説明

ヒストンデアセチラーゼ阻害剤

【課題】 本発明の目的は、メルカプトアセトフェノン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤等を提供することである。より具体的には癌、腫瘍、神経変性疾患等の予防および/または治療等に有用なHDAC阻害剤を提供することが本発明の目的である。
【解決手段】 式(I)
【化17】


〔式中、R1は水素原子、置換もしくは非置換の低級アシル、CONHCH(R3)CO2R4(式中、R3は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、R4は水素原子または低級アルキルを表す)等を表し、
R2は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、
Arは置換もしくは非置換のアリールを表す〕等で表されるメルカプトアセトフェノン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するHDAC阻害剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高等生物の核DNAは、ヌクレオソームと呼ばれる構造体として存在しており、その高次構造の制御は、DNA上の遺伝子情報の発現に重要な役割を担っている。核DNAは高度に凝縮した構造をとることで細胞内に存在することが可能になるが、その核DNAとともにヌクレオソームの基本構造を構成するのがヒストンと呼ばれる蛋白質であり、DNAは4種類のコアヒストン(H2A, H2B, H3, H4)からなる8量体構造の周りに巻きついたコンパクトな構造(ヌクレオソーム構造)を形作っている。ヒストンのN末端領域には塩基性アミノ酸が多く、この部分がDNAの負に荷電したリン酸(phosphate)骨格部分と電気的な相互作用をすることで、DNAとヒストンの結合を維持していると考えられている[“ネイチャー・レビューズ・モレキュラー・セル・バイオロジー(Nat. Rev. Mol. Cell Biol.)”,2001年,第2巻,p.422-432)。
【0003】
また、ヒストンを介した、DNAの凝縮した構造体への変化は、ヒストンN末端領域における様々な修飾により影響を受けることが明らかになっている。中でも、ヒストンN末端領域のリジン残基で起こる可逆的なアセチル化と脱アセチル化は、ヒストン-DNAまたはヒストン-非ヒストン蛋白質の相互作用の制御に重要な役割を果たすことが知られている[“カレント・オピニオン・イン・ジェネティックス・アンド・ディベロップメント(Current Opinion in Genetics & Development)”,2001年,第11巻,p.155-161、“カレント・オピニオン・イン・ジェネティックス アンド ディベロップメント(Current Opinion in Genetics & Development) ”,2001年,第11巻,p.162-166]。このようなヒストンN末端領域での可逆的なアセチル化と脱アセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と呼ばれる2種のファミリーに分類される酵素により行われており、転写促進因子複合体がHAT活性を有することや、HDACが転写抑制因子により標的遺伝子のプロモーター近傍にリクルートされることから、ヒストンアセチル化と転写活性化が密接に関連することが知られている。
【0004】
また、複数のヒト癌において、HATおよびHDAC活性の脱調節が関与することが知られている。代表的な例として、急性前骨髄球性白血病(APL)で多く見られる染色体のt(15;17)転座では、PML転写因子にレチノイン酸レセプターが融合したキメラ蛋白質(PML-RARα)が発現することが知られている。このキメラ蛋白質によるHDACのリクルートが、レチノイン酸による転写活性化を抑制することで、血球系細胞の正常な分化を抑制し、細胞癌化につながると考えられている[ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genet.) ”,1998年,第18巻,p.126-135]。したがって、HDACの機能を阻害することは、癌化した細胞の転写抑制を解除し、分化を誘導すると期待される[“ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・キャンサー・インスティチュート(J. Natl. Cancer Inst.) ”,1998年,第90巻,p.1621-1625]
また、HDAC機能を阻害することは、ヒストンのアセチル化亢進による遺伝子の転写活性化を介した様々な細胞応答を引き起こし、上記白血病細胞に対する正常な分化誘導だけでなく、固形癌由来の細胞に対しては、細胞周期を停止し増殖を抑制したり、アポトーシス誘導を伴う抗腫瘍活性を有することが、複数のHDAC阻害剤により報告されている。
【0005】
さらに、HDACと転写調節との関わりについて解析が進み、HDACが癌に限らず広くヒト疾患に関与する可能性が知られている。例えば、ポリグルタミン・リピートが関与するハンチントン症等の神経変性疾患に対しては、HDAC阻害剤がポリグルタミン・リピートによる転写障害を阻害することにより、新たな治療薬になる可能性が示唆されており[“ネイチャー(Nature)”, 2001年,第413巻,p.739-743、“プロシーディング・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci.)”,2003年,第100巻,p.2041-2046]、また、酸化ストレスによる神経変性疾患に対しても、HDAC阻害剤が酸化ストレスによる神経変性抑制効果を有することが報告されており[“プロシーディング・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci.)”,2003年,第100巻,p.4281-4286]、HDAC阻害剤は神経変性が原因となる疾患に有効な薬剤として注目されている。一方、全く別のアプローチから、抗てんかん薬として使用されているバルプロ酸がHDAC阻害活性を有することが見出され、バルプロ酸が有する抗てんかん作用にHDAC阻害を介した遺伝子発現調節が関与する可能性も示唆されている[“ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)”,2001年,第276巻,p.36734-36741、“ザ・エンボ・ジャーナル(EMBO. J.)”,2001年,第20巻,p.6969-6978]。
【0006】
このように、HDAC阻害剤は、細胞増殖・分化調節を介した抗癌剤としての応用に限らず、様々な組織の機能調節を通して、例えば神経変性疾患等への適用も考えられ、新しい疾患治療薬として有望といえる。
【0007】
従来、HDAC阻害作用を有する化合物としては、天然物に由来するものや合成化合物等、数多くの構造体が報告されている(非特許文献1および非特許文献2等参照)。
【非特許文献1】“ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・キャンサー・インスティチュート(J. Natl. Cancer Inst.)”,2000年, 第92巻,p.1210-1216
【非特許文献2】“ネイチャー・レビューズ・キャンサー(Nature Rev. Cancer)”,2001年,第1巻,p.194-202)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、メルカプトアセトフェノン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するHDAC阻害剤を提供することである。より具体的には癌、腫瘍、神経変性疾患等の予防および/または治療等に有用なHDAC阻害剤を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の(1)〜(7)に関する。
(1) 式(I)
【0010】
【化6】

【0011】
〔式中、R1は水素原子、置換もしくは非置換の低級アシル、CONHCH(R3)CO2R4(式中、R3は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、R4は水素原子または低級アルキルを表す)、式(T)
【0012】
【化7】

【0013】
(式中、R5は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)
または式(U)
【0014】
【化8】

【0015】
(式中、R6は低級アルキルを表し、R7は置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の芳香族複素環基を表す)を表し、
R2は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、
Arは置換もしくは非置換のアリールを表す〕で表されるメルカプトアセトフェノン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤。
(2) R2が水素原子である上記(1)記載のHDAC阻害剤。
(3) R1がCONHCH(R3)CO2R4であり、R3がフェニル基で置換された低級アルキルである上記(1)または(2)記載のHDAC阻害剤。
(4) R1がCONHCH(R3)CO2R4であり、R4が水素原子である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のHDAC阻害剤。
(5) R1が式(T)
【0016】
【化9】

【0017】
であり、R5が水素原子または非置換の低級アルキルである上記(1)または(2)記載のHDAC阻害剤。
(6) R1が式(U)
【0018】
【化10】

【0019】
であり、R7が置換もしくは非置換の芳香族複素環基である上記(1)または(2)記載のHDAC阻害剤。
(7) R1が水素原子または非置換の低級アシルである上記(1)または(2)記載のHDAC阻害剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、癌、腫瘍、神経変性疾患等の予防および/または治療等に有用な、メルカプトアセトフェノン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するHDAC阻害剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、式(I)で表される化合物を化合物(I)という。他の式番号の化合物についても同様である。
化合物(I)の各基の定義において、
(i)低級アルキルとしては、例えば炭素原子数1〜6の直鎖または分岐状のアルキル、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル等があげられる。
(ii)アリールとしては、例えばフェニル、ナフチル等があげられる。
(iii)芳香族複素環基としては、例えば窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員または6員の単環性芳香族複素環基、3〜8員の環が縮合した二環または三環性で窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環基等があげられ、具体的にはフリル、チエニル、ベンゾチエニル、ピロリル、ピリジル、ピラジニル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、ピリミジニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、キナゾリニル、ピラニル等があげられ、好ましくはインドリルがあげられる。
(iv)低級アシルとしては、例えば炭素原子数1〜6の直鎖または分岐状のアシル、具体的にはホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル等があげられる。
(v)置換低級アルキルおよび置換低級アシルにおける置換基としては、例えば同一または異なって置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、シクロアルキル、アリール、置換アリール(該置換アリールにおける置換基は後記の置換アリールにおける置換基と同義である)等があげられる。
ここで示したアリールは、前記アリールと同義である。また、ここで示したハロゲンとしては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等の各原子があげられ、シクロアルキルとしては、例えば炭素原子数3〜8のシクロアルキルがあげられ、具体的にはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等があげられる。
【0022】
(vi)置換アリールおよび置換芳香族複素環基における置換基としては、例えば同一または異なって置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ホルミル、低級アルキル、低級アルコキシ、置換もしくは非置換のアリール(該置換アリールにおける置換基としては、例えば同一または異なって例えば置換数1〜3の、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシ等があげられる)等があげられる。
ここで示した低級アルキルおよび低級アルコキシの低級アルキル部分は前記低級アルキルと同義であり、アリールは、前記アリールと同義である。また、ハロゲンは前記のハロゲンと同義である。
【0023】
化合物(I)の薬学的に許容される塩は、例えば薬学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等を包含する。化合物(I)の薬学的に許容される酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩等の有機酸塩等があげられ、薬学的に許容される金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられ、薬学的に許容されるアンモニウム塩としては、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩があげられ、薬学的に許容される有機アミン付加塩としては、例えばモルホリン、ピペリジン等の付加塩があげられ、薬学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、例えばリジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩があげられる。
【0024】
次に化合物(I)の製造法について説明する。なお、以下に示す製造法において、定義した基が実施方法の条件下で変化するかまたは方法を実施するのに不適切な場合、有機合成化学で常用される保護基の導入および除去方法[例えば、グリーン(T. W. Greene)著,“プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)”,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレイテッド(John Wiley & Sons Inc.),1981年等]を用いることにより、目的化合物を得ることができる。また、必要に応じて置換基導入等の反応工程の順序を変えることもできる。
【0025】
化合物(I)は、以下の反応工程に従い製造することができる。
製造法1
化合物(I)のうち、R1が水素原子である化合物(Ia)は、“新実験化学講座”,丸善株式会社,1978年,第14巻,p.1699、“シンセシス-スツットガルト(Synthesis-Stuttgart)”,1995年,p.373、“テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Lett.) ”,1999年,第40巻,p.603等に記載の方法に準じて合成することができる。
【0026】
【化11】

【0027】
(式中、R2およびArはそれぞれ前記と同義であり、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を表す)
製造法2
化合物(I)のうち、R1が置換もしくは非置換の低級アシルである化合物(Ib)は、化合物(Ia)から、“新実験化学講座”,丸善株式会社,1978年,第14巻,p.1823等に記載の方法に準じて合成することができる。
【0028】
【化12】

【0029】
(式中、R2およびArはそれぞれ前記と同義であり、R8は置換もしくは非置換の低級アシルを表す)
製造法3
化合物(I)のうち、R1がCONHCH(R3)CO2R4である化合物(Ic)は、化合物(Ia)から、“新実験化学講座”,丸善株式会社,1978年,第14巻,p.1658等に記載の方法に準じて合成することができる。
【0030】
【化13】

【0031】
(式中、R2、R3、R4およびArはそれぞれ前記と同義である)
製造法4
化合物(I)のうち、R1が式(T)
【0032】
【化14】

【0033】
(式中、R5は前記と同義である)
である化合物(Id)は、化合物(II)から、“新実験化学講座”,丸善株式会社,1978年,第14巻,p.1716等に記載の方法に準じて合成することができる。
【0034】
【化15】

【0035】
(式中、R2、R5、ArおよびXはそれぞれ前記と同義である)
化合物(III)は、“コレクト・クゼチュ・ケミカル・コムン(Collect Czech Chem. Commun.)”,1982年,第47巻,p.2525等に記載の方法に準じて合成することができる。
製造法5
化合物(I)のうち、R1がC(=NR6)R7である化合物(Ie)は、化合物(II)から、“シンセシス(Synthesis) ”,1987年,p.817、“ジャーナル・オブ・ケミカル・ソシエティー・パーキン・トランス1(J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1”,1972年,p.2332等に記載の方法に準じて合成することができる。
【0036】
【化16】

【0037】
(式中、R2、R6、R7、ArおよびXはそれぞれ前記と同義である)
化合物(IV)は“新実験化学講座”,丸善株式会社,1978年,第14巻,p.1828等に記載の方法に準じて合成できる。
【0038】
化合物(I)におけるR1、R2、またはArに含まれる官能基の変換は、上記工程以外にも公知の他の方法[例えば、R. C. ラロック(Larock)著,“コンプリヘンシブ・オーガニック・トランスフォーメーションズ(Comprehensive Organic Transformations)”,1989年等]またはそれらに準じた方法によっても行うことができる。
【0039】
上記の方法を適宜組み合わせて実施することにより、所望の位置に所望の官能基を有する化合物(I)を得ることができる。
【0040】
上記製造法における中間体および目的化合物は、有機合成化学で常用される精製法、例えば濾過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、シリカゲルクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー等に付して精製単離することができる。また、中間体においては、特に精製することなく次の反応に供することも可能である。
【0041】
化合物(I)の中には、位置異性体、幾何異性体、光学異性体、互変異性体等の立体異性体が存在しうるものもあるが、本発明のHDAC阻害剤には、これらを含め、すべての可能な異性体およびそれらの混合物を使用することができる。
【0042】
化合物(I)の塩を取得する場合には、化合物(I)が塩の形で得られるときはそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られるときは、化合物(I)を適当な溶媒に溶解または懸濁し、酸または塩基を加えて単離、精製すればよい。
【0043】
また、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、水あるいは各種溶媒との付加物の形で存在することもあるが、これら付加物も本発明のHDAC阻害剤に使用することができる。
【0044】
本発明のHDAC阻害剤に使用される化合物(I)の具体例を第1表に示す。ただし、本発明に使用される化合物はこれらに限定されることはない。
【0045】
【表1】

【0046】
第1表記載の化合物の質量分析データはエレクトロスプレーイオン化質量分析計(ESIMS):ウォーターズ ZQ(Waters ZQ)にて測定し、その機器データを以下に記載した。
・化合物1 MS(ESI) m/z: 293 (M+H)+
・化合物2 MS(ESI) m/z: 263 (M+H)+
・化合物3 MS(ESI) m/z: 289 (M+H)+
・化合物4 MS(ESI) m/z: 344 (M+H)+
・化合物5 MS(ESI) m/z: 247(M+H)+
・化合物6 MS(ESI) m/z: 337 (M+H)+
・化合物7 MS(ESI) m/z: 153 (M+H)+
【0047】
次に、代表的な化合物(I)の薬理活性について試験例で説明する。
試験例1 HDAC阻害活性
HDAC阻害活性は以下に述べる方法にて評価を行った。HDAC酵素反応は、HDAC フルオネッセント・アクティビティー・アッセイ/ドラック・ディスカバリー・キット(HDAC Fluorescent Activity Assay/Drug Discovery Kit* -AK-500)(バイオモル社、カタログ番号AK-500)を購入して実施した。反応は、96穴ハーフウェルプレート(コースター社、カタログ番号3694)のウェル中にて行った。試験用薬剤サンプルはジメチルスルホキシド (DMSO)に溶解した10mmol/Lサンプルを順次希釈し、最終濃度が0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10、30μmol/Lになるようにそれぞれ薬剤を調製した。コントロールとブランクには薬剤を溶解していないDMSOを用いた。希釈した試験用薬剤サンプル10μLに30倍に希釈したヒーラ(HeLa)細胞抽出液15 μLを添加した。更に500μmol/Lに調整した基質溶液25μLを加え混和した後、37℃にて30分反応させた。反応後、20倍に希釈したデベロッパー溶液を50μL加え、37℃にて10分間反応させることでHDAC酵素反応を停止させた。反応停止後、マルチラベルカウンター(wallac 1420 ARVOsx)(アマシャムファルマシアバイオテック社)を用い励起光(390nm)にて発した蛍光(460nm)を測定した。測定値により各サンプルのHDAC阻害50%の濃度(IC50)を求めた。試験例1によって得られた結果を第2表に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
試験例2 細胞内HDAC阻害活性およびサイクリン依存性キナーゼ阻害分子(p21分子)の発現誘導作用
HDACは、細胞内ヒストン蛋白質の脱アセチル化反応を介して、ヒストンのアセチル化レベルを調節しており、HDAC阻害剤処理した細胞においてはヒストンのアセチル化が亢進することが知られている[“ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)”,1990年,第265巻,p.17174-17179]。また、ヒストンのアセチル化に伴い複数の遺伝子発現が亢進するが、中でも細胞周期調節に関与するサイクリン依存性キナーゼ阻害分子(cyclin-dependent kinase inhibitor)であるp21WAF1/CIP1(以下p21と略)の発現誘導が、HDAC阻害剤の有する細胞増殖抑制活性に重要な役割を示すことが報告されている[“ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.) ”,1999年,第274巻,p.34940-34947、“プロシーディング・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc., Natl., Acad., Sci.)”,2000年,第97巻,p.10014-10019]。化合物1を含む一連の化合物の細胞内のHDAC阻害活性およびp21発現誘導作用を、以下に示す方法にて検証した。
【0050】
ヒト非小細胞肺癌A549細胞(ATCC番号:CCL-185)を用い実施した。A549細胞 の培養には10%FBS入りRPMI164O培地を用いた。1×106個のA549細胞を10cmディッシュ(岩城ガラス社、カタログ番号3020-100)に8 mLずつ播種し、37℃で22時間、5%炭酸ガスインキュベーター内で培養した。試験用薬剤サンプルはDMSO に溶解した10 mmol/Lサンプルを順次希釈し、最終濃度が3、10、30μmol/Lになるようにそれぞれ薬剤を調整した。コントロールには薬剤を溶解していないDMSOを用い、ポジティブドラッグにトリコスタチンA(TSAと略) 5 μmol/Lを使用した。薬剤添加20時間後、細胞を回収し、細胞溶解(Lysis液)[50mmol/Lヘペス緩衝液(HEPES), 150mmol/L NaCl, 1mmol/Lエチレンジアミン四酢酸ニナトリウム(EDTA), 2.5mmol/Lエチレングリコールビス(2-アミノエチル エーテル)四酢酸塩(EGTA), 0.1% ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween 20),10%グリセロール(glycerol), 0.1mmol/Lフェニルメチルスルホニルフッ化物(PMSF), 10mmol/Lベータ-グリセロリン酸(β-glycerophosphate), 1mmol/L NaF, 0.1mmol/L Na3VO4, 10mg/mLアプロチニン(aprotinin), 10mmol/Lロイペプチン(leupeptin), pH 7.5]に懸濁し4℃にて1時間撹拌した後、12000gにて10分間遠心し上清を回収した。回収した各細胞抽出液をDCプロテインアッセイキット(DC Protein Assay Kit)(バイオラド社、カタログ番号500-0116)にてタンパク濃度を測定し、各細胞抽出液20μgを以下の操作に用いた。
【0051】
各細胞抽出液に含まれるHDAC阻害により増加したアセチル化ヒストンおよびp21のタンパク量を定法に従いウェスタンブロッティング法にて検証した。20μgの細胞抽出液を電気泳動用ポリアクリルアミドグラジエントゲルプレート 15-25%(第一化学薬品、カタログ番号301520)を用いてタンパク質を分画した後、フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜(ミリポア社、カタログ番号IPVH304F0)にタンパク質を転写した。PVDF膜に転写したタンパク質中のアセチル化ヒストンH3およびH4、p21のタンパク量をそれぞれに抗原抗体反応を示す抗体(抗アセチル化ヒストンH3抗体[ユービーアイ(UBI)社、カタログ番号06-599]、抗アセチル化ヒストンH4抗体[ユービーアイ(UBI)社、カタログ番号06-598]および抗p21抗体(ファーミンジェン社、カタログ番号65961A))を用いて反応させた後、両アセチル化ヒストン抗体に反応する抗ラビット抗体[ダコ・サイトメーション(DAKO)社、カタログ番号P0217]またはp21抗体に反応する抗マウス抗体(アマシャムファルマシア社、カタログ番号NA931V)にて反応させた。抗体反応後、PVDF膜をスーパーシグナルウエスト・ピコ・ケミルミネッセント・サブストレート(Super Signal West Pico Chemiluminescent Substrate)溶液(ピアス社、カタログ番号34077)に浸し抗体量に依存した蛍光シグナルをX線フィルムにて検出した。検出されたシグナル強度により、化合物1を含む一連の化合物が細胞内のHDAC阻害活性およびp21発現誘導作用を示すかを判定した。
【0052】
図1に、化合物1の10μmol/Lにおける細胞内HDAC阻害活性およびp21発現誘導作用を示す。
【0053】
図1において、コントロールでは抗アセチル化ヒストン抗体にてシグナルが検出されないが、脱アセチル化阻害剤のポジティブドラッグであるTSA 5μmol/L添加時では、抗アセチル化ヒストン抗体によるシグナルが検出される。この時、化合物1を3、10、30μmol/Lと濃度を変化させて添加した場合、濃度依存的に10μmol/Lより抗アセチル化ヒストン抗体によるシグナルが検出される。このことから、試験化合物1は、細胞内においてもヒストン脱アセチル化阻害活性を示していると考えられた。また、コントロールでは抗p21抗体にてシグナルが検出されないが、脱アセチル化阻害剤のポジティブドラッグであるTSA 5μmol/L添加時では、抗p21抗体によるシグナルが検出される。この時、試験化合物1を3、10、30μmol/Lと濃度を変化させて添加した場合、濃度依存的に10μmol/Lより抗p21抗体によるシグナルが検出される。このことから、試験化合物1は、p21発現誘導作用を示していると考えられた。
【0054】
試験例3 白血病原因遺伝子AML1/ETO融合遺伝子による転写抑制に対する作用
ヒト急性白血病で最も高頻度に認められる転座であるt(8;21)転座ではAML1/ETO融合蛋白質が形成され白血病発症に関わることが知られている。その際、ETOがHDACを誘導してAML1によって活性化される標的遺伝子の転写を抑制することが造腫瘍性の一因として想定されており、AML1/ETOに特異的に作用するHDAC阻害剤は、新しい白血病治療薬として期待される。細胞内でAML1/ETOによるHDAC活性を阻害する作用を検証するため、以下に示す培養細胞を用いたレポーター・アッセイで化合物の評価を行った。
【0055】
サル腎臓由来の細胞株COS-7細胞を1 wellあたり4×104個、マルチウエル(MULTIWELL)[ファルコン(Falcon) 、カタログ番号 35-3043)]に播種した。培地として10 %ウシ胎仔血清(FCS)入りダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用い、37℃で24時間、5 %炭酸ガスインキュベーター内で培養した。これらの細胞にエフェクターとしてpME18Sクローニングベクター[“モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol. Cell. Biol.) ,1996年,第16巻, p.3967-3979]にクローニングしたAML1、PEBP2βおよびAML1/ETO遺伝子を、レポーターとしてAML1のDNA結合部位であるPEBP2 siteを有するT細胞レセプターベータ鎖エンハンサー(TCRβenhancer)をプロモーターとするルシフェラーゼレポーターであるTww-tk-Luc[“モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol. Cell. Biol.)”1996年,第16巻,p.3967-3979]をそれぞれスーパーフェクト・トランスフェクション試薬(Super Fect Transfection Reagent )[キアゲン(QIAGEN)、 カタログ番号 301305]を用いて導入した。導入後2時間で細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄後、DMSOに溶解した化合物を、10% FCS入りDMEMに終濃度が10μmol/Lとなるように加え37℃で24時間、5%炭酸ガスインキュベーター内で培養した。コントロールとしては薬剤なしの同濃度(0.1%)のDMSOを添加した10% FCS入りDMEMを利用した。その後、ルシフェラーゼ活性をピッカジーン(東洋インキ、カタログ番号 PGL 1500)およびルーマット(Lumat) LB 9507[ベルトールド ジャパン(BERTHOLD)]を用いて測定した。その結果を図2に示す(独立した2回試験の平均値およびその標準偏差を示す。AML1, PEBP2βによって誘導されるTww-tk-Lucによるルシフェラーゼ活性を100%とし、AML1/ETO導入時および薬剤存在下での活性値を相対値にて表示する)。
【0056】
図2によれば、AML1, PEBP2βによって誘導されるTww-tk-Lucの活性はAML1/ETOを共発現させることにより、約30 %に抑制されるが、例えば、化合物3存在下ではその抑制が約50 %に低下することが示された。この抑制の解除は既知HDAC阻害剤であるTSAと同等あるいはそれ以上のものであった(図2に独立した2回試験の平均値およびその標準偏差を示す。AML1, PEBP2βによって誘導されるTww-tk-Lucによるルシフェラーゼ活性を100%とし、AML1/ETO導入時および薬剤存在下での活性値を相対値にて表示した)。
【0057】
以上、試験例1から3に記載した解析から、化合物(I)はHDAC阻害活性を有し、細胞に対する増殖阻害作用(p21誘導作用)ならびに白血病の原因分子の一つであるAML1/ETOの機能阻害作用を有することが示された。これら解析結果から、本発明にて見出された化合物がHDAC阻害活性を有する、新たな治療薬になることが示された。
【0058】
化合物(I)またはそれらの薬学的に許容される塩は、そのまま単独で投与することも可能であるが、通常各種の医薬製剤、好ましくは抗腫瘍剤、より好ましくは肺癌、腎臓またはそれらの転移癌あるいは白血病の治療剤として提供するのが望ましい。また、それら医薬製剤は、動物または人に使用されるものである。
【0059】
本発明に係わる医薬製剤は、活性成分として化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬学的に許容される一種またはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0060】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内等の非経口をあげることができる。
【0061】
投与形態としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等があげられる。
【0062】
経口投与に適当な、例えば錠剤等は、乳糖等の賦形剤、トウモロコシデンプン等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤等を用いて製造できる。
【0063】
非経口投与に適当な、例えば注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合液等を用いて製造できる。
【0064】
化合物(I)またはそれらの薬学的に許容される塩は、上記の目的で用いる場合、通常、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度等により異なるが、通常、成人1人あたり、1回につき0.1〜1000mg/kg、好ましくは0.5〜500mg/kgの範囲で、1日1回ないし数回経口もしくは非経口投与されるか、または1日1〜24時間の範囲で静脈内に持続投与される。しかしながら、これら投与量および投与回数に関しては、前述の種々の条件等により変動する。
【0065】
以下に、本発明の態様を実施例および参考例で説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。
【0066】
参考例1:1-(2'-フルオロビフェニル-4-イル)-2-メルカプトエタノン(化合物5)の合成
工程1
塩化アルミニウム(12.7 g, 95.2 mmol)のジクロロエタン(100 mL)の懸濁液に、塩化アセチル(4.40 mL, 61.8 mmol)、2-フルオロビフェニル(8.20 g, 47.6 mmol)を順に加え、1時間攪拌した。反応液を氷に注ぎ、不溶物が溶けるまで濃塩酸を加えた。混合液にクロロホルムを加え、有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル = 30:1)で精製し、1-(2'-フルオロビフェニル-4-イル)-エタノン(9.18 g, 90%) を無色結晶として得た。
APCMS m/z: [M+H]+ 215.
【0067】
工程2
工程1で得られた化合物(9.00 g, 42.0 mmol)を酢酸エチル(100 mL)に溶解し、臭化第二銅(18.7 g, 84.0 mmol)を加え、6時間加熱還流した。室温まで放冷後、セライトろ過により、不溶物を除去した。ろ液に水を加え、有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、ヘキサン−酢酸エチルから再結晶を行い、2-ブロモ-1-(2'-フルオロビフェニル-4-イル)-エタノン(9.11 g, 74%) を淡黄色結晶として得た。
APCMS m/z: [M+H]+ 293.
【0068】
工程3
工程2で得られた化合物(1.50 g, 5.12 mmol)をDMF(30 mL)に溶解し、氷冷下70%硫化水素ナトリウム水溶液(0.430 g, 5.37 mmol)を加え、室温で12時間攪拌した。反応液に水とクロロホルムを加え、有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、ヘキサンから再結晶を行い、標記化合物 (0.825 g, 66%) を無色結晶として得た。
1H NMR (CDCl3, d): 1.50 (s, 1H), 3.82 (s, 2H), 7.05-7.59 (m, 6H), 7.90 (d, J = 7.8 Hz, 2H).
APCMS m/z: [M+H]+ 247.
【0069】
参考例2:S-2-(2'-フルオロビフェニル-4-イル)-2-オキソエチル チオアセテート(化合物3)の合成
参考例1の工程2で得られた化合物(0.500 g, 1.71 mmol)をTHF(10 mL)に溶解し、酢酸チオール(0.134 mL, 1.88 mmol)とトリエチルアミン(0.262 mL, 1.88 mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応液に飽和重曹水とクロロホルムを加え、有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル = 30:1)で精製し、標記化合物 (0.430 g, 87%) を無色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, d): 2.35 (s, 3H), 3.98 (s, 2H), 7.10-7.56 (m, 6H), 7.95 (d, J = 7.8 Hz, 2H).
APCMS m/z: [M+H]+ 289.
【0070】
参考例3:フェナシルメルカプタン(化合物7)の合成
工程1
テトラへドロン・レターズ 第40巻、第4号、603ページから606ページ(1999年)に記載の方法に従い、市販のフェナシルブロミド(5.00 g, 25.1 mmol)をジメチルホルムアミド(50 mL)に溶解し、チオ酢酸カリウム(純度約90%, 3.19 g, 25 mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応の完結を薄層クロマトグラフィーで確認後、文献記載の方法に従って後処理を行い、チオ酢酸 S-フェナシルエステルの粗生成物(5.03 g, 定量的収率)を得た。
【0071】
工程2
工程1で得た生成物全量(5.03 g)に対し、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー 第51巻、第9号, 1556ページから1562ページ(1986年)に記載の方法に従って反応を行い、標記化合物(550 mg, 収率12%)を得た。
【実施例1】
【0072】
錠剤(化合物1)
常法により、次の組成からなる錠剤を調製する。40gの化合物1と、乳糖286.8gおよびトウモロコシデンプン60gを混合し、これにヒドロキシプロピルセルロースの10%水溶液120gを加える。この混合物を常法により練合し、造粒して乾燥させた後、整粒し打錠用顆粒とする。これにステアリン酸マグネシウム1.2gを加えて混合し、径8mmの杵をもった打錠機(クリーンプレスコレクト12 菊水製作所製)で打錠を行って、錠剤(1錠あたり活性成分20mgを含有する)を得る。
処方 化合物1 20 mg
乳糖 143.4 mg
トウモロコシデンプン 30 mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6 mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6 mg
200 mg
【実施例2】
【0073】
注射剤(化合物7)
常法により、次の組成からなる注射剤を調製する。1gの化合物7と、塩化ナトリウム9gを常法により注射用蒸留水で1000mLに溶解する。得られた溶液を0.2μmのディスポーザブル型メンブランフィルターを用いて無菌濾過後、ガラスバイアルに2mLずつ無菌的に充填して、注射剤(1バイアルあたり活性成分2mgを含有する)を得る。
処方 化合物7 2 mg
塩化ナトリウム 18 mg
注射用蒸留水 適量
2.00mL
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】化合物1およびTSAの細胞内HDAC阻害活性およびp21分子の発現作用を表す図である。項目は、分子の種類(アセチル化ヒストンH3およびH4、p21抗体)を表し、数値は、試験濃度を表す。
【図2】化合物3およびTSAの白血病原因遺伝子AML1/ETO融合遺伝子による転写抑制に対する作用を示した図である。グラフの縦軸は、AML1/ETO導入時および薬剤存在下での活性値を表し、AML1, PEBP2βによって誘導されるTww-tk-Lucによるルシフェラーゼ活性を100%とした。
【符号の説明】
【0075】
+:各該当する遺伝子(AML1, PEBP2b, AML1/ETO)を細胞に導入した条件下でのデータを示す。
-:各該当する遺伝子(AML1, PEBP2b, AML1/ETO)を細胞に導入していない条件下でのデータを示す。また、薬剤の項は、薬剤処理しない条件でのデータを示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

〔式中、R1は水素原子、置換もしくは非置換の低級アシル、CONHCH(R3)CO2R4(式中、R3は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、R4は水素原子または低級アルキルを表す)、式(T)
【化2】

(式中、R5は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)
または式(U)
【化3】

(式中、R6は低級アルキルを表し、R7は置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の芳香族複素環基を表す)を表し、
R2は水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表し、
Arは置換もしくは非置換のアリールを表す〕で表されるメルカプトアセトフェノン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤。
【請求項2】
R2が水素原子である請求項1記載のHDAC阻害剤。
【請求項3】
R1がCONHCH(R3)CO2R4であり、R3がフェニル基で置換された低級アルキルである請求項1または2記載のHDAC阻害剤。
【請求項4】
R1がCONHCH(R3)CO2R4であり、R4が水素原子である請求項1〜3のいずれかに記載のHDAC阻害剤。
【請求項5】
R1が式(T)
【化4】

であり、R5が水素原子または非置換の低級アルキルである請求項1または2記載のHDAC阻害剤。
【請求項6】
R1が式(U)
【化5】

であり、R7が置換もしくは非置換の芳香族複素環基である請求項1または2記載のHDAC阻害剤。
【請求項7】
R1が水素原子または非置換の低級アシルである請求項1または2記載のHDAC阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28104(P2006−28104A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210365(P2004−210365)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】