説明

パール顔料

【課題】散乱色が抑制され、有色金属化合物の性質を活かしかつその色調に囚われない様々な干渉色を持つ新規なパール顔料を提供すること。
【解決手段】薄片状粉体の表面に有色金属又は有色金属酸化物を被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物を被覆したパール顔料であって、該パール顔料を黒色人工皮革表面に平均0.05mg/cm2で塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値が10以下であるパール顔料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱色が抑制されたパール顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、プラスチック、印刷インキ、化粧品等の分野で、様々な着色顔料が使用されている。近年、明るい発色及び意匠性を実現するために、薄片状粉体の表面に酸化チタン、酸化鉄等を被覆した光干渉パール顔料が用いられている。
【0003】
一般的なパール顔料は、薄片状粉体の上に酸化チタン等の無色金属酸化物を被覆し、その厚さを変化させることで、様々な干渉色を得ている。より鮮やかな干渉色を得るためには、屈折率の異なる材料を多層化すれば良いということが知られており、さまざまな方法が提案され、多層構造化したパール顔料も市販されている。一方、酸化鉄等の有色金属化合物を用いて多層構造化したパール顔料でも同様に鮮やかな干渉色を得ることができるが、有色金属化合物の色の影響により、例えば酸化鉄を用いたものであれば赤色系のみというように、有色化合物と同系色のパール顔料しか存在しなかった。すなわち、内層に用いた有色化合物の色を制御し、有色金属化合物自身の色に束縛されずに自由に干渉色を得る多層パール顔料は知られていなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、板状粒子上に酸化鉄層を形成し、さらにアルミニウム化合物を被覆した多層パール顔料が提案されている。これは、赤色系の顔料とその製法に関するものであり、赤色系のパール顔料のみしか得られない。また、特許文献2、3には、酸化鉄被覆した板状粉体の上に酸化チタンなどの無色金属酸化物を被覆した多層パール顔料が提案されているが、無色金属酸化物種が異なるだけで、特許文献1と同様、赤色系のパール顔料のみしか得られず、赤色系以外の色相の顔料が得られることは記載されていない。
【特許文献1】特開平6−100794号公報
【特許文献2】特開平7−11161号公報
【特許文献3】特開平8−259840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、散乱色が抑制され、有色金属化合物の性質を活かし、かつその色調に囚われない様々な干渉色を持つ新規な多層パール顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、薄片状粉体の表面に有色金属又は有色金属酸化物を被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物を被覆したパール顔料であって、特定の条件で測定した散乱光のa*値及びb*値の絶対値が10以下であるパール顔料が、極めて鮮やかな発色を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、薄片状粉体の表面に有色金属又は有色金属酸化物を被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物を被覆したパール顔料であって、該パール顔料を黒色人工皮革表面に平均0.05mg/cm2で塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光(散乱光)のa*値及びb*値の絶対値が10以下であるパール顔料を提供するものである。
なお、本発明において、a*値、b*値は、国際照明委員会(1976年)(CIE)で規格された色度を示す。また、ここで示したパール顔料のa*値、b*値の測定方法(図1参照)を「本発明のa*値、b*値の測定方法」という。
【0008】
また、本発明は、薄片状粉体の表面に有色金属又は有色金属酸化物を表面平均粗さ10nm以下で被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物を被覆したパール顔料を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を、薄片状粉体100g当たりの金属イオン量が5×10-4〜12×10-4mol/minとなるように添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、500〜1000℃で焼成してパール顔料を得、さらに得られたパール顔料を水に懸濁させ、無色金属の前駆体又は無色金属酸化物の前駆体の水溶液を添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、500〜1000℃で焼成するパール顔料の製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を、薄片状粉体100g当たりの金属イオン量が5×10-4〜12×10-4mol/minとなるように添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、得られた固体を分離した後、当該固体の分散液に、無色金属の前駆体又は無色金属酸化物の前駆体の水溶液を添加し、得られた固体を分離した後、500〜1000℃で焼成するパール顔料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパール顔料は、散乱色が抑制され、極めて鮮やかな発色を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる薄片状粉体は、平均粒径が2〜200μmで、平均厚さが0.01〜5μmであるのが好ましい。特に、塗料等に配合する際には、配合適性の点から、平均粒径が2〜20μmで、平均厚さが0.05〜1μmであるのがより好ましい。ここで、平均粒径は体積平均粒径(D4)(体積分率で計算した平均粒径)を示す。測定は、レーザー回折式の粒度分布計で容易に再現性良く測定することが出来る。薄片状粒子の厚さは、原子間力顕微鏡により基準面との差を測定し、相加平均したものを平均厚さとする。
【0013】
かかる薄片状粉体としては、雲母、セリサイト、タルク、カオリン、スメクタイト属粘土鉱物、合成マイカ、合成セリサイト、板状二酸化チタン、板状シリカ、板状酸化アルミニウム、窒化硼素、硫酸バリウム、板状チタニア・シリカ複合酸化物等が挙げられる。これらのうち、特に雲母が、表面の平滑性の点で好ましい。
【0014】
本発明において、薄片状粉体を被覆する有色金属としては、金、銅等が挙げられ、特に金が好ましい。有色金属酸化物としては、酸化鉄、低次酸化チタン、酸化銅、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ニッケル等が挙げられ、特に酸化鉄が好ましい。
【0015】
本発明において、薄片状粉体を被覆した有色金属又は有色金属酸化物の表面を更に被覆する無色金属としては、チタン、ジルコニウム、亜鉛、錫、ケイ素、アルミニウム等が挙げられ、特に、チタンが好ましい。また、無色金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等が挙げられ、特に、酸化チタンが好ましい。
【0016】
本発明のパール顔料は、「本発明のa*値又はb*値の測定方法」に従って測定したとき、粉体反射光(散乱光)のa*値及びb*値の絶対値が10以下、好ましくは5以下のものである。
このような測色ができる測定機として、村上色彩技術研究所社製のGCMSシリーズを用いることができる。
【0017】
また、本発明のパール顔料は、薄片状粉体の表面を有色金属又は有色金属酸化物で被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物で被覆したものであるが、有色金属又は有色金属酸化物の表面平均粗さは10nm以下、好ましくは5nm以下である。有色金属又は有色金属酸化物は、特定波長の光を吸収するという特性を有するために、被覆表面の粗さが大きいと散乱色が強くなり、弱いパール光沢の発色となる。被覆表面の粗さを小さくすることにより、光の散乱が抑制されて散乱光の少ない鮮やかな発色を有する顔料が得られる。
【0018】
本発明において、表面平均粗さ(Ra)は、中心線平均粗さを示し、原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製、Nanoscope III)を用い、Scan Rate 1.0Hzで、2μm×2μmの範囲を測定したときの平均値を示すものである。測定の際、パール顔料はエタノール等の溶媒に分散させた状態で、平滑な基盤面上に付着させ、溶媒を除去することにより基盤に密着させた後、原子間力顕微鏡により測定する。
【0019】
また、本発明のパール顔料は、有色金属又は有色金属酸化物被覆層の光学的膜厚が15〜650nm、特に25〜650nmであることが好ましく、特に250nm以下、更に210nm以下であるのが好ましい。650nmを超えると、吸収層の絶対的な厚さが増すため、光吸収の影響が強くなるため、有色金属又は有色金属酸化物の固有色を活かしたパール顔料にすることが好ましい。例えば、酸化鉄では、光学的膜厚250nmを超えると、赤色のパール顔料とすることが好ましい。
ここで、光学的膜厚とは、有色金属又は有色金属酸化物の幾何学的膜厚に屈折率をかけたものを示す。例えば、酸化鉄(屈折率3.0)の場合、幾何学的膜厚が80nm以下、特に50nm以下であることが好ましい。散乱光を十分に抑制した場合、例えば有色金属酸化物に酸化鉄を用いると、光学的膜厚が120〜210nmの場合は干渉光が金色であり、60〜120nmの場合は干渉光が銀色である。なお、幾何学的膜厚はSEMにより測定される。
【0020】
本発明においては、更に、有色金属又は有色金属酸化物の表面を無色金属又は無色金属酸化物で被覆して多層化するものであり、酸化鉄特有の色にとらわれない金色〜緑といった様々な色調の顔料を得ることができる。無色金属又は無色金属酸化物の光学的膜厚は平均180〜900nmであることが好ましい。酸化チタンの場合は、幾何学的膜厚が80〜360nmであることが好ましい。従来のパール顔料のように有色の散乱色が強いと、これらの干渉光は散乱色に打ち消されてしまい、肉眼では観測できないが、本発明のパール顔料は散乱色が抑制されているため、被覆した有色金属又は有色金属酸化物の固有色ではない金色や緑色の干渉光も作り出すことができる。このようにして得られたパール顔料は、1層で被覆されたものより彩度の高い干渉色が得られる。
酸化鉄等の光学的膜厚が大きい場合は、酸化鉄特有の赤色系の顔料を作る際に有利であり、散乱色を抑制することにより赤色系であっても従来の顔料より鮮やかな発色の赤色を作ることが可能となる。
【0021】
更に、屈折率の関係において、薄片状粉体nsと有色金属化合物nと無色金属化合物n0の関係において、ns<n>n0となる場合は、反射率を高くでき、彩度を高めることができる。具体的には、雲母(屈折率1.58)、酸化鉄(Fe2O3)(屈折率3.01)、酸化チタン(屈折率2.5〜2.7)の組み合わせが、特に好ましい。
【0022】
本発明のパール顔料は、例えば中和滴定法を用い、有色金属酸化物前駆体水溶液の添加速度を選定することにより製造することができる。有色金属又は有色金属酸化物の表面平均粗さを小さくするために、中和滴定法が好ましい。
【0023】
(製造方法1)
具体的には、薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を、薄片状粉体100g当たりの金属イオン量が5×10-4〜12×10-4mol/minとなるように添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、500〜1000℃で焼成しパール顔料を得、さらに得られたパール顔料を水に懸濁させ、無色金属の前駆体又は無色金属酸化物の前駆体の水溶液を添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、500〜1000℃で焼成することにより製造することができる。
【0024】
すなわち、まず、薄片状粉体を水に分散させ、良く撹拌して、薄片状粉体の水分散液を調製する。分散液のスラリー濃度は1〜50質量%であるのが、薄片状粉体表面を金属化合物が均一に被覆するのに好ましい。
一方、有色金属酸化物前駆体としては、硝酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等が挙げられ、これらの水溶液濃度は、20〜70質量%であるのが好ましい。
【0025】
薄片状粉体の分散液を、50〜100℃、好ましくは70〜80℃に加温し、分散液に酸を加え酸性にし、更に反応液のpHを2〜4、好ましくは2.5〜3.5に保つよう、アルカリ水溶液で調整しながら、有色金属酸化物前駆体水溶液を反応混合液に加える。特に、表面粗さの小さい平滑な被覆状態を実現するためには、有色金属酸化物前駆体水溶液の添加速度を、薄片状粉体100g当たりの金属イオン量が5×10-4〜12×10-4mol/min、好ましくは8×10-4〜11×10-4mol/minとなるように添加する。この範囲の添加速度の場合に、散乱光が抑制され、より好ましい顔料を得ることができる。
なお、pHの調整に用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0026】
添加終了後、混合液を熟成させる。その後、アルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、さらに熟成させる。次に、固体を分離した後、水洗によって塩を除去し、乾燥する。その後、500〜1000℃、好ましくは700〜800℃で30〜180分間焼成を行う。
【0027】
次に、得られた有色金属酸化物で被覆された薄片状粉体の水分散液を調製する。分散液のスラリー濃度は1〜50質量%であるのが、有色金属酸化物で被覆された薄片状粉体を無色金属又は無色金属酸化物で均一に被覆するのに好ましい。
無色金属酸化物前駆体としては、硫酸チタン、四塩化チタン等が挙げられ、これらの水溶液濃度は、20〜60質量%であるのが好ましい。
【0028】
有色金属酸化物で被覆された薄片状粉体の分散液を、50〜100℃、好ましくは70〜80℃に加温し、酸を加え酸性にし、更に反応混合液のpHを1〜5、好ましくは1〜3に保つよう、アルカリ水溶液で調整しながら、無色金属酸化物前駆体の水溶液を加える。
なお、pHの調整に用いられるアルカリ水溶液としては、前記と同様のものを用いることができる。
【0029】
添加終了後、混合液を熟成させる。その後、アルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、さらに熟成させる。次に、固体を分離した後、水洗によって塩を除去し、乾燥を行う。その後、500〜1000℃、好ましくは700〜800℃で30〜180分間焼成を行うことにより、本発明のパール顔料を得ることができる。
【0030】
(製造方法2)
また、本発明のパール顔料は、薄片状粉体に有色金属酸化物前駆体を被覆した後、焼成する工程を省き、無色金属又は無色金属酸化物で被覆する工程に移行して製造することもできる。すなわち、前記の製造方法1と同様に薄片状粉体の水分散液に有色金属酸化物前駆体の水溶液を添加し、次いで、アルカリ水溶液を加えてpH5〜8とした後、固体を分離し、水洗によって塩を除去する。このようにして得られた固体の表面を、製造方法1と同様の方法にて、無色金属又は無色金属酸化物で被覆し、焼成することにより、本発明のパール顔料を得ることができる。
【0031】
本発明のパール顔料は、例えば、塗料、印刷インキ、プラスチック、セラミックス、ガラス用釉等の色材に使用することができる。
【実施例】
【0032】
実施例1
粒径5〜60μmの薄片状雲母80gを、1.2Lの水に加えて十分に分散させ、80℃まで昇温した後、塩酸を加えてpH3にする。次に、予め調製した硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3に保ちながら、鉄イオン濃度9×10-4mol/minの割合でゆっくりと添加する。添加終了後、水酸化ナトリウム水溶液でpH5にする。濾過し、水洗して塩を除去し、吸引濾過、乾燥し、次いで700℃で1時間焼成を行った。
得られたパール顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚20nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは3.44nmであった。
次いで、前記酸化鉄被覆パール顔料80gを1.2Lの水に加えて十分に分散させ、温度を75℃まで昇温する。昇温した後に、塩酸を加えてpH1.6とする。この後、40質量%四塩化チタン水溶液を1.4g/minの速度で240g添加しながら、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを1.6に維持する。その後、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて分散液をpH7まで中和する。その後、水洗によって塩を除去し、吸引濾過、乾燥して、次いで700℃で90分間焼成を行った。これにより、高彩度な金色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆着色パール顔料を得た。
【0033】
実施例2
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを430gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚30nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは4.30nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから200gに代える以外は実施例1と同様にして、高彩度な金色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0034】
実施例3
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを544gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚50nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは3.03nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから63gに代える以外は、実施例1と同様にして、高彩度な赤色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0035】
実施例4
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを544gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚50nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは3.03nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから320gに代える以外は、実施例1と同様にして、高彩度な赤色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0036】
実施例5
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを430gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚30nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは4.30nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから350gに代える以外は、実施例1と同様にして、高彩度な緑色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0037】
実施例6
粒径5〜60μmの薄片状雲母80gを1.2Lの水に加えて十分に分散させ、80℃まで加温した後、塩酸を加えてpH3にする。次に、予め調製した硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3に保ちながら、鉄イオン濃度9×10-4mol/minの割合でゆっくりと添加する。添加終了後、水酸化ナトリウム水溶液でpH5にする。ここで得られたスラリー状反応物を濾過し、水洗により塩を除去した。次いで、このスラリー状反応物の水分量を測定し、固形分80gとなるように前記スラリー状反応物を計量する。次いでこれに水を加えて1.2Lとし、十分に分散させ、温度を75℃まで昇温する。昇温した後に塩酸を加えてpH1.6とする。以下、実施例1と同様にして、四塩化チタン水溶液を添加し、次いで700℃で90分間焼成を行った。これにより、高彩度な金色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0038】
実施例7
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを140gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚10nm(光学的膜厚30nm)に均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは8.5nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから260gに代える以外は実施例1と同様にして、高彩度な金色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0039】
実施例8
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを140gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚10nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは8.5nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから150gに代える以外は、実施例1と同様にして、高彩度な赤色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0040】
実施例9
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを65gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚5nm(光学的膜厚15nm)に均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは3.5nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから305gに代える以外は実施例1と同様にして、高彩度な金色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0041】
実施例10
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを65gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚5nm(光学的膜厚15nm)に均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは3.5nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから170gに代える以外は、実施例1と同様にして、高彩度な赤色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0042】
実施例11
硝酸第二鉄水溶液(硝酸第二鉄17質量部:水26質量部)337gを65gに代える以外は実施例1と同様にして、酸化鉄被覆パール顔料を製造した。得られた顔料は、薄片状雲母の上に、非常に微細な酸化鉄粒子が幾何学的膜厚5nmに均一に被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは3.5nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから251gに代える以外は、実施例1と同様にして、高彩度な緑色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0043】
比較例1
粒径5〜60μmの薄片状雲母120gを水820gに加え、95℃に加熱した。そこに尿素350gと硫酸第一鉄170gと硝酸第二鉄10gと30%硝酸水溶液7g及び水308gの水溶液を約25g/minの速度で35分かけて滴下した。次いで、2時間撹拌し、30%炭酸カリウム水溶液205gを約40分かけて滴下した。その後、水洗によって塩を除去し、吸引濾過、乾燥し、次いで700℃で1時間焼成を行った。得られた顔料は、薄片状雲母上に、0.1μm程度の酸化鉄粒子が幾何学的膜厚30nmに若干粗めに被覆されていた。被覆層の表面粗さを測定したところ、表面粗さは13.41nmであった。
次いで、40質量%四塩化チタン水溶液の添加量を240gから200gに代える以外は実施例1と同様にして、金色干渉の酸化チタン/酸化鉄被覆パール顔料を得た。
【0044】
試験例
実施例1〜5、比較例1で得られたパール顔料及び市販の酸化チタン被覆雲母(Flamenco Gold、Flamenco Red(以上、ENGELHARD社))について、粉体反射光のa*値、b*値、及び被覆層の幾何学的膜厚を測定した。
(1)粉体反射光のa*値、b*値は、「本発明のa*値、b*値の測定方法」に従って測定した。分光測色計は、村上色彩技術研究所社製GCMS−4に偏光板(ポラロイド社製 型式:HN32)を設置して測定した。光源は、ナーバ社のハロゲンランプ(HLWS7)を用いた。黒色人工皮革(オカモト社製 型式:OK−7)を使用し、5cm×10cmの範囲に平均0.05mg/cm2となるようにスポンジを用いて、粉体を均一に塗布したものを測定試料として用いた。
また、幾何学的膜厚の測定は、SEMにより行った。被覆前の薄片状粉体の厚さを測定し、被覆後のパール顔料の厚さを測定することで、幾何学的膜厚とした。光学的膜厚に関しては、幾何学的膜厚に屈折率をかけたものであり、酸化鉄(Fe2O3)の屈折率は3.0、酸化チタンの屈折率は2.5を用いた。結果を表1に示す。
【0045】
(2)また、前記条件で偏光板を用いない通常の一般的な測色法(測定角度45°)で、粉体反射光のa*値、b*値を測定した。また、C*値、h値は、国際照明委員会(1976年)(CIE)で規格された彩度、色相角度を示す。結果を表2に示す。
表2の結果より、本発明のパール顔料は、同じ色相角度を有する比較例、市販品に比べC*値が大きい、すなわち鮮やかであり、有色金属化合物自身の色に束縛されずに自由に干渉色を得ていることが示される。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
応用例
実施例で得られたパール顔料を用いた塗料、インク、プラスチックの応用例を以下に示す。
【0049】
応用例1(自動車用塗料)
電着塗膜上に中塗り塗膜が形成された鋼板を用意し、カラーベース塗料を塗装後、140℃で30分間焼き付け乾燥した。次に、アクリル樹脂とメラミン樹脂からなる樹脂液中に、実施例1で得られたパール顔料を5重量%含むベース塗料を用意し、カラーベース塗膜表面に膜厚15μmとなるよう、スプレー塗装した。そして、アクリルーメラミン系クリア塗装を、さらに膜厚40μmとなるよう、Wet−on−Wetにてスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け、ベース塗膜とクリア塗膜を一体的に硬化させた。このようにして得られた塗装鋼板は、金色のとても鮮やかな光沢のある干渉色を有していた。
【0050】
応用例2(印刷用インキ組成物)
表3の成分を混合し、サンドミルで混練して印刷用インキ組成物を得た。
この印刷用インキ組成物を用いて、塗膜厚(乾燥後)50μmで黒紙上に印刷を行ったところ、塗装体は金色のとても鮮やかな光沢のある干渉色を有していた。
【0051】
【表3】

【0052】
応用例3(プラスチック着色組成物)
表4の成分をヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を押出成形機で押出成形し、着色ペレットを得た。このペレットを、押出成形機で90×50×2mmの板状成形品に成形したところ、成形体は赤色のとても鮮やかな光沢のある干渉色を有していた。
【0053】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明において、「本発明のa*値、b*値の測定方法」を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片状粉体の表面に有色金属又は有色金属酸化物を被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物を被覆したパール顔料であって、該パール顔料を黒色人工皮革表面に平均0.05mg/cm2で塗布し、入射光側にS偏光板、受光側にP偏光板を装着した分光測色計を用い、C光による2°視野の受光条件で、パール顔料の反射光量を測定したとき、測定試料面の法線方向に対して45°で入射し、法線方向で受光した粉体反射光のa*値及びb*値の絶対値が10以下であるパール顔料。
【請求項2】
薄片状粉体の表面に有色金属又は有色金属酸化物を表面平均粗さ10nm以下で被覆し、さらに無色金属又は無色金属酸化物を被覆したパール顔料。
【請求項3】
有色金属が金、又は有色金属酸化物が酸化鉄である請求項1又は2記載のパール顔料。
【請求項4】
無色金属がチタン、又は無色金属酸化物が酸化チタンである請求項1〜3のいずれか1項記載のパール顔料。
【請求項5】
有色金属又は有色金属酸化物の光学的膜厚が平均15〜650nmである請求項1〜4のいずれか1項記載のパール顔料。
【請求項6】
有色金属又は有色金属酸化物表面に被覆する無色金属又は無色金属酸化物の光学的膜厚が平均180〜900nmである請求項1〜5のいずれか1項記載のパール顔料。
【請求項7】
薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を、薄片状粉体100g当たりの金属イオン量が5×10-4〜12×10-4mol/minとなるように添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、500〜1000℃で焼成してパール顔料を得、さらに得られたパール顔料を水に懸濁させ、無色金属の前駆体又は無色金属酸化物の前駆体の水溶液を添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、固体を分離した後、500〜1000℃で焼成するパール顔料の製造方法。
【請求項8】
薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を、薄片状粉体100g当たりの金属イオン量が5×10-4〜12×10-4mol/minとなるように添加し、次いで、混合液にアルカリ水溶液を加えてpH5〜8とし、得られた固体を分離した後、当該固体の分散液に、無色金属の前駆体又は無色金属酸化物の前駆体の水溶液を添加し、得られた固体を分離した後、500〜1000℃で焼成するパール顔料の製造方法。
【請求項9】
薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を添加する際、混合液の温度を50〜100℃とする請求項7又は8記載のパール顔料の製造方法。
【請求項10】
薄片状粉体の水分散液に、有色金属酸化物前駆体の水溶液を添加する際、混合液のpHを2〜4とする請求項7〜9のいずれか1項記載のパール顔料の製造方法。
【請求項11】
有色金属酸化物前駆体が鉄酸化物前駆体である請求項7〜10のいずれか1項記載のパール顔料の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項記載のパール顔料を含有する塗料、印刷インキ、プラスチック、セラミックス又はガラス用釉。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−193738(P2006−193738A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363488(P2005−363488)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(594053590)日本光研工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】