説明

ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法、並びに当該方法に用いられる抗体

【課題】 ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出することを可能とする方法、並びに当該方法に用いられる抗体を提供すること。
【解決手段】 核内においてヒストン(ヒストンH2B、ヒストンH2A、ヒストンH3、ヒストンH4)がグリコシル化(O−結合型N−アセチルグルコサミン化)されていること、特に、ヒストンH2BにおいてはN−アセチルグルコサミン化される部位が、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基であることを見出した。さらに、ヒストンH2Bのグリコシル化された部位に結合する抗体を作製し、更に解析した結果、このグリコシル化がHBPを介した細胞外グルコース濃度に依存するものであり、このグリコシル化の亢進によって、ヒストンH2Bのユビキチン化やヒストンH3のメチル化が誘導され、ひいてはPGK1遺伝子等の転写を活性化させることをも見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法、並びに当該方法に用いられる抗体に関する。より詳しくは、本発明は、ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法、並びに、ヒストンタンパク質のグリコシル化を指標とした、血清グルコース量の評価するための方法、メタボリックシンドロームを検査するための方法、及びメタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物をスクリーニングするための方法に関する。さらに、本発明は、ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体、並びに、前記抗体を有効成分とする、ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための薬剤、血清グルコース量を評価するための薬剤、及びメタボリックシンドロームを検査するための薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマチン構造は転写を促進するために再構成、すなわち多数の非ヒストンタンパク質を用いたDNAのメチル化と同様に、ヒストンにおける様々な修飾によって制御されることが知られている(非特許文献1〜5)。このような化学修飾において、ヒストンの翻訳後修飾はクロマチン再編成のための重要な決定因子として明らかになっており、可逆的なヒストン修飾の特異的な組み合わせは、一般に「ヒストンコード」と呼ばれ、クロマチンの活性状態に影響を及ぼしていることも知られている(非特許文献6)。この特異的な組み合わせは後成的(epigenetically)に生じ、安定的であるにも関わらず、これらのいくつかは細胞外状態及び細胞活性に応答して一時的に再構成される(非特許文献7〜8)。現段階では、クロマチン再編成において8種の修飾の効果が証明されている(非特許文献6)。そのうち、ヒストン末端の特異的残基におけるヒストンのアセチル化、メチル化、ユビキチン化は遺伝子の発現制御と関連している(非特許文献9〜10)。すなわち、ユークロマチン化(euchromatinization)における遺伝子発現の誘導は一般的に、ヒストンH3の高アセチル化(hyperacetylation)に伴うヒストンH3の4番目のリシン残基(H3K4)及び36番目のリシン残基(H3K36)におけるメチル化と同時に起こる。これに対して、H3K9及びH3K27のメチル化はヒストンの脱アセチル化に続くクロマチン不活性化(ヘテロクロマチン化)の誘因となる。転写開始に合わせた動的で可逆的なヒストンのメチル化及びアセチル化は、転写伸長過程及び転写終了過程においても重要である(非特許文献8)。さらに、これらの修飾に加え、ヒストンH2Bの120番目のリシン残基におけるモノユビキチン化(H2B−K120−ub)は転写後修飾の開始過程に不可欠であることが近年証明された(非特許文献11)。このような転写制御におけるヒストン修飾の重要性と一致して、ヒストンの修飾を導入/除去する、機能的に対立した酵素のどちらもDNA結合転写因子の転写共制御因子(co−regulator)として機能することが知られている(非特許文献12〜14)。
【0003】
しかしながら、基本的な転写に関連したヒストン修飾の分子レベルでの理解は不十分であり、特にH2B−K120−ubと他のヒストン修飾との分子的関連については明らかになっていなかった。
【0004】
一方、前述のようなヒストン修飾と同様に、タンパク質のO−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)化は可逆的な現象であることが知られている(非特許文献15〜16)。修飾反応は二つの酵素、O−結合型N−アセチルグルコサミン転移酵素(OGT)及びO−結合型N−アセチルグルコサミン化酵素(OGA)により触媒され、これらの修飾は細胞質タンパク質及び核タンパク質の両方において検出されている。N−アセチルグルコサミン部分はヘキソサミン生合成経路(HBP)によりサイトゾルにおいて生成されるUDP−GlcNAcから得られる。UDP−GlcNAcの最初の供給源が細胞外グルコースであるため、タンパク質のO−結合型N−アセチルグルコサミン化の程度は細胞外グルコース濃度及び細胞内のHBP活性と共に変動することも明らかとなっている。
【0005】
しかしながら、タンパク質に結合しているN−結合型ポリサッカライド鎖とは異なり、O−結合型N−アセチルグルコサミン部分の生理的な役割はほとんど知られていない。特に、エネルギー代謝(及びその異常)に関係するものとしてモノグリコシル化の重要性が示唆されているが(非特許文献17〜18)、精密な検出系がなかったため、未解決のままであった。特に、タンパク質のO−結合型N−アセチルグルコサミン化の質量分析測定はイオン化過程において構造が破壊されてしまうため阻まれていた(非特許文献19)。さらに、この修飾は低分子量及び中性電荷であり、ゲル電気泳動においてスモールシフトとなってしまうため、検出することが困難であった。そのため、特異的抗体による免疫検出以外に、本可逆的修飾を精密に評価する分析方法は存在しない(非特許文献20〜21)。しかしながら、抗体の特異的認識は結合したタンパク質の三次元構造に影響を受けるため、抗体を全てのO−結合型N−アセチルグルコサミン化タンパク質に対応して用いることはできなかった。それでもなお、近年の質量分析によるアプローチの改善に伴って、鍵となる細胞内イベントに関与しているモノグリコシル化タンパク質の機能的特性評価により、O−結合型N−アセチルグルコサミン化タンパク質の生理学的重要性が示されている。さらに本発明者は、H3K4メチル転移酵素であるMLL5がOGTの基質であることを見出し、これにより核タンパク質のO−結合型N−アセチルグルコサミン化が、クロマチンの再編成における生命維持に重要な修飾であるということを実証した(非特許文献22〜23)。
【0006】
このように、OGTがヒストン修飾酵素の糖修飾を介して転写制御に寄与していることは実証されているが、ヒストンと糖修飾(グリコシル化)との直接的な関連性は未だ明らかになっていなかった。また、O−結合型N−アセチルグルコサミン化は細胞外のグルコース濃度に依存するため、核内の糖修飾反応と糖尿病を始めとする代謝性疾患(メタボリックシンドローム)との関連性は、未だ明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rosenfeldら、Genes Dev、2006年、20巻、11号、1405ページ
【非特許文献2】Liら、Cell、2007年、128巻、4号、707ページ
【非特許文献3】Strahlら、Nature、2000年、403巻、6765号、41ページ
【非特許文献4】Zhangら、Genes Dev、2001年、15巻、18号、2343ページ
【非特許文献5】Kouzaridesら、Cell、2007年、128巻、4号、693ページ
【非特許文献6】Camposら、Annu Rev Genet、2009年、43巻、559ページ
【非特許文献7】Bhaumikら、Nat Struct Mol Biol、2007年、14巻、11号、1008ページ
【非特許文献8】Shiら、Nat Rev Genet、2007年、8巻、11号、820ページ
【非特許文献9】Berger,ら、Nature、2007年、447巻、7143号、407 ページ
【非特許文献10】Weakeら、Mol Cell、2008年、29巻、6号、653ページ
【非特許文献11】Kim,ら、Cell 、2009年、137巻、3号、459ページ
【非特許文献12】Fujikiら、EMBO J、2005年、24巻、22号、3881ページ
【非特許文献13】Yokoyamaら、Genes Cells、2010年8月、15巻、8号、867ページ
【非特許文献14】Sawatsubashiら、Genes Dev、2009年、24巻、2号、159ページ
【非特許文献15】Hartら、Nature、2007年、446巻、7139号、1017ページ
【非特許文献16】Loveら、Sci STKE、2005年11月、2005巻、312号、ページ review13
【非特許文献17】Dentinら、Science、2008年、319巻、5868号、1402ページ
【非特許文献18】Yangら、Nature、2008年、451巻、7181号、964ページ
【非特許文献19】Chalkleyら、Proc Natl Acad Sci USA、2009年、106巻、22号、8894ページ
【非特許文献20】Khidekelら、Nat Chem Biol、2007年、3巻、6号、339ページ
【非特許文献21】Teoら、Nat Chem Biol、2010年、6巻、5号、338ページ
【非特許文献22】Fujikiら、Nature、2009年、459巻、7245号、455ページ
【非特許文献23】Chikanishiら、Biochem Biophys Res Commun、2010年、394巻、4号、865ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒストンタンパク質と糖修飾との直接的な関係を明らかにし、これによりヒストンタンパク質における糖修飾を検出することを可能とする方法を提供することにある。さらなる本発明の目的は、ヒストンタンパク質の糖修飾を検出することが可能な抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、核内においてヒストン(ヒストンH2B、ヒストンH2A、ヒストンH3、ヒストンH4)がグリコシル化(O−結合型N−アセチルグルコサミン化)されていること、特に、ヒストンH2BにおいてはN−アセチルグルコサミン化される部位が、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基であることを見出した。さらに、本発明者らは、ヒストンH2Bのグリコシル化された部位に結合する抗体を作製し、当該グリコシル化の機序につき更に研究を重ねた結果、このグリコシル化がHBPを介した細胞外グルコース濃度に依存するものであり、このグリコシル化の亢進によって、ヒストンH2Bのユビキチン化やヒストンH3のメチル化が誘導され、ひいてはPGK1遺伝子等の転写を活性化させることをも見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
(1)以下の(a)〜(b)の工程を含む、ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
(2)以下の(a)〜(b)の工程を含む、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することを特徴とする、血清グルコース量を評価するための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
(3)以下の(a)〜(b)の工程を含む、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することを特徴とする、メタボリックシンドロームを検査するための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
(4)以下の(a)〜(d)の工程を含む、メタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物をスクリーニングするための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料に被験化合物を接触させる工程
(c)被験化合物を接触させた前記試料におけるグリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程
(d)被験化合物を接触させない場合と比較して、(c)で検出されたグリコシル化されたヒストンタンパク質の量を減少させる化合物を選択する工程。
(5)前記検出は、前記ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体を用いることを特徴とする、(1)〜(4)のうちのいずれかに記載の方法。
(6)前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化である、(1)〜(5)のうちのいずれかに記載の方法。
(7)前記ヒストンタンパク質が、ヒストンH2A及びヒストンH2Bからなる群から選択される少なくとも一のタンパク質である、(1)〜(6)のうちのいずれかに記載の方法。
(8)前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、前記部位が、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基からなる群から選択される少なくとも一のセリン残基である、(1)〜(7)のうちのいずれかに記載の方法。
(9)前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化であり、前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、且つ前記部位が112番目のセリン残基である、(1)〜(8)のうちのいずれかに記載の方法。
(10)ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体。
(11)前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化である、(10)に記載の抗体。
(12)前記ヒストンタンパク質が、ヒストンH2A及びヒストンH2Bからなる群から選択される少なくとも一のタンパク質である、(10)又は(11)に記載の抗体。
(13)前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、前記部位が、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基からなる群から選択される少なくとも一のセリン残基である、(10)〜(12)のうちのいずれかに記載の抗体。
(14)前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、前記部位が112番目のセリン残基であり、且つ前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化である、(10)〜(13)のうちのいずれかに記載の抗体。
(15)(10)〜(14)のうちのいずれかに記載の抗体を有効成分とする、ヒストンコアのグリコシル化を検出するための薬剤。
(16)(10)〜(14)のうちのいずれかに記載の抗体を有効成分とする、血清グルコース量を評価するための薬剤。
(17)(10)〜(14)のうちのいずれかに記載の抗体を有効成分とする、メタボリックシンドロームを検査するための薬剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、ヒストンタンパク質がグリコシル化されること、および当該グリコシル化がされる部位が同定された。これによりヒストンタンパク質のグリコシル化を検出することが可能となり、ひいては、当該グリコシル化に関連する疾患の検査や治療薬の開発を行うことが可能となった。また、本発明の抗体の提供により、当該グリコシル化の検出や当該疾患の検査を簡便に行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】HelaS3細胞由来クロマチンからのN−アセチルグルコサミン化糖タンパク質の精製スキーム、並びに、1g/L(Low)グルコース含有DMEM及び4.5g/L(High)グルコース含有DMEMにおいて培養したHeLaS3細胞におけるO−結合型N−アセチルグルコサミン量をウェスタンブロッティング(WB)により分析した結果を示す概略図である。
【図2】WGAレクチン及びα−O−結合型N−アセチルグルコサミン(α−GlcNAc、RL2)抗体を用いた精製の結果を示す、銀染色を施したゲルの写真である。なお図中、「In」はクロマチン抽出物を示し、WGAの「E」はWGAレクチンアガロースカラムからの溶出画分を示し、WGAの「R」はWGAレクチンアガロースカラムの残留画分を示す。また、IgG1はα−GlcNAcに対する陰性対照であり、IgG1及びα−GlcNAcにおける♯1、♯2、及び♯3は、各々各抗体を用いて精製した際の1回目(GlcNAc−O−Serと共に溶出)、2回目(GlcNAc−O−Serと共に溶出)、及び3回目(酸性条件で溶出)の溶出画分を示す。
【図3】精製されたO−結合型N−アセチルグルコサミン糖タンパク質をDAVIDバイオインフォマティクスデータベースを用いて機能別に分類した結果を示す円グラフである。
【図4】精製されたO−結合型N−アセチルグルコサミン糖タンパク質をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図5】組み換えOGTタンパク質(rec.OGT)精製の結果を示す、CBB染色を施したゲルの写真である。図5中、矢印はOGTタンパク質を指し示す。
【図6】組み換えヒストンタンパク質を用いたインビトロOGT分析の結果を示す写真である。図6中の上段は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGTによって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)された各組み換えヒストンタンパク質を検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、下段は各組み換えヒストンタンパク質を検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図7】組み換えMLL5タンパク質を用いたインビトロOGT分析の結果を示す写真である。図7中の左側は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGTによって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)されたMLL5を検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、右側はMLL5を検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図8】インビトロにおいて再構成したヒストン8量体を用いたインビトロOGT分析の結果を示す写真である。図6中の上段は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGT(rec.OGT)によって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)された組み換えヒストンH2Bを検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、下段は各組み換えヒストンタンパク質を検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図9】Hela細胞(Human)及びショウジョウバエ(Fly)由来のヒストン8量体のN−アセチルグルコサミン化のインビトロOGT分析の結果を示す写真である。図9中の上段は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGTによって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)された組み換えヒストンH2Bを検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、下段は各組み換えヒストンタンパク質を検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図10】インビトロでN−アセチルグルコサミン化したヒストン8量体(0.5μg)をトリプシンで消化し、WGAレクチン結合磁性ビーズである程度濃縮して、上清(第一及び第三カラム)及び溶出液(第二及び第四カラム)をLC−ETD−MS/MSに供した、ヒストン8量体におけるO−結合型N−アセチルグルコサミンの識別過程の概略図である。
【図11】N−アセチルグルコサミン化ペプチドのETD−MS/MSスキャン(2349.43m/z)の結果を示す、スペクトル図である。なお、図中に示したアミノ酸の番号は最初のメチオニンから数えたアミノ酸の番号である。
【図12】N−アセチルグルコサミン化ペプチドのETD−MS/MSスキャン(m/z731.6080(3+))の結果、すなわちモノGlcNAcが91番目のセリンを介して結合しているH2Bの78〜94アミノ酸からなるペプチドを示すスペクトル図である。なお、図中に示したアミノ酸の番号は最初のメチオニンから数えたアミノ酸の番号である。
【図13】N−アセチルグルコサミン化ペプチドのETD−MS/MSスキャン(m/z588.0620(4+))の結果、すなわちモノGlcNAcが112番目のセリンを介して結合しているH2Bの95〜114アミノ酸からなるペプチドを示すスペクトル図である。なお、図中に示したアミノ酸の番号は最初のメチオニンから数えたアミノ酸の番号である。
【図14】N−アセチルグルコサミン化ペプチドのETD−MS/MSスキャン(m/z491.9090(3+))の結果、すなわちモノGlcNAcが123番目のセリンを介して結合しているH2Bの115〜126アミノ酸からなるペプチドを示すスペクトル図である。なお、図中に示したアミノ酸の番号は最初のメチオニンから数えたアミノ酸の番号である。
【図15】インビトロN−アセチルグルコサミン化H2Bの定量的TOF−MS分析の結果を示すスペクトル図である。
【図16】表1に記載のH2Bペプチドライブラリーを用いたO−結合型N−アセチルグルコサミンサイトのスキャン結果を示す。なお、図16中上段は、H2Bペプチドにおける位置を示しており、下段において、縦軸は類似するAla変異体(mutant)のコントロールペプチドを基準として標準化した量を示す。
【図17】インビトロN−アセチルグルコサミン化H2B部分ペプチド(101〜115アミノ酸)の定量的TOF−MS分析の結果を示すスペクトル図である。
【図18】インビトロN−アセチルグルコサミン化H2B部分ペプチド(111〜125アミノ酸)の定量的TOF−MS分析の結果を示すスペクトル図である。
【図19】インビボOGT分析に用いた組み換えH2B変異体を示す図である。
【図20】N末端尾部(N−terminal tail)が欠損しているアフリカツメガエル由来のH2B組み換え欠失体(H2B△(デルタ)N)を用いたインビボOGT分析の結果を示す。図20中の上段は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGTによって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)された各ヒストンH2Bを検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、下段は各ヒストンH2Bを検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図21】セリン/スレオニンをアラニンに置換したヒト由来のH2B組み換え変異体を用いたインビボOGT分析の結果を示す。図21中の上段は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGTによって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)された各ヒストンH2Bを検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、下段は各ヒストンH2Bを検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図22】セリン/スレオニンをアラニンに置換したヒト由来のH2B組み換え変異体を用いたを用いたインビボOGT分析の結果を示す。図22中の上段は、UDP−[H−]GlcNAc及び組み換えOGTによって放射性標識化(N−アセチルグルコサミン化)された各ヒストンH2Bを検出したオートラジオグラフィー(Auto)を示し、下段は各ヒストンH2Bを検出した、CBB染色が施されたゲルの写真(CBB)を示す。
【図23】H2BのC末端のαへリックス(αC)のアミノ酸配列を比較した結果を示す図である。図23中、黒色でラベルした「S」(112番目及び123番目のセリン残基)はN−アセチルグルコサミン化サイトを示し、ラベルした「K」(120番目のリシン残基)はユビキチン化サイトを示す。
【図24】ヌクレオソームにおけるH2BのO−結合型N−アセチルグルコサミンサイト及びユビキチン化サイトの位置を示すヌクレオソームの構造図である。なお図24中の白色のリボンはαCへリックスを示す。
【図25】抗原として用いた、112番目のセリンがN−アセチルグルコサミンされたヒストンH2Bの部分ペプチド(配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド)を示す図である。
【図26】ELISAによる、α−H2B−S112−GlcNAc抗体(抗ヒストンH2B Ser112 GlcNAc 抗体)の評価の結果を示すグラフである。なお、陰性対照にはN−アセチルグルコサミン化されていないヒストンH2Bの部分ペプチド(CKHAVSEGTK)を用いた。
【図27】インビトロでN−アセチルグルコサミン化したヒストンH2B及びヒストンH2A(各々0.5μg)を用いたウェスタンブロッティング解析による結果を示す写真である。
【図28】HeLa細胞に由来するクロマチン抽出物についてα−H2B−S112−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロッティング解析による結果を示す写真である。矢印はヒストンH2Bタンパク質を示し、アスタリスクは非特異的バンドを示す。
【図29】グルコース刺激後のヒストンH2BにおけるO−結合型N−アセチルグルコサミン化及びユビキチン化の経時変化をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図30】グルコース刺激後のヒストンH2BにおけるO−結合型N−アセチルグルコサミン化及びユビキチン化の経時変化を解析した結果を示すグラフである。なお、ウェスタンブロッティングのバンドの強度はImageJプログラムにより定量した。
【図31】OGTに対するshRNA(shOGT)の配列、及び組み換えレトロウィルスの構造、並びに組み換えレトロウィルスの感染及び選択を示す、概略図である。
【図32】shRNAによるOGTノックダウンの効率をウェスタンブロッティングによって分析した結果を示す写真である。なお、陰性対照としてルシフェラーゼに対するshRNA(shLuc)を用いた。
【図33】H2BのN−アセチルグルコサミン化のグルコース依存性アップレギュレーションに対する、OGTノックダウンの影響をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図34】HeLa細胞におけるH2BのN−アセチルグルコサミン化及びユビキチン化のグルコース依存性アップレギュレーションに対する、OGTノックダウンの影響をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図35】グルコース非含有(Cont.)、1mM ピルビン酸(Pyr)、10mM GlcNAc、若しくは4.5g/L−グルコース(Glc)含有DMEM、又は4.5g/L−グルコース(Glc)含有DMEM及び/又はHBP阻害剤(6−diazo−5−oxo−L−norleucine(100M、DON)若しくはazaserine(100M、AZA))含有DMEMを用いて培養したHeLa細胞におけるH2BのO−結合型N−アセチルグルコサミン量をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図36】HeLa細胞におけるH2BのN−アセチルグルコサミン化及びユビキチン化のグルコース依存性アップレギュレーションに対する、H2BのAA変異(N−アセチルグルコサミン化に必須のアミノ酸(S112及びT122)をアラニンに置換したヒストンH2B)をウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図37】ヒストンH2B(WT)又はH2BのAA変異と、BRE1Aとの相互作用を共免疫沈降法及びウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。
【図38】ヒストンH2B(WT)とBRE1Aとのグルコース依存的な相互作用を共免疫沈降法及びウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真である。なお、図中「cont.」はグルコース枯渇条件下での結果を示し、「Glc」はグルコース添加条件下での結果を示す。
【図39】組み換えユビキチンリガーゼ(rec.E1、rec.RAD6A、rec.BRE1A/1B 複合体)の精製の結果を示す、CBB染色が施されたゲルの写真を示す。矢印は各々所望の組み換えユビキチンリガーゼを指し示す。
【図40】H2Bと、組み換えE1−RAD6A−BRE1A/1Bユビキチンリガーゼとを用いたインビトロユビキチン化アッセイをウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真(中段及び下段)、並びにそれを数値化したグラフ(上段)を示す。
【図41】N−アセチルグルコサミン化H2Bを用いたインビトロユビキチン化アッセイを、α−H2B−K120−ub及びα−H2B抗体を用いたウェスタンブロッティングにより分析した結果を示す写真(中段及び下段)、並びにそれを数値化したグラフ(上段)を示す。
【図42】sxc/ogtの機能欠失型変異型を有する系統のハエ(sxc)又は野生型ハエ(+/+)と、In(1)Wm4h系統のハエとを交配させ、PEV(班入り位置効果)におけるヒストン修飾を、交配で得られた子孫の眼の色の領域によって解析した結果を示す、ハエの複眼の写真である。
【図43】図42に示した各ハエの複眼における波長480nmにおける吸光度(OD)を測定した結果を示すグラフである。なお、3回の独立した測定によって得られた平均値を標準誤差とともに示す。
【図44】ハエの野生型多糸染色体を、DAPI、α−H2B−S112−GlcNAc抗体、又はα−H3K4me2抗体(抗ヒストンH3の4番目のジメチル化リシン抗体)により免疫染色した結果を示す顕微鏡写真である。図中緑色に発光している部分はα−H2B−S112−GlcNAc抗体により染色された部分を示し、図中赤色に発光している部分はα−H3K4me2抗体により染色された部分を示し、図中青色に発光している部分はDAPIにより染色された部分を示す。また「Merge」はこれら染色写真を重ね合わせたものである。なお、ヒストンH3の4番目のジメチル化リシンは転写活性型クロマチン領域のマーカーであり、DAPIはDNAを染色する。
【図45】図44に示したハエの野生型多糸染色体の一部を拡大して観察した結果を示す顕微鏡写真である。また「Merge[DAPI(−)]」は、α−H2B−S112−GlcNAc抗体による免疫染色の写真と、α−H3K4me2抗体による免疫染色の写真とを重ね合わせたものである。
【図46】ハエの野生型多糸染色体を、DAPI、α−H2B−S112−GlcNAc抗体、又はα−H3K9me2抗体(抗ヒストンH3の9番目のジメチル化リシン抗体)により免疫染色した結果を示す顕微鏡写真である。図中緑色に発光している部分はα−H2B−S112−GlcNAc抗体により染色された部分を示し、図中赤色に発光している部分はα−H3K9me2抗体により染色された部分を示し、図中青色に発光している部分はDAPIにより染色された部分を示す。また「Merge」はこれら染色写真を重ね合わせたものである。なお、ヒストンH3の9番目のジメチル化リシンは転写抑制型クロマチン領域のマーカーであり、DAPIはDNAを染色する。
【図47】図46に示したハエの野生型多糸染色体の一部を拡大して観察した結果を示す顕微鏡写真である。また「Merge[DAPI(−)]」は、α−H2B−S112−GlcNAc抗体による免疫染色の写真と、α−H3K9me2抗体による免疫染色の写真とを重ね合わせたものである。
【図48】DAPI又はα−H2B−S112−GlcNAc抗体を用いた免疫染色によるN−アセチルグルコサミン化H2Bの細胞内分布の解析結果を示す顕微鏡写真である。「Merge」はDAPIによる染色写真とα−H2B−S112−GlcNAc抗体による染色写真とを重ね合わせたものである。
【図49】N−アセチルグルコサミン化H2Bサイトのゲノムワイド分布解析の結果を示す円グラフである。
【図50】HeLa細胞から得た全RNAを用いてマイクロアレイにより解析した、N−アセチルグルコサミン化H2Bサイトと各遺伝子における転写活性との相関を示すグラフである。
【図51】TSS(転写開始位置)及びTTS(転写終了位置)の近傍、又はChIP領域の遺伝子全体における平均プロファイルを示すグラフである。
【図52】H2BのN−アセチルグルコサミン化サイトにおける転写因子(HNF4)結合部位を示す図である。なお、表記はTRANSFACライブラリによる。
【図53】H2BのN−アセチルグルコサミン化サイトにおける転写因子(COUPTF)結合部位を示す図である。なお、表記はTRANSFACライブラリによる。
【図54】グルコース応答性遺伝子であるPGK1のプロモーター領域を用いたChIP−seq及びqPCRによる解析結果を示すグラフである。なお、図中上部にはPGK1のプロモーター領域、及び解析に用いたプライマーセットの位置を示した。また、ChIP(クロマチン免疫沈降法)は、α−H2B−S112−GlcNAc抗体、α−H3K4me3抗体(抗ヒストンH34番目のトリメチル化リシン抗体)、α−H2BK120Ub抗体、及びα−AcH3抗体(抗アセチル化ヒストンH3抗体)、並びにα−H2B抗体及びα−H3抗体を用いて行った。図中各グラフの縦軸は、各領域のヒストンH2B又はヒストンH3におけるグリコシル化、ユビキチン化、又はアセチル化されているヒストンタンパク質の割合を示す。また、図中黒い棒グラフはグルコース刺激後(Glc)の各ヒストン修飾の割合を示し、白い棒グラフはグルコース刺激前(Cont.)の各ヒストン修飾の割合を示す。
【図55】O−GlcNAcシグナル伝達過程における、N−アセチルグルコサミン化H2Bの機能についての概略図である。グルコースは解糖経路から分岐したHBP(ヘキサミン生合成経路)によってUDP−GlcNAcに代謝される。OGT活性はUDP−GlcNAcの細胞内濃度に依存しているため、H2BのO−GlcNAc修飾の程度は細胞外グルコースを反映している。N−アセチルグルコサミン化H2Bは、隣接したアミノ酸残基120番目のリシンのユビキチン化を行うBRE1複合体の標的となる。112番目のセリンのO−GlcNAc修飾と120番目のリシンのユビキチン化との間の、H2BのC末端のαへリックスにおいて同時に生じる活性化は、転写開始に必要なH3K4メチル化といった連続的な修飾反応の引き金となる。これらシグナル伝達過程の概念を図示した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法>
本発明のヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法は、以下の(a)〜(b)の工程を含む、
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程
方法である。
【0014】
本発明において「ヒストンタンパク質」とは、クロマチンの基本単位であるヌクレオソームを構成するコアヒストンタンパク質(H2A、H2B、H3、H4)及びリンカーヒストンタンパク質(H1)のことをいう。本発明におけるヒストンタンパク質にはこれらのバリアント、例えばH2AX、H2AZも含まれる。
【0015】
本発明における「グリコシル化」とは、ヒストンに対する糖鎖修飾のことをいう。糖鎖を構成する糖の種類は特に限定されることなく、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、キシロースが挙げられる。また、修飾は特に限定されることなく、例えば、ヒストン中のセリン又はスレオニン残基に糖鎖を付加するO結合型グリコシル化、およびヒストン中のアスパラギン残基に糖鎖を付加するN結合型グリコシル化が挙げられる。
【0016】
また、本発明において用いられる「試料」としては特に制限されることなく、例えば、細胞、組織、これらからのヒストンタンパク質を含む抽出物、または、精製または粗精製のヒストンタンパク質が挙げられる。ヒストンタンパク質を含む抽出物、または、精製または粗精製のヒストンタンパク質の調製は、公知の方法を適宜採択することにより行うことができる。例えば、後述の実施例<N−アセチルグルコサミン化糖タンパク質の生化学的精製及び同定>に記載の方法を挙げることができる。
【0017】
本発明における「グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する」方法としては、前記「ヒストンタンパク質を含む試料を調製する」工程にて調製された試料における、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することができる方法であれば良く、公知の方法を適宜採択することができる。例えば、後述の実施例<インビトロN−アセチルグルコサミン化分析(質量分析)>に記載のような質量分析を用いた方法や、<インビトロN−アセチルグルコサミン化分析(ウェスタンブロッティング解析)>に記載のような糖鎖を構成する糖又はグリコシル化された部位に結合する抗体を用いたウェスタンブロッティングを用いた方法や、これら抗体を用いた免疫沈降法や、後述の実施例<インビトロN−アセチルグルコサミン化分析(オートラジオグラフィー解析)>に示すような、オートラジオグラフィーによりグリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する方法が挙げられる。これらの中では、検出の特異性及び簡便性の観点から、糖鎖を構成する糖又はグリコシル化された部位に結合する抗体を用いた方法であることがより好ましい。さらに、糖鎖を構成する糖に結合する抗体よりも、高い特異性をもって検出することが可能であり、またグリコシル化された部位における立体障害等の影響を受けにくいという観点から、ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体を用いる方法であることが好ましい。
【0018】
検出されるヒストンタンパク質のグリコシル化としては特に制限されることはないが、N−アセチルグルコサミン化であることが好ましい。さらに、検出されるグリコシル化されたヒストンタンパク質としては特に制限されることはないが、グリコシル化されたヒストンH2A及び/又はヒストンH2Bであることが好ましい。
【0019】
検出されるグリコシル化されたヒストンタンパク質がヒストンH2Bである場合は、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基からなる群から選択される少なくとも一のセリン残基がグリコシル化されたヒストンH2Bであることが好ましく、112番目のセリン残基がN−アセチルグルコサミン化されたヒストンH2Bであることがより好ましい。
【0020】
<血清グルコース量を評価するための方法>
後述の実施例において示すように、グリコシル化されたヒストンタンパク質の量は、ヘキソサミン生合成経路(HBP)を介した細胞外グルコース濃度に依存していることから、ヒストンタンパク質のグリコシル化は血清グルコース量を検出するための指標となる。従って、本発明は、以下の(a)〜(b)の工程を含む、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することを特徴とする、血清グルコース量を評価するための方法を提供する
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
【0021】
本発明において「血清グルコース量」とは、血液中のグルコース量又は濃度を意味し、血糖値や血漿グルコース量をも包含している概念である。
【0022】
検出対象とする「グリコシル化されたヒストンタンパク質」としては、HBPを介した細胞外グルコース濃度に依存してグリコシル化が亢進されるヒストンタンパク質であれば特に制限されることはないが、1型(インスリン依存性)糖尿病と発現異常(亢進)との関連が明らかになっているという観点から(「Folliら、PLoS One、2010年3月29日、5巻、3号、e9923」及び「Suhailら、Indian L Med Res、1990年2月、92巻、21〜23ページ」参照)、ホスホグリセリン酸塩キナーゼ1(PGK1)遺伝子由来のグリコシル化されたヒストンタンパク質であることが好ましい。
【0023】
なお、「試料」、「ヒストンタンパク質を含む試料を調製する方法」、並びに「グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する方法」は、前記<ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法>と同様である。
【0024】
<メタボリックシンドロームを検査するための方法>
前述の通り、グリコシル化されたヒストンタンパク質の量は血清グルコース量を反映していることから、ヒストンタンパク質のグリコシル化を指標として、メタボリックシンドロームの検査を行うことが可能である。従って、本発明は、以下の(a)〜(b)の工程を含む、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することを特徴とする、メタボリックシンドロームを検査するための方法をも提供する
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
【0025】
本発明における「メタボリックシンドローム」とは、血清グルコース量の亢進に起因する疾患や症状であればよく、例えば、高血糖、高脂血症、高血圧、糖尿病(1型及び2型糖尿病)、動脈硬化、脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞、心不全が挙げられる。
【0026】
「試料」、「ヒストンタンパク質を含む試料を調製する方法」、「グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する方法」、並びに検出対象とする「グリコシル化されたヒストンタンパク質」は、前記<ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法>及び<血清グルコース量を評価するための方法>と同様である。
【0027】
本方法による検出の結果、グリコシル化されたヒストンタンパク質の量が対照(例えば、健常者におけるその量)よりも多い場合は、被験者は、メタボリックシンドロームに罹患している、又はその疑いがあると評価することができる。
【0028】
<メタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物をスクリーニングするための方法>
前述の通り、グリコシル化されたヒストンタンパク質の量は血清グルコース量を反映していることから、ヒストンタンパク質のグリコシル化を指標として、メタボリックシンドロームに対する医薬開発を行うことが可能である。従って、本発明は、以下の(a)〜(d)の工程を含む、メタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物をスクリーニングするための方法をも提供する
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料に被験化合物を接触させる工程
(c)被験化合物を接触させた前記試料におけるグリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程
(d)被験化合物を接触させない場合と比較して、(c)で検出されたグリコシル化されたヒストンタンパク質の量を減少させる化合物を選択する工程。
【0029】
本発明のスクリーニング方法において、ヒストンタンパク質を含む試料に接触させる「被験化合物」としては特に制限されることはなく、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)の抽出液及び培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。
【0030】
「試料」、「ヒストンタンパク質を含む試料を調製する方法」、「グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する方法」、検出対象とする「グリコシル化されたヒストンタンパク質」、並びに「メタボリックシンドローム」は、前記<ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法>、<血清グルコース量を評価するための方法>、及び<メタボリックシンドロームを検査するための方法>と同様である。
【0031】
なお、後述の実施例において示すように、グリコシル化されたヒストンタンパク質の量は、ヘキソサミン生合成経路(HBP)を介した細胞外グルコース濃度を反映していることから、この量の減少は、細胞外グルコース濃度の上昇に伴うシグナル伝達の活性化が抑制されていることを意味する。また、後述の実施例において示すように、ヒストンタンパク質のグリコシル化は、糖尿病の一因とされているPGK1遺伝子等の転写を活性化することから、グリコシル化されたヒストンタンパク質の量の減少すれば、細胞外グルコース濃度の上昇に伴い異常となった遺伝子又はタンパク質の発現の正常化がもたらされ得る。
【0032】
従って、検出の結果、被験化合物を接触させない場合と比較して、(c)で検出されたグリコシル化されたヒストンタンパク質の量が減少している場合は、その被験化合物をメタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物として選択することができる。
【0033】
<ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体>
本発明は、ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体を提供する。本発明の抗体による検出対象となる「グリコシル化」としては特に制限されることはないが、N−アセチルグルコサミン化であることが好ましい。さらに「ヒストンタンパク質」としては特に制限されることはないが、ヒストンH2A及び/又はヒストンH2Bであることが好ましい。また、グリコシル化されたヒストンタンパク質がヒストンH2Bである場合は、ヒストンH2Bの、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基からなる群から選択される少なくとも一のセリン残基がグリコシル化された部位であることが好ましく、ヒストンH2Bの112番目のセリン残基がN−アセチルグルコサミン化された部位であることがより好ましい。
【0034】
本発明の「抗体」としては、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、さらに抗体の機能的断片であってもよい。また、「抗体」には、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスが含まれる。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗体は、自然環境の成分から分離され、および/または回収された(即ち、単離された)抗体である。本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的蛋白質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0035】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(標的グリコシル化ヒストンタンパク質、その部分グリコシル化ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0036】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(標的グリコシル化ヒストンタンパク質、その部分グリコシル化ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、標的蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。標的蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0037】
組換えDNA法は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767−775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0038】
本発明の抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域およびCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との結合親和性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS,102:8466−8471(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:485−493(2008)、国際公開第2002/051870号、J.Biol.Chem.,280:24880−24887(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:345−351(2008))。
【0039】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。アミノ酸配列変異体は、抗原への結合活性が対照抗体(例えば、本実施例に記載の抗体 α−H2B−S112−GlcNAc抗体)と同等であることが好ましい。抗原への結合活性は、例えば、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、免疫染色法により評価することができる。
【0040】
<グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する薬剤、血清グルコース量を評価するための薬剤、及びメタボリックシンドロームを検査するための薬剤>
前述の通り、かかるヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体は、前記本発明のヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法、血清グルコース量を評価するための方法、及びメタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物をスクリーニングするための方法おける「グリコシル化されたヒストンタンパク質の検出」に好適に用いることができる。従って、本発明は、上記本発明の抗体を有効成分とする、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する薬剤、血清グルコース量を評価するための薬剤、及びメタボリックシンドロームを検査するための薬剤を提供する。
【0041】
本発明の薬剤の有効成分とする抗体としては、標識物質を結合させた抗体を使用することができる。当該標識を検出することにより、標的蛋白質に結合した抗体量を直接測定することが可能である。標識物質としては、抗体に結合することができ、化学的又は光学的方法に検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン、及び放射性物質などが挙げられる。
【0042】
また、標識物質を結合させた抗体を用いて標的蛋白質に結合した抗体量を直接測定する方法以外に、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法や二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法などの間接的検出方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、上記本発明の抗体に特異的な結合性を示す抗体である。例えば、上記本発明の抗体をウサギ抗体として調製した場合には、二次抗体として抗ウサギIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、本発明の抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択し、本発明において使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
【0043】
さらに、本発明の薬剤は、抗体成分の他、組成物として許容される他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩、などが挙げられる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D−マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはアジ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0044】
また、上記本発明の薬剤の他、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等を組み合わせることができ、グリコシル化されたヒストンタンパク質の検出用キット等とすることもできる。また、標識されていない抗体を抗体標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインAなど)を標識化したものを組み合わせることができる。さらに、グリコシル化されたヒストンタンパク質の検出用キット等には、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、各実施例は下記に記す方法に従って行った。
【0046】
<細胞の調製方法>
HeLa細胞は10%FBS含有DMEMで維持して以下の遺伝子導入等に供した。
【0047】
FLAGタグ配列を結合させたH2B又はその変異体を安定的に発現する細胞を調製するために、先ずは5’末端にFLAGタグ配列を結合させたH2BのcDNA、及びその変異体をpcDNA3(Invitrogen社製)にサブクローニングした。H2B部分変異体のシリーズはpET3ベクター(Novagen社製)にサブクローニングし、基本的な変異体作製方法に従って作製した。そして、HeLa細胞にFLAGタグ結合H2B又は変異H2BをコードするpcDNAベクターを導入し、これらのベクターを各々含む細胞を0.5mg/mL G418の条件下で培養することで選別した。
【0048】
また、OGTをノックダウンさせた細胞を調製するために、先ずhOGTをターゲットとしたshRNA配列(5’−GCACATAGCAATCTGGCTTCC−3’:配列番号1)及びRenilla LucをターゲットとしたshRNA配列(5’−TGCGTTGCTAGTACCAAC−3’
:配列番号2、非ターゲットコントロール)を、各々pSIREN−RetroQ−ZsGreenベクター(Clontech社製)に挿入した。さらに、レトロウイルス産生のため、構築したshRNAベクターをリポフェクトアミン2000溶液(Invitrogen社製)を用いてPLAT−A細胞に導入した。導入から24時間後に培養培地を10%FBS(ウシ胎児血清)含有DMEM(ダルベッコ変法イーグル)培地に交換し、次いで24時間細胞を培養した。そして、ウイルスを含む培地の上清を感染に用いた。なお、感染、感染細胞の選別等は、非特許文献22に記載の方法に従って行った。すなわち、レトロウイルス感染によってOGT−KD(ノックダウン)細胞を作成するために、60mmの培養ディッシュに10個の細胞を播種し、3mlのレトロウイルスカクテル(1ml:調製したレトロウイルス溶液、2ml:10%FBS及び8g/mLポリブレンを含有するDMEM培地)を用いて処理し、さらに48時間培養した。そして、FACS Vantage(BD社製)分類装置を用いて、レトロウイルスに感染したeGFP陽性の細胞を分離した。また、発現量及びノックダウンの効率は免疫ブロット及び免疫蛍光染色により確認した。
【0049】
また、核内におけるN−アセチルグルコサミン化の量をコントロールするために、先ずは4.5g/L グルコース含有培地で培養し(15分〜24時間)、次いで、グルコースを含有しないDMEM培地により24時間グルコースを枯渇させることで細胞に刺激を与え、適宜次の実験に供した。
【0050】
<モノクローナル抗体の作製方法>
112番目のセリンがN−アセチルグルコサミン化されたヒストンH2Bの部分ペプチド[CKHAV S(GlcNAc) EGTK:配列番号3]をMBL Institute,Inc.に委託して合成してもらい、マウスに免疫付与するために抗原として用いた。そして、この抗原を用いてモノクローナル抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をOperon Biotechnologiesに作製してもらい、得られたハイブリドーマをO−結合型N−アセチルグルコサミンペプチドと共にELISAを用いて簡易的にスクリーニングし、インビトロO−結合型N−アセチルグルコサミン化H2Bを用いた免疫ブロット分析により選別した。
【0051】
<免疫沈降及びウェスタンブロッティング>
免疫沈降及びウェスタンブロッティング(免疫ブロット)は本発明者等の報告済みの方法に従って行った。すなわち、クロマチン成分は4サイクルの超音波処理により、核の沈殿分画から抽出した。クロマチン抽出物又はα−FLAG M2アガロース(Sigma社製)による免疫沈澱物は、以下の抗体を用いたウェスタンブロッティングにより分析を行った。
α−H2A、α−H2B、α−H3、α−H4(Abcam社製)
α‐H2B−K120−ub(Upstate社製)
α‐O−GlcNAc(RL2又はCTD110.6、Abcam社製)
α−OGT(Sigma社製)
α−FLAG(Sigma社製)
α‐H2B−S112−GlcNAc(図25〜27において示した、Operon社に発注して作製した抗体)
α−MLL5(N)(Operon社製、非特許文献22 参照)
α−RNF20/BRE1A(Bethyl社製)。
【0052】
<組み換えタンパク質の作製>
組み換えタンパク質の調製は非特許文献11及び12に記載されている方法に従って行った。すなわち、組み換えFLAG−OGT,FLAG−E1,FLAG−BRE1A/B複合体はバキュロウイルスを用いて発現させ、α−FLAG M2アガロース(Sigma社製)を用いた免疫沈降を主とする精製により単離した。組み換え6×His−RAD6Aはバクテリアにおいて発現させ、HIS−Select Nickel Affinity Gel(Sigma社製)を用いてある程度単離した。溶出液は溶出液:BC0[20mM HEPES,0.2mM EDTA,10%(v/v) グリセロール,pH7.9]が1:20になるように希釈し、Rsource Q column(GE Healthcare社製)を用いてリニア濃度勾配(0〜0.5M KCl)により分画した。
【0053】
組み換えアフリカツメガエルヒストンH2B及びその変異体の調製は本発明者等の報告済みの方法に従って行った。すなわち、これらのタンパク質をBL21(DE3)pLysS(Promega社製)において単独に発現させ、これらの封入体を簡易的に分画した。沈殿したヒストンはDMSO及び7M グアニジウム−HClに可溶化させ、HiTrap Q HP(GE Healthcare社製)を通してさらに精製し、HiTrap SP HP(GE Healthcare社製)に結合させた。結合したヒストンはリニア濃度勾配(0.1〜0.4M NaCl、7Mウレアバッファー)により溶出した。
【0054】
<N−アセチルグルコサミン化糖タンパク質の生化学的精製及び同定>
O−結合型N−アセチルグルコサミン糖タンパク質を精製するために、15μgのα−O−GlcNAc(RL2)抗体(Abcam社製)は0.5mLのDynabeads M−280 Sheep α−Mouse IgG(Invitrogen社製)に製品の説明書に従って固定した。
【0055】
HeLa細胞からのクロマチン抽出物(0.5gタンパク質)は基本的に非特許文献14に記載の方法に準じて調製した。すなわち、クロマチン沈殿物は1mMストレプトゾトシン(STZ)含有バッファーを用いて調整した核抽出物の残留物として得られ、ミクロコッカスヌクレアーゼ(MNase)バッファー[20mM Tris−HCl,1mM CaCl,2mM MgCl,0.1M KCl,0.1%(v/v) Triton−X,0.3M スクロース,1mM DTT,1mM benzamidine,0.2mM PMSF,1mM STZ,pH7.9]に再懸濁した。3U/mL MNaseを加えた後、試料を30分室温において継続的にホモジナイズしながらインキュベートし、その後5mM EGTA及び5mM EDTAを加えることで反応を止めた。2000×gで30分間、4℃において遠心した後、上清(クロマチン抽出物)を得た。
【0056】
得られたクロマチン抽出物をWGAレクチンアガロースカラム(Vector社製)に通し、その流出分画をさらに前記α−O−GlcNAc抗体を固定化したビーズと混合し、4℃において8時間攪拌した。バッファーD[20mM Tris−HCl,0.2mM EDTA,5mM MgCl,0.1M KCl,0.05%(v/v)NP−40,10%(v/v) グリセロール,1mM DTT,1mM benzamidine,0.2mM PMSF,1mM STZ,pH7.9]を用いて3回洗浄した後、糖タンパク質を、0.4mg/mLのGlcNAc−O−Ser(MBL)を加えたバッファーDを用いて2回溶出し(elution#1及び#2)、最後に0.1M グリシン−HCl(pH2.0)を用いて溶出した(elution#3)。溶出されたタンパク質はメタノール−クロロホルム沈殿により脱塩し、トリプシン(Promega社製)により消化し、自動LC−MS/MS装置(C18 ESI逆相カラムを配管した(LC assist)Zaplous nano−LC (AMR)、Finnegan LTQ ion−trap mass spectrometer (Thermo))にロードした。LC−MS/MSデータはThermo BioWorks (Thermo)及びSEQUEST (Thermo)を用いて処理し、タンパク質を同定した。同定されたタンパク質は“gene functional classification tool”(DAVID bioinformatics resources 6.7 (http://david.abcc.ncifcrf.gov/))を用いて更に解析した。
【0057】
<インビトロN−アセチルグルコサミン化分析(ウェスタンブロッティング解析)>
組み換えOGTはフリーのヒストン、インビトロ会合ヒストン8量体と共にインキュベートした。H2BのN−アセチルグルコサミン化の効率はα−O−結合型N−アセチルグルコサミン(RL2)抗体を用いたWBにより分析した。
【0058】
<インビトロN−アセチルグルコサミン化分析(オートラジオグラフィー解析)>
組み換えFLAG−OGTタンパク質(0.5μg)を0.5μgの組み換えヒストン及び0.2mM(0.2μCi)のUDP−[H]GlcNAc(PerkinElmer社製)と共に25μLの反応液(50mM Tris−HCl,12.5mM MgCl,1mM DTT,pH7.5)において24時間、37℃でインキュベートした。反応液はSDS−PAGEを用いて分離し、PVDF膜にブロットし、ENHANCE(NEN Lifescience社製)を吹き付けた後にオートラジオグラフィーにより解析した。
【0059】
また、ヒトHela細胞及びハエS2細胞由来のコアヒストン八量体(0.5μg)と、組み換えOGTタンパク質(0.5μg)及びUDP−[H−]GlcNAc(0.2μCi)とを、37℃で10時間反応させた。得られた反応物は前記同様SDS−PAGEにより展開し、そしてメンブレン上に電気転写を行った。反応したヒストン八量体はCDD染色により可視化し、オートラジオグラフィー解析に供した。
【0060】
<インビトロN−アセチルグルコサミン化分析(質量分析)>
組み換えヒストン(1μg)又はインビトロにおいて再構成した組み換えヒストン8量体(1μg)は、組み換えFLAG−OGTにより、25μL反応液(50mM Tris−HCl,2mM UDP−GlcNAc,12.5mM MgCl,1mM DTT,pH7.5)において24時間、37℃でN−アセチルグルコサミン化した。反応液はナノ−LC ESI−TOF質量分析装置(ZORBAX 300SB−C18 カラム(Agilent)を配管した1100 nanoLC(Agilent)、micrOTOF (Bruker))を用いて解析した。また、反応液をトリプシン(Promega社製)により分断し、MB−LAC WGA kit(Bruker社製)を用いて糖ペプチドの精製を行った。濃縮糖ペプチドはナノ−LC ESI−ETDイオントラップ質量分析装置(ZORBAX 300SB−C18(Agilent社製)を配管したAgilent HP1200 Nano(Agilent社製)、amaZon ETD(Bruker社製))を用いて解析した。
【0061】
<インビトロユビキチン化分析>
N−アセチルグルコサミン化ヒストン(1μg)は、E1(0.1μg)、RAD6 (0.2μg)、BRE1複合体(0.5μg)、ユビキチン(3μg)を用いて、50mM Tris(pH7.9)、5mM MgCl、4mM ATPにおいて、24時間、37℃でユビキチン化した。そして、得られた反応生成物はSDS−PAGEによって展開し、ウェスタンブロッティング分析に供した。
【0062】
<ChIP−Seq及びChIP−qPCR>
ChIP及びChIP−Seqライブラリーの構築は「Heら、Nat Genet、2010年、42巻、4号、343〜347ページ」に記載の方法に従って行った。また、得られたライブラリーは、Genome Analyzer(Illumina社製)を用いて塩基配列(35塩基対)を決定した。さらに、ライブラリー中の興味ある断片は、特異的プロモータセットとThermal Cycler TP800(TAKARA社製)とSYBR Premix Ex Taq II(TAKARA社製)とを用いたqPCRにより定量した。なお、特異的プロモータセットは下記の通りである。
(For peak 1082PGK1遺伝子)
5’−CGGACGTGACAAACGGAAG−3’
:配列番号4
5’−CTATTGGCCACAGCCCATC−3’
:配列番号5
(PGK1遺伝子のエクソン3)
5’−ACAATGGAGCCAAGTCGGTAG−3’
:配列番号6
5’−TTGCCCAGCAGAGATTTGAG−3’
:配列番号7
(PGK1遺伝子のエクソン5)
5’−CCGAGCCAGCCAAAATAGAAG−3’
:配列番号8
5’−TGAGCAGTGCCAAAAGCATC−3’
:配列番号9
(PGK1遺伝子のエクソン7)
5’−AGTTGCAGACAAGATCCAGCTC−3’
:配列番号10
5’−TCCACTTGGCATTTGTTTCC−3’
:配列番号11
(PGK1遺伝子のエクソン9)
5’−GATTGTGTGGAATGGTCCTGTG−3’
:配列番号12
5’−AAGTGGCTTTCACCACCTCATC−3’
:配列番号13
(PGK1遺伝子の転写終了位置(TTS)
5’−AGGAGAATGGCGTGAACCTG−3’
:配列番号14
5’−CACACATGGGTATGCTCTTTATGC−3’
:配列番号15
なお、各プライマーセットとPGK1遺伝子との対応関係は図54に示した。
【0063】
(実施例1)
<核内におけるO−結合型N−アセチルグルコサミン化糖タンパク質の探索>
クロマチン再編成に寄与する未知の核内のN−アセチルグルコサミン化糖タンパク質を探索するために、O−結合型N−アセチルグルコサミン化部位を検出することができる特異的抗体を用いた免疫アフィニティー精製を行った。すなわち、タンパク質のO−結合型N−アセチルグルコサミン化は過剰にN−アセチルグルコサミン前駆体が存在することでひき起こされるため、先ず、HeLa細胞を高グルコース条件で培養し、かかる細胞からクロマチン抽出物を調製し、過剰なO−結合型N−アセチルグルコサミン化が生じていることを抗O−結合型N−アセチルグルコサミンモノクローナル抗体(RL2抗体)を用いたウェスタンブロッテッィングにより確認した(図1 参照)。次いで、かかるクロマチン抽出物を、WGAアガロースカラムと、固定化抗O−結合型N−アセチルグルコサミンモノクローナル(RL2)抗体をコートした磁性ビーズとを用いて、段階的に精製した(図2 参照)。そして、かかる精製物をトリプシンにより消化し、トリプシン処理したペプチドについて、液体クロマトグラフィー(LC)−マススペクトル(MS)/MS分析によりプロテオーム解析を行った。既に報告されている、RNAプロセッシング、翻訳、核内輸送において機能するO−結合型N−アセチルグルコサミン糖タンパク質を含む、全部で284の因子が確認された(図3 参照)。
【0064】
一方、前記精製物をSDS−PAGEにて展開し、銀染色を用いて分析することにより、ヒストン8量体を構成するヒストンタンパク質もO−結合型N−アセチルグルコサミン糖タンパク質になり得ることが明らかになった(図2 参照)。また、RL2抗体を用いて内在性のヒストンを検出することはできなかったが(図には示していない)、ヒストン8量体を構成するO−結合型N−アセチルグルコサミン糖タンパク質の存在はウェスタンブロッティングによる分析からも明らかになった(図4 参照)。
【0065】
(実施例2)
<精製ヒストンのO−結合型N−アセチルグルコサミン化>
OGTは、核内でタンパク質のO−結合型N−アセチルグルコサミン化をすることが知られている唯一の酵素であるため(「Dongら、J Biol Chem、2004年、279巻、3号、1577ページ」 参照)、ヒストンタンパク質はOGTの基質であるかどうかを検証した。先ず、組み換えヒトOGT(図5 参照)及びヒストンタンパク質(図6下段 参照)を用いて、インビトロ酵素分析を行った。得られた結果を図6に示す。図6に示した結果から明らかなように、ヒストンH2A及びH2B、ヒストンH2A変異体(H2A.X及びH2A.Z)は、既に本発明者等によってOGTの基質であることが明らかであるMLL5(図7 参照)と同様に、OGTによってインビトロでグリコシル化されることが明らかになった。
【0066】
次に、ヒストンを修飾する酵素の基質特異性は、8量体中に存在しているヒストンタンパク質と、単サブユニットで存在しているヒストンタンパク質とでは異なるため、ヒストン8量体をを用いて、インビトロ酵素分析を行った。得られた結果を図8及び図9に示す。図8及び図9に示した結果から明らかなように、ヒストン8量体においては、ヒストンH2Bがヒストン8量体の表面に露出し、OGTによってグリコシル化された(図8 参照)。また、会合したショウジョウバエ由来のヒストン8量体においても、ヒストンH2BがN−アセチルグルコサミン化されることが明らかになり(図9 参照)、ヒストンH2BのO−結合型N−アセチルグルコサミン修飾は後生動物においても起こることが実証された。
【0067】
(実施例3)
<ヒストンH2Bにおける、OGTによるN−アセチルグルコサミン化サイトの探索>
次に、OGTに媒介されるモノサッカライド付加部分の共通配列は分かっておらず(非特許文献19 参照)、関連するデータベースの検索が不可能であったため(「Kaleemら、J Cell Biochem、2008年、103巻、3号、835ページ」 参照)、二つの異なるアプローチ(質量分析及びH2Bペプチドライブラリを用いたインビトロOGT分析)によって、H2Bタンパク質におけるO−結合型N−アセチルグルコサミン化サイトの位置を決定することにした。
【0068】
先ず、質量分析によって、N−アセチルグルコサミン化H2Bヒストン8量体の電子移動解離(ETD)−MS/MSにより、理論的質量値から+203Da(N−アセチルグルコサミン部分の期待質量)シフトした位置に91番目のセリン、112番目のセリン及び123番目のセリンのピークがあることが明らかになった(図10〜14 参照)。また、四重極(Q)−TOF MS評価において、ジ−又はトリ−部分(N−アセチルグルコサミン化部分)と定量的に比較するとモノサッカライドの付加が影響を与えているようにも見えるが(図15 参照)、OGTは同時に最大3つのN−アセチルグルコサミンをヒストンH2Bに転移することができることが明らかになった。
【0069】
次に、H2Bペプチドライブラリを用いたインビトロOGT分析H2Bの全長をカバーする15merのペプチドアレイを用いたインビトロOGT(表1 参照)により、H2BのC末端のαへリックス(αC)における101〜115又は111〜125アミノ酸残基で、2つのピークが観察された(図16 参照)。しかしながら、101〜115ペプチドのピークは、111〜125ペプチドにおけるピークより十分に大きかった。これは、マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析によると、より大きな101〜115ペプチドにおけるピークは、単一の部分(N−アセチルグルコサミン化部分)を有しているためであると考えられる(図17〜18 参照)。これらの結果より、H2Bの第一のO−結合型N−アセチルグルコサミン化部位は112番目のセリンであることが示唆された。
【0070】
【表1】

【0071】
そして、112番目のセリンがN−アセチルグルコサミン化される部位であることを実証するため、ヒストンH2Bの変異体を大腸菌にて発現させ、インビトロのOGTアッセイに供した。ヒストンH2Bテール(tail、尾部)のセリン/スレオニン残基を各々アラニンに置換した変異体においては、112番目のセリンの置換体及び122番目のスレオニンの置換体を除いては、グリコシル化の程度は減少しなかった(図19〜図22 参照)。
【0072】
しかしながら、前述の通り、ETD−MS/MS分析では122番目のスレオニンはグリコシル化されそうにはなく、これらヒストンH2Bの2つの残基は後世動物において保存されており(図23 参照)、さらにヒストンH2Bタンパク質のα−へリックスにおいて構造上2つの残基は近接していることから(「Lugerら、Nature、1997年、389巻、6648号、251ページ」、図24 参照)、ヒストンH2Bタンパク質の112番目のセリンのN−アセチルグルコサミン化(H2B S112 GlcNAc)にはこのスレオニン残基は、おそらくはOGTの足場として機能するために必須であるということが示唆された。
【0073】
(実施例4)
<ヒストンH2Bタンパク質の112番目のセリンのN−アセチルグルコサミン化された部位に結合する抗体の作製及びその評価>
既存のO−結合型N−アセチルグルコサミンを検出する抗体では内在性のH2B−S112のグリコシル化を検出することはできなかったので(データは示していない)、生細胞におけるH2Bの112番目のセリンのN−アセチルグルコサミン化を観察するために、112番目のセリンがN−アセチルグルコサミン化されたH2Bペプチドに対するいくつかの抗体を作製した。得られたモノクローナル抗体からH2B−S112のN−アセチルグルコサミン化を高精度で特異的に検出できるものを選択し、これを以降の分析に用いた(以降、α−H2B−S112−GlcNAcとも称する。図25〜27 参照)。先ず、通常のHeLa細胞の培養条件において、H2Bの112番目のセリンはある程度O−結合型N−アセチルグルコサミン化されることが確認された(図28 参照)。次に、培養培地をグルコース枯渇培地にすると、急速に脱グルコシル化がひき起こされることが明らかになった(図28 参照)。一方、グルコースを徐々に補給するとH2B−S112−GlcNAc量は回復するも明らかになった(図29 参照)。特に、このようなグルコース濃度に応答したH2B−S112−GlcNAc量の変化はHeLa細胞の細胞倍化時間よりも早いものであることが明らかになった(図29及び図30 参照)。
【0074】
(実施例5)
<H2BN−アセチルグルコサミン化とH2Bモノユビキチン化との関連の有無についての検証>
次に、ヒストン修飾は相互に影響を及ぼしあってクロマチン状態を決定するため、H2B−S112−GlcNAcの他のヒストン修飾への影響を調べた。すなわち、従来のモノユビキチン化に関する報告から(「Sunら、Nature、2002年、418巻、6893号、104ページ」、「Minskyら、Nat Cell Biol、2008年、10巻、4号、483ページ」 参照)、H2Bの112番目のセリン残基の近傍において(図24 参照)、H2Bの120番目のリシンを分析対象として選択した。また、酵母菌におけるデータはグルコース及び他の糖質はH2Bの120番目のリシンのユビキチン化(H2B−K120−ub)をひき起こすことを示唆している(Dongら、J Biol Chem、2004年、279巻、3号、1577ページ 参照)。そこで、グルコース枯渇条件で24時間培養を行った細胞において、H2B−S112−GlcNAc量を増加するためのグルコース処理した後に、ユビキチン化を観察して経時的解析を行った。得られた結果を図29及び30に示す。図29及び30に示した結果から明らかなように、RL2免疫反応タンパク質として検出される、全タンパク質のN−アセチルグルコサミン化の段階的増加及びH2B−S112−GlcNAc量の明確な増加は2時間後に観察された。また、H2B−S112−GlcNAc量の有意な上昇の6時間後、H2B−K120−ub量の明確なアップレギュレーションが観察された。
【0075】
次に、H2B−S112−GlcNAcとH2B−K120−ubとの相関について、OGTに対する短いヘアピンRNAi構造(図31〜33 参照)を用いたOGTノックダウン実験によりさらに検討した。得られた結果を図34に示す。図34に示した結果から明らかなように、ノックダウンHeLa細胞において、クロマチンにおけるO−結合型N−アセチルグルコサミン量はH2B−K120−ub量の減少と共に減少した(図34 参照)。従って、HeLa細胞において、H2Bの112番目のセリンのグリコシル化がH2Bの120番目のリシンのモノユビキチン化を促進することが明らかになった。
【0076】
(実施例6)
<H2Bの112番目のセリンのN−アセチルグルコサミン化及び120番目のリシンのモノユビキチン化と、細胞外グルコース及び細胞間ヘキソサミン生合成経路との相関についての検証>
前述のH2Bの112番目のセリンのN−アセチルグルコサミン化及び120番目のリシンのモノユビキチン化は、どのような糖の代謝経路に依存しているのかを検証するために、前述のグルコース(Glc)の代わりに、ピルビン酸(Pyr)又はグルコサミン(GlcNAc)を添加して、実施例5に記載と同様の分析を行った。得られた結果を図35に示す。図35に示した結果から明らかなように、ピルビン酸ではなく、グルコサミンがH2BのN−アセチルグルコサミン化を亢進させることができたため、他のN−アセチルグルコサミン化タンパク質のように、H2Bの112番目のセリンのN−アセチルグルコサミン化はHBP経路に依存していることが示唆された。
【0077】
この点について更に解明するために、HBP経路をブロックする二つの阻害剤(DON及びAZA)をグルコースよってひき起こされるH2Bの112番目のセリンのグリコシル化において検証した。得られた結果を図35に示す。図35に示した結果から明らかなように、どちらの阻害剤もグリコシル化を低下させた。特に、H2Bの112番目のセリンのグリコシル化が低下する条件下では、H2B−K120−ub量もまたダウンレギュレートされた。
【0078】
また、OGTによるN−アセチルグルコサミン化に必須のアミノ酸(S112及びT122)をアラニンに置換したAA変異H2Bを用いて同様の試験を行った。得られた結果を図36に示す。図36に示した結果から明らかなように、この変異体の過剰発現においては、H2B−S112−GlcNAc量及びH2B−K120−ub量のグルコース応答性が消失していた。OGTによるタンパク質のN−アセチルグルコサミン化はHBPを介した細胞外グルコースから供給される細胞内のUDP−GlcNAc量に依存するという本発明者等による先の報告(非特許文献22及び23 参照)と併せて、これらの結果より、H2B−S112−GlcNAc量はH2B−K120−ub量と同様に細胞外グルコース濃度とHBP経路の状態との両方に応じて変動することが明らかになった。
【0079】
従って、HBPを介した細胞外グルコース濃度の上昇に依存して、OGTの酵素活性は亢進され、次いでヒストンのグリコシル化は亢進されるので、グリコシル化されたヒストンタンパク質は血清グルコース量の検出指標になる得ることも明らかとなった。
【0080】
(実施例7)
<H2BのN−アセチルグルコサミン化からH2Bのユビキチン化に至る分子的機序の解析>
生細胞内で見られる、H2B−S112−GlcNAcに続いて生じるH2B−K120−ubの分子的機序を解析した。E3リガーゼに媒介されるユビキチン化のための標識として、糖タンパク質と結合しているサッカライドにおけるN−アセチルグルコサミン部分が提供されることが示されていることから(「Yoshidaら、Nature、2002年、418巻、6896号、438ページ」 参照)、我々はH2BユビキチンE3リガーゼがN−アセチルグルコサミン化H2B−S112に集積されることの可能性を検討した。すなわち、H2Bの120番目のリシン部位にモノユビキチン化をもたらすことがインビトロにおいて証明されている、H2BのE3リガーゼ、BRE1A/1B複合体を用いて分析した。得られた結果を図37及び図38に示す。図37及び図38に示した結果から明らかなように、HeLa細胞においてBRE1Aと標識化ヒストンH2Bの共免疫沈降が観察された。一方、標識化AA変異H2BはBRE1Aと結合しなかった(図37 参照)。また、この内在性BRE1Aと内在性ヒストンH2Bとの結合はグルコース枯渇(cont.)により減少した一方で、グルコースの添加(Glc)後に急速に回復した(図38 参照)。
【0081】
さらに、生体内におけるこれらの結果を確かめるために、インビトロで得たN−アセチルグルコサミン化組み換えH2Bタンパク質、並びに、組み換えE1、RAD6A(E2)、及びBRE1A/1B複合体(E3)を用いてインビトロユビキチン化分析を行った。得られた結果を図41に示す。図41に示した結果から明らかなように、BRE1複合体が存在しなくとも、E1及びRAD6AによってH2B−K120はある程度モノユビキチン化された。このユビキチン化はE3 BRE1A/1B 複合体(図39及び図40 参照)の存在下において有意に促進された。また、これらの条件下において、112番目のセリンがO−結合型N−アセチルグルコサミン化されているH2Bは、より効率よくモノユビキチン化されることが明らかになった(図41 参照)。従って、H2B−S112のN−アセチルグルコサミンがH2B−K120のモノユビキチン化を促進するユビキチンホロリガーゼを固定していることが示唆された。
【0082】
(実施例8)
<真正染色質領域とH2B S112 GlcNAcサイトとの相関についての検証>
OGTが転写の共活性化の構成要素であるという本発明者らの以前の報告から(非特許文献23 参照)、H2B−S112−GlcNAcがクロマチンの活性化に関係していることが推測されるので、先ず、遺伝的アプローチ(白色遺伝子座がヘテロクロマチンに近接すると眼色がモザイクパターンを示すショウジョウバエ変異体(In(1)Wm4h)における班入り位置効果の多様化(PEV))を利用したPEVシステムにより(「Zhaoら、Cell、2008年、29巻、1号、92ページ」 参照)、OGT変異体において、クロマチン再構成におけるOGTの生理的役割を検証した。得られた結果を図42及び図43に示す。図42及び図43に示した結果から明らかなように、OGTの機能欠損変異体[super sex comb (sxc)](「Gambettaら、Science、2009年、325巻、5936号、93ページ」及び「Sinclairら、Proc Natl Acad Sci USA、2009年、106巻、32号、13427ページ」 参照)とかけあわせると、白色眼の遺伝子型が観察されたことから、OGTはクロマチンの不活性化を抑制することが明らかになった。
【0083】
次に、クロマチン状態におけるH2B−S112−GlcNAcの機能をより直接的に評価するために、我々はクロマチンの状態を示すマーカーを用いて、ハエの多糸染色体上のクロマチンにおける局在を調べた。得られた結果を図44〜48に示す。図44〜48に示した結果から明らかなように、H2B−S112−GlcNAcの領域は、H2B−K120−ubと同様に、H3K9 me2(ヒストンH3のジメチル化された9番目のリシン)の領域よりもよりH3K4 me2(ヒストンH3のジメチル化された4番目のリシン)の領域と重なっていた(図44〜47 参照)。また、H2B−S112−GlcNAcサイトはHeLa細胞において、真正染色質領域に濃縮されていた(図48 参照)。従って、少なくともハエの多糸染色体上では、H2B−S112−GlcNAcはクロマチンの不活性化よりもむしろクロマチンの活性化をサポートしていることが明らかになった。
【0084】
さらに、H2B−S112−GlcNAcのクロモソームレベルでの役割をより明らかにするために、α−H2B−S112−GlcNAcポリクローナル抗体を用いたクロマチン免疫沈降法によりHeLa細胞のゲノムワイド位置解析及び濃縮DNA断片のハイスループットシークエンシングを行った。得られた結果を図49〜52に示す。図49〜52に示した結果から明らかなように、H2B−S112−GlcNAcの濃縮は1088染色体領域において広範囲に分散しており、それらの半分は識別されたRefgenesの位置の10kb以内に位置していた(図49 参照)。また、H2B−S112−GlcNAcは主に遺伝子本体をカバーしていたが、プロモーター及び隣接する下流領域においてもその存在が確認された。そして、遺伝子発現マイクロアレイの解析においては、識別されたRefseq遺伝子の半分以上において転写活性が確認された(図50 参照)。また、メタ遺伝子座におけるH2B−S112−GlcNAcシグナルの平均プロファイル解析により、H2B−S112−GlcNAcシグナルは転写開始位置(TSS)において濃縮され、転写終了位置(TTS)まで維持されることが明らかになった(図51 参照)。Seqpos及びTRASFACモチーフ解析によると、グリコシル化濃縮領域はHNF4やCOUPTFsのようなエネルギー代謝に関連する多くの転写因子の結合モチーフ(転写因子結合サイトのコンセンサス配列)を含んでいることが確認された(表2、図52及び図53 参照)。
【0085】
【表2】

【0086】
(実施例9)
<PGK1遺伝子における転写制御とH2B S112 GlcNAcサイトとの相関についての検証>
次に、前述のゲノムワイド位置解析の正当性を検証するために、ホスホグリセリン酸塩キナーゼ1(PGK1)遺伝子をRefseq遺伝子から選択し、ヒストン修飾解析を行った。すなわち、この遺伝子のプロモーターはHNF4結合部位を有し、そのプロモータ機能はグルコースに反応性を示すことが知られていることから(データは示していない)、プロモータ領域におけるヒストンH2Bの修飾を調べた。得られた結果を図54に示す。図54に示した結果から明らかなように、高濃度グルコース処理の後、H2B−S112−GlcNAcは12時間以内に急速に増加し、それに続いてH2B−K120−ub及びH3K4のメチル化が急速に増加した。
【0087】
従って、図55に示すように、HBPを介した細胞外グルコース濃度の上昇に依存して、OGTの酵素活性は亢進され、次いでPGK1遺伝子等におけるヒストンのグリコシル化が亢進される。また、かかるグリコシル化ヒストンの亢進は、ヒストンH2Bの120番目のリシンのユビキチン化、ヒストンH3の4番目のリシンのメチル化を誘導し、ひいてはPGK1遺伝子等の転写を活性化させることが明らかになった。
【0088】
また「Folliら、PLoS One、2010年3月29日、5巻、3号、e9923」及び「Suhailら、Indian L Med Res、1990年2月、92巻、21〜23ページ」参照)に示されているように、PGK1遺伝子の発現異常(亢進)と1型(インスリン依存性)糖尿病との関連性は明らかになっているため、ヒストンタンパク質のグリコシル化を指標とした糖尿病等のメタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物のスクリーニングを行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明により、ヒストンタンパク質のグリコシル化の検出が可能となり、さらには、当該ヒストンタンパク質のグリコシル化を指標として、血清グルコース量の評価、メタボリックシンドロームの検査、及びメタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物のスクリーニングが可能となった。従って、本発明は、ヒストンタンパク質のグリコシル化と関係する生体内の機序の解明などを目的とする研究の他、糖尿病等のメタボリックシンドロームの検査や治療薬の開発等の医療分野において利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1〜2
<223> shRNAの標的配列
配列番号3
<223> O−結合型N−アセチルグルコサミン化
配列番号4〜15
<223> 人工的に合成されたプライマーの配列
配列番号16〜61
<223> 人工的に合成されたポリペプチドの配列
配列番号67〜85
<223> 転写因子結合サイトのコンセンサス配列
配列番号67、68、70、73、74、76、80、83、及び84
<223> nは任意の塩基を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(b)の工程を含む、ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
【請求項2】
以下の(a)〜(b)の工程を含む、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することを特徴とする、血清グルコース量を評価するための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
【請求項3】
以下の(a)〜(b)の工程を含む、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出することを特徴とする、メタボリックシンドロームを検査するための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料において、グリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程。
【請求項4】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、メタボリックシンドロームに対する医薬品候補化合物をスクリーニングするための方法
(a)ヒストンタンパク質を含む試料を調製する工程
(b)前記試料に被験化合物を接触させる工程
(c)被験化合物を接触させた前記試料におけるグリコシル化されたヒストンタンパク質を検出する工程
(d)被験化合物を接触させない場合と比較して、(c)で検出されたグリコシル化されたヒストンタンパク質の量を減少させる化合物を選択する工程。
【請求項5】
前記検出は、前記ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体を用いることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化である、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒストンタンパク質が、ヒストンH2A及びヒストンH2Bからなる群から選択される少なくとも一のタンパク質である、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、前記部位が、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基からなる群から選択される少なくとも一のセリン残基である、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化であり、前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、且つ前記部位が112番目のセリン残基である、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ヒストンタンパク質のグリコシル化された部位に結合する抗体
【請求項11】
前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化である、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
前記ヒストンタンパク質が、ヒストンH2A及びヒストンH2Bからなる群から選択される少なくとも一のタンパク質である、請求項10又は11に記載の抗体。
【請求項13】
前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、前記部位が、91番目のセリン残基、112番目のセリン残基、及び123番目のセリン残基からなる群から選択される少なくとも一のセリン残基である、請求項10〜12のうちのいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
前記ヒストンタンパク質がヒストンH2Bであり、前記部位が112番目のセリン残基であり、且つ前記グリコシル化がN−アセチルグルコサミン化である、請求項10〜13のうちのいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
請求項10〜14のうちのいずれか一項に記載の抗体を有効成分とする、ヒストンタンパク質のグリコシル化を検出するための薬剤。
【請求項16】
請求項10〜14のうちのいずれか一項に記載の抗体を有効成分とする、血清グルコース量を評価するための薬剤。
【請求項17】
請求項10〜14のうちのいずれか一項に記載の抗体を有効成分とする、メタボリックシンドロームを検査するための薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【公開番号】特開2012−83193(P2012−83193A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229477(P2010−229477)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】