説明

パーム廃油の処理方法

【課題】燃料として使用可能な程度に粘性を低下させることができる、新たなパーム廃油の処理方法を提案する。
【解決手段】パーム廃油を加熱して溶融し、この溶融液に酸性凝集剤を添加し、溶融液上に浮上する浮上組成物を除去した後、アルカリ溶液を加えて凝集沈殿を生じさせ、固液分離する処理方法において、前記酸性凝集剤として、焼成動物骨粉を酸溶液に溶解し、得られた溶解液をアルミニウムと共に無機多孔質体に含浸させてなる酸性凝集剤を用いる処理方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椰子からパーム油を絞った際に生じる絞り粕としての廃液(「パーム廃油」と称する)の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーム油は、アブラヤシ(オイルパーム)という椰子の実から搾られる植物油であり、食用油、マーガリン、ショートニング、石鹸の原料として利用されているほか、近年では、バイオディーゼル燃料としての利用も進められており、その生産量は年々増加している。
【0003】
1トンのパーム油を生産すると、1トンの固形廃物と1.5トンの絞り粕としてのパーム廃油が生じると言われており、パーム油の生産量の増加に伴って、これら固形廃物及びパーム廃油の量も増えているため、これらの処理が問題となっている。
【0004】
パーム廃油は、うまく処理して精製すれば、燃料として十分に使用可能であることは分かっているものの、粘性が極めて高くて扱いづらいため、従来、適当な処理方法が見出されていないのが現状であった。
【0005】
パーム廃油の処理方法として、凝集剤を用いて粘性成分を分離除去することが考えられる。
本発明者は、従来、凝集剤として、焼成粉状化された動物骨粉を硫酸又は塩酸に溶解してなる骨溶解液からなる動物骨含有凝集剤を提案している(特許文献1)。
また、粉末状で、且つ純水に添加するとpH5〜9を示す凝集剤であって、金属成分を吸着してなる多孔質粒子からなる酸性の粉末と、リン酸カルシウムを吸着してなる多孔質粒子からなるアルカリ性の粉末とを混合状態で含む凝集剤を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第1843850号(特開平1−274807号公報)
【特許文献2】再表2007−074758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く従来提案している凝集剤では、パーム廃油の粘性成分をうまく除去することができず、燃料として使用可能な程度に処理することができなかった。
そこで本発明は、燃料として使用可能な程度に処理することができる、パーム廃油の新たな処理方法を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、椰子からパーム油を絞った際に生じる絞り粕としてのパーム廃油を加熱して溶融し、この溶融液に酸性凝集剤を添加し、溶融液上に浮上する浮上組成物を除去した後、アルカリ溶液を加えて凝集沈殿を生じさせ、固液分離することを特徴するパーム廃油の処理方法であって、前記酸性凝集剤として、焼成動物骨粉を酸溶液に溶解し、得られた溶解液をアルミニウムと共に無機多孔質体に含浸させてなる酸性凝集剤を用いることを特徴とするパーム廃油の処理方法を提案するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明が提案するパーム廃油の処理方法によれば、特定の酸性凝集剤とアルカリ溶液を用いて固液分離することによって、固体成分として、リンを含む粘性成分を分離除去できるため、液体成分を回収することにより、燃料として使用できる程度に粘性の低いパーム廃油精製油を得ることができる。また、前記のように分離除去した固体成分は、リンを多く含むリン含有組成物であるため、肥料などとして利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明するが、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態のパーム廃油の処理方法(「本処理方法」と称する)は、パーム廃油を加熱して溶融する加熱溶融工程、溶融液に酸性凝集剤を添加する酸性凝集剤添加工程、溶融液上に浮上する浮上組成物を除去する浮上組成物除去工程、アルカリ溶液を加えるアルカリ添加工程、凝集沈殿物を固液分離する固液分離工程を経て処理することを特徴とするものである。以下、原料及び各工程について詳述する。
【0012】
<パーム廃油>
原料としてのパーム廃油は、椰子からパーム油を絞った際に生じる絞り粕であり、粘性が高く、リンを多く含んでいる特徴がある。このリンが粘性の原因とも考えられる。
【0013】
<加熱溶融工程>
先ず、パーム廃油を加熱して溶融する。この際、加熱して攪拌しながら溶融するのが好ましい。
加熱温度としては、60〜180℃とするのが好ましく、特に好ましくは80℃以上或いは160℃以下である。
【0014】
<酸性凝集剤添加工程>
添加する酸性凝集剤としては、動物骨粉を焼成し粉状化してなる焼成動物骨粉を酸溶液に溶解し、好ましくは溶解液を加熱しながら、アルミニウムと共に無機多孔質体に含浸させてなる酸性凝集剤を用いるのが好ましい。
【0015】
ここで、酸性凝集剤は、純水に添加して溶解させると酸性域のpHを示す酸性の凝集剤であり、この際、酸性域のpHとは、例えばpH0〜6であり、中でもpH0〜3、その中でもpH0〜2であるのが特に好ましい。
【0016】
(焼成動物骨粉)
焼成動物骨粉としては、動物の骨を原料とする骨粉であるが、豚、猪等は軟骨が多く、製造途中の煮沸工程で大部分が溶けてしまうので、牛、馬、羊など硬骨を主体とする動物の骨、特に牛の骨を原料としたものが好ましい。
焼成動物骨粉は、800〜1800℃前後、特に800〜1100℃前後で焼成したものが好ましい。このように焼成して得られる焼成動物骨粉は、粒子の内外に渡って連通した無数の微小気孔を備えた微粒子からなり、リン酸カルシウムを90重量%以上含んでいる。
元素組成としては、リン及びカルシウムを主成分とし、バリウム、ナトリウム、イオウ、マグネシウム、カリウム、塩素、アミン、鉄等を含有し、イオン化すればアルカリ性を呈する。
【0017】
焼成動物骨粉は、20メッシュ〜400メッシュ、特に200メッシュ〜325メッシュのものが好ましい。粒度分布で言えば、中心粒径(D50)が1μm〜10μm、D50が1μm〜5μmのものが好ましい。
【0018】
ここで、焼成動物骨粉の製造方法の一例について説明するが、本凝集剤で用いる焼成動物骨粉の製造方法を次の方法に限定するものではない。
【0019】
上記動物の生骨を適度な大きさに切断しつつ、煮沸しやすい大きさにカッティングし、次いで、生骨を圧力釜(圧縮釜)に投入し、5気圧前後の圧力をかけて約200〜400℃で60分程度煮沸する。この煮沸工程は、にかわ、脂肪、骨ずい等の有機物を骨から分離除去するための工程である。この煮沸工程によって骨の外側のみならず気孔内に付着している有機物を骨からほぼ分離除去することができる。
煮沸工程では、5気圧前後の圧力をかけて煮沸する。これにより骨に付着する有機物の分離作用を促進させることができる。また、煮沸する際、圧力釜の中にカセイソーダまたは製造済みの骨粉を混入して煮沸することが好適である。こうすると、カセイソーダや水酸化カリウム等のアルカリの作用で有機物が鹸化されて水に溶けやすくなり、これにより有機物の分離作用を促進させることができ煮沸時間をさらに短縮することができる。この場合のカセイソーダまたは骨粉の混入量としては、生骨200kgに対してカセイソーダを200cc〜300ccまたは骨粉を500g〜1kg程度混入することが好ましい。そして、煮沸後の骨には水または熱水をかけて有機物その他の汚れを落としておくのが好ましい。
続いて、煮沸後の骨を、必要に応じて、凍結庫(冷凍庫)に閉じ込めて凍結を行う。但し、必ずしも凍結しなくてもよい。
この凍結工程は、凍結後の骨が極めて脆く粉砕しやすいという点に着目し、煮沸後の骨を直接凍結させるための工程である。凍結時の温度はマイナス100℃〜マイナス40℃程度、凍結時間は1時間〜3時間前後が好ましい。
次に、煮沸後の骨(上記の如く凍結させた場合には凍結した状態の骨)をハンマーを用いて荒挽き状に粉砕し、さらにパウダー機にかけて粉末状にする。
そして、上記の工程を経た骨粉を炉の中で焼成し、最終的に分級等により粒度範囲を調製する。
焼成条件としては、焼成温度を800〜1800℃前後、好ましくは800〜1100℃前後で、焼成時間60分間〜180分前後で焼成するのがよい。これにより、骨粉内に残存し得る若干の有機物を除去したセラミックスを得ることができる。
【0020】
(酸溶液)
焼成動物骨粉を溶解する酸溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸、スルハミン酸などを挙げることができるが、焼成動物骨粉の溶解性が特に優れている点から、スルハミン酸溶液が好ましい。
酸性液のpHは、pH0〜6、中でもpH0〜3、その中でもpH0〜2であるのが特に好ましい。
【0021】
(無機多孔質体)
焼成動物骨粉を酸溶液に溶解して得られた溶解液を含浸させる無機多孔質体としては、二酸化珪素粒子粉末などを挙げることができる。中でも特にシリカ粉末が好ましい。
無機多孔質体の粒径は、細かいほど反応面積が大きくなり凝集力が高まるから、中心粒径(D50)が200μm以下、中でも100μm以下であるのが好ましい。
【0022】
(添加成分)
焼成動物骨粉を酸溶液に溶解し、得られた溶解液に金属成分を添加し、無機多孔質体に含浸させるのが好ましい。
添加する金属成分としては、チタン、アルミニウム、銅、亜鉛及びこれらの酸化物のうちの一種又は二種以上の組合せからなるものを挙げることができる。中でも、アルミニウムが好ましい。
【0023】
(加熱含浸処理)
焼成動物骨粉を酸溶液に溶解して得られた溶解液を無機多孔質体に含浸させる際、当該溶解液を加熱させながら含浸させることで、含浸を効果的に促進させることができる。この際の加熱温度は60〜70℃程度が好ましい。
【0024】
<浮上組成物除去工程>
パーム廃油の加熱溶融液に酸性凝集剤を添加すると、溶融液上に浮上組成物が浮上してくるので、例えば掬い取ってこれを除去するのがよい。但し、浮上組成物の除去方法は任意である。
浮上組成物の主成分はグリセリンである。
【0025】
<アルカリ添加工程>
パーム廃油の加熱溶融液に酸性凝集剤を添加した後、アルカリ溶液を添加すると、凝集物を沈殿させることができる。
【0026】
ここで用いるアルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、アンモニア水、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム又はこれらの水溶液などを挙げることができる。中でも、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)或いはこれの水溶液が最も好ましい。
【0027】
<固液分離工程>
パーム廃油の加熱溶融液に酸性凝集剤を添加した後、アルカリ溶液を添加すると、凝集物を沈殿させることができるため、これを固液分離することにより、固体成分と液体成分を回収することができる。
【0028】
固液分離方法としては、例えば沈降分離、清澄ろ過、浮上分離、ろ過分離(フィルター濾過などを含む)、膜分離などの固液分離方法のいずれかを採用すればよい。複数の固液分離方法を組み合わせて実施することもできる。
【0029】
固液分離して得られる液体成分を回収することにより、粘性を低下させたパーム廃油精製油を製造することができる。
固液分離して得られる固体成分を回収することによりリン含有組成物を製造することができ、肥料や難燃剤などとして利用することができる。
【0030】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を下記実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
【0032】
(実施例1)
パーム廃油を160℃に加熱して溶融させ、この溶融液100gに酸性凝集剤8gを添加して撹拌したところ、溶融液上にグリセリン組成物が浮上してきたため、これを柄杓で掬い取った。このようにしてグリセリン組成物を除去した後、苛性ソーダ5gを加えて撹拌したところ、凝集沈殿を生じたため、これをフィルターを使って固液分離し、固体分10gと液体分75gを回収した。
回収した液体分は、燃料として使用するのに十分な程度に粘性の低いものであった。
【0033】
なお、上記で用いた酸性凝集剤は、粒径(D50)1μmの焼成動物骨粉(株式会社エクセラ製)100gをスルハミン酸溶液(pH1)1Lに溶解し、得られた溶解液1Lにアルミニウム30を加えた後、これを70℃に加熱させながらシリカ100gに含浸させて乾燥させて得られた粉末である。
【0034】
また、上記の「焼成動物骨粉」としては、牛の生骨を切断してカッティングした後、圧力釜(圧縮釜)にカセイソーダと共に投入して5気圧の圧力をかけて300℃で60分程度煮沸し、乾燥させた後、ハンマーを用いて荒挽き状に粉砕し、さらにパウダー機にかけて粉末状にして骨粉を得、得られた骨粉を1000℃で焼成し、分級して325メッシュ(粒度分布D50:3μm)とした焼成牛骨粉を用いた。該焼成牛骨粉の成分(分析値)は、CaO:54.28重量%、P23:41.29重量%、MgO:0.95重量%、Na2O:0.89重量%、SiO2:0.05重量%、残:SrO、K2O、BaO、Fe23、Al23等(Ca/P(モル比)1.66)であった。
【0035】
(実施例2)
上記の溶融液100gに酸性凝集剤を5gを添加した以外は、実施例1と同様に処理を行った。その結果、固体分8gと液体分77gを回収した。回収した液体分は、燃料として使用するのに十分な程度に粘性の低いものであった。
【0036】
(実施例3)
上記の溶融液100gに酸性凝集剤を9gを添加した以外は、実施例1と同様に処理を行った。その結果、固体分12gと液体分73gを回収した。回収した液体分は、燃料として使用するのに十分な程度に粘性の低いものであった。
【0037】
(比較例1)
アルミニウムを添加しない酸性凝集剤を使用した以外は、実施例1と同様に処理を行った。その結果、凝集沈殿が生じず、粘性を低下させることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
椰子からパーム油を絞った際に生じる絞り粕としてのパーム廃油を加熱して溶融し、この溶融液に酸性凝集剤を添加し、溶融液上に浮上する浮上組成物を除去した後、アルカリ溶液を加えて凝集沈殿を生じさせ、固液分離することを特徴するパーム廃油の処理方法であって、
酸性凝集剤として、焼成動物骨粉を酸溶液に溶解し、得られた溶解液をアルミニウムと共に無機多孔質体に含浸させてなる酸性凝集剤を用いることを特徴とするパーム廃油の処理方法。
【請求項2】
酸性凝集剤として、動物骨粉を焼成し粉状化してなる焼成動物骨粉を酸溶液に溶解し、得られた溶解液にアルミニウムを添加した後、無機多孔質体に含浸させ、乾燥させてなる酸性凝集剤を用いることを特徴とする請求項1記載のパーム廃油の処理方法。
【請求項3】
焼成動物骨粉を溶解する酸溶液としてスルハミン酸溶液を用いることを特徴とする請求項2記載のパーム廃油の処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のパーム廃油の処理方法において、固液分離して得られる液体成分を回収することによりパーム廃油精製油を製造することを特徴とするパーム廃油精製油の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載のパーム廃油の処理方法において、固液分離して得られる固体成分としてリン含有組成物を回収することを特徴とするリン含有組成物の製造方法。


【公開番号】特開2012−250225(P2012−250225A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127231(P2011−127231)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(511138191)
【出願人】(000224329)
【Fターム(参考)】