説明

ヒスタミン吸着剤およびヒスタミン除去方法

【課題】 従来ヒスタミンを低減させるように液体上の食品を製造する技術は開示されているものの、液体上の食品に含まれるヒスタミンを安全かつ簡易に除去する技術がなかった。そこで本発明では、液体上の食品に含まれるヒスタミンを安全かつ確実に吸着することが可能となる吸着剤を開発した。
【解決手段】 本発明のヒスタミン吸着剤は、ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とし、液体状の食品に含まれるヒスタミンを吸着することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれるヒスタミンを吸着するヒスタミン吸着剤およびこれを用いたヒスタミン除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類を原料とした発酵調味料に魚醤油(魚醤)がある。魚醤油は、魚介類の魚体全体または魚肉と、食塩、水、場合によっては麹を混合し、所定期間発酵させたものである。魚醤油を製品化する場合には、さらに濾過を行い、骨、皮などの夾雑物を除去する。
【0003】
このような魚介類を原料とした発酵調味料では、魚介類由来の酵素および微生物ならびに発酵中に増殖する微生物の影響により、主として魚介類原料に由来するヒスチジンが脱炭酸されてヒスタミンが生成される。ヒスタミンは、アレルギー様食中毒の原因物質であり、大量に摂取すると食中毒を引き起こすおそれがある。魚醤油中のヒスタミン含有量は、製造条件、原料となる魚介類やその利用部分等によってバラツキはあるものの、魚醤油には少なからずヒスタミンが含まれているため、魚醤油中のヒスタミンの低減が望まれている。
【0004】
そこで、原料となる魚介類を酸類で処理することで、ヒスタミン含有量を低減させることができる技術が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−151430号公報
【特許文献2】特開2008−212051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1および2に記載の技術を利用すると、ヒスタミンの含有量をある程度低減できるものの、その低減量には限界があった。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、液体上の食品に含まれるヒスタミンを安全かつ確実に吸着することが可能なヒスタミン吸着剤およびヒスタミン除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のヒスタミン吸着剤は、ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とし、液体状の食品に含まれるヒスタミンを吸着することを特徴とする。
【0009】
本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数にヒスタミン吸着性能を有することを見いだした。したがって、ヒスタミンを含有する液体状の食品に本発明のヒスタミン吸着剤を添加すれば、ヒスタミン吸着剤にヒスタミンを簡単に吸着させることができる。そして、ヒスタミンを吸着させたヒスタミン吸着剤を液体状の食品から除去することで、液体状の食品からヒスタミンを効率よく取り除くことが可能となる。
【0010】
上記液体状の食品は、魚介類を原料とした発酵調味料であってもよい。魚介類を原料とした発酵調味料はアミノ酸や核酸を豊富に含むため濃厚なうま味を有する一方で、ヒスタミン含有量が多いことが知られている。本発明のヒスタミン吸着剤は、食品添加物として認められている安全性の高いものであるため、魚介類を原料とした発酵調味料に含まれるヒスタミンを安全かつ確実に吸着することが可能となる。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のヒスタミン除去方法は、ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とするヒスタミン吸着剤を液体状の食品に添加する添加工程と、ヒスタミン吸着剤を液体状の食品から除去する除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
添加工程においてヒスタミン吸着剤を液体状の食品に添加することで液体状の食品中のヒスタミンをヒスタミン吸着剤に吸着させ、除去工程においてヒスタミンが吸着されたヒスタミン吸着剤ごと液体状の食品から取り除くことによって、安全かつ確実に液体状の食品からヒスタミンを除去することができる。
【0013】
上記添加工程において、液体状の食品の温度は20℃以下であるとよい。本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、20℃以上の所定温度以上であると一旦ヒスタミン吸着剤に吸着したヒスタミンが再度解離してしまうことを見いだした。したがって添加工程における液体状の食品の温度を20℃以下とすることで再度の解離を防止してヒスタミン吸着剤に効率的にヒスタミンを吸着させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、液体上の食品に含まれるヒスタミンを安全かつ確実に吸着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態にかかるヒスタミン吸着剤を魚醤油に添加した後の魚醤油のヒスタミン含有量を示した説明図である。
【図2】ヒスタミン吸着剤として、ベントナイト、活性炭素、珪藻土をそれぞれ添加した場合の魚醤油の色調を示した説明図である。
【図3】実施形態にかかるヒスタミン除去方法を説明するための説明図である。
【図4】ベントナイトを添加する際の液体の温度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【図5】ベントナイトを添加した後の液体の温度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【図6】ベントナイトを添加する際の液体のpHとヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【図7】ベントナイトを添加する際の液体の塩濃度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【図8】ベントナイトを添加する際の液体のpH、温度および静置温度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【図9】火入れ工程S104の後に添加工程S100および除去工程S102を行う場合のヒスタミン除去方法の処理の流れを説明するための説明図である。
【図10】異なる種類の魚醤油に対するヒスタミン吸着剤(ベントナイト)の効果を説明するための説明図である。
【図11】ベントナイトの添加量とヒスタミン吸着量との関係を説明するための説明図である。
【図12】魚醤油に対する前処理として115℃で3時間乾燥させたベントナイトを水で膨潤させたものの効果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(ヒスタミン吸着剤)
本実施形態にかかるヒスタミン吸着剤は、ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とし、液体状の食品に含まれるヒスタミンを吸着する。また、ここでは、ヒスタミン吸着剤を適用する液体上の食品として、特にヒスタミン含有量が多い、魚介類を原料とした発酵調味料(ここでは、魚醤油)を例に挙げて説明するが、これに限定されず、ヒスタミンを含む液体上の食品であれば本実施形態のヒスタミン吸着剤を好適に適用することができる。
【0018】
上記ベントナイトは、モンモリロナイトを主成分とし、他に石英や雲母、長石、ゼオライト等を含んで構成される。ここでは、ヒスタミン吸着剤の主成分の1としてベントナイトを挙げたが、モンモリロナイトをヒスタミン吸着剤の主成分としてもよい。また、ベントナイトの形状は、粉末、顆粒、フレーク状のいずれであってもよい。
【0019】
上記活性炭素は、大部分の炭素の他、酸素、水素、カルシウムなどからなる多孔質の物質であり、その微細な穴(細孔)に多くの物質を吸着させることができる物質である。上記珪藻土は、藻類の一種である珪藻の殻の化石の堆積物であり、二酸化ケイ素を主成分としている。
【0020】
図1は、本実施形態にかかるヒスタミン吸着剤を魚醤油に添加した後の魚醤油のヒスタミン含有量を示した説明図である。ここでは、本実施形態にかかるヒスタミン吸着剤として、ベントナイト、活性炭素(粉末)、珪藻土をそれぞれ以下の表1に示す前処理を行ったものと、比較対象物質として、活性炭素(顆粒)、シリカゲル(ワコーゲル(登録商標)C−100)、Celite(登録商標)545、ガラスビーズ、合成ゼオライトA−3を以下の表1に示す前処理を行ったものを、以下の試験に用いた。
【表1】

【0021】
まず、魚醤油20mLに、表1に示す物質を10%(weight/volume:w/v)添加し、十分に撹拌した後、1時間静置した。その後、3000rpmで10分間遠心分離し、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得た液のヒスタミン量を測定した。
【0022】
図1に示すように、ヒスタミン吸着剤としてベントナイトを用いた場合、添加前と比較して500ppm程度ヒスタミンを除去したことが分かる。また、ヒスタミン吸着剤として活性炭素(粉末)を用いた場合、添加前と比較して300ppm程度ヒスタミンを除去したことが分かる。さらに、ヒスタミン吸着剤として珪藻土を用いた場合、添加前と比較して250ppm程度ヒスタミンを除去したことが分かる。
【0023】
ここで、活性炭素(顆粒)は活性炭素(粉末)と比較して、ヒスタミンの吸着率が低い。これは、活性炭素(粉末)の方が活性炭素(顆粒)と比較して表面積が大きいため、活性炭素(粉末)の方がより多くのヒスタミンを吸着できたと考えられる。
【0024】
以上説明したように、本実施形態のヒスタミン吸着剤をベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とすることで、魚醤油中に含まれるヒスタミンを効率よく吸着することができる。またベントナイト、活性炭素および珪藻土は食品添加物として認められているため、ヒスタミンを含有する液体状の食品に本実施形態のヒスタミン吸着剤を添加すれば、安全にヒスタミン吸着剤にヒスタミンを吸着させることができる。そして、ヒスタミンを吸着させたヒスタミン吸着剤を液体状の食品から除去することで、液体状の食品からヒスタミンを効率よく取り除くことが可能となる。
【0025】
図2は、ヒスタミン吸着剤として、ベントナイト、活性炭素、珪藻土をそれぞれ添加した場合の魚醤油の色調を示した説明図であり、図2(a)は、魚醤油の彩度(C:値が高いほど鮮やか)を、図2(b)は、魚醤油の明度(L:値が高いほど明るい)を示す。図2(a)に示すように、ヒスタミン吸着剤を添加しない魚醤油(図2中黒丸で示す)と比較して、ベントナイトを添加した魚醤油(図2中二重丸で示す)および珪藻土を添加した魚醤油(図2中黒三角で示す)の彩度に著しい変化はみられない。一方、活性炭素を添加した魚醤油(図2中黒四角で示す)は、ヒスタミン吸着剤を添加しない魚醤油(以下、単に未処理の魚醤油と称する)と比較して、彩度が著しく減少していることが分かる。
【0026】
また図2(b)に示すように、未処理の魚醤油と比較して、ベントナイトを添加した魚醤油および珪藻土を添加した魚醤油の明度は若干上昇しているが、活性炭素を添加した魚醤油は、未処理の魚醤油と比較して、明度が著しく上昇していることが分かる。
【0027】
したがって、ベントナイトおよび珪藻土は、ヒスタミンの吸着率もよく、色調を変化させることもないため、ヒスタミン吸着剤としてベントナイトおよび珪藻土のいずれか一方または両方を用いた場合、魚醤油本来の色調を維持したままヒスタミンを効率よく吸着することができる。
【0028】
また、活性炭素は、ヒスタミンのみならず魚醤油中の色を構成する物質をも吸着し、魚醤油を無色透明に近くすることが可能となる。したがって、ヒスタミン吸着剤として活性炭素を用いれば、ヒスタミンを低減させつつ、薄口醤油や白醤油のような特殊な用途にも適用可能な魚醤油を生成することができる。
【0029】
(ヒスタミン除去方法)
次に、上述したヒスタミン吸着剤を利用したヒスタミン除去方法について説明する。図3は、本実施形態にかかるヒスタミン除去方法を説明するための説明図である。図3に示すように本実施形態にかかるヒスタミン除去方法は、未処理の魚醤油にベントナイトを添加する添加工程(S100)と、魚醤油からヒスタミン吸着剤を除去する除去工程(S102)と、火入れ工程(S104)とを含む。以下に、各工程の構成を詳細に説明する。
【0030】
(添加工程S100)
添加工程S100は、上述したベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とするヒスタミン吸着剤を液体状の食品に添加する。以下の説明では、理解を容易にするため、ヒスタミン吸着剤として代表的にベントナイトを挙げて説明する。
【0031】
(除去工程S102)
除去工程S102は、添加工程S100で添加したベントナイトを除去する工程である。3000rpm程度で遠心分離した後、上澄みを濾過してもよいし、濾過だけでもよい。
【0032】
(火入れ工程S104)
火入れ工程S104は、除去工程S102でベントナイトが除去された魚醤油を加熱し、殺菌および発酵の停止を行う工程である。
【0033】
<添加工程S100における液体状の食品の温度の検討>
図4は、ベントナイトを添加する際の液体の温度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【0034】
まず、ヒスタミン1.0g、塩化ナトリウム200gをイオン交換水1Lに溶解し、ヒスタミン溶液を調整した。ヒスタミン溶液は、乳酸を用いてpHを5.0に調整した。そしてヒスタミン溶液を、予め4℃、20℃、80℃に調整した。
【0035】
ポリプロピレン製のコニカルチューブに、ベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)0.5gと、温度の異なる(それぞれ4℃、20℃、80℃)ヒスタミン溶液5mLと、を加え、閉蓋し30回手で激しく振った。その直後に3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液を検液としてヒスタミン量を測定した。また、コントロールとしてヒスタミン溶液5mLを用いた。
【0036】
図4に示すように、溶液の温度が4℃のときに、ベントナイトは最も多くのヒスタミンを吸着した。溶液の温度が80℃のときのヒスタミン吸着割合は、溶液温度が4℃、20℃のときと比較して低下していた。
【0037】
図5は、ベントナイトを添加した後の液体の温度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【0038】
まず、ヒスタミン1.0g、塩化ナトリウム200gをイオン交換水1Lに溶解し、ヒスタミン溶液を調整した。ヒスタミン溶液は、乳酸を用いてpHを5.0に調整した。そしてヒスタミン溶液を、予め20℃に調整した。
【0039】
ポリプロピレン製のコニカルチューブに、ベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)0.5gと、20℃に調整したヒスタミン溶液5mLと、を加え、閉蓋し30回手で激しく振った。その後、4℃、20℃、80℃に設定したウォーターバスにコニカルチューブを浸漬し、2時間静置した後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液を検液としてヒスタミン量を測定した。また、コントロールとしてヒスタミン溶液5mLを用いた。
【0040】
図5に示すように、ベントナイト添加後のヒスタミン溶液を80℃で静置した場合のヒスタミン溶液のヒスタミン量は、静置前(ベントナイト添加直後)のヒスタミン溶液のヒスタミン量より増加していた。これは、ヒスタミン溶液にベントナイトを添加した際に一旦ベントナイトに吸着されたヒスタミンが、80℃で静置中に再度解離したものと考えられる。
【0041】
一方、ベントナイト添加後のヒスタミン溶液を4℃で静置した場合のヒスタミン溶液のヒスタミン量は、静置前(ベントナイト添加直後)のヒスタミン溶液のヒスタミン量よりも減少していた。これは、ベントナイトを添加したときの温度より低い温度で静置した場合、静置中にもヒスタミンのベントナイトへの吸着が起こっていると考えられる。
【0042】
したがって、図4に示すように、添加工程S100における液体状の食品の温度は20℃以下がよく、好ましくは4℃以下がよい。また図5に示すように、液体状の食品にベントナイトを添加してから所定時間静置する場合であっても、液体状の食品の温度は20℃以下がよく、好ましくは4℃以下がよい。また除去工程S102においても、液体状の食品の温度を20℃以下に維持したままにするとよく、好ましくは4℃以下に維持するとよい。
【0043】
このように、ベントナイトを添加する際の液体状の食品の温度を20℃以下とすることで、一旦ベントナイトに吸着したヒスタミンが解離するのを防止し、ベントナイトに効率的にヒスタミンを吸着させることができる。
【0044】
<添加工程S100における液体状の食品のpHの検討>
図6は、ベントナイトを添加する際の液体のpHとヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【0045】
まず、ヒスタミン1.0g、塩化ナトリウム200gをイオン交換水1Lに溶解し、ヒスタミン溶液を調整した。ヒスタミン溶液は、乳酸を用いてpHを2.0、3.0、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、8.0にそれぞれ調整し、pHの異なるヒスタミン溶液を作成した。
【0046】
ポリプロピレン製のコニカルチューブにベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)2gと、pHの異なるヒスタミン溶液(20℃)20mLと、を加え、閉蓋し30回手で激しく振った。その後、20℃で2時間静置後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液を検液としてヒスタミン量を測定した。
【0047】
図6に示すように、ヒスタミン溶液のpHが低いほどベントナイトはヒスタミンを多く吸着することが分かった。特に、pH2.0のヒスタミン溶液において、ベントナイトは、ほとんどのヒスタミンを吸着した。一方、ヒスタミン溶液のpHが高くなると、ベントナイトによるヒスタミンの吸着量は減少し、pH8.5のヒスタミン溶液におけるベントナイトのヒスタミン吸着割合は45.9%であった。
【0048】
したがって、図6に示すように、添加工程S100における液体状の食品のpHは2〜7.0以下がよく、好ましくは2.0〜6.5がよい。なお、魚醤油のpHは、4.5〜6.5であるため、ベントナイトは魚醤油中に含まれるヒスタミンを好適に吸着することができる。また、図6に示すように、ベントナイトを添加する溶液のpHは、低い方がベントナイトのヒスタミン吸着率はよいため、魚醤油の製造過程の中で、魚醤油のpHが低い製造過程でベントナイトを添加すれば、効率よくヒスタミンをベントナイトに吸着させることが可能となる。さらに、魚醤油中のpHを測定し、pHに応じてベントナイトの添加量を調整することもできる。例えば、魚醤油のpHが高い場合にはベントナイトを添加する量を増加するとよい。
【0049】
このように、ベントナイトを添加する際の液体状の食品のpHを7.0以下とすることで、ヒスタミン吸着剤に効率的にヒスタミンを吸着させることができる。
【0050】
<添加工程S100における液体状の食品の塩濃度の検討>
図7は、ベントナイトを添加する際の液体の塩濃度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【0051】
まず、ヒスタミン1.0gと、塩化ナトリウム0g、50g、100g、150g、200g、250gとをそれぞれイオン交換水1Lに溶解し、塩濃度の異なるヒスタミン溶液を調整した。ヒスタミン溶液は、乳酸を用いてpHを5.0に調整した。
【0052】
ポリプロピレン製のコニカルチューブに、ベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)2gと、塩濃度の異なるヒスタミン溶液20mLと、を加え、閉蓋し30回手で激しく振った。ベントナイトに添加した際のヒスタミン溶液の温度は室温(20℃程度)であった。そして、30℃で2時間静置後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液を検液としてヒスタミン量を測定した。
【0053】
図7に示すように、ヒスタミン溶液の塩濃度が0から25%(w/v)の範囲では、ベントナイトによるヒスタミンの吸着が起こることが明らかになった。なお、ヒスタミン溶液の塩濃度が0%の場合、ヒスタミン濃度が大幅に低下しているように見うけられるが、実際には、ベントナイトの膨潤が起こり、ほとんど検液が得られないため、ヒスタミン濃度が大幅に低下したとは言い難い。
【0054】
したがって、図7に示すように、添加工程S100における液体状の食品の塩濃度は、10%以上がよく、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上がよい。なお、魚醤油には塩(塩化ナトリウム)が含まれているため、ベントナイトは魚醤油中に含まれるヒスタミンを好適に吸着することができる。
【0055】
このように、ベントナイトを添加する際の液体状の食品の塩濃度を10%以上とすることで、ヒスタミン吸着剤に効率的にヒスタミンを吸着させることができる。
【0056】
<評価>
図8は、ベントナイトを添加する際の液体のpH、温度および静置温度とヒスタミンの吸着率との関係を説明するための説明図である。
【0057】
まず、ヒスタミン1.0g、塩化ナトリウム200gをイオン交換水1Lに溶解し、ヒスタミン溶液を調整した。ヒスタミン溶液は、乳酸を用いてpHを2.0、3.0、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、8.0にそれぞれ調整し、pHの異なるヒスタミン溶液を作成した。
【0058】
ポリプロピレン製のコニカルチューブにベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)2gと、pHの異なるヒスタミン溶液(20℃)20mLと、を加え、閉蓋し30回手で激しく振った。ベントナイトを添加する際のヒスタミン溶液の温度は4℃(図8中四角で示す)、20℃(図8中三角で示す)、80℃(図8中黒丸で示す)に調整したものを用いた。その後、20℃で2時間静置後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液を検液としてヒスタミン量を測定した。
【0059】
図8に示すように、ヒスタミン溶液のpHが低いほどベントナイトへのヒスタミンの吸着量が多く、pHが高いほどヒスタミンの吸着量が少ないという傾向は図6に示した結果と同じであるが、増減パターンに違いが見られた。また、図8に示すように、pHと温度の両方を制御すれば、ベントナイトに効率よくヒスタミンを吸着させることが可能となることが分かった。また、pHを制御してもベントナイトに効率よくヒスタミンを吸着させることができるが、温度の方がヒスタミンの吸着への影響が大きく、制御しやすいので、温度を制御するだけでも容易にベントナイトに効率よくヒスタミンを吸着させることができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態にかかるヒスタミン除去方法によれば、添加工程S100においてヒスタミン吸着剤を液体状の食品に添加することで液体状の食品中のヒスタミンをヒスタミン吸着剤に吸着させ、除去工程S102においてヒスタミンが吸着されたヒスタミン吸着剤ごと液体状の食品から取り除くことによって、安全かつ確実に液体状の食品からヒスタミンを除去することができる。
【0061】
このように、液体状の食品にヒスタミン吸着剤を添加して、その後ヒスタミンを吸着させたヒスタミン吸着剤を取り除くだけという簡単な作業を行うだけで、確実にヒスタミンを液体状の食品から除去することができる。
【0062】
また上述したヒスタミン除去方法では、添加工程S100後に火入れ工程S104を行っているがこれに限定されず、火入れ工程S104後に添加工程S100および除去工程S102を行ってもよい。
【0063】
図9は、火入れ工程S104の後に添加工程S100および除去工程S102を行う場合のヒスタミン除去方法の処理の流れを説明するための説明図である。なお、上述した図3に示すヒスタミン除去方法と実質的に等しい処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0064】
図9に示すように、まず濾過工程S110において、液体状の食品に含まれる夾雑物(魚醤油の場合骨や皮)を取り除く。そして、火入れ工程S104を行った後、冷却工程S112を経ることで、ヒスタミン吸着剤に適した温度まで液体状の食品の温度を低下させることができる。
【0065】
冷却工程S112を遂行することで、液体状の食品をヒスタミン吸着剤におけるヒスタミン吸着効率がよい温度(例えば、20℃以下)まで液体状の食品を冷却することができ、確実かつ効率的にヒスタミン吸着剤にヒスタミンを吸着させることが可能となる。
【0066】
(実施例1)
図10は、異なる種類の魚醤油に対するヒスタミン吸着剤(ベントナイト)の効果を説明するための説明図である。
【0067】
魚醤油は、製造方法や原料によってヒスタミン含有量が著しくことなる。そこで、異なる種類の魚醤油でも本実施形態にかかるヒスタミン吸着剤が効果を発揮することを示すために4種類の魚醤油にヒスタミン吸着剤としてのベントナイトを添加してヒスタミン減少量を測定した。
【0068】
まず、4℃、20℃、80℃に調整したA、B、C、Dの4種の魚醤油20mLにベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)の濃度が10%(w/v)になるように添加し、十分に撹拌した。その直後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液を検液としてヒスタミン量を測定した。
【0069】
図10に示すように、A、B、C、Dの4種全ての魚醤油において、ベントナイトを添加することによって魚醤油中のヒスタミン濃度の低下が確認された。
【0070】
これにより、製造方法や原料等によってヒスタミン含有量が大きく異なる様々な種類の魚醤油においても、本実施形態にかかるヒスタミン吸着剤は、ヒスタミンを確実に吸着することが分かった。
【0071】
図11は、ベントナイトの添加量とヒスタミン吸着量との関係を説明するための説明図である。
【0072】
まず、E(図11中黒四角で示す)、F(図11中黒丸で示す)、G(図11中黒三角で示す)3種類の魚醤油にベントナイト(前処理として115℃で3時間乾燥させた)の濃度が0.5、1、5、10、20、30%(w/v)になるように添加し、十分に撹拌した後、2時間静置した。その後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを濾紙(5A)で濾過して得られた濾液のヒスタミン量を測定した。
【0073】
図11に示すように、ベントナイト添加割合が1%(w/v)以下と少ない場合はヒスタミンの減少量も少ない。一方、ベントナイトの添加割合が大きくなると、ヒスタミンの減少量も大きくなり、30%(w/v)では魚醤油中のヒスタミンのほとんどが吸着された。このことから、ベントナイト添加量によってヒスタミン吸着量の調節が可能であることが分かった。
【0074】
(実施例2)
上述した実施例1では、前処理として115℃で3時間乾燥させたベントナイトを魚醤油に直接添加した例について説明したが、本実施例では前処理として115℃で3時間乾燥させたベントナイトをさらに水で膨潤させてから魚醤油に添加した。
【0075】
まず、前処理として115℃で3時間乾燥させた、市販のベントナイト4種類(ベントナイトH、ベントナイトI、ベントナイトJ、ベントナイトK)5gを95mlのイオン交換水でそれぞれ膨潤させ、ベントナイトH〜Kの5%プレゲルをそれぞれ作製した。100mlの魚醤油に対し、作製した5%プレゲルを10g(魚醤油に対するベントナイトの濃度は0.5%(w/v)となる)または作製した5%プレゲルを20g(魚醤油に対するベントナイトの濃度は1.0%(w/v)となる)添加した。
【0076】
比較対照として、100mlの魚醤油に対し、前処理として115℃で3時間乾燥させたベントナイト5g(魚醤油に対するベントナイトの濃度は0.5%(w/v)となる)または10g(魚醤油に対するベントナイトの濃度は1.0%(w/v)となる)を膨潤させずに直接添加した。
【0077】
そして、魚醤油にベントナイトを添加した後ホモジナイザで均一になるように攪拌し、20℃で1晩静置した。
【0078】
図12は、魚醤油に対する前処理として115℃で3時間乾燥させたベントナイトを水で膨潤させたものの効果を説明するための説明図である。
【0079】
図12に示すように、ベントナイトH、ベントナイトI、ベントナイトJ、ベントナイトKのいずれも、0.5%(w/v)直接添加した場合ヒスタミンの吸着はほとんど見られないが、水で膨潤させ5%プレゲルとしたベントナイトH〜Kは、それぞれヒスタミンを吸着していることが分かった。また、1.0%(w/v)添加した場合もベントナイトを直接添加した場合と比較して5%プレゲルとして添加した方がヒスタミンの吸着率が増加したことが分かった。特に、ベントナイトJおよびベントナイトKは、1.0%(w/v)直接添加した場合と比較して、5%プレゲルとして添加した場合のヒスタミンの吸着率は約4倍となった。
【0080】
このように、ベントナイトを予め水で膨潤させることにより、ヒスタミンを吸着可能なベントナイトの表面積を増加させることができ、ベントナイトを直接添加するよりも、魚醤油に含まれるヒスタミンを効率よくベントナイトに吸着させることが可能となることが分かった。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0082】
なお、本明細書のヒスタミン除去方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的に進めることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、液体中に含まれるヒスタミンを吸着するヒスタミン吸着剤およびこれを用いたヒスタミン除去方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
S100 …添加工程
S102 …除去工程
S104 …火入れ工程
S110 …濾過工程
S112 …冷却工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とし、液体状の食品に含まれるヒスタミンを吸着することを特徴とするヒスタミン吸着剤。
【請求項2】
前記液体状の食品は、魚介類を原料とした発酵調味料であることを特徴とする請求項1に記載のヒスタミン吸着剤。
【請求項3】
ベントナイト、活性炭素および珪藻土の群から選択される1または複数を主成分とするヒスタミン吸着剤を液体状の食品に添加する添加工程と、
前記ヒスタミン吸着剤を前記液体状の食品から除去する除去工程と、
を含むことを特徴とするヒスタミン除去方法。
【請求項4】
前記添加工程において、前記液体状の食品の温度は20℃以下であることを特徴とする請求項3に記載のヒスタミン除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−229455(P2011−229455A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102541(P2010−102541)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】