説明

ヒアルロン酸担持ナノ粒子及びヒアルロン酸含有複合粒子並びにそれらを用いた化粧料

【課題】皮膚内部へのヒアルロン酸の浸透効果と徐放効果を兼備した生体適合性のヒアルロン酸担持ナノ粒子及びヒアルロン酸含有複合粒子、並びにそれらを用いた保湿効果の高い化粧料を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸担持ナノ粒子1は、生体適合性高分子2で形成されたナノ粒子にヒアルロン酸4aが内包されている。さらにナノ粒子表面はカチオン性高分子5で被覆され、ヒアルロン酸4bが静電気的に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性ナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方にヒアルロン酸を担持させたヒアルロン酸担持ナノ粒子及びこれを複合化して成るヒアルロン酸含有複合粒子、並びにそれらを用いた化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、D−グルクロン酸及びN−アセチルグルコサミンが交互に結合したヘテロ多糖類である。このヒアルロン酸は、皮膚の保湿力を高め、肌のハリを改善する機能、あるいは関節軟骨の潤滑剤としての機能を有するが、加齢と共に減少することが知られている。そのため、加齢によるヒアルロン酸の減少を抑制し、体外から補充するための各種化粧料並びに医薬品の開発が活発に行われている。
【0003】
しかしながら、ヒアルロン酸は体内の消化酵素(アミラーゼ)で分解されるために経口BA(bioavailability;生物学的利用能)が著しく低く、また親水性の高分子物質であるために皮膚からの吸収もほとんど期待されない。そのため、加齢によるヒアルロン酸の減少を十分に抑制可能な製剤はほとんど実用化されていないのが現状である。
【0004】
近年では、皮膚からのヒアルロン酸の吸収性を高めるために、分子量を数万まで小さくした低分子ヒアルロン酸が開発されている。しかし、ヒアルロン酸の分子量と体内での水分保持能は相関することから、この方法では十分な水分保持効果が期待されず、高分子量のヒアルロン酸を効果的に皮膚内へ送達する手法の開発が求められていた。
【0005】
そこで、薬物が患部に到達するまで吸収・分解されないようにして、効果的に薬物を投与する技術、いわゆるDrug Delivery System(以下、DDSという)を用いてヒアルロン酸を目的の部位に供給する方法が考えられる。DDSにおいて中心となる技術の一つは、微量の薬物を生体適合性の高分子の内部または表面に担持させ、細胞への薬物導入効率の高い数十から数百ナノメートル程度のナノ粒子とする技術である。この薬物含有ナノ粒子は、目標とする患部まで薬物を安定して確実に運搬するとともに、高分子の種類や投与後の経過時間で薬物の放出速度(徐放性)をコントロールすることにより、患部に到達した時点で薬物を放出することができ、注射剤や経口剤としての用途の他、従来、皮膚深部まで十分浸透させることが困難であった外用剤にも高い効果を発揮する。
【0006】
ヒアルロン酸を用いたDDSとして、例えば特許文献1には、活性成分及びカチオン性調整成分を含む固体スフェア(微粒子)を用いて毛髪や皮膚へ局所的に活性成分を適用するための制御放出システムが開示されており、ナノスフェア内に封入する活性成分の一例としてヒアルロン酸が記載されている。また、特許文献2〜4には、ヒアルロン酸を乳酸.グリコール酸共重合体と結合させたものをナノ粒子の基材として用いる方法が開示されている。さらに、特許文献5にはヒアルロン酸そのものをナノ粒子の基材として用いる方法が開示されている。
【特許文献1】特表2006−510580号公報
【特許文献2】特表2004−521152号公報
【特許文献3】再表2005−23906号公報
【特許文献4】再表2006−95668号公報
【特許文献5】特表2005−500991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒアルロン酸の保湿効果をより確実に発現させるためには、作用部位までのヒアルロン酸の確実な到達に加えて、ヒアルロン酸を到達直後から所定期間に亘って放出させる、いわゆる即効性と徐放性とを有することが望ましい。しかし、上記特許文献1においては、頭髪用ナノスフェア及び衣類用ナノスフェアをヘアケア製品及び洗剤へ導入し、自然乾燥、或いはブローやアイロンの熱によりナノスフェアをバーストさせて内部の香料を放出させる実施例が記載されているが、ナノスフェアの皮膚内部への浸透及びナノスフェアからのヒアルロン酸の放出については何ら記載されていなかった。また、特許文献2〜5の方法はヒアルロン酸をナノ粒子の基材に用いるものであって、生理活性成分として用いるものではなく、ヒアルロン酸の保湿成分としての機能や効果については何ら記載されていない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、皮膚内部へのヒアルロン酸の浸透効果と徐放効果を兼備した生体適合性のヒアルロン酸担持ナノ粒子及びヒアルロン酸含有複合粒子、並びにそれらを用いた保湿効果の高い化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及び乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかで形成されたナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方にヒアルロン酸を担持したヒアルロン酸担持ナノ粒子である。
【0010】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、前記ヒアルロン酸の平均分子量が1,000,000〜5,000,000であることを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、前記ヒアルロン酸の平均分子量が1,000,000〜2,000,000であることを特徴としている。
【0012】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、前記ナノ粒子が、乳酸・グリコール酸共重合体で形成されることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、前記ナノ粒子が、カチオン性高分子で被覆されていることを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、前記カチオン性高分子がキトサンであることを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子を結合剤と共に複合化して成るヒアルロン酸含有複合粒子である。
【0016】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸含有複合粒子において、前記結合剤に他の生理活性成分を封入したことを特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子を配合して成る化粧料である。
【0018】
また本発明は、上記構成のヒアルロン酸含有複合粒子を配合して成る化粧料である。
【0019】
また本発明は、上記構成の化粧料において、前記ヒアルロン酸担持ナノ粒子若しくはヒアルロン酸含有複合粒子を液体に分散させて成ることを特徴としている。
【0020】
また本発明は、上記構成の化粧料において、前記液体が乳液であることを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成の化粧料において、前記液体に他の生理活性成分を配合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の構成によれば、ヒアルロン酸がポリ乳酸、ポリグリコール酸、及び乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかで形成されたナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方に担持されるため、粒子の大径化を伴わずにトータルでのヒアルロン酸含有量を高めた安全性の高いヒアルロン酸担持ナノ粒子が提供される。また、ヒアルロン酸をナノ粒子の内部及び表面の両方に担持させた場合、ナノ粒子表面からのヒアルロン酸の拡散とナノ粒子内部からのヒアルロン酸の放出により、投与直後から一定期間に亘ってヒアルロン酸を放出可能なヒアルロン酸担持ナノ粒子が提供される。
【0023】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、ヒアルロン酸の平均分子量を1,000,000〜5,000,000とすることにより、ナノ粒子の調製過程におけるヒアルロン酸の排除体積効果を抑制することができる。その結果、平均粒子径が数百nm以下で皮膚浸透性が高く、且つ十分な水分保持能を有するヒアルロン酸を内包したナノ粒子の調製が可能となる。
【0024】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第2の構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、ヒアルロン酸の平均分子量が1,000,000〜2,000,000とすることにより、平均粒子径が200nm以下の極めて皮膚浸透性に優れたヒアルロン酸を内包したナノ粒子の調製が可能となる。
【0025】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、乳酸・グリコール酸共重合体を用いてナノ粒子を形成することにより、生体への刺激・毒性が低く、生体内での分解性に優れるとともに長期間の保存が可能なヒアルロン酸担持ナノ粒子を提供できる。また、分子量や共重合体中の乳酸及びグリコール酸の含有量を選択することで、調製されたナノ粒子の皮膚浸透性やヒアルロン酸の放出速度を制御することができる。
【0026】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、カチオン性高分子でナノ粒子表面を被覆することによって、ヒアルロン酸をナノ粒子の表面に静電気的に担持可能となる。また、ナノ粒子を被覆するカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するヒアルロン酸と相互作用し、貧溶媒中へのヒアルロン酸の漏出を抑制してナノ粒子への内包率も高めることができる。
【0027】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第5の構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子において、カチオン性高分子としてキトサンを用いることにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いヒアルロン酸担持ナノ粒子となる。
【0028】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子を結合剤と共に複合化してヒアルロン酸含有複合粒子とすることにより、使用前までは取り扱いが容易で、使用時には再分散可能な複合粒子となる。また、複合化されたナノ粒子の分散性、耐熱性も向上する。
【0029】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成のヒアルロン酸含有複合粒子において、結合剤に他の生理活性成分を封入することにより、ナノ粒子から放出されるヒアルロン酸とは別に、皮膚浸透直後に複合粒子表面から溶け出す生理活性成分を即効的に作用させることができる。
【0030】
また、本発明の第9の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成のヒアルロン酸担持ナノ粒子を配合することにより、ヒアルロン酸担持ナノ粒子を皮膚深部まで浸透させ、粒子内部或いは表面に担持されたヒアルロン酸を放出させて保湿効果を有効に発現できる化粧料が提供される。
【0031】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第7又は第8の構成のヒアルロン酸含有複合粒子を配合することにより、ヒアルロン酸担持ナノ粒子を皮膚深部まで浸透させ、粒子内部或いは表面に担持されたヒアルロン酸を放出させて保湿効果を有効に発現できる化粧料が提供される。また、取り扱い性、分散性、及び耐熱性に優れた複合粒子を使用するため、化粧料の製造性やユーザの使用性の面でも有利となる。
【0032】
また、本発明の第11の構成によれば、上記第9又は第10の構成の化粧料において、ヒアルロン酸担持ナノ粒子若しくはヒアルロン酸含有複合粒子を液体に分散させることにより、ヒアルロン酸担持ナノ粒子の保湿効果を有効に発現させることができる。また、分散液と粒子粉末とを別々の容器に保存しておき、使用直前に分散液と粉末とを所定量混合して使用することにより、長期間の保存が可能で使用性にも優れた化粧料となる。
【0033】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第11の構成の化粧料において、上記液体を乳液とすることにより、ヒアルロン酸担持ナノ粒子の皮膚浸透効果をより高めることができる。なお、本明細書において乳液とは、水溶性成分と油溶性成分を配合した液体をいう。乳液中では、油溶性成分は、界面活性剤などにより乳化された状態で存在する。
【0034】
また、本発明の第13の構成によれば、上記第11又は第12の構成の化粧料において、液体に他の生理活性成分を配合することにより、ナノ粒子の皮膚深部への浸透に伴い、液体中の生理活性成分もナノ粒子と共に皮膚深部まで送達されるため、より多くの生理活性成分を皮膚深部へ供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明のヒアルロン酸担持ナノ粒子は、保湿効果を有するヒアルロン酸を生体適合性高分子で形成されたナノ粒子に内包或いはナノ粒子表面に担持したものである。このナノ粒子が毛穴や皮膚表面から皮膚の深部にまで浸透することにより、保湿成分であるヒアルロン酸又はその誘導体を皮膚深部にまで到達させるとともに、皮膚深部においてナノ粒子から徐々にヒアルロン酸を放出させることができるため、特に皮膚の保湿を目的とする化粧料等の原料として好適に用いることができる。
【0036】
図1は、本発明の第1実施形態に係るヒアルロン酸担持ナノ粒子の構造を示す模式図である。ヒアルロン酸担持ナノ粒子1は、生体適合性高分子2が多数凝集して形成されており、粒子表面がポリビニルアルコール3で被覆されている。また、生体適合性高分子2のマトリクス中にヒアルロン酸4aが内包されている。なお、以下の説明においてはナノ粒子に内包されるヒアルロン酸をヒアルロン酸4aとしている。
【0037】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包するヒアルロン酸を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材としては、特に乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を好適に用いることができる。PLGAは種々の薬物を内包可能であり、薬効を保持したまま長期間保存できることが知られている。さらに、内包される薬物の種類やPLGAの分子量等にもよるが、PLGAの加水分解・長期半減期の特徴から、数時間から数ヶ月単位の徐放ができると考えられる。
【0038】
PLGAの平均分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、ナノ粒子の調製の容易さや調製されたナノ粒子の皮膚浸透性、及び皮膚内部での分解性を考慮すれば15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸1/3であることが好ましい。
【0039】
また、水溶性のヒアルロン酸を内包する場合、PLGAの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾しておくと、内包量を増やせるため好ましい。生体適合性高分子としては他に、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。また、これらのコポリマーであるアスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)やアスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)を用いても良く、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0040】
次に、生体適合性ナノ粒子に担持されるヒアルロン酸について説明する。ヒアルロン酸はグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種であり、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖単位が連結した構造をしている。ヒアルロン酸は皮膚内部の水分をゲル化して、コラーゲン組織を支えるエラスチンと結びつける作用があり、これによって皮膚の乾燥を防ぐと考えられている。そこで、ヒアルロン酸を皮膚内部に供給することにより、皮膚の保湿力を高めてハリと潤いのある皮膚を維持することができる。
【0041】
また、ヒアルロン酸の分子量が大きいほど水分保持能は向上するが、平均分子量が600万〜700万と極めて大きいヒアルロン酸を用いた場合、後述するナノ粒子の調製過程において粒子の著しい凝集が発生する。これは、ヒアルロン酸が鎖長の異なる分子集団であり、ナノ粒子に内包されなかった高分子量(長鎖長)のヒアルロン酸が粒子同士の凝集を誘発したものと推定される。
【0042】
さらに、溶液中で大きな体積を占める高分子では、その分子構造や分子量などにより溶液中で立体障害を示し、他の分子が入り込めない空間を形成する(排除体積効果)。この効果は高分子の立体構造中の分岐数や分子量が大きくなるにつれて増加すると考えられるため、平均分子量の大きいヒアルロン酸をPLGA等の生体適合性高分子で形成されたナノ粒子に内包させることも困難となる。
【0043】
そこで、平均分子量が100万〜500万程度のヒアルロン酸を用いることにより、ナノ粒子の調製過程におけるヒアルロン酸の排除体積効果を無視できる程度まで抑制可能となり、平均粒子径が数百nm以下で皮膚浸透性が高く、且つ十分な水分保持能を有するヒアルロン酸担持ナノ粒子の調製が可能となる。特に、平均分子量が100万〜200万のヒアルロン酸を用いた場合、平均粒子径が200nm以下の極めて皮膚浸透性に優れたヒアルロン酸担持ナノ粒子の調製が可能となるためより好ましい。
【0044】
次に、ヒアルロン酸担持ナノ粒子の製造方法について説明する。ヒアルロン酸担持ナノ粒子の製造方法としては、ヒアルロン酸および生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒径を有する粒子に加工できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、本実施態様においては球形晶析法を好適に用いることができる。球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルション溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0045】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノ粒子(ナノスフェア)を製造する技術である。本法には、基材ポリマーとなる生体適合性高分子を溶解できる良溶媒と、これとは逆に生体適合性高分子を溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、生体適合性高分子を溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。以下、薬物としてヒアルロン酸を用い、生体適合性高分子として乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を用いた場合の操作手順を詳述する。
【0046】
まず、PLGAを良溶媒中に溶解後、PLGAが析出しないように、ヒアルロン酸溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAとヒアルロン酸を含む混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き(マランゴニ効果)、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルション滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルション内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルション滴内のPLGA並びにヒアルロン酸の溶解度が低下し、最終的に、ヒアルロン酸を内包した結晶粒子のPLGAナノ粒子が生成する(ナノ粒子形成工程)。
【0047】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮することなく、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、乾燥することで、ナノ粒子粉末を得る。
【0048】
上記ナノ粒子形成工程において使用する良溶媒および貧溶媒の種類は特に限定されるものではないが、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。このような貧溶媒としては、例えばポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられ、ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0049】
良溶媒としては、低沸点の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば、厚生労働省通知「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて(平成10年3月30日 医薬審第307号)」でクラス3に分類されるアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0050】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度についても、生体適合性高分子の濃度等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となるものの、乾燥後の水への再分散性が低下する。一方、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以下になると、貧溶媒中での分散性に悪影響を与える。そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2%程度がより好ましい。
【0051】
本発明で製造されるヒアルロン酸担持ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、一般に、毛穴の直径は200μm程度であるため、皮膚深部への浸透効果を高めるためには平均粒子径を300nm以下とすることが好ましい。また、皮膚細胞の大きさは15,000nm、皮膚細胞間隔は皮膚の浅い所と深い所でバラツキがあるが、70nm程度であると考えられ、細胞の脈動により皮膚細胞間隔が広がるため、平均粒子径が200nm程度であれば、細胞間隙ルート(皮膚角質細胞間隙)を通してナノ粒子の表皮や真皮への浸透がなされ、ヒアルロン酸を皮膚深部へと効果的に送達させることができる。一方、ナノ粒子の粒子径が小さくなるほどヒアルロン酸の内包率も低くなるため、平均粒子径は30nm以上とすることが好ましい。
【0052】
ナノ粒子へのヒアルロン酸の内包量は、ナノ粒子形成時に添加するヒアルロン酸量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類及び分子量等により調整可能である。ナノ粒子形成時に良溶媒に混合するヒアルロン酸量としては、生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001未満の場合、良溶媒中でのヒアルロン酸の濃度が低すぎてナノ粒子への内包率が低くなる。一方、1.0を超えると、ナノ粒子の形成が阻害される。
【0053】
また、ナノ粒子に内包されるヒアルロン酸は、水溶液中でアニオン分子として存在するアニオン性薬物であるため、上記ナノ粒子形成工程において貧溶媒にカチオン性高分子を添加することで、ナノ粒子へのヒアルロン酸の内包率を高めることができる。
【0054】
従来の球形晶析法を用いてアニオン性薬物を内包したナノ粒子を製造しようとすると、良溶媒中に分散混合した水溶性のアニオン性薬物が貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子だけが沈積するため、アニオン性薬物がほとんど内包されなかった。これに対し、上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面を被覆したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制できるものと考えられる。
【0055】
また、生体内の細胞壁は負に帯電しているが、従来の球形晶析法で製造されたナノ粒子の表面は、一般的に負のゼータ電位を有しているため、電気的反発力によりナノ粒子の細胞接着性が悪くなるという問題点があった。従って、本発明のようにカチオン性高分子を用いてナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させることは、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の接着性を増大させ、アニオン性薬物の細胞内移行性を向上させる観点からも好ましい。
【0056】
なお、ゼータ電位とは、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0057】
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)、細胞膜(生体膜)の構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性に優れたメタクリロイル基とを併せ持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン(MPC)を構成単位とする高分子に第4級アンモニウム塩等のカチオン基を結合させたカチオン性高分子(例えばMPCと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとのコポリマー)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0058】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合したカチオン性の天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いヒアルロン酸担持ナノ粒子を製造することができる。
【0059】
このようにして得られたナノ粒子をそのまま用いるか、或いは必要に応じて複合化する(複合化工程)。この複合化により、使用前まではナノ粒子が集まった取り扱いの容易な複合粒子となっており、使用時に水分に触れることでナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元可能となる。
【0060】
ナノ粒子の複合化方法としては、凍結乾燥法(例えば、乾燥棚式の凍結乾燥機(宝製作所社製)やナウタミキサNXV(ホソカワミクロン社製)を用いて真空凍結乾燥を行うこと)が好適に用いられる。また、流動層乾燥造粒法(例えば、アグロマスタAGM(ホソカワミクロン社製)を使用して流動造粒を行うこと)または乾式機械的粒子複合化法(例えば、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン社製)を使用して圧縮力および剪断力を加えること)により複合化しても良い。特に、粒子化する材料を含む混合物を流動ガス中に噴霧する流動層乾燥造粒法を用いた場合、時間と手間のかかる凍結乾燥工程を省略可能となり、複合粒子を容易に且つ短時間で製造できるため工業化にも有利となる。
【0061】
次に、ナノ粒子の表面にさらにヒアルロン酸を担持させる方法について説明する。ここでは、正のゼータ電位を有するナノ粒子表面へヒアルロン酸を静電気的に担持させる方法を例に挙げて説明する。
【0062】
ヒアルロン酸をナノ粒子表面へ静電気的に担持させるためには、ナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させておく必要がある。上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加すると、形成されたナノ粒子の表面がカチオン性高分子により修飾(被覆)され、ナノ粒子表面のゼータ電位が正となる。そこで、凍結乾燥によりナノ粒子を複合化する際に、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液にヒアルロン酸を添加することにより、負の電荷を持つアニオン分子となったヒアルロン酸が静電気的相互効果によりナノ粒子表面に所定量担持(外付け)される。
【0063】
図2は、ヒアルロン酸が粒子表面に静電気的に担持された第2実施形態に係るヒアルロン酸担持ナノ粒子の構造を示す模式図である。ナノ粒子1の表面はポリビニルアルコール3で被覆され、さらにその外側をカチオン性高分子5で被覆されており、カチオン性高分子5により正のゼータ電位を有している。ヒアルロン酸4は、ナノ粒子1に内包される(4a)とともに、粒子表面にも静電気的に担持されている。なお、図2ではナノ粒子表面に担持されるヒアルロン酸を4bとしている(図3においても同じ)。
【0064】
なお、カチオン性高分子の中でもカチオン性のより強いものを用いることにより、ゼータ電位がより大きな正の値となるため、ナノ粒子表面により多くのヒアルロン酸を担持可能になるとともに、ナノ粒子間の反発力が強くなってナノ粒子の安定性も高くなる。例えば、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることが好ましい。
【0065】
ナノ粒子表面へのヒアルロン酸の担持量は、カチオン性高分子の種類及び添加量や、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液中に添加するヒアルロン酸量の調整により変更可能である。ナノ粒子懸濁液中に添加するヒアルロン酸量としては、生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001未満の場合、ヒアルロン酸の濃度が低すぎてナノ粒子表面への担持率が低くなる。一方、1.0を超えると、静電気的に担持可能な量を超えてしまい、ナノ粒子表面へ担持されない余剰のヒアルロン酸が生じる。
【0066】
このように、ヒアルロン酸のナノ粒子への内包とナノ粒子表面への静電気的担持とを組み合わせることにより、先ずナノ粒子表面に担持されたヒアルロン酸、次いでナノ粒子に内包されたヒアルロン酸の順に放出される。従って、ヒアルロン酸の放出速度を2段階に制御可能となる。
【0067】
なお、凍結乾燥前のナノ粒子懸濁液に余剰のポリビニルアルコールやキトサンが残存していると、ポリビニルアルコールやキトサンと、ヒアルロン酸とが吸着してしまい、ヒアルロン酸を効率良くナノ粒子表面に担持できなくなる。そのため、溶媒留去工程の後でヒアルロン酸溶液を添加する前に、遠心分離操作によりポリビニルアルコールやキトサンを除去する工程(除去工程)を設けることが好ましい。
【0068】
特に、ポリビニルアルコールは親水性で吸湿性があるため、凍結乾燥後の複合粒子にポリビニルアルコールが過剰に含まれていると、複合粒子がベタついて品質が損なわれる。また、ポリビニルアルコールの添加量の増大と共に充填性(容器への充填のしやすさ)が悪くなる。さらに、ポリビニルアルコール特有の「糊」の機能のため、皮膚に塗布したときに肌の引張り感(つっぱり感)が強く出る。これらの不具合を解消するためにも除去工程を設けることが好ましい。
【0069】
具体的には、遠心分離操作で粒子を単離し、余剰のポリビニルアルコールを含む上澄み液を廃棄して精製水に置換し、再度遠心分離することでポリビニルアルコールを除去する方法が考えられる。
【0070】
なお、ここではヒアルロン酸が内包されたナノ粒子の表面にさらにヒアルロン酸を担持させる場合について説明したが、ナノ粒子形成工程においてヒアルロン酸を良溶媒へ添加せず、生体適合性高分子のみを凝集させて形成したナノ粒子の表面に上記方法を用いてヒアルロン酸を担持させても良い。
【0071】
次に、ヒアルロン酸担持ナノ粒子を結合剤と共に複合化させた複合粒子について説明する。ナノ粒子を結合剤と共に複合化することで、再分散性に加えて分散性、耐熱性にも優れた複合粒子とすることができる。また、結合剤中に生理活性成分を添加することにより、ナノ粒子を含む複合粒子に他の生理活性成分を担持させることもできる。図3は、ヒアルロン酸担持ナノ粒子を結合剤と共に複合化したヒアルロン酸含有複合粒子の構造を示す模式図である。複合粒子6は、ナノ粒子1を結合剤7により複合化したものであり、結合剤7には生理活性成分8が封入されている。
【0072】
結合剤は、複合化の際にナノ粒子同士を隔てる層を形成して複合粒子の分散性、耐熱性を向上させる。また、ナノ粒子に内包されるヒアルロン酸は水溶性であるため、一旦内包されたヒアルロン酸がナノ粒子表面へ漏出すると、周囲に存在する水に再溶解する。この水を凍結乾燥等により除去すると、その分だけヒアルロン酸が減少して含有率にばらつきが発生してしまう。そこで、有機または無機の物質を再分散可能に複合化させ、ヒアルロン酸の溶解した水を除去せずにそのままナノ粒子と共に乾燥させることが好ましい。
【0073】
このような結合剤としては、例えばマンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリスリトール、マルトース、キシリトール等の糖アルコールやショ糖、アクリル系ポリマーやエチルセルロース等の高分子化合物粉末等が挙げられる。なお、結合剤として結晶性の弱い糖アルコールを用いると、複合化の際にアモルファス化してしまい良好に粒子化できなくなる場合がある。そのため、結晶性の強いマンニトールを用いることが好ましい。
【0074】
また、結合剤中に他の生理活性成分を封入することにより、ナノ粒子から放出されるヒアルロン酸とは別に、皮膚浸透直後に複合粒子表面から溶け出す生理活性成分を即効的に作用させることができる。このような構成とすることで、複合粒子にさらに即効性を与えられる。
【0075】
結合剤に封入される生理活性成分としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK、ビタミンP、ビタミンU、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、α−リポ酸、オロット酸及びこれらの成分又は誘導体である酢酸レチノール、酢酸リボフラビン、ピリドキシンジオクタノエート、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸リン酸エステル、DL−トコフェロール−L−アスコルビン酸リン酸ジエステルジカリウム、パントテニルエチルエーテル、D−パントテニルアルコール、アセチルパントテニルエチルエーテル、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール等のビタミンまたはビタミン誘導体、或いはVC−PMG(水溶性リン酸アスコルビルMg)、AA2G(アスコルビン酸グルコシド)、パンテノール(水溶性ビタミンB5)、L−システイン等の水溶性のプロビタミン類が挙げられる。
【0076】
このようにして製造した、ヒアルロン酸担持ナノ粒子若しくはヒアルロン酸含有複合粒子を化粧料の原料として使用することで、有効な保湿効果を得ることができる。本発明の化粧料の剤型としては、乳液、化粧水、スキンクリーム等のスキンケア化粧料が挙げられる。化粧料中へのナノ粒子若しくは複合粒子の配合割合は、要求される保湿効果や化粧料の剤型等に応じて任意に設定することができる。
【0077】
なお、PLGAは水分と長時間触れると加水分解されてしまい、ナノ粒子の運搬性能が失われてしまう。そこで、このような化粧料として使用する場合は、ナノ粒子粉末とそれを分散させる液体(以下、分散液という)とを別々の容器に充填して保存しておき、使用直前にナノ粒子粉末と分散液とを所定量混合して分散液として使用することが好ましい。
【0078】
分散液としては、ナノ粒子が瞬時に均一分散するとともに、人体に対し安全性の高いものを用いる必要があり、水や水及びエタノールの混合液が好適に用いられる。なお、水に対するエタノールの容量比が1/2以上になるとナノ粒子の凝集が起こるため、1/10から3/10の範囲とすることが好ましい。また、分散液として乳液を使用することにより、ナノ粒子の皮膚浸透効果をさらに高めることができる。
【0079】
このようにして得られた化粧料を皮膚に塗布すると、ナノ粒子は毛穴や皮膚表面から皮膚深部まで効率よく浸透する。即ち、皮膚表面に塗布されたナノ粒子を含有する液滴は、ナノ粒子により表面張力が低下しているため界面エネルギーが下がる方向(皮膚内部へ浸透する方向)に移動し易くなる。さらに、液滴内のナノ粒子又は水に対し皮膚内部からの吸着も起こるため、ナノ粒子は皮膚深部へと効率よく送達されることとなる。結果、ナノ粒子に担持されたヒアルロン酸が皮膚内部において投与直後から所定期間に亘って徐放される。
【0080】
また、分散液や乳液中に他の生理活性成分を配合しておくことで、ナノ粒子の皮膚深部への浸透に伴い、ナノ粒子表面に吸着されたローション中の生理活性成分も同時に皮膚深部まで送達されるため、より多くの生理活性成分を皮膚深部へ供給することができる。配合される生理活性成分としては、結合剤に封入される生理活性成分と同様のものの他、褐藻エキス、ゴボウエキス、アルテア根エキス、セリン、ベタイン、ソルビトール、トレハロース、グリシン、アラニン、プロリン、トレオニン、アルギニン、リシン、グルタミン酸、マルトデキストリン、スクワラン、イノシトール、ビオチン、酵母エキス等の保湿成分が挙げられる。
【0081】
その他、本発明の化粧料には、タルク、マイカ、セリサイト、酸化チタン、無水珪酸、カオリン、酸化亜鉛、雲母チタン、酸化鉄等の無機粉末、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル酸樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ジビニルベンゼン、スチレン共重合体等の各種樹脂粉末或いはそれらの2種以上から成る共重合樹脂粉末、アセチルセルロース、多糖類、タンパク質等の有機粉末、赤色202号、赤色226号、黄色205号、黄色401号、青色1号、青色204号、青色404号等の顔料粉末、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸亜鉛等の金属石鹸、ジメチコン、メチコン、シクロメチコン、ポリエーテル変性シリコン、フッ素変性シリコン等のシリコン化合物、トリオクタノイン、ジカプリル酸ネオペンチルグリコール、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、イソステアリン酸水添ヒマシ油等のエステル油、ミネラルオイル、ワセリン、ポリブテン等の鉱物油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ等のロウ、ホホバ油、オリーブ油、アロエ、ベニバナ等の天然系原料等の、任意の無機又は有機原料、或いは通常化粧料に配合される任意の成分、例えばエタノールや多価アルコール等のアルコール類、界面活性剤、油脂、紫外線吸収剤、着色料、香料、防腐剤等を、本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。
【0082】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、本発明のヒアルロン酸担持ナノ粒子の製造方法及び作用効果について、実施例、比較例、及び試験例により更に具体的に説明する。
[ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子の調製]
【実施例1】
【0083】
4重量%のポリビニルアルコール(PVA EG05、日本合成化学工業社製)水溶液400mL中に2重量%キトサン(日油社製)水溶液10gを混合し貧溶媒とした。また、乳酸・グリコール酸共重合体(平均分子量20,000、重合比75:25、和光純薬工業社製PLGA7520)2gをアセトン215mL、エタノール50mLの混合液に溶解させ、ここに0.5重量%ヒアルロン酸(平均分子量2,000,000、マルハニチロ社製バイオヒアルロン酸)水溶液30mLを添加し、均一に混合し良溶媒とした。
【0084】
貧溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で良溶媒を滴下した。滴下終了後5分間攪拌したのち、減圧下200rpmで攪拌しながら4時間で有機溶媒を留去した。次に、遠心分離操作によって過剰のポリビニルアルコール及びキトサンを除去し、得られたナノ粒子懸濁液に0.1重量%ヒアルロン酸水溶液45mLを添加した。その後、約1日かけて凍結乾燥を行いヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子の凍結乾燥粉末2.2gを得た。
【0085】
得られたナノ粒子を水中へ再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法(測定装置:MICROTRAC 9340−UPA(商品名)、日機装社製)により測定したところ195nmであった。また、凍結乾燥後の粒子表面のゼータ電位をゼータ電位計(ZETASIZER Nano−Z(商品名)、Malvern Instruments 社製)を用いて測定したところ−63mVであった。さらに、紫外可視分光光度計(V−530(商品名)、日本分光社製、測定波長270nm)を用いて粒子中のヒアルロン酸含有率(PLGAナノスフェアに対するヒアルロン酸の重量比)を定量したところ3.2重量%であった。
【実施例2】
【0086】
平均分子量が1,000,000であるヒアルロン酸を用いた以外は実施例1と同様の手順により、ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子を調製した。得られたナノ粒子を水中へ再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法により測定したところ180nmであった。
【実施例3】
【0087】
平均分子量が5,000,000であるヒアルロン酸を用いた以外は実施例1と同様の手順により、ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子を調製した。得られたナノ粒子を水中へ再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法により測定したところ350nmであった。
【比較例1】
【0088】
平均分子量が6,000,000であるヒアルロン酸を用いた以外は実施例1と同様の手順により、ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子を調製した。その結果、貧溶媒中に良溶媒を滴下する工程で粒子の凝集が発生し、ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子が得られなかった。
[乳液の調製]
【実施例4】
【0089】
ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子を分散させる乳液の処方を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
この乳液には、ヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子を良好に分散させることができるため、ナノ粒子粉末と乳液とを別々の容器に充填しておくことにより、用時分散型の化粧料としての応用が可能となった。なお、乳液中に配合される成分の種類や配合量については一例であり、目的に応じて適宜変更可能である。
[皮膚培養モデルを用いた皮膚浸透・滞留効果の評価]
【試験例1】
【0092】
実施例1において調製したヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子の皮膚浸透・滞留効果を、三次元人工培養ヒト皮膚細胞(TESTSKIN LSE−high(商品名)、東洋紡社製。以下、皮膚モデルと略す)を用いて評価した。なお、試験液としては、精製水、ヒアルロン酸水溶液(以下、HA水溶液と略す)、ヒアルロン酸担持ナノ粒子分散液(ヒアルロン酸担持ナノ粒子を精製水中に粒子濃度1.0重量%で分散させた液。以下、HAナノ粒子分散液と略す)の3種類を用いた。なお、HA水溶液及びHAナノ粒子分散液中のヒアルロン酸濃度はいずれも3.2×10-2重量%とした。試験方法を以下に示す。
【0093】
1)図4に示すようなフランツ型拡散セル10(有効透過面積:0.64cm2)のジャケット11内に恒温水(35±0.5℃)を循環させた。
2)フランツ型拡散セル10のレシーバー部12をPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4、5.2±0.1mL)で満たし、ドナー部13とレシーバー部12の間に直径24mmの皮膚モデル14を、組織側(角膜側)がドナー側、ポリカーボネート膜側(真皮層側)がレシーバー側となるように挿入した。
3)ドナー部13とレシーバー部12とをクランプで挟み皮膚モデル14を固定した後、レシーバー部12内のPBSをマグネティックスターラーで緩やかに攪拌しながらドナー部13に試験液を投与した(各試験区につきn=5)。
4)24時間後に皮膚モデル14を拡散セル10から取り出し、精製水で洗浄した。
5)皮膚モデル14、及びレシーバー部12内の液中に含まれるヒアルロン酸を定量し、各試験区について平均値を算出した。ヒアルロン酸の定量にはHA定量キット(生化学工業社製)を用い、ヒアルロン酸結合性タンパク質を利用した阻害法により定量した。結果を図5に示す。
【0094】
図5に示すように、皮膚モデル内に浸透して滞留したヒアルロン酸量(グラフの淡色部分)は、HA水溶液投与群及びHAナノ粒子分散液投与群でいずれも約450〜500ngであった。一方、ドナー部から皮膚モデルに浸透してレシーバー部に透過したヒアルロン酸量(グラフの濃色部分)は、HA水溶液投与群では871ng、HAナノ粒子分散液投与群では1187ngであった。
【0095】
ここで、皮膚モデルには元々ヒアルロン酸が含まれているため、試験液として精製水を用いた場合にも皮膚モデル14、及びレシーバー部12内の液中からヒアルロン酸が検出されている。そのため、HA水溶液及びHAナノ粒子分散液を用いた場合の検出量から精製水を用いた場合のヒアルロン酸の検出量(475ng)を差し引いた量が実際にドナー部から皮膚モデルを透過したヒアルロン酸量であると推定される。
【0096】
従って、HA水溶液投与群では871−475=396(ng)、HAナノ粒子分散液投与群では1187−475=712(ng)のヒアルロン酸がドナー部から皮膚モデルを透過したと考えられる。この結果より、HAナノ粒子分散液投与群ではHA水溶液投与群に比べて良好な皮膚浸透性を示すことが明らかとなった。
【試験例2】
【0097】
試験例1と同様の装置及び操作手順により、試験液としてHAナノ粒子分散液とヒアルロン酸担持ナノ粒子配合乳液(ヒアルロン酸担持ナノ粒子を実施例4の乳液中に粒子濃度0.69重量%で配合した液。以下、HAナノ粒子乳液と略す)の2種類を用いた場合のヒアルロン酸担持PLGAナノ粒子の皮膚浸透・滞留効果を比較した。なお、HAナノ粒子分散液及びHAナノ粒子乳液中のヒアルロン酸濃度はいずれも3.2×10-2重量%とした。結果を図6に示す。
【0098】
図6に示すように、皮膚モデルに浸透してレシーバー部に透過したヒアルロン酸量(グラフの濃色部分)は、HAナノ粒子分散液投与群及びHAナノ粒子乳液投与群のいずれも約200ngであり顕著な差はなかった。一方、皮膚モデル内に滞留したヒアルロン酸量(グラフの淡色部分)は、HAナノ粒子分散液投与群では約400ng、HAナノ粒子乳液投与群では約800ngであった。試験例1において精製水を用いた場合の皮膚モデル内でのヒアルロン酸の滞留量は僅か(100ng以下)であったことから、HAナノ粒子乳液投与群ではHAナノ粒子分散液投与群に比べて良好な皮膚滞留性を示すことが明らかとなった。
【0099】
以上のことから、ヒアルロン酸をPLGAナノ粒子に担持することで皮膚内部への浸透性、滞留性が亢進することが確認された。また、これらの効果はHAナノ粒子分散液投与群に比べてHAナノ粒子乳液投与群の方が高く、ナノ粒子を精製水に分散させて用いるよりも乳液とした方が好適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、ヒアルロン酸がナノ粒子内部または表面の少なくとも一方に担持され、化粧料の原料として好適に利用可能なヒアルロン酸担持ナノ粒子が提供される。特に、水溶性薬物であるヒアルロン酸のトータルでの含有率を高めることができる。また、ヒアルロン酸担持ナノ粒子を形成する材料として、生体への刺激・毒性が低く、投与後分解して代謝されるPGA、PLA、及びPLGAのいずれかを用いるので、人体への高い安全性を確保することができる。
【0101】
また、ヒアルロン酸の分子量が大きい場合は排除体積効果によりナノ粒子への内包が困難となるが、平均分子量が1,000,000〜5,000,000のヒアルロン酸を用いることで、皮膚浸透性が高く、且つ十分な水分保持能を有するヒアルロン酸内包ナノ粒子を調製可能となる。特に、平均分子量が1,000,000〜2,000,000のヒアルロン酸を用いた場合、平均粒子径が200nm以下の極めて皮膚浸透性に優れたヒアルロン酸内包ナノ粒子を調製可能となる。
【0102】
また、ナノ粒子表面をキトサン等のカチオン性高分子で被覆し、ヒアルロン酸のナノ粒子への内包とナノ粒子表面への静電気的担持とを組み合わせることにより、ヒアルロン酸の放出速度を2段階に制御できる。さらに、貧溶媒中へのヒアルロン酸の漏出を抑制してナノ粒子への内包率も高めることができる。
【0103】
また、ヒアルロン酸担持ナノ粒子を結合剤と共に複合化してヒアルロン酸含有複合粒子としておけば、複合粒子の分散性、耐熱性が向上するとともに、一旦ナノ粒子に内包されたヒアルロン酸の粒子表面への漏出を防止できる。また、結合剤中に生理活性成分を配合しておくことで、結合剤に封入された生理活性成分の溶出による即効性も期待できる。
【0104】
そして、使用直前に複合粒子を液中に所定量混合して分散させ、化粧料として使用することで有効な保湿効果を生じる。また、液中にも生理活性成分を配合しておけば、ナノ粒子表面に吸着されてナノ粒子と共に皮膚深部まで送達されるので、作用機序の異なるより多くの生理活性成分を皮膚深部へ供給できる。さらに、皮膚表面に作用するような生理活性成分を配合しておけば、これらの成分による皮膚表面への即効的な効果を確保しつつ、皮膚深部においてはナノ粒子からのヒアルロン酸の徐放により長期間に亘る保湿効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】は、本発明の第1実施形態に係るヒアルロン酸担持ナノ粒子を示す模式図である。
【図2】は、ヒアルロン酸が粒子表面に静電気的に担持された本発明の第2実施形態に係るヒアルロン酸担持ナノ粒子を示す模式図である。
【図3】は、他の生理活性成分が結合剤に封入された本発明のヒアルロン酸含有複合粒子を示す模式図である。
【図4】は、試験例1及び2で用いたフランツ型拡散セルの概略図である。
【図5】は、試験例1において皮膚モデルに浸透・滞留したヒアルロン酸量を示すグラフである。
【図6】は、試験例2において皮膚モデルに浸透・滞留したヒアルロン酸量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0106】
1 ヒアルロン酸担持ナノ粒子
2 生体適合性高分子
3 ポリビニルアルコール
4a ヒアルロン酸(内包)
4b ヒアルロン酸(外付け)
5 カチオン性高分子
6 複合粒子
7 結合剤
8 生理活性成分
10 フランツ型拡散セル
11 ジャケット
12 レシーバー部
13 ドナー部
14 皮膚モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及び乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかで形成されたナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方にヒアルロン酸を担持したヒアルロン酸担持ナノ粒子。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸の平均分子量が1,000,000〜5,000,000であることを特徴とする請求項1に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸の平均分子量が1,000,000〜2,000,000であることを特徴とする請求項2に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、乳酸・グリコール酸共重合体で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、カチオン性高分子で被覆されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子。
【請求項6】
前記カチオン性高分子がキトサンであることを特徴とする請求項5に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子を結合剤と共に複合化して成るヒアルロン酸含有複合粒子。
【請求項8】
前記結合剤に他の生理活性成分を封入したことを特徴とする請求項7に記載のヒアルロン酸含有複合粒子。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のヒアルロン酸担持ナノ粒子を配合して成る化粧料。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載のヒアルロン酸含有複合粒子を配合して成る化粧料。
【請求項11】
前記ヒアルロン酸担持ナノ粒子若しくはヒアルロン酸含有複合粒子を液体に分散させて成る請求項9又は請求項10に記載の化粧料。
【請求項12】
前記液体が乳液であることを特徴とする請求項11に記載の化粧料。
【請求項13】
前記液体に他の生理活性成分を配合したことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−150151(P2010−150151A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327363(P2008−327363)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【出願人】(508376546)サンライフ株式会社 (1)
【出願人】(599048638)CBC株式会社 (9)
【Fターム(参考)】