説明

パーライトの製造方法

【課題】製造後にパーライトの特質である軽量性および中空状態を失わない嵩密度の変化が小さい高耐久性のパーライトを製造する方法を提供する。
【解決手段】天然ガラス質岩石を原料とし、該原料を粉砕して加熱し発泡させるパーライトの製造方法であって、原料中の水分量を3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から発泡温度まで60秒以内に昇温して発泡させることを特徴とし、例えば、粒径が0.5mm以下の原料を用い、原料中の水分量を300℃以下で3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から800℃〜1200℃に60秒以内に昇温して発泡させるパーライトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性を持つパーライトを製造する方法に関する。パーライトの強度を改善し、製造後にパーライトの特質である軽量性および中空状態を失わない嵩密度の変化が小さい高耐久性のパーライトを製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
パーライトは軽量化のために用いる軽量化材である。例えば、モルタル、瓦、外壁材にパーライトを混合することによって軽量化が可能となる。
【0003】
パーライト製造では、酸性火山岩である流紋岩(真珠岩、黒曜石等)を粉砕して、加熱発泡させて製品を生産している。加熱発泡する工程では、気流焼成炉やロータリー式キルンが利用されている。気流焼成炉では高温のガスや炉内に形成された火炎と原料が数分の一秒から数十秒の接触により発泡が行われる。ロータリー式キルンでは、原料がロータリー式キルン炉壁を摺動しながら炉壁の輻射熱、バーナーフレーム、炉内熱ガスによって加熱されて発泡が行われる。ロータリー式キルンは発泡時間が数分から数十分以上と長く、均一な発泡が行われる利点を有している。
【0004】
パーライトは、原料粒子に対して数倍から5倍程度の割合で発泡し、表面の殻の厚さは数ミクロンであって非常に薄い。このため、外部からの圧力に対して弱い。特に、パーライトを製造した後は、サイロ等へ保管するため輸送管中を空気圧送する場合が多く、このとき輸送速度は概ね数m/secであってかなり早く、さらに輸送管は設備の都合上、直管部分の他にさまざまな箇所に曲り部があり、輸送中のパーライトが曲り部に衝突して破損するため中空状態が失われ、嵩密度が次第に大きくなる問題があった。
【0005】
パーライトの強度を高めるには、発泡倍率を小さくして殻を厚くすることが一つの対策であり、パーライトを低温で焼成する方法がある。しかし、低温での焼成は発泡温度域の幅が狭くなるため、加熱が不十分になり未発泡の粒子ができやすい。そのため、製造されたパーライトは材料分離を起こしやすくなり、品質のムラを生じる。一方、高温で焼成すると、発泡過多となり、強度が低下する。
【0006】
そこでパーライトの品質を向上させるため、パーライトの発泡を制御することが知られている(特許文献1、2)。真珠岩を原料とするパーライトは、真珠岩中の水分が発泡剤となり、融点温度となった時点で水が気化して発泡するが、原料の水分量が多すぎると、発泡過多になり、殻の厚さが薄くなって強度が弱くなる。そのため、あらかじめ余熱して真珠岩中の水分量をコントロールした上で発泡温度に加熱する製造方法が知られている。
【0007】
また、均一な焼成のために未発泡原料を少なくする方法として、発泡後の嵩密度が違う2種類の発泡原料を混合して使用することが知られている(特許文献3)。この方法では同じ温度で最適に発泡する嵩密度の異なる原料を混合して用いることによって、嵩密度をコントロールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−277851号公報
【特許文献2】特開2007−320805号公報
【特許文献3】特許第3528390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高耐久性のパーライトを製造するための手段として、予備焼成等の複数回の焼成を行う場合には、相応の焼成炉が必要となり、焼成設置が大がかりになり易く、設置スペースや装置コストの過大な負担と、装置操作の煩雑さを要す。また、種類の違う原料を用いる場合には、異なる原料供給サイロ、供給経路、混合設備等を必要とし、この場合にも大掛かりな設備設置が必要である。また、いずれの場合にも未発泡粒子の混入は避けられない。
【0010】
未発泡粒子が混入すると、保管や輸送時等にパーライトが破損されやすくなり、製造されたパーライトの密度は高くなる傾向がある。また、高強度となるよう低温焼成すると未発泡粒子が多くなりやすく、パーライトの品質が低下する。パーライトの殻を厚くして高強度化しても、未発泡粒子存在すると、発泡粒子と未発泡粒子が衝突してパーライトが破損し、軽量化および中空状態を維持できない。このように、従来の製造方法では、破損の原因である未発泡粒子の量が多いことが問題であった。
【0011】
本発明は、パーライトの製造後、下流側、すなわち空気輸送、保管、製品輸送、末端製品の製造時などにおいて、未発泡粒子によってパーライトが破損されて嵩密度が高くなる問題を解決するため、未発泡粒子を極力少なくすることによって、製造後の破損を抑制し、嵩密度の増加を抑制する製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば以下の構成からなるパーライトの製造方法が提供される。
〔1〕天然ガラス質岩石を原料とし、該原料を粉砕して加熱し発泡させるパーライトの製造方法であって、原料中の水分量を3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から発泡温度まで60秒以内に昇温して発泡させることを特徴とするパーライトの製造方法。
〔2〕原料中の水分量を300℃以下で3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から800℃〜1200℃に60秒以内に昇温して発泡させる上記[1]に記載するパーライトの製造方法。
〔3〕粒径が0.5mm以下の原料を用いる上記[1]または上記[2]に記載するパーライトの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、原料の水分量を所定範囲に調整すると共に、発泡温度までの昇温速度を所定速度以上にコントロールする。具体的には、原料中の水分量を3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から発泡温度まで60秒以内に昇温するので、未発泡粒子の量を15wt%以下に抑制することができ、さらに過剰発泡も抑制されるので、空気圧送時の嵩密度変化が格段に小さい高品質のパーライトを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法は、天然ガラス質岩石を原料とし、該原料を粉砕して加熱し発泡させるパーライトの製造方法であって、原料中の水分量を3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から発泡温度まで60秒以内に昇温して発泡させることを特徴とするパーライトの製造方法である。
【0015】
本発明の製造方法は、(イ)原料中の水分量を300℃以下で3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から800℃〜1200℃に60秒以内に昇温して発泡させる態様、(ロ)粒径が0.5mm以下の原料を用いる態様を含む。
【0016】
本発明の製造方法において、原料の天然ガラス質岩石としては、真珠岩、松脂岩、黒曜石、シラス等を用いることができる。原料の粒径は0.5mm以下の粉末が好ましい。粒径がこれより大きいと未発泡粒子が多くなる傾向がある。
【0017】
本発明の製造方法は、原料の水分量を所定範囲に調整する。具体的には、原料中の水分量を3.6〜5.0wt%に調整する。この水分量は100℃で乾燥した原料を1000℃まで加熱させたときの減量分から算出される。原料の水分量が3.6wt%より少ないと未発泡粒子が多くなり、5wt%より多いと過発泡となって破裂するものが多くなるので好ましくない。
【0018】
本発明の製造方法は、原料の水分量を所定範囲に調整すると共に発泡温度までの昇温速度を所定速度以上に制御する。具体的には、加熱前の原料温度を300℃以下とし、原料中の水分量を300℃以下で3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態で60秒以内に800℃以上まで急激に加熱する。真珠岩等の発泡温度は概ね800℃〜1200℃であるので、60秒以内にこの温度まで加熱する。
【0019】
加熱前の原料温度が300℃を超え、800℃以上までの昇温時間が60秒を超えると、原料中の水分が分解して発泡に寄与する水分が少なくなるため未発泡分が多くなる。800℃〜1200℃での滞留時間は1秒〜180秒が好ましい。滞留時間が1秒以下では比較的大きい粒子では熱が伝わり難く、未発泡になりやすい。一方、滞留時間が180秒以上では発泡した粒子が融解・焼結して中空状態が損なわれるものが多くなる。
【0020】
加熱手段は電気炉、ロータリーキルン、気流焼成炉、流動層焼成炉等を用いることができるが上記昇温速度にするためには気流焼成炉、流動層焼成炉が好ましい。
【0021】
なお、未発泡粒子とは発泡しない粒子および発泡不十分な粒子を云い、具体的には発泡状態が発泡基準に達しない粒子を云う。発泡基準とは未発泡粒子と発泡粒子を区別する基準であり、原料の種類、加熱条件などの製造条件によって発泡状態は異なるので、製造条件や目的とする発泡状態に応じて具体的な発泡基準を定めればよい。
【0022】
例えば、嵩密度や浮水率(水中に投入したときに水中に浮く割合)を発泡基準の指標とすることができる。一般に、嵩密度約1.0g/cm3の真珠岩粒子を原料として、800℃に加熱することによって、全体の嵩密度約0.2g/cm3、浮水率約85%の発泡粒子を得ることができる。この値を発泡基準にしてもよい。
【0023】
例えば、浮水率85%の発泡粒子全体には100%−85%=15%に相当する非浮水部分が含まれており、この非浮水部分は概ね嵩密度1.0g/cm3以上の未発泡粒子である。このような重い粒子が多いと周囲の軽い発泡粒子を破壊する傾向が大きくなる。そこで、嵩密度を指標とする場合、例えば、嵩密度1.0g/cm3を発泡基準とし、この量が少なくなるような原料を使用する。この場合、例えば、嵩密度1.0g/cm3以上の粒子が多くなると、このような嵩密度の大きい粒子は、嵩密度の小さい軽い発泡粒子よりも重いので、輸送中や取扱いの際に外力を受けると周囲の軽い発泡粒子に衝撃を与えてこれを破壊しやすい。
【0024】
本発明の製造方法によって得られるパーライトは、未発泡粒子が少ないので、発泡粒子が破壊され難いので、輸送中や使用時の取扱いによる嵩密度の変化が小さい。
【0025】
また、本発明の製造方法によるパーライトは、未発泡の粒子が少なく、均一な嵩密度を有する発泡粒子からなる高品質のパーライトである。未発泡粒子は発泡粒子に比べて密度が大きく重いため、未発泡粒子が多いとパーライト全体で材料分離を生じやすい。このため、パーライトを混合して瓦や壁材などの製品を加工するときに、製品毎に質量のばらつきが生じるなどの問題が生じる。本発明のパーライトは未発泡粒子が少なく、均一な嵩密度を有する発泡粒子によって形成されているので、パーライト全体で材料分離を生じることがなく、このような問題を生じない。
【0026】
なお、本発明の方法で製造されたパーライトにおいても、多少の未発泡粒子は存在するので、これを除去すると更に優れた耐久性を有するパーライトが得られる。除去する方法として、嵩比重や見掛比重を発泡基準にして未発泡粒子を除去するには、乾式または湿式の比重分離装置、遠心力比重分離装置、慣性力集塵機などを用いればよい。一方、原料粒径に対する増加率を発泡基準にして未発泡粒子を除去するには、例えば、発泡基準率に相当する孔径(篩目)の篩を用い、篩残留分を適合とし、篩通過分を除去すればよい。
【0027】
製造したパーライトは製品サイロ等に保管することが多いが、サイロへの輸送は主に圧搾空気での輸送による。この輸送はパーライトを圧搾空気によって輸送管内を流すので、管内を流れるパーライトは空気圧を受ける。また、経路の途中には垂直ま部分や湾曲した部分があるので、管内を流れるパーライトはしばしば管壁に接触して摩擦を受け、破損される。さらにサイロへの積込み時や保管時、トラックやローリー車による運搬等によってパーライトに衝撃や圧力が加わる。
【0028】
このような輸送時た保管時に、パーライトに未発泡粒子が多く混在すると、未発泡粒子は発泡粒子よりも重いので、輸送中や積込み時、保管中などに衝撃や圧力によって未発泡粒子が軽量な発泡粒子に衝突して、これを破壊する割合が多くなる。従来のパーライトは未発泡粒子が多いので、輸送中などに発泡粒子が破壊される割合が高く、嵩密度が大幅に高くなる。一方、本発明のパーライトは未発泡粒子が非常に少ないので、未発泡粒子による破壊が殆ど生じない。
【0029】
パーライトは内部に空間を持つ軽量骨材であるので、これを建築材料、たとえばモルタルや壁材、瓦等に混合することにより、材料の軽量化が図れる。また、内部に空洞を持つため、断熱材としても用いられる。本発明の方法によって製造したパーライトは嵩密度の変化が極めて小さいので、これを建築材料等に配合することによって高品質の軽量建築材料を得ることができる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例を比較例と共に示す。水分量、嵩密度、浮水率は以下のように測定した。
〔水分量〕100℃で乾燥した原料を1000℃まで加熱させたときの減量分から算出した。
〔嵩密度〕一定容積S(cm3)の容重枡に試料を充填し、開口からはみ出た部分をすり切り、全体の重量G1を測定し、これから容器の重量G2を差し引いて粉末重量G3(g)を求め、上記容積Sに対する粉末重量G3〔G3/S〕g/cm3を嵩密度とした。
〔浮水率〕浮水率は、約10gの試料を200mlメスシリンダーに入れて水を入れ、十分に攪拌した後に静置し、水の濁りがなくなるまで置き、浮いた試料容積Va(cm3)と沈んだ試料の容積Vb(cm3)を測定しVa/(Va+Va)×100(vol%)から浮水率を算出した。
【0031】
〔実施例1〕
表1に示す成分の原料を用い、最大粒径0.3mmに粉砕し粒度調整して、気流焼成炉に入れて加熱し、発泡させてパーライトを製造した。
焼成したパーライトの浮水率、嵩密度の測定結果を表1に示す。水分量が3.6〜5wt%内である真珠岩a〜dを原料にしたパーライトは浮水率が85%を超え、従って未発泡の原料割合が15wt%以下である(A1〜A4)。真珠岩eを原料にしたパーライトは浮水率が80.1%(B1)であり、真珠岩fを原料にしたパーライトは浮水率が84.5%(B2)であり何れも浮水率が低い。これは水分量6%の真珠岩eを原料にしたパーライトB1は過発泡により破裂したものが多く、真珠岩fを原料にしたパーライトB2は水分量が少ないため未発泡が多くなったと考えられる。
【0032】
【表1】

【0033】
この製造したパーライトについて,90°の曲がり部を8箇所、輸送部全長5mの空気輸送管を用いて、輸送速度30m/secでパーライトを空気とともに輸送し、輸送前後の密度および浮水率を測定し、輸送前後を比較した。
【0034】
このパーライトを空気圧送し、圧送前後の嵩密度の測定結果を表2に示す。
圧送前後の嵩密度を測定したA1〜A4は未発泡分が少ないため、空気圧送前後の嵩密度の差が小さい。一方、未発泡粒子が多いB2は圧送前後の差が大きくなり、中空のパーライト粒子が破損したと考えられる。
【0035】
【表2】

【0036】
上記パーライト(A1〜A4、B1〜B2)を使用したモルタル板を製造したときの製品品質を表3に示す。上記パーライトを使用して実設備にてモルタルを試作したところ、真珠岩a〜dを原料にしたパーライト(A1〜A4)は所定の密度とするためのパーライト量が設計量のパーライト使用量に対して140%以下であり、真珠岩e,fを原料にしたパーライト(B1、B2)は設計量の140%を超える使用量が必要となった。なお、表中の製品品質は、製品を製造するときに設定した製品密度とするために使用したパーライト量の比較であり、設計値通りの使用量を100%とする。
【0037】
【表3】

【0038】
〔実施例2〕
実施例1で使用した真珠岩bを使用して、加熱前の温度(原料温度)から発泡温度(800℃)に達するまでの昇温時間を変えて加熱した。結果を表4に示す。原料温度が280℃では浮水率が85%を超えが、原料温度が400℃では浮水率が85%を下回る。これは、加熱前の温度が400℃であると原料中の水分が分解揮発し、発泡成分が少なくなるために未発泡粒子が増えたと考えられる。
【0039】
また発泡温度までの昇温時間が60秒以下では浮水率は殆ど変わらない(C1〜C7)。昇温時間が120秒を超えると浮水率が低下する。これは発泡温度に達するまでに原料中の水分が分解揮発して発泡成分が少なくなり、未発泡粒子の量が多くなったと考えられる。
【0040】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガラス質岩石を原料とし、該原料を粉砕して加熱し発泡させるパーライトの製造方法であって、原料中の水分量を3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から発泡温度まで60秒以内に昇温して発泡させることを特徴とするパーライトの製造方法。
【請求項2】
原料中の水分量を300℃以下で3.6〜5.0wt%に調整し、この水分量の状態から800℃〜1200℃に60秒以内に昇温して発泡させる請求項1に記載するパーライトの製造方法。
【請求項3】
粒径が0.5mm以下の原料を用いる請求項1または請求項2に記載するパーライトの製造方法。