説明

ヒトに適合するモノクローナル抗体に使用するための方法

ヒトに適合する非ヒトモノクローナル抗体に有用な方法が開示される。この方法は候補のヒト抗体フレイムワーク配列をヒト生殖細胞系のフレイムワークデータベースから選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、齧歯の抗体のような非ヒトモノクローナル抗体をヒトへ適合させるために使用するヒト可変領域フレイムワークの選択法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
抗体のヒトへの適合化(antibody human adaptation)は、ヒトの治療用標的に対して異種のモノクローナル抗体(mAb)を操作して、ヒト抗体配列の抗原結合特異性を保存しつつ、異種配列をヒト抗体配列に最大限置き換えることを説明する一般用語である。この目的はこれら抗体の免疫原性を下げて、それらの治療的特性および価値を向上させることである。生成する操作した抗体は当該技術分野ではヒト化またはCDRグラフティング(CDR−grafted)抗体としても知られている。
【0003】
現在、抗体のヒトへの適合に最も広く使用されている技術は“CDRグラフティング”として知られている。この技術の科学的基礎は、抗体の結合特異性が主に抗体の軽鎖および重鎖可変領域(V−領域)の相補性決定領域(CDR)として知られている3つの超可変性ループ内にあり、一方、より保存されたフレイムワーク領域(フレイムワーク、FW:フレイムワーク領域、FR)は、構造支持機能を提供するという点である。CDRを正しく選択されたFWに移植することにより、幾らか、またはすべての抗体結合活性を、生じた組換え抗体に移すことができる。CDRグラフティングによる特異性の転移の最初の証明は、ハプテンであるニトロフェノール(NP)に関するものであった(非特許文献1)。
【0004】
CDRを規定するための方法論は十分に確立されてきたので、CDRグラフティングに対して鍵となるのは移植に最適なヒト抗体受容体の選択である。供与体のCDRまたは供与体のFWのアミノ酸配列に、または供与体の構造に最高の類似性のもつヒト抗体受容体を選択するために、様々な方法が開発された。これらすべての「ベストフィット(best fit)」法は大変合理的に見えるが、実際には1つの仮定、すなわち元の抗体に最も類似している(アミノ酸配列または構造において)組換え抗体を生じることが元の抗原結合活性を最もよく保存するということに基づいている。これらの方法はすべて治療用抗体の作成に成功裏に応用されてきた(例えば、非特許文献2、3、4)が、元となる仮説が厳密に試験されたことはない。
【0005】
ベストフィット法の1つの潜在的問題点は、ベストフィットの基準が数学的であり、必ずしも生物学的ではない点である。相同性の程度により測定される適合性(fitness)は、例えば同一、相同的、および非類似のアミノ酸残基または核酸配列に割り当てられた数値の和である。これらの割当値は多くの他の相同性評価系でおおざっぱに確認されてきたが、他の系には重要ではないかもしれないわずかな差異が、抗体のヒトへの適合化においてベストフィットを算出するために重要となる可能性がある。
【0006】
関連する問題は、供与体に関して全適合性(total fitness)が同一かまたは程度が大変近い2つの受容体と仮定すると、それらの異なるFR中での位置的適合性は異なるかもしれない。1つの領域がもう1つの領域よりも重要となり得るのか?それをどのように定めるのか?手短に述べると、数学的モデルは抗体工学の供与体−受容体の関係においてベストフィットを算出する要件を満たすことについて今まで検証されてこなかった。
【0007】
さらに複雑なことは抗体の2つの鎖間の相互作用に関係する:それはベストフィットする重鎖受容体およびベストフィットする軽鎖受容体が、供与体の結合活性を最も良く保存するためには互いに合わないかもしれない点である。鎖間の適合性を評価するために利用できる道具はない。研究者達はより良い対合を見いだすために、同じエピトープに対して幾つかの抗体の重鎖および軽鎖を合わせた。しかしこれは抗体のヒトへの適合化に試みられてこなかった。
【0008】
理論的にすべてのヒト生殖細胞系配列がシークエンシングされ、そして抗体のFWの調査に利用することができる。しかし実際には、これまで抗体のヒト化に使用されてきたヒトV領域のほとんどが成熟抗体遺伝子、しばしば黒色腫タンパク質に由来する。それらは体細胞突然変異を含む可能性がある。これらの突然変異は再配列された遺伝子が由来する個体に独自であり、したがって他の個体にとっては外来と見られるであろう。生殖細胞系のデータベース配列は、これらの視点からの抗体のヒト化により適するものとなる。しかし全FWをコードする生殖細胞系のデータベース配列は抗体のヒト化に直ちに利用できず、そしてそれらは未処理(raw)のVおよびJ遺伝子配列の組み合わせにより作成され得るだけである。
【0009】
受容体のFWに成熟抗体遺伝子を使用する別の問題は、軽鎖用に有力なV−Jの組み合わせ、または重鎖用にV−D−Jの組み合わせのすべてが成熟遺伝子で表されるわけではないという点である。すなわち極めて合ったV遺伝子があまり合わないJセグメントに連結されるという状況も生じ得る。非特許文献5に記載されるマウス抗−Tacモノクローナル抗体のヒト化が一例である。NBRF−PIRデータベース(http://www.psc.edu/general/software/packages/nbrf−pir/nbrf.html)に対して抗−Tac V領域を比較することにより、ヒト黒色腫タンパク質EuのV領域が最高度の相同性を有することが示された(VDJにわたり57%同一)。しかしEu V領域のフレイムワーク4は、恐らくEu Jセグメントによりコードされる幾つかのアミノ酸を有し、これはヒトJセグメントに典型的ではない。これはEuフレイムワーク4と抗−Tacのフレイムワーク4との間で良くない対合をもたらした(図1)。既知の機能的なヒトJセグメントのアミノ酸配列(その中に6つある:図2参照)に対する抗−Tac J領域(フレイムワーク4およびフレイムワーク4−CDR3の近位末端)の選別した(separate)比較では、ヒトJ4がEu Jよりも良い対合であることを示す。この例はVおよびJ要素の選別比較が、齧歯類とヒトとの間の抗体配列の全可変領域の比較よりも有利であることを示唆している。現在、この種の選別比較のためのツールは直ぐに利用できない。
【0010】
CDR中のすべてのアミノ酸が抗原の結合に関与しているわけではない。すなわち抗原−抗体の相互作用に重要な残基のみ(いわゆる特異性決定残基の移植:SDR移植)を移植することは、生じる組換え抗体中のヒト抗体配列の含量をさらに上げるだろうと提案されてきた(非特許文献6、7)。この方法の応用には抗体構造ならびに抗体−抗原接触残基に関する情報が必要であり、これらは利用できないことが多い。たとえそのような情報を利用することができても、SDRを確かに同定するために利用できる系統的方法がなく、そしてSDR移植はこれまで多くが基本的な研究レベルに留まっている。
【0011】
最近、「ヒトフレイムワークシャッフリング(human framework shuffling)」と呼ばれる新規な方法が開発された(非特許文献8)。この技術はCDRをコードするDNAフラグメントをヒトFR1、FR2、FR3およびFR4をコードするDNAフラグメントに連結し、これにより供与体CDRとヒトFRとの間のすべての組み合わせのライブラリーを作成することにより働く。この方法は成功裏に応用されてきたが、2つの潜在的問題がある。第1に、生じる抗体のFRは、すべてがヒト起源であ
るものの、非連続的FWに由来する可能性があり、したがって不自然である。これらの不自然なFWがヒトにおいて免疫原性であるかどうかを確かめることが必要である。第2に理論的にライブラリーはひどく大きくなる可能性があり、スクリーニングおよびアッセイに多くの資源が必要がある。
【0012】
このようにヒトに適合した抗体を作成するために改善された方法が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Jones et al.,Nature 321:522−525(1986)
【非特許文献2】Tempest et al.,Biotechnology.9:266−71(1991)
【非特許文献3】Gorman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4181−4185(1991)
【非特許文献4】Co et al.,J Immunol.152:2968−76(1994)
【非特許文献5】Queen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:10029−10033(1989)
【非特許文献6】Kashmiri et al.,Methods.36:25−34 (2005)
【非特許文献7】Gonzales et al.,Mol Immunol.40:337−49 (2004)
【非特許文献8】Dall’Acqua et al.,Methods 36:43−60 (2005)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要約
本発明の1つの観点は、ヒトに適合した抗体の作成に使用するためのヒト抗体のフレイムワークの選択法であり、この方法は:
a.非ヒト抗体の可変領域のペプチド配列を得;
b.非ヒト可変領域の相補性決定領域(CDR)およびフレイムワーク領域のペプチド配列を線引きし;
c.ヒト生殖細胞系遺伝子によりコードされるヒト抗体のフレイムワーク1、2、3および4領域のペプチド配列のライブラリーを構築し;
d.非ヒト成熟抗体のフレイムワーク領域と同一の長さを有するライブラリーからヒトペプチド配列のメンバーのサブセットを選択し;
e.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列のフレイム領域の配列類似性を比較し;
f.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列との間のCDR1およびCDR2の長さの適合性を比較し;
g.選択したヒトペプチド配列の第2のサブセットを選択し、ここで選択したペプチド配列は同一性閾値よりも大きなフレイム領域類似性を有し、そしてCDR1およびCDR2の長さの差異の和がCDR12の長さの適合性閾値より小さいか、またはそれに等しく;そして
h.ライブラリーのサイズ値およびフレイムワーク領域の重複値に基づき、工程g)の第2のサブセットから、代表的なフレイムワークを選択する、
工程を含んでなる。
【0015】
本発明の別の観点はヒトに適合した抗体の作成法であって、この方法は:
a.非ヒト抗体の可変領域のペプチド配列を得;
b.非ヒト可変領域の相補性決定領域(CDR)およびフレイムワーク領域のペプチド配列を線引きし;
c.ヒト生殖細胞系遺伝子によりコードされるヒト抗体のフレイムワーク1、2、3および4領域のペプチド配列のライブラリーを構築し;
d.非ヒト成熟抗体のフレイムワーク領域と同一の長さを有するライブラリーからヒトペプチド配列のメンバーのサブセットを選択し;
e.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列とのフレイム領域の配列類似性を比較し;
f.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列との間のCDR1およびCDR2の長さの適合性を比較し;
g.選択したヒトペプチド配列の第2のサブセットを選択し、ここで選択したペプチド配列は同一性閾値よりも大きなフレイム領域類似性を有し、そしてCDR1およびCDR2の長さの差異の和がCDR12の長さの適合性閾値より小さいか、またはそれに等しく;h.ライブラリーのサイズ値およびフレイムワーク領域の重複値に基づき、工程g)の第2のサブセットから、代表的なフレイムワークを選択し;そして
i.非ヒト可変領域からの各CDR領域および工程h)で選択されたヒト重鎖および軽鎖の代表的フレイムワークの少なくとも1つのメンバーからのフレイムワーク領域を含むキメラ分子を構築し、ここでキメラ分子は非ヒト抗体が結合する抗原と同じ抗原に結合するヒトに適合した抗体または抗体フラグメントである、
工程を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】抗−Tac JH領域の比較を表す。
【図2】ヒトJHセグメントのアミノ酸配列を表す。
【図3】フレイムワークライブラリーのアルゴリズムの流れ図を表す。
【図4】V、D、J遺伝子フラグメントから可変FR/CDRを表す。
【図5】重鎖可変領域に関するアミノ酸配列および対応するマウス抗−TLR3 mAb 1068のFR/CDRを表す。
【図6】1068軽鎖可変領域に関するアミノ酸配列および対応するマウス抗−TLR3 mAb 1068のFR/CDRを表す。
【図7】重鎖FWライブラリー配列のアライメントを表す。
【図8】軽鎖FWライブラリー配列のアライメントを表す。
【図9】図9A、B、CおよびDはヒトに適合した抗−TLR3 mAbのhTLR3への結合をELISAアッセイで表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
限定するわけではないが特許および特許出願を含め、本明細書に引用するすべての刊行物は参照により完全に説明されているように編入する。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲で使用するように、単数形“a”、“and”および“the”は、内容が明らかにそうではなことを記載する場合を除いて、複数形を含む。すなわち例えば「ペプチド鎖(a peptide chain)」とは、1もしくは複数のペプチド鎖を指し、そして当業者に知られているそれらの等価物を含む。
【0019】
他に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は本発明が属する分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本明細書に記載する方法に類似または等価の方法を本発明の実施または試験に使用することができるが、本明細書では例示的方法として記載している。
【0020】
用語「抗体」は免疫グロブリンまたは抗体分子および抗体フラグメントを意味する。一般に、抗体は特異的抗原に結合特異性を表すタンパク質またはポリペプチドである。無傷(intact)な抗体は2つの同一軽鎖および2つの同一重鎖からなるヘテロ四量体の糖タンパク質である。典型的には各軽鎖が1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に連結され、一方、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数は変動する。各重鎖および軽鎖は規則正しく間隔を空けた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は1端に可変ドメイン(V)、続いて幾つかの定常ドメインを有する。各軽鎖は1端に可変ドメイン(V)およびもう1端に定常ドメインを有し;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインに並び、そして軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインに並ぶ。脊椎動物種の抗体軽鎖は、2つの明らかに異なる型、すなわちカッパ(κ)およびラムダ(λ)の1つに、それら定常ドメインのアミノ酸配列に基づき割り当てることができる。
【0021】
免疫グロブリンは重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に依存して5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに分類できる。さらにIgAおよびIgGはアイソタイプIgA、IgA、IgG、IgG、IgGおよびIgGに再分類される(sub−classified)。
【0022】
抗体は形質細胞により構成的に発現され、そして分泌される分泌型のタンパク質である。また抗体はハイブリドーマ生産のような標準的方法により不死化された形質細胞を使用して、または抗体重鎖および/もしくは軽鎖遺伝子の不死化B細胞、例えば黒色腫細胞もしくは他の細胞型、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、植物細胞および昆虫細胞へのトランスフェクションにより生産することもできる。
【0023】
用語「抗体フラグメント」は、無傷な抗体の一部、一般に無傷な抗体の抗原結合または可変領域を意味する。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)およびFvフラグメント、ダイアボディ(diabody)、単鎖抗体分子、例えばscFv分子を含み、ここで可変重鎖および可変軽鎖は1つのポリペプチド鎖にリンカーにより連結され、そして少なくとも2つの無傷な抗体から多重特異性(multispecific)抗体が形成される。
【0024】
ヒト化、ヒトに適合したおよびCDRグラフト化抗体は、ヒト以外の種に由来するCDRおよびヒト抗体に由来する可変領域フレイムワーク領域および定常領域を含むキメラモノクローナル抗体である。
【0025】
本発明は新規抗体のヒトへの適合化法を提供する。この方法はヒト生殖細胞系VおよびJ遺伝子を受容体FW配列の供給源として使用し、すべての受容体FWを非ヒト抗体とヒト生殖細胞系配列との間のFWの類似性および他の基準に基づき順位付けし、そして代表的なヒトに適合した抗体のライブラリーを作成する(図3の流れ図を参照にされたい)。本発明の方法で使用するアルゴリズムを以下に記載する。
【0026】
1.仮想のヒトFWデータベースの作成
生殖細胞系のVおよびJ遺伝子配列はVBase(http://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk/)のデータベースからダウンロードした。VBaseは、GenbankおよびEMBLデータライブラリーから現在公開されているものを含め、数千の公開配列から編集されたすべてのヒト生殖細胞系可変領域配列の包括的ディレクトリーである。このデータベースは、ヒト抗体遺伝子のシークエンシングおよびマッピングに関する作業の延長として、タンパク質工学のMRCセンター(MRC Centre
for Protein Engineering)で数年間かけて開発された。
【0027】
FWは4つの短いフレイムワーク領域(FR)からなる。図4から分かるように、FR1、FR2およびFR3は生殖細胞系のV遺伝子フラグメントによりコードされ、一方、FR4は生殖細胞系J遺伝子フラグメントによりコードされる。VBaseデータベースでは、各生殖細胞系V遺伝子がFRおよびCDR領域に設定された。本発明のフレイムワークライブラリー法を実施するために、仮想のFWデータベースをVおよびJ遺伝子配列から作成した。仮想のFWデータベース中の各記録は、4つのフィールド、すなわちFR1、FR2、FR3およびFR4からなり、そしてFRの網羅的なV/J組み合わせにより作成される。例えば重鎖では、6つのJHフラグメントがあるが、それらは4つの独自なFR4フラグメントをコードするだけである(同じFR4をコードするJH1、JH4およびJH5により)(図2を参照にされたい)。各JH配列に由来する最後の11残基はFR4に対応する。重鎖生殖細胞系V遺伝子に由来するすべてのFR1−FR2−FR3とこれらの4つの独自なFR4の対合により、重鎖のFWデータベースが作成された。カッパおよびラムダ軽鎖に関するこのFWデータベースも同様に作成された。
【0028】
生じたFWデータベースには全部で666の記録があり、そのうちの260が生殖細胞系の重鎖から作成され、そして190および216がそれぞれカッパおよびラムダ軽鎖から作成される。FWデータベースには重複する登録は無く、そして各FW記録が独自である。
【0029】
2.抗体配列のFRおよびCDRへの線引き
抗体配列の可変性に基づくKabatのCDRの定義が、配列の線引きによく使用される。他の既知の法則またはパターン(http://www.bioinf.org.uk/abs/index.html)も、抗体配列中にCDRを見いだすためによく応用されるが、多くの抗体のCDRがパターンに適合しないことはまれではない。CDRに比べてFRは長さおよび相同性の点で一層保存されている。CDRを直接見いだすことに代えて、本発明の方法はFRを同定するために、以下に記載するようなアルゴリズムを使用し、そして対応するCDRをしかるべく演繹する(抗体 FR/CDR分解については図4を参照にされたい)。
【0030】
上記のように構築されたFWのデータベースは、各FWについてFR1、FR2、FR3およびFR4配列を含む。所定の抗体配列およびその適合する生殖細胞系FWについて、アルゴリズムが以下のようにフレイム領域を同定する(すなわち、FR1、FR2、FR3およびFR4配列)。FR2を例にとると、ヒト生殖細胞系配列から導かれるFR2ウィンドウは、第1残基から始まる抗体配列に沿って動かされ、そしてウィンドウ中の配列に関する類似性が各残基の位置で計算される。FR2ウィンドウ配列はその抗体の対の配列と合った時、高い類似性ピークが観察され、これによりFR2を同定する。同様に、FR1、FR3およびFR4を類似様式で見いだすことができる。このアルゴリズムはフレイム領域を同定するのに大変効果的であり、そして任意の抗体配列に普遍的に応用することができる。
【0031】
3.新規フラグメントに基づく相同性およびフレイムワークデータベースのフィルタリング
CDRグラフティングでは、齧歯類供与体の抗体のFWがヒトのものに置き換えられ、そしてCDRは同じままである。しかし齧歯類抗体中の各FRの長さがヒトFR中の長さと適合しなければならない。供与体の抗体配列がFRおよびCDR領域に線引きされた後、そのFRは上で作成したデータベース中の各FWと比較される。これにより供与体の抗体に対するそれらの類似性により順位付けされたFWのリストが作成される。本発明の相同性比較アルゴリズムを以下に詳述する。
【0032】
最初に、非ヒト抗体のFRとヒトFRとの間のFR長の適合性がチェックされ、そして非ヒトFRと同一長を有するヒト配列のサブセットが選択される。例えばFR1では、重鎖に関するこの領域には常に30の残基があり、一方、カッパおよびラムダ鎖に関して、この数は常にそれぞれ22および23である。所定の抗体がカッパ軽鎖である場合、データベース中これらカッパFWのみを選択することができ;供与体と受容体との間のFR1の長さは同一ではないので、ラムダFWを選択することはできないが、供与体のカッパ配列は全体としてラムダ生殖細胞系に大変類似する見込みが高い。この新規な相同性の比較アルゴリズムは、FWの選択で疑陽性を有意に減らすことが期待される。
【0033】
次いで受容体FWはFR長の適合性のチェックを通った場合、供与体と受容体FWとの間の残基の差異の数を数えられ、次いで供与体と受容体FW配列との間の全体的な配列類似性が計算される。類似性が同一性閾値(identity threshold value)と呼ぶ閾値未満の場合、対応するFWは飛ばされる/除かれる。同一性閾値は使用者に特定のパラメーターであり、そしてデフォルト値は重および軽鎖の両方について少なくとも60%である。このパラメーターの目的は、供与体と合理的な類似性を持つFWのみがCDRグラフティングに選択できるように、候補FWの数を減らすことである。
【0034】
次いで選択したヒトのペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列との間のCDR1およびCDR2長の適合性が比較される。具体的にはCDR1長が比較され、そして異なる残基の数を反映する値が作成される。同様にCDR2長が比較され、そして同様の値が作成される。CDR1およびCDR2長の差異の値が一緒に加えられてCDR12長の適合値(CDR12 length compatibility value)が作成される。CDR12長の適合閾値(CDR12 length compatibility threshold value)より高いCDR12長の適合値を有するフレイムワークは排除される。推薦されるCDR12長の適合閾値は、0または1である。
【0035】
最後に仮想FWデータベースの長さの比較、配列相同性およびCDR12長の比較から同定されたすべての候補FWは、最も相同的なFWが1位に順位付けられるようにFW配列の同一性に基づき分類される。
【0036】
4.スクリーニングのための代表的FWの選択
特定の状況下では、全候補組よりも小さい代表的な候補FWのライブラリーをスクリーニングすることが望ましいかもしれない。最初にFWの中には、幾つかの生殖細胞系配列間で生来、近い類似性によりわずか1つの残基の差異で互いに似過ぎているものもある。この状況では、スクリーニングにそのようなすべてのFWを含まないことが合理的かつ有利であり、そしてその代わりに代表的な1つのFWを選択する。第2にウェットラボでは、生じたライブラリーが大きすぎる場合、すべての組み合わせFWをスクリーニングする能力が無いかもしれない。例えばFW類似性閾値が60%(重鎖について)、および70%(軽鎖について)のデフォルトに設定される場合、75および80の候補FWがマウス抗−TLR3 mAbの重鎖および軽鎖についてそれぞれ得られた(図5および6、およ
び以下の実施例1を参照にされたい)。HC/LC FWの組み合わせの総数は6000であり、そしてこれはウェットラボでのスクリーニングとしては大きな挑戦となる。
【0037】
本発明では、代表的FWの選択を自動化し、そしてスクリーニング用に一層小さく、かつ重複が少ないFWライブラリーを作成するためのアルゴリズムが開発された。使用者はFWライブラリーサイズ(メンバー数)、そしてFW重複基準(重複 閾値:Redundant_Threshold)を入力することができ、そしてアルゴリズムが自動的にすべての候補FWを比較し、そしてしかるべくFWライブラリーを作成する。FW重複基準の選択は、相同性比較後の候補FWの総数およびスクリーニングに望ましいサイズのFWライブラリーに依存する。実際には1〜3の残基の差異が薦められる。FWライブラリーのサイズは任意の整数、例えば4〜20であることができる。アルゴリズムのステップおよびパラメーターを以下に詳細に記載する。
【0038】
アルゴリズムのパラメーター:
候補_FW_リスト:相同性比較後のすべての候補FW;
出力_FW_リスト:FWライブラリー配列のリスト;
ライブラリー_サイズ:FWライブラリーのサイズ;
重複_閾値:2つのFWが重複するかを考慮する基準;
アクティブ_FW:候補 FW_リストから現在選択されているFW;
流れ図:
a.候補_FW_リストのサイズをチェックし、このリストが空ならばステップf)へ
行く;
b.候補_FW_リストから第1のFWを選択する;
i.このFWをアクティブ_FWに設定する;
ii.これを候補_FW_リストからはずす;
iii.これを出力_FW_リストに入れる;
c.出力_FW_リストをチェックし、ライブラリー_サイズに達したらステップf)
へ行く;
d.候補_FW_リスト中の各FWとアクティブ_FWとの間の残基の差異をカウント
し、差異が重複_閾値未満ならばこのFWを候補_FW_リストからはずし;
e.ステップa)へ行き;
f.齧歯類抗体のCDRを、出力_FW_リスト中の各FWに移植し;そして終了する

出力:
代表的なヒト化抗体のライブラリー
【0039】
上記に定めたアルゴリズムを変更して、ウェットラボのスクリーニング能力に合うようにFWライブラリーのサイズを変えることができる。齧歯類の抗体重鎖および軽鎖について、対応するFWライブラリーがそれぞれ作成され、そしてヒトに適合したすべての重鎖および軽鎖がスクリーニングのために組み合わされる。このように本発明の全FWライブラリー法のアルゴリズムは、親和性の保持に重要となる見込みがある最適な鎖間相互作用を持つヒト重鎖および軽鎖の好ましい対を見いだす確率を上げる。
【0040】
当業者はオブジェクト指向のJava言語におけるようなコンピュータープログラミングを介して、アルゴリズムの重要なステップを自動化することができた。有用なインポート/エクスポート機能には、齧歯類抗体配列を種々の形式で読み取り、そしてFWライブラリーの組をフラットなFastaファイルに書き込み、またはそれらをスプレッドシートもしくはHTMLファイルにエクスポートする能力を含む。
【0041】
本発明の方法によりヒト重鎖および軽鎖フレイムワークの好ましい対を選択した後、非
ヒト可変領域からのCDR領域、および選択したヒト重鎖および軽鎖の代表的フレイムワークの少なくとも1つのメンバーからのフレイムワーク領域をそれぞれ含むキメラ分子を構築することができ、ここでキメラ分子は非ヒト抗体が結合する抗原と同じ抗原に結合するヒトに適合した抗体または抗体フラグメントである。当業者には周知である組換えDNA技法を使用してキメラ分子を構築することができる。次いでキメラ分子は各分子について、抗原に対する結合親和性をスクリーニングし、そして最適なヒトに適合した抗体もしくは抗体フラグメントを選択することにより選択することができる。
【0042】
本発明の方法は、現行のヒト適合化技術よりも多くの利点を提供する。例えばSDR移植のような構造に基づくすべての他の方法とは対照的に、本発明の方法は詳細な抗体または抗原−抗体複合体構造の情報が必要ではない。本発明の方法の別の利点は、同じCDR供与体に関して幾つかの同等な、しかし明らかに異なるヒト化抗体を提供できる点である。これは治療用の抗体の開発に特に有用であり、研究者はリード候補を選択し、そして1もしくは複数の第2世代もしくはバックアップ候補を有することができるようになる。
【0043】
本発明の方法に関連する別の利点は、これらの同等な候補はそれらの異なる配列により、異なる化学的、生理学的および製薬学的特性を有することができる点である。これは治療用抗体の改善における他の観点で利用することができる。例えば低い溶解性の抗体のCDRをヒトのフレイムワークライブラリーに合わせ、そして改善された溶解性を持つ良い結合体を生じた抗体から選択することができる。
【0044】
本発明はこれから以下の具体的な非限定的実施例を参照にして記載する。
【実施例1】
【0045】
マウスモノクローナル抗体のヒトへの適合化
マウス抗−TLR3 mAb C1068重鎖(HC)および軽鎖(LC)のアミノ酸配列は、それぞれ図5および6に列挙する。検討した本発明のフレイムワークライブラリーのヒト化法アルゴリズムをmAb C1068に対して応用して、8種のHCおよび12種のLCのFWライブラリー組を作成した。4種のHCおよび4種のLCを初期のスクリーニングに取り出した。
【0046】
各FWとmAb C1068との間の類似性を表1に報告する。結果は4種のHCおよび4種のLCのすべてが全体的な配列類似性という意味で同等であることを示す。4種のHCの多くの配列アライメントは、これら4種のFWが互いに大変類似していることを示し(図7)、そしてこれは4種のLC FWにもあてはまる(多くのFW配列アライメントについては図8を参照にされたい)。
【0047】
【表1】

【0048】
4種の重鎖および4種の軽鎖可変領域構築物のすべての可能な組み合わせを表す16の
mAbが発現された。すべての重鎖可変領域のフレイムワークは、残基108でSerからProへの置換、およびPhe114およびLeu115からのAla置換;完全長の重鎖でのS228P、F234AおよびL235Aを有するヒトIgG4重鎖定常領域で発現された。すべての軽鎖可変領域のフレイムワークはヒトK定常領域を使用して発現された。抗体は、適切な重鎖および軽鎖を含有するプラスミドの同時トランスフェクションにより哺乳動物細胞で一時的に発現された。抗体は標準的なプロテインA精製を使用して精製され、そして特性決定のためにPBSに透析された。
【0049】
16すべてのmAbが、親のマウスmAb C1068に対して比較されるようにELISA形式を使用してヒトTLR3の細胞外ドメインへの結合を評価された。簡単に説明すると、可溶性ヒトTLR3の細胞外ドメインを96ウェルプレートのウェルに塗布し、そして候補mAbを種々の濃度(10〜3から103ng/ml)でインキュベーションし、そして結合した抗体はマウスIgG1アイソタイプにはウサギ抗−マウスIgG−HRP(ザイメッド:Zymed、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア州)で、またはヒトIgG4アイソタイプにはHRP−標識抗−ヒトIgG(ジャクソン:Jackson 109−036−088)で検出した。EC50値を決定し、そしてスクリーニングの結果を図9および以下の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
C1068について算出されたEC50は8ng/mlであった;結果はヒトに適合したmAbの12種が、親マウスのmAb 1068に対して算出されたEC50よりも40倍未満の低下を有することを示した。対LV5/HV5、LV5/LV4およびLV1/HV5は、最も相同的な対LV1/HV1よりも親和性という意味で良い。
【0052】
表2および図9の親和性のデータは、明らかに少なくとも抗−TLR3抗体の場合にはベストフィット選択が最高の受容体ではないことを表し、そして鎖間相互作用が抗体の親和性に貢献することを示す。したがって我々の新規なヒトフレイムワークライブラリー法およびアルゴリズムは、従来のベストフィットの取り組みに基本的に挑戦し、そして同時に抗体のヒト化の受容体の選択に大変有望な実験的取り組みを提供する。
【0053】
本発明を完全に記載しているが、当業者には多くの変更および修飾が添付する請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることは明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトに適合した抗体の作成に使用するためのヒト抗体フレイムワークの選択法であって:
a.非ヒト抗体の可変領域のペプチド配列を得;
b.非ヒト可変領域の相補性決定領域(CDR)およびフレイムワーク領域のペプチド配列を線引きし;
c.ヒト生殖細胞系遺伝子によりコードされるヒト抗体フレイムワーク1、2、3および4領域のペプチド配列のライブラリーを構築し;
d.非ヒト成熟抗体のフレイムワーク領域と同一の長さを有するライブラリーからヒトペプチド配列のメンバーのサブセットを選択し;
e.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列のフレイム領域の配列類似性を比較し;
f.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列との間のCDR1およびCDR2の長さの適合性を比較し;
g.選択したヒトペプチド配列の第2のサブセットを選択し、ここで選択したペプチド配列は同一性閾値よりも大きなフレイム領域類似性を有し、そしてCDR1およびCDR2の長さの差異の和がCDR12の長さの適合性閾値より小さいか、またはそれに等しく;そして
h.ライブラリーのサイズ値およびフレイムワーク領域の重複値に基づき、工程g)の第2のサブセットから代表的なフレイムワークを選択する、
工程を含んでなる上記方法。
【請求項2】
ヒトに適合した抗体また抗体フラグメントの作成法であって:
a.非ヒト抗体の可変領域のペプチド配列を得;
b.非ヒト可変領域の相補性決定領域(CDR)およびフレイムワーク領域のペプチド配列を線引きし;
c.ヒト生殖細胞系遺伝子によりコードされるヒト抗体フレイムワーク1、2、3および4領域のペプチド配列のライブラリーを構築し;
d.非ヒト成熟抗体のフレイムワーク領域と同一の長さを有するライブラリーからヒトペプチド配列のメンバーのサブセットを選択し;
e.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列とのフレイム領域の配列類似性を比較し;
f.選択したヒトペプチド配列と非ヒトフレイムワーク領域のペプチド配列との間のCDR1およびCDR2の長さの適合性を比較し;
g.選択したヒトペプチド配列の第2のサブセットを選択し、ここで選択したペプチド配列は同一性閾値よりも大きなフレイム領域類似性を有し、そしてCDR1およびCDR2の長さの差異の和がCDR12の長さの適合性閾値より小さいか、またはそれに等しく;h.ライブラリーのサイズ値およびフレイムワーク領域の重複値に基づき、工程g)の第2のサブセットから代表的なフレイムワークを選択し;そして
i.非ヒト可変領域からの各CDR領域および工程h)で選択されたヒト重鎖および軽鎖の代表的フレイムワークの少なくとも1つのメンバーからのフレイムワーク領域を含むキメラ分子を構築し、ここでキメラ分子は非ヒト抗体が結合する抗原と同じ抗原に結合するヒトに適合した抗体または抗体フラグメントである、
工程を含んでなる上記方法。
【請求項3】
さらに:
i.抗原に対する結合親和性に関する各組み合わせをスクリーニングし、そして最適なヒトに適合した抗体もしくは抗体フラグメントを選択する工程を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
同一性閾値が重鎖および軽鎖フレイムワークについて少なくとも60%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
CDR12の長さの適合性値が0または1である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
ライブラリーサイズ値が4〜20である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
フレイムワーク領域の重複値が1〜3である請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【公表番号】特表2010−508290(P2010−508290A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534854(P2009−534854)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/082516
【国際公開番号】WO2008/052108
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】