説明

パール調塗工紙

【課題】 塗工量を減少させてもパール感を損なわず、印刷時の色彩再現性を向上させ、かつインキセット乾燥性をも向上させた、パール調塗工紙を提供することを課題とする。
【解決手段】 主として木材繊維からなるシート状物の少なくとも片面に白色顔料と接着剤を主成分とする白色顔料塗工層(1)を設け、その上にパール顔料と水溶性高分子接着剤を主成分とするパール顔料塗工層(2)を塗工した印刷用紙において、23℃、50%RHの条件下でパール顔料塗工層の表面にイソプロピルアルコールの5質量%水溶液を滴下し、0.3秒後の接触角θを測定するとき、その値が30度から80度の範囲であることを特徴とするパール調塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特の意匠性をもちかつ印刷適性に優れたパール調塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
パール顔料を含む塗料を塗工した塗工紙は、その外観が独特のパール調の美しい意匠性を呈することから、ポスター、カレンダー、カタログ、ラベル、パッケージ等に幅広く用いられている。
【0003】
パール顔料には、天然パールエッセンスや、雲母(マイカ)の表面に二酸化チタンをコーティングした合成パール顔料等があり、その形状は10〜500μmの扁平な粒子である。この中でも二酸化チタン被覆マイカは、被覆する二酸化チタン層の厚みを変えることにより、シルバー、ゴールド、レッド、ブルー、グリーンと干渉色が変わる顔料である。これらの顔料は、塗料に添加し紙やフィルム等に塗工したり、あるいはプラスチックに練り込んだり、または車のメタリック塗装に使われたり、化粧品の材料として用いられたりと幅広い分野で使用されていることが知られている。
【0004】
これらのパール顔料において塗工紙用として使用されるパール顔料は、表現力が多彩である二酸化チタン被覆マイカが多く使用され、その中でも紙への接着性の関係から10〜200μmの粒子径のものを使用するのが一般的である。印刷用塗工紙としてパール顔料の特徴を最大限生かす方法としては、紙表層にパール顔料を含む塗料を塗工したり、あるいは紙の表層に配列させることによりパール調の光沢を効率良く得る手法が最も一般的である。
【0005】
パール調の外観を得る手法として一般的には2とおりの方法がある。1つの方法は、透明度の高い樹脂の中に少量のパール顔料を含ませ、非常に高い平滑性を有する表面性を持った状態で塗工する方法。もう一つは、できるだけ多くのパール顔料を塗料中に含ませ塗工する方法である。いずれの方法も、塗工紙においてパール調の外観を得るための有効な方法である。
【0006】
パール調の外観を有する紙を得る方法に、透明度の高い樹脂の中に少量のパール顔料を含ませ、非常に高い平滑性を有する表面性を持った状態で塗工する方法では、塗料の塗工量が増えるにつれて平滑度が高くなる傾向があるため、できるだけ塗工量が多い方が好ましい。ところが、樹脂比率の高い塗工膜を多く設けると、印刷時のインク吸収性が悪く、その結果作業効率が悪くなることが印刷業界ではよく知られている。また印刷用紙では、その表面をカレンダー処理することによって高い平滑性を付与することが一般的であるが、この手法で得られる平滑性では車の外装のような鏡面性までは得られないため、パール顔料の比率をある程度増やさなくては所望の外観が得られないのも実情である。さらにカレンダー処理を行なった場合は、紙の持つ風合いは失われる傾向にある。
【0007】
パール調の外観を有する紙を得るために、できるだけ多くのパール顔料を塗料中に含ませて塗工する方法があるが、この場合パール調の外観は得られやすいが、パール顔料は通常の印刷用紙に使用されているカオリンや炭酸カルシウムといった一般的な紙用填料と比較するとはるかに大きい粒径を有するため表面強度が得られ難い傾向があった。その結果、紙表面にパール顔料を固着しておくには、塗料中に一定量以上の樹脂を添加せざるを得ないため、インキ吸収性の低下をきたした。またパール顔料自体も高価であることから、その比率が高い塗料も非常に高価であるといった問題があった。
【0008】
これらの問題点を解決するため、より少ない塗工量でパール調の外観を得ることを目的として、特許文献1では、原紙上に顔料及び接着剤を主成分とする水性顔料を塗工した顔料塗工層を設け、次いで、この顔料塗工層上にパール顔料及び接着剤を主成分とする水性真珠顔料塗料を塗工し、さらにその上に水溶性高分子物質を主成分とする表面処理層を設けることを特徴とする真珠顔料塗工紙が提案されている。しかしながら、高価なパール顔料を持つ塗工層の塗布量を減らすことは可能であるが、塗工層全体における樹脂比率が高くインキ吸収性が十分とは言えないといった問題点があった。
【0009】
また特許文献2では、原紙上に中空有機填料層を設け、その上にパール顔料と接着剤の比率を規定したパール顔料層を設けることを特徴とするパール調塗工紙が提案されている。この方法では風合いを維持したままパール感を得ることはできるが、パール顔料塗工層の接着剤としてポリビニルアルコールを使用してはいるもののその使用量が少なく、接着剤の主体は合成樹脂エマルジョンであるために十分な強度を得ることができず、印刷時作業性の表面強度が十分とは言えないといった問題点があった。
【0010】
パール顔料塗工紙のパール感を高める方法として、粒子径の大きいパール顔料を使用して、できるだけその反射率が高くなるようにしたり、あるいは白色度の高い原紙もしくは白色顔料塗工紙の上にコントラストの強い金色などの着色されたパール顔料を使用することで、少ない塗工量で強いパール感を得る方法も取られているが、金色のパール顔料を使用したりするような場合では印刷後の印刷面が金色を帯びてくるため、印刷用紙として考えると色の再現性に問題を生じるので、印刷用紙としての外観に問題があった。
【0011】
特許文献3では、印刷用紙としての外観に着目し、パール感を維持しながら印刷後の外観が通常の印刷用紙に近ずけることを目的として、ポリビニルアルコールの添加量を規定することで印刷時の表面強度を維持する方法が提案されているが、ポリビニルアルコールを樹脂の主成分として塗工層を形成した場合、印刷時に湿し水が画線部に入りやすくなるので、インキの転移が悪くなり、インキや湿し水の条件によっては印刷ができない場合があり印刷適性面で不十分であった。
【0012】
【特許文献1】特公平1−47597号公報
【特許文献2】特許第3453942号公報
【特許文献3】特開2006−283210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記したようなパール顔料塗工紙の持つ問題を解決し、かつ印刷適正が良好なパール調印刷用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、主として木材繊維からなるシート状物の少なくとも片面に白色顔料と接着剤を主成分とする白色顔料塗工層(1)を設け、その上にパール顔料と水溶性高分子接着剤を主成分とするパール顔料塗工層(2)を塗工した印刷用紙において、23℃、50%RHの条件下でパール顔料塗工層の表面にイソプロピルアルコールの5質量%水溶液を滴下し、0.3秒後の接触角θを測定するとき、その値が30度から80度の範囲であることを特徴とするパール調塗工紙である。
【0015】
本発明の請求項2に係る発明はパール顔料塗工層(2)に含まれる水溶性高分子接着剤が完全けん化型ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のパール調塗工用紙である。
【0016】
パール顔料塗工層(2)中に合成樹脂エマルジョンが、パール顔料100質量部に対して5質量部以上含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のパール調塗工紙である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明のパール調塗工紙は、特に通常のオフセット印刷を行なう印刷用紙として好ましく使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明においては、主として木材繊維からなるシート状物の少なくとも片面に白色顔料と接着剤を主成分とする白色顔料塗工層(1)を設け、その上にパール顔料と水溶性高分子接着剤を主成分とするパール顔料塗工層(2)を塗工した印刷用紙において、23℃、50%RHの条件下でパール顔料塗工層の表面にイソプロピルアルコールの5質量%水溶液を滴下し、0.3秒後の接触角θを測定するとき、その値が30度から80度の範囲であることが必要となる。
【0019】
本発明における印刷適性とは、オフセット印刷時の湿し水の調整範囲が広く、印刷時にパール顔料の取られがなく、従来のパール顔料塗工紙と比較して印刷後のインキ乾燥性が良好であることを言う。
【0020】
オフセット印刷の多くは、油性のインクと湿し水を使用して印刷を行なっていることは周知のことである。インキ転移時のオフセット印刷用紙に求められる性能は、湿し水に対する耐水性とインクに対する表面強度とブランケットから印刷用紙へのインキの転移性とがある。湿し水に対する耐水性とブランケットから印刷用紙へのインキ転移性については湿し水と密接に関係しており、塗工層の性能によって印刷適性が左右される。
【0021】
湿し水を使用するオフセット印刷の性質上、湿し水は一定の割合でインキと混ざる必要性があるため、通常の印刷作業においては湿し水としてイソプロピルアルコールを数パーセント混合した液や、あるいは環境負荷の低減目的からリン酸系界面活性剤を数パーセント混合した液を使用している。湿し水がインキと混ざる割合が多すぎても少なすぎてもインキの転移不良などが起こる為、印刷の作業において湿し水の使用量を調整することは印刷品質を調整する上で最も重要な作業の一つである。
【0022】
一方、湿し水の調整作業の観点から印刷作業と印刷用紙の関係を見た場合、印刷用紙が湿し水を吸収する場合と比較的吸収しにくい場合の2通りが考えられる。印刷用紙が湿し水を吸収する場合、印刷機上で余分な湿し水を紙が吸収するため、印刷機側での湿し水の調整は比較的しやすいというメリットがある。この場合印刷用紙には湿し水に対する耐水性が必要となるが、耐水性がない場合には塗工層がブランケット側に取られるというトラブルが発生する場合がある。しかしごく一般的な印刷用紙においてはこの湿し水を吸収するタイプがほとんどであり、さらには印刷用紙自体における耐水性に関する研究はかなり進んでいるためこのようなトラブルが発生する場合は少ない。一方、印刷用紙が比較的湿し水を吸収しにくい場合、印刷機上で余分な湿し水を印刷用紙が十分吸収しきれないため、印刷機側において印刷中に湿し水の量が次第に多くなりインキの転移不良が発生する場合や、刷り始めにおける湿し水の量が安定しない条件下での印刷不良が発生しやすいといったトラブルが発生する可能性がある。印刷用紙としてパール顔料を使用した塗工層を用いる場合はインキに対する塗工層の表面強度を高くする目的で、塗工層中の樹脂比率を高める傾向があり、その結果湿し水を比較的吸収しにくいタイプの印刷用紙となっていた。しかしながら、今までパール調塗工紙のような高級印刷用紙は使用量自体がそれほど多くなく、しかもこのような高級印刷用紙を刷るのに慣れている印刷業者が印刷を行なってきたこともあってトラブルが発生する場合はそれほど多くなかったのが実状である。ところがこのところの印刷物における品質差別化が進み、その結果パール調印刷用紙使用量の増加や、印刷物の短納期化が進む傾向がある中、パール調印刷用紙での印刷トラブルが増加する傾向がある。
【0023】
そこで、パール調の外観を損なわずにパール調印刷用紙の印刷適性を改善するため、湿し水の吸水性を高くすることを目的として、塗料中の樹脂成分の含有比率を低下させ、さらには塗工量も下げることを目的として水溶性高分子を主体とした塗料を用いる方法が提案されている。この方法によれば湿し水の吸収性は向上し、その結果、これまでのパール調印刷用紙と比較すると印刷後のインキ乾燥性は向上するが、塗料の主成分を水溶性高分子とすることにより、湿し水と印刷用紙との親和性が極端に高くなることが起因して印刷物における画線部と非画線部の境界がはっきりしなくなるため、インキの転移不良が発生するという問題があった。また、水溶性高分子を用いた塗料は、皮膜性が高いため、塗布量のばらつきによってもその品質が大きく変わるという問題点があり、品質管理面、生産管理面の両方において問題があった。
【0024】
本発明者は鋭意検討した結果、主として木材繊維からなるシート状物の少なくとも片面に白色顔料と接着剤を主成分とする白色顔料塗工層(1)を設け、その上にパール顔料と水溶性高分子接着剤を主成分とするパール顔料塗工層(2)を塗工した印刷用紙において、23℃、50%RHの条件下でパール顔料塗工層の表面にイソプロピルアルコールの5質量%水溶液を滴下し、0.3秒後の接触角θを測定するとき、その値が30度から80度の範囲であることで、これらの問題を解決できることを見出した。
【0025】
接触角は液体と被測定物との界面の関係を表す指標の一つとして知られており、接触角が高いほど液体は被測定物に対してぬれ広がり難く、接触角が極度に高くなればぬれ広がらずにはじく状態となる。その反対に接触角が低くなると液体は被測定物に対してぬれ広がりやすく均一にぬれる状態となる。
【0026】
一般的な印刷用紙は、填料を主体とした塗料で微小な空隙が存在しているため、その表面が吸液する特性をもっており、液体がぬれ広がるのと同時に吸液する傾向が見られる。その結果、極短時間でもその用紙の接触角が変わってくる。従ってアルコール溶液などのように、もともと印刷用紙の表面に対してぬれ広がりやすい液体を使用する場合では、1秒後や5秒後といった数値では印刷用紙そのものの持つ表面性だけを表す指標としては、意味をなさなかった。同様に印刷時において、印刷用紙とブランケットが接触する時間はほんの一瞬であることを考慮しても、1秒以下のできるだけ短い時間における接触角を測定することが重要となる。
【0027】
本発明者は、測定法からくる測定誤差が少なくかつ安定して測定できる短い時間が0.3秒であることを見出した。また、23℃、50%RHの条件下でパール顔料塗工層の表面にイソプロピルアルコールの5質量%水溶液を滴下し、0.3秒後の接触角θを測定した数値が30から80度の範囲になければ、印刷作業中における湿し水の調整が困難となり、その結果インキの転移不良が発生する可能性が非常に高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0028】
接触角θの具体的測定法は次の通りである。測定装置は、例えば協和界面化学株式会社製自動接触角計DM500を用いて行なうことができる。注射筒の先に22ゲージの注射針を取り付け、イソプロピルアルコール5質量%水溶液を吸引しその後所定の台にセットして水平を維持する。測定する用紙は、測定面と反対側の全面に両面テープで貼りつけたものを使用して水平な試料台の上に貼りつける。その後、注射針の先に3.0μlの液滴を作成し、試料に着滴させ液から針が離れた時点で測定を開始する。測定は自動で針が液滴から離れた瞬間から開始され、0.3秒後の画像をカメラで取り込みその接触角を測定する。なお接触角の測定は画像データからθ/2法により算出した数値を用いる。
【0029】
接触角θの測定機として、自動接触角計DM500の場合は測定できる接触角の最短時間は0.0025秒であるが、注射針の先につけた液滴を試料の表面に接触させ、かつ液滴を試料側に移行させるという作業を考えると、0.3秒未満では液滴を針から離す際に発生する振動によって数値が安定せず数値の信頼度が低い。一方0.5秒以上経過した場合では、表面自由エネルギーが低くかつ吸収性の高い試料を測定する場合、着滴後0.5秒以内の数値変動が0.5秒以上の数値と比較して極端に早く、測定時間を0.5秒以上とした場合、実際の印刷スピードを考慮するとインキ転移性と相関があるとは考えにくい。これらの結果から接触角の測定時間を0.3秒〜0.5秒の範囲とすることで、数値が安定しインキ転移性の評価に使用できる。さらには、測定時間を0.3秒とした方が実印刷との相関性が高いので好ましい。
【0030】
接触角θの角度は試料によっても当然変わるが、使用する試験液によってもその数値は変わってくる。上記したように印刷時に使用される湿し水としては主としてイソプロピルアルコールを溶解させた水溶液や、界面活性剤を添加した水が使用されている。本発明においては、イソプロピルアルコールを使用した湿し水が接触角を下げる効果が高いことと、実際の印刷におけるイソプロピルアルコール添加量が1〜5質量%程度の範囲であることを考慮して、より接触角の下がりやすい5%と設定した。なお、代用として各メーカーより発売されている湿し水を2〜3%程度水に溶解した物を使用することでイソプロピルアルコールを添加した湿し水と近い挙動を湿すが、銘柄によりぬれ性が異なるため本発明においては使用しないものとする。
【0031】
本発明における接触角θの数値は、30度以上である必要であり、50度〜70度の範囲がより安定した印刷適性を持つので好ましい。接触角が30度未満では印刷面における非画線部に付着した湿し水が印刷用紙に転移する際に湿し水が画線部の領域まで広がり、その結果、網点が欠けたり、ベタ印刷部にムラが発生したり、酷い時にはインキが印刷用紙に転移しないなどの問題が発生するので好ましくない。湿し水の吸収を見るには、着液させてから1〜2秒の間に接触角θの変化スピードが1度未満であれば湿し水の吸収性が悪いと判断できる。湿し水の吸収性は、超音波の伝達性を利用して液体の吸収性を測定するエムコ社のDPMやスペクトリス社のEST−12などを利用する方法で確認することもできる。一方接触角が80度を超えると、湿し水が印刷機上であまりやすく、印刷時の調整が困難になりインキの転移ムラが発生したり、非画線部の地汚れの原因となるので好ましくない。接触角が70度から80度の範囲では印刷ができないことはないが、湿し水の調整に経験が必要であったり、印刷機の状態が悪い場合は接触角が80度以上の場合と同様の問題が発生することがあるので好ましくない。
【0032】
本発明におけるパール顔料塗工層はパール顔料と接着剤を主成分としてなるが、接着剤は水溶性高分子である必要がある。水溶性高分子は合成樹脂エマルジョンと比較してパール顔料を保持する強度が出やすい。水溶性高分子がパール顔料を保持しやすい理由は、合成樹脂エマルジョンと比較して連続皮膜ができやすいためである。そのため、水溶性高分子を使用すると、合成樹脂エマルジョンと比較して必要な樹脂量を少なくすることができ、結果的に塗料中のパール顔料比率を増やすことにつながるため、同程度の効果を得るためには塗布量を少なくすることができるので好ましい。
【0033】
本発明に使用される水溶性高分子は、透明性という面から完全ケン化型ポリビニルアルコール、シラノール変成完全けん化型ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコールを使用することが好ましい。部分けん化型ポリビニルアルコールは、表面強度を得る効果は高いが、親水性が高く接触角θの値が下がる傾向があるので好ましくない。ポリビニルアルコール以外には、水溶性アクリル、ビニルウレタン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、カゼイン等も使用することができるが、完全ケン化型ポリビニルアルコールと比べると耐水性が得られ難いこと、ポリビニルアルコールを使用した場合と比較して強度が得られにくいこと、接触角θの数値が低くなること等の理由から、その使用量に制約が必要となる場合がある。
【0034】
完全けん化型のポリビニルアルコールは濡れ性が低く、パール顔料塗工層接着剤の主成分として使用する場合には塗工層にはじきが発生する可能性がある。特に塗工層の下地として設けた場合にはその傾向が顕著で、はじきを防止するためには界面活性剤や酸化でんぷん等の完全けん化型ポリビニルアルコールよりも親水性の高い水溶性高分子を使用しなければ均一な塗工層を確保するのが困難である。しかし、界面活性剤や酸化でんぷんを使用することは接触角θの数値を下げる効果があるため、その添加量に関しては塗工層を均一にすることができる範囲内で、できるだけ少ない方が好ましい。
【0035】
本発明におけるパール顔料塗工層は、接着剤として水溶性高分子を使用することにより、従来の合成樹脂エマルジョンを使用したパール顔料塗工層より、接着性、光沢度の面で優れる。そのため合成樹脂エマルジョンを接着剤として使用していた従来のパール顔料と比較して接着剤の比率を減らすことができ、かつ塗工量も減らすことができる。特にポリビニルアルコールを使用する場合、重合度が1000以上のポリビニルアルコールが接着強度を得やすい傾向にあり好ましい。ポリビニルアルコールを使用する場合、接着剤の配合割合はパール顔料100質量部に対し30〜70質量部の範囲が好ましい。30質量部以下では接着力の高い水溶性高分子を使用してもパール顔料の接着性が十分でなく、印刷時にパール顔料が取れてしまうので好ましくない。一方70質量部以上だと塗工層表面を樹脂が覆ってしまう為、インキのセット乾燥性が悪く印刷適性が問題となるので好ましくない。
【0036】
本発明におけるパール顔料塗工層の接着剤には、水溶性高分子以外の合成樹脂エマルジョンを使用することができる。しかし、合成樹脂エマルジョンはパール顔料を保持する性能が低いため、パール顔料塗工層の接着剤に使用した場合、その添加量はパール顔料100質量部に対して70質量部以上必要となり、塗工層表面を樹脂で覆ってしまう為、インキのセット乾燥性が悪く印刷適性が問題となるので好ましくない。しかしながら、合成樹脂エマルジョンの皮膜は接触角θの数値がポリビニルアルコールと比較して高いため、接触角θを高くなるよう調整するために使用すると良い。
【0037】
本発明で使用できる合成樹脂エマルジョンは特に限定されるものでなく、塗料用として製紙業界で広く使用されているスチレン−ブタジエン樹脂エマルジョン、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、メチルアクリレート−ブタジエン樹脂エマルジョン等を単独で、あるいは混合して使用することができる。合成樹脂エマルジョンの添加量は、パール顔料100質量部に対して5〜25質量部の範囲であることが好ましい。5質量部未満では、接触角θの数値を高くする効果は低く、合成樹脂エマルジョンを添加するメリットが見出せない。一方25質量部を越えて添加した場合は、接触角θの数値を高くする効果は十分であるが、合成樹脂エマルジョンでは水溶性高分子に置き換わるだけのパール顔料保持力がなく、結果として水溶性高分子と併せて使用する必要があるため総合的な樹脂比率が高くなり、結果としてインキセット乾燥性が悪くなるため好ましくない。
【0038】
本発明におけるパール顔料塗工層の塗工量は、0.5〜3g/mの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは1〜2g/mの範囲である。0.5g/m未満では表面を覆うパール顔料の比率が低くなり、十分なパール感を得ることができないので好ましくない。一方、3g/m以上だとパール顔料塗工層の塗工層表面が樹脂で覆われてしまう為、インキのセット乾燥性が悪く印刷適性が問題となるので好ましくない。さらにパール顔料で塗工層表面が被覆されてしまう為、紙の白色度が低下する傾向があるので好ましくない。
【0039】
溶剤系の高分子接着剤も皮膜性、透明性が高くさらには耐水性も得られやすいという特徴があるが、廃液処分や製造時の作業環境の問題があるので好ましくない。また、水溶性高分子と比較して樹脂自体のコストが高く、経済的にも不利であるので好ましくない。
【0040】
本発明におけるパール顔料の粒子径は、10〜200μmの範囲であることが好ましい。10μm以下の粒径のパール顔料は、原料とするマイカの粒子径が小さいので比表面積が多くなり、その分酸化チタンの被覆率が高くなる。そのため粒子径の大きいマイカを使用した場合と比較してパール顔料のパール感が低くなるので好ましくない。一方200μm以上の粒径のパール顔料では、紙への接着性が悪く、印刷等の工程で脱落する可能性があるので好ましくない。
【0041】
本発明のパール顔料塗工層には、インキの吸収性を上げることを目的としてパール顔料以外にも填料を添加することができる。本発明で添加することのできる填料は特に限定されるものではないが、合成シリカや軽質炭酸カルシウム等のインキの吸収性を助ける働きを持つものを使用することが好ましい。添加量はパール顔料100質量部に対し10質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。10質量部以上の添加量ではパール顔料塗工層の持つ光沢感が失われ、パール顔料塗工紙として好ましくない。
【0042】
パール顔料塗工層には、パール顔料、填料、水溶性高分子、合成樹脂エマルジョンを主体とし、補助材料としてぬれ性を改善するための界面活性剤、耐水性を向上させるための架橋剤、変色防止剤、消泡剤等を必要に応じて適宜使用することができるが、樹脂の透明性を下げる効果のある薬品を使用する場合、その効果が得られる範囲内で、その添加量はできる限り少ない方が好ましい。
【0043】
パール顔料塗料の調合は、通常の水性塗料の製造で使用される攪拌機、ミキサーなどを適宜使用することができるが、高いせん断力のかかる分散機は、パール顔料の表面を破壊する恐れがあるため攪拌の条件は十分留意する必要がある。
【0044】
パール顔料塗工層を形成するには、ロールコーター、エアナイフコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、ロッドコーター等の公知の塗工装置を適宜用いて塗工することができる。
【0045】
本発明における白色顔料塗工層は、填料と接着剤を主剤とし必要に応じ助剤から構成される。塗工液に用いられる填料はカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、有機顔料、タルク、クレー、焼成カオリン、シリカ、酸化チタン等の一般的に印刷用紙として使用される公知の顔料を必要に応じて単独もしくは2種類以上を混合して使用することができるが、白色度とコストの面から重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムを主体とした塗料配合が好ましい。また、パール顔料層の接着剤としてシラノール変性のポリビニルアルコールを使う場合には、カオリン、シリカ、焼成カオリン等はシラノール変性のポリビニルアルコールとの接着性を向上させ、耐水性を向上させる効果があるので好ましい。
【0046】
白色顔料塗工層に用いる接着剤は、一般的に紙塗工液用として用いられる公知の接着剤、例えばスチレン−ブタジエン樹脂エマルジョン、スチレン−アクリル樹脂エマルジョン、メチルアクリレート樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョンなどの合成樹脂エマルジョンやデンプン、カゼイン、ポリビニルアルコール、酸化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子材料を必要に応じて単独もしくは2種類以上を混合して使用することができる。
【0047】
本発明の白色顔料塗工層には、必要に応じ染料、pH調整剤、架橋剤、消泡剤、増粘剤、耐水化剤、レベリング剤などを適宜使用できる。特に蛍光染料については、白色度を高くする効果があり、5%以下の添加量であれば白色度向上に寄与するため好ましい。
【0048】
本発明における塗工液の調整には各種ミキサー、ニーダー、ボールミル等の分散機、攪拌機を塗工液の組成によって適宜使用できる。
【0049】
本発明における白色顔料塗工層は、塗工原紙の両面もしくは片面に塗工することで得られる。塗工方法は、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーターなど公知の各種塗工装置を適宜使用することができる。
【0050】
本発明における白色顔料塗工層の塗工量は、乾燥質量で3〜20g/mが好ましい。さらに好ましくは5〜15g/mである。3g/m以下では原紙に均一に塗料を塗工することが出来ず、パール顔料塗工層を少ない塗工量で塗工し、効率良く光沢度を上げることができなくなるので好ましくない。一方20g/m以上では、効率良く光沢度を向上させるには十分な塗工量であるが、それ以上増やしても効果は頭打ちとなるの不経済であり好ましくない。
【0051】
本発明において原紙に使用されるパルプの種類は特に限定するものではない。例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ(GP)、古紙パルプ(DIP)等といった木材パルプ、麻、コットン、楮、三椏、バガス、エスパルト等の非木材パルプ、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成パルプ、アセテート等のような半合成繊維等を必要に応じ単独または2種類以上を混合して使用することができる。また、原紙に配合される填料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、シリカ、酸化チタン、ホワイトカーボン、合成樹脂填料等、製紙用として公知の填料を使用することができる。不透明度を向上させるという面から填料の添加量は、パルプ質量あたり3質量%以上が好ましい。さらに必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、染料、消泡剤等の製紙用助剤を使用しても良い。
【0052】
原紙の抄紙方法については特に限定されるものでなく、丸網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー等の公知の抄紙機を用いることができる。さらに表面強度やサイズ性、塗工適性向上の目的で、サイズプレス、ゲートロール、シムサイザー等で酸化澱粉、表面サイズ剤、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の表面処理剤として製紙用に一般的に使用されるものを単独、または混合して使用することができる。
【0053】
本発明におけるパール顔料塗工層を塗工して得られる塗工紙は、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の仕上げ装置を用いても構わない。但し、これらを使用する場合は、カレンダー処理によって表面光沢度が高くなる傾向があるので、必要とする表面光沢度を確認しながら、軽い仕上げ処理とすることが好ましい。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
〈白色顔料塗工液の調整〉
重質炭酸カルシウム(商品名「FMT―90」、ファイマテック(株)製)、70質量部、軽質炭酸カルシウム(商品名「TP−221」、奥多摩工業(株)製)20質量部、合成シリカ(商品名「ミズカシルP―527」、水澤化学(株)製)、10質量部に対し、リン酸エステル化デンプン(商品名「MS−4600」、日本食品化工(株)製)を5質量部、スチレン−ブタジエンラテックス(商品名「スマーテックスPA―3803」、日本エイアンドエル(株)製)を18質量部からなる白色顔料塗工液を作成した。
【0055】
〈パール顔料塗工液の調整〉
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」、メルクジャパン(株)製)を100質量部に対し、完全ケン化型ポリビニルアルコール(商品名「R―1130」、クラレ(株)製)を50質量部添加し、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモン(商品名「ジルコゾールAC−7」、第一稀元素化学工業(株)製)、3質量部添加しパール顔料塗工液を作成した。
【0056】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上にパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0057】
[実施例2]
〈パール顔料塗工層の調整〉
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、酸化変性デンプン(商品名「王子エースA」、王子コーンスターチ(株)製)、5質量部、完全ケン化型ポリビニルアルコール(商品名「PVA117H」、クラレ(株)製)を40質量部添加し、接触角θを高くするためにアクリル樹脂エマルジョン(商品名「ジョンクリルJ−771」BASFジャパン(株)製)、15添加し、架橋剤として(商品名「オルガチックスTC−310」、松本製薬工業(株)製)、3質量部添加し、パール顔料塗工液を作成した。
【0058】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に実施例2で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0059】
[実施例3]
〈パール顔料塗工層の調整〉
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、軽質炭酸カルシウム(商品名「Brilliant−15」白石カルシウム(株)製)、10質量部、リン酸エステル化デンプン(商品名「MS−4600」)、3質量部、完全けん化型ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールN−300」、日本合成化学工業(株)製)、40質量部添加し、接触角を調整するためにスチレン−ブタジエン樹脂エマルジョン(商品名「PA−1013」、日本エイアンドエル(株)製)、15質量部添加し、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモン(商品名「ベイコート20」、日本軽金属(株)製)、3質量部添加し、パール顔料塗工液を作成した。
【0060】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に実施例3で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0061】
[実施例4]
〈パール顔料塗工層の調整〉
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、完全けん化型ポリビニルアルコール(商品名「R1130」、クラレ(株)製)、35質量部添加し、接触角を調整する目的でアクリル樹脂エマルジョン(商品名「アルマテックスE269」、三井化学(株)製)、15質量部添加し、架橋剤としてメラミン樹脂(商品名「ベッカミンM−3」、北日本ディック(株)製)、3質量部添加し、パール顔料塗工液を作成した。
【0062】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に実施例4で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0063】
[実施例5]
(パール顔料塗工層の調整)
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、合成シリカ(商品名「ミズカシルP707」、水澤化学(株)製)、5質量部を添加し、完全けん化型ポリビニルアルコール(商品名「R−1130」)、40質量部添加し、接触角を調整する目的でアクリル樹脂エマルジョン(商品名「アルマテックスE269」)、15質量部添加し、架橋剤としてメラミン樹脂(商品名「ベッカミンM−3」)、3質量部添加し、パール調塗工液を作成した。
【0064】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に実施例5で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0065】
[比較例1]
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、部分ケン化型ポリビニルアルコール(商品名「PVA235」、クラレ(株)製)、35質量部を添加し、リン酸エステル化デンプン(商品名「MS−4600」)、5質量部添加し、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモン(商品名「ジルコゾールAC−7」)、3質量部添加しパール顔料塗工液を作成した。
【0066】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に比較例1で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0067】
[比較例2]
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、スチレン−ブタジエンラテックス(商品名「0696」、JSR(株)製)、50質量部、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモン(商品名「ジルコゾールAC−7」)3質量部添加し、パール顔料塗工液を作成した。
【0068】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に比較例2で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0069】
[比較例3]
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、完全ケン化型ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールN−300」)、40質量部、酸化変性澱粉(商品名「王子エースA」)、10質量部添加し、スチレン−ブタジエン樹脂エマルジョン(商品名「PA−1013」)、3質量部、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモン(商品名「ジルコゾールAC−7」)、3質量部添加し、パール顔料塗工液を作成した。
【0070】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、実施例1と同様の白色顔料塗工液を乾燥質量で10g/mとなるように塗工し、さらにその上に比較例3で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で1.5g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0071】
[比較例4]
パール顔料としてシルバーパールである酸化チタン被覆マイカ、粒子径10〜120μm(商品名「イリオジン100」)、100質量部に対し、スチレン−ブタジエンラテックス(商品名「L7430」、旭化成(株)製)、100質量部、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモン(商品名「ジルコゾールAC−7」)、3質量部添加し、パール顔料塗工液を作成した。
【0072】
〈塗工紙の作成〉
坪量108g/mの原紙の片面に、比較例4で調整したパール顔料塗工液を乾燥質量で7g/m塗工し、パール調塗工紙を作成した。
【0073】
実施例1〜5および比較例1〜4で作成したパール調塗工紙のサンプルを使用し、下記の評価試験を行った。また、その評価結果を表1および表2に示した。
【0074】
〈表面強度〉
SMT印刷試験器((株)エスエムテー製)を使用し、印刷インキ(商品名「ハイエコーブラック」、東洋インキ(株)製)、0.5mlを用いて、パール顔料が塗工されている面に対して、印刷速度1.5m/秒の条件で印刷試験を行った。その際のインキ転写ロールに対するパール顔料のとられ具合を目視で観察し、以下のように評価した。○以上を合格とした。
◎:パール顔料のとられが全く確認されない状態。
○:パール顔料のとられが若干確認されるが、印刷状態には問題が認められない状態。
△:パール顔料のとられが確認され。印刷状態にも問題が認められる状態。
×:パール顔料が大量にとられている状態。
【0075】
〈インキセット乾燥性〉
RI−I型印刷機(石川島産業機械(株)製)を用い、印刷インキ(商品名「ハイエコーブラック」)、0.6mlを用いてパール顔料塗工層が形成されている面に印刷を行い、5分後、20分後、40分後、60分後のそれぞれの時間に、白紙の転写用紙に乾燥していない印刷インキを転写させ、白紙の転写紙に転写したインキの濃淡によってインキセット乾燥性を確認した。転写された印刷インキの濃度が低いほどインキセット乾燥性が良いと評価される。評価は以下のとおりとし、○以上を合格とした。
◎:10分後でインキの転写がほとんど確認されない状態。
○:20分後でインキの転写がほとんど確認されない状態。
△:40分後でインキの転写がほとんど確認されない状態。
×:60分後でもインキの転写が確認される状態。
【0076】
〈接触角θの測定〉
自動接触角計(商品名「DM500」、協和界面化学(株)製)を使用し、注射筒の先端に22ゲージの注射針を取り付け、イソプロピルアルコールの5質量%水溶液を吸引し、その後所定の台にセットして水平を維持した。サンプルの測定面と反対の面の全面に両面テープを貼り付け、水平の資料台の上に貼り付け、その後、注射針の先端に3.0μlの液滴を作成し、サンプルの測定面に着滴させた。サンプル表面に液滴が付着し、注射針から離れた時点で接触角の測定を開始した。接触角の測定は、注射針の先端から液滴が離れた瞬間から開始され、0.3秒後の画像をカメラに取り込み、そこから接触角を測定した。接触角の測定は、得られた画像データから、θ/2法により算出した。接触角θが30〜80度の範囲にあるものを合格とした。
【0077】
〈印刷適性〉
菊半2色印刷機(商品名「ハイデルベルグ(株)製」)を使用し、印刷インキとして合成紙用インキ(商品名「合成紙用No.2藍」、TOKA(株)製)を使用し、湿し水にはIPA3質量%水溶液を使用した。版として、ベタと平網(10%、30%、50%、70%、90%)が連続した印刷版を用い、5000枚/1時間の印刷速度で印刷を行った。各サンプルに併せて、地汚れ、網点の潰れが無いレベルまで湿し水の量を絞り込み、その後、少しずつ湿し水の使用量を増やして印刷インキの転移ムラ発生の有無を目視確認し、以下のように評価した。○以上を合格とした。
◎:湿し水を増やしても、いずれの図柄でもインキの転移不良は認めなかった。
○:湿し水を増やすと、図柄の一部でインキの転移不良が確認されるが、通常の湿し水の調整範囲以内ではインキの転移不良は認めなかった。
△:湿し水をできる限り絞ればインキの転移不良は認めないが、通常の湿し水の調整範囲内でインキの転移不良が認められた。
×:湿し水を絞ってもインキの転移不良が認められた。
【0078】
〈表1〉

【0079】
〈表2〉

【0080】
表1および表2の結果から実施例のサンプルはいずれも表面強度、インキセット乾燥性、印刷適性、接触角の範囲を満足するものであり、通常の印刷用紙に匹敵する印刷適性を示した。これに対して比較例1においては接触角θが低すぎて印刷適性に不良を発生させ、比較例2において完全けん化型ポリビニルアルコールが使用されずバインダーとしての合成樹脂エマルジョン添加量も少ないので表面強度に問題が確認された。比較例3においてはパール顔料塗工層中に合成樹脂エマルジョンの添加量が少ないので印刷適性に問題を生じている。また比較例4では合成樹脂エマルジョンの添加量が多く、完全けん化型ポリビニルアルコールを全く使用していないので、表面強度と印刷適性は十分であるがインキセット乾燥性に問題を残している。
【産業上の利用効果性】
【0081】
本発明によれば、従来のパール顔料塗工紙では見られなかったインキセット乾燥性、表面強度、印刷適性を保持することが可能となり、通常の印刷用紙と同様の印刷条件でも印刷することが可能となり、このことによりパール顔料塗工紙の利用用途が増え、使用する側の選択肢が広がった。また、従来ではあまり見られなかった両面パール顔料塗工紙の製造が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として木材繊維からなるシート状物の少なくとも片面に白色顔料と接着剤を主成分とする白色顔料塗工層(1)を設け、その上にパール顔料と水溶性高分子接着剤を主成分とするパール顔料塗工層(2)を塗工してなるパール調塗工紙において、前記水溶性高分子接着剤はポリビニルアルコールを主体としており、23℃、50%RHの条件下で前記パール顔料塗工層の表面にイソプロピルアルコールの5質量%水溶液を滴下した後の0.3秒後の該水溶液の接触角θの測定値が30度から80度の範囲であることを特徴とするパール調塗工紙。
【請求項2】
パール顔料塗工層(2)に含まれる水溶性高分子接着剤が完全ケン化型ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のパール調塗工用紙。
【請求項3】
パール顔料塗工層(2)中に合成樹脂エマルジョンが、パール顔料100質量部に対して5質量部以上含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のパール調塗工紙。

【公開番号】特開2009−242985(P2009−242985A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90459(P2008−90459)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】