説明

パーフロロフェニレン誘導体、その製造方法及び膜電極接合体

【課題】プロトン伝導膜及び膜電極接合体の製造に用いられる低EWで耐酸化性のパーフロロ電解質を提供する。
【解決手段】ホスホン酸エステル基を含むホスホン酸基及び/又はスルホニルハライド基を含むスルホン酸基が結合したパーフロロフェニレン誘導体であり、好ましくは下記の化学式(1)で示されるパーフロロフェニレン誘導体である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用のプロトン伝導膜や膜電極接合体を製造するのに用いられるパーフロロフェニレン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子型燃料電池の性能を支配する高分子電解質としては、下記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸膜が用いられてきた。その特徴は、CH結合を含まないパーフロロ構造のために、炭化水素膜よりもはるかに優れた耐酸化性を有する点にある。
【化1】

【0003】
この膜は、下記の化学式(4)で示されるパーフロロ共重合体膜を加水分解して製造される。
【化2】

【0004】
上記のパーフロロ共重合体膜は、テトラフロロエチレンと下記の化学式(5)で示されるエーテル結合を2個有する長側鎖型パーフロロビニルエーテルモノマーを共重合し、得られたポリマーを溶融成型して製造される。
【化3】

【0005】
上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸膜は、スルホン酸基が結合した側鎖が長いので、充分な機械的強度を保持するためには繰り返し単位数の比p/qを4.6以上にする必要がある。そのため、イオン交換容量IEC(Ion Exchange Capacity)で表せば1.1(meq/グラム乾燥樹脂)以下、EW(Equivalent Weight)で表せば900以上となり、プロトン伝導度の面で充分ではなく、また燃料電池の運転温度が80℃以上では膜が乾燥して使用できない。
【0006】
ここで、上記のEWとイオン交換容量はEW=1000/IECの関係式で相互に変換でき、EWは(電解質の分子量)/(イオン交換基の当量数×価数)で算出される。なお、この定義から、2種類の電解質を混合した場合のEW値は次式で計算される。
【数1】

例えば、EW=1000のポリマーとEW=200のポリマーを8:2の重量比で混合した時のEWは、EW=1/(0.8/1000+0.2/200)=556となる。
【0007】
上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸膜ではEWを900よりも低くできないという問題を解決する目的で、下記の化学式(6)で示される、エーテル結合が1個の短側鎖型パーフロロビニルエーテルモノマーをテトラフロロエチレンと共重合してイオン交換容量を高くし、固体高分子型燃料電池の内部電気抵抗を下げて、エネルギー効率を高くする試みが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【化4】

【0008】
しかしながら、上記の化学式(6)のモノマーは、テトラフロロエチレンとの共重合時に、下記の反応式で示される環化反応が生じて連鎖移動を起こす(例えば、非特許文献1参照)。
【化5】

【0009】
その結果、得られる共重合体の分子量が充分でなく、パーフロロスルホン酸膜の機械的強度が低下して、燃料電池のセルの組み立てや性能を長期に維持することが困難になる。
こうした現象は、テトラフロロエチレンに対するパーフロロビニールエーテルモノマーの割合が多いほど起こりやすいので、上記の化学式(6)のモノマーを用いた膜で、機械的強度を保持しつつ、イオン交換容量を高くすることは困難である。
【0010】
上記の環化問題を解決するために、下記の化学式(7)で示される短側鎖型パーフロロビニルエーテルモノマーが知られている(例えば、本願発明者らの発明に係る特許文献2参照)。
【化6】

【0011】
しかしながら、具体的な製造方法が開示されているのはn=3の場合だけであり、また開示されている製造工程は複雑で、到底工業的に実施できるものではない。さらに、モノマー合成工程における環化反応が50%程度生じるので(例えば、非特許文献1参照)、その重合時の環化反応抑制効果は充分でないと考えられる。
【0012】
上述したようなスルホン酸基による改良法の限界を、ホスホン酸基を有するパーフロロビニルエーテルモノマーをテトラフロロエチレンと共重合することで克服しようとする試みが知られている(例えば、本願発明者の発明に係る特許文献3参照)。
ホスホン酸基は2価であり、EWの定義によれば、1価のスルホン酸基を用いる場合のEWを2分の1にできるので有利であるが、開示されているモノマーの合成法は多段階を要して実用的でない。
【0013】
本発明者は、EWが900以下で機械的強度が大きく、耐酸化性に優れたパーフロロのプロトン伝導膜を得るべく鋭意研究を行った。その結果、市販されているパーフロロベンゼンやデカフロロビフェニル、又は非特許文献2,3,4に記載されたパーフロロフェニレン化合物に、ホスホン酸基やスルホン酸基を結合したパーフロロフェニレン誘導体が、EWが900以下の耐酸化性に優れたパーフロロ電解質として機能することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
該パーフロロフェニレン誘導体を、上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸樹脂に混合することで、EWが900以下のパーフロロプロトン伝導膜を得ることが可能である。また、プロトン移動のために、膜と同じパーフロロスルホン酸樹脂が使用されている電極触媒層に含有させることで、膜電極接合体(MEA)の電気抵抗を下げることも可能である。
【0015】
本発明のパーフロロフェニレン誘導体は、一般的には水溶性であるため、プロトン伝導膜や電極触媒層に含有させる際には、生成水で流出しないよう架橋して不溶化することが好ましい。
このためには、ホスホン酸基の多価金属イオンによる架橋(本願発明者の発明に係る特許文献4参照)や、スルホン酸基のスルホンイミド基架橋(特許文献5参照)が有効に利用できる。
本発明においては、ホスホン酸基と金属イオン架橋するものなら任意の多価金属イオンを使用できるが、例えばカルシウムイオン,白金イオン,セリウムイオン,マンガンイオンなどが好適である。
【0016】
なお、有機ELの電子移動材料として、官能基が結合したパーフロロフェニレン誘導体が知られている(例えば、特許文献6参照)。しかし、記載されている官能基の種類はトリフロロメチル基,ニトロ基,ニトリル基であり、プロトン伝導膜用電解質に係る本発明のホスホン酸基やスルホン酸基及びその前駆体とは全く異なるものである。
また、スルホン酸基やホスホン酸基が結合したフラーレン誘導体を、パーフロロスルホン酸樹脂に混合する方法が知られている(例えば、本願発明者の発明に係る特許文献4参照)。しかし、該フラーレン誘導体はCH結合を有していてパーフロロではなく、本発明のパーフロロフェニレン誘導体とは全く異なるものである。
【0017】
【特許文献1】欧州特許第0289869号明細書
【特許文献2】米国特許第4329435号明細書
【特許文献3】米国特許第6680346号明細書
【特許文献4】特許第3984280号公報
【特許文献5】特開2003−303513号公報
【特許文献6】特開2005−255531号公報
【0018】
【非特許文献1】木本協司監修,「PEFC用電解質膜の開発」,シーエムシー出版,2000年,P.33−34
【非特許文献2】D. D. Callander et al : Tetrahedron,1966,Vol.22,419-432
【非特許文献3】G. M. Brooke et al : J.Chem.Soc.,729-733(1964)
【非特許文献4】G. M. Brooke et al : J.Chem.Soc.,1864-1869(1965)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、従来のパーフロロスルホン酸膜よりも、EWが低いパーフロロプロトン伝導膜の製造を可能にする低EWで耐酸化性のパーフロロ電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、ホスホン酸エステル基を含むホスホン酸基及び/又はスルホニルハライド基を含むスルホン酸基が結合したパーフロロフェニレン誘導体であり、好ましくは下記の化学式(1)で示されるパーフロロフェニレン誘導体である。
【化7】

【0021】
また、下記の化学式(2)で示されるパーフロロフェニレン化合物を
【化8】

非プロトン性極性有機溶媒を用い、LiPO(OR)(RはC〜Cのアルキル基又はフェニル基)又はKSOと常圧又は加圧下、50〜300℃で反応させ、必要により加水分解を行うことを特徴とする上記のパーフロロフェニレン誘導体の製造方法も本発明である。
【0022】
また、ホスホン酸基が多価金属イオンとイオン架橋を形成しているか、スルホン酸基がスルホンイミド基架橋を形成している上記のパーフロロフェニレン誘導体も本発明である。
また、上記のパーフロロフェニレン誘導体、又はそれが上記多価金属イオン架橋又はスルホンイミド基架橋で架橋されたパーフロロフェニレン誘導体が、膜及び/又は電極触媒層に含有された膜電極接合体も本発明である。この場合、膜がパーフロロスルホン酸樹脂から成ることが好ましく、また補強材を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明で開示される低EWで耐酸化性のパーフロロ電解質を用いることで、上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸膜よりもプロトン伝導度が高く、燃料電池の運転温度が80℃以上でも膜の乾燥なしに使用できる、耐酸化性のパーフロロプロトン伝導膜を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、ホスホン酸エステル基を含むホスホン酸基及び/又はスルホニルハライド基を含むスルホン酸基が結合したパーフロロフェニレン誘導体であり、好ましくは下記の化学式(1)で示されるパーフロロフェニレン誘導体であるが、F原子の一部がBrやClで置換されていても構わない。
【化9】

【0025】
本発明のパーフロロフェニレン誘導体は、tの値が異なるものの混合物であってもよいし、精製して実質的に単一物であっても構わない。tの範囲は通常0〜8であるが、製造の容易さから2〜5の範囲にあることが好ましい。
また、パーフロロフェニレン核に結合したXの種類は、それぞれの内部で独立であって、同一でもよく異なっていてもよい。したがって、Xが全てホスホン酸基又はスルホン酸基であってもよく、またホスホン酸基とスルホン酸基が混在していても構わない。
【0026】
また上記の化学式(1)において、中間部に存在するt個のパーフロロフェニレン核に結合したXの種類と結合数は、それぞれのフェニレン核で同一でもよく、また異なっていても構わない。上記のパーフロロフェニレン核同士の結合はパラ位で直線状に結合しているのが通常だが、一部メタ位で屈曲して結合していても構わない。
【0027】
本発明のパーフロロフェニレン誘導体に含まれる官能基は、必要により当業者には公知の方法で加水分解やイオン交換され、最終的にはホスホン酸基PO(OH)又はスルホン酸基SOHに変換されて、耐酸化性に優れたパーフロロ電解質として機能する。
本発明のパーフロロフェニレン誘導体のEWをホスホン酸基(PO(OH) MW=81 価数=2)の場合について例示すると表1のようになる。
【0028】
【表1】

【0029】
また、本発明のパーフロロフェニレン誘導体のEWをスルホン酸基(SOH MW=81 価数=1)の場合について例示すると表2のようになる。
【0030】
【表2】

【0031】
パーフロロ電解質であるホスホン酸基PO(OH)及び/又はスルホン酸基SOHが結合した本発明のパーフロロフェニレン誘導体は、一般的には水溶性である。しかし、プロトン伝導膜や電極触媒層に含有させる場合は、燃料電池の運転中に生成する水に溶けて流出しないように、非水溶性であることが必要であり、次の3つの方法(A)〜(C)のいずれかで不溶化を行うことが好ましい。
【0032】
(A)EWの選択
本発明のパーフロロフェニレン誘導体から成るパーフロロ電解質は、一概には言えないが、EWが200以上であると非水溶性であることが多い。例えば、C−C−SOH(EW=396)は非水溶性である。
これに対してC−C−PO(OH)(EW=198)はわずかに水溶性であるが、更にフェニレン核の数を増やしてEWを高くすると非水溶性になる。
【0033】
得られた非水溶性のパーフロロ電解質は、テトラヒドロフラン,ジオキサン,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド等の極性有機溶媒に溶かし、上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸樹脂の(低級アルコール+水)溶液(例:アルドリッチ社製 EW=1100)と混合して、ガラス繊維不織布や延伸多孔質ポリテトラフロロエチレン膜等の補強材に塗布含浸することで、プロトン伝導膜に成膜可能である。
該プロトン伝導膜は、マトリックスポリマーであるパーフロロスルホン酸樹脂よりもEWが低いパーフロロ電解質を混合するので、EWを900以下にすることが可能である。
【0034】
(B)ホスホン酸基の多価金属イオン架橋
本発明のパーフロロフェニレン誘導体から成るパーフロロ電解質のうち、水溶性のものを使用する場合は、カルシウムイオン,白金イオン,セリウムイオン,マンガンイオン等の多価金属イオンを該電解質の水溶液に添加して金属イオン架橋を形成し、水に不溶化させることが可能である。この場合、電解質は安定な金属イオン架橋を生じるホスホン酸基を2個以上有することが好ましい。添加する金属塩としては、塩化物,硝酸塩,硫酸塩,酢酸塩等の水溶性塩の中から適宜選択される。
得られた不溶性の金属イオン架橋パーフロロ電解質は、上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸樹脂の(低級アルコール+水)溶液(例:アルドリッチ社製 EW=1100)に添加してホモジナイザーで攪拌し、ガラス繊維不織布や延伸多孔質ポリテトラフロロエチレン膜等の補強材に塗布含浸することで、プロトン伝導膜に成膜可能である。
【0035】
この場合、操作順序を入れ替えて、最初に、ホスホン酸基を2個以上有する水溶性のパーフロロ電解質をパーフロロスルホン酸樹脂の(低級アルコール+水)溶液(例:アルドリッチ社製 EW=1100)に添加し、多価金属イオンの水溶性塩を加えてホモジナイザーで攪拌し、ホスホン酸基の金属イオン架橋を形成させて、ガラス繊維不織布や延伸多孔質ポリテトラフロロエチレン膜等の補強材に塗布含浸して成膜することも可能である。
上記のいずれかの方法で得られるプロトン伝導膜は、マトリックスポリマーであるパーフロロスルホン酸樹脂よりもEWが低いパーフロロ電解質が混合されるので、EWを900以下にすることが可能である。
【0036】
(C)スルホン酸基のスルホンイミド基架橋
本発明のパーフロロフェニレン誘導体のスルホン酸基は、当業者には公知の下記の反応でスルホニルフロライド基とスルホンアミド基に変換し、両者をトリアルキルアミン中で反応させてスルホンイミド基架橋を行うことが可能である。
【化10】

【0037】
上記の方法でスルホンイミド基架橋したパーフロロフェニレン誘導体は、上記の化学式(3)で示されるパーフロロスルホン酸樹脂の(低級アルコール+水)溶液(例:アルドリッチ社製 EW=1100)と混合して、ガラス繊維不織布や延伸多孔質ポリテトラフロロエチレン膜等の補強材に塗布含浸することでプロトン伝導膜に成膜可能である。
こうして得られるプロトン伝導膜は、マトリックスポリマーであるパーフロロスルホン酸樹脂よりもEWが低いパーフロロ電解質が混合されるので、EWを900以下にすることが可能である。
【0038】
なお、上記の架橋方法においては、パーフロロフェニレン誘導体にホスホン酸基のみが結合している場合は多価金属イオンによる架橋、またスルホン酸基のみが結合している場合はスルホンイミド基による架橋が適用されるが、ホスホン酸基とスルホン酸基が共存している場合は、どちらの架橋方法も適用可能である。
【0039】
上述した(A)〜(C)の方法で水に不溶化した本発明のパーフロロフェニレン誘導体から成るパーフロロ電解質は、パーフロロスルホン酸樹脂の(低級アルコール+水)溶液(例:アルドリッチ社製 EW=1100)を含む触媒インクに添加して膜の表面に塗布することで、膜電極接合体のアノード及び/又はカソードの電極触媒層に該電解質を含有させることができる。
この場合、操作順序を入れ替えて、最初に水溶性のパーフロロフェニレン誘導体から成るパーフロロ電解質をパーフロロスルホン酸樹脂の(低級アルコール+水)溶液(例:アルドリッチ社製 EW=1100)を含む触媒インクに添加し、多価金属イオンの水溶性塩を加えてホスホン酸基の金属イオン架橋を形成させることも可能である。
こうして得られた触媒インクを膜の表面に塗布することで、膜電極接合体のアノード及び/又はカソードの電極触媒層に、本発明のパーフロロ電解質を含有させることができる。
【0040】
本発明のパーフロロフェニレン誘導体は、市販されているパーフロロベンゼンCやデカフロロビフェニルC−C、又は上記の非特許文献2,3,4に記載された下記の化学式(2)で示されるパーフロロフェニレン化合物を
【化11】

テトラヒドロフラン,ジオキサン,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,スルホラン等の非プロトン性極性有機溶媒を用い、LiPO(OR)(RはC〜Cのアルキル基又はフェニル基)又はKSOと常圧又は加圧下、50〜300℃で反応させ、必要により加水分解やイオン交換することで製造される。
反応温度は、使用する有機溶媒の沸点、必要とする反応速度及び副反応の抑制を考慮して適宜選択される。
【0041】
上記の化学式(2)で示されるパーフロロフェニレン化合物オリゴマーは、上記の非特許文献2,3,4に記載されている次のような方法で製造される。
【化12】

【0042】
反応溶媒はテトラヒドロフランが好ましく、反応温度は−40〜60℃が通常用いられる。非特許文献2によれば、上記のパーフロロフェニレン化合物オリゴマーの赤外吸収スペクトルは、1475cm−1、970cm−1、710cm−1付近に特徴的なピークを有する。
【0043】
本発明においては、下記の試薬を用いてホスホン酸基やスルホン酸基あるいはその前駆体が導入される。
・ホスホン酸基の導入試薬(ジアルキル又はジフェニルホスファイトのアルカリ金属塩)
下記に示すように、ジアルキル又はジフェニルホスファイトをテトラヒドロフラン,ジオキサン,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,スルホラン中で、水素化アルカリ金属と反応させて得られるアルカリ金属塩で、そのままパーフロロベンゼン,デカフロロビフェニル,上記のパーフロロフェニレン化合物との求核的置換反応に用いられる。
【化13】

この場合、反応性及び取り扱いの容易さから、Meはリチウムであることが好ましい。
【0044】
反応後、ホスホン酸エステル基は下記の公知の方法で加水分解され、ホスホン酸基に変換される。
【化14】

【0045】
・スルホン酸基の導入試薬(亜硫酸のアルカリ金属塩MeSO
亜硫酸のアルカリ金属塩MeSO(Meはアルカリ金属)とパーフロロベンゼン,デカフロロビフェニル,上記のパーフロロフェニレン化合物との求核的置換反応では、溶解性及び反応性の面からKSOを用いることが好ましいが、NaSOも使用可能である。
反応後、スルホン酸塩SOMeは塩酸で酸型SOHに変換される。
【0046】
こうして得られるスルホン酸基(SOH又はSOK)は、PClでスルホニルクロライド基SOCl、次いでKFでスルホニルフロライド基SOFに変換した後、アンモニアと反応させてスルホンアミド基SONHに変換することが可能である。
更に、スルホニルフロライド基とスルホンアミド基を、トリアルキルアミン中、室温〜100℃で反応させて、スルホンイミド基架橋を形成させることが可能である。
【0047】
次に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
200mlのガラス製四口フラスコに100mlのジメチルホルムアミドを入れ、窒素気流中でデカフロロビフェニル6.68g(0.02mol)を添加して分散させた溶液に、KSO 4.74g(0.03mol)を撹拌しながら添加し、更に水10gを加えた。油浴を用いて120℃で24時間反応させ、水を加えて生成した沈殿をろ別した。
赤外吸収スペクトルを測定したところ、1452〜1468cm−1、962cm−1、658cm−1にビフェニル基の特性吸収、1230〜1246cm−1にSOの非対称振動、1067cm−1にSOの対称振動による強い吸収が見られ(図1参照)、ビフェニル核にスルホン酸塩基SOKが結合していることが分かった。
また、ICP−AES(誘導結合プラズマ原子発光スペクトル法)によりS分析を行ったところ8.4%であり、C−C−SOKとしての計算値7.4%とほぼ一致した。分析値が計算値より少し大きいのは、KOS−C−C−SOKが副生しているためと推定された。
【0049】
上記のパーフロロスルホン酸塩を塩酸でC−C−SOH(EW=396、非水溶性)に変えて、2mlのテトラヒドロフランに溶解した。この溶液を、50mlのガラス製容器に入れた5%Nafion溶液(アルドリッチ社製、EW=1100)に、Nafionポリマーに対してC−C−SOHが20%になるように添加して、ホモジナイザーで30分間撹拌した。
得られた分散液を、厚さ100ミクロンのガラス繊維不織布(日本バイリーン社製)上に刷毛を用いて塗布し、間隙に含浸させた。この操作を10回繰り返した後、100℃で乾燥させて半透明のスルホン酸化パーフロロフェニレン誘導体を含むパーフロロスルホン酸膜を得た。
該膜のポリマー含浸率は約85%であり、ポリマー部分のEWは混合比率から、EW=1/(0.8/1100+0.2/396)=812であった。
【実施例2】
【0050】
300mlの四口フラスコに、窒素気流中でマグネシューム片3.8g(0.15mol)、ジブロモエタン0.04g(0.0002mol)とテトラヒドロフラン100mlを仕込み、温度を0〜4℃に保ちながら、ペンタフルオロブロモベンゼン39.1g(0.16mol)をゆっくり撹拌しながら添加した。
生成したグリニヤ試薬に、デカフロロビフェニル5.01g(0.15mol)を50mlのテトラヒドロフランに分散した溶液を撹拌しながら添加した。更に0〜4℃で6時間反応させた後、一晩室温で静置後、反応液に10%硫酸を投入し、未反応のマグネシューム片を溶解させた。沈殿物をろ別した後、メタノールで洗浄した。
乾燥後、電解脱離法質量分析で分析したところ、C−(C−Cが主成分のパーフロロフェニレン化合物オリゴマー(平均分子量926)が生成していることが判明した。KBrを用いて、該物質の赤外吸収スペクトルを測定したところ、1474cm−1、968cm−1、708cm−1付近に特徴的なピークが現れ、上記の非特許文献2の数値と一致した。
【0051】
200mlのガラス製四口フラスコにジメチルホルムアミド100mlを入れ、窒素気流中でジエチルホスファイト4.65g(0.034mol)を溶解した。この溶液に、リチウムハイドライド0.28g(0.035mol)を撹拌しながら添加し、LiPO(OCを得た。この溶液に、上記のオリゴマー10gを撹拌しながら添加した。90℃で20時間反応させ、溶液が透明になった後、水を加えて生成した沈殿をろ別した。
赤外吸収スペクトルを測定したところ、1464cm−1、964cm−1、721cm−1にパーフロロフェニレン基の特性吸収、2991cm−1付近にエチル基、1252〜1273cm−1付近にP=Oの吸収が見られ、パーフロロフェニレン核にホスホン酸エステル基PO(OCが結合していることが分かった。
【0052】
この粉末2gにトリメチルシリルブロマイド20gを加えて40〜50℃で16時間反応させ、エステル交換を行った。これに水を加えて加水分解して減圧乾燥し、得られた粉末の赤外吸収スペクトルを測定したところ、エチル基の吸収がなくなり、3400cm−1付近に大きなOHの吸収が現れた。このホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体について、ICP−AESによるPの分析を行なったところ、ホスホン酸基が2個程度結合しており、平均EWを算出するとEW=272という結果が得られ、非水溶性であった。
上記のホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体をテトラヒドロフランに溶解し、実施例1と同様に操作して、ホスホン酸基を含むパーフロロスルホン酸膜を得た。Nafionポリマーに対して、ホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体の混合率は15%であったので、ポリマー部分の平均EWはEW=1/(0.85/1100+0.15/272)=755であった。
【実施例3】
【0053】
200mlの四口フラスコにジメチルアセトアミド100mlを入れ、窒素気流中でジエチルホスファイト6.90g(0.05mol)を溶解した。この溶液に、リチウムハイドライド0.41g(0.051mol)を撹拌しながら添加し約50℃に加温して、LiPO(OCを得た。この溶液に、実施例2で得られたオリゴマー4gを撹拌しながら添加した後、更に90℃で20時間反応させ、水を加えて生成した沈殿をろ別した。
赤外吸収スペクトルを測定したところ、1474cm−1、964cm−1、708cm−1にパーフロロフェニレン基の特性吸収、2984cm−1付近にエチル基、1211cm−1付近にP=Oの吸収が見られ(図2参照)、パーフロロフェニレン核にホスホン酸エステル基PO(OCが結合していることが分かった。
【0054】
この粉末2gにトリメチルシリルブロマイド20gを加えて40〜50℃で32時間反応させ、エステル交換を行った。これに水を加えて加水分解して減圧乾燥し、得られた粉末の赤外吸収スペクトルを測定したところ、エチル基の吸収がなくなり、3400cm−1付近に大きなOHの吸収が現れ、また1472cm−1、968cm−1、708cm−1にパーフロロフェニレン基の特性吸収、1234cm−1にP=Oの吸収が現れた(図3参照)。このホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体について、ICP−AESによるPの分析を行ったところ、ホスホン酸基が4〜5個結合しており、平均EWを算出するとEW=130という結果が得られ、水溶性であった。
【0055】
上記のホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体500mgを水20mlに溶かした溶液を50mlのビーカーに入れ、これに塩化セリウム7水和物CeCl7HO 100mgを水10mlに溶かした溶液を入れて攪拌し、生じた沈殿を濾過、乾燥して、Ceイオンで架橋されたホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体を得た。
これを瑪瑙鉢ですり潰し、Nafionポリマーに対してフェニレン誘導体が10%になるように、50mlのガラス製容器に入れた5%Nafion溶液(アルドリッチ社製、EW=1100)に添加して、ホモジナイザーで30分間撹拌した。得られた分散液を、厚さ100ミクロンのガラス繊維不織布(日本バイリーン社製)上に刷毛を用いて塗布し、間隙に含浸させた。この操作を10回繰り返した後、100℃で乾燥させてCeイオン架橋ホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体を含むパーフロロスルホン酸膜を得た。
【実施例4】
【0056】
実施例3において、ホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体の3%水溶液を、Nafionポリマーに対してフェニレン誘導体が10%になるように、50mlのガラス製容器に入れた5%Nafion溶液(アルドリッチ社製、EW=1100)に添加して、ホモジナイザーで30分間撹拌した。この溶液に、攪拌しながら塩化セリウム7水和物CeCl7HOの1%水溶液を添加して、Ceイオンでホスホン酸を架橋した。
得られた分散液を、厚さ100ミクロンのガラス繊維不織布(日本バイリーン社製)上に刷毛を用いて塗布し、間隙に含浸させた。この操作を10回繰り返した後、100℃で乾燥させてCeイオン架橋ホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体を含むパーフロロスルホン酸膜を得た。Nafionポリマーに対して、ホスホン酸化パーフロロフェニレン誘導体の混合率は10%であったので、ポリマー部分のEWはEW=1/(0.90/1100+0.10/130)=629であった。
【実施例5】
【0057】
実施例2において、パーフロロフェニレン化合物オリゴマーの代わりにデカフロロビフェニルを用い、LiPO(OCの仕込みモル比を1:1にした以外は同様に操作して、C−C−PO(OH)を得た。該ホスホン酸化フェニレン誘導体のEWは198であり、わずかに水溶性であった。
【実施例6】
【0058】
実施例1において、デカフロロビフェニルの代わりに実施例2で得られたパーフロロフェニレン化合物オリゴマーを用い、KSOの仕込みモル比を原料の3倍にした以外は同様に操作して、SOKが3個程度結合したスルホン酸化パーフロロフェニレン誘導体を得た。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(実施例1)赤外吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
【図2】(実施例3)赤外吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
【図3】(実施例3)赤外吸収スペクトルの測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホン酸エステル基を含むホスホン酸基及び/又はスルホニルハライド基を含むスルホン酸基が結合したパーフロロフェニレン誘導体。
【請求項2】
下記の化学式(1)で示される請求項1に記載のパーフロロフェニレン誘導体。
【化1】

【請求項3】
下記の化学式(2)で示されるパーフロロフェニレン化合物を
【化2】

非プロトン性極性有機溶媒を用い、LiPO(OR)(RはC〜Cのアルキル基又はフェニル基)又はKSOと常圧又は加圧下、50〜300℃で反応させ、必要により加水分解を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のパーフロロフェニレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
ホスホン酸基が多価金属イオンとイオン架橋を形成しているか、スルホン酸基がスルホンイミド基架橋を形成している請求項1又は2に記載のパーフロロフェニレン誘導体。
【請求項5】
請求項1,2,4のいずれかに記載のパーフロロフェニレン誘導体が、膜及び/又は電極触媒層に含有された膜電極接合体。
【請求項6】
膜がパーフロロスルホン酸樹脂から成る請求項5に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
膜が補強材を有する請求項5又は6に記載の膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249337(P2009−249337A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98931(P2008−98931)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(599034158)有限会社 ミレーヌコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】