説明

ヒトの感覚判定方法及びその判定装置

【課題】ヒトの感覚を3クラス以上に直接的に判定されうる方法の提供。
【解決手段】感覚判定装置2は、ヒトの脳波を計測する脳波計4と、演算部14と、CMAC分類器20とを備えている。演算部14は、上記脳波の周波数解析、この周波数解析の結果に基づく上記脳波の特徴値の決定、CMAC分類器20から得られる出力値に対応する客観評価の決定を行うように構成されている。CMAC分類器20は、脳波から得られる特徴値からCMACによる出力値を得るように構成されている。上記脳波の特徴値の決定では、解析された全周波数から周波数を抽出するステップ、抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、算出された特徴値による正答率を評価するステップ、正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ及びこの決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波に基づいてヒトの感覚を判定する方法及びその方法を用いた判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の開発段階で、ヒトによる官能評価が行われている。心拍、呼吸、筋電位、眼球運動、瞬き、脳波等の、ヒトの生体情報に基づいて、このヒトの感覚を評価する手法が、種々提案されている。特開2004−138814公報には、心電図信号によってヒトの感性を評価する方法が開示されている。特開2002−577公報には、脳波の解析によってヒトの精神状態を評価する方法が開示されている。これら方法で判定されるのは、喜怒哀楽等の感情や、快適度である。
【特許文献1】特開2004−138814公報
【特許文献2】特開2002−577公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明者らは、ヒトの感覚が客観的に判定されうる方法を、特願2008−334006及び特願2009ー196810に提案している。これらの方法では、測定された脳波信号を基にヒトの感覚が判定されている。これらの方法では、生体情報を適切に選定して、客観的なデータが得られている。これにより、客観的な評価が得られている。
【0004】
これらの方法では、ヒトの感覚を2クラスに分類している。この2クラスは、例えば、「好む」と「好まない」の2クラスである。この方法では、3クラス以上の分類は、2クラスの分類を複数回繰り返して行う必要がある。この方法では、3クラス以上の分類が直接的にできない。
【0005】
本発明の目的は、ヒトの感覚を3クラス以上に直接的に判定されうる方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るヒトの感覚判定方法は、
(1)刺激が与えられているヒトの脳波が、脳波計で計測されるステップ、
(2)上記脳波の周波数解析を行うステップ、
(3)上記周波数解析の結果に基づいて上記脳波の特徴値を決定するステップ、
(4)上記特徴値に基づく入力値からCMACによる出力値が得られるステップ
及び
(5)上記出力値に対応する客観評価を決定するステップ
を含む。
上記特徴値の決定(3)は、
(3−1)解析した全周波数から周波数が抽出されるステップ、
(3−2)抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、
(3−3)算出された特徴値による正答率を評価するステップ、
(3−4)正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ
及び
(3−5)この決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップ
を含む。
【0007】
好ましくは、上記客観評価を決定するステップでは、3クラス以上の客観的評価から、上記出力値に対応して定められる客観的評価を決定している。
【0008】
好ましくは、上記正答率の評価(3−3)は、周波数から得られる特徴値データと主観評価データとに基づいてなされる。
【0009】
好ましくは、この方法では、上記周波数の抽出(3−1)及び周波数の決定(3−4)は、粒子群最適化(PSO)を用いてされる。
【0010】
好ましくは、この方法では、上記特徴値の決定(3)は、刺激が与えられる前のヒトの脳波の周波数解析の結果と、刺激が与えられているヒトの脳波の周波数解析の結果との対比に基づいてなされる。
【0011】
好ましくは、この方法では、上記特徴値の決定(3)が、周波数解析によって得られたパワースペクトルから算出される値の最大値、最小値、平均値、バラツキ若しくは変化率又はこれらのうちの2以上の組み合わせに基づいてなされる。
【0012】
好ましくは、この方法では、上記特徴値に基づき、刺激から得られるヒトの反応又は行動が予測されるステップをさらに含む。
【0013】
本発明に係るヒトの感覚判定装置は、ヒトの脳波を計測する脳波計と、演算部と、CMAC分類器とを備えている。
この演算部は、上記脳波の周波数解析と、この周波数解析の結果に基づく上記脳波の特徴値の決定と、CMAC分類器から得られる出力値に対応する客観評価の決定とを行うように構成されている。このCMAC分類器は、特徴値に基づく入力値からCMACによる出力値を得るように構成されている。
上記脳波の特徴値の決定では、
解析された全周波数から周波数を抽出するステップ、
抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、
算出された特徴値による正答率を評価するステップ、
正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ、
及び
この決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップ
を含む。
【0014】
本発明に係る製品評価方法は、
製品を使用しているヒトの脳波が、脳波計で計測されるステップ、
上記脳波の周波数解析を行うステップ、
上記周波数解析の結果に基づいて上記脳波の特徴値を決定するステップ
上記特徴値に基づく入力値からCMACによる出力値が得られるステップ
及び
上記出力値に対応する客観評価を決定するステップ
を含む。
上記脳波の特徴値の決定では、
解析された全周波数から周波数を抽出するステップ、
抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、
算出された特徴値による正答率を評価するステップ、
正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ、
及び
この決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップ
を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る感覚判定方法では、脳波の周波数解析によって得られた特徴値から、ヒトの感覚が、適切に3以上の複数のクラスに分類しうる。この方法では、生体情報を適切に選定して、客観的な評価が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る感覚判定装置が示されたブロック図である。
【図2】図2は、図1の装置が用いられた感覚判定方法が示されたフローチャートである。
【図3】図3は、図1の装置を構成するCMAC分類器の構成が示された説明図である。
【図4】図4は、図2の方法の周波数解析によって得られたパワースペクトルが示されたグラフである。
【図5】図5は、図3の方法の特徴値の決定方法が示されたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1に示されるように、この感覚判定装置としての装置2は、脳波計4、フィルタ6、変換器8、アンプ10、保存部12、演算部14、モニタ16、記憶部17、入力部18及びCMAC分類器20を備えている。
【0019】
図2には、図1の装置2が用いられた感覚判定方法が示されている。この方法では、まず脳波計4によって脳波が計測される(STEP1)。計測により、アナログ信号が得られる。この信号は、フィルタ6を通される。フィルタ6により、信号からノイズが除去される(STEP2)。この信号は変換器8に送られ、デジタル信号に変換される(STEP3)。この信号はアンプ10に送られ、増幅される(STEP4)。この信号は、保存部12に保存される(STEP5)。計測(STEP1)から保存(STEP5)までが、複数回繰り返されてもよい。
【0020】
演算部14は、保存部12から脳波信号を取り出し、脳波の周波数解析を行う(STEP6)。周波数解析が、時間単位毎に複数回繰り返されてもよい。演算部14は、周波数解析の結果に基づき、上記脳波の特徴値を決定する(STEP7)。この特徴値に基づく入力値がCMAC分類器20に入力される。CMAC分類器20は、出力値を算出する(STEP8)。この出力値が演算部14に出力される。演算部14は、この出力値に基づいて客観評価を決定する(STEP9)。これらのステップにより、ヒトの感覚が判定される。フィルタ6が設けられず、演算部14によって信号からノイズが除去されてもよい。
【0021】
このCMAC分類器20は、教師有り学習を行う一種の識別器である。CMACとは、Cerebeller Model Arithmetic Computer の略であり、ヒトの小脳を模擬した数学的モデルである。
【0022】
以下、ゴルフクラブのグリップを触ったときの被験者(ヒト)の感覚が、図1に示された装置2によって判定される手順が、詳説される。この感覚判定方法により、グリップの評価もなされる。被験者がグリップを触ることは、本発明に言う「製品の使用」に該当する。
【0023】
この判定方法では、CMAC分類器20が用いられている。このCMAC分類器20に、入力値(X、Y)が入力される。この入力値(X、Y)に対して、出力値Pが出力される。演算部14は、この出力値Pに基づいて、複数のクラスからその出力値Pが属するクラスを決定する。この客観的評価を3以上の複数のクラスに区分して、それぞれに対応する出力値Pの範囲が定められている。これにより、例えば、ヒトの感覚が、「好き」、「どちらでもない」及び「嫌い」のように、3以上の複数のクラスに分類されうる。この様にして、客観的評価が決定される。
【0024】
図3に、CMAC分類器20の構成が模式的に示されている。このCMAC分類器20は、量子化器M及び荷重表Wを有する。このCMAC分類器20に、入力値としての入力ベクトルSが与えられる。この入力ベクトルSが、複数の量子化器Mにそれぞれ入力される。量子化器M1とM2が図示されているが、このCMAC分類器20は、例えばM1からM10の10個の量子化器Mを備えている。
【0025】
このCMAC分類器20は、予め、入力値と出力値との学習データを与えられて学習させられている。このCMAC分類器20は、学習により、この判定に適した構成にされている。
【0026】
ここで、CMAC分類器20の学習方法が説明される。CMAC分類器20に、入力値(X、Y)が与えられる。この入力値(X、Y)は、被験者の特徴値データ(X(n)、Y(n))に基づいて算出される。出力値Pの教師値dとしての評価データd(m)が与えられる。この特徴値データ(X(n)、Y(n))と評価データd(m)とは、多数のヒトを様々なグリップに触れさせることで得られたものである。
【0027】
例えば、被験者7名が6種類のグリップG1からG6をそれぞれ10回握ることで、学習データが得られる。この学習データでは、特徴値データ(X(n)、Y(n))は、θ波の周波数帯域に基づく特徴値データ(X(θ)、Y(θ))である。この特徴値データ(X(θ)、Y(θ))については、後に詳述される。
【0028】
評価データd(m)は被験者の主観評価から得られる。ここでは、グリップG1からG6を6段階に順位付けして評価データが与えられている。この6段階の順位付けは、7名の被験者のそれぞれの主観評価を平均して順位付けされている。6種類のグリップには、それぞれ対応する評価データd(1)からd(6)のいずれかが与えられる。学習データは、この評価データd(1)からd(6)と、その評価データが得られたときの特徴値データ(X(θ)、Y(θ))との組み合わせである。グリップG1からG6それぞれの学習データ数は、70である。
【0029】
この量子化器Mは、複数の区分空間mに分割されている。区分空間mは、アドレス(XA、YA)が設定されている。ここでは、この変数XA及び変数YAは、それぞれAからDで与えられている。アドレス(XA、YA)は、量子化器M毎にずれて異なっている。図3の量子化器M1では、入力値(X、Y)としてベクトル(3、4)が与えられている。これにより、アドレス(B、C)が与えられる。量子化器M2では、ベクトル(3、4)に対応してアドレス(C、C)が与えられる。同様にして、量子化器M3からM10では、それぞれアドレス(XA、YA)が与えられる。
【0030】
量子化器M1で与えられたアドレス(B、C)に対応して、荷重表Wにより、荷重値w1として、0.50が得られる。量子化器M2で与えられたアドレス(C、C)に対応して、荷重値w2として、1.00が得られる。同様にして、量子化器M3からM10で与えられたアドレス(XA、YA)に対応して、荷重表Wにより、荷重値w3からw10が得られる。この荷重値w1からw10の総和が出力値Pとして得られる。
【0031】
この入力値(X、Y)と、評価データd(m)(mは、1から6の自然数)とがこのCMAC分類器20に与えられる。CMAC分類器20は、次式により学習量δを算出する。
δ = (μ・(d(m)−P))/K
μは修正係数であり、ここでは0.10とされた。Kは量子化器数であり、ここでは10とされた。このμ及びKは、正答率が高くなるように、シミュレーションを繰り返して決定されている。
【0032】
この学習量δにより、荷重表Wの荷重値wが以下の式で更新される。
w = w + δ
この荷重表Wの全ての荷重値wが更新される。
【0033】
グリップG1からG6の入力値(X、Y)と評価データd(m)とが、順次与えられて荷重表Wが更新される。入力値(X、Y)と評価データd(1)からd(6)とによる荷重表Wの更新を1回として、所定の回数の更新が繰り返される。ここでは、10回の更新がされた。このようにして、CMAC分類器20の学習がされている。
【0034】
CMAC分類器20の更新回数は10回としたが、10回より少なくてもよいし多くしてもよい。この入力値として2次元の入力値(X、Y)を例示して説明がされたが、3次元の入力値(X、Y、Z)や4次元以上の高次元の入力値が用いられてもよい。
【0035】
入力値(X、Y)は、特徴値データ(X(θ)、Y(θ))から算出されている。特徴値データ(X(θ)、Y(θ))は、9Hzから11Hzの周波帯域のθ波から得られている。特徴値データ(X(θ)、Y(θ))の算出方法及び周波数帯域の選定方法には、粒子群最適化(以下、PSOという)が用いられる。
【0036】
ここで、入力値(X、Y)の算出方法、特徴値データ(X(θ)、Y(θ))の算出方法が及び周波数帯域の選定方法が説明される。
【0037】
この脳波計測には、既知の脳波計4が用いられる。好ましい脳波計4としては、TEAC社の商品名「PolymateII」及び能力開発研究所の商品名「Brain Builder Unit」が例示される。
【0038】
この脳波計4の電極が、被験者の頭皮に取り付けられる。1つの基準電極が、耳朶に取り付けられる。一般的な脳波計測では、多数の電極が頭皮に取り付けられる。多数の電極の取り付けは、被験者にストレスを与える。多数の電極の取付は、脳波の正確な計測を阻害する。動作時(例えばゴルフのスイング時)の脳波の測定では、多数の電極及び多数のケーブルが動作の妨げにもなる。正確な計測の観点から、頭皮に取り付けられる電極の数は少ないほど好ましい。計測された脳波の解析の容易の観点からも、頭皮に取り付けられる電極の数は少ないほど好ましい。頭皮に取り付けられる電極の数は、1つが好ましい。好ましくは、国際10−20法に定められたFp1又はFp2に、電極が取り付けられる。ここでは、国際10−20法に定められたFp1に、電極が取り付けられる。本発明者の得た知見によれば、Fp1及びFp2では、本発明に係る判定方法にとって十分な脳波が発生する。Fp1及びFp2には毛髪がないので、電極の取付は容易である。
【0039】
電極が取り付けられた被験者は椅子に着座し、目を閉じて安静状態を保つ。この状態が、30秒以上継続される。この被験者にゴルフクラブのグリップG1が手渡される。この被験者は、目を閉じたまま、グリップG1を触る。その後に、グリップG1が回収される。同様にして、この被験者は、グリップG2からグリップG6までをを触る。
【0040】
被験者からグリップG1からG6の主観的評価が聞き取られる。この主観的評価が数値化される。この数値化された主観的評価が評価データd(1)からd(6)である。この評価データd(1)からd(6)は、数値化されて順位付けされている。この評価データd(1)からd(6)は、記憶部17に保存される。
【0041】
グリップが手渡されたときの時刻がr秒であるとき、(r−30)秒からr秒までの30秒間、脳波計4によって脳波が計測される。この脳波は、以下、「前段階脳波」と称される。前段階脳波の信号は、フィルタ6を通される。このフィルタ6は、ローパス機能及びハイパス機能を備えている。フィルタ6は、信号からノイズを除去する。脳波の測定において典型的なノイズは、筋電によるアーチファクトである。このアーチファクトが、信号から除去される。この信号は、変換器8に送られる。変換器8は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。この信号は、アンプ10に送られる。アンプ10は、信号を増幅する。この信号は、保存部12に保存される。
【0042】
グリップを握った被験者が安静状態になったときの時刻がq秒であるとき、q秒から(q+30)秒までの30秒間でも、脳波計4によって脳波が計測される。この脳波は、以下、「中段階脳波」と称される。中段階脳波の信号は、フィルタ6を通される。このフィルタ6により、信号からノイズ(典型的にはアーチファクト)が除去される。この信号は変換器8に送られ、デジタル信号に変換される。この信号はアンプ10に送られ、増幅される。この信号は、保存部12に保存される。
【0043】
図1の演算部14が、前段階脳波の周波数解析を行う。周波数解析では、脳波からFFT(高速フーリエ変換)によってパワースペクトルが得られる。この実施形態では、θ波、slowα波、midα波、fastα波及びβ波についての周波数解析がなされる。θ波の周波数帯域は、4Hzから6Hzである。slowα波の周波数帯域は、7Hzから8Hzである。midα波の周波数帯域は、9Hzから11Hzである。fastα波の周波数帯域は、12Hzから14Hzである。β波の周波数帯域は、15Hzから22Hzである。ここでは、周波数帯域により特徴値データ(X(θ)、Y(θ))が算出されるが、周波数として周波数帯域を用いた例示であり、例えば、4から22Hzの周波数単位により特徴値が算出されてもよい。
【0044】
図4は、図2の方法の周波数解析によって得られたパワースペクトルが例示されたグラフである。図4に示されるように、この周波数解析により、θ波、slowα波、midα波、fastα波及びβ波について周波数帯域毎に、パワー値が得られる。
【0045】
前段階脳波の測定は、(r−30)秒からr秒まででなされる。この前段階脳波から、1秒間隔で信号が抽出され、周波数解析がなされる。周波数解析により、θ波のパワー値が30得られる。これら30のパワー値からθ波の前段階平均値xa(θ)及び前段階標準偏差σa(θ)が算出される。
【0046】
中段階脳波の測定は、q秒から(q+30)秒まででなされる。この中段階脳波から、1秒間隔で信号が抽出され、周波数解析がなされる。周波数解析により、θ波のパワー値が30得られる。これら30のパワー値からθ波の中段階平均値xb(θ)及び中段階標準偏差σb(θ)が算出される。
【0047】
演算部14は、この前段階平均値xa(θ)及び中段階平均値xb(θ)から平均値の差x(θ)を算出する。前段階標準偏差σa(θ)及び中段階標準偏差σb(θ)から標準偏差の差σ(θ)を算出する。この平均値の差x(θ)及び標準偏差の差σ(θ)は、次式で求められる。
(θ) = xb(θ) − xa(θ)
σ(θ) = σb(θ) − σa(θ)
【0048】
このようにして求められた、(x(θ)、σ(θ))が、特徴値データ(X(θ)、Y(θ))である。この特徴値データ(X(θ)、Y(θ))は、2次元の位置ベクトルとして得られる。このθ波と同様にして、slowα波、midα波、fastα波及びβ波についても、特徴値データ(X(n)、Y(n))が求められる(nは、α、slowα、midα、fastα、βのいずれか)。
【0049】
求められた特徴値データ(X(n)、Y(n))は、以下の式でそれぞれ変換される。この変換により、入力値(X、Y)が得られる。
X = ((X(n)−X(n)min)/(X(n)max−X(n)min))・7
Y = ((Y(n)−Y(n)min)/(Y(n)max−Y(n)min))・7
(n)min:θ波からβ波の全てのX(n)のうちの最小値
(n)max:θ波からβ波の全てのX(n)のうちの最大値
(n)min:θ波からβ波の全てのY(n)のうちの最小値
(n)max:θ波からβ波の全てのY(n)のうちの最大値
ここでは、図3に示されるように、量子化器は、X方向及びY方向に7分割されている。このため、上記入力値(X、Y)を求める式では、7との積が求められている。上記入力値(X、Y)を求める式では、量子化器のX方向及びY方向にt分割されているとき(tは自然数)、7に代えてtとの積が求められる。
【0050】
図5には、特徴値を決定する方法が示されている。この特徴値の決定に伴って、周波数帯域の選定がされている。この図5を参照しつつ、この特徴値の決定、周波数帯域の選定の方法が説明される。なお、この周波数帯域の選定には、周波数帯域の組み合わせが選定されることが含まれる。
【0051】
周波数帯域の選定では、PSOが用いられている。演算部14は、任意の数の粒子群を生成する。表1は、生成された粒子群を模式的に示したものである。ここでは、5つの粒子1から5からなる粒子群が生成されている。この粒子1から5は、θ波、slowα波、midα波、fastα波及びβ波の各周波数帯域に対応した実数値を有している。この実数値は、0から1.00までの実数が乱数として与えられる。ここでは、5つの粒子が生成されたものを例示しているが、これより少ない粒子が生成されても良いし、これより多い粒子が生成されてもよい。
【0052】
【表1】

【0053】
実数値が最大である周波数帯域が抽出される。複数の周波数帯域の組み合わせを抽出する場合には、例えば、実数値が0.50以上の周波数により構成される周波数の組み合わせが抽出されてもよい。表1の粒子1では、最大の周波数帯域は、θ波である。粒子1では、周波数帯域として、このθ波が抽出される。
【0054】
周波数解析の結果から、θ波の周波数帯域の前段階平均値xa(θ)、前段階標準偏差σa(θ)、中段階平均値xb(θ)及び中段階標準偏差σb(θ)が算出される。これらのデータからθ波の特徴値データ(X(θ)、Y(θ))が算出される。特徴値データ(X(θ)、Y(θ))から入力値(X、Y)が算出される。
【0055】
グリップG1では、入力値(X、Y)と教師値dとしての評価データd(1)とが得られる。同様にして、グリップG2からG6でも、入力値(X、Y)と評価データd(2)からd(6)とが得られる。これらの入力値(X、Y)と教師値dがCMAC分類器20に与えられる。CMAC分類器20が学習をする。
【0056】
この装置2の記憶部17は、試験データを記憶している。この試験データは、前述の学習データと別に同様の方法で得られている。ここでは、被験者7名が6種類のグリップをそれぞれ10回握ることで、得られている。
【0057】
演算部14は、学習をしたCMAC分類器20に、試験データの特徴値データ(X(θ)、Y(θ))に基づく入力値(X、Y)を与える。これにより、CMAC分類器20から出力値Pを得る。この出力値Pに基づいて、6段階の客観的評価データを算出する。
【0058】
演算部14は、試験データの主観評価データと得られた客観評価データとから、正答率を算出する。主観評価データに基づく6段階評価のクラスに、客観的評価データに基づく6段階評価のクラスが一致するか否かが判定される。正答率とは、両者のクラスが一致した割合である。ここでは、正答率として、次式に示す評価関数Fを算出する。
F=(評価データに基づくクラスが一致した数)/(試験データ数)
この評価関数Fが記憶部17に記録される。
【0059】
同様にして、粒子2から5について、周波数帯域が抽出される。この抽出された周波数帯域により、入力値(X、Y)が算出される。入力値(X、Y)と教師値dとしての評価データd(1)からd(6)とがCMAC分類器20に与えられ、CMAC分類器20が学習をする。演算部14は、学習をしたCMAC分類器20に、試験データの特徴値データ(X(θ)、Y(θ))を与える。演算部14は、評価関数Fを算出する。この評価関数Fが、記憶部17に記録される。
【0060】
全ての粒子について評価関数Fが算出されると、粒子群の粒子を更新する。演算部14は、粒子1から5の評価関数のうち、最良解Pb(t)を特定する。最良解Pb(t)は、最も評価関数の大きい粒子である。例えば、粒子1の評価関数が最も大きい場合、粒子1がこの粒子群の最良解Pb(1)として、記憶部17に記憶される。
【0061】
粒子1から5では、各粒子の位置ベクトル及び速度ベクトルが、次式で更新される。
i(t+1)=qVi(t)+c11(Pb(t)−Xi(t))+c22(Pg(t)−Xi(t))
i(t+1)=Xi(t)+Vi(t+1)
i :粒子のインデックス
i(t):t回目の繰り返しにおけるi番目の粒子の位置ベクトル
i(t):t回目の繰り返しにおけるi番目の粒子の速度ベクトル
q:速度に対する重み係数(正の値)
1及びc2 :重み係数
1及びr2 :0から1.00までの乱数
b(t):t回目の繰り返しにおける粒子群の最良解(位置ベクトル)
g(t):t回目の繰り返しにおける探索開始からの最良解(位置ベクトル)
ここで、重み係数q、c1及びc2 は、反復シミュレーションを行い、経験的に良好な分類結果を取得できるパラメータ値を検出し、決定される。ここでは、qは0.10とされ、c1は0.50とされ、c2は0.50とされた。
このようにして、更新された粒子1から5の位置ベクトルXi(t+1)に基づき、表1に示された、粒子1から5は、θ波、slowα波、midα波、fastα波及びβ波の周波数帯域毎に対応した実数値が更新され、新たな粒子群に更新される。
【0062】
この更新された粒子群について、前述の生成された粒子群と同様に、粒子1から5のそれぞれについて、周波数が抽出される。この抽出された周波数帯域により、特徴値データ(X(n)、Y(n))が算出される。特徴値データ(X(n)、Y(n))に基づく入力値(X、Y)と教師値dとしての評価データd(m)とがCMAC分類器20に与えられる。CMAC分類器20が学習をする。演算部14は、学習をしたCMAC分類器20に、試験データの特徴値データ(X(n)、Y(n))に基づく入力値(X、Y)を与える。演算部14は、評価関数Fを算出する。この評価関数Fが、記憶部17に記録される。そして、この更新された粒子群の最良解Pb(2)が特定される。例えば、このようにして、更新された粒子群において、粒子3が最良解Pb(2)として特定される。
【0063】
最初の粒子群の最良解Pb(1)である粒子1の評価関数と、この更新後の粒子群の最良解Pb(2)である粒子3の評価関数とが比較される。最良解Pb(1)と最良解Pb(2)とで、評価関数が大きいほうが、探索開始からの最良解Pg(2)として特定される。例えば、最良解Pb(2)が最良解Pb(1)より大きいと、この粒子3は、この群の最良解Pb(2)であり、かつ探索開始からの最良解Pg(2)でもある。
【0064】
この最良解Pb(2)及び最良解Pg(2)により、前述の粒子群の位置ベクトルXi(t)及び速度ベクトルVi(t)が更新される。この更新された粒子群により、同様に、周波数帯域の抽出から次の粒子群の更新までステップが繰り返される。この繰り返しが所定の回数繰り返される。例えば、この繰り返しが10回に達すると、この粒子群の更新が終了する。
【0065】
この10回の繰り返しで、最良解Pg(10) が得られる。この最良解Pg(10)の粒子の周波数が選定した周波数帯域として決定される。例えば、この様にして周波数帯域として、θ波が決定される。この周波数帯域のθ波に対応して、特徴値データ(X(θ)、Y(θ))が特徴値に決定される。CMAC分類器20は、この最良解Pg(10)のときの構成にされる。
【0066】
ここでは、粒子の更新回数が10回とされた。この10回の繰り返しにより、最も評価関数の大きい周波数帯域又は周波数帯域の組み合わせが探索される。この周波数帯域の組み合わせの探索には、PSOが用いられている。これにより、最適な周波数帯域又は周波数帯域の組み合わせの探索が可能となっている。この探索は高速に行うことができる。この探索はシンプルなアルゴリズムで演算部14に実装可能である。ここでは、10回の繰り返しとしたが、この繰り返し回数は予め定めておけばよく、10回より多くても良いし、少なくてもよい。
【0067】
本発明では、CMACを用いることで、一度の評価で3以上の多数のクラスに客観的評価を分類しうる。例えば、ヒトの感覚が、「好き」、「どちらでもない」及び「嫌い」のように3以上のクラスに分類されうる。更に、粒子群最適化(PSO)を用いることにより、判定に最適な周波数の探索が可能になっている。この最適な周波数の探索を高速に行うことができる。最適な周波数の探索をシンプルなアルゴリズムで実装し得る。この方法によれば、ヒトの主観が、より高い精度で判定されうる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る方法により、ゴルフボールの打球感、靴の履き心地、手袋の着用感、ウエアの着用感等が判定されうる。
【符号の説明】
【0069】
2・・・装置
4・・・脳波計
6・・・フィルタ
8・・・変換器
10・・・アンプ
12・・・保存部
14・・・演算部
16・・・モニタ
17・・・記憶部
18・・・入力部
20・・・CMAC分類器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)刺激が与えられているヒトの脳波が、脳波計で計測されるステップ、
(2)上記脳波の周波数解析を行うステップ、
(3)上記周波数解析の結果に基づいて上記脳波の特徴値を決定するステップ
(4)上記特徴値に基づく入力値からCMACによる出力値が得られるステップ
及び
(5)上記出力値に対応する客観評価を決定するステップ
を含み、
上記特徴値の決定(3)が、
(3−1)解析した全周波数から周波数が抽出されるステップ、
(3−2)抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、
(3−3)算出された特徴値による正答率を評価するステップ、
(3−4)正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ
及び
(3−5)この決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップ
を含むヒトの感覚判定方法。
【請求項2】
上記客観評価を決定するステップでは、
3クラス以上の客観的評価から、この出力値に対応して定められている客観的評価を決定している請求項1に記載のヒトの感覚判定方法。
【請求項3】
上記正答率の評価(3−3)が、周波数から得られる特徴値データと主観評価データとに基づいてなされる請求項1又は2に記載の感覚判定方法。
【請求項4】
上記周波数の抽出(3−1)及び周波数の決定(3−4)が粒子群最適化(PSO)を用いてされる請求項1から3のいずれかに記載の感覚判定方法。
【請求項5】
上記特徴値の決定(3)が、刺激が与えられる前のヒトの脳波の周波数解析の結果と、刺激が与えられているヒトの脳波の周波数解析の結果との対比に基づいてなされる請求項1から4のいずれかに記載の感覚判定方法。
【請求項6】
上記特徴値の決定(3)が、周波数解析によって得られたパワースペクトルから算出される値の最大値、最小値、平均値、バラツキ若しくは変化率又はこれらのうちの2以上の組み合わせに基づいてなされる請求項1から5のいずれかに記載の感覚判定方法。
【請求項7】
上記特徴値に基づき、刺激から得られるヒトの反応又は行動が予測されるステップをさらに含む請求項1から6のいずれかに記載の感覚判定方法。
【請求項8】
ヒトの脳波を計測する脳波計と、演算部と、CMAC分類器とを備えており、
この演算部が、上記脳波の周波数解析、この周波数解析の結果に基づく上記脳波の特徴値の決定、CMAC分類器から得られる出力値に対応する客観評価の決定を行うように構成されており、
このCMAC分類器が、特徴値に基づく入力値からCMACによる出力値を得るように構成されており
上記脳波の特徴値の決定では、
解析された全周波数から周波数を抽出するステップ、
抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、
算出された特徴値による正答率を評価するステップ、
正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ
及び
この決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップ
を含むヒトの感覚判定装置。
【請求項9】
製品を使用しているヒトの脳波が、脳波計で計測されるステップ、
上記脳波の周波数解析を行うステップ、
上記周波数解析の結果に基づいて上記脳波の特徴値を決定するステップ
上記特徴値に基づく入力値からCMACによる出力値が得られるステップ
及び
上記出力値に対応する客観評価を決定するステップ
を含み、
上記脳波の特徴値の決定では、
解析された全周波数から周波数を抽出するステップ、
抽出した周波数に基づき特徴値が算出されるステップ、
算出された特徴値による正答率を評価するステップ、
正答率の評価に基づいて周波数が決定されるステップ
及び
この決定した周波数に基づき特徴値が決定されるステップ
を含む製品評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−188961(P2011−188961A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56863(P2010−56863)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】