説明

ヒアルロン酸高生産性乳酸菌

【課題】安全かつ生産性の高いヒアルロン酸生産菌の提供。
【解決手段】hasA遺伝子とベクターDNAを含む組み換え体DNAで形質転換されてなるストレプトコッカス・サーモフィルスに属するヒアルロン酸高生産性乳酸菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全かつ生産性の高いヒアルロン酸生産性乳酸菌及び該乳酸菌を用いたヒアルロン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、優れた保湿性、高粘性、創傷治癒性等の性質を有することから、医薬、化粧品及び食品素材として広く使用されている。該ヒアルロン酸の製造法としては、鶏冠、牛の関節、鯨の軟骨等からの抽出法の他、微生物を用いた培養法が知られている(特許文献1〜4)。ヒアルロン酸を産生する微生物としては、ストレプトコッカス属細菌のうち、ランスフィールド(Lancefield)血清群のA、C及びD型菌、具体的には、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、そして、パスツレラ・マルトシダ(Passteurella multocida)が古くから良く知られている(非特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平4−55675号公報
【特許文献2】特公平4−4868号公報
【特許文献3】特公平4−43637号公報
【特許文献4】特公平4−39998号公報
【特許文献5】特開2009−112260号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F.E. Kendall et al., J.Biol.chem., 118,61,1937
【非特許文献2】W.A. Pierce et al., J.Baact, 63,301,1952
【非特許文献3】A.P. MacLennan, J.Gen.Microbiol., 14,134-142,1956
【非特許文献4】B. Holmstrom et al., Appl.Microbiol., 15,1409-1413,1967
【非特許文献5】J.B. Woolcock., J.Gen.Microbiol., 85,372-375,1974
【非特許文献6】E. kjems et al., Acta Path.Microbiol.Scand.Sect.B, 84,162-164,1976
【非特許文献7】T. Bergan et al., Acta Path.Microbiol.Scand,75,97-103,1969
【非特許文献8】J.A. Cifonelli., Carbohyd.Res., 14,272-276,1970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのヒアルロン酸生産菌は、病原性があったり溶血性物質を生成するなど安全性の点で問題があった。一方、本出願人は、安全性の高いストレプトコッカス・サーモフィルスの中にヒアルロン酸を生産する菌が存在することを見出し、先に特許出願した(特許文献5)。しかし、該YIT2084株のヒアルロン酸生産能は低く、食品素材や化粧品等に用いるための工業的な生産菌としては十分満足できるものでなかった。
従って、本発明の課題は、安全かつ生産性の高いヒアルロン酸生産菌の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、前記課題を解決すべく、安全性の高いストレプトコッカス・サーモフィルスに着目し、その遺伝子組み換え技術によるヒアルロン酸生産能の向上を検討した。しかし、ストレプトコッカス・サーモフィルスがどのようなヒアルロン酸合成遺伝子を有するのかについての報告はなく、また、ヒアルロン酸合成遺伝子があったとしても、該遺伝子をストレプトコッカス・サーモフィルス内で効率的に発現するベクターは全く不明であった。
そこで、本発明者は、試行錯誤を繰り返した結果、いくつかの組み換え体DNAの中でも、hasA遺伝子とベクターDNAを含む組み換え体DNAで形質転換したストレプトコッカス・サーモフィルスが格別顕著なヒアルロン酸生産能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、hasA遺伝子とベクターDNAを含む組み換え体DNAで形質転換されてなるストレプトコッカス・サーモフィルスに属するヒアルロン酸高生産性乳酸菌を提供するものである。
また、本発明は、上記ヒアルロン酸高生産性乳酸菌を培地に接種して培養することを特徴とするヒアルロン酸の製造方法を提供するものである。ヒアルロン酸生産能を向上させ、培養液中のヒアルロン酸濃度を上げることができれば、ヒアルロン酸の精製効率も上がるため、非常に効率のよいヒアルロン酸の生産が可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の形質転換ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いれば、安全かつ高い生産性でヒアルロン酸を製造することができる。従って、得られたヒアルロン酸は、医薬品、化粧品、食品等の広い分野で安心して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】pBE31の構造を示す図である。
【図2】挿入遺伝子の構造を示す図である。
【図3】培養時間(h)とヒアルロン酸濃度(mg/mL)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスに属するヒアルロン酸高生産性乳酸菌は、ストレプトコッカス・サーモフィルスに属する乳酸菌(以下、「宿主サーモフィルス」ともいう)を、hasA遺伝子とベクターDNAを含む組み換え体DNAで形質転換することにより得られる形質転換微生物(以下、「形質転換サーモフィルス」ともいう)である。
【0011】
宿主サーモフィルスとしては、ストレプトコッカス・サーモフィルスであればよいが、ヒアルロン酸生産能を有するストレプトコッカス・サーモフィルスが好ましく、特にストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP−10879)が好ましい。
【0012】
形質転換に用いられる組み換え体DNAは、hasA遺伝子とベクターDNAを含む組み換え体である。ここでベクターDNAとしては、ストレプトコッカス・サーモフィルスで発現可能なベクターであればよいが、ストレプトコッカス・サーモフィルスで発現可能なプラスミドベクター、特にマルチクローニングサイトを有するプラスミドベクターが好ましい。例えばpBE31、pVA838、pTG262、pIL253等が挙げられるが、ヒアルロン酸の生産性の点からpBE31が特に好ましい。
【0013】
本発明に用いられる組み換え体DNAは、hasA遺伝子を含んでいればヒアルロン酸生産性を向上させるが、hasA遺伝子に加えてhasB遺伝子も含むことがさらに好ましい。ここで用いられるhasA遺伝子及びhasB遺伝子は、ストレプトコッカス・サーモフィルス由来であるのが好ましく、特にストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株由来のものが好ましい。
【0014】
hasAはglycosyltransferase、hasBはUDP−glucose6−dehydrogenaseの略称であり、サーモフィルス以外のヒアルロン酸生産微生物ではこれらの酵素がヒアルロン酸合成に関与することが知られており、例えばストレプトコッカス・サーモフィルスLMD−9などのサーモフィルスもこれらの遺伝子を有することは知られている。しかし、そもそもそのような遺伝子を有するサーモフィルスがヒアルロン酸を生産しないのであるから、これらの遺伝子が、サーモフィルスにおいてヒアルロン酸生産に関与しているか否かは全く知られていなかった。
【0015】
本発明では、従来、ヒアルロン酸の合成に関与することが知られていたhasA、hasB、UDP−glucose dehydrogenase(hasC)、Pyrophosphorylase(glmU)、Mutase、Acetyl−CoA Acetyltransferase、Glutamine Amidotransferase、Phosphoglucomutaseなど多くの酵素の内、サーモフィルスにはhasAがヒアルロン酸産生能の向上に必須であり、これを使用することにより飛躍的にヒアルロン酸の産生量が増大すること、hasAに加えhasBを組み合わせて使用することで更にヒアルロン酸の産生量を増やすことが可能であることを見出した。
【0016】
ヒアルロン酸合成関連遺伝子を用いて形質転換し、ヒアルロン酸の産生量を増大させる方法は今までにも知られているが(Appl.Microbiol.Biotechnol.77,339-346,2007、Appl.Envion.Microbiol.71,3747-3752,2005)、それぞれ宿主の種類により必須となる遺伝子の種類は異なっており、従来知られている方法ではhasAだけを用いて形質転換してもヒアルロン酸の産生量の増大はほとんど見られなかった。
【0017】
本発明の形質転換サーモフィルスは、まず、hasA遺伝子、又はhasA遺伝子及びhasB遺伝子をベクターDNAに導入して組み換え体DNAを構築し、該組み換え体DNAで宿主サーモフィルスを形質転換することにより作製することができる。
【0018】
用いられるhasA遺伝子及びhasB遺伝子は、前述のようにストレプトコッカス・サーモフィルス由来、特にストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株由来のものが好ましい。該YIT2084株のhasA遺伝子及びhasB遺伝子は、ストレプトコッカス・サーモフィルスLMD−9の当該遺伝子を参考にして作製したプライマーを用い、PCR法により増幅し、PCR産物を大腸菌に導入することによりクローニングした。
【0019】
前記hasA遺伝子、又はhasA遺伝子及びhasB遺伝子は、ベクターDNAのマルチクローニングサイトに導入することにより、組み換え体プラスミドベクターを構築するのが好ましい。得られた組み換え体DNAの宿主サーモフィルスへの導入は、通常の形質転換手段により行えばよい。
【0020】
本発明の形質転換サーモフィルスを用いてヒアルロン酸を製造するには、形質転換サーモフィルスを培地に接種して培養し、得られた培養物からヒアルロン酸を採取すればよい。
【0021】
培地としては、大豆ペプチドを添加した培地を用いるのが好ましい。培地に大豆ペプチドを添加することにより、添加しない場合に比べてヒアルロン酸の産生量を簡便に増加させることが可能となる。
ここで、培地に添加して使用する大豆ペプチドとは、大豆タンパク質を加水分解或いは発酵することにより得られるアミノ酸が複数個結合した物質である。
本発明において使用できる大豆ペプチドは、特に限定されるものではないが、形質転換サーモフィルスのヒアルロン酸産生能に与える作用を考慮して、遊離のアミノ酸が2%以下の大豆ペプチドを使用することが望ましい。
なお、このような大豆ペプチドとしては、例えば、ハイニュートD1やハイニュートDHなどを挙げることができ、これらは不二製油(株)社等により入手することが可能である。
【0022】
大豆ペプチドの培地への添加量(使用量)は、適宜設定すればよく、特に制限されるわけではないが、0.1重量%〜5.0重量%とすればよく、好ましくは0.5重量%〜2.0重量%とすればよい。
【0023】
本発明の方法において、形質転換サーモフィルスの培養に用いる培地は、特に制限されることなく、通常の培地を用いることができ、前記した大豆ペプチドを添加することができるものが好ましい。例えば、グルコース、フラクトース、ガラクトース、シュークロース等の炭素源、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸ソーダ、チオ硫酸ソーダ、リン酸アンモニウム等の無機塩類、ポリペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー等の有機栄養源の他、必要に応じて各種アミノ酸、ビタミン類が添加されてなる乳酸菌の増殖用として通常用いられる栄養培地の他、乳を含む乳培地を用いることができる。
【0024】
特に、生成したヒアルロン酸を飲食可能な乳成分としてそのまま利用することができる点で、乳成分を含有する培地を用いて発酵乳を製造することが好ましい。なお、本明細書中において、乳とは、牛乳・山羊乳などの獣乳の生乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム、或いは豆乳、アーモンド乳、ココナッツミルク等の植物乳を意味する。
【0025】
本発明の方法において、形質転換サーモフィルスの培養は、通気攪拌培養等、公知の方法で行えばよい。培養温度は、30〜42℃が好ましく、更にヒアルロン酸の産生量の向上のためには37〜40℃であることが好ましい。また、培養液のpHは、当該乳酸菌の発育と共に低下し、ヒアルロン酸の産生量に影響を与える場合があるため、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア等の各種pH調整剤を用いておよそ6〜8程度にpHをコントロールしておくことが好ましい。
【0026】
さらにまた、本発明の方法においては、培養液中の溶存酸素量を調整することによっても、形質転換サーモフィルスが産生するヒアルロン酸の生成量を増加させることができる。溶存酸素量の調整は、必要以上に高くしても、却って乳酸菌の活性が低下して、ヒアルロン酸も産生されなくなるため、培養液中の溶存酸素量を具体的には、30%〜40%となるように調整することが望ましい。なお、溶存酸素量の調整は、常法により行えばよく、特に制限されない。
【0027】
形質転換サーモフィルスが産生したヒアルロン酸は、通常の多糖類の分離・採取方法に従って、培養液から分離・採取すればよい。例えば、培養液中の菌体などの不溶物をろ過又は遠心分離により分別後、この溶液から、例えばエタノールやTCA(トリクロロ酢酸)等の溶媒沈殿剤を用いて精製ヒアルロン酸を分取することができる。また分取の方法としては、透析、限外濾過、フィルター濾過などが挙げられる。なお、乳培地を用いた場合には、形質転換サーモフィルスが産生したヒアルロン酸を含有する乳成分としてそのまま使用すればよいが、常法に従って、ヒアルロン酸を分取して使用することも可能である。
【0028】
このようにして得られるヒアルロン酸の平均分子量は、30万〜150万、さらに50万〜100万程度である。また、その分子量分布は、10万〜300万程度の範囲であり、その最大ピークは100万あたりにある。
【0029】
本発明の方法で得られる本発明のヒアルロン酸は、従来と同様に、医薬品や化粧品等の形態で使用することができる他、食品の形態として投与することも可能である。
【0030】
化粧品等の外用剤の形態としては乳液、化粧液、ファンデーション、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、エッセンス、シャンプー、リンスなどが挙げられ、これらの外用剤は、常法に従って製造すればよい。本発明の方法で得られるヒアルロン酸も、培地から単離・精製したものとして、或いはヒアルロン酸を含む乳成分として前記製造の任意の段階で適宜配合すればよい。なお、これらの外用剤には、必要に応じて、化粧品製造に通常使用される成分、例えば、界面活性剤、油分、アルコール類、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、ビタミン類、アミノ酸などを配合することができる。
【0031】
また、食品形態とする場合には、本発明の方法により得られた培養液をそのまま乳製品として利用してもよい。また、ヒアルロン酸をそのまま或いは適宜精製処理したものを油脂、錠菓、発酵乳、飴、調味料、ふりかけ等の飲食品に添加し、常法により製造すればよいが、これらの食品には、その他の食品素材、すなわち、各種糖質や乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、果汁等を適宜配合してもよい。具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤等が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類等の各種ビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類を配合することができる。
【0032】
上記医薬品や化粧品又は、食品中の本発明の方法で得られるヒアルロン酸の配合量は、その効果が得られ、かつ過剰摂取等の問題が生じない程度の量を適宜決定すればよい。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
実施例1
A.実験材料及び方法
(1)使用菌株とプラスミドベクター
Streptococcus thermophilus YIT 2084を用いた。クローニングにはEscherichia coli JM 109(Toyobo)を用いた。大腸菌―乳酸菌シャトルベクターにはE.coliとS.faecalisの複製起点を持つpBE31を用いた。
【0035】
(2)クローニング遺伝子
hasA、hasB及びglmUは全てS.thermophilus YIT 2084由来のものを用いた。配列についてはS.thermophilus LMD−9を参考にした。LMD−9の遺伝子配列はKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)のサイト(http://www.genome.jp/kegg/)より入手した。それぞれの遺伝子はribosome binding siteを含み、それぞれSacI/hasA/XbaI、SacI/hasB/SalI及びSacI/glmU/XbaIとなるように制限酵素サイトを付加するように増幅した。hasA−hasB同時高発現株についてはデータベースよりhasB−hasAの順で並んでいることが予想されたので、ribosome binding siteを含む該当部分を、SacI/hasB−hasA/SphIとなるように制限酵素サイトを付加して増幅した。本研究で用いたプライマーの配列を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
PCRはKOD−Plus−Neo(Toyobo)を用い、98℃2min、(98℃10s、55℃30s、68℃90s(hasA−hasBでは120s))×30cycles、68℃3minの条件で行った。PCR産物及びpBE31は1.5%アガロースゲルで電気泳動し、切り出してQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。
【0038】
(3)ベクターの構築と大腸菌による増幅
(2)で得たPCR産物及びpBE31をそれぞれの制限酵素で切断した。制限酵素は全てタカラバイオ社製を用いた。pBE31は制限酵素処理後、Calf Intestine Alkaline Phosphatase(Toyobo)を用いて脱リン酸化処理した。それぞれの制限酵素処理産物をLigation high ver.2(Toyobo)を用いてライゲーションし、それを用いてE.coli JM 109(Toyobo)の形質転換を行った。形質転換体の選択は500μg/mLのエリスロマイシンを含むLB寒天培地(LB−Em)で行った。コロニーを釣菌し、LB−Em液体培地で37℃で一晩振とう培養後、Wizard Plus SV Minipreps(Promega)を用いてプラスミドの抽出と精製を行った。精製物を制限酵素処理し、電気泳動によって目的遺伝子の挿入を確認した。
【0039】
(4)S.thermophilus YIT 2084の形質転換
S.thermophilus YIT 2084凍結保存株を1%ラクトースを含むM−17 broth(Difco)(M−17Lac)2.5mLに一白金耳植菌し、37℃で一晩静置培養した。その後0.3%グルコースを含む M−17 Lac50mLに全量植菌し、37℃で3時間培養後、PBS及び10%グリセロールで洗浄後、500mLの10%グリセロールに懸濁した。40mLのグリセロール懸濁液に(3)で得たベクターを2mL加え、2mmキュベットを使用し、(1.5kV、200Ω、キャパシタンス25mF)の条件でエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後、1mLのM−17Lacに懸濁し、37℃で1hインキュベートし、50μg/mLのエリスロマイシンを含むM−17Lac寒天培地にスプレッドして37℃で3日間培養した。培養後、pBE31のマルチクローニングサイトを増幅するプライマーを用いて挿入遺伝子の確認を行った。
【0040】
(5)遺伝子組み換えS.thermophilus YIT 2084のジャーファーメンターによる培養とヒアルロン酸の定量
(4)で得られた形質転換体を用いてwild typeによる最大の生産性が得られた条件(10%脱脂粉乳水溶液(10%スキムミルク(Difco))+1%ハイニュートDH、40℃、pH6.8、100rpm、通気なし)でジャーファーメンターによる培養を行った。経時的にサンプリングを行い、培養上清中のヒアルロン酸濃度を測定した。ヒアルロン酸濃度の測定は、ビオチン化ヒアルロン酸バインディングプロテイン(b-HABP、生化学工業)を用いて、以下の方法によって行った。
アッセイには96ウェルイムノプレート(Nunc)を用いた。20mM炭酸ナトリウムバッファー(pH9.6)にStreptococcus zooepidemicus由来ヒアルロン酸ナトリウム (Wako)を100μg/mLになるように溶解し、ウェルに200μLアプライした。37℃で4時間インキュベートすることにより、ウェル内部をヒアルロン酸でコーティングした。
インキュベート後、0.05%(v/v)のTween 20(登録商標)を含むPBS(PBST)で3回洗浄した。洗浄はすべてこの操作で行った。さらに、PBSTに溶解したウシ由来血清アルブミン(Boehringer Mannheim)(1%(v/v))を200μLアプライし、4℃で18時間ブロッキングした。洗浄後、適宜PBSTで希釈した培養上清、およびb-HABP (0.5 μg/ml in PBST)を100μLずつ同時にアプライし、37℃、1時間インキュベートした。
これを洗浄後、ExtraAvidin alkaline phosphatase conjugate (Sigma)をPBSTで1/70000希釈したものを200μLアプライし、37℃で30分インキュベートした。洗浄後、4-nitrophenyl phosphate disium salt hexahydrate (Sigma) を1mM MgCl2と2mM ZnCl2を含む0.1Mグリシンバッファー (pH10.4)に溶解したものを(1tablet/20mL)、200mLアプライした。
37℃で1時間インキュベートした後の吸光度(405nm)からアプライ直後の吸光度(405nm)を引いて、培養上清中に含まれるヒアルロン酸濃度を計算した。検量線にはコーティングに用いたヒアルロン酸を用いた。
【0041】
B.結果
(1)遺伝子組み換えS.thermophilus YIT2084の構築
図1に示したpBE31のマルチクローニングサイトに、図2に示した遺伝子をそれぞれ導入しプラスミドベクターを構築した。それぞれの挿入遺伝子にはribosomal binding siteが含まれるよう上流数十bpより切り出した。これらのプラスミドベクターで形質転換したS.thermophilus YIT2084(2084−hasA,2084−hasB,2084−glmU及び2084−hasAB)を得た。
【0042】
(2)ジャーファーメンターによる培養
(1)で得たそれぞれの株をジャーファーメンターを用いて培養した。ヒアルロン酸濃度の経時変化を図3に示した。
【0043】
遺伝子導入をしていない野生株(WT)では培養上清中のヒアルロン酸濃度の最高値が約224mg/mLであったのに対し、2084−hasA、2084−hasBおよび2084−hasABではヒアルロン酸産生能が向上し、ヒアルロン酸濃度の最高値はそれぞれ984mg/mL、558mg/mLおよび1197mg/mLであった。2084−glmUでは逆に生産性が低下し、82mg/mLであった。
上記のとおり、hasA遺伝子のみを導入した場合でも非常に高いヒアルロン酸生産能が見られた。この結果は遺伝子操作の簡便性からも非常に有用であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
hasA遺伝子とベクターDNAを含む組み換え体DNAで形質転換されてなるストレプトコッカス・サーモフィルスに属するヒアルロン酸高生産性乳酸菌。
【請求項2】
組み換え体DNA中のhasA遺伝子が、ストレプトコッカス・サーモフィルス由来である請求項1記載の乳酸菌。
【請求項3】
組み換え体DNAが、さらにhasB遺伝子を含有するものである請求項1又は2記載の乳酸菌。
【請求項4】
宿主であるストレプトコッカス・サーモフィルスに属する乳酸菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP−10879)である請求項1〜3のいずれか1項記載の乳酸菌。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の乳酸菌を培地に接種して培養することを特徴とするヒアルロン酸の製造方法。
【請求項6】
培養がpH6〜8の条件下、30〜42℃で行われる請求項5記載のヒアルロン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−130287(P2012−130287A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285470(P2010−285470)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】