ヒアルロン酸ナノ粒子
本発明は、少くとも1種の活性成分の投与用のヒアルロン酸ナノ粒子に関する。本発明によるナノ粒子は、塩形のヒアルロン酸、正荷電ポリマー、ポリアニオン塩および少くとも1種の活性成分を含んでなる。上記ナノ粒子を得る方法は、ヒアルロン酸塩の水溶液を調製し、カチオン性ポリマーの水溶液を調製し、ポリアニオン塩をヒアルロン酸塩の溶液に加え、これら溶液を攪拌混合し、ナノ粒子を生成することからなり、活性成分は、初期溶液の一方にまたは得られたナノ粒子の懸濁液に溶解させ、ナノ粒子に吸収させる。本発明はまた、上記ナノ粒子を含んでなる医薬および化粧品組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、親水性および疎水性双方の活性高分子の投与用のナノ微粒子系、それを含んでなる組成物、およびそれらの製造方法の開発に関する。これらのナノ粒子は、塩形のヒアルロン酸、好ましくは該ポリマーのナトリウム塩と、正荷電ポリマー、好ましくはキトサンとを含んでなる。好ましくはリン酸塩類から選択されるポリアニオン塩が、上記処方物に配合される。これらのナノ粒子は、様々な経路による生物への活性成分の投与に用いられる。活性成分としては、治療性を有する分子、予防接種および化粧用の成分がある。
【0002】
背景技術
用いられる投与経路および分子の物理化学的および形態学的特徴の双方に応じて、活性成分の投与は多くの困難を伴う。親水性で大きなサイズの不安定な活性分子を投与するときに、主な欠点が生じることが知られている。さらに、親水性高分子の生体内部への到達は、生体バリアの低い透過性によって制限される。また、ヒトおよび動物双方が有する様々な防御機構のため、それらは分解されやすい。これらの困難は、活性分子の治療標的への到達、ひいては有効な治療を達成するため、解決されねばならない。
【0003】
ナノメーターサイズ系で高分子を配合すると、それらは上皮バリアから通り抜けやすくなり、分解から保護されることが、明らかにされている。そこで、該バリアと相互作用しうるナノ微粒子系をデザインすることが、粘膜を介して活性成分を透過させるために有望な戦略として提案された。
【0004】
これら系の、外部バリアを抜けて生体の内部へ到達する能力は、それらのサイズおよび組成の双方に依存することもまた知られている。小さなサイズの粒子は大きなサイズの粒子と比較して輸送度を増す;直径1μm未満のナノ粒子であればこの基準に答えられる。それらが天然、生体適合性および生物分解性のポリマーから製造されるならば、上皮生理機能を変えることなく、既知の輸送メカニズムにより、それらが生体粘膜を通り抜けて自然に輸送される可能性が増すのである。ナノ微粒子系の別な特徴は、それらが封入する活性分子の放出制御と標的組織へのその指向とを可能にすることである。
【0005】
ヒアルロン酸は天然源のポリマーである。より詳しくは、それは皮下組織および軟骨のような結合組織の細胞外マトリックス、並びに眼球の硝子体および関節窩の滑液に存在するグリコサミノグリカンである。これは、レセプターが存するポリマーであり、そのレセプターとしては、赤血球を除く事実上すべての生物細胞の表面に位置する、CD44およびRHAMMが主要である。ヒアルロン酸とこれらレセプターとの相互作用から、移動性および細胞増殖性などの一定の生理学プロセスを調節しうる。これら性質のゆえに、形態形成および胚発生、癌および炎症のようなプロセスにおいて重要な役割を果たすため、ヒアルロン酸は治療用途を有している。さらに、上記性質のゆえに、ヒアルロン酸は上皮治癒を促進するために用いられている。この生物活性の証拠として、活性生体分子としてヒアルロン酸を用いた多くの研究が存在し、例えば、ヒアルロン酸が乾性角結膜炎の治療に適用されているというSand et al.,Acta Ophthalmol.,67,1989,181-183の報告、およびヒアルロン酸が角膜で創傷治癒剤として適用されているというNishida et al.,Exp.Eye Res.,53,1991,753-758の報告がある。
【0006】
ヒアルロン酸およびその誘導体は、様々な形で用いられ、多くの特許の目的となっていた。これら文献の一部においては、ヒアルロン酸は活性分子として用いられ、他方においては、薬物放出系の製造における生体材料‐賦形剤として用いられている。かかる分野における利点は、それが、免疫原性がなくて粘膜付着性を有する、生物分解性、生体適合性のポリマーであることに起因している。
【0007】
ヒアルロン酸が活性分子の一例として挙げられた特許の中で、我々は以下に注目しなければならない。
文献WO9606622は、単独のまたは他の治療剤と組み合わせた、ヒアルロン酸および誘導体の使用であって、表面にヒアルロン酸用のレセプターを発現する組織およびその細胞の細胞活性を調節し、炎症プロセス、線維症または発癌を治療または防止する使用について特許請求している。
【0008】
特許US6383478は、マイクロ粒子、ナノ粒子またはフィルムからなる放出系であって、血管形成を促進させる活性分子としてヒアルロン酸を配合した放出系に関する。ポリマーフィルムまたは微粒子ビークルは、少くとも2種のアニオン性ポリマー(その中にヒアルロン酸は含まれない)、カチオン性ポリマー(その中にキトサン、ゼラチンおよびコラーゲンは含まれない)および低分子量カチオンにより形成されている。
【0009】
文献WO0101964は、イオン錯体を後に沈降させ、サイズ範囲5nm〜1mmの粒子を形成させる、反対電荷の親水性ポリマー間におけるイオン錯体の形成に関する。カチオン性ポリマーは、例えばキトサンのような、正電荷を有するポリマーである。デキストラン硫酸塩その他がアニオン性ポリマーとして挙げられている。脱溶媒剤、この場合には硫酸亜鉛の添加により錯体が脱溶媒されたときに、沈降が生じる。これらの微粒子錯体は、生体分子を配合してなり、生体分子はビークルの一部を形成する親水性ポリマーの1種と予めキレート化されている。その記載には多糖類の使用も含んでいるため、ヒアルロン酸も配合される生体分子の1種となりうる。したがって、それは活性分子(ヒアルロン酸)がカチオン性ポリマー(例えば、キトサン)とキレート化された系であり、この錯体を他のアニオン性ポリマー(デキストラン硫酸塩)と相互作用させ、硫酸亜鉛を加えることによりユニットを沈降させる。
【0010】
文献WO9704747は主に疎水性ポリマーからのナノ粒子の製造を開示しており、該ナノ粒子は付着剤で被覆されている。活性ポリマーの例としてそこでは多糖を挙げており、それはヒアルロン酸でもよいが、明確には挙げられていない。上記特許はナノ粒子を形成しうる物質としてキトサンを示しているが、すべての例が疎水性ポリマーの使用に関するものであり、ナノ粒子を形成するために有機溶媒が必要とされる。
【0011】
ヒアルロン酸が活性成分放出系製造用の賦形剤として用いられている特許のグループも非常に多い。該系は、単純な錯体、ヒドロゲル、マイクロ小球およびナノ粒子の形で提供されている。
【0012】
ヒアルロン酸またはその誘導体を組成物中に配合した多くの系の中で、我々は以下の文献に注目すべきである。
文献EP0544259は、キトサンであってもよいアミノ基を有する高分子量物質と、ヒアルロン酸との錯体の製造に関する。この錯体は様々な形で提供され、それが得られるレシピエントのものを選んでいる。
【0013】
文献WO018274は、キトサンであってもよい正荷電アミノ多糖と、ヒアルロン酸を含む負荷電多糖とから形成される、単純な微粒子錯体である組成物について特許請求している。この微粒子錯体は未制御な沈降方法に従って形成される。換言すると、粒子の形成を制御しうる架橋剤が用いられていないため、得られる粒子は通常不規則で、極めて分散されている。
【0014】
さらに、異なる方法および組成によるヒドロゲルの製造に関する一連の特許がある。これらの中で、我々は以下を注目すべきである。
US4582865は、ヒアルロン酸ヒドロゲルまたは誘導体の製造であって、単独で、またはセルロース、コラーゲン、キサンタン、カルボキシメチルセルロースなどのような他の親水性ポリマーと組み合わせて、ジビニルスルホンと反応させたときに得られる、ヒアルロン酸ヒドロゲルまたは誘導体の製造に関する。
【0015】
WO0128602は、ヒアルロン酸のベンジルエステル誘導体、骨形成タンパク質および無機成分として三リン酸カルシウムを含んでなる、ゲルまたはペースト形の、骨形成タンパク質を放出するための注射用処方物の製造について開示している。
【0016】
文献WO9009401は、リン酸誘導体と反応させてリン酸エステル架橋が形成された後、ポリマー架橋によって得られる、ヒアルロン酸ヒドロゲルまたは誘導体に関する。これらのヒドロゲルは、フィルム、チューブなどの形の、活性成分含有インプラントとして適用上有用である。
【0017】
文献WO0230990は、2以上のアミノ基を有するカチオン性ポリマー(キトサンを含む)との反応に基づく、ヒアルロン酸の架橋アミド誘導体の製造について開示している。カルボジイミドを用いてこの化学反応を行うためにカルボキシル基活性化剤が必要である。ヒアルロン酸のこのアミド誘導体は、ゲル、膜、ビーズ…の形で存在しうる。
【0018】
同様に、組成にヒアルロン酸を含む粒子(マイクロ粒子またはナノ粒子)の製造について言及した、一連の文献が存在している。我々は、粒径が1〜100μmであるマイクロ小球またはマイクロ粒子と、サイズが1ミクロン未満であるナノ小球またはナノ粒子とを区別しなければならない。非常に広い粒径範囲(ナノ〜マイクロ)について請求した特許が存在しているが、マイクロ粒子の製造に適用しうる技術の多くはナノ粒子を形成できない。
【0019】
そこで、特許WO89/03207およびBenedetti et al.,Journal of Controlled Release,13,33-41(1990)の論文では、溶媒蒸発法によるヒアルロン酸マイクロ小球の製造について示している。さらに最近では、文献US6066340は溶媒抽出技術を利用して上記マイクロ小球を得る可能性に関する。それにもかかわらず、そこで言及された技術でナノ粒子の形成を行うことはできないため、上記の文献がナノ粒子の製造について言及しているとはいえないのである。
【0020】
さらに、ヒアルロン酸の粘膜付着効果とキトサンの吸収促進効果とを組み合わせる目的で、マイクロ微粒子系におけるヒアルロン酸とキトサンとの組合せが提案された。このマイクロ微粒子組合せの価値は、Lim et al.,J.Controll.Rel.,66,2000,281-292およびLim et al.,Int.J.Pharm.,23,2002,73-82の研究で明らかにされている。以前の文献のように、これらのマイクロ粒子は溶媒エマルジョン蒸発技術で製造されていた。
【0021】
文献US2001053359は、抗ウイルスおよび生体付着物質の鼻内投与のための組合せであって、異なる物質、特にゼラチン、キトサンまたはヒアルロン酸からなり、それらの混合物ではなく、溶液またはマイクロ小球の形で提供される組合わせについて提案している。マイクロ粒子は、噴霧および溶媒エマルジョン/蒸発のような古典的技術によって取得される。取得されると、マイクロ粒子は常用の化学的架橋法(ジアルデヒドおよびジセトン)で硬化される。
【0022】
文献US2002197328もまた、噴霧によりヒアルロン酸から製造されたマイクロ粒子に関する。上記との差異は、高分子量ヒアルロン酸マイクロ粒子(1,000,000ドルトン以上)に関する点である。請求の範囲では1ミクロン未満の粒子の製造を記載しているが、上記粒子が取得される噴霧プロセスではナノ粒子を得ることはできない。
【0023】
さらに最近では、US20030026844が、表面にイオン官能基を有する、サイズ10nm〜500μmの孔質粒子に関するものである。これらの粒子は1種以上の生体ポリマー(ヒアルロン酸およびキトサンのような既定の多糖類を含む)から形成されている。この文献によると、イオン化しうる界面活性剤の本質的要素として配合するおかげで、イオン基が形成されている。溶媒抽出または蒸発、噴霧、コアセルベーションおよび超臨界流体の使用のような様々な方法が、これら粒子の形成のために開示されている。請求の範囲では1ミクロンより小さなサイズの粒子の製造を記載しているにもかかわらず、上記文献で開示された方法ではナノ粒子を得ることはできない。
【0024】
文献WO‐A‐99/47130は、ポリカチオン(キトサンであってもよい)およびポリアニオンからの高分子電解質錯体と、少くとも1種の生物活性成分とを有するナノ粒子に関するものであり、該ナノ粒子は、形成中および後において、高分子電解質錯体を少くとも1種の架橋剤(グリオキサール、TSTUまたはEDAP)でさらに処理することによって得られる。硫酸ポリシランがポリアニオンとして記載されている。
【0025】
文献US6132750は、表面に少くとも1種のタンパク質(コラーゲン、ゼラチン)および多糖(特にキトサンまたはグリコサミノグリカン)を含有した、サイズの小さな粒子(マイクロおよびナノ粒子)の製造に関する。それらは、アミドまたはエステル結合、および場合により無水物結合を形成する多官能性アシル化剤を用いて、界面架橋により形成されている。金属イオンと反応しうる遊離基がその表面上に留めることがその目的である。
【0026】
文献WO9918934は、正または負荷電ポリマーから形成される核と、双方の組合せのコーティング物質とからなるナノ粒子に関する。超音波がその製法に適用されねばならない。粒子は、架橋剤(デキストランポリアルデヒド、光架橋ポリマーまたはグルタミルトランスフェラーゼ)との反応により安定化されている。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、塩形のヒアルロン酸、好ましくは該ポリマーのナトリウム塩と、天然源の正荷電ポリマー、好ましくはキトサンとを含んでなり、それが脱プロトン形のヒアルロン酸と静電気的に相互作用している、ナノ粒子に関する。処方物中には、カチオン分子とイオン的に架橋してゲル化を引き起こしうる、好ましくはリン酸塩類から選択されるポリアニオン塩が配合されている。
【0028】
ナノ微粒子形中における、ヒアルロン酸とキトサンとの組合せから、治療分野において高ポテンシャルな系が得られる。さらに両ポリマーは反対電荷を有しているため、それらからイオン錯体を生ずる可能性が知られている。錯体とナノ粒子との差異も知られており、錯体と比較したナノ粒子の利点はそれらの組成およびサイズに関する優れた制御性および大きな安定性である。系に安定性を付与するため、それらは化合物間で化学結合を形成する物質を加えることにより架橋されていた。
【0029】
上記のことから、本発明は、2種のポリマー、ヒアルロン酸およびキトサンの組合せに関し、ナノ微粒子系を得るために、コラーゲンおよびゼラチンのような天然源の他の正荷電ポリマーの代わりにキトサンを用いることができる。同様に、制御された形でナノ粒子の形成を行い、有機溶媒および極端な条件の使用なしで済ませられる、ナノ粒子の製造方法が見出された。したがって、これにより、系中に配合された分解しやすい高分子の完全性は保たれる。望ましいサイズ範囲でナノ粒子の形成を行うためにはそこへ、ヒアルロン酸とのイオン相互作用とともに、正荷電ポリマーのゲル化をもたらす、ポリアニオン塩の添加を行う。したがって、それは、成分間で共有結合を形成させる必要性なく、制御的に生じて系に安定性を付与する、イオンゲル化/相互作用法(ionic gelling/interaction)である。これらナノ粒子は、それらの生体適用に際して、他の大きなサイズの系(マイクロ粒子、ペレット、ヴェーダ(veda)、フィルム、スポンジ…)よりも利点を有する。実際に、薬物放出系と生体表面との相互作用がそのサイズにより大きく左右されることが知られている。即ち、ナノ粒子は上皮および粘膜を通過して薬物輸送系として働くことができるが、マイクロ粒子はその能力を有しない。これら系の生体分布もまた、サイズにより大きく左右される。薬物放出コロイド系において近年得られた知見から、コロイド系(1ミクロン未満)とマイクロ微粒子系には明確な境界を設けられた。
【発明の具体的説明】
【0030】
本発明は、ヒアルロン酸塩と、該グリコサミノグリカンと相互作用しうる他の親水性ポリマーとから形成されるナノ粒子の製造について開示しており、上記相互作用は、静電気相互作用によって系を架橋しうるポリアニオン塩により媒介されている。この粒子を得る方法は、有機溶媒および過酷な条件の使用を避けられる簡易な方法である。さらに、上述の通り、架橋プロセスはイオン性であるため、粒子を得る上でいかなるタイプの化学反応も行う必要がない。
【0031】
第一の態様によれば、本発明は、疎水性または親水性にかかわらず活性成分を配合した、直径1μm未満のヒアルロン酸ナノ粒子を得る方法に関する。この方法は下記の工程からなる:
a)好ましくは0.50〜5mg/mLの濃度で、ヒアルロン酸塩の水溶液を調製し、
b)好ましくは0.50〜5mg/mLの濃度で、カチオン性ポリマーの水溶液を調製し、
c)好ましくは0.25〜1.00mg/mLの濃度で、ポリアニオン塩をヒアルロン酸塩の溶液に加え、
d)b)およびc)において得られた溶液を攪拌混合し、自然発生的(spontaneously)にナノ粒子を得ること。
【0032】
1種または数種の活性成分は、溶液a)、b)またはc)のうち1つに、あるいはd)において得られたナノ粒子の懸濁液に溶解させ、ナノ粒子に吸着させる。
【0033】
第二の態様によれば、本発明は、上記方法により得られる、組成、性質および形態に関して特定の特徴を有したナノ粒子であって、ヒアルロン酸、正荷電ポリマー、ポリアニオン塩および高分子を含んでなるナノ粒子に関する。
【0034】
さらなる態様によれば、本発明は、各々1種以上の医薬または化粧品上許容される賦形剤とともに、上記ナノ粒子を含んでなる医薬または化粧品組成物に関する。
【0035】
好ましい態様によれば、ヒアルロン酸塩はそのナトリウム塩である。好ましくは、正荷電ポリマーはキトサンであるが、コラーゲンまたはゼラチンを用いることも可能である。
【0036】
さらに、好ましくは、ポリアニオン塩はリン酸塩類から選択され、そのモデルとしては、構造上多数の負電荷を有するため、トリポリリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0037】
粒子は、様々な割合で上記溶液を混合することにより形成される。したがって、ナノ粒子は、1:0.5:0.1〜1:10:2、好ましくは1:1:0.15〜1:10:1.5の範囲で変動しうる、様々なヒアルロン酸:正荷電ポリマー:アニオン塩成分の割合を有するものである。
【0038】
ヒアルロン酸粒子を製造する方法には、それらの保管に際してそれらを保存し、それらの初期の特徴を保つことを目的として、追加の凍結乾燥工程を含めてもよい。凍結乾燥形では、ナノ粒子は長期間にわたり保存でき、必要時に、最適量の水を単に加えることで、容易に再生される。ポリマー鎖間で接近が生じて、それがポリマー交差の増加を促し、しかも架橋剤としてのポリアニオンの効果を増強することから、この方法を用いると、ナノ粒子の架橋度は増加する。
【0039】
粒子凍結乾燥のためには、ヒアルロン酸が凍結保護効果を発揮するため、必要とされるのは、少量の糖を加えることのみである。
【0040】
この追加工程によれば、本発明はまた、凍結乾燥形の、ヒアルロン酸ナノ粒子および正荷電ポリマー、およびそれらを少くとも1種の医薬または化粧品上許容される賦形剤とともに含有する医薬または化粧品組成物に関する。
【0041】
ここで開示されたナノ粒子は懸濁および凍結乾燥形の双方で適切な安定性を有し、かかる理由からそれらは長期間にわたり保存しうる。さらに、特定の生体液中のそれらの安定性についても研究したところ、それらがヒトまたは動物への投与後もナノ微粒子形で留まることが保証された。
【0042】
さらに、組成中にヒアルロン酸を含んでなるナノ粒子は、ムチン(粘膜に存在するタンパク質)と相互作用しうる能力のため、優れた粘膜付着性を有することが証明されており、それらを医薬または化粧品系として非常に有用な系にする。それらは様々な経路で投与され、中でも粘膜投与および関節内注射による投与が非常に重要である。
【0043】
ヒアルロン酸を含んでなるナノ粒子に配合される活性成分は、処方の意図する治療用途に適した薬物療法性を有している。配合される高分子のヒトまたは動物に対する効果は、投与後に病気を治癒、軽減または予防する目的を有するものである。
【0044】
本発明によれば、ヒアルロン酸ナノ粒子およびキトサンのようなカチオン性ポリマーはその溶解特徴にかかわらず、高分子を配合する上で適している。会合能力は配合される高分子に依存するが、一般的には親水性高分子および顕著な疎水性のもの双方で高い。活性成分には、薬物、ビタミン、ワクチンなど、または化粧剤が挙げられる。
【0045】
ナノ粒子に配合すべき高分子は、その製造に用いられる2水溶液のうち一方に予め溶解される。親油性の高分子の場合には、製造技術に変更が加えられたが、それによると、好ましくは約1:1の割合の水および水混和性有機溶媒(好ましくはアセトニトリル)の混合液の少量に、活性成分が溶解され、次いで、これを前記水溶液のうち一方に加え、最終溶液中における有機溶媒の重量濃度は必ず10%未満とする。
【0046】
本発明で開示されたナノ粒子には2種以上の高分子を配合する可能性があり、これら高分子は同一溶液にまたは双方別々に溶解されるが、この点は、化学的または物理的いずれのタイプの相互作用も生ずることを避ける上で、配合される高分子に依存する。
【0047】
ヒアルロン酸ナノ粒子は1μm未満の平均直径を有し、したがって、ナノ粒子の定義、ポリマーから形成された1μm未満のサイズを有するコロイド系に該当する。そのサイズは、それらを構成するヒアルロン酸の量、および架橋させる系で用いられるポリアニオン塩の量、およびそれらが含有する活性成分の性質に応じて変わる。
【0048】
その表面電荷は、それらを構成するポリマーの様々な割合に応じて変わる。さらに詳しくは、ナノ粒子の表面電荷は、それらを構成するヒアルロン酸の量および架橋ポリアニオン塩に応じて、程度が異なる。多くの場合、生物の生体表面、特に粘膜は負に荷電しているため、表面電荷は正の値を有することが有利である。したがって、ナノ粒子の正電荷は相互作用に有利であり、結果的に、それは標的組織で作用するナノ微粒子系に高分子を加えておく上で都合がよい。
【0049】
ナノ粒子はヒトまたは動物への活性物質の放出制御用または遅延型放出用の手段であることから、これらナノ粒子の形成に際して含有されるヒアルロン酸の量は、さらに配合される高分子の放出を調節すると思われる。
【0050】
次いで、本発明の特徴および利点のさらなる理解のために、決して制限を加えることなく、上記の説明を補完する一連の実施例について言及する。
【実施例】
【0051】
下記例の説明に際して、一連の略記が用いられている:
HANa:ヒアルロン酸ナトリウム塩
CS:キトサン
TPP:トリポリリン酸ナトリウム
FITC‐BSA:蛍光で標識されたアルブミン
CsA:シクロスポリンA
SLF:擬似涙液
【0052】
例1
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。ヒアルロン酸塩およびトリポリリン酸ナトリウムの溶液をキトサン溶液へ磁気攪拌しながら加え、それを半時間維持し、安定なナノ微粒子形に向けて系の完全な生成を行う。製造した時点でそれらの平均直径を測定し、それらの表面電荷(ゼータ電位)および生産収率(パーセンテージで表示され、配合ポリマーの重量に対するナノ粒子の重量を考慮する)を計算する。表1並びに図1、2および3は、HA‐Na、CsおよびTPPの割合に従いパラメーターとして得られた値を示している。
【0053】
【表1】
【0054】
例2
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。次いで、親水性分子をその組成物中に配合したが、上述の目的からFITC‐BSAを選択した。それはpH(キトサン溶液の場合には3、およびヒアルロン酸塩およびトリポリリン酸ナトリウム溶液の場合には8〜8.5)のため、両溶液中で負荷電の高分子であり、この理由から、粒子形成に際して妨害の出現を避けるためにヒアルロン酸とともに配合した。
【0055】
ポリマー重量に対して30%の理論荷電を確立し、本発明による方法に従い製造した後に、封入効率を決定した(λ=494nmで、可視分光法により遊離タンパク質を評価する)。その平均直径も測定した。生産収率は、配合されたポリマーおよびタンパク質の重量を考慮して調べた。この最後の情報を考慮して、粒子の真の荷電容量を決定することができた。
【0056】
【表2】
【0057】
例3
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。次いで、疎水性分子をその組成物中に配合したが、そのために、特に適度な温度において水に事実上不溶性の免疫調節剤、ポリペプチド シクロスポリンAを選択した。製造方法は本発明で既に開示されたものであって、1つの修正を加えたものであり、高分子を10mg/mLの濃度で50%(V/V)アセトニトリル/水溶液に溶解させる。次いで、少量のこの溶液約200μLをキトサン溶液へ加え、その後直ちに、ヒアルロン酸塩および架橋剤を含有した溶液を加える。薬物封入体はナノ結晶の形をとり、そのため第二溶液の添加工程は速やかであり、高分子を沈降させずに、ナノ粒子の配合を促進させる。
【0058】
ポリマー重量に対するCsAの理論荷電が25%と確立し、本発明の方法に従い製造された時点で、封入効率を決定した(λ=200nmで、紫外線分光法により遊離ポリペプチドを評価する)。その平均直径も測定した。生産収率は、配合されたポリマーおよびポリペプチドの重量を考慮して決定した。この最後の情報を考慮して、粒子の真の荷電容量を決定することができた。
【0059】
【表3】
【0060】
例4
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤かつトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。経時的に系生成の情報を得る目的で、1月間にわたり、粒径および表面電荷測定を行った。このために、ヒアルロン酸量の異なる、種々の処方物を選択した。理論的HANa/CS/TPP割合は1/2/0.4(黒ひし形)、1/2.5/0.25(黒丸)、1/3/0.5(黒四角)、1/3/0.66(−)および1/10/1.5(黒三角)であった。図4および5に記載された結果は、保存中に、パラメーター、サイズおよびゼータ電位のわずかな変動を示した。
【0061】
例5
ヒアルロン酸、キトサンおよびTPPのナノ粒子を本発明に従い製造した。疎水性分子CsAを例3に記載された形で配合した。次いで、経時的な系安定性を調べるために、1週間にわたりナノ粒子の直径を測定した。いかなる結晶成長も観察されなかったことから、薬物は粒子に取り込まれ、ナノ結晶の形で沈降しないことも確認された。ナノ粒子量に対して25%の割合でCsAの荷電量が定められた。粒子形成ポリマーおよび架橋剤の割合、HANa/CS/TPPは、1/2/0.4(黒ひし形)および1/3/0.5(黒四角)であった。
【0062】
例6
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。1/2/0.4HANa/CS/TPPの割合を用い、これらの粒子のおいて、凍結乾燥工程で用いられた凍結保護剤のタイプがサイズに及ぼす効果を調べた。凍結乾燥させる懸濁液中のナノ粒子濃度に及ぼす影響もまた評価した。予備アッセイ後、2種の糖、グルコースおよびトレハロースを凍結保護剤として選択し、それらの濃度を一定に保ち、5%(w/V)とした。
【0063】
例7
本発明の方法で製造され、5%(w/V)グルコースの存在下で凍結乾燥されたナノ粒子を、pH7.4でありかつ高いイオン濃度を有するSLF中でインキュベートした。選択された処方物は前例と同様であった。粒子の平均直径測定を24時間行った。
【0064】
例8
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。製造された処方物は組成HANa/CS/TPP:1/2/0.4のものであり、凍結保護剤として5%グルコースを用い48時間かけて凍結乾燥させた。次いで、これについて、SLFおよび4%ムチン溶液を用いて、粘膜付着試験を行った。
【0065】
ヒアルロン酸は、ゲル形で粘弾性挙動を有するポリマーである。コロイド懸濁液の場合、レオロジー挙動はより複雑である。粘性は粒子の表面の性質に大きく影響される。
【0066】
ナノ粒子の粘膜付着性を、50%:ナノ粒子/ムチン、ナノ粒子/SLFおよびムチン/SLFで調製された混合物から調べた。弾性モジュール値(G′)及びビスコースモジュール(G″)を観察すると、他の2種の合計から見て、第一の混合物に関する相乗作用の存在は、系が粘膜付着性を有することを示している。用いられた数学式は以下であった:
G′(′)=G′(′)ナノ粒子−4%ムチン−(G′(′)ナノ粒子−SLF+G′(′)4%ムチン−SLF)
【0067】
弾性モジュールおよびビスコースモジュールの結果は図10および11に示される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、親水性および疎水性双方の活性高分子の投与用のナノ微粒子系、それを含んでなる組成物、およびそれらの製造方法の開発に関する。これらのナノ粒子は、塩形のヒアルロン酸、好ましくは該ポリマーのナトリウム塩と、正荷電ポリマー、好ましくはキトサンとを含んでなる。好ましくはリン酸塩類から選択されるポリアニオン塩が、上記処方物に配合される。これらのナノ粒子は、様々な経路による生物への活性成分の投与に用いられる。活性成分としては、治療性を有する分子、予防接種および化粧用の成分がある。
【0002】
背景技術
用いられる投与経路および分子の物理化学的および形態学的特徴の双方に応じて、活性成分の投与は多くの困難を伴う。親水性で大きなサイズの不安定な活性分子を投与するときに、主な欠点が生じることが知られている。さらに、親水性高分子の生体内部への到達は、生体バリアの低い透過性によって制限される。また、ヒトおよび動物双方が有する様々な防御機構のため、それらは分解されやすい。これらの困難は、活性分子の治療標的への到達、ひいては有効な治療を達成するため、解決されねばならない。
【0003】
ナノメーターサイズ系で高分子を配合すると、それらは上皮バリアから通り抜けやすくなり、分解から保護されることが、明らかにされている。そこで、該バリアと相互作用しうるナノ微粒子系をデザインすることが、粘膜を介して活性成分を透過させるために有望な戦略として提案された。
【0004】
これら系の、外部バリアを抜けて生体の内部へ到達する能力は、それらのサイズおよび組成の双方に依存することもまた知られている。小さなサイズの粒子は大きなサイズの粒子と比較して輸送度を増す;直径1μm未満のナノ粒子であればこの基準に答えられる。それらが天然、生体適合性および生物分解性のポリマーから製造されるならば、上皮生理機能を変えることなく、既知の輸送メカニズムにより、それらが生体粘膜を通り抜けて自然に輸送される可能性が増すのである。ナノ微粒子系の別な特徴は、それらが封入する活性分子の放出制御と標的組織へのその指向とを可能にすることである。
【0005】
ヒアルロン酸は天然源のポリマーである。より詳しくは、それは皮下組織および軟骨のような結合組織の細胞外マトリックス、並びに眼球の硝子体および関節窩の滑液に存在するグリコサミノグリカンである。これは、レセプターが存するポリマーであり、そのレセプターとしては、赤血球を除く事実上すべての生物細胞の表面に位置する、CD44およびRHAMMが主要である。ヒアルロン酸とこれらレセプターとの相互作用から、移動性および細胞増殖性などの一定の生理学プロセスを調節しうる。これら性質のゆえに、形態形成および胚発生、癌および炎症のようなプロセスにおいて重要な役割を果たすため、ヒアルロン酸は治療用途を有している。さらに、上記性質のゆえに、ヒアルロン酸は上皮治癒を促進するために用いられている。この生物活性の証拠として、活性生体分子としてヒアルロン酸を用いた多くの研究が存在し、例えば、ヒアルロン酸が乾性角結膜炎の治療に適用されているというSand et al.,Acta Ophthalmol.,67,1989,181-183の報告、およびヒアルロン酸が角膜で創傷治癒剤として適用されているというNishida et al.,Exp.Eye Res.,53,1991,753-758の報告がある。
【0006】
ヒアルロン酸およびその誘導体は、様々な形で用いられ、多くの特許の目的となっていた。これら文献の一部においては、ヒアルロン酸は活性分子として用いられ、他方においては、薬物放出系の製造における生体材料‐賦形剤として用いられている。かかる分野における利点は、それが、免疫原性がなくて粘膜付着性を有する、生物分解性、生体適合性のポリマーであることに起因している。
【0007】
ヒアルロン酸が活性分子の一例として挙げられた特許の中で、我々は以下に注目しなければならない。
文献WO9606622は、単独のまたは他の治療剤と組み合わせた、ヒアルロン酸および誘導体の使用であって、表面にヒアルロン酸用のレセプターを発現する組織およびその細胞の細胞活性を調節し、炎症プロセス、線維症または発癌を治療または防止する使用について特許請求している。
【0008】
特許US6383478は、マイクロ粒子、ナノ粒子またはフィルムからなる放出系であって、血管形成を促進させる活性分子としてヒアルロン酸を配合した放出系に関する。ポリマーフィルムまたは微粒子ビークルは、少くとも2種のアニオン性ポリマー(その中にヒアルロン酸は含まれない)、カチオン性ポリマー(その中にキトサン、ゼラチンおよびコラーゲンは含まれない)および低分子量カチオンにより形成されている。
【0009】
文献WO0101964は、イオン錯体を後に沈降させ、サイズ範囲5nm〜1mmの粒子を形成させる、反対電荷の親水性ポリマー間におけるイオン錯体の形成に関する。カチオン性ポリマーは、例えばキトサンのような、正電荷を有するポリマーである。デキストラン硫酸塩その他がアニオン性ポリマーとして挙げられている。脱溶媒剤、この場合には硫酸亜鉛の添加により錯体が脱溶媒されたときに、沈降が生じる。これらの微粒子錯体は、生体分子を配合してなり、生体分子はビークルの一部を形成する親水性ポリマーの1種と予めキレート化されている。その記載には多糖類の使用も含んでいるため、ヒアルロン酸も配合される生体分子の1種となりうる。したがって、それは活性分子(ヒアルロン酸)がカチオン性ポリマー(例えば、キトサン)とキレート化された系であり、この錯体を他のアニオン性ポリマー(デキストラン硫酸塩)と相互作用させ、硫酸亜鉛を加えることによりユニットを沈降させる。
【0010】
文献WO9704747は主に疎水性ポリマーからのナノ粒子の製造を開示しており、該ナノ粒子は付着剤で被覆されている。活性ポリマーの例としてそこでは多糖を挙げており、それはヒアルロン酸でもよいが、明確には挙げられていない。上記特許はナノ粒子を形成しうる物質としてキトサンを示しているが、すべての例が疎水性ポリマーの使用に関するものであり、ナノ粒子を形成するために有機溶媒が必要とされる。
【0011】
ヒアルロン酸が活性成分放出系製造用の賦形剤として用いられている特許のグループも非常に多い。該系は、単純な錯体、ヒドロゲル、マイクロ小球およびナノ粒子の形で提供されている。
【0012】
ヒアルロン酸またはその誘導体を組成物中に配合した多くの系の中で、我々は以下の文献に注目すべきである。
文献EP0544259は、キトサンであってもよいアミノ基を有する高分子量物質と、ヒアルロン酸との錯体の製造に関する。この錯体は様々な形で提供され、それが得られるレシピエントのものを選んでいる。
【0013】
文献WO018274は、キトサンであってもよい正荷電アミノ多糖と、ヒアルロン酸を含む負荷電多糖とから形成される、単純な微粒子錯体である組成物について特許請求している。この微粒子錯体は未制御な沈降方法に従って形成される。換言すると、粒子の形成を制御しうる架橋剤が用いられていないため、得られる粒子は通常不規則で、極めて分散されている。
【0014】
さらに、異なる方法および組成によるヒドロゲルの製造に関する一連の特許がある。これらの中で、我々は以下を注目すべきである。
US4582865は、ヒアルロン酸ヒドロゲルまたは誘導体の製造であって、単独で、またはセルロース、コラーゲン、キサンタン、カルボキシメチルセルロースなどのような他の親水性ポリマーと組み合わせて、ジビニルスルホンと反応させたときに得られる、ヒアルロン酸ヒドロゲルまたは誘導体の製造に関する。
【0015】
WO0128602は、ヒアルロン酸のベンジルエステル誘導体、骨形成タンパク質および無機成分として三リン酸カルシウムを含んでなる、ゲルまたはペースト形の、骨形成タンパク質を放出するための注射用処方物の製造について開示している。
【0016】
文献WO9009401は、リン酸誘導体と反応させてリン酸エステル架橋が形成された後、ポリマー架橋によって得られる、ヒアルロン酸ヒドロゲルまたは誘導体に関する。これらのヒドロゲルは、フィルム、チューブなどの形の、活性成分含有インプラントとして適用上有用である。
【0017】
文献WO0230990は、2以上のアミノ基を有するカチオン性ポリマー(キトサンを含む)との反応に基づく、ヒアルロン酸の架橋アミド誘導体の製造について開示している。カルボジイミドを用いてこの化学反応を行うためにカルボキシル基活性化剤が必要である。ヒアルロン酸のこのアミド誘導体は、ゲル、膜、ビーズ…の形で存在しうる。
【0018】
同様に、組成にヒアルロン酸を含む粒子(マイクロ粒子またはナノ粒子)の製造について言及した、一連の文献が存在している。我々は、粒径が1〜100μmであるマイクロ小球またはマイクロ粒子と、サイズが1ミクロン未満であるナノ小球またはナノ粒子とを区別しなければならない。非常に広い粒径範囲(ナノ〜マイクロ)について請求した特許が存在しているが、マイクロ粒子の製造に適用しうる技術の多くはナノ粒子を形成できない。
【0019】
そこで、特許WO89/03207およびBenedetti et al.,Journal of Controlled Release,13,33-41(1990)の論文では、溶媒蒸発法によるヒアルロン酸マイクロ小球の製造について示している。さらに最近では、文献US6066340は溶媒抽出技術を利用して上記マイクロ小球を得る可能性に関する。それにもかかわらず、そこで言及された技術でナノ粒子の形成を行うことはできないため、上記の文献がナノ粒子の製造について言及しているとはいえないのである。
【0020】
さらに、ヒアルロン酸の粘膜付着効果とキトサンの吸収促進効果とを組み合わせる目的で、マイクロ微粒子系におけるヒアルロン酸とキトサンとの組合せが提案された。このマイクロ微粒子組合せの価値は、Lim et al.,J.Controll.Rel.,66,2000,281-292およびLim et al.,Int.J.Pharm.,23,2002,73-82の研究で明らかにされている。以前の文献のように、これらのマイクロ粒子は溶媒エマルジョン蒸発技術で製造されていた。
【0021】
文献US2001053359は、抗ウイルスおよび生体付着物質の鼻内投与のための組合せであって、異なる物質、特にゼラチン、キトサンまたはヒアルロン酸からなり、それらの混合物ではなく、溶液またはマイクロ小球の形で提供される組合わせについて提案している。マイクロ粒子は、噴霧および溶媒エマルジョン/蒸発のような古典的技術によって取得される。取得されると、マイクロ粒子は常用の化学的架橋法(ジアルデヒドおよびジセトン)で硬化される。
【0022】
文献US2002197328もまた、噴霧によりヒアルロン酸から製造されたマイクロ粒子に関する。上記との差異は、高分子量ヒアルロン酸マイクロ粒子(1,000,000ドルトン以上)に関する点である。請求の範囲では1ミクロン未満の粒子の製造を記載しているが、上記粒子が取得される噴霧プロセスではナノ粒子を得ることはできない。
【0023】
さらに最近では、US20030026844が、表面にイオン官能基を有する、サイズ10nm〜500μmの孔質粒子に関するものである。これらの粒子は1種以上の生体ポリマー(ヒアルロン酸およびキトサンのような既定の多糖類を含む)から形成されている。この文献によると、イオン化しうる界面活性剤の本質的要素として配合するおかげで、イオン基が形成されている。溶媒抽出または蒸発、噴霧、コアセルベーションおよび超臨界流体の使用のような様々な方法が、これら粒子の形成のために開示されている。請求の範囲では1ミクロンより小さなサイズの粒子の製造を記載しているにもかかわらず、上記文献で開示された方法ではナノ粒子を得ることはできない。
【0024】
文献WO‐A‐99/47130は、ポリカチオン(キトサンであってもよい)およびポリアニオンからの高分子電解質錯体と、少くとも1種の生物活性成分とを有するナノ粒子に関するものであり、該ナノ粒子は、形成中および後において、高分子電解質錯体を少くとも1種の架橋剤(グリオキサール、TSTUまたはEDAP)でさらに処理することによって得られる。硫酸ポリシランがポリアニオンとして記載されている。
【0025】
文献US6132750は、表面に少くとも1種のタンパク質(コラーゲン、ゼラチン)および多糖(特にキトサンまたはグリコサミノグリカン)を含有した、サイズの小さな粒子(マイクロおよびナノ粒子)の製造に関する。それらは、アミドまたはエステル結合、および場合により無水物結合を形成する多官能性アシル化剤を用いて、界面架橋により形成されている。金属イオンと反応しうる遊離基がその表面上に留めることがその目的である。
【0026】
文献WO9918934は、正または負荷電ポリマーから形成される核と、双方の組合せのコーティング物質とからなるナノ粒子に関する。超音波がその製法に適用されねばならない。粒子は、架橋剤(デキストランポリアルデヒド、光架橋ポリマーまたはグルタミルトランスフェラーゼ)との反応により安定化されている。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、塩形のヒアルロン酸、好ましくは該ポリマーのナトリウム塩と、天然源の正荷電ポリマー、好ましくはキトサンとを含んでなり、それが脱プロトン形のヒアルロン酸と静電気的に相互作用している、ナノ粒子に関する。処方物中には、カチオン分子とイオン的に架橋してゲル化を引き起こしうる、好ましくはリン酸塩類から選択されるポリアニオン塩が配合されている。
【0028】
ナノ微粒子形中における、ヒアルロン酸とキトサンとの組合せから、治療分野において高ポテンシャルな系が得られる。さらに両ポリマーは反対電荷を有しているため、それらからイオン錯体を生ずる可能性が知られている。錯体とナノ粒子との差異も知られており、錯体と比較したナノ粒子の利点はそれらの組成およびサイズに関する優れた制御性および大きな安定性である。系に安定性を付与するため、それらは化合物間で化学結合を形成する物質を加えることにより架橋されていた。
【0029】
上記のことから、本発明は、2種のポリマー、ヒアルロン酸およびキトサンの組合せに関し、ナノ微粒子系を得るために、コラーゲンおよびゼラチンのような天然源の他の正荷電ポリマーの代わりにキトサンを用いることができる。同様に、制御された形でナノ粒子の形成を行い、有機溶媒および極端な条件の使用なしで済ませられる、ナノ粒子の製造方法が見出された。したがって、これにより、系中に配合された分解しやすい高分子の完全性は保たれる。望ましいサイズ範囲でナノ粒子の形成を行うためにはそこへ、ヒアルロン酸とのイオン相互作用とともに、正荷電ポリマーのゲル化をもたらす、ポリアニオン塩の添加を行う。したがって、それは、成分間で共有結合を形成させる必要性なく、制御的に生じて系に安定性を付与する、イオンゲル化/相互作用法(ionic gelling/interaction)である。これらナノ粒子は、それらの生体適用に際して、他の大きなサイズの系(マイクロ粒子、ペレット、ヴェーダ(veda)、フィルム、スポンジ…)よりも利点を有する。実際に、薬物放出系と生体表面との相互作用がそのサイズにより大きく左右されることが知られている。即ち、ナノ粒子は上皮および粘膜を通過して薬物輸送系として働くことができるが、マイクロ粒子はその能力を有しない。これら系の生体分布もまた、サイズにより大きく左右される。薬物放出コロイド系において近年得られた知見から、コロイド系(1ミクロン未満)とマイクロ微粒子系には明確な境界を設けられた。
【発明の具体的説明】
【0030】
本発明は、ヒアルロン酸塩と、該グリコサミノグリカンと相互作用しうる他の親水性ポリマーとから形成されるナノ粒子の製造について開示しており、上記相互作用は、静電気相互作用によって系を架橋しうるポリアニオン塩により媒介されている。この粒子を得る方法は、有機溶媒および過酷な条件の使用を避けられる簡易な方法である。さらに、上述の通り、架橋プロセスはイオン性であるため、粒子を得る上でいかなるタイプの化学反応も行う必要がない。
【0031】
第一の態様によれば、本発明は、疎水性または親水性にかかわらず活性成分を配合した、直径1μm未満のヒアルロン酸ナノ粒子を得る方法に関する。この方法は下記の工程からなる:
a)好ましくは0.50〜5mg/mLの濃度で、ヒアルロン酸塩の水溶液を調製し、
b)好ましくは0.50〜5mg/mLの濃度で、カチオン性ポリマーの水溶液を調製し、
c)好ましくは0.25〜1.00mg/mLの濃度で、ポリアニオン塩をヒアルロン酸塩の溶液に加え、
d)b)およびc)において得られた溶液を攪拌混合し、自然発生的(spontaneously)にナノ粒子を得ること。
【0032】
1種または数種の活性成分は、溶液a)、b)またはc)のうち1つに、あるいはd)において得られたナノ粒子の懸濁液に溶解させ、ナノ粒子に吸着させる。
【0033】
第二の態様によれば、本発明は、上記方法により得られる、組成、性質および形態に関して特定の特徴を有したナノ粒子であって、ヒアルロン酸、正荷電ポリマー、ポリアニオン塩および高分子を含んでなるナノ粒子に関する。
【0034】
さらなる態様によれば、本発明は、各々1種以上の医薬または化粧品上許容される賦形剤とともに、上記ナノ粒子を含んでなる医薬または化粧品組成物に関する。
【0035】
好ましい態様によれば、ヒアルロン酸塩はそのナトリウム塩である。好ましくは、正荷電ポリマーはキトサンであるが、コラーゲンまたはゼラチンを用いることも可能である。
【0036】
さらに、好ましくは、ポリアニオン塩はリン酸塩類から選択され、そのモデルとしては、構造上多数の負電荷を有するため、トリポリリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0037】
粒子は、様々な割合で上記溶液を混合することにより形成される。したがって、ナノ粒子は、1:0.5:0.1〜1:10:2、好ましくは1:1:0.15〜1:10:1.5の範囲で変動しうる、様々なヒアルロン酸:正荷電ポリマー:アニオン塩成分の割合を有するものである。
【0038】
ヒアルロン酸粒子を製造する方法には、それらの保管に際してそれらを保存し、それらの初期の特徴を保つことを目的として、追加の凍結乾燥工程を含めてもよい。凍結乾燥形では、ナノ粒子は長期間にわたり保存でき、必要時に、最適量の水を単に加えることで、容易に再生される。ポリマー鎖間で接近が生じて、それがポリマー交差の増加を促し、しかも架橋剤としてのポリアニオンの効果を増強することから、この方法を用いると、ナノ粒子の架橋度は増加する。
【0039】
粒子凍結乾燥のためには、ヒアルロン酸が凍結保護効果を発揮するため、必要とされるのは、少量の糖を加えることのみである。
【0040】
この追加工程によれば、本発明はまた、凍結乾燥形の、ヒアルロン酸ナノ粒子および正荷電ポリマー、およびそれらを少くとも1種の医薬または化粧品上許容される賦形剤とともに含有する医薬または化粧品組成物に関する。
【0041】
ここで開示されたナノ粒子は懸濁および凍結乾燥形の双方で適切な安定性を有し、かかる理由からそれらは長期間にわたり保存しうる。さらに、特定の生体液中のそれらの安定性についても研究したところ、それらがヒトまたは動物への投与後もナノ微粒子形で留まることが保証された。
【0042】
さらに、組成中にヒアルロン酸を含んでなるナノ粒子は、ムチン(粘膜に存在するタンパク質)と相互作用しうる能力のため、優れた粘膜付着性を有することが証明されており、それらを医薬または化粧品系として非常に有用な系にする。それらは様々な経路で投与され、中でも粘膜投与および関節内注射による投与が非常に重要である。
【0043】
ヒアルロン酸を含んでなるナノ粒子に配合される活性成分は、処方の意図する治療用途に適した薬物療法性を有している。配合される高分子のヒトまたは動物に対する効果は、投与後に病気を治癒、軽減または予防する目的を有するものである。
【0044】
本発明によれば、ヒアルロン酸ナノ粒子およびキトサンのようなカチオン性ポリマーはその溶解特徴にかかわらず、高分子を配合する上で適している。会合能力は配合される高分子に依存するが、一般的には親水性高分子および顕著な疎水性のもの双方で高い。活性成分には、薬物、ビタミン、ワクチンなど、または化粧剤が挙げられる。
【0045】
ナノ粒子に配合すべき高分子は、その製造に用いられる2水溶液のうち一方に予め溶解される。親油性の高分子の場合には、製造技術に変更が加えられたが、それによると、好ましくは約1:1の割合の水および水混和性有機溶媒(好ましくはアセトニトリル)の混合液の少量に、活性成分が溶解され、次いで、これを前記水溶液のうち一方に加え、最終溶液中における有機溶媒の重量濃度は必ず10%未満とする。
【0046】
本発明で開示されたナノ粒子には2種以上の高分子を配合する可能性があり、これら高分子は同一溶液にまたは双方別々に溶解されるが、この点は、化学的または物理的いずれのタイプの相互作用も生ずることを避ける上で、配合される高分子に依存する。
【0047】
ヒアルロン酸ナノ粒子は1μm未満の平均直径を有し、したがって、ナノ粒子の定義、ポリマーから形成された1μm未満のサイズを有するコロイド系に該当する。そのサイズは、それらを構成するヒアルロン酸の量、および架橋させる系で用いられるポリアニオン塩の量、およびそれらが含有する活性成分の性質に応じて変わる。
【0048】
その表面電荷は、それらを構成するポリマーの様々な割合に応じて変わる。さらに詳しくは、ナノ粒子の表面電荷は、それらを構成するヒアルロン酸の量および架橋ポリアニオン塩に応じて、程度が異なる。多くの場合、生物の生体表面、特に粘膜は負に荷電しているため、表面電荷は正の値を有することが有利である。したがって、ナノ粒子の正電荷は相互作用に有利であり、結果的に、それは標的組織で作用するナノ微粒子系に高分子を加えておく上で都合がよい。
【0049】
ナノ粒子はヒトまたは動物への活性物質の放出制御用または遅延型放出用の手段であることから、これらナノ粒子の形成に際して含有されるヒアルロン酸の量は、さらに配合される高分子の放出を調節すると思われる。
【0050】
次いで、本発明の特徴および利点のさらなる理解のために、決して制限を加えることなく、上記の説明を補完する一連の実施例について言及する。
【実施例】
【0051】
下記例の説明に際して、一連の略記が用いられている:
HANa:ヒアルロン酸ナトリウム塩
CS:キトサン
TPP:トリポリリン酸ナトリウム
FITC‐BSA:蛍光で標識されたアルブミン
CsA:シクロスポリンA
SLF:擬似涙液
【0052】
例1
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。ヒアルロン酸塩およびトリポリリン酸ナトリウムの溶液をキトサン溶液へ磁気攪拌しながら加え、それを半時間維持し、安定なナノ微粒子形に向けて系の完全な生成を行う。製造した時点でそれらの平均直径を測定し、それらの表面電荷(ゼータ電位)および生産収率(パーセンテージで表示され、配合ポリマーの重量に対するナノ粒子の重量を考慮する)を計算する。表1並びに図1、2および3は、HA‐Na、CsおよびTPPの割合に従いパラメーターとして得られた値を示している。
【0053】
【表1】
【0054】
例2
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。次いで、親水性分子をその組成物中に配合したが、上述の目的からFITC‐BSAを選択した。それはpH(キトサン溶液の場合には3、およびヒアルロン酸塩およびトリポリリン酸ナトリウム溶液の場合には8〜8.5)のため、両溶液中で負荷電の高分子であり、この理由から、粒子形成に際して妨害の出現を避けるためにヒアルロン酸とともに配合した。
【0055】
ポリマー重量に対して30%の理論荷電を確立し、本発明による方法に従い製造した後に、封入効率を決定した(λ=494nmで、可視分光法により遊離タンパク質を評価する)。その平均直径も測定した。生産収率は、配合されたポリマーおよびタンパク質の重量を考慮して調べた。この最後の情報を考慮して、粒子の真の荷電容量を決定することができた。
【0056】
【表2】
【0057】
例3
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。次いで、疎水性分子をその組成物中に配合したが、そのために、特に適度な温度において水に事実上不溶性の免疫調節剤、ポリペプチド シクロスポリンAを選択した。製造方法は本発明で既に開示されたものであって、1つの修正を加えたものであり、高分子を10mg/mLの濃度で50%(V/V)アセトニトリル/水溶液に溶解させる。次いで、少量のこの溶液約200μLをキトサン溶液へ加え、その後直ちに、ヒアルロン酸塩および架橋剤を含有した溶液を加える。薬物封入体はナノ結晶の形をとり、そのため第二溶液の添加工程は速やかであり、高分子を沈降させずに、ナノ粒子の配合を促進させる。
【0058】
ポリマー重量に対するCsAの理論荷電が25%と確立し、本発明の方法に従い製造された時点で、封入効率を決定した(λ=200nmで、紫外線分光法により遊離ポリペプチドを評価する)。その平均直径も測定した。生産収率は、配合されたポリマーおよびポリペプチドの重量を考慮して決定した。この最後の情報を考慮して、粒子の真の荷電容量を決定することができた。
【0059】
【表3】
【0060】
例4
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤かつトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。経時的に系生成の情報を得る目的で、1月間にわたり、粒径および表面電荷測定を行った。このために、ヒアルロン酸量の異なる、種々の処方物を選択した。理論的HANa/CS/TPP割合は1/2/0.4(黒ひし形)、1/2.5/0.25(黒丸)、1/3/0.5(黒四角)、1/3/0.66(−)および1/10/1.5(黒三角)であった。図4および5に記載された結果は、保存中に、パラメーター、サイズおよびゼータ電位のわずかな変動を示した。
【0061】
例5
ヒアルロン酸、キトサンおよびTPPのナノ粒子を本発明に従い製造した。疎水性分子CsAを例3に記載された形で配合した。次いで、経時的な系安定性を調べるために、1週間にわたりナノ粒子の直径を測定した。いかなる結晶成長も観察されなかったことから、薬物は粒子に取り込まれ、ナノ結晶の形で沈降しないことも確認された。ナノ粒子量に対して25%の割合でCsAの荷電量が定められた。粒子形成ポリマーおよび架橋剤の割合、HANa/CS/TPPは、1/2/0.4(黒ひし形)および1/3/0.5(黒四角)であった。
【0062】
例6
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリポリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。1/2/0.4HANa/CS/TPPの割合を用い、これらの粒子のおいて、凍結乾燥工程で用いられた凍結保護剤のタイプがサイズに及ぼす効果を調べた。凍結乾燥させる懸濁液中のナノ粒子濃度に及ぼす影響もまた評価した。予備アッセイ後、2種の糖、グルコースおよびトレハロースを凍結保護剤として選択し、それらの濃度を一定に保ち、5%(w/V)とした。
【0063】
例7
本発明の方法で製造され、5%(w/V)グルコースの存在下で凍結乾燥されたナノ粒子を、pH7.4でありかつ高いイオン濃度を有するSLF中でインキュベートした。選択された処方物は前例と同様であった。粒子の平均直径測定を24時間行った。
【0064】
例8
ナトリウム塩形で、カチオン性ポリマーがキトサンでありかつ架橋剤がトリリン酸ナトリウムであるヒアルロン酸ナノ粒子を、前記方法に従い製造した。製造された処方物は組成HANa/CS/TPP:1/2/0.4のものであり、凍結保護剤として5%グルコースを用い48時間かけて凍結乾燥させた。次いで、これについて、SLFおよび4%ムチン溶液を用いて、粘膜付着試験を行った。
【0065】
ヒアルロン酸は、ゲル形で粘弾性挙動を有するポリマーである。コロイド懸濁液の場合、レオロジー挙動はより複雑である。粘性は粒子の表面の性質に大きく影響される。
【0066】
ナノ粒子の粘膜付着性を、50%:ナノ粒子/ムチン、ナノ粒子/SLFおよびムチン/SLFで調製された混合物から調べた。弾性モジュール値(G′)及びビスコースモジュール(G″)を観察すると、他の2種の合計から見て、第一の混合物に関する相乗作用の存在は、系が粘膜付着性を有することを示している。用いられた数学式は以下であった:
G′(′)=G′(′)ナノ粒子−4%ムチン−(G′(′)ナノ粒子−SLF+G′(′)4%ムチン−SLF)
【0067】
弾性モジュールおよびビスコースモジュールの結果は図10および11に示される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径1μm未満の、少くとも1種の活性成分の投与用のナノ粒子を得る方法であって、
a)ヒアルロン酸塩の水溶液を調製し、
b)カチオン性ポリマーの水溶液を調製し、
c)ポリアニオン塩を前記ヒアルロン酸塩溶液に加え、
d)前記b)およびc)において得られた溶液を攪拌混合し、自然発生的にナノ粒子を得ることを含んでなり、
前記a)、b)またはc)において得られた溶液のうち1つに、あるいは前記d)において得られたナノ粒子の懸濁液に、前記活性成分を溶解させ、ナノ粒子に吸収させる、方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸塩溶液が0.50〜5mg/mLの濃度で調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマー溶液が0.5〜5mg/mLの濃度で調製される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アニオン塩が0.25〜1.00mg/mLの濃度で加えられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記活性成分が高分子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子が親油性を有する場合、該高分子を、溶液a)またはb)のうち一方に配合する前に、水および水混和性有機溶媒の混合液に溶解し、最終溶液中における有機溶媒の濃度を10重量%未満とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒がアセトニトリルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸塩がナトリウム塩である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カチオン性ポリマーがキトサンである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーがコラーゲンまたはゼラチンである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリアニオン塩がトリポリリン酸ナトリウムである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
最終溶液におけるヒアルロン酸:カチオン性ポリマー:ポリアニオン塩の割合が1:0.5:0.1〜1:10:2である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ヒアルロン酸:カチオン性ポリマー:ポリアニオン塩の割合が1:1:0.15〜1:10:1.5である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記d)の後に、得られたナノ粒子を少量の糖の存在下で凍結乾燥する追加工程e)を含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記e)の後に、凍結乾燥ナノ粒子を再生する追加工程f)を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかにより得られる、活性成分の投与用のナノ粒子。
【請求項17】
ヒアルロン酸塩、カチオン性ポリマー、ポリアニオン塩および活性成分を含んでなる、活性成分の投与用のナノ粒子。
【請求項18】
前記活性成分が高分子である、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項19】
前記ヒアルロン酸塩がナトリウム塩である、請求項17または18に記載のナノ粒子。
【請求項20】
前記カチオン性ポリマーがキトサンである、請求項17〜19のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項21】
前記カチオン性ポリマーがコラーゲンまたはゼラチンである、請求項17〜19のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項22】
前記ポリアニオン塩が三リン酸ナトリウムである、請求項17〜21のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項23】
請求項16〜22のいずれか一項に記載されたナノ粒子を含んでなる、医薬または化粧品組成物。
【請求項24】
粘膜における局所または非経口投与用の医薬組成物の製造における、請求項16〜22のいずれか一項に記載されたナノ粒子の使用。
【請求項1】
直径1μm未満の、少くとも1種の活性成分の投与用のナノ粒子を得る方法であって、
a)ヒアルロン酸塩の水溶液を調製し、
b)カチオン性ポリマーの水溶液を調製し、
c)ポリアニオン塩を前記ヒアルロン酸塩溶液に加え、
d)前記b)およびc)において得られた溶液を攪拌混合し、自然発生的にナノ粒子を得ることを含んでなり、
前記a)、b)またはc)において得られた溶液のうち1つに、あるいは前記d)において得られたナノ粒子の懸濁液に、前記活性成分を溶解させ、ナノ粒子に吸収させる、方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸塩溶液が0.50〜5mg/mLの濃度で調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマー溶液が0.5〜5mg/mLの濃度で調製される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アニオン塩が0.25〜1.00mg/mLの濃度で加えられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記活性成分が高分子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子が親油性を有する場合、該高分子を、溶液a)またはb)のうち一方に配合する前に、水および水混和性有機溶媒の混合液に溶解し、最終溶液中における有機溶媒の濃度を10重量%未満とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒がアセトニトリルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸塩がナトリウム塩である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カチオン性ポリマーがキトサンである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーがコラーゲンまたはゼラチンである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリアニオン塩がトリポリリン酸ナトリウムである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
最終溶液におけるヒアルロン酸:カチオン性ポリマー:ポリアニオン塩の割合が1:0.5:0.1〜1:10:2である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ヒアルロン酸:カチオン性ポリマー:ポリアニオン塩の割合が1:1:0.15〜1:10:1.5である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記d)の後に、得られたナノ粒子を少量の糖の存在下で凍結乾燥する追加工程e)を含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記e)の後に、凍結乾燥ナノ粒子を再生する追加工程f)を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかにより得られる、活性成分の投与用のナノ粒子。
【請求項17】
ヒアルロン酸塩、カチオン性ポリマー、ポリアニオン塩および活性成分を含んでなる、活性成分の投与用のナノ粒子。
【請求項18】
前記活性成分が高分子である、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項19】
前記ヒアルロン酸塩がナトリウム塩である、請求項17または18に記載のナノ粒子。
【請求項20】
前記カチオン性ポリマーがキトサンである、請求項17〜19のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項21】
前記カチオン性ポリマーがコラーゲンまたはゼラチンである、請求項17〜19のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項22】
前記ポリアニオン塩が三リン酸ナトリウムである、請求項17〜21のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項23】
請求項16〜22のいずれか一項に記載されたナノ粒子を含んでなる、医薬または化粧品組成物。
【請求項24】
粘膜における局所または非経口投与用の医薬組成物の製造における、請求項16〜22のいずれか一項に記載されたナノ粒子の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−520424(P2007−520424A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516221(P2006−516221)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/ES2004/000284
【国際公開番号】WO2004/112758
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(504355789)アドバンスド、イン、ビートロウ、セル、テクノロジーズ、ソシエダッド、リミターダ (9)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED IN VITRO CELL TECHNOLOGIES, S.L.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/ES2004/000284
【国際公開番号】WO2004/112758
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(504355789)アドバンスド、イン、ビートロウ、セル、テクノロジーズ、ソシエダッド、リミターダ (9)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED IN VITRO CELL TECHNOLOGIES, S.L.
【Fターム(参考)】
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