説明

ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法

【課題】簡便且つ高収率で高品質なヒアルロン酸類を工業的規模で分離精製する方法を提供する。
【解決手段】疎水性膜からなるろ材にヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を接触させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液からヒアルロン酸及び/又はその塩(以下、総称してヒアルロン酸類という)を分離精製する方法に関する。ヒアルロン酸は化粧品の保湿剤の他、眼科、整形外科、皮膚科等の医薬品として用いられている。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は動物組織、例えば、工業規模ではニワトリのトサカ等から抽出する方法や、微生物を用いた発酵法により製造されている(ジェービー・ウールコック(J.B.Woolcock)、ジャーナル・オブ・ジェネラルマイクロバイオロジー,85,372−375(1976))。
【0003】
抽出法や発酵法によって製造されるヒアルロン酸には蛋白質や発熱性物質等が不純物として存在し、これらを分離除去して高純度の製品を得る方法が検討されている。特に発熱性物質の除去は非常に困難であり(特開昭54−67024号公報)、医薬品としても使用できる高純度な製品を得る方法の開発が待たれている。
【0004】
例えば、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩との錯体を形成させ不純物を分離した後、フロリジルのようなケイ酸マグネシウムのカラムに不純物を吸着させる方法(公表特許昭62−501471号公報)がある。また、アニオン交換樹脂を用いて、発酵液から発熱性物質や蛋白質等を除去するヒアルロン酸の精製法も開示されている(特開昭63−12293号公報)。しかし、これらの方法では、操作が煩雑で収率が低いなどの課題があった。
【0005】
本発明者らは、ヒアルロン酸類を高純度に精製する方法について検討し、発熱性物質、蛋白質、核酸等を除去するためにヒアルロン酸類含有液をアルミナに接触させる方法(特開平1−313503号公報)、及びヒアルロン酸類含有液をアルミナに接触させた後、シリカゲルに接触させる方法(特開平2−103204号公報)について提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−67024号公報
【特許文献2】公表特許昭62−501471号公報
【特許文献3】特開昭63−12293号公報
【特許文献4】特開平1−313503号公報
【特許文献5】特開平2−103204号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジェービー・ウールコック(J.B.Woolcock)、ジャーナル・オブ・ジェネラルマイクロバイオロジー,85,372−375(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
工業的規模で医薬品として使用できる高純度のヒアルロン酸類を得るには、上記の方法においても、
(i)不純物のアルミナ、シリカゲルヘの吸着量が少ないので、アルミナやシリカゲルを多量に消費する。
(ii)アルミナ、シリカゲルは再生使用することができない。
(iii)ヒアルロン酸類の回収率が低い。
などの課題が残っていた。
【0009】
本発明の目的は、簡便且つ高収率で高品質なヒアルロン酸類を工業的規模で分離精製する方法を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、ヒアルロン酸類含有液から発熱性物質やタンパク質等の不純物を効率よく分離除去し、高純度のヒアルロン酸類を精製する方法について種々検討した結果、疎水性膜からなるろ材にヒアルロン酸類含有液を接触させることにより、発熱性物質や蛋白質等を効率よく吸着除去できることを見いだし本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、(1)疎水性膜からなるろ材にヒアルロン酸類含有液を接触させることを特徴とするヒアルロン酸類の精製法、(2)ヒアルロン酸の塩がナトリウム塩である(1)記載の方法、(3)ヒアルロン酸類含有液のpHが3〜12である(1)又は(2)記載のヒアルロン酸類の精製法、(4)ヒアルロン酸類含有液の温度が0〜80℃である(1)、(2)又は(3)記載のヒアルロン酸類の精製法、(5)ヒアルロン酸類含有液の濃度が0.1〜l0g/lである(1)、(2)、(3)又は(4)記載のヒアルロン酸類の精製法、(6)疎水性膜のろ材がポリビニリデンジフロライドである(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載のヒアルロン酸類の精製法、(7)疎水性膜のろ材がポリテトラフロロエチレンである(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載のヒアルロン酸類の精製法、(8)疎水性膜のろ材がポリエチレンである(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載のヒアルロン酸類の精製法、(9)疎水性膜のろ材がポリプロピレンである(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載のヒアルロン酸類の精製法、(10)ろ材構造が表面ろ過構造である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)又は(9)記載のヒアルロン酸類の精製法、(11)ろ材構造が深層ろ過構造である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)又は(9)記載のヒアルロン酸類の精製法、(12)ろ材形状がシート形状である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)又は(11)記載のヒアルロン酸類の精製法、(13)ろ材形状がカートリッジ形状である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)又は(11)記載のヒアルロン酸類の精製法、(14)ろ材形状がホローファイバー形状である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)又は(11)記載のヒアルロン酸類の精製法、(15)疎水性膜のろ過精度が0.1μm〜10μmの範囲である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)又は(14)記載のヒアルロン酸類の精製法、(16)ヒアルロン酸類含有液を疎水性膜に通液する速度が有効ろ過表面積1m当たり500リl/hr以下である(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)又は(15)記載のヒアルロン酸類の精製法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、発熱性物質、タンパク質、微生物などの除去された高品質なヒアルロン酸類を簡便、高収率かつ工業的規模で製造することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、さらに本発明について詳しく説明する。
本発明に用いられるヒアルロン酸類はヒアルロン酸、ヒアルロン酸の塩、又はヒアルロン酸とヒアルロン酸の塩との混合物を包含している。
【0014】
本発明に用いる疎水性膜は、ポリビニリデンジフロライド、ポリテトラフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。又、疎水性膜の材質や構造等にとらわれるものではない。ろ材構造として、表面ろ過構造や深層ろ過構造等が使用できる。また、形状はシートやカートリッジ、ホローファイバー等、どのような形でもよい。
【0015】
疎水性膜のろ過精度は0.1μm〜10μmの範囲で使用できるが、ウイルスやバクテリアの完全除去を目的とする場合には0.45μm以下のろ過精度が好ましい。疎水性膜として、デュラポア(ミリポア社製)、エンフロン(日本ポール社製)、マイクロフローフイルター(キュノ社製)、ステラポア(三菱レーヨン社製)、等が使用できるが、これらに制限されるものではない。
【0016】
本発明で使用するヒアルロン酸類含有液は動物組織から抽出したものでも、また、発酵法で製造したものでも使用できる。発酵液を用いる場合には、既知の方法、例えば、遠心分離やろ過処理等で除菌した液を使用することが望ましい。場合によっては、透析処理による低分子化合物の除去、精密ろ過処理による水不溶微粒子の除去等の操作を行ってもよく、アルコール等の水溶性有機溶媒を添加してヒアルロン酸類を析出したものを使用してもよい。また、膜の負荷を軽減する目的でアルミナや活性炭で処理してもよい。
【0017】
ヒアルロン酸類含有液の疎水性膜処理を行うにあたり、含有液のpHは3〜12、特に4〜11、温度は0〜80℃、ヒアルロン酸類濃度は10g/l以下、特に5g/l以下が好ましい。含有液のpHが3未満の場合にはの場合にはヒアルロン酸類のゲル化が生じ、12以上の場合には、ヒアルロン酸が徐々に分解し、分子量が低下する。温度が80℃を越えると処理中にヒアルロン酸類が徐々に分解し、分子量が低下する。ヒアルロン酸類濃度が10g/lを越えると溶液粘度が高くなり疎水性膜処理が難しくなる。ヒアルロン酸類含有液の粘度を下げる目的で食塩等の塩を共存させてもよい。
【0018】
本発明の処理方法として、通常、疎水性膜にヒアルロン酸類含有液を1回通液するだけで充分であるが、必要なら反復処理してもよい。また、疎水性膜は1段、あるいは複数個を直列に接続して使用することもできる。
【0019】
ヒアルロン酸類含有液を疎水性膜に通液する速度はヒアルロン酸類含有液の性状や疎水性膜の種類により異なり一律に規定することが出来ないが、例えば、表面ろ過膜の場合、有効ろ過表面積1m当たり500l/min以下が好ましい。一般に、通液速度の遅い方がよい結果を与える場合が多い。又、疎水性膜処理を行うにあたり、膜前処理として、エタノールを通液し親水化処理することが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を比較例及び実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
比較例1
ストレプトコッカス・エキFM−100 (微工研寄第9027号) を用いて培養した培養液45リットルを純水25リットルに希釈し (ヒアルロン酸ナトリウム濃度2.2g/L) 、遠心分離で菌体を除き、限外ろ過 (分画分子量1万)した。このヒアルロン酸ナトリウム溶液に、食塩2.1kgを溶解し、pH7に調整後、エタノール210リットルで析出、24リットルで洗浄し、40℃で真空乾燥してヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0022】
実施例1
比較例1で得られたヒアルロン酸ナトリウム溶液を、エタノールで親水化したろ過精度0.45μmのデュラポア・メンブレンフィルターに、220L/hr/mで通液した。このヒアルロン酸ナトリウム溶液に、食塩2.1kgを溶解し、pH7に調整後、エタノール210リットルで析出、24リットルで洗浄し、40℃で真空乾燥してヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0023】
実施例2
比較例1で得られたヒアルロン酸ナトリウム溶液を、エタノールで親水化したろ過精度0.20μmのデュラポア・メンブレンフィルターに、220L/hr/mで通液した。得られた液は、実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0024】
実施例3
比較例1で得られたヒアルロン酸ナトリウム溶液を、エタノールで親水化したろ過精度0.45μmのデュラポア・メンブレンフィルターと0.20μmのデュラポア・メンブレンフィルターを直列に接続し、220L/hr/mで通液した。得られた液は、実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0025】
実施例4
比較例1で得られたヒアルロン酸ナトリウム溶液を、エタノールで親水化したろ過精度0.20μmのエンフロン・メンブレンフィルターに、220L/hr/mで通液した。得られた液は、実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0026】
実施例5
比較例1で得られたヒアルロン酸ナトリウム溶液を、エタノールで親水化したろ過精度0.20μmのマイクロフローフィルターカートリッジに、220L/hr/mで通液した。得られた液は、実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
測定方法
(1)タンパク質:精製ヒアルロン酸を0.1N水酸化ナトリウムに溶かし、ローリー法でタンパク質含量を測定した。
(2)核酸:0.1%ヒアルロン酸ナトリウムの260nmにおける吸光度を測定した。
(3)エンドトキシン:生化学工業社製トキシカラーシステムにより比色分析した。
(4)極限粘度:ヒアルロン酸ナトリウムを0.02%となるように、0.2M塩化ナトリウムに溶解し、30℃における極限粘度を測定した。
(5)無菌試験:ヒアルロン酸ナトリウムを0.1%となるように、ペプトン緩衝液に溶解し、日本薬局方、一般試験法の無菌試験・メンブレンフィルター法で行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性膜からなるろ材にヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を接触させることを特徴とするヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項2】
ヒアルロン酸の塩がナトリウム塩である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液のpHが3〜12である請求項1又は2記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項4】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の温度が0〜80℃である請求項1、2又は3記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項5】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液の濃度が0.1〜10g/lである請求項1、2、3又は4記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項6】
疎水性膜のろ材がポリビニリデンジフロライドである請求項1、2、3、4又は5記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項7】
疎水性膜のろ材がポリテトラフロロエチレンである請求項1、2、3、4又は5記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項8】
疎水性膜のろ材がポリエチレンである請求項1、2、3、4又は5記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項9】
疎水性膜のろ材がポリプロピレンである請求項1、2、3、4又は5記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項10】
ろ材構造が表面ろ過構造である請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項11】
ろ材構造が深層ろ過構造である請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項12】
ろ材形状がシート形状である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項13】
ろ材形状がカートリッジ形状である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項14】
ろ材形状がホローファイバー形状である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項15】
疎水性膜のろ過精度が0.1μm〜10μmの範囲である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。
【請求項16】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を疎水性膜に通液する速度が有効ろ過表面積1m当たり500l/hr以下である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法。