説明

ヒアルロン酸の製造方法

【課題】金属不純物を含まない高純度のヒアルロン酸を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させる、さらに好ましくは、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させた後、酸処理及びアルカリ処理により該樹脂を再生し、酸を使用し交換基のナトリウム型の一部を水素型に置換し、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させることにより、ヒアルロン酸の製造する。それにより不純物金属、特に、カルシウム、マグネシウム、鉄を含有しない高品質なヒアルロン酸ナトリウムを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸含有液からヒアルロン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒアルロン酸は、ニワトリの鶏冠等からの抽出法により製造されているが、高分子量の生体成分等の夾雑物が多く、高純度に精製されたものはコスト高になる。これらの問題点を解決するため、醗酵法によりヒアルロン酸を製造することが行われている。
【0003】
醗酵法によって製造されるヒアルロン酸は、前記抽出法と比較して、均一条件で製造されるため、製品の品質が一定に保たれることから、産業上の利用価値は大きい。
【0004】
しかし、醗酵法においても、製造されるヒアルロン酸含有液には醗酵原料由来の不純物が存在するため、不純物を分離除去して高純度の製品を得る方法が検討されている。
【0005】
不純物を分離除去して高純度の製品を得る方法としては、例えば、塩化セチルピリミジウム等の第4級アンモニウム塩とヒアルロン酸とのアダクトを形成させ、不純物を分離し、さらにケイ酸マグネシウムのカラムに不純物を吸着させる方法(特許文献1参照)、マクロレテイキュラー型アニオン交換樹脂を用いて、発熱性物質、蛋白質等を樹脂に捕捉し除去する方法(特許文献2参照)、アルミナを用いて、醗酵液から発熱性物質を担体に捕捉する方法(特許文献3)、強陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を用いて、蛋白質等を樹脂に捕捉し除去する方法(特許文献4参照)等が知られている。
【0006】
しかしながら、上記方法では、発熱性物質、蛋白質、核酸等の不純物はある程度除去できるが、金属を除去するには不十分である。即ち、上記方法では、ヒアルロン酸中にマグネシウム、カルシウム、鉄等の金属不純物が検出され、除去効果が少ない。
【特許文献1】特許昭62−501471号公報
【特許文献2】特開昭62−12293号公報
【特許文献3】特許第2594322号公報
【特許文献4】特開平9−56394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属不純物を含まない高純度のヒアルロン酸を簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヒアルロン酸含有液にキレート樹脂を接触させることにより、簡便に高純度のヒアルロン酸が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させることを含む、ヒアルロン酸の製造方法、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不純物金属、特に、カルシウム、マグネシウム、鉄を含有しない高品質なヒアルロン酸ナトリウムを簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のヒアルロン酸の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、「ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させることを含むヒアルロン酸の製造方法」である。
【0013】
本発明において、「ヒアルロン酸含有液」とは、動物組織から抽出した抽出液、醗酵法で製造した醗酵液等の単一精製されていないヒアルロン酸を含有する溶液をいう。工業的に安価で高品質な製品を安定に製造するためには、醗酵法で製造したヒアルロン酸含有液が好ましい。
【0014】
上記ヒアルロン酸含有液は、例えば、ストレプトコッカス属等の微生物を使用して既知の方法で得ることができる(特開昭62-257382号公報参照)。
【0015】
使用する微生物としては、自然界から分離されるストレプトコッカス属等のヒアルロン酸生産能を有する微生物、または、自然界から分離されるストレプトコッカス属等のヒアルロン酸生産能を有する微生物を紫外線やNTG(N−メチル−N´−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、メチルメタンスルホン酸等で処理して、ヒアルロニダーゼ非生産菌や非溶血性に改良した変異微生物である。工業的に安価で高品質な製品を安定に製造するためには、変異微生物を利用することが好ましい。
【0016】
次に、前記ヒアルロン酸生産能を有する微生物を、グルコース、シュクロース等の炭素源、ポリペプトン、酵母エキス等の窒素源、グルタミン酸、グルタミン等の遊離アミノ酸の窒素源、ビタミン、無機塩等、タンニン等のフェノール性水酸基を有するヒアルロニダーゼ阻害剤を用いた培地中で、pHを7〜7.5、温度を30〜37℃に制御して、好気的に培養する。
【0017】
培養して得られた培養液は、キレート樹脂と接触させる。培養液は、ヒアルロン酸濃度が0.1〜5g/Lになるように希釈し、例えば遠心分離、濾過、カーボン、セライト、パーライト等により除菌し、キレート樹脂と接触させることが好ましい。
【0018】
ここで、「キレート樹脂」とは、多孔性の架橋ポリスチレン基体にイミノジ酢酸基を結合させたものをいう。例えば、三菱化学社製のダイヤイオンCR11、オルガノ株式会社製のアンバーライトIRC748等の市販のキレート樹脂である。
【0019】
「キレート樹脂と接触させる」とは、以下のいずれかの方法によりキレート樹脂と接触させることをいう。
【0020】
1.ヒアルロン酸含有液にキレート樹脂を添加し、バッチ式で攪拌する方法(以下、バッチ処理)
2.充填搭にキレート樹脂を充填後、ヒアルロン酸含有液を通液し処理する方法(以下、カラム処理)
3.上記バッチ処理及びカラム処理の組み合わせによる方法
4.上記バッチ処理又はカラム処理を複数回、行う方法
上記1〜4による方法の内、カラム処理による方法が好ましい。処理回数は、上記4のごとく複数回行うことも可能であるが、条件の選択により1回の処理で十分な場合もある。
【0021】
前記ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂で処理するに当り、ヒアルロン酸を含有した水溶液のpHは4〜7、特に4〜5、温度は0〜40℃、ヒアルロン酸濃度は0.1〜5g/l特に0.5〜2g/Lが良い。
【0022】
ヒアルロン酸含有液のpHが3未満の場合は、ヒアルロン酸の分解や含有液の粘度の上昇が起こり、操作性が悪くなる。また、pHが12を超えた場合も、ヒアルロン酸の分解が起こる。温度は40℃を超えると、ヒアルロン酸が分解し、分子量が低下する。
【0023】
ヒアルロン酸の濃度は、0.1g/L未満では処理効率が劣り、5g/Lを超えると粘度が高くなり、操作性が悪くなる。
【0024】
さらに本発明では、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させた後、酸処理及びアルカリ処理により該樹脂を再生し、酸を使用し交換基のナトリウム型の一部を水素型に置換し、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させることを含む。
【0025】
通常、上記の一連の操作を経て、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させた後、キレート樹脂を再生する。再生方法としては、一般的に知られている方法、すなわち、吸着したイオンを酸で溶離し、その後キレート樹脂をアルカリで再生する(以下、再生処理と称す)。この操作により、繰り返しキレート樹脂を使用することができる。
【0026】
しかし、本発明では、上記再生処理の後、ヒアルロン酸含有液を通液する前に、酸を使用し交換基のナトリウム型の一部を水素型に置換する。そのように置換を実施することにより、再生後のキレート樹脂であっても金属イオンを効果的に捕捉することができる。
【0027】
水素型への置換の度合いとしては、全体の20〜50%程度、置換していることが好ましい。そのような置換を達成するには、例えば、1N HClを使用し、置換操作を行う。
【実施例】
【0028】
以下、参考例、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
<参考例>
工程1.ストレプトコッカス・エクイ(ATCC9527)の培養
ストレプトコッカス・エクイ(ATCC9527)を使用して、特公平7−2117号公報の実施例1に従って培養した。
【0030】
工程2.培養液の処理
前記工程1で培養した培養液(ヒアルロン酸含有液)を、イオン交換水を用いて10倍に希釈し、その2.5L水溶液に活性炭(武田薬品社製の白鷺RW50−T)を5g、パーライト(三井金属鉱業株式会社のロカヘルプ♯409)を30g添加して1時間処理し、ヌッチェを用いて濾過した。この操作を2回繰り返して培地中の有機成分を除去した。
【0031】
工程3.ヒアルロン酸ナトリウム結晶の取得
前記2で調整したヒアルロン酸含有液1Lに、食塩3gを溶解、pH7に調整後、2−プロパノール6Lで析出を行い、40℃で真空乾燥し、0.6gのヒアルロン酸ナトリウムを得た。
【0032】
金属分析は、日本ジャーレルアッシュ社製のICAP−577機種を使用した。分析結果を表1に示す。
【0033】
<実施例1>
内径15mm、高さ300mmのクロマトカラムに三菱化学社製ダイヤイオンCR11を68ml充填し、以下の操作を順次行い、樹脂を再生した。
【0034】
1). 樹脂の3倍量の2N HClをSV=2の流速で上部から流す。
【0035】
2). 樹脂の2倍量の純粋を同流速で上部から流す。
【0036】
3). 樹脂の2倍量の1N NaOHをSV=2の流速でカラム下部から流す。
【0037】
4). 樹脂の10倍量の純水をSV=2の流速で上部から流す。
【0038】
5). 樹脂の0.5倍量の1N HClをSV=2の流速で上部から流す。
【0039】
最後に純粋で樹脂を十分洗浄後、参考例の工程1及び工程2を実施し得られたヒアルロン酸含有液2.5Lを、SV=18(1200ml/hr)で通液した。
【0040】
カラム通過液1Lに食塩2gを溶解し、pH7に調整後、2−プロパノールで析出を行い、40℃で真空乾燥し、0.45gのヒアルロン酸ナトリウムを得た。結果を表1に示す。
【0041】
<実施例2>
三菱化学社製ダイヤイオンCR11の替わりに、オルガノ株式会社製のアンバーライトIRC748を用いた以外は実施例1と同様の操作を実施し、0.44gのヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0042】
<比較例1>
工程5).の操作を実施しない以外は実施例1と同様の操作を実施し、0.45gのヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示した。
【0043】
<比較例2>
工程5).の操作を実施しない以外は実施例2と同様の操作を実施し、0.44gのヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示した。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させることを含む、ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させた後、酸処理及びアルカリ処理により該樹脂を再生し、酸を使用し交換基のナトリウム型の一部を水素型に置換し、ヒアルロン酸含有液をキレート樹脂に接触させることを含む、請求項1記載の製造方法。