説明

ヒトβディフェンシン産生促進剤

本発明の目的は、ヒトβディフェンシンの発現を促進できるβディフェンシン産生促進剤を提供することである。
ヒトβディフェンシン産生促進剤の有効成分として、アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリ-D-グルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を使用し、該ヒトβディフェンシン産生促進剤を、外用医薬品、化粧料、食品、内用医薬品、浴用剤等として提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトβディフェンシンの産生を促進できるヒトβディフェンシン産生促進剤に関する。また、本発明は、ヒトβディフェンシンの産生を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物、昆虫、両生類、哺乳類などにおいて、生来もっている生体防御機構として生体内の抗菌物質、特に抗菌ペプチドの存在が以前より知られている。これらは、自然免疫と呼ばれ、局所での感染防御を担っていることが解明されている。ヒトにおける抗菌ペプチドは、ディフェンシンと総称されている。ディフェンシンは、細菌、真菌等に対して抗菌活性を有しており、生体内で種々の生体防御機構に関与していることが分かっている。
【0003】
皮膚、肺、気管、腎臓、生殖器等の粘膜上皮に発現するディフェンシンとして、βディフェンシンが知られている。現在、ヒトβディフェンシンとして、6種のもの(ヒトβディフェンシン−1、ヒトβディフェンシン−2、ヒトβディフェンシン−3、ヒトβディフェンシン−4、ヒトβディフェンシン−5及びヒトβディフェンシン−6)が単離・構造決定されている。特に、ヒトβディフェンシン−2については、口腔、肺、気管、眼、鼻、消化器官等の粘膜組織及び皮膚において特に強く発現する、細菌感染や炎症性サイトカイン刺激にて発現誘導される、等の特徴があることが解明されており(例えば、非特許文献1参照)、肺炎等の気管感染症や炎症と密接な関係があることが示唆されている。
【0004】
また、近年、βディフェンシンは、局所の感染防御だけでなく、上皮組織の組織修復や樹状細胞、Tリンパ球、単球等の細胞を遊走させることによる獲得免疫にも関与していることも報告されている(例えば、非特許文献2〜5参照)。また、腫瘍免疫を誘導して、抗腫瘍効果を発揮することやガン細胞で増殖抑制作用があることも報告されている(例えば、非特許文献6及び7参照)。
【0005】
そこで、生体内で感染防御を司るヒトβディフェンシンの産生を促進することができれば、直接的な抗菌作用の強化が出来るだけでなく、感染部位において免疫担当細胞を動員することで、生体防御機構を一層強化できると考えられる。しかしながら、現時点では、ヒトβディフェンシンの産生メカニズムについては、未だ十分に解明されていない。
【非特許文献1】富田哲治他、「生体防御機構としてのディフェンシン」、日本老年医学会雑誌 2001;38(4):440
【非特許文献2】Yang D, Chertov O, Bykovskaia SN et al.β-Defensins : linking innate and Adaptive immunity through dendritic and T cell CCR6. Science 1999;286:525
【非特許文献3】Territo MC, Ganz T, Selsted ME et al. Monocyto-chemotactic activity of defensins from human neutrophils. J Clin Invest 1989;84;2017
【非特許文献4】Lillard JW Jr, Boyaka PN, Chertov O et al. Mechanisms for induction of acquired host immunity by neutrophil peptide defensins. Proc Natl Acad Sci USA 1999;96:651
【非特許文献5】長岡 功他、「Defensinの感染防御と免疫応答における役割」、臨床免疫 2000;33:577
【非特許文献6】長岡 功、「デフェンシンは樹状細胞を成熟・活性化して抗腫瘍作用を発揮する-B細胞性悪性腫瘍に対するアジュバンド効果-」、臨床免疫 2003;40(4):424
【非特許文献7】Byragyn A, Surenhu M, Yang D et al. Mediators of innate immunity that target immature, but not mature, dendritic cells induce antitumor immunity when genetically fused with immunogenic tumor antigens. J Immunol 2001;167:6644
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、ヒトβディフェンシンの発現及び産生を促進できるβディフェンシン産生促進剤を提供することである。また、本発明は、外用剤、内用剤、食品等の各種形態に調製されたヒトβディフェンシン産生促進剤を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、ヒトβディフェンシンの産生を促進する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、(a)特定の植物抽出物、(b)海藻抽出物、(c)納豆菌、納豆、納豆抽出物、(d)米抽出物の発酵物、(e)小麦胚芽抽出物、(f)小麦加水分解物、(g)大豆加水分解物、(h)各種多糖類、(i)ポリグルタミン酸、(j)特定のアミノ酸、(k)プロポリス、(l)ポリフェノール、(m)プリン系核酸関連物質、(n)乳タンパク質、(o)カゼイン、カゼイン加水分解物、(p)ラクトパーオキシダ―ゼ、ラクトフェリン、リゾチームを含有するホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、(q)ラクトパーオキシダーゼ、(r)リゾチーム、及び(s)ラクトフェリンには、ヒトβディフェンシンの発現及び産生を促進する作用があることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて、更に検討を重ねて開発されたものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げるヒトβディフェンシン産生促進剤を提供する:
項1. アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリ-D-グルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を有効成分とすることを特徴とする、ヒトβディフェンシン産生促進剤。
項2. 有効成分が、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分である、項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項3. 有効成分が、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分である、項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項4. 有効成分が、乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分である、項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項5. アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリ-D-グルタミン酸、納豆菌、米発酵抽出物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも二種の成分を有効成分とすることを特徴とする、ヒトβディフェンシン産生促進剤。
項6. 有効成分として、(A)核酸関連物質、乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトフェリン及びリゾチームよりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、(B)ラクトパーオキシダーゼを含有する、項5に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項7. 有効成分として、ラクトフェリン及びリゾチームを含有する、項5に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項8. 産生促進対象がヒトβディフェンシン−2である、項1乃至7のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項9. 内用医薬品である、項1乃至8のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項10. 該剤の総重量に対して上記有効成分を0.001〜50重量%の割合で含有する、項9に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項11. 食品である、項1乃至8のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項12. ヒトβディフェンシンの産生促進用の食品である、項11に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項13. 該剤の総重量に対して上記有効成分を0.001〜50重量%の割合で含有する、項11に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項14. 外用医薬品又は化粧料である、項1乃至8のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項15. 該剤の総重量に対して上記有効成分を0.001〜50重量%の割合で含有する、項14に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項16. 浴用剤である、項1乃至8のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
項17. 使用時の上記有効成分の濃度が0.01〜100mg/Lである、項16に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【0009】
また、本発明は、下記に掲げるヒトβディフェンシンの産生促進方法を提供する:
項18. アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の有効量を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用することを特徴とする、ヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項19. グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項18に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項20. 乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項18に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項21. 乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項18に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項22. アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米発酵抽出物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも二種の成分を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項18に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項23. (A)核酸関連物質、乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトフェリン及びリゾチームよりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、(B)ラクトパーオキシダーゼをヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項22に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項24. ラクトフェリン及びリゾチームを含有する、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項22に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
項25. 産生促進対象がヒトβディフェンシン−2である、項18乃至24のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤
項26. 項1乃至17のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、項18に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
【0010】
更に、本発明は、下記態様の使用を提供する:
項27. アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
項28. グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
項29. 乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
項30. 乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
項31. アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米発酵抽出物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも二種の成分の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
項32. (A)核酸関連物質、乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトフェリン及びリゾチームよりなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び(B)ラクトパーオキシダーゼの、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
項33. ラクトフェリン及びリゾチームの、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
1.ヒトβディフェンシン産生促進剤
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤において、産生促進対象となるヒトβディフェンシンには、ヒトβディフェンシン−1、ヒトβディフェンシン−2、ヒトβディフェンシン−3、ヒトβディフェンシン−4、ヒトβディフェンシン−5及びヒトβディフェンシン−6のいずれもが含まれる。これらの中でも、ヒトβディフェンシン2は、上記有効成分によって、より効果的な産生促進がなされるため、最適な産生促進対象である。
【0012】
本発明のβディフェンシン産生促進剤に用いられる、有効成分としては、(a)特定の植物抽出物、(b)海藻抽出物、(c)納豆菌、納豆、納豆抽出物、(d)米抽出物の発酵物、(e)小麦胚芽抽出物、(f)小麦加水分解物、(g)大豆加水分解物、(h)特定の多糖類、(i)ポリグルタミン酸、(j)特定のアミノ酸、(k)プロポリス、(l)ポリフェノール、(m)プリン系核酸関連物質、(n)乳タンパク質、(o)カゼイン、カゼイン加水分解物、(p)ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、(q)ラクトパーオキシダーゼ、(r)リゾチーム、及び(s)ラクトフェリンを挙げることができる。以下、これらの有効成分について説明する。
【0013】
(a)植物抽出物
本発明のβディフェンシン産生促進剤の有効成分として使用される植物抽出物としては、アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物、オレンジ抽出物及びピーチ抽出物が挙げられる。
【0014】
上記アロエ抽出物は、ユリ科アロエ(Aloe ferox, Aloe barbadiensis, Aloe arborescens)又はその近縁植物の葉又は液汁を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0015】
上記ゲンチアナ抽出物は、リンドウ科ゲンチアナ(Gentiana lutea L.)又はその近縁植物の根及び根茎を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0016】
上記ジオウ抽出物は、アカヤジオウ(RehmanniaglutinosaLibosc-hitz var. purpurea Makino)、ケイジオウ(RehmanniaglutinosaLibosc-hitz forma hueichingensis Hsiao)又はその近縁植物の根茎を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0017】
上記シモツケ抽出物は、バラ科シモツケ(Spiraea japonica L. fil.)又はその近縁植物の花序を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0018】
上記アルニカ抽出物は、キク科アルニカ(Arnica montana L.)又はその近縁植物の花を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0019】
上記クチナシ抽出物は、アカネ科クチナシ(Gardemia jasminoside)または近縁植物の果実を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0020】
上記ボタン抽出物は、キンポウゲ科ボタン(Paeonia suffruticosa Andrews) または近縁植物の根茎を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0021】
上記キャロット抽出物は、ニンジンの根茎を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0022】
上記オレンジ抽出物は、オレンジの果実を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0023】
上記ピーチ抽出物は、ピーチの果実を原料として、これを溶媒で抽出して得ることができる。
【0024】
上記植物抽出物は、その形状については特に制限されず、液状のものであってもよく、また乾燥粉末でもよい。
【0025】
上記植物抽出物は、通常用いられている植物抽出物を抽出するのに一般的に用いられる方法で製造することができる。具体的には、上記植物抽出物は、抽出対象物をそのまま、或いは必要に応じて乾燥、細切、破砕、圧搾又は煮沸処理したものを、冷水、熱水若しくは有機溶剤、あるいは水と有機溶剤の混合液で抽出することにより取得することができる。この抽出に使用される有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の単独或いは2種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0026】
上記植物抽出物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0027】
(b)海藻抽出物
本発明において有効成分として使用される海藻抽出物は、褐藻類に属するコンブ属(Laminaria)や紅藻類に属するイギス属(Ceramium)等の海藻の全藻を原料として、これを水で抽出して得ることができる。当該海藻抽出物は、液状のものであってもよいし、また乾燥粉末であってもよい。海藻抽出物の製造は、上記海藻を原料として用いて、前記植物抽出物の製造方法と同様の方法で行うことができる。
【0028】
(c)納豆菌、納豆、納豆抽出物
本発明において有効成分として使用される納豆菌(Bacillus Natto)は、生菌そのものの状態で使用してもよく、また乾燥処理したものを使用してもよい。
【0029】
また、本発明で使用する納豆は、通常食品に使用されている納豆そのもの、即ち、大豆に納豆菌(Bacillus Natto)を加えて発酵させることによって得られたものであってもよく、またそれを乾燥したものであってもよい。
【0030】
また本発明には、有効成分として上記納豆の抽出物を用いることができる。当該納豆抽出物は、液状のものであってもよいし、また乾燥粉末であってもよい。納豆抽出物の製造は、納豆を原料として用いて、前記植物抽出物の製造方法と同様の方法で行うことができる。
【0031】
(d)米抽出物の発酵物
本発明において有効成分として使用される米抽出物の発酵物は、米を原料として用いて前記植物抽出物の製造方法と同様の方法で米抽出物を調製し、これに麹菌、酵母、又は乳酸菌により発酵することによって得ることができる。
【0032】
(e)小麦胚芽抽出物
本発明において有効成分として使用される小麦胚芽抽出物は、通常食品に使用されている小麦の胚芽部を原料として用いて、前記植物抽出物の製造方法と同様の方法で抽出処理を行うことにより得ることができる。
【0033】
(f)小麦加水分解物
本発明において有効成分として使用される小麦加水分解物は、通常食品に使用されている小麦を加水分解して得ることができる。当該小麦加水分解物は、小麦中の多糖類が加水分解されているもの、小麦中のタンパク質が加水分解されているもの、これらが混在するもののいずれであってもよい。好ましくは、小麦中のタンパク質が加水分解されている小麦加水分解物である。
【0034】
当該小麦加水分解物は、酸分解、アルカリ分解、又は酵素分解のいずれによっての調製されたものであってもよく、その調製方法についても当該技術分野において通常用いられている方法を採用することができる。
【0035】
(g)大豆加水分解物
本発明において有効成分として使用される大豆加水分解物は、通常食品に使用されている大豆を加水分解して得ることができる。当該大豆加水分解物は、大豆中の多糖類が加水分解されているもの、大豆中のタンパク質が加水分解されているもの、これらが混在するもののいずれであってもよい。好ましくは、大豆中のタンパク質が加水分解されている小麦加水分解物である。
【0036】
当該大豆加水分解物は、酸分解、アルカリ分解、又は酵素分解のいずれによっての調製されたものであってもよく、その調製方法についても当該技術分野において通常用いられている方法を採用することができる。
【0037】
(h)多糖類
本発明のβディフェンシン産生促進剤の有効成分として使用される多糖類として、レバン及びイヌリン挙げることができる。
【0038】
本発明で使用されるレバンは、その由来には特に制限されない。例えば、Bacillus subtilis、Bacillus megatherium、Streptococcus salivarius等のレバン産生微生物を培養することによって得られたレバンを使用することができる。
【0039】
本発明で使用されるイヌリンは、その分子量や由来等について特に制限されない。当該イヌリンは、ダリヤ、キクイモ、オグルマ、マザミ等のキク科植物の根茎やチコリの根を原料として、通常使用されている抽出手段によって得ることができる。
【0040】
上記多糖類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0041】
(i)ポリグルタミン酸
本発明において有効成分として使用されるポリグルタミン酸は特に制限されるものでない。例えば、ポリ-D-グルタミン酸、ポリ-L-グルタミン酸、γ−ポリグルタミン酸(通常D−グルタミン酸とL−グルタミン酸がおよそ8:2の比率で存在する)を挙げることができる。中でも、ポリ-D-グルタミン酸が好ましい。ポリグルタミン酸の具体例として、BacillussubtilisBacillusanthracisBacillus licheniformisBacillusmegateriumBacillus natto等のポリグルタミン酸産生微生物を公知の方法で培養することによって得たもの、又は納豆から公知の抽出方法により得たものを挙げることができる。本発明で使用されるポリグルタミン酸の分子量については特に制限されないが、一例として、その分子量が2000〜5000のものを挙げることができる。
【0042】
(j)アミノ酸
また、本発明のβディフェンシン産生促進剤の有効成分として、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン及びL−シトルリンから選ばれるアミノ酸を使用することができる。本発明で使用されるアミノ酸の由来や製造方法については、特に制限されない。グリシン、L-メチオニン及びL-アラニンの製造方法の一例として、当該アミノ酸の産生能が高い微生物を培養する方法;天然タンパク質を分解して上記アミノ酸を回収する方法;或いは上記アミノ酸を生成する酵素を利用して製造する方法等を挙げることができる。また、L−シトルリンの製造方法としては、例えば、ウリ科植物の種子から抽出する方法;L−シトルリンの産生能が高い微生物を培養する方法;或いはアルギニンにアルギニンデイミナーゼ(arginine deiminase)を作用させる方法等を挙げることができる。上記アミノ酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(k)プロポリス
プロポリスとは、蜜蜂が樹木の芽やつぼみ等から集めた樹脂成分や花粉と、蜜蜂自身が咽頭線から分泌されるバロチンと呼ばれるホルモンとを混ぜ合わせることによって作られた粘性の樹脂様物質である。本発明において、有効成分として使用されるプロポリスとしては、薬学的又は食品衛生上許容されるものである限り、特に制限されない。本発明では、プロポリスとして、蜜蜂の巣より採取されたプロポリスそのものを使用してもよく、また、エタノール抽出、水抽出、水とエタノールの混合液抽出、超臨界二酸化炭素抽出等の公知の方法で抽出処理して得られるプロポリスエキスを使用してもよい。また、本発明に使用するプロポリスの産地については、特に制限されないが、例えば日本、東アジア、東南アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカ等を挙げることができる。
【0044】
(l)ポリフェノール
本発明において有効成分として用いられるポリフェノールの由来や種類については、薬学的又は食品衛生上許容されるものであれば、特に制限されない。該ポリフェノールの由来の一例として、マツ樹皮やブドウ種子を挙げることができる。また、該ポリフェノールの一例として、プロアントシアニジン、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ケルセチン、ミリセチン、プロシアニジン等を挙げることができる。中でも、好ましいものとして、プロアントシアニジン、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートを挙げることができる。
【0045】
(m)プリン系核酸関連物質
また、本発明のβディフェンシン産生促進剤の有効成分として、プリン系核酸関連物質を使用することができる。ここで、プリン系核酸関連物質とは、プリン又はプリン核を骨格とする各種の誘導体及びそれらの塩である。プリン系核酸関連物質としては、一般にアデニン、アデノシン、アデノシンのリン酸エステル〔例えばアデノシン2'-リン酸、アデノシン3'−リン酸、アデノシン5'−リン酸、アデノシン5'−二リン酸、アデノシン5'−三リン酸、アデノシン環状リン酸、アデニロコハク酸、ニコチンアミドアデニンモノジヌクレオチド(NMN)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)等〕、これらアデニン,アデノシンまたはアデノシンのリン酸エステルの代謝産物〔例えばヒポキサンチン、イノシン、イノシン酸等〕、及びこれらの塩などのアデニン系核酸関連物質;グアニン、グアノシン、グアノシンのリン酸エステル〔グアノシン3'−リン酸、グアノシン5'−リン酸、グアノシン5'−二リン酸、グアノシン5'−三リン酸等〕、これらグアニン,グアノシンまたはグアノシンのリン酸エステルの代謝産物〔例えば、キサンチル酸、キサンチン等〕、及びこれらの塩などのグアニン系核酸関連物質を挙げることができる。中でも好ましいプリン系核酸関連物質としては、上記に掲げるアデニン系核酸関連物質を好適に例示することができる。好ましくは、アデノシンのリン酸エステル、その代謝物およびこれらの塩であり、より好ましくはアデノシンのリン酸エステル及びその塩である。ここでアデノシンのリン酸エステルとして、好適にはアデノシン一リン酸、特にアデノシン5'−リン酸(AMP)を挙げることができる。なお、上記の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩およびバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルギニンやリジン等の塩基性アミノ酸塩;アンモニウム塩やトリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩及びトリイソプロパノールアミンなどの各種のアルカノールアミン塩等を挙げることができる。好ましくはナトリウム塩などのアルカリ金属塩である。かかるアルカリ金属塩として、具体的にはアデノシン一リン酸一ナトリウム、及びアデノシン一リン酸二ナトリウムを例示することができる。
【0046】
(n)乳タンパク質
本発明において有効成分として使用される乳タンパク質は、牛乳、加工乳、及びヨーグルト類等の発酵乳等を原料として、これに含まれているタンパク質を公知の方法で回収することにより得ることができる。
【0047】
(o)カゼイン、カゼイン加水分解物
本発明において有効成分として用いられるカゼインの具体例として、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム等のカゼイン塩や、乳酸カゼイン、塩酸カゼイン等の酸カゼインを挙げることができる。
【0048】
また、本発明には、有効成分として、上記カゼインの加水分解物を使用することもできる。該カゼインの加水分解物は、酸分解、アルカリ分解又は酵素分解のいずれによっても調製することができる。簡便性、安全性の面から、酵素分解によって調製したカゼイン加水分解物が望ましい。かかるカゼイン加水分解に使用される酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パンクレアチン、カルボキシペプチダーゼ、パパイン、ブロメライン、フィシン、エンドプロテアーゼ、エキソペプチダーゼ等を例示することができる。上記のカゼインの加水分解の各種条件は、常法に従って適宜設定される。該カゼイン加水分解物の平均分子量の一例として、200Da〜12000Da、好ましくは300〜2000Daを例示することができる。
【0049】
(p)ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物
本発明において有効成分として用いられるホエータンパクは、ヒトやウシ等の哺乳類の乳等から、常法に従って分離することによって得ることができる。
【0050】
また、本発明には、有効成分として、上記ホエータンパクの加水分解物を使用することもできる。該ホエータンパク加水分解物の調製方法は、前述のカゼイン加水分解物の調製方法と同様の方法で行うことができる。該ホエータンパク加水分解物の平均分子量の一例として、300〜20000Da、好ましくは1000〜20000Da、更に好ましくは2000〜15000Daを例示することができる。
【0051】
(q)ラクトパーオキシダーゼ
本発明で使用するラクトパーオキシダーゼの由来や製造方法については、特に制限されるものではない。本発明では、例えば、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳等の哺乳類の乳、又はこれらの乳の処理物である脱脂乳やホエー等から、イオン交換クロマトグラフィー等の公知の手段によって分離することにより得られたラクトパーオキシダーゼを使用することができる。ラクトパ−オキシダ−ゼ、は、唾液、涙液、鼻汁、気管支液、腸内分泌液等の分泌液にも含有されており、これらの分泌液に由来するものを使用することもできる。
【0052】
(r)リゾチーム
本発明において有効成分として使用されるリゾチームは、通常、鶏卵の卵白を原料として、一般的な方法で分離・精製することによって得ることができる。本発明に用いられるリゾチームは、塩の形態(例えば、塩化リゾチーム等)であってもよい。リゾチームは、唾液、涙液、鼻汁、気管支液、腸内分泌液等の分泌液にも含有されており、これらの分泌液に由来するものを使用することもできる。
【0053】
(s)ラクトフェリン
本発明において有効成分として使用されるラクトフェリンは、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳等の哺乳類の乳を原料として、一般的な方法により分離・精製することによって得ることができる。ラクトフェリンは、唾液、涙液、鼻汁、気管支液、腸内分泌液等の分泌液にも含有されており、これらの分泌液に由来するものを使用することもできる。
【0054】
上記有効成分(a)〜(s)は、いずれも商業的に入手可能であり、簡便には市販品を使用することができる。
【0055】
上記有効成分の中でも、より優れたヒトβディフェンシン産生促進作用を発揮させるという観点から、好ましくはグリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンを挙げることができる。更に好ましい有効成分としては、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク質、ホエータンパク質加水分解物、ラクトパ−オキシダ−ゼ、リゾチーム及びラクトフェリンを挙げることができる。特に好ましい有効成分としては、乳タンパク質、ホエータンパク質、ホエータンパク質加水分解物、ラクトパ−オキシダ−ゼ、リゾチーム及びラクトフェリンを挙げることができる。
【0056】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤には、上記有効成分の中からいずれか1種を単独で使用してもよいし、上記有効成分を2種以上任意に組み合わせて使用してもよい。
【0057】
特に、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤において、上記有効成分を2種以上組み合わせて使用することによって、ヒトβディフェンシン産生促進作用が相乗的に増強される場合があるので、上記有効成分を2種以上組み合わせて含有するヒトβディフェンシン産生促進剤は好適である。ヒトβディフェンシン産生促進作用を相乗的に増強できる有効成分の組み合わせの一例として、(A)核酸関連物質、乳タンパク質、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトフェリン及びリゾチームよりなる群から選択される少なくとも1種の成分(以下、単に(A)成分ということもある)と、(B)ラクトパーオキシダーゼとの組み合わせを挙げることができる。また、この他に、好適な有効成分の組み合わせとして、ラクトフェリンとリゾチームの組み合わせを挙げることもできる。
【0058】
2種以上の成分を組み合わせて使用する場合、各成分の配合比率については、使用する成分の種類等によって適宜調整できる。例えば、上記(A)成分と(B)ラクトパーオキシダーゼを併用する場合であれば、上記(A)成分:(B)ラクトパーオキシダーゼ(重量比)が1:0.01〜100、好ましくは1:0.05〜50となる割合を挙げることができる。また、例えば、ラクトフェリンとリゾチームを併用する場合であれば、ラクトフェリン:リゾチーム(重量比)が1:0.01〜50となる割合を挙げることができる。但し、上記ラクトパーオキシダーゼの配合割合の例示は、酵素活性が136units/mgであるラクトパーオキシダーゼを使用する際に適用されるものである。故に、上記と異なる活性を有するラクトパーオキシダーゼを使用する場合の配合割合については、使用するラクトパーオキシダーゼの活性、及び活性が136units/mgである場合の上記配合割合に基づいて、適宜設定することができる。ここで、ラクトパーオキシダーゼの1ユニットは、「pH5、37℃の条件下、1mMのABTS(2,2 azino-bis(3-ethylbenzothiazoline)-6-sulfonate)に作用させた場合に、反応初期の1分間に1μmolのABTSを酸化するのに必要な酵素量」を示す。
【0059】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、上記有効成分に加えて、他に食品衛生上、薬学的または香粧的に許容される基剤、担体又は添加物等の他の成分を含有することができる。
【0060】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、内用及び外用のいずれの形態で適用しても、ヒトβディフェンシンの産生を促進することができる。故に、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、食品や内用医薬品等として調製してもよいし、また外用医薬品や化粧料等として調製することもできる。更に、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、浴用剤として調製することもできる。なお、上記の内用医薬品には、内用の医薬部外品も包含される。また、上記の外用医薬品には、外用の医薬部外品も包含される。
【0061】
外用医薬品・化粧料
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を外用医薬品や化粧料として調製することにより、ヒトβディフェンシン産生促進用の外用医薬品、及びヒトβディフェンシン産生促進用の化粧料が提供される。
【0062】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を外用医薬品や化粧料等として調製するには、上記有効成分に加えて、薬学的又は香粧学的に許容される基剤や担体を配合して、所望の形態に調製すればよい。更に、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種の界面活性剤、色素(染料、顔料)、香料、防腐剤、殺菌剤(抗菌剤)、増粘剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、清涼化剤、防臭剤、pH調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。また、必要に応じて、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線錯乱剤、ビタミン類、植物エキス、皮膚収斂剤、抗炎症剤(消炎剤)、美白剤、細胞賦活剤、血管拡張剤、血行促進剤、皮膚機能亢進剤等の外用剤に配合される公知の薬効成分を配合することもできる。
【0063】
上記外用医薬品又は化粧料は、皮膚や粘膜に適用可能である限り、その形態については、特に制限されるものではない。一例として、液状、乳液状、粉末状、固形状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、ムース状、顆粒状、錠剤状、ゲル状、ゼリー状、ペースト状、ジェル状、エアゾール状、スプレー状、リニメント剤、パック剤等の形態を挙げることができる。
【0064】
また、上記外用医薬品又は化粧料は、創傷治癒剤、口中用貼付剤、歯磨き剤、洗口剤、口中清涼剤、点眼剤、洗眼剤、点鼻剤、洗鼻剤、浣腸製剤、坐剤、うがい薬、口腔咽頭用剤、吸入剤、清拭剤、清浄剤(例えば、洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等)、基礎化粧料(例えば、乳液、クリーム、ローション、美容液、オイル及びパック等)等として調製することができる。
【0065】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を外用医薬品又は化粧料として調製する場合、該組成物中の上記有効成分の配合割合については、該外用医薬品又は化粧料の形態、有効成分の種類、対象者の年齢や性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記外用医薬品又は化粧料の総重量に対して、上記有効成分が総量で0.001〜50重量%、好ましくは0.05〜20重量%、更に好ましくは0.01〜10重量%となる割合を挙げることができる。
【0066】
但し、有効成分がラクトパーオキシダーゼである場合、上記配合割合の例示は、酵素活性が136units/mgであるラクトパーオキシダーゼを使用する際に適用されるものである。故に、上記と異なる活性を有するラクトパーオキシダーゼを使用する場合の配合割合については、使用するラクトパーオキシダーゼの活性、及び活性が136units/mgである場合の上記配合割合に基づいて、適宜設定することができる。
【0067】
外用医薬品又は化粧料として調製された上記ヒトβディフェンシン産生促進剤は、その使用を通して、皮膚や粘膜に適用されることによって、βディフェンシン産生促進作用を発揮することができる。当該ヒトβディフェンシン産生促進剤を適用する量並びに回数については、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別、適用形態、期待される程度等に応じて、有効量を、一日に1〜3回程度、皮膚や粘膜に適用すればよい。
【0068】
食品
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を食品として調製することにより、ヒトβディフェンシン産生促進用の食品が提供される。
【0069】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を食品として調製するには、上記有効成分を一成分として食品や飲料に配合すればよい。また、該ヒトβディフェンシン産生促進剤には、必要に応じて、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤(防ばい剤)、イーストフード、ガムベース、香料、酸味料、調味料、豆腐用凝固剤、乳化剤、pH調整剤、かんすい、膨脹剤、栄養強化剤等の食品衛生上許容される食品添加物を適宜添加してもよい。
【0070】
上記食品としては、例えば、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品等を挙げることができる。より具体的には、飲料(炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、アルコール飲料、果汁飲料、茶類、栄養飲料等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、菓子類(ガム、キャンディー、クッキー、グミ、せんべい、ビスケット、ゼリー、ラムネ菓子、発泡剤、可食性シート、可食性フィルム、トローチ等)、口中清涼剤(ガム、キャンディー、グミ、可食性シート、可食性フィルム、トローチ等)(乳製品(チーズ、ヨーグルト等)、パン、麺類、シリアル、調味料(ソース、ドレッシング等)等を例示できる。これらの中で好適なものとして、ガム、グミ、発泡剤、キャンディー、可食性シート及び可食性フィルムを挙げることができる。
【0071】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を食品として調製する場合、該食品中の上記有効成分の配合割合については、有効成分の種類、対象者の年齢、性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記食品の総重量に対して、上記有効成分が総量で0.001〜50重量%、好ましくは0.05〜20%重量%、更に好ましくは0.01〜10重量%となる割合を挙げることができる。
【0072】
但し、有効成分がラクトパーオキシダーゼである場合、上記配合割合の例示は、酵素活性が136units/mgであるラクトパーオキシダーゼを使用する際に適用されるものである。故に、上記と異なる活性を有するラクトパーオキシダーゼを使用する場合の配合割合については、使用するラクトパーオキシダーゼの活性、及び活性が136units/mgである場合の上記配合割合に基づいて、適宜設定することができる。
【0073】
食品として調製された上記ヒトβディフェンシン産生促進剤の一日当たりの摂取量としては、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別、食品の形状、期待される程度等に応じて適宜調整される。
【0074】
内用医薬品
また、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を内用医薬品として調製することにより、ヒトβディフェンシン産生促進用の内用医薬品が提供される。
【0075】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を内用医薬品として調製するには、上記有効成分に加えて、薬学的に許容される基材や担体を配合して、所望の形態に調製すればよい。また、必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、保存剤、香料等の薬学的に許容される添加剤を任意に配合してもよい。
【0076】
上記内用医薬品の形態としては、特に制限されるものではない。一例として、フィルム剤、チュアブル錠、トローチ、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、水剤等を挙げることができる。これらの中で好適なものとして、フィルム剤、チュアブル錠及びトローチを挙げることができる。
【0077】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を内用医薬品として調製する場合、該内用医薬品中の上記有効成分の配合割合については、有効成分の種類、組成物の形態、対象者の年齢や性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記内用医薬品の総重量に対して、上記有効成分が総量で0.001〜50重量%、好ましくは0.005〜20重量%、更に好ましくは0.01〜10重量%となる割合を挙げることができる。
【0078】
但し、有効成分がラクトパーオキシダーゼである場合、上記配合割合の例示は、酵素活性が136units/mgであるラクトパーオキシダーゼを使用する際に適用されるものである。故に、上記と異なる活性を有するラクトパーオキシダーゼを使用する場合の配合割合については、使用するラクトパーオキシダーゼの活性、及び活性が136units/mgである場合の上記配合割合に基づいて、適宜設定することができる。
【0079】
内用医薬品として調製された上記ヒトβディフェンシン産生促進剤は、一日当たりに1〜5回程度の割合で投与することができる。また当該ヒトβディフェンシン産生促進剤の一日当たりの投与量については、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別、組成物の形状、投与方法、期待される程度等に応じて適宜調整することができる。
【0080】
浴用剤
また、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を浴用剤として調製することにより、ヒトβディフェンシン産生促進用の浴用剤を提供することができる。
【0081】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を浴用剤として調製するには、上記有効成分に加えて、浴用剤に通常使用されている成分を添加して、液状、固体状等の所望の形態に調製すればよい。
【0082】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤を浴用剤として調製する場合、上記有効成分の配合割合については、有効成分の種類、該浴用剤の形態、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、当該浴用剤の使用時に、上記有効成分が総量で0.01〜100mg/L、好ましくは0.05〜50mg/Lとなる濃度を挙げることができる。
【0083】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤によれば、生体内のβディフェンシンの産生を促進することが可能になる。βディフェンシンは、細菌や真菌等に対して広い抗菌スペクトルを有しているので、生体内で該βディフェンシンの産生を促進することによって、細菌の感染防御能や細菌排除能を高めることができる。そのため、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、細菌、真菌、ウィルス、原虫感染が原因となって起こる症状の予防や緩和に有効である。具体的には、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、アトピ−性皮膚炎の二次感染予防、にきび予防、歯周病予防、口臭防止、足臭防止、髭剃りおよび脱毛後の二次感染予防、オムツかぶれの二次感染予防、あせもの二次感染予防、熱傷の二次感染予防、ステロイド剤使用による易感染性の予防、荒れ肌・乾燥肌・手荒れ等のスキンケア、水虫の予防等に有効である。
【0084】
また、βディフェンシンは、樹状細胞やメモリーTリンパ球を遊走(chemotaxis)させる、即ち免疫担当細胞を動員して獲得免疫に関与する、ことが知られているので、βディフェンシンの産生を促進することによって、免疫作用を増強して生体内の防御機構を高めることが可能となる。故に、上記有効成分を用いて、ヒトβディフェンシンの産生を促進することによって、免疫作用を増強することが可能となる。従って、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、免疫増強剤としても使用することができる。また、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、眼、鼻、口腔、気道、食道、その他消化器官、生殖器及び皮膚において上皮組織修復促進作用を示すので、感染、炎症或いはその他の傷害からの回復にも有用である。
【0085】
2.ヒトβディフェンシン産生促進方法
前述するように、上記ヒトβディフェンシン産生促進剤の有効成分には、内用又は外用的に適用されることにより、ヒトβディフェンシンの産生を促進する作用がある。故に、本発明は、更に、上記ヒトβディフェンシン産生促進剤の有効成分の有効量を、ヒトβディフェンシンの産生が望まれる者に内用又は外用的に適用することを特徴とする、ヒトβディフェンシンの産生促進方法を提供する。
【0086】
当該産生促進方法において、使用するヒトβディフェンシン産生促進剤の有効成分の種類、これらの適用有効量、1日当たりの適用回数等については、前記ヒトβディフェンシン産生促進剤の項に記載の通りである。当該産生促進方法は、好適には、前記ヒトβディフェンシン産生促進剤を、ヒトβディフェンシンの産生が望まれる者に、該剤の形態に応じて適用することにより実施される。
【実施例】
【0087】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】


【0089】

【0090】


【0091】

【0092】


【0093】

【0094】


【0095】
試験例1 ヒトβディフェンシン2産生促進確認試験−1
表1に示す各種成分のヒトβディフェンシン2産生促進を評価するために、下記の試験を行った。
【0096】
<正常ヒト表皮角化細胞への試験サンプルの添加及び細胞回収>
(1)細胞(NHEK(F);正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞、クラボウ)を液体培地(HuMedia−KG2;正常ヒト表皮角化細胞増殖用無血清液体培地、クラボウ)10mLを含む10cmディッシュに150,000cells/dishとなるように播種した。
(2)80〜90%コンフルエントになった状態で、最終濃度が表1及び2に示す濃度になるように試験サンプルを細胞培養液中に添加し、4日間、5%COインキュベーターにて37℃で培養した。陽性対照として、Escherichia coli ATCC 8739を100℃で30分加熱処理した菌体(10cells/mL)を添加し、同様の条件で培養を行った。また、比較のため、試験サンプルを添加しないものについても同様の条件で培養を行った。なお、それぞれの培養はn=3で行った。
(3)培養4日後に細胞培養液を回収し、凍結乾燥した。凍結乾燥した試料を10%Calf serum/RIA Buffer(0.1% Bovine Serum Albumin in PBS(-))で溶解し、3000rpmで10分間遠心分離した後、その上清を測定試料とした。
【0097】
<ヒトβディフェンシン2の産生促進効果の評価>
ELISA法により測定試料中のヒトβディフェンシン−2濃度を測定し、各培地中に遊離しているヒトβディフェンシン−2の量を求めた。試験サンプル無添加の培地に遊離しているβディフェンシン−2の量を1として、各試験サンプルを添加後4日後に回収して得られた培養液に遊離しているヒトβディフェンシン−2の量の相対値を算出することにより、各試験サンプルの産生促進効果を評価した。
【0098】
<結果>
得られた結果を表1に示す。表1から分かるように、本発明の有効成分として使用される各種の成分を培地に添加することによって細胞のβディフェンシン2の産生量が増大することが確認された。特に、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ラクトパ−オキシダ−ゼ、リゾチーム及びラクトフェリンは、低濃度でも優れたヒトβディフェンシン2産生促進効果を奏していることから、ヒトβディフェンシン−2産生促進剤として特に有用であることが確認された。
【0099】
【表1】

試験例2 ヒトβディフェンシン−2産生促進確認試験−2
表2及び3に示す各種成分のヒトβディフェンシン−2産生促進を評価するために、下記の試験を行った。
<正常ヒト表皮角化細胞への試験サンプルの添加及び細胞回収>
(1)細胞(NHEK(F);正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞、クラボウ)を液体培地(HuMedia−KG2;正常ヒト表皮角化細胞増殖用無血清液体培地、クラボウ)10mLを含む10cmディッシュに1800〜2400cells/cmとなるように播種した。
(2)細胞がコンフルエントになった状態で、最終濃度が表3及び4に示す濃度になるように試験サンプルを細胞培養液中に添加し、3日間、5%COインキュベーターにて37℃で培養した。陽性対照として、大腸菌粉末(Escherichia coli K12, Lyophilized cells, SIGMA)を0.001重量%となるように添加し、同様の条件で培養を行った。また、比較のため、試験サンプルを添加しないものについても同様の条件で培養を行った。それぞれの培養はn=1〜3で行った。
(3)培養3日後に細胞培養液を回収し、凍結乾燥した。凍結乾燥した試料を適量の10%Calf serum/RIA Buffer(0.1% Bovine Serum Albumin in PBS(-))で溶解し、5000rpmで15分間遠心分離した後、その上清を測定試料とした。なお、1%リゾチームについては、凍結乾燥せずに培養上清を測定試料とした。
【0100】
<ヒトβディフェンシン2の産生促進効果の評価>
ELISA法により測定試料中のヒトβディフェンシン2濃度を測定し、各培地中に遊離しているヒトβディフェンシン2の量を求めた。試験サンプル無添加の培地に遊離しているβディフェンシン2の量を1として、各試験サンプルを添加後3日目に回収して得られた培養液に遊離しているヒトβディフェンシン−2の量の相対値を算出することにより、各試験サンプルの産生促進効果を評価した。
【0101】
<結果>
得られた結果を表2及び3に併せて示す。表2及び3から分かるように、本発明の有効成分として使用される各種の成分を培地に添加することによって細胞のヒトβディフェンシン2の産生量が増大することが確認された。
【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

試験例3 ヒトβディフェンシン2産生促進確認試験−3
表4及び5に示す成分の併用によるヒトβディフェンシン2産生促進効果について、上記試験例2と同様の方法で評価を行った。
【0104】
得られた結果を表4及び5に併せて示す。表4及び5から分かるように、本発明の有効成分として使用される各種成分は、単独で使用してもヒトβディフェンシン2産生促進効果があることが確認された。更に、本発明の有効成分として2種以上の成分を併用することにより、単独で使用した場合と比較してヒトβディフェンシン2の産生量が相乗的に増加することも確認された。
【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0107】
ヒトβディフェンシンは、以下の優れた特性を備えていることが知られている:(a)それ自体に抗菌性があるため、短時間で抗菌作用を発揮することができる、(b)生体内で誘導されるため、外用又は内用形態で投与する従来の抗菌剤では困難であった部位に対しても優れた抗菌作用を発揮できる、(c)樹状細胞やメモリーTリンパ球を遊走(chemotaxis)させる(即ち、免疫担当細胞を動員して獲得免疫に関与する)、並びに(d)上皮組織修復促進作用を有する。
【0108】
本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、生体内でのβディフェンシンの誘導、特にヒトβディフェンシン2の誘導を促進することができる。それ故、本発明のヒトβディフェンシン誘導促進剤によれば、βディフェンシンの誘導を促進して、生体内の抗菌作用、抗炎症作用、免疫作用を増強することができ、生体の感染防御機構を高めることが可能になる。また、βディフェンシンは、上皮組織の組織修復や腫瘍免疫を誘導して創傷治癒効果や抗腫瘍効果を発揮することも報告されており、総合的な生体防御機構を一層強化する上でも本発明のヒトβディフェンシン産生促進は有用である。
【0109】
そのため、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、細菌、真菌、ウィルス、原虫感染が原因となって起こる症状の予防や緩和、例えば、アトピ−性皮膚炎の二次感染予防、にきび予防、歯周病予防、口臭防止、足臭防止、髭剃りおよび脱毛後の二次感染予防、オムツかぶれの二次感染予防、あせもの二次感染予防、熱傷の二次感染予防、ステロイド剤使用による易感染性の予防、荒れ肌・乾燥肌・手荒れ等のスキンケア、水虫の予防等に有効である。
【0110】
また、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、ヒトβディフェンシン産生促進作用に基づいた薬理効果が期待される。故に、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、例えば、眼内に投与する場合であれば、ウィルス性結膜炎、細菌性結膜炎、麦粒腫、角膜損傷等;鼻腔内や咽頭に投与する場合であれば、風邪、インフルエンザ等;鼻腔内に投与する場合であれば、鼻炎、膿性鼻漏、鼻副鼻腔炎等;口腔内に使用する場合であれば、歯周病、口内炎、虫歯、口臭等;口唇部に使用する場合であれば、単純疱疹等;皮膚に使用する場合であれば、水虫、とびひ、疣贅、伝染性軟属腫、水痘、性器ヘルペスウィルス感染症、カンジダ症、帯状疱疹、単純疱疹、ニキビ、アトピー性皮膚炎、創傷等;その他の部位に使用する場合であれば肺炎、胃炎、腫瘍、後天性免疫不全症候群、トリパノソーマ症等の疾患の予防又は治療剤として有用である。これらの疾患の中でも、特に、細菌、真菌、ウィルス、原虫等が関与する疾患の予防又は治療剤として有用である。また、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、眼、鼻、口腔、気道、食道、その他消化器官、生殖器及び皮膚において上皮組織修復促進作用を示すので、感染、炎症或いはその他の傷害からの回復にも有用である。
【0111】
特に、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、眼、鼻、肛門、気道、食道及び口腔等の粘膜組織内において優れたβディフェンシン産生促進作用を発揮できるので、粘膜適用製剤として有用である。中でも、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、歯周病、口内炎、虫歯、口臭、眼における感染、角膜損傷、鼻炎等の予防又は治療剤として有効である。それ故、本発明のヒトβディフェンシン産生促進剤は、健康な口腔、眼又は鼻の環境を保つためのオーラルケア製品、アイケア製品、鼻ケア製品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を有効成分とすることを特徴とする、ヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項2】
有効成分が、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項3】
有効成分が、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項4】
アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米発酵抽出物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも二種の成分を有効成分とすることを特徴とする、ヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項5】
産生促進対象がヒトβディフェンシン−2である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項6】
内用医薬品である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項7】
食品である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項8】
外用医薬品又は化粧料である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項9】
浴用剤である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン産生促進剤。
【請求項10】
アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の有効量を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用することを特徴とする、ヒトβディフェンシンの産生促進方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載のヒトβディフェンシン産生促進剤を、ヒトβディフェンシンの産生促進が望まれる者に内用又は外用的に適用する、請求項10に記載のヒトβディフェンシンの産生促進方法。
【請求項12】
アロエ抽出物、ゲンチアナ抽出物、ジオウ抽出物、シモツケ抽出物、アルニカ抽出物、クチナシ抽出物、ボタン抽出物、キャロット抽出物,オレンジ抽出物,ピーチ抽出物、海藻抽出物、納豆抽出物、レバン、イヌリン、ポリグルタミン酸、納豆菌、米抽出物の発酵物、小麦胚芽抽出物、小麦加水分解物、大豆加水分解物、グリシン、L-メチオニン、L-アラニン、L-シトルリン、プロポリス、ポリフェノール、プリン系核酸関連物質、乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の成分の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。
【請求項13】
乳タンパク質、カゼイン、カゼイン加水分解物、ホエータンパク、ホエータンパク加水分解物、ラクトパーオキシダーゼ、リゾチーム及びラクトフェリンよりなる群から選択される少なくとも一種の、ヒトβディフェンシン産生促進剤の製造のための使用。

【国際公開番号】WO2005/077349
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518025(P2005−518025)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002308
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】