説明

ヒストン脱アセチル化酵素インヒビタープロドラッグ

【課題】ヒドロキサム酸ベースのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターの水溶性プロドラッグの提供。
【解決手段】式(4)


で表されるスベロイルアニリドヒドロキサム酸誘導体。[式中、Raは、CORbであり、Rbは水素、あるいは、非置換もしくは置換されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、または、アラニン、アルギニン、アスパラギンなどから選択されるアミノ酸残基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ヒドロキサム酸ベースのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターのプロドラッグ、例えば、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)に関する。このプロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して、高い水溶性と細胞浸透性を有しているアシル化誘導体であり、そしてHDACの阻害と、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害することに有用である。したがって、本発明のプロドラッグは、新生物細胞の増殖を特徴とする腫瘍を有している患者の処置に有用である。本発明のプロドラッグはまた、チオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患の予防ならびに処置に、そして中枢神経系(CNS)の疾患、例えば、神経変性疾患の予防および/または処置においても有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ヒドロキサム酸部分を有している化合物は、有用な生物学的活性を有していることが示されている。例えば、ヒドロキサム酸部分を有している多くのペプチジル化合物は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を阻害することが知られている。これらは、亜鉛エンドペプチダーゼのファミリーである。MMPは、生理学的な組織の分解と病理学的
な組織の分解の両方において重要な役割を担っている。したがって、MMPの作用を阻害する能力を有しているペプチジル化合物は、組織の崩壊と炎症に関係している症状の処置または予防について有用性が示されている。さらに、ヒドロキサム酸部分を有している化合物は、ヒドロキサム酸基の亜鉛結合特性に少なくとも一部基づいて、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害することが示されている。
【0003】
HDACの阻害によって、遺伝子の発現(これには、腫瘍の抑制に関係している遺伝子の発現が含まれる)を抑制することができる。ヒストン脱アセチル化酵素の阻害によっては、腫瘍サプレッサー遺伝子のヒストン脱アセチル化酵素によって媒介される転写抑制を導くことができる。例えば、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害によっては、癌、血液疾患(例えば、造血)、および遺伝的に関係のある代謝疾患を処置するための方法を提供することができる。より具体的には、転写調節は、細胞の分化、増殖、およびアポトーシスにおける主要な事象である。ヒストンのアセチル化と脱アセチル化が、細胞内での転写調節が行われる機構であることの証拠にはいくつかの道筋がある(非特許文献1)。これらの作用は、ヌクレオソーム中のコイル状のDNAに対するヒストンタンパク質の親和性を変化させることによる、クロマチンの構造の変化を介して生じると考えられる。5つのタイプのヒストンが同定されている。ヒストンH2A、H2B、H3、およびH4は、ヌクレオソーム中に見られ、そしてH1はヌクレオソームの間に存在しているリンカーである。各ヌクレオソームには、そのコアの中に、H1を除くそれぞれのタイプのヒストンが2つずつ含まれ、これらは、ヌクレオソーム構造の外側部分に1つずつ存在する。ヒストンタンパク質が低アセチル化(hypoacetylated)されると、DNAリン酸骨格に対するヒストンのより高い親和性が生じると考えられている。この親和性によって、DNAがヒストンに堅く結合させられ、DNAは転写調節エレメントおよび転写調節機構に近づきにくくなる。
【0004】
アセチル化状態の調節は、2つの酵素複合体(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC))の間での活性の平衡によって生じる。低アセチル化状態は、会合しているDNAの転写を阻害すると考えられる。この低アセチル化状態は、HDAC酵素を含む大きな多タンパク質複合体によって触媒される。具体的には、HDACは、クロマチンコアヒストンからのアセチル基の除去を触媒することが示されている。
【0005】
HATまたはHDAC活性の破壊が悪性の表現形の発症に関与しているいくつかの例が示されている。例えば、急性の前骨髄球性白血病においては、PMLとRARαの融合体によって生産される腫瘍タンパク質は、HDACの動因によって特異的な遺伝子の転写を抑制するようである(非特許文献2)。この様式では、新生物細胞は完全に分化することができず、白血病細胞株の過剰増殖が導かれる。
【0006】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5、ならびに、2002年10月25日に出願された特許文献6、2003年4月1日に出願された特許文献7、2003年10月9日に出願された特許文献8、および2003年11月26日に出願された特許文献9(これらの内容は参考として本明細書中に援用される)には、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、またはアポトーシスを選択的に誘導するために有用なヒドロキサム酸誘導体が開示されている。抗腫瘍薬としてのこれらの生物学的活性に加えて、これらのヒドロキサム酸誘導体は、広い範囲の種々のチオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患および症状、例えば、炎症性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫性疾患、酸化的ストレスに関係する疾患、または細胞の過剰増殖を特徴とする疾患を処置または予防するために有用であると、最近同定された(2003年2月15日に出願された特許文献10(その内容全体は参考として本明細書中に援用される))。さらに、これらのヒドロキサム酸誘導体は、神経変性疾患のような中枢神経系(CNS)の疾患を処置するために、および脳腫瘍を処置するために有用であると同定されている(2002年10月16日に出願された特許文献11(その全内容は参考として本明細書中に援用される)を参照のこと)。
【0007】
上記の米国特許において開示されている、ヒドロキサム酸を含む化合物であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)によるHDACの阻害は、X線結晶学的実験によって明らかにされているように、酵素の触媒部位との直接相互作用を介して生じると考えられている(非特許文献3)。HDACの阻害の結果は、ゲノムに対して一般的な作用を有するとは考えられず、むしろ、ゲノムの小さいサブセットにだけ影響を与えると考えられる(非特許文献4)。HDACインヒビターとともに培養した悪性細胞株を使用してDNAマイクロアレイによって得られた証拠は、その生成物が変化した、限られた(1〜2%)数の遺伝子が存在することを示している。例えば、HDACインヒビターを含む培養物中で処理した細胞は、サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21の一貫した誘導を示す(非特許文献5)。このタンパク質は、細胞周期の停止において重要な役割を担っている。HDACインヒビターは、p21遺伝子の領域中に過剰アセチル化された状態のヒストンを多数生じさせることによって、p21の転写速度を増大させ、それによって、遺伝子を転写機構にアクセスできるようにすると考えられる。その発現がHDACインヒビターによっては影響されない遺伝子は、局地的に会合しているヒストンのアセチル化には変化を示さない(非特許文献6)。
【0008】
さらに、SAHAのようなヒドロキサム酸誘導体は、腫瘍細胞の増殖の停止、分化、および/またはアポトーシスを誘導する能力を有している(非特許文献7)。これらの化合物には動物の中での腫瘍の増殖の阻害に有効な用量では毒性がないようであるとの理由から、新生物細胞の悪性化する能力に固有の機構に対して標的化させられる(非特許文献8)。
【0009】
ヒドロキサム酸誘導体にはいくつかの欠点、すなわち、それらの低い水溶性と低い細胞透過性があり、それらの治療可能性を制限し得る特性である。
【0010】
ヒドロキサム酸部分を含む化合物についての幅広い用途を考慮すると、改良された特性(例えば、高い水溶性および細胞透過性)を有している新しいヒドロキサム酸誘導体の開発が非常に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,369,108号明細書
【特許文献2】米国特許第5,932,616号明細書
【特許文献3】米国特許第5,700,811号明細書
【特許文献4】米国特許第6,087,367号明細書
【特許文献5】米国特許第6,511,990号明細書
【特許文献6】米国特許出願第10/281,875号明細書
【特許文献7】米国特許出願第60/459,826号明細書
【特許文献8】米国特許出願第60/510,282号明細書
【特許文献9】米国特許出願第60/525,333号明細書
【特許文献10】米国特許出願第10/369,094号明細書
【特許文献11】米国特許出願第10/273,401号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Grunstein,M.、Nature、1997年、第389巻、p.349−52
【非特許文献2】Lin,R.J.ら、Nature、1998年、第391巻、p.811−14
【非特許文献3】Finnin,M.S.ら、Nature、1999年、第401巻、p,188−193
【非特許文献4】Van Lint,C.ら、Gene Expression、1996年、第5巻、p.245−53
【非特許文献5】Archer,S.、Shufen,M.、Shei,A.、Hodin,R.PNAS、1998年、第95巻、p.6791−96
【非特許文献6】Dressel,U.ら、Anticancer Research、2000年、第20巻(2A)、p.1017−22
【非特許文献7】Richonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1996年、第93巻、p.5705−5708
【非特許文献8】Cohen,L.A.ら、Anticancer Research、1999年、第19巻、p.4999−5006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、ヒドロキサム酸ベースのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターのプロドラッグ、例えば、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)に関する。このプロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して、高い水溶性と細胞浸透性を有しているアシル化誘導体であり、そしてHDACの阻害と、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害することに有用である。したがって、本発明のプロドラッグは、新生物細胞の増殖を特徴とする腫瘍を有している患者の処置に有用である。本発明のプロドラッグは、チオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患の予防および処置に、そして中枢神経系(CNS)の疾患、例えば、神経変性疾患の予防および/または処置にも有用である。本発明によって、さらに、ヒドロキサム酸プロドラッグを含む薬学的組成物と、これらの薬学的組成物の安全な投与レジメンが提供される。これは、追跡が容易であり、これによって、インビボでの有効成分の治療有効量を得ることができる。
【0014】
本発明は、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)のプロドラッグに関する。このプロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して、高い細胞透過性を有しているSAHAのアシル化誘導体であり、HDACの阻害と、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害することに有用である。したがって、本発明のSAHAプロドラッグは、新生物細胞の増殖を特徴とする腫瘍を有している患者の処置に有用である。本発明のSAHAプロドラッグは、TRXによって媒介される疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患の予防および処置に、そして中枢神経系(CNS)の疾患、例えば、神経変性疾患の予防および/または処置にも有用である。本発明によって、さらに、SAHAプロドラッグを含む薬学的組成物と、これらの薬学的組成物の安全な投与レジメンが提供される。これは、追跡が容易であり、これによって、インビボでのSAHAまたはSAHAプロドラッグの治療有効量を得ることができる。
【0015】
したがって、本発明は、式1:
【0016】
【化1】



の構造によって示される、ヒドロキサム酸誘導ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターのプロドラッグ、あるいは、その薬学的に受容可能な塩、水和物、溶媒和物、多形体、または任意の組み合わせに関し、
式中、Rは、ヒドロキサム酸誘導ヒストン脱アセチル化酵素インヒビターの残基であり;そして
は、以下:
【0017】
【化2】



の構造によって示され、
式中、RおよびRは、互いに独立して、水素、あるいは、非置換または置換されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、またはアミノ酸残基であり;そして
は、水素またはアミノ保護基である。
【0018】
式1のさらなる実施形態においては、RおよびRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、フェニル、ビフェニル、ベンジル、アルキルフェニル、ナフチル、またはピリジルである。
【0019】
1つの実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(2):
【0020】
【化3】



の構造によって示され、
式中、RおよびRはそれぞれ独立しており、互いに同じであるか、また異なり、水素原子、ヒドロキシル基、置換されたもしくは非置換の、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルアリール、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、アリールアルキルオキシ、アリールオキシ、またはピリジン基であるか、あるいは、RおよびRが一緒に結合して、必要に応じて1つ以上のさらなるヘテロ原子を含む、窒素を含む複素環を形成し、そしてnは4から8の整数である。
【0021】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは式(3):
【0022】
【化4】



の構造によって示され、
式中、nは4から8の整数である。
【0023】
式(3)の1つの実施形態においては、nは6である。この実施形態に従って、HDACインヒビターは、式(4):
【0024】
【化5】



の構造によって示される、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)のプロドラッグである。
【0025】
SAHAプロドラッグの限定されない実施形態は、実験の詳細のセクションにおいて表1および2に提供される。
【0026】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(5):
【0027】
【化6】



の構造によって示され、
式中、nは約4から約8までの整数である。
【0028】
式(5)の1つの実施形態においては、nは6である。この実施形態に従って、HDACインヒビターは、式(6):
【0029】
【化7】



の構造によって示されるピロキサミドプロドラッグである。
【0030】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(9)または(10):
【0031】
【化8】



の構造によって示される。すなわち、m−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサミド(CBHA)のプロドラッグである。
【0032】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(9):
【0033】
【化9】



の構造によって示され、
式中、Rは、置換されたもしくは非置換のフェニル、ピペリジン、チアゾール、2−ピリジン、3−ピリジン、または4−ピリジンであり、nは4から8の整数である。
【0034】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(12):
【0035】
【化10】



の構造によって示され、
式中、Rは、置換されたもしくは非置換のフェニル、ピペリジン、チアゾール、2−ピリジン、3−ピリジン、または4−ピリジンであり、nは4から8の整数である。
【0036】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(13):
【0037】
【化11】



の構造によって示され、
式中、Aは、アミド部分であり、RおよびRは、置換されたもしくは非置換のアリール、アリールアルキル、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、キノリニル、またはイソキノリニルからそれぞれ選択され;そして、nは3から10の整数である。
【0038】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(13a):
【0039】
【化12】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(13)について示されたものと同じ意味を有する。
【0040】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(13b):
【0041】
【化13】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(13)について示されたものと同じ意味を有する。
【0042】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(14):
【0043】
【化14】



の構造によって示され、
式中、Aは、アミド部分であり、RおよびRは、置換されたもしくは非置換のアリール、アリールアルキル、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、キノリニル、またはイソキノリニルからそれぞれ選択され;Rは、水素、ハロゲン、フェニル、またはシクロアルキル部分であり、そして、nは3から10の整数である。
【0044】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(14a):
【0045】
【化15】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(14)について示されたものと同じ意味を有し、そして、nは約3から10の整数である。
【0046】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(14b):
【0047】
【化16】



の構造によって示され、式中、RとRは、式(14)について示されたものと同じ意味を有し、そして、nは約3から10の整数である。
【0048】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(15):
【0049】
【化17】



の構造によって示され、
式中、Lは、アミド部分、O−、−S−、−NH−、NR、−CH−、−(CH−、−(CH=CH)−、フェニレン、シクロアルキレン、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるリンカーであり、式中のRは、置換されたもしくは非置換のC〜Cアルキルであり;そして式中、RとRはそれぞれ、独立して、置換されたもしくは非置換のアリール、アリールアルキル、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピペリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、キノリニル、またはイソキノリニルであり;pは、0から10の整数である。
【0050】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(15a):
【0051】
【化18】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(15)について示されたものと同じ意味を有する。
【0052】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(15b):
【0053】
【化19】




の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(15)について示されたものと同じ意味を有する。
【0054】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(29):
【0055】
【化20】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
qは、0または1であり;
およびpは、互いに独立して、0または1であり;
およびRは、互いに独立して、非置換もしくは置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、pおよびpがいずれも0である場合には、RおよびRは一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示すこともできりか;あるいは、pまたはpの少なくとも1つが0ではない場合は、RもしくはR、または、これらの両方が、水素あるいはアルキルを示すこともできる。
【0056】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(30)の構造:
【0057】
【化21】



、ならびにその薬学的に受容可能な塩、溶媒和物、水和物、プロドラッグ、およびその多形体によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルである。
【0058】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(31):
【0059】
【化22】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルである。
【0060】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(32):
【0061】
【化23】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、非置換もしくは置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RおよびRは、一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示すこともできる。
【0062】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(33):
【0063】
【化24】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、非置換もしくは置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RおよびRは、一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示すこともできる。
【0064】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(34):
【0065】
【化25】



の構造によって示され、
式中、Aは、アルキル、アリール、または以下:
【0066】
【化26】



から選択される基であり、
式中、R〜R16は、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RとR、RとR、およびR11とR12の1つ以上は、一緒に、それらが結合した窒素原子とともに、窒素を含む複素環を形成し、そして、
l、p、およびqは、互いに独立して、0、1、または2である。
【0067】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(36):
【0068】
【化27】



の構造によって示され、
式中、
Aは、アルキル、アリール、または以下:
【0069】
【化28】



から選択される基であり、
式中、R〜R16は、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RとR、RとR、およびR11とR12の1つ以上は、一緒に、それらが結合した窒素原子とともに、窒素を含む複素環を形成し;
Bは、
【0070】
【化29】



であり、
nは、0または1であり;そして
l、p、およびqは、互いに独立して、0、1、または2である。
【0071】
本明細書中で明らかにされるように、本発明のヒドロキサム酸誘導プロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸誘導体と比較して、高い溶解性と細胞浸透性を示し、これはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターである。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素を、有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程を含む、ヒストン脱アセチル化酵素の活性を阻害する方法に関する。
【0072】
本発明はまた、本明細書中に記載されるヒドロキサム酸プロドラッグを、本明細書中に記載される疾患および障害(例えば、癌、TRXによって媒介される疾患(例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患)、ならびに中枢神経系(CNS)の疾患(例えば、神経変性疾患))の予防および/または処置に使用する方法に関する。
【0073】
特定の実施形態においては、本発明は、処置が必要な被験体の癌を処置する方法に関する。この方法には、上記被験体に治療有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。癌の非限定的な例としては:急性白血病、例えば、急性リンパ球性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病(AML);慢性白血病、例えば、慢性リンパ球性白血病(CLL)および慢性骨髄性白血病(CML)、ヘアリー細胞白血病、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)、皮膚以外の末梢T細胞リンパ腫、ヒトT細胞リンパ球指向性ウイルス(HTLV)に関係するリンパ腫、例えば、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、大細胞型リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL);バーキットリンパ腫;中枢神経系(CNS)原発リンパ腫;多発性骨髄腫;小児の充実性腫瘍、例えば、脳腫瘍、神経芽細胞種、網膜芽細胞種、ウィルムス腫瘍、骨髄腫、柔組織肉腫、頭頸部癌(例えば、口腔癌、喉頭癌、および食道癌)、泌尿生殖器癌(例えば、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、直腸癌、および結腸癌)、肺癌、乳癌、膵臓癌、黒色腫および他の皮膚癌、胃癌、脳腫瘍、肝臓癌、および甲状腺癌である。
【0074】
別の実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグは、その必要がある被験体において、チオレドキシン(TRX))によって媒介される疾患または障害、例えば、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患を処置する方法において使用される。この方法には、被験体に、治療有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0075】
別の実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグは、その必要がある被験体において中枢神経系(CNS)の疾患を処置する方法において使用される。この方法には、被験体に、治療有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。特定の実施形態においては、CNS疾患は神経変性疾患である。さらなる実施形態においては、神経変性疾患は、遺伝性の神経変性疾患、例えば、ポリグルタミン伸長疾患である遺伝性の神経変性疾患である。
【0076】
本発明はさらに、癌、TRXによって媒介される疾患(例えば、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患)、ならびに中枢神経系(CNS)の疾患(例えば、神経変性疾患)のような、本明細書中に記載される疾患および障害の予防および/または処置のための医薬の製造のためのヒドロキサム酸プロドラッグの使用に関する。
【0077】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害するために、本発明のヒドロキサム酸プロドラッグを使用する方法に関する。この方法は、インビボで、またはインビトロで行うことができる。
【0078】
1つの実施形態においては、本発明により、被験体に、有効量の本明細書中に記載される任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与することによる、被験体中の新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによって上記被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害するためのインビボでの方法が提供される。
【0079】
特定の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の最終分化を選択的に誘導し、そしてそれによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害する方法に関する。この方法には、被験体に、有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0080】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の細胞増殖の停止を選択的に誘導し、そしてそれによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害する方法に関する。この方法には、被験体に、有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0081】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞のアポトーシスを選択的に誘導し、そしてそれによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害する方法に関する。この方法には、被験体に、有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0082】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の増殖を特徴とする腫瘍を有している患者を処置する方法に関する。この方法には、患者に、本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。プロドラッグの量は、このような新生物細胞の最終分化を選択的に誘導する、細胞増殖の停止を誘導する、そして/またはアポトーシスを誘導し、それによってそれらの増殖を阻害するために有効である。
【0083】
本発明によってはまた、細胞を、有効量の本明細書中に記載される任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させることによる、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害するためのインビトロでの方法が提供される。
【0084】
特定の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の最終分化を選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法に関する。この方法には、適切な条件下で、細胞を有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0085】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の細胞増殖の停止を選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法に関する。この方法には、適切な条件下で、細胞を有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0086】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞のアポトーシスを選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法に関する。この方法には、適切な条件下で、細胞を有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0087】
別の実施形態においては、本発明は、腫瘍中の腫瘍細胞の最終分化を誘導するインビトロでの方法に関する。この方法には、細胞を有効量の本明細書中に記載される任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0088】
本発明はまた、治療有効量の任意の1つのヒドロキサム酸プロドラッグと薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物にも関する。したがって、さらなる実施形態においては、本発明の方法には、ヒドロキサム酸プロドラッグと薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物として、ヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。ヒドロキサム酸プロドラッグは、800mgまでの1日あたりの総用量で、好ましくは経口で、1日に1回、2回、または3回、連続して(すなわち、毎日)または断続的に(例えば、1週間に3〜5日)投与することができる。
【0089】
本発明のプロドラッグは、それぞれの患者に応じて変更することができ、そして様々な投与スケジュールで投与することができる、1日あたりの総用量で投与することができる。適切な投与量は、経口で、1日に1回、1日に2回、または1日に3回、連続して(毎日)または断続的に(例えば、1週間に3〜5日)投与される、約25〜4000mg/mの間の1日あたりの総用量である。さらに、組成物は、サイクルの間に休止期間を含む複数回のサイクルで投与することができる(例えば、処置の間に1週間までの休止期間を含む、2週間から8週間の処置)。
【0090】
本発明の上記および他の目的、特徴、および利点は、本発明の好ましい実施形態についての以下のより詳細な記載から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0091】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ヒドロキサム酸ベースのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターのプロドラッグ、例えば、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)に関する。このプロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して、高い水溶性と細胞浸透性を有しているアシル化誘導体であり、そしてHDACの阻害と、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害することに有用である。したがって、本発明のプロドラッグは、新生物細胞の増殖を特徴とする腫瘍を有している患者の処置に有用である。本発明のプロドラッグは、チオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患の予防および処置に、そして中枢神経系(CNS)の疾患、例えば、神経変性疾患の予防および/または処置にも有用である。本発明によって、さらに、ヒドロキサム酸プロドラッグを含む薬学的組成物と、これらの薬学的組成物の安全な投与レジメンが提供される。これは、追跡が容易であり、これによって、インビボでの有効成分の治療有効量を得ることができる。
【0092】
本発明は、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)のプロドラッグに関する。このプロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して、高い細胞透過性を有しているSAHAのアシル化誘導体であり、HDACの阻害と、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害することに有用である。したがって、本発明のSAHAプロドラッグは、新生物細胞の増殖を特徴とする腫瘍を有している患者の処置に有用である。本発明のSAHAプロドラッグは、TRXによって媒介される疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および炎症性疾患の予防および処置において、そしてCNSの疾患、例えば、神経変性疾患の予防および/または処置においても有用である。本発明によって、さらに、SAHAプロドラッグを含む薬学的組成物と、これらの薬学的組成物の安全な投与レジメンが提供される。これは、追跡が容易であり、これによって、インビボでのSAHAまたはSAHAプロドラッグの治療有効量を得ることができる。
【0093】
本明細書の目的については、用語「プロドラッグ」は、哺乳動物に投与されると徐々に活性な形態に変換される、化合物または組成物の活性な形態の誘導体と定義される。
【0094】
1つの実施形態においては、プロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して同等またはそれ以上の治療応答、および/または低い毒性レベルを生じる。
【0095】
1つの実施形態においては、本発明のヒドロキサム酸プロドラッグは、哺乳動物に投与されると、インビボで遊離のヒドロキサム酸へと変換される。プロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸と比較して、高い水溶性と高い細胞浸透性を有しており、したがって、その細胞標的への有効成分の送達を促進する。
【0096】
しかし、ヒドロキサム酸プロドラッグ自体が有効成分であり、したがって、HDACを阻害すること、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導すること、癌、TRXによって媒介される疾患、およびCNSの疾患を処置することに有用である。したがって、本発明にはまた、有効成分としてのヒドロキサム酸プロドラッグの使用も含まれる。すなわち、プロドラッグは完全なまま細胞標的に送達される。
【0097】
(化合物)
したがって、本発明は、式1:
【0098】
【化30】



の構造によって示される、ヒドロキサム酸誘導ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターのプロドラッグ、あるいは、その薬学的に受容可能な塩、水和物、溶媒和物、多形体、または任意の組み合わせに関し、
式中、Rは、ヒドロキサム酸誘導ヒストン脱アセチル化酵素インヒビターの残基であり;そして
は、以下:
【0099】
【化31】



の構造によって示され、
式中、RおよびRは、互いに独立して、水素、あるいは、非置換もしくは置換されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、またはアミノ酸残基であり;そして
は、水素またはアミノ保護基である。
【0100】
の特定の非限定的な例は以下:
【0101】
【化32】



であり、
式中、mは1から10の整数であり、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。
【0102】
式(1)の別の実施形態においては、Rは、以下:
【0103】
【化33】



の構造によって示され、
式中、Rは水素またはアミノ保護基である。
【0104】
式1のさらなる実施形態においては、RまたはRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、フェニル、ベンジル、アルキルフェニル、ナフチル、またはピリジルである。
【0105】
〜Rについての適切な置換基の他の例は、実験の詳細のセクションに提供される。
【0106】
1つの実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(2):
【0107】
【化34】



の構造によって示され、
式中、RおよびRはそれぞれ独立しており、互いに同じであるか、または異なり、水素原子、ヒドロキシル基、置換されたもしくは非置換の、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルアリール、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、アリールアルキルオキシ、アリールオキシ、またはピリジン基であるか、あるいは、RおよびRが一緒に結合して、必要に応じて1つ以上のさらなるヘテロ原子を含む、窒素を含む複素環を形成し、そしてnは4から8の整数である。
【0108】
式(2)の特定の実施形態においては、nは5から7までの整数である。式(2)の別の特定の実施形態においては、nは6である。
【0109】
式(2)のなお別の実施形態においては、Rは水素原子であり、Rは置換されたまたは非置換のフェニルであり、そしてnは6である。
【0110】
式(2)のなお別の実施形態においては、Rは水素原子であり、Rは置換されたフェニルであり、そしてnは6である。式中のフェニル置換基は、メチル基、シアノ基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、アミノカルボニル基、メチルシアノ基、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基、ヨード基、2,3−ジフルオロ基、2,4−ジフルオロ基、2,5−ジフルオロ基、3,4−ジフルオロ基、3,5−ジフルオロ基、2,6−ジフルオロ基、1,2,3−トリフルオロ基、2,3,6−トリフルオロ基、2,4,6−トリフルオロ基、3,4,5−トリフルオロ基、2,3,5,6−テトラフルオロ基、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ基、アジド基、ヘキシル基、t−ブチル基、フェニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、フェニルオキシ基、ベンジルオキシ基、フェニルアミノオキシ基、フェニルアミノカルボニル基、メトキシカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノ基、ジメチルアミノカルボニル基、またはヒドロキシルアミノカルボニル基からなる群より選択される。
【0111】
式(2)の別の実施形態においては、nは6であり、Rは水素原子であり、そしてRはシクロヘキシル基である。式(2)の別の実施形態においては、nは6であり、Rは水素原子であり、そしてRはメトキシ基である。式(2)の別の実施形態においては、nは6であり、RおよびRが一緒に結合してピペリジン基を形成する。式(2)の別の実施形態においては、nは6であり、Rは水素原子であり、そしてRはベンジルオキシ基である。式(2)の別の実施形態においては、Rは水素原子であり、そしてRはγ−ピリジン基である。式(2)の別の実施形態においては、Rは水素原子であり、そしてRはβ−ピリジン基である。式(2)の別の実施形態においては、Rは水素原子であり、そしてRはα−ピリジン基である。式(2)の別の実施形態においては、nは6であり、RおよびRはいずれもメチル基である。式(2)の別の実施形態においては、nは6であり、Rはメチル基であり、そしてRはフェニル基である。
【0112】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは式(3):
【0113】
【化35】



の構造によって示され、
式中、nは4から8の整数である。
【0114】
1つの実施形態においては、式(3)のnは6である。この実施形態に従って、本発明のプロドラッグは、式(4):
【0115】
【化36】



の構造によって示され、すなわち、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)のプロドラッグである。
【0116】
SAHAプロドラッグの非限定的な実施形態は、実験の詳細のセクションにおいて表1および2に提供される。
【0117】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(5):
【0118】
【化37】



の構造によって示される。
【0119】
式中、nは約4から約8までの整数である。
【0120】
1つの実施形態においては、式(5)のnは6である。この実施形態に従って、本発明のプロドラッグは、式(6):
【0121】
【化38】



の構造によって示され、すなわち、ピロキサミドのプロドラッグである:
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(7):
【0122】
【化39】



の構造によって示され、
式中、nは約4から約8までの整数である。
【0123】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(8):
【0124】
【化40】



の構造によって示される。
【0125】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(9)または(10):
【0126】
【化41】



の構造によって示され、すなわち、m−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサミド(CBHA)のプロドラッグである。
【0127】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(11):
【0128】
【化42】



の構造によって示され、
式中、Rは、置換されたもしくは非置換のフェニル、ピペリジン、チアゾール、2−ピリジン、3−ピリジン、または4−ピリジンであり、nは4から8の整数である。
【0129】
式(11)の1つの特定の実施形態においては、Rは置換されたフェニル基である。式(11)の別の特定の実施形態においては、Rは置換されたフェニル基であり、式中の置換基は、メチル基、シアノ基、ニトロ基、チオ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、アミノカルボニル基、メチルシアノ基、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基、ヨード基、2,3−ジフルオロ基、2,4−ジフルオロ基、2,5−ジフルオロ基、3,4−ジフルオロ基、3,5−ジフルオロ基、2,6−ジフルオロ基、1,2,3−トリフルオロ基、2,3,6−トリフルオロ基、2,4,6−トリフルオロ基、3,4,5−トリフルオロ基、2,3,5,6−テトラフルオロ基、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ基、アジド基、ヘキシル基、t−ブチル基、フェニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メチルオキシ基、フェニルオキシ基、ベンジルオキシ基、フェニルアミノオキシ基、フェニルアミノカルボニル基、メチルオキシカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノ基、ジメチルアミノカルボニル基、またはヒドロキシルアミノカルボニル基からなる群より選択される。
【0130】
式(11)の別の特定の実施形態においては、Rは置換されたもしくは非置換の2−ピリジン、3−ピリジン、または4−ピリジンであり、そしてnは約4から約8までの整数である。
【0131】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(12):
【0132】
【化43】



の構造によって示され、
式中、Rは、置換されたもしくは非置換のフェニル、ピペリジン、チアゾール、2−ピリジン、3−ピリジン、または4−ピリジンであり、nは4から8の整数である。
【0133】
式(12)の1つの特定の実施形態においては、Rは置換されたフェニル基である。式(12)の別の特定の実施形態においては、Rは置換されたフェニル基であり、式中の置換基は、メチルシアノ基、ニトロ基、チオ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、アミノカルボニル基、メチルシアノ基、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基、ヨード基、2,3−ジフルオロ基、2,4−ジフルオロ基、2,5−ジフルオロ基、3,4−ジフルオロ基、3,5−ジフルオロ基、2,6−ジフルオロ基、1,2,3−トリフルオロ基、2,3,6−トリフルオロ基、2,4,6−トリフルオロ基、3,4,5−トリフルオロ基、2,3,5,6−テトラフルオロ基、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ基、アジド基、ヘキシル基、t−ブチル基、フェニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メチルオキシ基、フェニルオキシ基、ベンジルオキシ基、フェニルアミノオキシ基、フェニルアミノカルボニル基、メチルオキシカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノ基、ジメチルアミノカルボニル基、またはヒドロキシルアミノカルボニル基からなる群より選択される。
【0134】
式(12)の別の特定の実施形態においては、Rはフェニルであり、そしてnは5である。別の実施形態においては、nは5であり、そしてRは3−クロロフェニルである。
【0135】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(13):
【0136】
【化44】



の構造によって示され、
式中、Aは、アミド部分であり、RおよびRは、置換されたもしくは非置換のアリール(例えば、フェニル)、アリールアルキル(例えば、ベンジル)、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、またはキノリニル、またはイソキノリニルからそれぞれ選択され;nは約3から約10までの整数である。
【0137】
式(13)の1つの実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(13a):
【0138】
【化45】



の構造によって示され、式中、RとRは、式(13)について示されたものと同じ意味を有する。
【0139】
式(13)の別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(13b):
【0140】
【化46】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(13)について示されたものと同じ意味を有する。
【0141】
式(13)、(13a)、および(13b)の特定の実施形態においては、Rは−NH−Rであり、式中、Rは置換されたもしくは非置換のアリール(例えば、フェニル)、アリールアルキル(例えば、ベンジル)、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、キノリニル、またはイソキノリニルである。
【0142】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(14):
【0143】
【化47】



の構造によって示され、
式中、Aは、アミド部分であり、RおよびRは、置換されたもしくは非置換のアリール(例えば、フェニル)、アリールアルキル(例えば、ベンジル)、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、またはキノリニル、またはイソキノリニルからそれぞれ選択され;Rは、水素、ハロゲン、フェニル、またはシクロアルキル部分であり、そして、nは3から10の整数である。
【0144】
式(14)の別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(14a):
【0145】
【化48】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(14)について示されたものと同じ意味を有し、そして、nは約3から10までの整数である。
【0146】
式(14)の別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(14b):
【0147】
【化49】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(14)について示されたものと同じ意味を有し、そして、nは約3から10までの整数である。
【0148】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(15):
【0149】
【化50】



の構造によって示され、
式中、Lは、アミド部分、O−、−S−、−NH−、NR、−CH−、−(CH−、−(CH=CH)−、フェニレン、シクロアルキレン、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるリンカーであり、式中のRは、置換されたもしくは非置換のC〜Cアルキルであり;そして式中、RおよびRはそれぞれ、独立して、置換されたもしくは非置換のアリール(例えば、フェニル)、アリールアルキル(例えば、ベンジル)、ナフチル、シクロアルキル、シクロアルキルアミノ、ピペリジンアミノ、ピペリジノ、9−プリン−6−アミノ、チアゾールアミノ、ヒドロキシル、分岐したもしくは非分岐のアルキル、アルケニル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、ピリジル、キノリニル、またはイソキノリニルであり;pは、0から10の整数である。
【0150】
式(15)の別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(15a):
【0151】
【化51】



の構造によって示され、式中、RおよびRは、式(15)について示されたものと同じ意味を有する。
【0152】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(15b):
【0153】
【化52】



の構造によって示され、式中、RとRは、式(15)について示されたものと同じ意味を有する。
【0154】
例えば、本発明のプロドラッグは、以下:
【0155】
【化53】




の構造の任意の1つ以上によって示すことができる。
【0156】
以下:
【0157】
【化54】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(17)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0158】
以下:
【0159】
【化55】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(18)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0160】
以下:
【0161】
【化56】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(19)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0162】
以下:
【0163】
【化57】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(20)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0164】
以下:
【0165】
【化58】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(21)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0166】
以下:
【0167】
【化59】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(22)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0168】
以下:
【0169】
【化60】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(23)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0170】
以下:
【0171】
【化61】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(24)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0172】
以下:
【0173】
【化62】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(25)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0174】
以下:
【0175】
【化63】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(26)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0176】
以下:
【0177】
【化64】



の構造によって示される化合物、またはその鏡像異性体であって、
式中、nは3から10の整数である。式(27)の1つの特定の実施形態においては、n=5である。
【0178】
以下:
【0179】
【化65】



の構造によって示される化合物であって、
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(29):
【0180】
【化66】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
qは、0または1であり;
およびpは、互いに独立して、0または1であり;
およびRは、互いに独立して、非置換または置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、pとpがいずれも0である場合には、RとRは一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示すこともでき;また、pまたはpの少なくとも1つが0ではない場合は、RまたはR、あるいは両方が、水素またはアルキルを示すこともできる。
【0181】
式(29)の1つの特定の実施形態においては、pとpはいずれも0である。式(29)の別の実施形態においては、qは0である。式Iの別の実施形態においては、qは1である。式(29)の別の実施形態においては、nは5である。式(29)のなお別の実施形態においては、nは6である。
【0182】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(30):
【0183】
【化67】



の構造、ならびにその薬学的に受容可能な塩、溶媒和物、水和物、プロドラッグ、およびその多形体によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルである。
【0184】
式(30)の1つの実施形態においては、nは5である。式(30)の別の実施形態においては、nは6である。
【0185】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(31):
【0186】
【化68】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルである。
【0187】
式(31)の1つの実施形態においては、nは5である。式(31)の別の実施形態においては、nは6である。
【0188】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(32):
【0189】
【化69】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、非置換もしくは置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RおよびRは、一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示すこともできる。
【0190】
式(32)の1つの実施形態においては、nは5である。式(32)の別の実施形態においては、nは6である。
【0191】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(33):
【0192】
【化70】



の構造によって示され、
式中、
nは、2、3、4、5、6、7、または8であり;
およびRは、互いに独立して、非置換もしくは置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RおよびRは、一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示すこともできる。
【0193】
式(33)の1つの実施形態においては、nは5である。式(33)の別の実施形態においては、nは6である。
【0194】
式(29)〜(33)のさらなる特定の実施形態においては、RおよびRの少なくとも1つは、非置換もしくは置換されたフェニル、ベンジル、アルキルフェニル、ナフチル、ビフェニル、−CH(Ph)、−CH=CHPh、シクロヘキシル、アルキルシクロヘキシル、キノリニル、アルキルキノリニル、イソキノリニル、アルキルイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、アルキルテトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、アルキルテトラヒドロイソキノリニル、インダゾリル、アルキルインダゾリル、ベンゾチアゾリル、アルキルベンゾチアゾリル、インドリル、アルキルインドリル、ピペラジニル、アルキルピペラジニル、モルホリニル、アルキルモルホリニル、ピペリジニル、アルキルピペリジニル、ピリジル、またはアルキルピリジルである。
【0195】
さらに、式(30)または(31)の1つの特定の実施形態においては、RおよびRは、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、またはtert−ブチルである。
【0196】
さらに、式(32)または(33)の1つの特定の実施形態においては、RおよびRは一緒に、それらが結合した−CH−N−CH−基とともに、窒素を含む複素環を示す。窒素を含む複素環の例としては、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、テトラヒドロキノリン、テトラヒドロイソキノリンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0197】
本発明のプロドラッグ誘導体を適切に形成することができるイミノ二酢酸ヒドロキサム酸誘導体の非限定的な例を示す特定の実施形態は、米国特許第6,511,990号、ならびに、2002年10月25日に出願された米国特許出願第10/281,875号、および2003年4月1日に出願された同60/459,826号に開示されている。これらの内容は参考として本明細書中に援用される。
【0198】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(34):
【0199】
【化71】



の構造によって示され、
式中、Aは、アルキル、アリール、または以下:
【0200】
【化72】



から選択される基であり、
式中、R〜R16は、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RとR、RとR、およびR11とR12の1つ以上が、一緒に、それらが結合した窒素原子とともに、窒素を含む複素環を形成し、そして、l、p、およびqは、互いに独立して、0、1、または2である。
【0201】
1つの特定の実施形態においては、式(34)の化合物は、以下:
【0202】
【化73】



の構造によって示される。
【0203】
別の実施形態においては、本発明のプロドラッグは、式(36):
【0204】
【化74】



の構造によって示され、
式中、
Aは、アルキル、アリール、または以下:
【0205】
【化75】



から選択される基であり、
式中、R〜R16は、互いに独立して、水素、または非置換もしくは置換されたアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、またはアルキルヘテロシクリルであるか;あるいは、RとR、RとR、およびR11とR12の1つ以上が、一緒に、それらが結合した窒素原子とともに、窒素を含む複素環を形成し;
Bは、
【0206】
【化76】



であり、
nは、0または1であり;そして
l、p、およびqは、互いに独立して、0、1、または2である。
【0207】
本明細書中で明らかにされるように、本発明のヒドロキサム酸誘導プロドラッグは、遊離のヒドロキサム酸誘導体と比較して、高い溶解性と細胞浸透性を示し、これはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターである。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素を、有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程を含む、ヒストン脱アセチル化酵素の活性を阻害する方法に関する。1つの実施形態においては、プロドラッグは、インビボで、有効成分である遊離のヒドロキサム酸に変換される。別の実施形態においては、プロドラッグは、完全なまま細胞標的に達し、そしてそれ自体が有効成分である。
【0208】
(化学的定義)
「脂肪族基」は、炭素と水素だけから構成され、そして必要に応じて、1つ以上の不飽和のユニット(例えば、二重結合および/または三重結合)を含むことができる、非芳香族である。脂肪族基は、直鎖であっても、分岐した鎖であっても、または、環状であってもよい。直鎖または分岐した鎖である場合は、脂肪族基には通常、約1個から約12個の炭素原子が含まれ、より一般的には、約1個から約6個の炭素原子が含まれる。環状である場合には、脂肪族基には通常、約3個から約10個の炭素原子が含まれ、より一般的には、約3個から約7個の炭素原子が含まれる。脂肪族基は、好ましくは、C〜C12の直鎖または分岐した鎖のアルキル基(すなわち、完全に飽和した脂肪族基)であり、より好ましくは、C〜Cの直鎖または分岐した鎖のアルキル基である。例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、およびtert−ブチルが挙げられる。
【0209】
「アルケニル基」には、本明細書中で使用される場合は、1つ以上の二重結合を含む任意の基が含まれる。「アルキニル基」には、本明細書中で使用される場合は、1つ以上の三重結合を含む任意の基が含まれる。
【0210】
「芳香族基」(「アリール基」とも呼ばれる)には、本明細書中で使用される場合は、炭素環式芳香族基、複素環芳香族基(「ヘテロアリール」とも呼ばれる)、および本明細書中で定義されるような縮合させられた多環式芳香族環系が含まれる。
【0211】
「炭素環式芳香族基」は、5個から14個の炭素原子の芳香環であり、これには、5員または6員のシクロアルキル基と縮合させられた炭素環式芳香族基(例えば、インダン)が含まれる。炭素環式芳香族基の例としては、フェニル、ナフチル(例えば、1−ナフチルおよび2−ナフチル);アントラセニル(例えば、1−アントラセニル、2−アントラセニル);フェナントレニル;フルオレニル(例えば、9−フルオレニル、インダニル)などが挙げられるが、これらに限定はされない。炭素環式芳香族基は、必要に応じて、以下に記載される指定された数の置換基で置換される。
【0212】
「複素環式芳香族基」(または「ヘテロアリール」)は、5個から14個の炭素原子と、1個から4個までの、O、N、またはSから選択されるヘテロ原子の単環、二環、または三環の芳香族環である。ヘテロアリールの例としては、ピリジル(例えば、2−ピリジル(α−ピリジルとも呼ばれる)、3−ピリジル(β−ピリジルとも呼ばれる)、および4−ピリジル(γ−ピリジルとも呼ばれる));チエニル(例えば、2−チエニルおよび3−チエニル);フラニル(例えば、2−フラニルおよび3−フラニル);ピリミジル(例えば、2−ピリミジルおよび4−ピリミジル);イミダゾリル(例えば、2−イミダゾリル);ピラニル(例えば、2−ピラニルおよび3−ピラニル);ピラゾリル(例えば、4−ピラゾリルおよび5−ピラゾリル);チアゾリル(例えば、2−チアゾリル、4−チアゾリル、および5−チアゾリル);チアジアゾリル;イソチアゾリル;オキサゾリル(例えば、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、および5−オキサゾリル);イソキサゾリル;ピロリル;ピリダジニル;ピラジニルなどが挙げられるが、これらに限定はされない。上記で定義される複素環式芳香族(すなわち、ヘテロアリール)は、必要に応じて、芳香族基について以下に記載されるように、指定された数の置換基で置換される場合がある。
【0213】
「縮合させられた多環式芳香族」環系は、1つ以上の他のヘテロアリールまたは非芳香族複素環と縮合させられた、炭素環式芳香族基またはヘテロアリールである。例として、キノリニルおよびイソキノリニル(例えば、2−キノリニル、3−キノリニル、4−キノリニル、5−キノリニル、6−キノリニル、7−キノリニル、および8−キノリニル、1−イソキノリニル、3−イソキノリニル、4−イソキノリニル、5−イソキノリニル、6−イソキノリニル、7−イソキノリニル、および8−イソキノリニル);ベンゾフラニル(例えば、2−ベンゾフラニルおよび3−ベンゾフラニル);ジベンゾフラニル(例えば、2,3−ジヒドロベンゾフラニル);ジベンゾチオフェニル;ベンゾチエニル(例えば、2−ベンゾチエニルおよび3−ベンゾチエニル);インドリル(例えば、2−インドリルおよび3−インドリル);ベンゾチアゾリル(例えば、2−ベンゾチアゾリル);ベンゾオキサゾリル(例えば、2−ベンゾオキサゾリル);ベンズイミダゾリル(例えば、2−ベンゾイミダゾリル);イソインドリル(例えば、1−イソインドリルおよび3−イソインドリル);ベンゾトリアゾリル;プリニル;チアナフテニル、ピラジニルなどが挙げられる。縮合させられた多環式芳香族環系は、必要に応じて、本明細書中に記載されるように、指定された数の置換基で置換される場合がある。
【0214】
「複素環」(「ヘテロシクリル」とも呼ばれる)は、5個から14個の環炭素原子と、1個から4個までの、O、N、S、またはPから選択されるヘテロ原子の単環、二環、または三環の飽和または不飽和環である。複素環の例としては、ピロリジニル、ピペリジニル、モルホリニル、チアモルホリニル、ピペラジニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロキノリニル、テトラヒドロキノリニル、ジヒドロイソキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、ジヒドロピラジニル、テトラヒドロピラジニル、ジヒドロピリジル、テトラヒドロピリジルなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0215】
さらに、「窒素を含む複素環」は、環系の中に少なくとも1つの窒素原子を含む、上記で定義されるような複素環である。窒素を含む複素環は、1つの環へテロ原子として窒素を含むことができ、また、O、S、N、またはPのような1つ以上のさらなるヘテロ原子を含むこともできる。
【0216】
「シクロアルキル基」は、5個から14個の環炭素原子の単環、二環、または三環の飽和または不飽和環である。複素環の例としては、シクロペンタニル、シクロペンテニル、シクロヘキサニル、およびシクロヘキセニルなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0217】
「アルキルアリール基」(アリールアルキル)は、芳香族基(好ましくは、フェニル基)で置換されたアルキル基である。好ましいアルキルアリール基はベンジル基である。適切な芳香族基は本明細書中に記載されており、そして適切なアルキル基も本明細書中に記載される。アルキルアリール基についての適切な置換基は本明細書中に記載される。
【0218】
「アルキルヘテロシクリル基」は、ヘテロシクリル基で置換されたアルキル基である。適切なヘテロシクリル基は本明細書中に記載されており、そして適切なアルキル基も本明細書中に記載される。アルキルヘテロシクリル基についての適切な置換基は本明細書中に記載される。
【0219】
「アルキルシクロアルキル基」は、シクロアルキル基で置換されたアルキル基である。適切なシクロアルキル基は本明細書中に記載されており、そして適切なアルキル基も本明細書中に記載される。アルキルシクロアルキル基についての適切な置換基は本明細書中に記載される。
【0220】
「アリールオキシ基」は、酸素を介して化合物に結合させられたアリール基(例えば、フェノキシ)である。
【0221】
「アルコキシ基」(アルキルオキシ)は、本明細書中で使用される場合は、酸素原子を介して化合物に結合させられた、直鎖または分岐したC〜C12または環状のC〜C12アルキル基である。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0222】
「アリールアルコキシ基」(アリールアルキルオキシ)は、アリールアルキルのアルキル部分の上の酸素を介して化合物に結合させられたアリールアルキル基(例えば、フェニルメトキシ)である。
【0223】
「アリールアミノ基」は、本明細書中で使用される場合は、窒素を介して化合物に結合させられたアリール基である。
【0224】
本明細書中で使用される場合は、「アリールアルキルアミノ基」は、アリールアルキルのアルキル部分の上の窒素を介して化合物に結合させられたアリールアルキル基である。
【0225】
「アミノ酸保護基」または「アミノ保護基」は、本明細書中で使用される場合は、アミノ酸のα−アミノ基を保護するために通常使用される任意の官能基を意味する。適切なα−アミノ酸保護基Prlとしては、第三ブチルオキシカルボニル(BOC)、イソアミルオキシカルボニル(AOC)、o−ニトロフェニルスルフェニル(NPS)、フルオロエニルメチルオキシカルボニル(FMOC)、o−ニトロピリジニルスルフェニル(NPYS)、ビフェニルプロピルオキシカルボニル(BPOC)、または任意の他の公知のアミノ酸保護基が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0226】
「アミノ酸の残基」は、本明細書中で使用される場合は、自然界に存在しているまたは自然界には存在しないアミノ酸の任意の残基を意味し、その限定ではない例は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、ホモシステイン、グルタミン、グルタミン酸、イソロイシン、ノルロイシン、グリシン、フェニルグリシン、ロイシン、ヒスチジン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、オルニチン、プロリン、セリン、ホモセリン、バリン、ノルバリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンなどの残基である。これらは、記載されるアミノ酸のそれぞれについて、D型、L型、またはD,L−型であることが可能である(グリシンまたは不斉炭素原子を含まない任意の他のアミノ酸を除く)。
【0227】
本明細書中で使用される場合は、多くの部分または基は、「置換されたまたは非置換」のいずれかであると記載される。ある部分が置換されていると記載される場合は、これは、置換に利用することができることが当業者に公知であるその部分の任意の一部を置換することができることを示す。例えば、置換することができる基は、水素以外の基(すなわち、置換基)で置き換えられる水素原子であり得る。多数の置換基を存在させることができる。複数の置換基が存在する場合には、置換基は同じであっても、また異なっていてもよい。そして置換基は、置換することができる部位のいずれかに存在し得る。置換のためのこのような手段は当該分野で周知である。例示(本発明の範囲を限定するようには解釈されるべきではない)の目的のための、置換基である基のいくつかの例は以下である:アルキル基(1つ以上の置換基で置換することもできる)、アルコキシ基(置換することができる)、ハロゲンまたはハロ基(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ、ニトロ、オキソ、−CN、−COH、−COOH、アミノ、アジド、N−アルキルアミノ、またはN,N−ジアルキルアミノ(この中のアルキル基もまた置換することができる)、N−アリールアミノまたはN,N−ジアリールアミノ(この中のアリール基をさらに置換することもできる)、エステル(−C(O)−OR、式中、Rは、アルキル、アリールなどの基であり得、これは置換することができる)、アリール(置換することができる)、シクロアルキル(置換することができる)、アルキルアリール(置換することができる)、アルキルヘテロシクリル(置換することができる)、アルキルシクロアルキル(置換することができる)、およびアリールオキシである。
【0228】
(立体化学)
多くの有機化合物は、平面偏光の平面を旋回させる能力を有している、光学的に活性な形態で存在する。光学的に活性な化合物の記載においては、DおよびLまたはRおよびSが前に置かれ、これを使用して、そのキラル中心(単数または複数)についてのその分子の絶対配置が示される。前に置かれたdおよびlまたは(+)および(−)は、化合物による平面偏光の旋回の記号を示すために使用され、(−)は、化合物が左旋性であることを示す。(+)またはdが前に置かれた化合物は、右旋性である。所定の化学構造について、立体異性体と呼ばれるこれらの化合物は、これらが互いに重ね合わせることができない鏡像であることを除いて同一である。特異的立体異性体はまた、鏡像異性体と呼ぶこともでき、このような鏡像異性体の混合物は、多くの場合、鏡像異性体混合物と呼ばれる。鏡像異性体の50:50混合物はラセミ混合物と呼ばれる。本明細書中に記載される化合物の多くは、1つ以上のキラル中心を有することができ、したがって、異なる鏡像異性体形態で存在し得る。所望される場合には、不斉炭素をアスタリスク()で示すことができる。不斉炭素への結合が本発明の式の中で直線として示されている場合には、不斉炭素の(R)および(S)立体構造の両方、したがって、両方の鏡像異性体とその混合物が、その式の中に含まれると理解される。当該分野で使用される場合は、不斉炭素についての絶対構造を特定することが所望される場合には、不斉炭素に対する結合の1つはくさび形で示すことができ(平面より上にある原子への結合)、そして他のものは、短い平行する線の連続またはくさびとして示すことができる(平面より下にある原子への結合)。Cahn−Inglod−Prelogシステムを、不斉炭素に(R)または(S)立体配置を割り当てるために使用することができる。
【0229】
本発明のHDACインヒビターに1つのキラル中心が含まれる場合には、この化合物は、2つの鏡像異性体形態で存在し、本発明には、両方の鏡像異性体と鏡像異性体の混合物、例えば、ラセミ混合物と呼ばれる特異的な50:50混合物が含まれる。鏡像異性体は、以下のような当業者に公知の方法によって分離することができる:例えば、結晶化によって分離することができるジアステレオ異性体塩の形成(CRC Handbook of Optical Resolutions via Diastereomeric Salt Formation by David Kozma(CRC Press,2001)を参照のこと);例えば、結晶化、気体−液体もしくは液体クロマトグラフィーによって分離することができる、ジアステレオ異性体誘導体または複合体の形成;鏡像異性体特異的試薬との1つの鏡像異性体の選択的反応、例えば、酵素によるエステル化;あるいは、キラル環境での(例えば、キラルリガンドが結合しているケイ酸のようなキラル支持体上、またはキラル溶媒の存在下での)気体−液体または液体クロマトグラフィー。所望される鏡像異性体が上記の分離手順の1つによって別の化学物質に変換される場合には、所望される鏡像異性体形態を遊離させるためにさらなる工程が必要であることは明らかである。あるいは、特異的な鏡像異性体は、光学活性のある試薬、基質、触媒、または溶媒を使用した非対称合成によって、あるいは、非対称形質転換による他方の鏡像異性体への1つの鏡像異性体の変換によって合成することができる。
【0230】
本発明の化合物の不斉炭素での特異的な絶対構造の設計は、化合物の指定された鏡像異性体形態が鏡像異性体過剰の状態であるか、または言い換えると、他の鏡像異性体を実質的に含まないことを意味することが理解される。例えば、「R」形態の化合物は、「S」形態の化合物を実質的には含まず、したがって、「S」形態の鏡像異性体が過剰に存在する。逆に、「S」形態の化合物は、「R」形態の化合物を実質的には含まず、したがって、「R」形態の鏡像異性体が過剰に存在する。鏡像異性体過剰は、本明細書中で使用される場合は、特定の鏡像異性体が50%より多く存在することである。例えば、鏡像異性体過剰は、約60%以上、または約70%以上、または約80%以上、約90%以上などである。特定の絶対構造が指定されている特定の実施形態においては、示された化合物の鏡像異性体過剰は、少なくとも約90%である。さらに特定の実施形態においては、化合物の鏡像異性体過剰は、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約97.5%、例えば、少なくとも99%鏡像異性体過剰である。
【0231】
本発明の化合物が2つ以上の不斉炭素を有する場合には、この化合物は、2つ以上の光学異性体を有することができ、そしてジアステレオ異性体形態で存在することができる。例えば、2つの不斉炭素が存在する場合には、この化合物は、4個までの光学異性体と、2対の鏡像異性体((S,S)/(R,R)および(R,S)/(S,R))を有することができる。鏡像異性体の対(例えば、(S,S)/(R,R))は、互いに鏡像である立体異性体である。鏡像ではない立体異性体(例えば、(S,S)および(R,S))はジアステレオ異性体である。ジアステレオ異性体の対は、当業者に公知の方法によって、例えば、クロマトグラフィーまたは結晶化によって分離することができ、そしてそれぞれの対の中の個々の鏡像異性体は上記に記載されるように分離することができる。本発明には、このような化合物の個々のジアステレオ異性体とそれらの混合物が含まれる。
【0232】
本明細書中で使用される場合は、「a」、「an」、および「the」には、その状況が他の場所で明確に示されない限りは、単数形および複数形についての言及が含まれる。したがって、例えば、「有効成分」または「薬理学的活性のある物質」との言及には、1つの有効成分、さらには、組み合わせられた2つ以上の異なる有効成分が含まれる。「キャリア」との言及には、2つ以上のキャリアの混合物、さらには1つのキャリアなどが含まれる。
【0233】
本発明は、上記に列挙された化合物に加えて、そのような化合物のホモログおよびアナログの使用が含まれるように意図される。この状況においては、ホモログは、上記の化合物と実質的な構造類似性を有している分子であり、そしてアナログは、構造上の類似性とは無関係に、実質的な生物学的類似性を有している分子である。
【0234】
(薬学的に受容可能な塩)
本明細書中に記載されるヒドロキサム酸プロドラッグは、上記のように、それらの薬学的に受容可能な塩の形態で調製することができる。薬学的に受容可能な塩は、親の化合物の所望される生物学的活性を保持しており、望ましくない毒性の作用を発揮しない塩である。このような塩の例は、(a)酸付加塩有機酸および無機酸(例えば、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、リン酸などであり得る酸付加塩)である。薬学的に受容可能な塩はまた、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄)および有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなど)での処理によって調製することもできる。薬学的に受容可能な塩はまた、塩素、臭素、およびヨウ素のような元素陰イオンから形成された塩であってもよい。
【0235】
上記の薬学的に受容可能な塩、および他の一般的な薬学的に受容可能な塩の調製は、Bergら,“Pharmaceutical Salts,”J.Pharm.Sci.,1977:66:1−19にさらに完全に記載されている。
【0236】
開示される活性のある化合物はまた、上記のように、それらの水和物の形態で調製することもできる。用語「水和物」には、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物などが含まれるが、これらに限定はされない。
【0237】
開示される活性のある化合物はまた、上記のように、任意の有機溶媒または無機溶媒(例えば、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロパノール)、ケトン(例えば、アセトン)、芳香族溶媒など)を用いて、溶媒和物の形態で調製することもできる。
【0238】
開示される活性のある化合物はまた、任意の固体または液体の物理学的形態で調製することもできる。例えば、化合物は、結晶形態、多形体、無定形形態とすることができ、任意の粒子の大きさを有することができる。さらに、化合物の粒子は微粉化することができ、また、凝集させることもでき、粒子の顆粒、粉末、油、油状懸濁物、あるいは任意の他の固体または液体の物理学的形態とすることができる。
【0239】
本明細書中で使用される場合は、「a」、「an」、および「the」には、その状況が他の場所で明確に示されない限りは、単数形および複数形についての言及が含まれる。したがって、例えば、「有効成分」または「薬理学的活性のある物質」との言及には、1つの有効成分、さらには、組み合わせられた2つ以上の異なる有効成分が含まれる。「キャリア」との言及には、2つ以上のキャリアの混合物、さらには1つのキャリアなどが含まれる。
【0240】
(処置方法)
本発明はまた、本明細書中に記載されるヒドロキサム酸プロドラッグを使用する方法にも関する。本明細書中で記載される場合は、本発明のヒドロキサム酸プロドラッグは、癌の処置に有用である。さらに、それについてヒドロキサム酸誘導体が有用であることが見出されている疾患は広く存在しており、それらについても本発明のプロドラッグは有用である。限定されない例としては、本明細書中に記載されるようなチオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患、および本明細書中に記載されるような中枢神経(CNS)の疾患である。
【0241】
(1.癌の処置)
本明細書中で示されるように、本発明のヒドロキサム酸プロドラッグは癌の処置に有用である。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、処置が必要な被験体の癌を処置する方法に関係する。この方法には、上記被験体に対して、治療有効量の本明細書中に記載されるヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0242】
用語「癌」は、固形腫瘍、新生物、上皮性悪性腫瘍、肉腫、白血病、リンパ腫などのような、新生物細胞の増殖によって引き起こされる任意の癌を意味する。具体的には、本発明の化合物、組成物、および方法によって処置することができる癌としては、以下が挙げられるが、これらに限定はされない:心臓:肉腫(血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫)、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫、および奇形腫;肺:気管支癌(扁平上皮細胞、未分化の小細胞、未分化の大細胞、腺癌)、肺胞(細気管支)癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨性過誤腫、中皮種;消化器:食道(扁平上皮細胞癌、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫)、胃(上皮性悪性腫瘍、リンパ腫、平滑筋肉腫)、膵臓(導管腺癌、膵島細胞腫、グルカゴン産生腫瘍、ガストリン産生腫瘍、カルチノイド腫瘍、ビポーマ)、小腸(腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫)、大腸(腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫);尿生殖路:腎臓(腺癌、ウイルムス腫瘍(腎芽細胞腫)、リンパ腫、白血病)、膀胱および尿道(扁平上皮細胞癌、移行上皮癌、腺癌)、前立腺(腺癌、肉腫)、精巣(精上皮腫、奇形腫、胎生期癌、奇形癌、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、線維腫、線維腺腫類腺腫瘍、脂肪腫);肝臓:肝臓癌(肝細胞癌)、胆管癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫、血管腫;骨:骨原性肉腫(骨肉種)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網肉腫)、多発性骨髄腫、悪性骨巨細胞腫、骨軟骨腫(骨軟骨性外骨腫)、良性脊索腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨骨腫および巨細胞腫;神経系:頭蓋骨(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、変形性骨炎)、髄膜(髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫)、脳(星状細胞腫、髄芽細胞腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫(松果体腫)、多形性膠芽腫、乏突起膠腫、神経鞘腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄(神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫);婦人科:子宮(子宮内膜癌)、子宮頸部(子宮頸癌、腫瘍前の子宮頸部形成異常)、卵巣(卵巣癌(漿液性嚢胞腺癌、ムチン性嚢胞腺癌、分類されていない上皮性悪性腫瘍)、顆粒膜細胞−莢膜細胞腫、セルトリ細胞−ライディッヒ細胞腫、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、外陰部(扁平上皮細胞癌、上皮内癌、腺癌、線維肉腫、黒色腫)、膣(明細胞癌、扁平上皮細胞癌、ブドウ状肉腫(胎児性横紋筋肉腫)、卵管(上皮性悪性腫瘍);血液学的:血液(骨髄性白血病(急性および慢性)、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫);皮膚:悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮細胞癌、カポジ肉腫、奇胎異形成母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、乾癬;ならびに、副腎:神経芽細胞腫。したがって、用語「癌性細胞」には、本明細書中で提供される場合には、上記で同定された症状のいずれか1つに罹患した細胞が含まれる。
【0243】
(2.チオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患の処置)
別の実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグが、その必要がある被験体のチオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患または障害を処置する方法において使用される。この方法には、被験体に、治療有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0244】
TRXによって媒介される疾患の例としては、急性および慢性の炎症性疾患、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、酸化的ストレスに関係する疾患、および細胞の過剰増殖を特徴とする疾患が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0245】
非限定的な例としては、以下がある:関節の炎症症状(関節リウマチ(RA)および乾癬性関節炎を含む);炎症性腸疾患(例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎);脊椎関節症;強皮症;乾癬(T細胞によって媒介される乾癬を含む)および炎症性皮膚疾患(例えば、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、蕁麻疹);血管炎(例えば、壊死性血管炎、皮膚血管炎、および過敏性血管炎);好酸球性筋炎、好酸球性筋膜炎;皮膚または臓器の白血球浸潤を伴う癌、虚血性損傷(脳虚血(例えば、外傷、てんかん、出血、または脳卒中の結果としての脳損傷(これらのそれぞれによって、神経変性が導かれる可能性がある)を含む);HIV、心不全、慢性、急性、または悪性の肝臓疾患、自己免疫性甲状腺炎;全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、肺疾患(例えば、ARDS);急性膵炎;筋萎縮性側索硬化症(ALS);アルツハイマー病;悪液質/拒食症;喘息;アテローム性動脈硬化症;慢性疲労症候群、発熱;糖尿病(例えば、インシュリン依存型糖尿病または若年発症型糖尿病);糸球体腎炎;移植片対宿主拒絶(例えば、移植において);出血性ショック;痛覚過敏症;炎症性腸疾患;多発性硬化症;筋障害(例えば、筋タンパク質の代謝、特に、敗血症におけるもの);骨粗鬆症;パーキンソン病;疼痛;早期陣痛;乾癬;再潅流損傷;サイトカインによって誘導される毒性(例えば、敗血症ショック、内毒素ショック);放射線治療による副作用、一時的な下顎関節の疾患、腫瘍の転移;あるいは、緊張、捻挫、軟骨の損傷、外傷(例えば、火傷)、整形外科手術、感染または他の疾患のプロセスによって生じる炎症症状。アレルギー性疾患および症状としては、以下が挙げられるが、これらに限定はされない:呼吸器のアレルギー性疾患(例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、好酸球性肺炎(例えば、レフラー症候群、慢性好酸球性肺炎)、遅延型過敏症、間質性肺炎(ILD)(例えば、特発性肺線維症、または、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、全身性硬化症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、もしくは皮膚筋炎を伴うILD);全身性アナフィラキシー、または過敏性反応、薬剤アレルギー(例えば、ペニシリン、セファロスポリンに対するもの)、虫刺されに対するアレルギーなど。
【0246】
(3.中枢神経系(CNS)の疾患の処置)
別の実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグは、その必要がある被験体の中枢神経系の疾患を処置する方法において使用される。この方法には、被験体に、治療有効量の本明細書中に記載されるに任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0247】
特定の実施形態においては、CNS疾患は神経変性疾患である。さらなる実施形態においては、神経変性疾患は、遺伝性の神経変性疾患、例えば、ポリグルタミン伸長疾患である遺伝性の神経変性疾患である。一般的には、神経変性疾患は以下のようにグループ分けすることができる:
I.他の目立った神経学的兆候のない進行性認知症を特徴とする障害、例えば、アルツハイマー病;アルツハイマー型の老年性認知症;およびピック病(脳葉萎縮)。
【0248】
II.他の目立った神経学的異常を有している進行性認知症を併発している症候群、例えば、A)主に成人に見られる症候群(ハンチントン病、運動失調の兆候を伴う認知症、および/またはパーキンソン病の発症を併発している多系統萎縮症、進行性核上麻痺(Steel−Richardson−Olszewski病の発症)、びまん性レヴィー小体認知症、および皮質歯状核黒質変性症);ならびに、B)主に子供および若年成人に見られる症候群(例えば、ハレルフォルデン・スパッツ病および進行性家族性ミオクローヌス癲癇)。
【0249】
III.姿勢や行動の異常を徐々に発症する症候群、例えば、振戦麻痺(パーキンソン病)、線条体黒質変性症、進行性核上麻痺、捻転ジストニア(捻転ジストニー;変形性筋失調症)、痙性斜頸、および他の運動障害、家族性振戦、ならびにジル・ド・ラ・トゥレット症候群。
【0250】
IV.進行性失調症の症候群、例えば、小脳変性症(例えば、小脳皮質変性症およびオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA));ならびに脊髄小脳変性症(フリードライヒ失調症および関連疾患)。
【0251】
V.中枢自律神経系の障害の症候群(シャイ・ドレーガー症候群)。
【0252】
VI.感覚的変化を伴わない筋力低下および筋肉の萎縮の症候群(運動ニューロンの疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症(例えば、乳児脊髄性筋萎縮症(ウェルドニッヒ・ホフマン病)、若年性脊髄性筋萎縮症(ヴォールファルト・クーゲルベルク・ヴェランデル病)、および家族性脊髄性筋萎縮症の他の形態)、原発性側索硬化、および遺伝性痙性対麻痺。
【0253】
VII.感覚的変化を伴う筋力低下および筋肉の消耗を組み合わせた症候群(進行性神経原性筋萎縮;慢性家族性多発性神経障害)、例えば、腓骨筋萎縮(シャルコー・マリー・ツース病)、肥厚性間質性ポリニューロパシー(デジェリン・ソッタス病)、および慢性進行性神経障害の混合型。
【0254】
VIII.進行性の視力障害の症候群、例えば、網膜の色素変性(網膜色素変性症)、および遺伝性の視神経萎縮(レーバー病)。
【0255】
(定義)
用語「処置する」は、本発明に関係するその種々の文法上の形態において、疾患状態、疾患の進行、疾患の原因である物質(例えば、細菌もしくはウイルス)、または他の異常な症状の有害な作用を、予防する(すなわち、化学的予防)、治癒させる、反転させる、軽減する、緩和させる、最小化する、抑制する、または停止させることを意味する。例えば、処置には、疾患の兆候(すなわち、すべての不必要な症状)を緩和させること、または疾患の進行を軽減させることが含まれ得る。本発明の方法のいくつかには、病因の物質を物理的に取り除くことが含まれるので、当業者は、本発明の化合物が、病因の物質への暴露の前に、またはそれと同時に投与される(予防的処置)状況、および本発明の化合物が、病因の物質への暴露の後(さらには十分に後でもなお)に投与される状況でも、同様に有効であることを認識するであろう。
【0256】
癌の処置は、本明細書中で使用される場合は、癌の転移を含む、癌の進行を部分的または全体的に阻害する、遅延させる、または予防すること;癌の転移を含む癌の再発を阻害する、遅延させる、または予防すること;あるいは、哺乳動物(例えば、ヒト)において癌の発症または発達を予防する(化学的予防)ことを意味する。
【0257】
本明細書中で使用される場合、用語「治療有効量」は、所望される治療効果または生物学的効果が得られる任意の量を含むように意図される。治療効果は、処置される疾患または障害、または所望される生物学的作用に応じて様々である。このように、治療効果は、疾患または障害に伴う症状の重篤度の低下、および/もしくは、疾患の進行の阻害(部分的もしくは完全)であり得る。治療応答を誘発するために必要な量は、被験体の年齢、健康状態、大きさ、および性別に基づいて決定することができる。最適量は、処置に対する被験体の応答のモニタリングに基づいて決定することもできる。
【0258】
本発明において、プロドラッグが癌を処置または予防するために使用される場合には、所望される生物学的応答は、癌の転移を含む癌の進行の部分的もしくは完全な阻害、遅延、または予防;癌の転移を含む癌の再発の阻害、遅延、または予防;あるいは、哺乳動物(例えば、ヒト)における癌の発症または発達の予防(化学的予防)である。
【0259】
さらに、本発明において、プロドラッグがチオレドキシン(TRX)によって媒介される疾患および症状を処置および/または予防するために使用される場合には、治療有効量は、例えば、所望される治療効果を誘発するための処置が必要な被験体のTRXの生理学的に適切なレベルを調節する(例えば、増大させる、低下させる、または維持する)量である。治療効果は、処置される特異的なTRXによって媒介される疾患または症状に応じて様々である。このように、治療効果は、疾患もしくは障害に関係する症状の重篤度の低下、および/または疾患の進行または疾患の阻害(部分的または完全)であり得る。
【0260】
さらに、本発明においては、プロドラッグが中枢神経系(CNS)の疾患または障害を処置および/または予防するために使用される場合には、治療有効量は、処置される特異的な疾患または障害に応じて様々である。このように、治療効果は、疾患もしくは障害に関係する症状の重篤度の低下、および/または疾患もしくは障害の進行の阻害(部分的または完全)であり得る。
【0261】
加えて、治療有効量は、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害する量であり得る。
【0262】
さらに、治療有効量は、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導する量、あるいは、腫瘍細胞の最終分化を誘導する量であり得る。
【0263】
本発明の方法は、癌を有しているヒト患者の処置または化学的予防のために意図される。しかし、この方法は、他の被験体の癌の処置にもおそらく有効である。「被験体」は、本明細書中で使用される場合は、哺乳動物のような動物を意味し、これには、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、あるいは、他のウシ科の動物、ヒツジ科の動物、ウマ科の動物、イヌ科の動物、ネコ科の動物、齧歯類、またはマウスの種が含まれるが、これらに限定はされない。
【0264】
(ヒストン脱アセチル化酵素およびヒストン脱アセチル化酵素インヒビター)
本明細書中で示されるように、本発明のヒドロキサム酸プロドラッグは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)インヒビターである。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素の活性を阻害する方法に関する。この方法には、ヒストン脱アセチル化酵素を、有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0265】
1つの実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグは、クラスIヒストン脱アセチル化酵素(クラスI HDAC)の強力なインヒビターである。クラスI HDACには、ヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC−1)、ヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC−2)、ヒストン脱アセチル化酵素3(HDAC−3)、およびヒストン脱アセチル化酵素8(HDAC−8)が含まれる。特定の実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグは、ヒストン脱アセチル化酵素I(HDAC−1)の強力なインヒビターである。別の実施形態においては、ヒドロキサム酸プロドラッグは、クラスIIヒストン脱アセチル化酵素(クラスII HDAC)の強力なインヒビターである。クラスII HDACには、ヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC−4)、ヒストン脱アセチル化酵素5(HDAC−8)、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC−6)、ヒストン脱アセチル化酵素7(HDAC−7)、およびヒストン脱アセチル化酵素9(HDAC−9)が含まれる。
【0266】
「ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)」は、この用語が本明細書中で使用される場合、ヌクレオソームコアヒストンのアミノ末端テールにあるリジン残基からのアセチル基の除去を触媒する酵素である。従って、HDACは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とともに、ヒストンのアセチル化状態を調節する。ヒストンのアセチル化は、遺伝子の発現に影響を与え、そして、HDACのインヒビター(例えば、ヒドロキサム酸をベースのハイブリッド極性化合物であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA))は、インビトロでは、形質転換された細胞の増殖の停止、分化、および/またはアポトーシスを誘導し、そして、インビボでは腫瘍の増殖を阻害する。HDACは、構造上の相同性に基づいて3つのクラスに分けることができる。クラスI HDAC(HDAC1、2、3、および8)は、酵母のRPD3タンパク質に対して類似性を有し、これは核の中に存在し、そして転写のコリプレッサーと会合した複合体として見出される。クラスII HDAC(HDAC4、5、6、7、および9)は、酵母のHDA1タンパク質に類似しており、そして核での局在性と、細胞質細胞内での局在性との両方を有する。クラスI HDACとクラスII HDACのいずれも、SAHAのようなヒドロキサム酸ベースのHDACインヒビターによって阻害される。クラスIII HDACは、酵母のSIR2タンパク質に関係しており、ヒドロキサム酸ベースのHDACインヒビターによっては阻害されないNAD依存性酵素の、構造的に異なるクラスを形成する。
【0267】
「ヒストン脱アセチル化酵素インヒビター」、すなわち「HDACインヒビター」は、この用語が本明細書中で使用される場合、インビボで、インビトロで、または両方で、ヒストンの脱アセチル化を阻害し得る化合物である。従って、HDACインヒビターは、少なくとも1つのヒストン脱アセチル化酵素の活性を阻害する。少なくとも1つのヒストンの脱アセチル化の阻害の結果として、アセチル化されたヒストンの増加が生じ、そして、アセチル化されたヒストンの蓄積は、HDACインヒビターの活性を評価するための適切な生物学的マーカーである。したがって、アセチル化されたヒストンの蓄積についてアッセイし得る手順が、目的の化合物のHDAC阻害活性を決定するために使用され得る。ヒストン脱アセチル化酵素活性を阻害することができる化合物はまた、他の物質にも結合し得、このようにして、酵素のような他の生物学的に活性な分子を阻害し得ると理解される。
【0268】
例えば、HDACインヒビターを受容した患者においては、末梢単核細胞中での、および、HDACインヒビターで処置された組織中でのアセチル化されたヒストンの蓄積を、適切なコントロールに対して決定し得る。
【0269】
特定の化合物のHDAC阻害活性は、例えば、少なくとも1つのヒストン脱アセチル化酵素の阻害を示す酵素アッセイを使用して、インビトロで決定され得る。さらに、特定の組成物で処置された細胞中でのアセチル化されたヒストンの蓄積の決定によって、化合物のHDAC阻害活性を決定し得る。
【0270】
アセチル化されたヒストンの蓄積のアッセイは、文献において周知である。例えば、Marks,P.A.ら,J.Natl.Cancer Inst.,92:1210−1215,2000、Butler,L.M.ら,Cancer Res.60:5165−5170(2000)、Richon,V.M.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:3003−3007,1998、およびYoshida,M.ら,J.Biol.Chem.,265:17174−17179,1990を参照のこと。
【0271】
例えば、HDACインヒビターである化合物の活性を決定するための酵素アッセイは、以下のように実施され得る。簡単に説明すると、HDACインヒビターである化合物の、アフィニティー精製されたヒトエピトープタグが付けられた(Flag)HDAC1に対する効果は、約20分間、氷上で基質が存在しない条件下で、示された量のインヒビター化合物とともに、酵素調製物をインキュベートすることによってアッセイされ得る。基質([H]アセチルで標識されたマウス赤白血病細胞由来のヒストン)を添加することができ、そしてサンプルを、30μLの全容量の中で37℃で20分間インキュベートすることができる。その後、反応を停止させることができ、遊離した酢酸塩を抽出することができ、そしてシンチレーションカウンティングによって、遊離した放射活性の量が決定される。HDACインヒビター化合物の活性を決定するために有用な代替的なアッセイは、BIOMOL(登録商標),Research Laboratories,Inc.,Plymouth Meeting,PAから入手することができる、「HDAC蛍光活性アッセイ;Drug Discovery Kit−AK−500」である。
【0272】
インビボでの研究は、以下のように行うことができる。動物(例えば、マウス)には、HDACインヒビター化合物を腹腔内に注射することができる。選択された組織(例えば、脳、脾臓、肝臓など)を、投与後の予め決定された時点で単離することができる。ヒストンは、本質的に、Yoshidaら,J.Biol.Chem.265:17174−17179,1990によって記載されているように、組織から単離することができる。等量のヒストン(約1μg)を15%のSDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動することができ、これをHybond−Pフィルター(Amershamから入手することができる)に移すことができる。フィルターは、3%の乳汁でブロックされ得、そしてウサギ精製ポリクローナル抗アセチル化ヒストンH4抗体(αAc−H4)および抗アセチル化ヒストンH3抗体(αAc−H3)(Upstate Biotechnology,Inc.)でプローブされ得る。アセチル化されたヒストンのレベルは、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(1:5000)およびSuperSignal化学発光基質(Pierce)を使用して視覚化され得る。ヒストンタンパク質についてのローディングコントロールとして、並行ゲルが、泳動され得、クマシーブルー(CB)で染色され得る。
【0273】
さらに、ヒドロキサム酸ベースのHDACインヒビターは、p21WAF1遺伝子の発現をアップレギュレートすることが示されている。p21WAF1タンパク質は、標準的な方法を使用して、種々の形質転換された細胞においてHDACインヒビターを用いた2時間の培養のうちに誘導される。p21WAF1遺伝子の誘導には、この遺伝子のクロマチン領域にアセチル化されたヒストンの蓄積が伴う。したがって、p21WAF1の誘導は、形質転換された細胞中でHDACインヒビターによって引き起こされるG1細胞周期での停止に関係していると理解され得る。
【0274】
代表的には、HDACインヒビターは、5つの大まかなクラスに分けられる:1)ヒドロキサム酸誘導体、2)短鎖脂肪酸(SCFA);3)環状テトラペプチド;4)ベンズアミド;および5)求電子性ケトン。このようなHDACインヒビターの例は、以下に示される。
【0275】
A.ヒドロキサム酸誘導体、例えば、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)(Richonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:3003−3007(1998));m−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサミド(CBHA)(Richonら,前出);ピロキサミド;トリコスタチンアナログ(例えば、トリコスタチンA(TSA)およびトリコスタチンC(Kogheら,1998,Biochem.Phamacol.56:1359−1364);サリチルヒドロキサム酸(Andrewsら,International J.Parasitology 30,761−768(2000));スベロイルビスヒドロキサム酸(SBHA)(米国特許第5,608,108号);アゼラインビスヒドロキサム酸(ABHA)(Andrewsら,前出);アゼライン−1−ヒドロキメート−9−アニリド(AAHA)(Qiuら,Mol.Biol.Cell 11:2069−2083(2000));6−(3−クロロフェニルウレイド)カプロインヒドロキサム酸(carpoic hydroxamic acid)(3Cl−UCHA);オキサムフラチン[(2E)−5−[3−[(フェニルスルホニル)アミノールフェニル]−ペント−2−エン−4−イノヒドロキサム酸(ynohydroxamic acid)](Kimら,Oncogene,18:2461−2470(1999));A−161906、Scriptaid(Suら,2000 Cancer Research,60:3137−3142);PXD−101(Prolifix);LAQ−824;CHAP;MW2796(Andrewsら,前出);MW2996(Andrewsら,前出);または米国特許第5,369,108号、同第5,932,616号、同第5,700,811号、同第6,087,367号、および同第6,511,990号に開示されているヒドロキサム酸のうちの任意のもの。
【0276】
「ヒドロキサム酸誘導ヒストン脱アセチル化酵素インヒビター」は、本明細書中で使用される場合、ヒドロキサム酸誘導体であるヒストン脱アセチル化酵素インヒビターのクラスを意味する。これらの化合物の例は、上記に提供される。
【0277】
「ヒドロキサム酸誘導体ヒストン脱アセチル化酵素インヒビターの残基」は、ヒドロキサム酸部分を除く、ヒドロキサム酸誘導体ヒストン脱アセチル化酵素インヒビターの部分全体を意味する。
【0278】
B.環状テトラペプチド、例えば、トラポキシンA(TPX)−環状テトラペプチド(シクロ−(L−フェニルアラニル−L−フェニルアラニル−D−ピペコリニル−L−2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシデカノイル))(Kijimaら,J.Biol.Chem.268:22429−22435(1993));FR901228(FK228、デプシペプチド(Nakajimaら,Ex.Cell Res.241:126−133(1998));FR225497環状テトラペプチド(H.Moriら,PCT出願番号WO00/08048(2000年2月17日));アピシジン環状テトラペプチド[シクロ(N−O−メチル−L−トリプトファニル−L−イソロイシニル−D−ピペコリニル−L−2−アミノ−8−オキソデカノイル)](Darkin−Rattrayら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93,1314313147(1996));アピシジンIa、アピシジンIb、アピシジンIc、アピシジンIIa、およびアピシジンIIb(P.Dulskiら,PCT出願番号WO97/11366);CHAP,HC−毒素環状テトラペプチド(Boschら,Plant Cell 7,1941−1950(1995));WF27082環状テトラペプチド(PCT出願番号WO98/48825);およびクラミドシン(chlamydocin)(Boschら,前出)。
【0279】
C.短鎖脂肪酸(SCFA)誘導体、例えば、酪酸ナトリウム(Cousensら,J.Biol.Chem.254,1716−1723(1979));イソ吉草酸塩(McBainら,Biochem.Pharm.53:1357−1368(1997));吉草酸塩(McBainら,前出);4−フェニル酪酸(4−PBA)(LeaおよびTulsyan,Anticancer Research,15,879−873(1995));フェニル酪酸(PB)(Wangら,Cancer Research,59,2766−2799(1999));プロピオン酸塩(McBainら,前出);ブチルアミド(LeaおよびTulsyan,前出);イソブチルアミド(LeaおよびTulsyan,前出);フェニル酢酸(LeaおよびTulsyan,前出);3−ブロモプロピオン酸(LeaおよびTulsyan,前出);トリブチリン(Guanら,Cancer Research,60,749−755(2000));バルプロ酸、バルプロ酸塩、およびPivanezTM
【0280】
D.ベンズアミド誘導体、例えば、CI−994;MS−275[N−(2−アミノフェニル)−4−[N−(ピリジン−3−イルメトキシカルボニル)アミノメチル]ベンズアミド(Saitoら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,4592−4597(1999));およびMS−275の3’−アミノ誘導体(Saitoら,前出)。
【0281】
E.求電子性ケトン誘導体、例えば、トリフルオロメチルケトン(Freyら,Bioorganic & Med.Chem.Lett.(2002),12,3443−3447;U.S.6,511,990)およびα−ケトアミド、例えば、N−メチル−α−ケトアミド。
【0282】
F.他のHDACインヒビター、例えば、天然の生成物、プサマプリン(psammaplin)およびデプデシン(Depudecin)(Kwonら,1998.PNAS 95:3356−3361)。
【0283】
(併用療法)
本発明のヒドロキサム酸プロドラッグは、単独で投与され得、また、処置される疾患または障害に適切な他の治療と組み合わせて投与され得る。別々の投薬処方物が使用される場合、ヒドロキサム酸プロドラッグと他の治療薬は、本質的に同じタイミングで(同時に)投与されてもよいし、または別々にずらしたタイミングで(連続して)投与されてもよい。薬学的な組み合わせは、これらのレジメンの全てを含むことが理解される。これらの種々の方法での投与は、ヒドロキサム酸プロドラッグと他の治療薬の有用な治療効果が実質的に同時に患者によって実現される限りは、本発明に適している。このような有用な効果は、好ましくは、それぞれの活性薬剤の標的血中濃度が実質的に同時に維持された場合に達成される。
【0284】
ヒドロキサム酸プロドラッグは、HDACインヒビター、アルキル化剤、抗生物質、抗代謝薬、ホルモン剤、植物に由来する物質、抗血管形成薬、分化誘導物質、細胞増殖停止誘導物質、アポトーシス誘導物質、細胞傷害性薬、生物製剤、遺伝子治療薬の任意の1つ以上、またはこれらの任意の組み合わせと組み合わせて投与され得る。
【0285】
(アルキル化剤)
アルキル化剤は、求核性残基、例えば、DNAの生産のためのヌクレオチド前駆体上の化学的実体と反応する。これらは、これらのヌクレオチドをアルキル化することによって細胞分裂のプロセスに影響を与え、そしてそれらのDNAへの組立を妨げる。
【0286】
アルキル化剤の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ビスクロロエチルアミン(ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、シクロホスファミド、イフォスファミド、メクロレタミン、メルファラン、ウラシルマスタード)、アジリジン(例えば、チオテパ)、スルホン酸アルキルアルコン(例えば、ブスルファン)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン)、従来のものではないアルキル化剤(アルトレタミン、ダカルバジン、およびプロカルバジン)、白金化合物(カルボプラスチン、およびシスプラチン)。これらの化合物は、リン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、スルフィヒドリル(sulfihydryl)基、カルボキシル基、およびイミダゾール基と反応する。
【0287】
生理学的条件下では、これらの薬物はイオン化し、そして、影響を受けやすい核酸およびタンパク質に結合する正に荷電したイオンを生じ、これによって、細胞周期の停止および/または細胞死を導く。アルキル化剤は、細胞周期の期非特異的物質である。なぜなら、これらは、細胞周期の特異的な期とは無関係にそれらの活性を発揮するからである。ナイトロジェンマスタードおよびスルホン酸アルキルアルコンは、G1期またはM期の細胞に対して最も有効である。ニトロソ尿素、ナイトロジェンマスタード、およびアジリジンは、G1期およびS期からM期への進行を害する。ChabnerおよびCollins(編)(1990)「Cancer Chemotherapy:Principles and Practice」,Philadelphia:JB Lippincott。
【0288】
アルキル化剤は、広い範囲の種々の新生物性疾患に対して有効であり、白血病およびリンパ腫、ならびに固形腫瘍の処置において有意な活性を有している。臨床的に、この群の薬物は、急性および慢性の白血病;ホジキン病;非ホジキンリンパ腫;多発性骨髄腫;原発性脳腫瘍;乳房、卵巣、精巣、肺、膀胱、子宮頸部、頭部、および頸部の癌、ならびに悪性黒色腫の処置において日常的に使用されている。
【0289】
(抗生物質)
抗生物質(例えば、細胞傷害性抗生物質)は、DNAまたはRNAの合成を直接阻害することによって作用し、そして細胞周期全体を通して有効である。抗生剤の例としては、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、およびアントラセンジオン)、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、およびプリカトマイシンが挙げられる。これらの抗生剤は、種々の細胞性の成分を標的化することによって細胞の増殖を妨害する。例えば、アントラサイクリンは、一般的には、転写活性のあるDNAの領域中のDNAトポイソメラーゼIIの作用を妨害し、これによってDNA鎖の切断を導くと考えられている。
【0290】
ブレオマイシンは、一般的には、イオンをキレート化し、そして活性化された複合体を形成し、複合体は、その後、DNAの塩基に結合して、鎖の切断と細胞死を引き起こすと考えられている。
【0291】
抗生剤は、乳房、肺、胃、および甲状腺の癌、リンパ腫、骨髄性白血病、骨髄腫、および肉腫を含む、広い範囲の新生物性疾患の治療として使用されている。
【0292】
(代謝拮抗薬)
代謝拮抗薬(すなわち、代謝拮抗剤)は、癌細胞の生理機能および増殖に不可欠な代謝プロセスを妨害する薬物のグループである。活発に増殖している癌細胞は、核酸、タンパク質、脂質、および他の不可欠な細胞性の成分を大量に合成し続ける必要がある。
【0293】
多くの代謝拮抗剤は、プリンヌクレオシドまたはピリミジンヌクレオシドの合成を阻害するか、あるいは、DNAの複製のための酵素を阻害する。いくつかの代謝拮抗剤はまた、リボヌクレオシドおよびRNAの合成を妨害し、そして/またはアミノ酸の代謝およびタンパク質の合成も妨害する。不可欠な細胞性の成分の合成を妨害することによって、代謝拮抗剤は、癌細胞の増殖を遅らせ得るか、または停止させ得る。代謝拮抗薬の例としては、フルオロウラシル(5−FU)、フロクシウリジン(5−FUdR)、メトトレキセート、ロイコボリン、ヒドロキシウレア、チオグアニン(6−TG)、メルカプトプリン(6−MP)、シタラビン、ペントスタチン、リン酸フルダラビン、クラドリビン(2−CDA)、アスパラギナーゼ、およびゲムシタビンが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0294】
代謝拮抗薬は、結腸、直腸、乳房、肝臓、胃、および膵臓の癌、悪性黒色腫、急性および慢性の白血病、ならびに、ヘアリーセル白血病を含む癌のいくつかの一般的な形態を処置するために広く使用されている。
【0295】
(ホルモン剤)
ホルモン剤は、それらの標的の器官の増殖および発生を調節する薬物のグループである。ほとんどのホルモン剤は、性ステロイドおよびそれらの誘導体およびそのアナログであり、例えば、エストロゲン、プロゲストゲン、抗エストロゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン、およびプロゲスチンである。これらのホルモン剤は、性ステロイドのレセプターのアンタゴニストとして作用し得、レセプター発現および重要な遺伝子の転写をダウンレギュレートし得る。このようなホルモン剤の例は、合成エストロゲン(例えば、ジエチルスチベストロール)、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、トレミフェン、フルオキシメステロール、およびラロキシフェン)、抗アンドロゲン(例えば、ビカルタミド、ニルタミド、フルタミド)、アロマターゼインヒビター(例えば、アミノグルテチミド、アナストロゾール、およびテトラゾール)、ならびに黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログ(例えば、ケトコナゾール、酢酸ゴセレリン、ロイプロリド、酢酸メゲストロール、およびミフェプリストン)である。
【0296】
ホルモン剤は、乳癌、前立腺癌、黒色腫、および髄膜腫を処置するために使用される。ホルモンの主要な作用は、ステロイドレセプターによって媒介されるので、レセプター陽性乳癌の60%は、最初のホルモン療法に応答する;そしてレセプター陰性腫瘍の10%未満が応答する。具体的には、プロゲストゲンは、子宮内膜癌を処置するために使用されている。なぜなら、これらの癌は、プロゲストゲンによって競合されていない高レベルのエストロゲンに曝される女性において生じるからである。抗アンドロゲンは、主に、前立腺癌の処置に使用され、これは、ホルモン依存性である。これらは、テストステロンのレベルを下げ、それによって腫瘍の増殖を阻害するために使用される。
【0297】
乳癌のホルモン処置には、新生物性の乳房細胞中のエストロゲンレセプターのエストロゲン依存的活性化のレベルを下げることが含まれる。抗エストロゲンは、エストロゲンレセプターに結合することによって作用し、活性化補助因子の動員を妨げ、したがって、エストロゲンシグナルを阻害することによって作用する。
【0298】
LHRHアナログは、テストステロンのレベルを下げ、したがって、腫瘍の増殖を減少させるための前立腺癌の処置において使用されている。
【0299】
アロマターゼインヒビターは、ホルモンの合成に必要な酵素を阻害することによって作用する。閉経後の女性においては、エストロゲンの主要な供給源は、アロマターゼによるアンドロステンジオンの変換による。
【0300】
(植物に由来する物質)
植物に由来する物質は、植物から誘導されたか、またはその物質の分子構造に基づいて改変された薬物のグループである。これらは、細胞分裂に不可欠な細胞の成分の組立を妨げることによって、細胞の複製を阻害する。
【0301】
植物に由来する物質の例としては、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンゾリジン、およびビノレルビン)、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド(VP−16)およびテニポシド(VM−26))、タキセン(例えば、パクリタキセル、およびドセタキセル)が挙げられる。これらの植物に由来する物質は、一般的には、チューブリンに結合し、有糸分裂を阻害する抗有糸分裂剤として作用する。ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド)は、トポイソメラーゼIIと相互作用することによってDNA合成を妨害し、それによってDNA鎖の切断を導くと考えられている。
【0302】
植物に由来する物質は、多くの形態の癌を処置するために使用されている。例えば、ビンクリスチンは、白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、および小児期腫瘍神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、およびウィルムス腫瘍の処置に使用される。ビンブラスチンは、リンパ腫、睾丸癌、腎細胞癌、菌状息肉腫、およびカポジ肉腫に対して使用される。ドセタキセルは、進行した乳癌、非小細胞性肺癌(NSCLC)、および卵巣癌に対する見込みのある活性が示されている。
【0303】
エトポシドは、広い範囲の新生物に対して有効であるが、最も反応がよいものは、小細胞性肺癌、睾丸癌、およびNSCLCである。
【0304】
(生物製剤)
生物製剤は、単独で、または化学療法および/または放射線治療と併用して使用された場合に、癌/腫瘍の後退を誘発する生体分子のグループである。生物製剤の例としては、免疫調節タンパク質、例えば、サイトカイン、腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体、腫瘍抑制因子遺伝子、および癌ワクチンが挙げられる。
【0305】
サイトカインは、大きな免疫調節活性を有している。いくつかのサイトカイン(例えば、インターロイキン−2(IL−2、アルデスロイキン)およびインターフェロン−a(IFN−a))は抗腫瘍活性を示し、そして転移性の腎細胞癌および転移性の悪性黒色腫を有している患者の処置について承認されている。IL−2は、T細胞によって媒介される免疫応答の中心となるT細胞増殖因子である。一部の患者に対するIL−2の選択的な抗腫瘍効果は、自己と非自己との間を区別する細胞によって媒介される免疫応答の結果と考えられている。
【0306】
インターフェロン−αには、23種類以上の関連するサブタイプが含まれ、これらは重複する活性を有している。IFN−aは、多くの固形悪性腫瘍および血液悪性疾患に対する活性が明らかにされており、後者は、特に感度が高いようである。
【0307】
インターフェロンの例としては、インターフェロン−α、インターフェロン−β(線維芽細胞インターフェロン)、およびインターフェロン−γ(線維芽細胞インターフェロン)が挙げられる。他のサイトカインの例としては、エリスロポエチン(エポエチン−α)、顆粒球−CSF(フィルグラスチム)、および顆粒球、マクロファージ−CSF(サルグラモスチム)が挙げられる。サイトカイン以外の他の免疫抑制剤としては、カルメット−ゲラン杆菌、レバミゾール、および天然に存在するホルモンであるソマトスタチンの効果を模倣する長時間作用型オクタペプチドであるオクトレオチドが挙げられる。
【0308】
さらに、抗癌処置には、腫瘍ワクチンアプローチで使用される抗体および試薬での免疫療法による処置が含まれ得る。この治療クラスでの主要な薬物は、抗体単独、あるいは、毒素、または癌細胞に対する化学療法薬/細胞傷害性物質のような化合物を有している抗体である。腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体は、腫瘍によって発現される抗原、好ましくは、腫瘍特異的抗原に対して誘発される抗体である。例えば、モノクローナル抗体HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)は、転移性乳癌を含むいくつかの乳房の腫瘍において過剰発現されるヒト表皮成長因子レセプター2(HER2)に対して惹起される。HER2タンパク質の過剰発現は、臨床的には、より進行性の疾患およびさらなる予後不良に関係している。HERCEPTIN(登録商標)は、HER2タンパク質を過剰に発現する腫瘍である転移性乳癌の患者の処置に、単剤として使用される。
【0309】
腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体の別の例は、RITUXAN(登録商標)(リツキシマブ)であり、これは、リンパ球上のCD20に対して惹起され、正常および悪性のCD20+プレ−Bおよび成熟B細胞を選択的に枯渇させる。
【0310】
RITUXANは、再発性または難治性の、低悪性度または濾胞性のCD20+、B細胞非ホジキンリンパ腫の患者の処置に、単剤として使用される。MYELOTARG(登録商標)(ゲムツズマブオゾガミシン)およびCAMPATH(登録商標)(アレムツズマブ)は、使用され得る腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体のさらなる例である。
【0311】
腫瘍抑制遺伝子は、細胞増殖および分裂周期を阻害し、したがって、新生物の発達を妨げるように機能する遺伝子である。腫瘍抑制遺伝子の中での変異は、細胞が、阻害シグナルのネットワークの1つ以上の成分を無視するようにし、これによって、細胞周期のチェックポイントを克服して、より早い制御された細胞増殖−癌の速度を生じる。腫瘍抑制遺伝子の例としては、Duc−4、NF−1、NF−2、RB、p53、WT1、BRCA1、およびBRCA2が挙げられる。
【0312】
DPC4は膵臓癌に関係しており、細胞分裂を阻害する細胞質経路に関与している。NF−1は、細胞質性の阻害タンパク質であるRasを阻害するタンパク質をコードする。NF−1は、神経系の神経線維腫および褐色細胞腫、ならびに骨髄性白血病に関係している。NF−2は、神経系の髄膜腫、神経鞘腫、および上衣腫に関係している核タンパク質をコードする。RBは、細胞周期の主要なインヒビターである核タンパク質pRBタンパク質をコードする。RBは、網膜芽細胞腫、ならびに骨の癌、膀胱癌、小細胞性肺癌、および乳癌に関係している。p53は、細胞分裂を調節し、アポトーシスを誘導することができるp53タンパク質をコードする。p53の変異および/または反応低下は、広い範囲の癌において見出される。WTIは、腎臓のウィルムス腫瘍に関係している。BRCA1は、乳癌および卵巣癌に関係しており、BRCA2は乳癌に関係している。腫瘍抑制遺伝子は、それがその腫瘍抑制機能を発揮する腫瘍細胞に運搬され得る。
【0313】
癌ワクチンは、腫瘍に対する体の特異的免疫応答を誘導する薬剤のグループである。研究および開発、ならびに臨床試験の段階にあるほとんどの癌ワクチンは、腫瘍関連抗原(TAA)である。TAAは、腫瘍細胞上に存在する構造(すなわち、タンパク質、酵素、または炭水化物)であり、そして正常な細胞上には存在しないか、または比較的少ない。腫瘍細胞に極めて特有であるとの理由から、TAAは、それらの破壊を認識して引き起こすための免疫系の標的を提供する。TAAの例としては、癌グリオシド(GM2)、前立腺特異的抗原(PSA)、α−フェトタンパク質(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)(結腸癌および他の腺癌(例えば、乳癌、肺癌、胃癌、および膵臓癌)によって生産される)、黒色腫関連抗原(MART−1、gap100、MAGE 1,3チロシナーゼ)、パピローマウイルスE6およびE7フラグメント、自己腫瘍細胞および同種腫瘍細胞の全細胞または一部/溶解物が挙げられる。
【0314】
(他の治療)
最近の開発によって、癌を処置するために使用される従来の細胞傷害性療法およびホルモン療法に加えて、癌の処置のためのさらなる治療が紹介されている。
【0315】
例えば、遺伝子治療の多くの形態が、前臨床試験または臨床試験を受けている。
【0316】
加えて、腫瘍血管形成(新脈管形成)の阻害に基づくアプローチが、現在開発段階にある。この構想の目的は、新しく構築された腫瘍の脈管系によって提供される栄養素および酸素の供給から腫瘍を切り離すことである。
【0317】
加えて、新生物細胞の最終分化の誘導による癌治療もまた試みられている。適切な分化因子としては、以下の参考文献のいずれか1つ以上に開示されている化合物が挙げられる。これらの内容は、本明細書において参考として援用される。
【0318】
a)極性化合物(Markesら,(1987);Friend,C.,Scher,W.,Holland,J.W.,およびSato,T.(1971)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)68:378−382;Tanaka,M.,Levy,J.,Terada,M.,Breslow,R.,Rifkind,R.A.,およびMarks,P.A.(1975)Proc.Natl.Acad.Sci..(USA)72:1003−1006;Reuben,R.C.,Wife,R.L.,Breslow,R.,Rifkind,R.A.,およびMarks,P.A.(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)73:862−866)。
【0319】
b)ビタミンDおよびレチノイン酸の誘導体(Abe,E.,Miyaura,C.,Sakagami,H.,Takeda,M.,Konno,K.,Yamazaki,T.,Yoshika,S.,およびSuda,T.(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)78:4990−4994;Schwartz,E.L.,Snoddy,J.R.,Kreutter,D.,Rasmussen,H.,およびSartorelli,A.C.(1983)Proc.Am.Assoc.Cancer Res.24:18;Tanenaga,K.,Hozumi,M.,およびSakagami,Y.(1980)Cancer Res.40:914−919);
c)ステロイドホルモン(Lotem,J.およびSachs,L.(1975)Int.J.Cancer 15:731−740);
d)成長因子(Sachs,L.(1978)Nature(Lond.)274:535,Metcalf,D.(1985)Science,229:16−22);
e)プロテアーゼ(Scher,W.,Scher,B.M.,およびWaxman,S.(1983)Exp.Hematol.11:490−498;Scher,W.,Scher,B.M.,およびWaxman,S.(1982)Biochem.& Biophys.Res.Comm.109:348−354);
f)腫瘍プロモーター(Huberman,E.およびCallaham,M.F.(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:1293−1297;Lottem,J.およびSachs,L.(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:5158−5162);ならびに
g)DNAまたはRNA合成のインヒビター(Schwartz,E.L.およびSartorelli,A.C.(1982)Cancer Res.42:2651−2655,Terada,M.,Epner,E.,Nudel,U.,Salmon,J.,Fibach,E.,Rifkind,R.A.,およびMarks,P.A.(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)75:2795−2799;Morin,M.J.およびSartorelli,A.C.(1984)Cancer Res.44:2807−2812;Schwartz,E.L.,Brown,B.J.,Nierenberg,M.,Marsh,J.C.,およびSartorelli,A.C.(1983)Cancer Res.43:2725−2730;Sugano,H.,Furusawa,M.,Kawaguchi,T.,およびIkawa,Y.(1973)Bibl.Hematol.39:943−954;Ebert,P.S.,Wars,I.,およびBuell,D.N.(1976)Cancer Res.36:1809−1813;Hayashi,M.,Okabe、J.,およびHozumi,M.(1979)Gann 70:235−238)。
【0320】
本明細書中に記載されるヒドロキサム酸プロドラッグと組み合わせたこれらのアプローチの全ての使用は、本発明の範囲内である。
【0321】
(投薬量および投与スケジュール)
本発明のヒドロキサム酸プロドラッグを利用する投薬レジメンは、処置される癌のタイプ、種、年齢、体重、性別、およびタイプ;処置される疾患の重篤度(すなわち、ステージ);投与経路;患者の腎機能および肝機能;ならびに使用される特定の化合物またはその塩を含む種々の要因にしたがって選択され得る。一般の医師または獣医師は、疾患を処置する(例えば、疾患の進行を妨げる、阻害する(完全にまたは部分的に)、または停止させる)ために必要な薬物の有効量を容易に決定し得、処方し得る。
【0322】
経口投与については、適切な一日投薬量は、例えば、経口で、1日に1回、1日に2回、または1日に3回、連続して(毎日)または断続的に(例えば、1週間に3〜5日)投与される、約5〜4000mg/mの間である。例えば、所望される疾患を処置するために使用される場合、ヒドロキサム酸プロドラッグの用量は、1日あたり約2mgから約2000mgの間の範囲であり得る。
【0323】
ヒドロキサム酸プロドラッグは、1日に1回(QD)、または一日量を複数回に分けて、例えば、1日に2回(BID)および1日に3回(TID)投与される。したがって、1日に1回の投与については、適切に調製された医薬には、必要とされる一日量が全て含まれる。したがって、1日に2回の投与については、適切に調製された医薬には、必要とされる一日量の半分が含まれる。1日に3回の投与については、適切に調製された医薬には、必要とされる一日量の3分の1が含まれる。
【0324】
加えて、投与は、連続的、すなわち、毎日であっても、または断続的であってもよい。用語「断続的」または「断続して」は、本明細書中で使用される場合は、一定の間隔または不規則な間隔のいずれかでの、停止と開始を意味する。例えば、HDACインヒビターの断続的投与は、1週間に1回から6日の投与であり得るか、または、サイクルでの投与(例えば、連続する2週間から8週間の間の毎日の投与、その後1週間までの投与しない休止期間)を意味し得るか、または隔日投与を意味し得る。
【0325】
代表的に、静脈内処方物が調製され得、これには、約1.0mg/mLから約10mg/mLの間のヒドロキサム酸プロドラッグの濃度が含まれる。1つの例においては、十分な容量の静脈内処方物を、1日あたりの全用量が約10mg/mから約1500mg/mの間になるように、1日のうちに患者に投与することができる。
【0326】
皮下処方物は、好ましくは、約5と約12との間の範囲のpHになるように当該分野で周知の手順に従って調製され、これには、以下に記載されるような適切な緩衝液および等張性物質も含まれる。これらは、1日に1回以上の皮下投与、例えば、1日に1回、2回、または3回で一日量のHDACインヒビターを送達するように処方され得る。
【0327】
化合物は、適切な鼻腔内ビヒクルの局所的使用によって、または経皮経路によって、当業者に周知の経皮パッチの形態を使用して、鼻腔内へ投与され得る。経皮送達システムの形態で投与されるためには、投薬投与は、もちろん、投薬レジメンの最初から終わりまでを通じて、断続的というよりはむしろ連続的である。
【0328】
本明細書中に記載される種々の投与様式、投薬量、および投与スケジュールは、単に特異的な実施形態を示しているだけであり、本発明の広い範囲を限定するものとしては解釈されるべきではないことは当業者に明らかであるべきである。投薬量と投与スケジュールのあらゆる順列、バリエーション、および組み合わせが、本発明の範囲内に含まれる。
【0329】
(薬学的組成物)
本発明のプロドラッグ、およびその誘導体、フラグメント、アナログ、ホモログ、薬学的に受容可能な塩または水和物は、薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤と一緒に、経口投与に適している薬学的組成物に組み入れられ得る。このような組成物には、代表的には、治療有効量の上記の任意の化合物と、薬学的に受容可能なキャリアとが含まれる。好ましくは、有効量は、適切な新生物細胞の最終分化を選択的に誘導するために有効な量であり、患者において毒性を生じる量未満の量である。
【0330】
キャリアまたは希釈剤として一般的に使用される任意の不活性な賦形剤が、本発明の処方物において使用され得、例えば、ガム、デンプン、糖、セルロース系材料、アクリレート、またはそれらの混合物である。好ましい希釈剤は、微結晶セルロースである。組成物はさらに、崩壊剤(例えば、クロスカルメロースナトリウム)および潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)を含み得、加えて、結合剤、緩衝剤、プロテアーゼインヒビター、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、乳化剤、安定剤、増粘剤、甘味剤、膜形成剤から選択される1つ以上の添加剤、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。さらに、本発明の組成物は、徐放処方物または即時放出処方物の形態であってもよい。
【0331】
1つの実施形態においては、薬学的組成物は経口投与され、したがって、経口投与に適切な形態、すなわち、固体調製物または液体調製物として処方される。適切な固体の経口処方物としては、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、小粒剤などが挙げられる。適切な液体の経口処方物としては、液体、懸濁剤、分散剤、乳濁剤、油剤などが挙げられる。本発明の1つの実施態様においては、組成物はカプセルに処方される。この実施形態にしたがうと、本発明の組成物には、ヒドロキサム酸プロドラッグと不活性なキャリアまたは希釈剤に加えて、硬ゼラチンカプセルが含まれる。
【0332】
本明細書中で使用される場合は、「薬学的に受容可能なキャリア」は、薬学的投与に適合する、溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗生物質および抗真菌剤、等張性物質、および吸収遅延剤など(例えば、滅菌の発熱物質を含まない水)の任意のものおよび全てを含むことが意図される。適切なキャリアは、当該分野の標準的な参考書であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版(これは本明細書において参考として援用される)に記載されている。このようなキャリアまたは希釈剤の好ましい例としては、水、生理食塩水、リンガー溶液(finger’s solution)、デキストロース溶液、および5%のヒト血清アルブミン挙げられるが、これらに限定はされない。リポソームおよび非水溶性のビヒクル(例えば、不揮発性油)もまた使用され得る。薬学的に活性な物質についてこのような媒体および薬剤を使用することは当該分野で周知である。何らかの従来の媒体または薬剤が活性化合物と適合しない場合を除いて、組成物中でのその使用が想定される。補助的活性化合物はまた、組成物中に組み入れられ得る。
【0333】
固体のキャリア/希釈剤としては、ガム、デンプン(例えば、トウモロコシデンプン、アルファ化デンプン)、糖(例えば、乳糖、マンニトール、スクロース、デキストロース)、セルロース系物質(例えば、微結晶セルロース)、アクリレート(例えば、ポリメチルアクリレート)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルク、またはそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0334】
液体組成物については、薬学的に受容可能なキャリアは、水性または非水性の溶液、懸濁液、乳濁液、または油であり得る。非水性の溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)である。水性キャリアとしては、水、アルコール/水溶液、乳濁液、または懸濁液(生理食塩水および緩衝化された媒体を含む)が挙げられる。油の例は、石油、動物を起源とするもの、植物を起源とするもの、または合成起源のもの(例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、オリーブ油、ヒマワリ油、および魚肝油)である。溶液または懸濁液にはまた、以下の成分を含めることができる:滅菌の希釈剤(例えば、注射用水、生理食塩溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成の溶媒);抗細菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム);キレート化剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));緩衝液(例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩)、ならびに等張性の調節のための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。pHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)で調整することができる。
【0335】
加えて、組成物にはさらに、以下を含めることができる:結合剤(例えば、アカシア、トウモロコシデンプン、ゼラチン、カルボマー、エチルセルロース、グアーガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン)、崩壊剤(例えば、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸、二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、グアーガム、デンプングリコール酸ナトリウム、プリモゲル(Primogel))、種々のpHおよびイオン強度の緩衝液(例えば、tris−HCl、酢酸塩、リン酸塩)、アルブミンまたはゼラチンのような、表面への吸収を防ぐための添加剤、界面活性剤(例えば、Tween20、Tween80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、プロテアーゼインヒビター、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、透過促進剤、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、流動促進剤(glidant)(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソール)、安定化剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、増粘剤(例えば、カルボマー、コロイド状二酸化ケイ素、エチルセルロース、グアーガム)、甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテーム、クエン酸)、香味剤(例えば、ペッパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム)、流動補助物質(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、可塑剤(例えば、フタル酸ジエチル、クエン酸トリエチル)、乳化剤(例えば、カルボマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム)、高分子コーティング剤(例えば、ポロキサマー、またはポロキサミン)、コーティングおよびフィルム形成剤(例えば、エチルセルロース、アクリレート、ポリメタクリレート)、ならびに/あるいはアジュバント。
【0336】
1つの実施形態において、プロドラッグは、体からの迅速な排出に対してプロドラッグを保護するキャリアを用いて、例えば、移植物およびマイクロカプセル化送達システムを含む徐放処方物として調製される。生分解が可能な生体適合性高分子、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸を使用することができる。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明らかである。材料は、Alza Corporation and Nova Pharmaceuticals,Inc.から市販によっても入手することができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染した細胞に対して標的化されたリポソームを含む)もまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されているような、当業者に公知の方法にしたがって調製され得る。
【0337】
投与の容易さおよび投薬量の均一性のためには、投薬量単位形態で経口組成物を処方することが特に有利である。投薬量単位の形態は、本明細書中で使用される場合には処置される、被験体についての単位投薬量として適した物理的に分離した単位を意味し;個々の単位には、必要とされる薬学的キャリアと組み合わせて所望される治療効果を生じるように計算された予め決定された量の活性化合物が含まれる。本発明の投薬量単位の形態についての詳細は、活性化合物の固有の特徴、および達成される特定の治療効果、ならびに、個体の処置のためにそのような活性化合物を配合する当該分野に固有の限界に直接依存して決定される。
【0338】
薬学的組成物は、容器、パック、またはディスペンサーに、投与についての説明書とともに含められ得る。
【0339】
本発明のプロドラッグは、処置の最初の日に静脈内に投与され得、2日目とその後の毎日は経口投与され得る。
【0340】
本発明のプロドラッグは、疾患の進行を妨げるか、または腫瘍の増殖を安定化させる目的のために投与され得る。
【0341】
有効成分を含む薬学的組成物の調製は、当該分野で十分に理解されており、これは、例えば、混合、顆粒化、または錠剤形成プロセスによる。有効な治療成分は、多くの場合は、薬学的に受容可能であり、有効成分と適合性である賦形剤と混合される。経口投与については、有効薬剤は、上記に詳細に記載されるように、この目的について慣例の添加剤(例えば、ビヒクル、安定化剤、または不活性な希釈剤)と混合され、慣例の方法によって、投与に適している形態(例えば、錠剤、コーティングされた錠剤、硬ゼラチンまたは軟質ゼラチンカプセル、水性溶液、アルコール性溶液、または油性溶液など)に変換される。
【0342】
患者に投与されるプロドラッグの量は、患者において毒性を生じる量未満の量である。特定の実施形態においては、患者に投与されるプロドラッグの量は、プロドラッグの毒性レベルと等しいかまたはそれを上回る、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度を生じる量未満の量である。好ましくは、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約10nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約25nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約50nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約100nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約500nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約1000nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約2500nMに維持される。別の実施形態においては、患者の血漿中でのプロドラッグの濃度は、約5000nMに維持される。約5gm/m/日から約30gm/m/日までの量、特に、約20gm/m/日の化合物の投与が有効であり、これには患者において毒性は生じないことが、HMBAを用いて見出されている。本発明の実施において患者に投与されるべきプロドラッグの最適量は、使用される特定の化合物と処置される癌のタイプに依存する。
【0343】
(インビトロでの方法)
本発明はまた、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを誘導し、それによってそのような細胞の増殖を阻害するために、本発明のヒドロキサム酸プロドラッグを使用する方法を提供する。この方法は、インビボまたはインビトロで実施され得る。
【0344】
1つの実施形態においては、本発明は、細胞を有効量の本明細書中に記載される任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させることによる、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法を提供する。
【0345】
特定の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の最終分化を選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法に関する。この方法には、適切な条件下で、細胞を有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0346】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の細胞増殖の停止を選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法に関する。この方法には、適切な条件下で、細胞を有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0347】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞のアポトーシスを選択的に誘導し、そしてそれによってそのような細胞の増殖を阻害するインビトロでの方法に関する。この方法には、適切な条件下で、細胞を有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0348】
別の実施形態においては、本発明は、腫瘍中の腫瘍細胞の最終分化を誘導するインビトロでの方法に関する。この方法には、細胞を有効量の本明細書中に記載される任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグと接触させる工程が含まれる。
【0349】
本発明の方法はインビトロで行うことができるが、新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、そしてHDACを阻害する方法についての好ましい実施形態には、細胞をインビボで接触させること(すなわち、処置が必要な新生物細胞または腫瘍細胞を有している被験体にプロドラッグを投与することによる)が包含される。
【0350】
したがって、本発明は、被験体に有効量の本明細書中に記載される任意の1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与することによって、被験体において新生物細胞の最終分化、細胞増殖の停止、および/またはアポトーシスを選択的に誘導し、それによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害するためのインビボでの方法が提供される。
【0351】
特定の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の最終分化を選択的に誘導し、そしてそれによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害する方法に関する。この方法には、被験体に有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0352】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の細胞増殖の停止を選択的に誘導し、そしてそれによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害する方法に関する。この方法には、被験体に有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0353】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞のアポトーシスを選択的に誘導し、そしてそれによって被験体の中のそのような細胞の増殖を阻害する方法に関する。この方法には、被験体に有効量の本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。
【0354】
別の実施形態においては、本発明は、新生物細胞の増殖によって特徴付けられる腫瘍を有している患者を処置する方法に関する。この方法には、患者に本明細書中に記載される1つ以上のヒドロキサム酸プロドラッグを投与する工程が含まれる。プロドラッグの量は、このような新生物細胞の最終分化を選択的に誘導すること、細胞増殖の停止を誘導すること、および/またはアポトーシスを誘導すること、それによってそれらの増殖を阻害することに対して有効である。
【0355】
本発明は、以下の実験の詳細のセクションにおいて実施例で説明される。このセクションは、本発明の理解を助けるために示されるが、以下の特許請求の範囲に示されるように、決して本発明を限定すると意図されてはならず、そしてそのように解釈されるべきではない。
【実施例】
【0356】
(実験の詳細なセクション)
(実施例1 合成)
本発明の化合物を、以下に示す合成スキームに説明するような一般的方法によって調製した。
【0357】
SAHAは、3つの異なる手順を使用してアシル化した:
【0358】
【化77】



(方法A)
スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA、100mg)を2mLの無水DMFに溶解させた。カルボン酸(1.5eq.)を添加し、その後、HOBt(1eq.)とEDC(1.5eq.)を添加した。溶液を室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を水(5mL)とEtOAc(2mL)で処理した。固形物が形成されたら、生成物を粉砕した後で濾過によって回収した。沈殿が形成されなかった場合は、水相を酢酸エチル(2×10mL)で抽出し、有機相を乾燥させ、溶媒を除去し、そして残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン:EtOAc)によって精製した。
【0359】
(方法B)
スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA、100mg)を2mLの無水THFと1mLの無水ピリジンとに懸濁した。塩化アシル(1.1〜1.2eq.)を添加し、溶液を室温で一晩攪拌した。溶媒を1mLに減少させ、水(5mL)を添加した。生成物が溶液から沈殿した。これを水で洗浄し、酢酸エチルで粉砕して、二重アシル化された副生成物を全て除去した。これを濾過によって白色の固形物として回収した。
【0360】
(方法C)
アシル化剤として塩化物の代わりに無水物を使用して、方法Bと同じ手順に従った。
【0361】
(結果)
【0362】
【化78】



オクタン二酸フェニルアミド(7−フェニルカルバモイル−ヘプタノイルオキシ)−アミド。DMF(60mL)中のスベラニリン酸(3.0g、12.0mmol)の攪拌溶液に、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.79g、13.2mmol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドヒドロクロライド(EDCI)(2.54g、13.2mmol)を添加した。5分後、DMF(30mL)中のSAHA(3.18g、12.0mmol)の溶液を、攪拌しながら混合物に添加した。24時間後、溶媒を除去し、残渣をEtOAc(50mL)で粉砕した。スラリーを濾過すると、灰色がかった白色の固形物が得られた。これを、CHCl(50mL)で粉砕した。スラリーを濾過すると、白色の固形物(4.6g、77%)が得られた。この物質の半分を、EtOAc洗浄においてHO(20mL)の添加を含む洗浄手順を繰り返すことによってさらに精製した。白色の固形物を濾過すると、所望される物質(2.1g)が得られた。MP:151〜153℃。
【0363】
【化79】


【0364】
【化80】



オクタンニ酸アセトキシ−アミドフェニルアミド。ピリジン/CHCl(5/5mL)中のSAHA(0.43g,16.3mmol)の攪拌溶液に対して、酢酸無水物1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(153μL,16.3mmol)を添加した。室温で18時間の攪拌の後、溶媒を除去し、そして、この物質はそれ以上は精製しなかった。
【0365】
【化81】


【0366】
【化82】



オクタン二酸(ビフェニル−4−カルボニルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0367】
【化83】


【0368】
【化84】



オクタン二酸ベンゾイルオキシ−アミドフェニルアミド
【0369】
【化85】


【0370】
【化86】



オクタン二酸(ナフタレン−2−カルボニルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0371】
【化87】


【0372】
【化88】



オクタン二酸(ナフタレン−1−カルボニルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0373】
【化89】


【0374】
【化90】



オクタン二酸(3−メトキシ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0375】
【化91】


【0376】
【化92】



オクタン二酸(4−メトキシ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0377】
【化93】


【0378】
【化94】



オクタン二酸(2−メトキシ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0379】
【化95】


【0380】
【化96】



オクタン二酸(4−メチル−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0381】
【化97】


【0382】
【化98】



オクタン二酸(4−クロロ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0383】
【化99】


【0384】
【化100】



オクタン二酸(3−フェニル−アクリロイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0385】
【化101】


【0386】
【化102】



オクタン二酸フェニルアミド(ピリジン−3−カルボニルオキシ)−アミド
【0387】
【化103】


【0388】
【化104】



オクタン二酸(4−ブチル−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド
【0389】
【化105】


【0390】
【化106】



オクタン二酸フェニルアミド(3−フェニル−プロピオニルオキシ)−アミド
【0391】
【化107】


【0392】
【化108】



オクタン二酸フェニルアミド(4−フェニル−ブチリルオキシ)−アミド
【0393】
【化109】


【0394】
【化110】



[1−ベンジル−2−オキソ−2−(7−フェニルカルバモイル−ヘプタノイルアミノオキシ)−エチル]−カルバミン酸ベンジルエステル
【0395】
【化111】


【0396】
【化112】



[1−ベンジル−2−オキソ−2−(7−フェニルカルバモイル−ヘプタノイルアミノオキシ)−エチル]−カルバミン酸ベンジルエステル
【0397】
【化113】


【0398】
【化114】



[1−ベンジル−2−オキソ−2−(7−フェニルカルバモイル−ヘプタノイルアミノオキシ)−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル
【0399】
【化115】



(実施例2 SAHAプロドラッグによるHDACの阻害)
(HDAC1−Flagアッセイ)
新しい化合物を、ヒストン脱アセチル化酵素サブタイプ1(HDAC1)を阻害するそれらの能力について、インビトロでの脱アセチル化酵素アッセイを使用して試験した。このアッセイのための酵素の供給源は、安定して発現する哺乳動物細胞から免疫精製された、エピトープタグ化ヒトHDAC1複合体であった。基質は、アセチル化リジン側鎖を含む市販されている生成物(BIOMOL Research Laboratories,Inc.,Plymouth Meeting,PA)から構成されるものであった。精製されたHDAC1複合体とのインキュベーションにより基質が脱アセチル化されると、蛍光が生じ、これは、脱アセチル化のレベルに直接比例する。酵素の調製のためのKmの基質濃度を使用して、脱アセチル化アッセイを、脱アセチル化反応の50%の阻害に必要な化合物に濃度(IC50)を半定量的に決定するために、増加濃度の存在下で行った。
【0400】
(結果)
以下の表1は、本発明にしたがって設計され、合成された、新しいSAHAプロドラッグの化学構造と、その選択のためのHDAC酵素アッセイの結果を示す。
【0401】
【表1−1】

【0402】
【表1−2】

【0403】
【表1−3】

【0404】
【表1−4】

【0405】
【表1−5】

(実施例3 細胞株の中でのHDACの阻害)
(MTSアッセイ)
本発明の新しい化合物を、マウス赤白血病細胞株SC9の増殖を阻害するそれらの能力について試験した。MTSアッセイ(Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assayとも呼ばれる)は、増殖、細胞傷害性、または化学的感受性アッセイにおいて生存している細胞の数を決定するための比色方法である。MTS試薬は、新しいテトラゾリウム化合物[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩]と電子結合試薬(フェナジンエトサルフェート;PES)を含む。マウスの赤白血病細胞(SC−9)を、ビヒクルまたは増加濃度の化合物と共に48時間インキュベートした。細胞増殖を、少量のMTS試薬を培養ウェルに直接添加し、1〜4時間インキュベートし、その後、96ウェルプレート読取装置を用いて490nMで吸光度を記録することによって定量した。490nMの吸光度によって測定したホルマザン生成物の量は、培養物中の生存している細胞の数に直接比例する。
【0406】
(結果)
新しい化合物の選択グループからのSC9細胞ベースのMTSアッセイの結果を、以下の表2にまとめる:
【0407】
【表2−1】

【0408】
【表2−2】

【0409】
【表2−3】

【0410】
【表2−4】

【0411】
【表2−5】



このデータは、本発明の化合物が、インビトロでのHDAC阻害アッセイにおいてはHDACインヒビターとしてほとんど活性を示さなかったこと、およびこれらの化合物は、親分子であるSAHAと比較して、HDAC−1を阻害する作用が極めて弱いことを示している(表1)。しかし、細胞株中では、これらの化合物は、マウスの赤白血病細胞株SC9の増殖の強力なインヒビターであり、SAHAの大きさとほぼ同じ程度であった(表2)。
【0412】
いずれの特定のものにも束縛されることは望まないが、本発明の化合物が作用する1つの可能性のある機構は、これらの化合物が、細胞の内部で遊離のヒドロキサム酸に変換され、これによって、化合物の活性形態が提供され、これが、細胞の増殖を阻害し得ることである。このデータは、SAHAプロドラッグとして作用するこれらの化合物の能力と一致する。
【0413】
本発明は具体的に示され、その好ましい実施態様への参照と共に記載されるが、形態および詳細の種々の変更が、記載される発明の意味するところから逸脱することなくその範囲中でなされ得ることは、当業者に理解される。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(4):
【化1】

[式中、Rは、下記:
【化2】

の構造によって示され、
ここで、Rは、水素、あるいは、非置換もしくは置換されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、または、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、ホモシステイン、グルタミン、グルタミン酸、イソロイシン、ノルロイシン、グリシン、フェニルグリシン、ロイシン、ヒスチジン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、オルニチン、プロリン、セリン、ホモセリン、バリン、ノルバリン、スレオニン、トリプトファン、及びチロシンから選択されるアミノ酸残基である]
の構造によって示される化合物、又はその薬学的に受容可能な塩。
【請求項2】
が、水素、あるいは、非置換もしくは置換されたアルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アルキルアリール、またはアルキルヘテロアリールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、水素、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、フェニル、ベンジル、アルキルフェニル、ナフチル、またはピリジルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
が、以下:
【化3】

からなる群より選択され、
そして、式中、mは1から10の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
が、以下:
【化4】

からなる群より選択され、
そして、式中、mは1から4の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
は:
【化5】


の構造によって示され、
ここで、Rは、水素、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、フェニル、またはベンジルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
が、非置換もしくは置換されたアルキル、またはヘテロアリールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
オクタン二酸フェニルアミド(7−フェニルカルバモイル−ヘプタノイルオキシ)−アミド;
オクタン二酸アセトキシ−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(ビフェニル−4−カルボニルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸ベンゾイルオキシ−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(ナフタレン−2−カルボニルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(ナフタレン−1−カルボニルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(3−メトキシ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(4−メトキシ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(2−メトキシ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(4−メチル−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(4−クロロ−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸(3−フェニル−アクリロイルオキシ)−アミドフェニルアミド
オクタン二酸フェニルアミド(ピリジン−3−カルボニルオキシ)−アミド;
オクタン二酸(4−ブチル−ベンゾイルオキシ)−アミドフェニルアミド;
オクタン二酸フェニルアミド(3−フェニル−プロピオニルオキシ)−アミド;
オクタン二酸フェニルアミド(4−フェニル−ブチリルオキシ)−アミド;
または、その立体異性体;
または、その薬学的に受容可能な塩;
または、その立体異性体の薬学的に受容可能な塩;
からなる基から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
【化6】

である、請求項1に記載の化合物、又はその薬学的に受容可能な塩。
【請求項10】
【化7】

である、請求項1に記載の化合物、又はその薬学的に受容可能な塩。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩、および薬学的に受容可能なキャリアを含む、薬学的組成物。
【請求項12】
癌の処置のための医薬組成物であって、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の化合物、またはその薬学的に受容可能な塩、および薬学的に受容可能なキャリアを含む、該医薬組成物。

【公開番号】特開2012−92121(P2012−92121A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268666(P2011−268666)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【分割の表示】特願2007−507423(P2007−507423)の分割
【原出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(507300593)メルク エイチディーエーシー リサーチ エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】