説明

ヒアルロン酸の製造方法

【課題】培養液中にヒアルロン酸を高濃度に蓄積させることにより、効率良くヒアルロン酸を得る方法の提供。
【解決手段】生酵母の存在下にヒアルロン酸生産能を有する微生物を培養することを含む、ヒアルロン酸の製造方法。ヒアルロン酸生産能を有する微生物は、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物であり、その中でもストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)又はその変異体が好ましい。生酵母は、サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率の良いヒアルロン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒアルロン酸は醗酵法によっても製造されるようになった。醗酵法によって製造されるヒアルロン酸は、一定の条件下で製造されることから、製品の品質が一定に保たれるので、得られるヒアルロン酸の産業上の利用価値が大きいからである。
【0003】
醗酵法においても、効率良くヒアルロン酸を製造する方法が検討されている。
【0004】
例えば、(1)培養液のpHを中性に制御して培養する方法、(2)有酸素条件で培養する方法、(3)醗酵原料としてグルタミンやグルタミン酸を添加して培養する方法(非特許文献1参照)、(4)醗酵原料としてアルギニン及び/又はグルタミン酸を添加して培養する方法(特許文献1参照)、(5)醗酵原料としてウリジンを添加して培養する方法(特許文献2)等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、上記の方法では、醗酵中に乳酸が著量蓄積することにより、発酵法に用いる微生物の主炭素源であるグルコースの資化が抑制される。その結果、ヒアルロン酸の合成が抑制されるために、培養液中にヒアルロン酸を高濃度に蓄積することができないという問題がある。
【非特許文献1】J.Soc.Cosmet.Chem.Japan Vol.22, No1 1988
【特許文献1】特開昭62-289198号公報
【特許文献2】登録特許第2547965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、培養液中にヒアルロン酸を高濃度に蓄積させることにより、効率良くヒアルロン酸を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、生酵母存在下にヒアルロン酸生産能を有する微生物を培養することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、生酵母の存在下にヒアルロン酸生産能を有する微生物を培養することを含む、ヒアルロン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、培養液中に高濃度のヒアルロン酸を蓄積することができることから、より効率良くヒアルロン酸を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明ヒアルロン酸の製造方法について詳細に説明する。
【0011】
<ヒアルロン酸生産能を有する微生物>
本発明において使用するヒアルロン酸生産能を有する微生物とは、通常の培養によりヒアルロン酸を生産することができる微生物のことであり、種類は限定されない。例えば、ストレプトコッカス属に属する微生物を好ましく使用することができる。ストレプトコッカス属に属しない微生物でも、通常の遺伝子工学的手法を用いてヒアルロン酸生産能を得た微生物も使用することができる。
【0012】
ヒアルロン酸生産能を有するストレプトコッカス属に属する微生物は、一般に牛鼻腔粘膜、牛眼球に存在していることが知られている。本発明ではそこから単離された微生物を利用することもできる。
【0013】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物としては、例えば、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・ピオゲニス(Streptococcus pyogenes)等が挙げられる。ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)が好ましく使用することができる。
【0014】
さらに、ストレプトコッカス属の属する微生物等のヒアルロン酸生産能を有する微生物を、紫外線、NTG(N−メチル−N´−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、メチルメタンスルホン酸等で処理することにより、ヒアルロニダーゼ非生産菌や非溶血性菌に改良することがより好ましい。人体または動物に悪影響を及ぼす可能性が低くなるからである。前記ヒアルロニダーゼ活性及び溶血性を欠損させた菌株としては、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスNH-131(FERM P-7580)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスHA-116(ATCC39920)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスMK5(FERM P-21487)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスYIT2030(FERM BP-1305)が好ましく、その中でもストレプトコッカス・ズーエピデミカスMK5(FERM P-21487)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスYIT2030(FERM BP-1305)が特に好ましい。
【0015】
これらのうち、FERM株については、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターより入手可能である。また、ATCC株については、American Type Culture Collectionから入手可能である。
【0016】
<培養>
培養条件は、上記微生物がヒアルロン酸を生産できる条件であれば限定されず、微生物の種類に応じた通常の培養条件を用いることができる。例えば、培地としては、炭素源としてグルコース、フルクトース等の単糖類、乳糖、スクロース、マルトース等の二単糖類、窒素源としてポリペプトン、酵母エキス等の有機窒素源、アルギニン、グルタミン酸、グルタミン等の遊離アミノ酸、ビタミン、無機塩等、タンニン等のフェノール性水酸基を有するヒアルロニダーゼ阻害剤を用いたものを使用することができる。培養条件は、通常、pHを7〜7.5、温度を30〜37℃に制御して好気的に行うことが好ましい。
【0017】
本発明における培養方法としては、特に限定されるものではないが、回分培養とする方法と、連続培養とする方法、流下培養とする方法の何れも可能である。
【0018】
また、前記培養は、通常、前培養を行った後に本培養を行う。前培養の条件としては、グルコース、フルクトース等の炭素源、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス等の窒素源、ビタミン、無機塩等を含む培地中で、pHを4〜8、温度を30〜37℃に制御して好気的に培養することが好ましい。
【0019】
本発明においては、ヒアルロン酸生産能を有する微生物を培養(本培養)する際に、生酵母を添加(植菌)することが重要である。本培養への生酵母の添加(植菌)の時期は特に限定されず、培養スタート時でも良いし、培養中〜培養終了前でも良い。
【0020】
当該生酵母が培地中に蓄積した乳酸を分解又は消費することにより、乳酸による微生物のヒアルロン酸生産能の低下が防ぐことができる。従って、培地中により高濃度のヒアルロン酸を蓄積することができ、効率よくヒアルロン酸を得ることができるのである。
【0021】
本発明で使用する生酵母は、乳酸を分解又は消費できれば限定されないが、使用しやすさ、または入手しやすさの観点から、サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)が好ましく、サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)NBRC0216が特に好ましい。この菌株は、独立行政法人製品評価基盤機構生物遺伝資源部門より入手することができる。
【0022】
生酵母も前培養することができ、その条件としては、グルコース、フルクトース、乳酸等の炭素源、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス等の窒素源、ビタミン、無機塩等を用いた培地中で、pHを4〜8、温度を30〜37℃に制御して好気的に培養することが好ましい。
【0023】
本発明により得られたヒアルロン酸は、医薬品、化粧品、食品添加物等、あらゆる用途に用いることができる。
【実施例】
【0024】
<実施例1>
乳糖6%、ポリペプトン(和光純薬工業株式会社製)1.5%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製)0.5%、リン酸第二カリウム0.2%、硫酸マグネシウム7水塩0.1%、塩化カルシウム0.005%、グルタミン酸ナトリウム0.1%、アデカノールL61(消泡剤 旭電化工業製)の組成からなる培地(pH7.0)を3Lのジャーファーメンターに2L入れ、滅菌後、前培養したストレプトコッカス・ズーエピデミカスMK5(FERM P-21487)とサッカロマイセス・セレビシアNBRC0216をそれぞれ1%接種し、12%水酸化ナトリウム水溶液にて培養pHを7.4に制御しながら37℃で23時間培養した。なお、乳糖は別滅菌して、培養開始時に一度に添加した。
【0025】
前培養の条件は、両菌共にグルコース0.2%、ポリペプトン2.0%、酵母エキス0.5%、硫酸マグネシウム7水塩0.05%の組成からなる培地(pH7.0)を綿栓付き500ml容三角フラスコに100ml入れ、滅菌後、同一組成を含む寒天プレート上に形成したコロニーをそれぞれ一白金糸植菌し、30℃でストレプトコッカス・ズーエピデミカスMK5は18時間、サッカロマイセス・セレビシアNBRC0216は42時間培養した。
【0026】
培養した培養液(ヒアルロン酸含有液)を、イオン交換水を用いて10倍に希釈し、その2.5L水溶液に活性炭(武田薬品社製の白鷺RW50-T)を5g、パーライト(三井金属鉱業株式会社のロカヘルプ#409)を30g添加して1時間処理し、ヌッチェを用いて濾過した。この操作を2回繰り返して培地中の有機成分を除去した。
【0027】
有機成分を除去したヒアルロン酸含有液1Lに、食塩3gを溶解、pH7に調整後、2-プロパノール6Lで析出を行い、40℃で真空乾燥することにより、0.7g以上のヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
【0028】
<比較例1>
実施例で前培養したサッカロマイセス・セレビシアNBRC0216を1%接種しないこと以外は、実施例1と同様の操作を実施した。ヒアルロン酸ナトリウムは0.6g以下しか得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生酵母の存在下にヒアルロン酸生産能を有する微生物を培養することを含む、ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
ヒアルロン酸生産能を有する微生物が、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)又はその変異体である請求項2記載の方法。
【請求項4】
ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)が、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)MK5(FERM P-21487)である請求項3記載の方法。
【請求項5】
生酵母が、サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)が、サッカロマイセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)NBRC0216である請求項5記載の方法。