説明

ヒアルロン酸産生促進剤

【課題】 皮膚バリアー機能や関節機能の維持や調節に有効なヒアルロン酸産生を促進させる素材を提供すること。
【解決手段】 タウリンが、皮膚や関節においてヒアルロン酸の産生を促進する作用を有することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウリンを有効成分とする、皮膚バリアー機能あるいは関節機能を維持および調節するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は分子量が107Daにも及ぶ直鎖状のグリコサミノグリカンで、皮膚、血管、関節、眼球硝子体などに広く分布し、その高い水和能から、生体内で細胞間の水分保持や潤滑・緩衝作用を担っている。皮膚のヒアルロン酸は加齢により減少し、皮膚の乾燥、弾性の低下、シワの発生の原因となる。関節では滑膜細胞で産生されるヒアルロン酸が軟骨表面を覆い、関節機能の円滑な作動に役立っているが、変形性膝関節症や関節リウマチなどでは、関節液中のヒアルロン酸量が減少し、関節の機能異常が起こる。
【0003】
これまで皮膚のしわや関節炎など、ヒアルロン酸の減少に伴う疾患に対して、ヒアルロン酸の外用や経口投与、関節内注射として直接投与する治療方法が取られてきた。しかし、高分子のヒアルロン酸はほとんど経皮吸収されず、消化管では分解されてしまうため、十分な効果は得られない。また、関節内注射は医師の処方が必要であり、日常的に使用できる手法ではない。
【0004】
ヒアルロン酸産生を増加させる薬剤としてインターロイキン-1(IL-1)(非特許文献1)やインスリン様成長因子-1(IGF-1)(非特許文献2)などのサイトカインが報告されているが、いずれも医薬品や化粧品として簡便に利用できるものではない。そのため、安価で安全性が高く、生体内でヒアルロン酸産生を促進する薬剤の開発が望まれてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Postlethwaite AE et al. (1989) J Clin Invest 83:629-636
【非特許文献2】Honda A et al. (1989) Biochim Biophys Acta 1014:305-312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚バリアー機能や関節機能の維持や調節に有効なヒアルロン酸産生を促進させる素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはヒトの皮膚を構成する皮膚線維芽細胞と表皮細胞の細胞外マトリックス代謝の観点から、タウリンの作用を検討したところ、タウリンは両細胞においてヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)遺伝子の発現増加に起因するヒアルロン酸の産生促進作用を有することを見出した。タウリンはI型コラーゲンαIのmRNA発現には影響を与えなかったことから、タウリンはヒアルロン酸産生を特異的に促進する可能性が示唆された。男性ホルモンは細胞外マトリックス代謝に影響を与えることが知られているが、ヒト皮膚線維芽細胞においてヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の発現は、男性ホルモンである5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)により低下した。タウリンはこのHAS-2遺伝子発現の低下を濃度依存的に回復させることから、ヒト皮膚においてヒアルロン酸産生促進因子として機能することが示唆された。
【0008】
さらに本発明者らは、ヒト関節滑膜細胞の細胞外マトリックス代謝に対するタウリンの作用を検討したところ、皮膚線維芽細胞および表皮細胞と同様、タウリンがヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)遺伝子の発現増加に起因して、ヒアルロン酸の産生促進作用を有することを見出した。
【0009】
以上の知見から、本発明者らは、タウリンは皮膚や関節のヒアルロン酸産生を促進させることにより、皮膚バリアー機能や関節機能の維持・調節を担う生理活性物質として機能し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明はタウリンを有効成分とする、ヒアルロン酸の産生を促進するための組成物を提供する。また、本発明は、タウリンを有効成分とする、ヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を促進するための組成物を提供する。さらに、本発明は、タウリンを有効成分とする、男性ホルモンにより低下したヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を回復させるための組成物を提供する。
【0011】
本発明は、好ましい態様において、皮膚外用剤である、上記組成物を提供する。特に好ましい態様において、皮膚外用剤は、医薬組成物または化粧品である。
【0012】
また、本発明は、他の好ましい態様において、ヒアルロン酸の産生を促進するために用いられる旨の表示を付した、上記組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
タウリンを有効成分とする本発明の組成物は、皮膚細胞や関節細胞におけるヒアルロン酸の産生を促進する作用を有する。本発明の組成物におけるヒアルロン酸産生を促進する作用は、ヒアルロン酸合成酵素であるHAS-2遺伝子の発現促進を通じて発揮することができ、しかも、本発明の組成物は、男性ホルモンである5α-DHTの作用により低下したHAS-2遺伝子の発現を回復させることもできる。したがって、本発明の組成物は、皮膚の水分保持、皮膚の弾力性維持、皮膚老化に伴うシワの発生予防、変形性関節症や関節炎の治療または予防において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒト皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生に対するタウリンの促進作用を示すグラフである。「**」および「***」は、それぞれ未処理の細胞(Control)に対して、p<0.01およびp<0.001であることを示す。
【図2】ヒト皮膚線維芽細胞におけるHAS-2遺伝子の発現に対するタウリンの促進作用を示すグラフである。「**」および「***」は、それぞれ未処理の細胞(Control)に対して、p<0.01およびp<0.001であることを示す。
【図3】ヒト皮膚線維芽細胞におけるI型コラーゲンα1遺伝子の発現に対するタウリンの作用を示すグラフである。
【図4】5α-DHTによるヒト皮膚線維芽細胞のHAS-2遺伝子の発現抑制およびタウリンによる当該遺伝子の発現抑制の回復効果を示すグラフである。「**」は未処理の細胞(C)に対して、p<0.01であることを示す。「#」は5α-DHT処理した細胞に対して、p<0.05であることを示す。
【図5】ヒト表皮角化細胞におけるヒアルロン酸産生に対するタウリンの促進作用を示すグラフである。「*」は、未処理の細胞(Control)に対して、p<0.05であることを示す。
【図6】ヒト表皮角化細胞におけるHAS-2遺伝子の発現に対するタウリンの促進作用を示すグラフである。「**」は未処理の細胞(Control)に対して、p<0.01であることを示す。
【図7】ヒト関節角膜細胞におけるヒアルロン酸産生に対するタウリンの促進作用を示すグラフである。陽性対照薬物として、インターロイキン-1α(IL-1α)を使用した。「*」および「**」は、それぞれ未処理の細胞(Control)に対して、p<0.05およびp<0.01であることを示す。
【図8】ヒト関節滑膜細胞におけるHAS-2遺伝子の発現に対するタウリンの促進作用を示すグラフである。陽性対照薬物として、インターロイキン-1α(IL-1α)を使用した。「*」および「**」は、それぞれ未処理の細胞(Control)に対して、p<0.05およびp<0.01であることを示す。
【図9】タウリンを16週間飲水投与したマウス表皮におけるヒアルロン酸の増加作用を示すグラフである。「*」は、タウリン非投与群(Control)に対して、p<0.05であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、タウリンを有効成分とする、ヒアルロン酸の産生を促進するための組成物を提供する。また、本発明は、タウリンを有効成分とする、ヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を促進するための組成物を提供する。さらに、本発明は、タウリンを有効成分とする、男性ホルモンにより低下したヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を回復させるための組成物を提供する。なお、ヒトHAS-2は、Accession No. NM_005328.2として登録されている
本発明の組成物は、医薬組成物、化粧品、飲食品、あるいは研究目的(例えば、インビトロやインビボでの実験)に用いられる試薬の形態であり得る。本発明の組成物は、ヒアルロン酸の産生を促進する作用を有するため、例えば、皮膚のヒアルロン酸の産生を促進して、しわや肌荒れを予防若しくは改善するために投与もしくは摂取される医薬組成物や飲食品として、また、塗布などされる化粧品として好適に用いることができる。また、関節のヒアルロン酸の産生を促進して、関節炎、関節痛、変形性関節症、関節リウマチなどの関節障害や関節軟骨損傷を予防、改善、若しくは治療するために投与もしくは摂取される医薬組成物や飲食品として好適に用いることができる。
【0016】
さらに、本発明の組成物は、実験材料としての細胞や動物に適用して、ヒアルロン酸の産生を促進したりするための試薬としても好適に用いることができる。
【0017】
本発明の組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、液剤、ゲル剤、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、注射剤、坐剤などとして、非経口的または経口的に使用することができる。
【0018】
これら製剤化においては、タウリンは、医薬品、化粧品、あるいは飲食品として許容される媒体や担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤と、その利用目的に応じて適宜選択して、組み合わせることができる。
【0019】
本発明の組成物が皮膚外用剤の場合には、例えば、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、液剤、ゲル剤などとして提供することができる。皮膚外用剤の製品としては、例えば、皮脂の過剰産生やヒアルロン酸の減少に起因する症状や疾患の予防、改善、若しくは治療のための、医薬組成物や、ローション、クリーム、乳液、パック、ヘアトニック、シャンプー、リンス、石鹸、入浴剤等の化粧品(いわゆる薬用化粧品などの医薬部外品を含む)等が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、あるいは食品添加物、であり得る。飲食品の具体例としては、ドリンク類、スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ゼリー状飲料、機能性飲料等の液状食品;食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリンなどの油分を含む製品;飯類、麺類、パン類等の炭水化物含有食品;ハム、ソーセージ等の畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛等の水産加工食品;漬物等の野菜加工食品;ゼリー、ヨーグルト等の半固形状食品;みそ、発酵飲料等の発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓等の各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープ等のレトルト製品;インスタントスープ、インスタントみそ汁等のインスタント食品や電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。本発明における飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。
【0021】
本発明の組成物を生体に適用する場合、その適用量は、年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、化粧品、飲食品など)などに応じて、適宜選択される。本発明の組成物におけるタウリンの有効適用量は、通常、成人1日当たり100mg〜6000mgであり、好ましくは500mg〜3000mgである。
【0022】
本発明は、このように、本発明の組成物を対象に投与もしくは摂取させることを特徴とする、対象におけるヒアルロン酸の産生を促進する方法をも提供するものである。また、本発明の組成物を対象に投与することを特徴とする、対象におけるヒアルロン酸の産生の減少に起因する疾患の予防又は治療の方法をも提供するものである。
【0023】
本発明の組成物の製品(医薬品、化粧品、飲食品、試薬)またはその説明書は、ヒアルロン酸の産生を促進するために用いられる旨の表示、ヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を促進するために用いられる旨の表示、男性ホルモンにより低下したヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を回復させるために用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで「製品または説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物などに表示を付したことを意味する。また、これら表示においては、ヒアルロン酸の産生の減少に起因する疾患の予防又は治療のために用いられることに関する情報を含むことができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]ヒト線維芽培養細胞のヒアルロン酸産生に対するタウリンの作用
ヒト線維芽細胞(理化学研究所バイオリソースセンター)を100mmディッシュ(AGCテクノグラス)にて、10%仔ウシ血清(SAFCバイオサイエンス)を含むダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium:DMEM)にて培養した。ディッシュ当たりの細胞占有率が90%以上に達した時点で、0.25%トリプシンおよび0.02%EDTAを含むリン酸緩衝液を用いて細胞を剥離し、48ウェルマルチプレートまたは60mmディッシュ(AGCテクノグラス)にそれぞれ1x104細胞/ウェルまたは3x104細胞/ディッシュの細胞数で播種した。ウェルまたはディッシュ当たりの細胞占有率が90%以上に達した時点で、滅菌蒸留水に溶解したタウリン(最終濃度6.25〜50mM)、またはタウリンと5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)(最終濃度20μM)を培養液に添加し、24時間培養した。
【0026】
細胞からの全RNAの抽出は、細胞にアイソジェン(ニッポンジーン)を添加して細胞を溶解することにより実施した。細胞溶解液にクロロホルムを添加して混和し、遠心分離(10,000回転/分にて10分)後、水層を回収し同用量のイソプロパノールを添加して混和した。遠心分離(10,000回転/分にて10分)後、上清を除去し、沈殿したRNAを回収した。RNAには75%エタノールを添加して混和後、上清を除去し、RNAを風乾させた。抽出した全RNAは、核酸分解酵素を含有しない滅菌蒸留水に溶解し、260nmにおける吸光度を測定することにより、RNA量を定量した。
【0027】
培養液中に分泌されたヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ELISAキット(生化学バイオビジネス)により定量した。すなわち、培養液中のヒアルロン酸を、キットのマイクロプレート上に固相化されたヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)に結合させた後、ペルオキシダーゼ結合HABPを添加して反応させ、次いでtetramethylbenzidineおよび過酸化水素を加え、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。ヒアルロン酸量は標準ヒアルロン酸溶液を用いて同時に作成した検量線より算出した。
【0028】
細胞におけるヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現はリアルタイムPCR(RT-PCR)にて測定した。逆転写反応はQuantiTectR Reverse Transcription Kit(QIAGEN)を用い、添付の操作法に従い、一本鎖cDNAを合成した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、一本鎖cDNAを鋳型とし、ヒトヒアルロン酸合成酵素2(HAS-2)、ヒトI型コラーゲンα1およびヒトグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に特異的なプライマーを用いて実施した。反応終了後、GAPDHを内標準遺伝子として各遺伝子発現量を標準化した。その後、未処理群に対するタウリン処理群の相対的な遺伝子発現量を算出した。なお、PCRに使用したプライマーは以下の通りである:
ヒトHAS-2(Accession No. NM_005328.2)センスプライマー:5’-GACAGGCATCTCACGAACCG-3’/配列番号:1
ヒトHAS-2(Accession No. NM_005328.2)アンチセンスプライマー:5’-CAACGGGTCTGCTGGTTTAGC-3’/配列番号:2
ヒトコラーゲン-Iα1(Accession No. NM_000088.3)センスプライマー:5’-CTCCAGGGCTCCAACGAGAT-3’/配列番号:3
ヒトコラーゲン-Iα1(Accession No. NM_000088.3)アンチセンスプライマー:5’-CAGCCATCGACAGTGACG-3’/配列番号:4
ヒトGAPDH(Accession No. NM_002046.3)センスプライマー:5’-CATCCCTGCCTCTACTGGCG-3’/配列番号:5
ヒトGAPDH(Accession No. NM_002046.3)アンチセンスプライマー:5’-AGCTTCCCGTTCAGCTCAGG-3’/配列番号:6
その結果、ヒト線維芽培養細胞においてタウリンは濃度依存的にヒアルロン酸産生量を増加させ(図1)、同時にヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現も増加させた(図2)。一方、タウリンはヒト線維芽培養細胞のI型コラーゲンα1遺伝子発現には影響を与えなかった(図3)。また、ヒト線維芽培養細胞のヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現は男性ホルモンである5α-ジヒドロテストステロン(5α-DHT)により有意に低下したが、タウリンは濃度依存的にHAS-2遺伝子発現を回復させた(図4)。
【0029】
[実施例2]ヒト表皮角化細胞のヒアルロン酸産生に対するタウリンの作用
ヒト表皮角化細胞(コージンバイオ)を60mmディッシュ(AGCテクノグラス)にて、正常ヒト表皮角化細胞用無血清培地(コージンバイオ)を用いて培養した。ディッシュ当たりの細胞占有率が80%以上に達した時点で、EDTAトリプシン液(コージンバイオ)、D-PBS(-)(コージンバイオ)およびトリプシンインヒビター液(コージンバイオ)を用いて細胞を剥離し、35mmディッシュ(AGCテクノグラス)に1x105細胞/ディッシュで播種した。ディッシュ当たりの細胞占有率が80%以上に達した時点で、タウリン(最終濃度が6.25〜50mM)を含む無血清基本培地にて24時間培養した。
【0030】
細胞からの全RNAの抽出は、細胞にアイソジェン(ニッポンジーン)を添加して細胞を溶解することにより実施した。細胞溶解液にクロロホルムを添加して混和し、遠心分離(10,000回転/分にて10分)後、水層を回収し同用量のイソプロパノールを添加して混和した。遠心分離(10,000回転/分にて10分)後、上清を除去し、沈殿したRNAを回収した。RNAには75%エタノールを添加して混和後、上清を除去しRNAを風乾させた。抽出した全RNAは、核酸分解酵素を含有しない滅菌蒸留水に溶解し、260nmにおける吸光度を測定することにより、RNA量を定量した。
【0031】
培養液中に分泌されたヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ELISAキット(生化学バイオビジネス)により定量した。すなわち、培養液中のヒアルロン酸を、キットのマイクロプレート上に固相化されたヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)に結合させた後、ペルオキシダーゼ結合HABPを添加して反応させ、次いでtetramethylbenzidineおよび過酸化水素を加え、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。ヒアルロン酸量は標準ヒアルロン酸溶液を用いて同時に作成した検量線より算出した。
【0032】
細胞におけるヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現は、リアルタイムPCR(RT-PCR)にて測定した。逆転写反応においては、QuantiTectR Reverse Transcription Kit(QIAGEN)を用い、添付の操作法に従い、一本鎖cDNAを合成した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、一本鎖cDNAを鋳型とし、ヒトヒアルロン酸合成酵素2(HAS-2)およびヒトグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に特異的なプライマーを用いて実施した。反応終了後、GAPDHを内標準遺伝子として各遺伝子発現量を標準化した。その後、未処理群に対するタウリン処理群の相対的な遺伝子発現量を算出した。なお、PCRに使用したプライマーは以下の通りである:
ヒトHAS-2(Accession No. NM_005328.2)センスプライマー:5’-GACAGGCATCTCACGAACCG-3’/配列番号:7
ヒトHAS-2(Accession No. NM_005328.2)アンチセンスプライマー:5’-CAACGGGTCTGCTGGTTTAGC-3’/配列番号:8
ヒトGAPDH(Accession No. NM_002046.3)センスプライマー:5’-CATCCCTGCCTCTACTGGCG-3’/配列番号:9
ヒトGAPDH(Accession No. NM_002046.3)アンチセンスプライマー:5’-AGCTTCCCGTTCAGCTCAGG-3’/配列番号:10
その結果、ヒト表皮角化細胞において、タウリンはヒアルロン酸産生量を増加させ(図5)、同時にヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現も増加させた(図6)。
【0033】
[実施例3]ヒト関節滑膜細胞のヒアルロン酸産生に対するタウリンの作用
ヒト関節滑膜細胞(大日本製薬)を100mmディッシュ(AGCテクノグラス)にて、10%仔ウシ血清(SAFCバイオサイエンス)含有ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium:DMEM)にて培養した。ディッシュ当たりの細胞占有率が90%以上に達した時点で、0.25%トリプシンおよび0.02%EDTAを含むリン酸緩衝液を用いて細胞を剥離し、48ウエルマルチプレートまたは60mmディッシュ(AGCテクノグラス)にそれぞれ1x104細胞/ディッシュまたは3x104細胞/ディッシュの細胞数で播種した。ウエルまたはディッシュ当たりの細胞占有率が90%以上に達した時点で、滅菌蒸留水に溶解したタウリンを最終濃度が6.25〜50mMになるように培養液に添加し、24時間培養した。
【0034】
細胞からの全RNAの抽出は、細胞にアイソジェン(ニッポンジーン)を添加して細胞を溶解することにより実施した。細胞溶解液にクロロホルムを添加して混和し、遠心分離(10,000回転/分にて10分)後、水層を回収し同用量のイソプロパノールを添加して混和した。遠心分離(10,000回転/分にて10分)後、上清を除去し、沈殿したRNAを回収した。RNAには75%エタノールを添加して混和後、上清を除去しRNAを風乾させた。抽出した全RNAは、核酸分解酵素を含有しない滅菌蒸留水に溶解し、260nmにおける吸光度を測定することにより、RNA量を定量した。
【0035】
培養液中に分泌されたヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ELISAキット(生化学バイオビジネス)により定量した。すなわち、培養液中のヒアルロン酸を、キットのマイクロプレート上に固相化されたヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)に結合させた後、ペルオキシダーゼ結合HABPを添加して反応させ、次いでtetramethylbenzidineおよび過酸化水素を加え、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。ヒアルロン酸量は標準ヒアルロン酸溶液を用いて同時に作成した検量線より算出した。
【0036】
細胞におけるヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現は、リアルタイムPCR(RT-PCR)にて測定した。逆転写反応においては、QuantiTectR Reverse Transcription Kit(QIAGEN)を用い、添付の操作法に従い、一本鎖cDNAを合成した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、一本鎖cDNAを鋳型とし、ヒトヒアルロン酸合成酵素2(HAS-2)およびヒトグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に特異的なプライマーを用いて実施した。反応終了後、GAPDHを内標準遺伝子として各遺伝子発現量を標準化した。その後、未処理群に対するタウリン処理群の相対的な遺伝子発現量を算出した。なお、PCRに使用したプライマーは以下の通りである:
ヒトHAS-2(Accession No. NM_005328.2)センスプライマー:5’-GACAGGCATCTCACGAACCG-3’/配列番号:11
ヒトHAS-2(Accession No. NM_005328.2)アンチセンスプライマー:5’-CAACGGGTCTGCTGGTTTAGC-3’/配列番号:12
ヒトGAPDH(Accession No. NM_002046.3)センスプライマー:5’-CATCCCTGCCTCTACTGGCG-3’/配列番号:13
ヒトGAPDH(Accession No. NM_002046.3)アンチセンスプライマー:5’-AGCTTCCCGTTCAGCTCAGG-3’/配列番号:14
その結果、ヒト関節滑膜細胞において、タウリンはヒアルロン酸産生量を増加させ(図7)、同時にヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現も増加させた(図8)。
【0037】
[実施例4]マウス皮膚ヒアルロン酸量に対するタウリン投与の作用
5週齢のHR-1マウス(日本エスエルシー)を順化後、8週齢から24週齢まで、タウリンを3%溶解した飲水を与えた。対照群には精製水のみを与えた。投与終了後、マウスの背部皮膚を摘出し、組織切片を作製した。次いで組織切片とビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパク質(HABP)(2ng/mlリン酸緩衝液)(生化学バイオビジネス)を反応させた後、リン酸緩衝液にて1000倍希釈したストレプトアビジン-FITC(fluorescein isothiocyanate)(シグマアルドリッチ)を添加し、ヒアルロン酸に結合したHABPを蛍光染色した。組織切片を5から8の計測視野に分け、それぞれの視野における表皮と真皮の単位面積(μm2)当たりの蛍光強度をLumina Vision(三谷商事)により測定した。真皮の蛍光強度に対する表皮の蛍光強度の比を算出して表皮におけるヒアルロン酸量とし、タウリン投与群と非投与群で比較した。
【0038】
その結果、タウリンを投与マウスの表皮において、タウリン非投与対照マウスの表皮と比較し、有意なヒアルロン酸の増加が認められた(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のタウリンを有効成分とする組成物は、皮膚線維芽細胞や関節滑膜細胞におけるヒアルロン酸の産生を促進する作用を有するため、特に、ヒアルロン酸の産生の減少に起因する症状や疾患(例えば、しわ、肌荒れ、関節障害、関節軟骨損傷)に適用する医薬品や化粧品として有用である。従って、本発明は、医療や美容などの分野において大きく貢献しうるものである。また、本発明の組成物は、皮膚バリアー機能や関節機能の維持や調節におけるタウリンの作用機序を解明するなどの研究開発目的のための試薬としても有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0040】
配列番号1〜14<223> 人工的に合成されたプライマーの配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウリンを有効成分とする、ヒアルロン酸の産生を促進するための組成物
【請求項2】
タウリンを有効成分とする、ヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を促進するための組成物
【請求項3】
タウリンを有効成分とする、男性ホルモンにより低下したヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を回復させるための組成物
【請求項4】
皮膚外用剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物
【請求項5】
医薬組成物である、請求項4に記載の組成物
【請求項6】
化粧品である、請求項4に記載の組成物
【請求項7】
ヒアルロン酸の産生に用いられる旨の表示、ヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を促進するために用いられる旨の表示、または男性ホルモンにより低下したヒアルロン酸合成酵素(HAS-2)の遺伝子発現を回復させるために用いられる旨の表示を付した、請求項1から6のいずれかに記載の組成物

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250934(P2012−250934A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124791(P2011−124791)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】