説明

ヒトの分娩を容易にするための新規組成物

【課題】生理学的に適合性であり、かつ良好な付着特性と潤滑作用とを有する、ヒトの分娩を容易にするための組成物を提供する。
【解決手段】(a)ポリアクリル酸、(b)水溶性の増粘剤、および(c)保湿剤、および(d)場合により水を含有する、潤滑作用を有する生体接着性(bioadhaesive)組成物により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にヒトの経膣分娩の際に使用するための潤滑作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子供を経膣出産することは複雑なプロセスであり、これは3つの本質的な要因により決定される。つまり、分娩される対象(胎児、羊膜、胎盤)、産道(骨からなる部分と、軟部組織からなる管)および分娩力である。学術的な専門文献から、ヒトの胎児の経膣分娩(経膣出産)を促進するか、または妨げる種々の分娩力が知られている。分娩を促進する力はこの場合、陣痛および重力であり、出産を妨げる力は子宮口および産道の伸縮力である。ヒトの子供の分娩は、3つの段階に分類される。これはつまり、開口期、娩出期および後産期である。通常の分娩時間は初妊婦では平均12時間、経産婦では平均8時間である。経産婦の場合の平均分娩時間が初妊婦と比較して短いのは、産道の伸縮力の低下に基づいている。というのも、経産婦の場合、軟部組織管[内部の軟部組織管(子宮部分−子宮頚−軟部組織付属管(膣および外陰部)]が、先の経膣分娩により延びているからである。従ってヒトにおける分娩メカニズムに関して支配的な学説は、産道の伸縮力(産道を開き、伸ばし、かつ延ばすために必要とされる力)が本質的な、分娩を妨げる力であるとみなしている(Dudenhausen、Schneider、Frauenheilkunde und Geburtshilfe、Verlag De Gruyter(1994年)、第113〜121頁)。
【0003】
獣医学では、分娩される対象と産道との間の摩擦力の分娩メカニズムにおける重要性がこの10年来公知である。産道に潤滑剤を適用してこの摩擦力を低減することは、獣医学における分娩補助では、標準的な方法であり(Richter、Goetze;Tiergeburtshilfe、第4版;Verlag Paul Parey;Rechtsfragen in der Tiergeburtshilfe、第614頁)、この目的のための潤滑剤は市販されている。動物の分娩の際には比較的高い体積の潤滑剤を使用することができる。このことにより、潤滑作用のある羊水もしくは尿膜腔液の代替物として、有用動物において使用される液状の水性組成物を使用する可能性が生じる。このような高い体積はヒトの経膣分娩の際には実用性が不足しているために適用することはできない。
【0004】
動物における分娩と、ヒトにおける分娩との間の本質的な違いは、ヒトの分娩における羊水の役割が期日に産道の潤滑に関して顕著な重要性を有しておらず、生じる摩擦力を高める可能性があることである。ヒトの場合、水性の物質である羊水は自体顕著な潤滑効果を有していない。今日、ヒトの場合には分娩はたいていは依然として、頭蓋骨の位置から経膣によって行われ、その際、羊水は分娩中に、頭部によりふさがれるために、わずかに排出されるにすぎない。分娩される対象の唯一の潤滑物質である胎脂は、多くの場合、分娩期日前後にはもはや存在しておらず、そうでなくとも頭部ではそれほど効果的ではない。従ってヒトの場合、経膣分娩の前または分娩中の産道の潤滑のための羊水または羊水代替物質の使用は、ヒトにおける経膣分娩の摩擦力を回避するため、および分娩を容易にするために十分に適切な措置ではない。
【0005】
US特許第3814797号は、(A)メタリン酸カリウム、(B)アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプンおよびこれらの塩、および(C)弱酸のナトリウム塩、たとえば炭酸ナトリウムまたはリン酸ナトリウムをベースとする水性の潤滑組成物を開示している。
【0006】
US特許第3971848は、フコイジンと、アルギン酸塩とからなる混合物を含有する、粘膜のための潤滑剤組成物を開示している。該組成物は場合によりカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリリン酸カリウムナトリウム、ポリエチレンオキシド等と混合し、かつ分娩を容易にするために使用される。
【0007】
US特許第4267168は、清浄剤として、表面殺菌剤としてまたは膣用潤滑剤として使用することができる液状の殺生物組成物を開示している。該組成物は、ラウリルジエタノールアミド、プロピレングリコール、グリセリン、ポリペクチン酸ナトリウムおよび銀イオンを含有する。該組成物は7.2〜7.8の範囲のpH値を有する。
【0008】
JP46024256号は、実質的にポリアクリレートからなり、かつ補助的な羊水として獣医学において使用することができる潤滑剤組成物を開示している。
【0009】
JP45000153号およびJP4500012は、アルギン酸の塩またはエステルおよびアラビアゴムを含有する獣医学における分娩補助のための潤滑剤組成物を開示している。
【0010】
JP46034991は、80%より高い濃度の有機溶剤、ヒドロキシプロピルセルロース、硫酸ナトリウムおよび界面活性剤からなる液体中のポリエチレンオキシド粉末を含有する潤滑剤を開示している。該組成物は、獣医学において、希釈後に、胎児の娩出を軽減するために使用することができる。
【0011】
PCT/EP03/00548は、生理学的に懸念のない有機物質を、女性の経膣分娩の際の潤滑剤として使用するためのメタリン酸のアルカリ金属塩を含有しない組成物の製造のために使用することを開示している。適切な、生理学的に懸念のない有機物質のために多数の例が挙げられている。本発明の対象は、新たに認識された、実質的に出産を妨げる力、つまり分娩される対象と産道との間の摩擦力を、ヒトにおいて潤滑剤を使用することによって低減することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US特許第3814797号
【特許文献2】US特許第3971848号
【特許文献3】US特許第4267168号
【特許文献4】JP46024256号
【特許文献5】JP45000153号
【特許文献6】JP4500012号
【特許文献7】JP46034991号
【特許文献8】PCT/EP03/00548
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Dudenhausen、Schneider、Frauenheilkunde und Geburtshilfe、Verlag De Gruyter(1994年)、第113〜121頁
【非特許文献2】Richter、Goetze;Tiergeburtshilfe、第4版;Verlag Paul Parey;Rechtsfragen in der Tiergeburtshilfe、第614頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の根底に存在する課題は、生理学的に適合性であり、かつ良好な付着特性と潤滑作用とを有する、ヒトの分娩を容易にするための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、(a)ポリアクリル酸、(b)水溶性の増粘剤、および(c)保湿剤、および(d)場合により水を含有する、潤滑作用を有する生体接着性(bioadhaesive)組成物により解決される。
【0016】
本発明による組成物の成分(a)は、架橋しているか、および/または化学的に変性されていてもよいポリアクリル酸であるか、またはこのようなポリアクリル酸の塩であるか、または複数のポリアクリル酸の混合物である。アクリル酸ポリマーの平均分子量は、規定の適用の際に、該ポリマーが生体接着性を有するように選択される。通常、分子量は少なくとも2000Dおよび有利には500000Dの範囲である。
【0017】
有利なポリアクリル酸は、架橋したアクリル酸ポリマー、たとえばアクリル酸のホモポリマー、コポリマーまたはインターポリマーまたはこれらのポリマーの塩、たとえばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩である。これにはたとえば、カルボマーのホモポリマー、つまり糖類のポリアルケニルエーテルまたはポリアルコール、たとえばアリルサッカロース、アリルペンタエリトリトール等により架橋しているアクリル酸の高分子量のポリマー、たとえばCarbopol(登録商標)940NF、974P NFまたは980NFが挙げられる。
【0018】
さらにカルボマーのコポリマー、つまりアクリル酸とC1〜C24−アルキルメタクリレートの、糖類のポリアルケニルエーテルまたはポリアルコールにより架橋した高分子コポリマー、たとえばCarbopol(登録商標)1382、Carbopol(登録商標)1342NF、Carbopol(登録商標)ETD−2020、Pemulen(登録商標)TR1NFおよびPemulen(登録商標)TR2が適切である。同様に、カルボマーのインターポリマー、つまり不均一なポリマー、たとえばポリエチレングリコールと長鎖の、たとえばC1〜C24−アルキル酸エステルとからなるブロックコポリマーを含有するカルボマーのホモポリマーまたはコポリマー、たとえばCarbopol(登録商標)Ultrez10、20または21、またはCarbopol(登録商標)Ultrez10NFが適切である。同様に、ポリカルボフィル、つまりジビニルグリコールで架橋しているポリアクリル酸、たとえばNoveon(登録商標)AA−1 USP、またはカルシウムポリカルボフィル、つまりジビニルグリコールで架橋したポリアクリル酸のカルシウム塩、たとえばNoveon(登録商標)CA−1 USPおよびCA−2 USPが適切である。
【0019】
ポリアクリル酸のホモポリマーは通常、56〜68%のCOOH基の含有率を有し、他方、ポリアクリル酸コポリマーは、52〜62%のCOOH基の含有率を有する。
【0020】
組成物の全質量における成分(a)の質量割合は、広い範囲で変化することができ、たとえば0.1〜15%である。特に組成物が水を含有するゲルとして存在する場合、成分(a)の質量割合は、有利には0.1〜10%、特に有利には0.2〜1%およびさらに有利には0.4〜0.7%である。最も有利であるのは0.45〜0.5%の質量割合である。
【0021】
組成物の成分(b)は、水溶性の増粘剤であるか、または複数の増粘剤の混合物である。有利な例は、セルロース誘導体、特に親水性に変性されたセルロース誘導体、たとえばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、および/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。その他の有利な水溶性増粘剤は、ムコ多糖類、特にヒアルロン酸である。
【0022】
成分(b)は通常、組成物の全質量に対して0.1〜30%、有利には1〜10%、特に有利には2.5〜7.5%および最も有利には4〜6%の質量割合で存在している。
【0023】
組成物の成分(c)は、保湿剤または複数の保湿剤の混合物である。有利な例は、製薬学的に許容されたポリアルコール、たとえばプロピレングリコール、特に1,2−プロピレングリコール、グリセリンおよび/またはポリエチレングリコール、特に液状のポリエチレングリコールである。
【0024】
成分(c)は通常、組成物の全質量に対して0.1〜30%、有利には10〜30%、特に有利には15〜25%および最も有利には18〜22%の質量割合で存在している。
【0025】
組成物の任意で存在する成分(d)は水である。水を含有する組成物では、水は通常、組成物の全質量に対して40〜95%、有利には60〜85%、特に有利には70〜80%および最も有利には72〜77%の質量割合で存在している。しかし組成物は場合によりこれより少ない含水率を有しているか、または乾燥している、たとえば粉末として存在し、かつ適用することができるか、かつ/または適用の直前に希釈することができる。
【0026】
上記の成分以外に、組成物は助剤、たとえば界面活性剤、分散剤、別の増粘剤、pH値を調節するための試薬、キャリア、充填剤、安定剤および/または保存剤を含有しててよい。しかし有利には該組成物は保存剤を含有しない。さらに、組成物がアルギン酸またはアルギン酸塩を含有していないことが有利である。というのも、これらの物質の添加はしばしば、不所望の変色もしくは沈殿の形成につながるからである。同様に組成物は有利にはメタリン酸塩および/または重金属イオン、特に銀イオンを含有しない。有利には組成物はさらにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および/または製薬学的に許容可能なこれらの塩を含有している。
【0027】
しかし有利には組成物は、ほぼ等容量オスモル濃度を調整するための物質、たとえば塩、たとえば塩化ナトリウムを、組成物の全質量に対して通常は0.1〜5%、有利には0.3〜0.6%、特に有利には0.45〜0.55%および最も有利には約0.49〜0.50%含有している。
【0028】
本発明による組成物は有利にはゲルであり、これはさらに有利にはほぼ無色であり、かつ透明な外観を有している。さらに、該組成物は固体の投与形、たとえば錠剤、粉末、ペースト、膣坐剤、糖衣錠、発泡錠剤または該組成物の懸濁剤の形でも、あるいはまたフォームの形で存在していてもよい。組成物のpH値は、適切な試薬、たとえば酸、たとえばHClまたは塩基、たとえばNaOHの添加によって、有利には4〜7の範囲、特に有利には5〜6および最も有利には5.5〜6の範囲に調整する。その際、pH値の測定は有利には滴定によって1:9の希釈ゲルを用いて1.0%のKNO3溶液中で行う。
【0029】
組成物の粘度は有利には1〜40Pa・sの範囲、特に有利には10〜18Pa・sの範囲である。その際、粘度の決定は有利には回転粘度計、回転数シリーズN、グレード4、センサーSV DIN、時間60秒、20℃で20回転/分で行う。あるいは粘度の測定をブルックフィールドのRVT粘度計を用いて0.05〜100回転/分の軸の回転速度で行うこともできる。
【0030】
該組成物の導電性は有利には4〜25mS・cm-1の範囲、特に有利には8〜12mS・cm-1の範囲であり、その際、測定は導電性測定装置、たとえばKnick社のKonduktor702を用いて、DIN61326/A1/VDE0843パート20/A1により行う。
【0031】
該組成物は有利にはチキソトロープおよび/または構造粘性の特性を有しており、その際、粘度はピストン応力および/またはせん断速度の増加の影響下で低下する。さらに該組成物は有利には高い初期ピストン応力および/または偽塑性特性を有する、つまり組成物の付着力はせん断負荷の増加の影響下に低減する。
【0032】
該組成物は、滅菌された形で存在していてもよく、その際、たとえば蒸気滅菌および/または照射による、たとえばγ線の照射による滅菌が可能である。しかし該組成物は同様に、滅菌されていない形で使用するか、かつ/または保存剤および/または殺生物剤を含有していてもよい。
【0033】
組成物の製造は有利には以下の工程を含む:
(i)ポリアクリル酸(a)と水(d)とからなる第一の混合物を、場合により毒性をたとえばNaClの添加により、および/またはpH値を塩基、たとえばNaOHの添加により調整しながら製造する工程、その際、第一の混合物は有利にはゲルとして存在している、
(ii)水溶性の増粘剤(b)、保湿剤(c)および水(d)からなる第二の混合物を製造する工程、その際、第二の混合物は有利にはゲルとして存在している、
(iii)両方の混合物を合する工程、
(iv)場合により均質化する工程および
(v)場合により滅菌する工程。
【0034】
本方法または本方法の個々の工程は、該組成物に関して想定される製剤形とは無関係に、もしくは場合により存在する添加剤とは無関係に変更することができる。従ってたとえば水および/または保湿剤は、方法において少なくとも部分的に除去するか、かつ/または添加することができる。
【0035】
有利には組成物は包装された投与単位として、5〜500mlの体積で、特に有利には包装された投与単位で10〜20mlの体積で存在している。その際、該組成物は有利にはたとえば缶、注射器、たとえば使い捨て注射器、またはチューブの形に包装して、または膣坐剤として適用することができる。さらに経膣アプリケータを使用することができる。缶を使用する場合、該組成物は指またはスパチュラで産道表面に適用することができる。有利にはチューブまたは注射器であり、これらから該組成物は圧力によって産道の表面に投与することができる。包装の大きさは、組成物の量が1回の投与で十分であるような量を選択することができる。チューブまたは注射器は、実質的に産道の長さに相応する延長部分を有していてもよく、その端部に組成物のための出口が設置されている。該出口は有利には、組成物が完全に、かつほぼ均一に産道表面に分布することができるように、たとえば円形のスリット開口部として構成されている。
【0036】
本発明により使用される組成物の適用は、規則的な陣痛の開始前に、開口期に、および/または娩出期に該組成物を施与する場合に、容易かつ効果的である。適用は1回もしくは複数回行うことができる。開口期の直前または開口期に適用することは、産道の組織が軟化し、このことにより分娩が付加的に容易になるという利点を提供することができる。同様に、該組成物は胎盤の剥離を容易にするために使用することもできる。
【0037】
有利な実施態様では、該組成物はさらに、医薬として特定の、分娩の際に生じる適用のために役立つ1以上の医薬作用物質、たとえば分娩を防止する薬物または分娩を促進する薬物、痛みを軽減する薬物および/または感染を防止する薬物を含有していてもよい。医薬組成物の量は組成物の全質量に対して、たとえば0.0001〜50質量%、有利には0.01〜10質量%および特に有利には0.01〜5質量%であってよい。
【0038】
分娩を誘発する物質のためのいくつかの例は、オキシトシン、ジノプロストン、スルプロストン、ミソプロストールおよびヒアルロニダーゼである。
【0039】
分娩を防止する物質のためのいくつかの例は、コンドロイチン硫酸、ヘキソプレナリン、フェノテロール、硫酸マグネシウム、アトシバン、カルシウムアンタゴニストおよびニトログリセリンである。
【0040】
痛みを鎮める物質のためのいくつかの例は、ブピバカイン、カルボステシン、リドカイン、メピバカイン、ラピドカイン、スカンジカイン、ソラルカインおよびキシレシンである。
【0041】
抗感染症薬もしくは殺生物物質のためのいくつかの例は、抗菌性および/または抗微生物性および/または抗ウイルス性の物質、たとえば第4級アンモニウム化合物、クロロヘキシジン、ポビドンヨウ素およびヨウ素ならびにヨウ素含有化合物である。
【0042】
特に有利であるのは、たとえばヘルペスまたはHIVの母子感染を防止する抗ウイルス物質、たとえばヌクレオシド類似体、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤の混合である。
【0043】
同様に特に有利であるのは、たとえば連鎖球菌、たとえばB型連鎖球菌の母子感染を防止するための抗菌性物質、たとえばクロロヘキシジンの混合である。
【0044】
分娩後の新生児の呼吸能力を容易にすることができる肺界面活性物質(pulmonalen Surfactants)、たとえばコルフォスケリルパルミテート、ルシナクタント、ベラクタント、ホスホリピダ・プルモネ・スイス、過フルオロカルボンの混合もまた有利であることが判明した。
【0045】
該組成物は特に経膣の人の分娩を容易にするため、および/または胎盤の剥離を容易にするための潤滑剤として適切である。該組成物は規則的な陣痛の開始前に、および/または開始後に必要に応じて1回または複数回適用することができる。適用は有利には子宮口を含めた産道に行う。羊膜内適用も同様に有利でありうる。
【0046】
組成物を適用することによりヒトの分娩が著しく容易になり、かつ特に初産婦の場合に、出産の前および/または出産中に子宮口の壁および/または膣(産道)を潤滑剤で被覆する場合に、時間を短縮することさえ可能である。その際、開口期においても、娩出期においても、産道と分娩される対象との間の摩擦力を著しく低減することができる。さらに、損傷(たとえば軟部組織の付属管の延長、骨盤底の損傷、膣の亀裂、会陰損傷、直腸の損傷、子宮破裂、血液の損失)の危険を低減するか、または排除することができ、かつ長期的な損傷、たとえば尿失禁、便失禁、性機能障害および精神医学的な障害を制限するか、または防止することができる。さらに摩擦がわずかであることによって、分娩作業を低減することができ、このことは膣の手術による介入または帝王切開の防止または低減につながりうる。本発明による潤滑剤によって手作業での胎盤のはく離も容易になりうる。
【0047】
有利には適用前に滅菌条件を維持しながら分娩ゲルを包装から取り出す。次いで分娩過程でゲルを1回もしくは複数回、児頭が出るまで手またはその他の補助手段を使用して、間欠的に産道に適用する。その際、この目的は潤滑ゲルで産道をできる限り完全に覆うことである。児頭が出てきたら、胎児の顔についているゲルを布でぬぐい取り、場合により口鼻領域をさらに吸引することができる。理想的には、子供が手から滑り落ちないように、布を用いて子供を取り出す。
【0048】
子供の分娩後および/または胎盤の娩出後に、産道を無菌液で、有利には緩和な水性の無菌塩溶液で洗浄し、これによって潤滑ゲルを除去する。これは会陰または産道の損傷の処置の間に、または該処置とは無関係に行うことができる。場合により潤滑ゲルを付加的に胎盤の分娩を容易にするために、または胎盤を手作業ではく離するために使用することができる。骨盤端位の分娩誘導の際にも同様に、かつ適合させて実施する。
【0049】
本発明をさらに以下の実施例により詳細に説明する:
【実施例】
【0050】
A 調製物の例
調製物例1
塩化ナトリウム:4.95mg/g、
プロピレングリコール:200.00mg/g、
Carbopol(登録商標)940:4.85mg/g、
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250G):45.00mg/g、
精製水:745.20mg/g。
【0051】
調製物例2
塩化ナトリウム:4.95mg/g、
水酸化ナトリウム(5N):2.00mg/g、
プロピレングリコール:200.00mg/g、
Carbopol(登録商標)980NF:4.85mg/g、
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250G):45.00mg/g、
精製水:743.20mg/g。
【0052】
調製物例3
塩化ナトリウム:0.495%(m/m)、
プロピレングリコール:20.0%(m/m)、
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250M):2.5%(m/m)、
Carbopol980NF:0.485%(m/m)、
水酸化ナトリウム(5N):0.85%(m/m)、
精製水:75.67%(m/m)。
【0053】
調製物例4
塩化ナトリウム:4.95mg/g、
プロピレングリコール:200.00mg/g、
Noveon AA−1USP Polycarbophil:4.85mg/g、
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250G):45.00mg/g、
精製水:745.20mg/g。
【0054】
調製物例5
塩化ナトリウム:4.95mg/g、
水酸化ナトリウム(5N):2.00mg/g、
プロピレングリコール:200.00mg/g、
Noveon AA−1USP Polycarbophil:4.85mg/g、
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250G):45.00mg/g、
精製水:743.20mg/g。
【0055】
調製物例6
塩化ナトリウム:0.495%(m/m)、
プロピレングリコール:20.0%(m/m)、
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250M):2.5%(m/m)、
Naveon AA−1USP Polycarbophil:4.85mg/g、
水酸化ナトリウム(5N):0.85%(m/m)、
精製水:75.67%(m/m)。
【0056】
上記の例の生成物は、清澄でにおいの少ない、ほぼ無色透明の粘性ゲルであり、以下の特性を有している:
pH値:5.5〜6.0、
粘度:約10〜18Pa・s(回転粘度計)(Pa・s=Paxs)、
比重:1.032〜1.042g/cm3
導電性:8.0〜12.0mS・cm-1
屈折率nD20:1.361(1.26〜1.46)、
水結合能:高、
粘液接着性:高。
【0057】
pH値の測定:pH値は、適切なpH測定器を用いて滴定により測定する。その際、測定のためにゲルの10%の溶液を1.0%のKNO3溶液に添加する。
【0058】
粘度の測定:粘度は回転粘度計により測定される(装置および測定パラメータ:回転数シリーズN/グレード4/センサSV DIN/時間60秒/20回転/分)。全ての測定は20℃で行う。
【0059】
比重:比重の測定は、ピクノメーターを用いて、またはその他の、同様に適切な器具を用いて行う。計算は以下の式
δ20℃=m・0.99703+0.0012(g/cm3)δ
により行う。
【0060】
M=試験される液体の質量、空気中で秤量、
W=同一の体積の水の質量、空気中で秤量。
【0061】
両方の体積は20℃で測定しなくてはならない。
【0062】
導電性:導電性は、導電性測定装置を用いてDIN61326A1/VDE0843、パート20/A1により測定する。
【0063】
B 製造例
1000個の注射器にそれぞれ10gずつ包装するための10kgの製造
最初にホモジナイザー(Tornado ET21)中で塩化ナトリウム49.5gを水500g中に完全に溶解した。次いでポリアクリル酸(Carbopolum(登録商標)940)48.5gおよび水2000gを添加し、かつ撹拌下で5分間混合した。次いで撹拌下に10分間、pH値が5.5〜5.6に調整されるまで、10%のNaOH水溶液を添加した。こうして製造したゲル(混合物1)を、室温で加工するまで貯蔵した。
【0064】
攪拌容器中で、ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxyethylcellulosum H300p)450gを1,3−プロピレングリコール2000gに添加し、かつ懸濁させた。水4952gをホモジナイザー中に装入し、該懸濁液を添加し、かつ次いで10分間混合し、かつ均質化した。ゲル状の混合物(混合物2)を一夜(12時間)貯蔵した。該混合物2に、最初に製造した混合物1を添加し、かつ5分間均質化した。
【0065】
完成したゲルはわずかに乳白色で透明で、においがなく、5.5〜6.0のpH値を有していた。粘度は16000mPas(Haake社の回転粘度計(VT500型、回転数シリーズN、グレード4、センサーSV DIN、60秒、20回転/分、20℃))で測定)である。
【0066】
該ゲルを滅菌した充填装置に移し、かつ1000個の注射器にゲル10gを充填した。注射器の出口をキャップでふさぎ、次いでシート中に封入し、かつ次いで121℃で15分間滅菌し、即時使用可能な製品が得られた。
【0067】
C 適用例
例1:
ヒトにおける出産の際の開口期および娩出期を容易にするために潤滑剤の使用
8人の初産婦の集団において、本発明の潤滑ゲルを適用した。このために、通常どおりに潤滑ゲルを膣の試験のために使用するのみでなく、産道を間欠的に手作業で潤滑剤により覆った。このために必要とされる潤滑ゲルの量は、膣の試験のために使用する場合の10〜15倍であった。この試験集団において、平均的な分娩時間が、確立された標準値に対して顕著に短くなり、かつ女性は、潤滑剤を適用しなかった比較可能な初産婦よりも総じて容易に経膣分娩したことを確認することができた。総じて母と子の分娩トラウマはより少なかった。さらに、この試験集団において、膣の手術による分娩終了を実施する必要がなく、かつ産道の損傷、たとえば膣の亀裂は確認されなかった。
【0068】
例2:
胎盤のはく離を容易にするための潤滑剤の使用
産後に胎盤を保持している5人の患者の集団において、手作業による胎盤の剥離を容易にするために、潤滑剤を助産師の腕と産道に適用した。その際、手作業による胎盤の剥離がより容易に、かつ迅速に行うことができ、かつこのことによって血液の損失を低減することができた。
【0069】
生体適合性の試験
試験の実施
以下に記載する文献箇所に基づいて、本発明による調製物例2に関して生体適合性試験を実施した:
1."In Vitro Fertilization and Embryo Transfer" A Manual of Basic Techniques. Wolf, Don P.編、New York & London: Plenum Press、第5:Mouse Embryo Culture Bioassay、第57〜76頁、1988年。
2.ISO10993−12、2002、Biological Evaluation of Medical Devices - Part 12: Sample Preparation and Reference Materials。
3.ISO/IEC 17025、2005年、General Requirements for the Competence of Testing and Calibration Laboratories。
【0070】
この試験の枠内で、2細胞のマウスの胚を、陰性対照(最少培地(MEM))、陽性対照の抽出物(ラテックスチューブ)または調製物例2の抽出物を含有する微量滴定プレートの穴に導入した。それぞれの試験をそのつど10個の胚を用いて、2回実施で実施し、その際、胚を37±1℃の温度で72±2時間、培養器中に保持した。
【0071】
結果
72時間の曝露後、本発明による調製物2の抽出物に関して、陰性対照と比較して生存能力のあるマウス胚の数の顕著な低下は観察されなかったが、他方、陽性対照は、生存能力のあるマウス胚の数の明らかな低下を生じた。この試験結果を考慮して、本発明による調製物例2は、胚に対して毒性ではないと評価された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリアクリル酸、
(b)水溶性増粘剤および
(c)保湿剤および
(d)場合により水
を含有する、潤滑作用を有する組成物。
【請求項2】
成分(a)が、架橋した、および/または化学的に変性されたポリアクリル酸を含むことを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
成分(b)が、セルロース誘導体、特にヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび/またはムコ多糖類、特にヒアルロン酸を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
成分(c)が、プロピレングリコール、グリセリンおよび/またはポリエチレングリコールを含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
成分(a)が、組成物の全質量に対して0.1〜15%、有利には0.1〜10%の質量割合で存在していることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
成分(b)が、組成物の全質量に対して0.1〜30%、有利には1〜10%の質量割合で存在していることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
成分(c)が、組成物の全質量に対して0.1〜30%、有利には10〜30%の質量割合で存在していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
4〜7の範囲、有利には5.5〜6の範囲のpH値を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
1〜40Pa・s、有利には10〜18Pa・sの粘度を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
チキソトロープおよび/または構造粘性の特性を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
4〜25mS・cm-1、有利には8〜12mS・cm-1の導電性を有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
ほぼ等容量オスモル濃度を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
滅菌されていることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
保存剤を含有していないことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
ゲルの形で、固体の投与形として、懸濁剤として、またはフォームとして存在していることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
さらに少なくとも1種の医薬作用物質を含有していることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
ヒトの経膣分娩における潤滑剤としての、請求項1から16までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項18】
前記組成物を、規則的な陣痛の開始前および/または開始後に、1回または複数回適用することを特徴とする、請求項17記載の使用。
【請求項19】
前記組成物を産道中に、場合により子宮口および/または羊膜内を含めて適用することを特徴とする、請求項17または18記載の使用。
【請求項20】
胎盤のはく離を容易にするための潤滑剤としての請求項1から16までのいずれか1項記載の組成物の使用。

【公開番号】特開2013−100364(P2013−100364A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−35709(P2013−35709)
【出願日】平成25年2月26日(2013.2.26)
【分割の表示】特願2007−540579(P2007−540579)の分割
【原出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(507152464)エイチシービー ハッピー チャイルド バース ホールディング アクチエンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】HCB Happy Child Birth Holding AG
【住所又は居所原語表記】Dufourstrasse 5, CH−4052 Basel, Switzerland
【Fターム(参考)】