(I)50.0gに対して、2−アリルオキシエタノール7.05g、m−キシレンヘキサフロライド50.0g、及び、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10−7モルを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。H−NMR及びIRでSi−H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰の2−アリルオキシエタノールを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式(18)に示す淡黄色透明の液体パーフルオロポリエーテル含有化合物55.2gを得た(化合物II)。
【0056】
【化33】

【0057】
乾燥空気雰囲気下で、化合物(II)50.0gに対して、THF50.0gとアクリロイルオキシエチルイソシアネート9.00gを混合し、50℃に加熱した。そこにジオクチル錫ラウレート0.05gを添加し、50℃下24時間攪拌した。加熱終了後、80℃、2Torrで減圧留去を行い、淡黄色のペースト状物質58.7gを得た(化合物III)。H−NMR及びIRの結果から下記式(19)に示す化合物であることを確認した。
【0058】
【化34】

【0059】
H−NMRスペクトルのケミカルシフトを表1に示す。(測定装置:日本電子製 JMN−LA300W、溶媒CDCl
【表1】

【実施例2】
【0060】
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた100ml三口フラスコに、化合物Iを50.0gに対して、2−アリルオキシエタノールに変えて下記式(20)で示す化合物を11.9g、およびアクリロイルオキシエチルイソシアネートを7.05g使用した以外は、実施例1と同様の手順で、下記式(21)で示す化合物56.1gを得た。
【0061】
【化35】

【化36】

【0062】
H−NMRスペクトルのケミカルシフトを表2に示す。
(測定装置:日本電子製 JMN−LA300W、溶媒CDCl
【表2】

【比較例】
【0063】
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた100mlの三口フラスコに、下記式(22)に示される含フッ素環状シロキサン50.0gと、
【化37】

(式(22)において、Rfは下記に示す基である。)

トルエン20.0gを仕込み、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに、下記式(23)に示されるポリオキシエチレンメチルアリルエーテル9.75gと、
【化38】

塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0110g(Pt単体として2.73×10-8モルを含有)の混合溶液を1時間かけて滴下し、90℃で12時間攪拌した。
別途、乾燥窒素雰囲気下で還流装置と攪拌装置を備えた100ml三口フラスコに、アリルアルコール16.9gを仕込み90℃まで加熱し、ここに一旦室温まで冷却した前述の反応溶液を3時間かけて滴下した後に、90℃で16時間攪拌した。得られた反応溶液は100℃、6Torrで2時間処理し未反応のアリルアルコールを除去した。
【0064】
乾燥空気雰囲気下で、得られた化合物60.0gに対して2‐イソシアナトエチルアクリレート7.01g、ジオクチル錫ラウレート0.010gを混合し、25℃で12時間攪拌し、下記式(24)に示す平均組成を有する化合物を得た(化合物IV)。
【化39】

【0065】
ハードコート組成物における評価
実施例及び比較例の化合物を、各々、表3に示す組成で配合した溶液を調製した。なお、ブランクとして、添加剤を含まない溶液も調製した。
【0066】
【表3】

【0067】
実施例1、2、及び比較例の添加剤を配合した各溶液を、ガラス板上にスピンコートし、コンベア型紫外線照射装置(パナソニック電工社製)で、窒素雰囲気中1.6J/cmの紫外線を照射して硬化膜を形成し、その外観を目視により評価した。また、接触角計(協和界面科学社製)を用いて、水接触角、オレイン酸接触角、オレイン酸転落角を測定した。
【0068】
マジックインクはじき性は、油性マーカー(ゼブラ株式会社製)、ハイマッキー(ゼブラ株式会社製)で表面に線を引いた場合のインキのはじかれ具合を、目視で評価した。また、表面性試験機(新東科学社製)を用いてベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を測定した。
【0069】
各ハードコート処理表面を評価した結果を表4に示す。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0070】
表4に示したように、本発明の化合物は比較例の化合物に比べ、動摩擦係数が低く、オレイン酸転落角、マジックインクはじき性、すべり性に優れた特性を付与することができ、ガラス、樹脂、フィルム、紙、金属、陶器、木材などへの表面ハードコート用組成物、印刷物表面の保護膜用組成物、塗装用組成物などへの配合物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる、パーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物。
[化1]
−[Z−Rf−Z−X−Z−Rf−Z−X (1)
[式中、Rfは2価の分子量500〜30000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良く、
は互いに独立に、下記式(2)で表わされる基であり、
【化2】

(式(2)中、a及びcは0〜4、bは1〜4の整数、但しa+b+cは2、3、または4であり、
は互いに独立に、下記式(3)で表される基であり、
[化3]
−(CO)(CO)(CO)(CHO) (3)
(式(3)中、d、e、f、gはRの分子量が30〜600となる範囲において、互いに独立に0〜20の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、Rは炭素数1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基である。)
は下記式(4)で表されるアクリル基もしくはα置換アクリル基含有基であり、
【化4】

(式中、Rは、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rは炭素数1〜18のエーテル結合及び/又はエステル結合を含んでいてもよい2価もしくは3価の連結基であり、nは1又は2の整数である。)
及びQは、互いに独立に、炭素数3〜20のエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合を含んでいてもよい2価の連結基であり、途中環状構造や分岐を含んでいてもよく、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
は互いに独立に、下記式(5)で表わされる基であり、
【化5】

(式中、R、R、Q、Qは上記の通りであり、h、i、jは0〜3の整数であり、かつh+i+jは1〜3のいずれかの値であり、繰り返し単位の配列はランダムであってよい。)
Zは2価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造、不飽和結合を有する基であってもよく、vは0〜5の整数である。]
【請求項2】
Rfが下記式で表される繰り返し単位を1〜500個含むことを特徴とする請求項1に記載のアクリレート化合物。
−C2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
【請求項3】
Rfが下記式(6)〜(8)で表わされる基から選ばれることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のアクリレート化合物。
【化6】

(式中、Yは互いに独立にF又はCF基、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数、但しm+nは2〜200である。sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてもよい。)
【化7】

(式中、jは1〜3の整数、kは1〜200の整数である。)
【化8】

(式中、YはF又はCF基、jは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数、但し、m+nは2〜200である。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【請求項4】
Zが以下のいずれかの基である請求項1〜3のいずれかに記載のアクリレート化合物。
【化9】

【請求項5】
が、下記のいずれかの基である請求項1〜4のいずれかに記載のアクリレート化合物。

【請求項6】
が下記のいずれかの基である請求項1〜5のいずれかに記載のアクリレート化合物。

【請求項7】
が下記式で示される基である請求項1〜6のいずれかに記載のアクリレート化合物。
−(CO)(CO)CH
(但し、p、qは0〜20の整数であり、p+qは1〜40であり、式中のプロピレン基は分岐していてもよく、各繰り返し単位はランダムに結合されていてもよい。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の含フッ素アクリレート化合物を含有するハードコート組成物。
【請求項9】
ハードコート組成物の主剤がウレタンアクリレートである請求項8に記載のハードコート組成物。

【公開番号】特開2010−285501(P2010−285501A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139158(P2009−139158)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】