ヒトの糖鎖付加パターンを有する遺伝子産物の発現のための高収量異種発現細胞系
本発明は、ヒトの糖鎖付加パターンを有する組換え遺伝子を安定的に、高収量で発現できる細胞を確立し、任意の標的遺伝子を挿入できる安定普遍前駆細胞を確立するための偏在/普遍的な方法に関する。本発明はさらに、前記方法により得られうる細胞に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの糖鎖付加パターンを有する組換え遺伝子を安定的に、高収量で発現できる細胞を確立し、任意の標的遺伝子を挿入できる安定普遍前駆細胞を確立するための偏在/普遍的な方法に関する。本発明はさらに、前記方法により得られうる細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の生産は異なる用途にとって重要である。タンパク質の構造研究(合理的な薬剤の設計および薬剤の最適化はそれらに基づくものである(Antivir.Chem.Chemother.,12 Suppl.,43−49(2001)))、タンパク質(酵素)の工業用途および組換えタンパク質の臨床用途は、その効果的な生産の必要性を増加させる。2000年2月現在で、米国製薬工業協会の調べによれば、20個のモノクローナル抗体を含む122個の生物製剤が第三相試験またはFDA認可待ちのいずれかの状態にあった(K.Garber,2001,Nature Biotech. 19,184−185)。
【0003】
用途に応じて、組換えタンパク質の未変性構造および翻訳後修飾(例、グリコシル化)が必須である。バイオテクノロジーの「ペット」生物である大腸菌(E.coli)のような原核生物は、翻訳後修飾を導入する能力を欠いている。真核細胞のみが、機能的に活性のあるタンパク質を生産するためにしばしば必要とされる、翻訳と同時に、および翻訳後に必要な細胞の機構を有している。各種の異種タンパク質の生産のための各種の真核生物によるシステムが存在する。例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、またはクリベロマイセス(Kluyveromyces)属由来の真菌の発現システムが確立している(HollenbergとGelissen(1997)、Current Opinion in Biotechnology 8,554−560)。時折、真菌で遭遇するプラスミドの不安定性の問題を回避するために、異種タンパク質をコードする配列が、相同組換えにより、真菌の染色体に理想的に組み込まれる。さらに、真菌の発現システムで遭遇する問題は、異種タンパク質の過剰グリコシル化と、不正なオリゴマー化および不十分なリガンドの取り込みのような不正なフォールディングである。昆虫細胞における異種タンパク質の発現−異種タンパク質をコードするDNAはまた、組換えにより染色体に取り込まれるが−は、これらの問題を回避する。しかし、昆虫細胞はシアル酸とシアルグリカンを生産する能力を欠いている。末端のシアル酸残基は、多くの複合糖質において様々な生物学的役割を果たしている。植物はまた、組換えタンパク質の生産に用いることができる。しかし、これらの異種発現システムでは、抽出と精製が困難であることが現実に障害となっている。
【0004】
哺乳動物発現システム、培養細胞、ならびにトランスジェニック動物にはこれらの不都合はない。組換えタンパク質を培養哺乳動物細胞で一過的に、あるいは構成的(安定的)に生産できる。組換え体の一過性発現では、組換えタンパク質をコードするベクターDNAを細胞に導入し、一般的には細胞DNAに組み込まない。組換えタンパク質の発現力価は初期では高い。しかし、ベクターDNAが複製されないので、ベクターDNAはそれぞれの細胞増殖で希釈され、それゆえ、発現力価は低下する。ベクターDNAまたはベクターDNAの一部だけが非正統的に細胞のゲノムDNAと組み換わることは殆ど無く、組換えタンパク質をコードする遺伝子は安定的にゲノムに組み込まれる。組換えタンパク質をコードする遺伝子が選択マーカーと結合している場合、このカセットをもつ細胞を安定形質転換細胞として同定、単離することができる。安定形質転換体は、異種タンパク質が連続的に生産される利点を有する。発現力価は主として、プロモーターコンストラクトの強さ、染色体中の組み込み部位、コピー数および問題の組換えタンパク質の型により決定される。多くの強力なプロモーターが市販されているが、それらの転写活性は関連する転写因子の細胞レベルと組み込まれる部位のクロマチン構造に依存して変化する。例えば、染色体DNAのスキャフォールド−、またはマトリックス接着領域(S/MARエレメント)内での組み込みにより、プロモーター活性−それにより異種遺伝子の発現−が増大し、隣接するクロマチンによる不活性化から保護されることになる。それゆえ、特異的な細胞において高活性のプロモーターを選択し、染色体の活性部分へ組み込むことが非常に望ましい。好ましくは、低コピー数の異種遺伝子が一般に、多コピー遺伝子よりも安定に発現するので、単一の組み込みが望ましい。
【0005】
単一の、予め選択された高活性の座における組み込みは相同組換えにより達成できる。この方法は、典型的にはマウス胚性幹細胞に適用されるのだが、ヒト起源の体細胞では極めて効率が悪く、大規模のスクリーニングの努力が必要である。その上、殆どのヒト永久細胞系は、これらの細胞系が通常は倍数体であり、2個所以上の同一座を標的とすることが困難となるので、完全に所与の標的遺伝子の発現が止まることが望まれる場合、適用できない。リコンビナーゼ、例えばCre、flp、C13、とそれぞれの標的部位(RRS)を用いた部位特異的組換えが実行可能な代替案である(Feng,Y.Q. et al.,Journal of Molecular Biology,vol.292(4),p.779−785(1999);Schlake,T. et al.,Biochemistry,Am.Chem.Soc.,vol.244(1−2),p.185−193(October 2000);Fussenegger,M. et al.,Trends in Biotechnology,vol.17(1),p.35−42(January 1999);Groth,A.C. et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of USA,vol.97(11),p.5995−6000(May 2000))。このアプローチでは、単一のRRSをもつプラスミドを染色体に単一のRRSをターゲットするために用いることができる。この方法には、しかし、ある限定がある:すなわち、逆反応、プラスミドの切り出しが分子間の組換えで、組み込みよりも高速に起きるので、全く効率が悪い。第二に、細菌の遺伝子を含む全プラスミドが組み込まれる。第一の問題を解決するために、例えば、flpとcreの両者に対する異種特異的な標的部位を用いて、一方向性を確立した。これらのRRSをそれぞれのリコンビナーゼは認識するが、組換えを成功させるためには同一部位が必要であり、切り出し反応は排除される(Karreman S. et al.,Nucleic Acids Res.,vol.24(9),p.1616−1624(1996);Trinh,K.R. et al.,J. of Immunol. Methods,vol.244,p.185−193(2000))。しかし、ターゲティングプラスミドはそれでも染色体の単一の好ましい位置に組み込まれなければならない。そのようなまれな組み込みを見出すための大規模なスクリーニングの努力が必要である。これらのクローンはしばしば二つ以上のコピーのプラスミドを含み、不完全なコピーを含み、細菌の配列を組み込みから排除することができない。これらの細菌の配列は、標的領域をしばしば不活性化する哺乳動物細胞により認識される。それとは別に、ターゲティングカセットをレトロウイルスベクターにより組み込むことができる(Karreman S. et al.,Nucleic Acids Res.,vol.24(9),p.1616−1624(1996))。これらのベクターは染色体内の活性部位を標的とし、完全長のカセットのみが組み込まれ、単一の組み込み部位を作出するように感染量が調節される。しかし、ITRsに隣接する発現ユニットはまた、非活性化される。さらに、このシステムの使用は、発現するタンパク質の治療用途を排除するように政府発表機関に制限される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を考慮すると、組換えヒト糖タンパク質を高収量で産生する細胞を得るための対象の産物をコードする任意の遺伝子をもつ細胞系の形質転換/変換の方法、特に厄介なスクリーニング操作を必要としないか、ほとんど必要としない方法が望まれている。驚いたことに、高収量でヒト翻訳後修飾の特性を有する組換え糖タンパク質を発現する細胞が、ヒトまたは基本的にヒト雑種細胞(以下、単に「元の細胞(starting cell)」と称する)で非必須の高発現する細胞遺伝子(以下、単に「元の遺伝子(starting gene)」と称する)を最初に同定し;第二に、元の遺伝子を、部位特異的組み込みのためのリコンビナーゼ認識部位(RRSs)と随意に各種の機能配列を含有する「代替」遺伝子を含む第一のDNA配列と(例えば、適当なターゲティングカセットを用いることにより)、相同組換えにより直接的に置換し、この前駆発現細胞(機能化細胞)の安定クローンを選択/単離し;第三に、標的遺伝子産物(タンパク質)をコードする対象遺伝子(これ以後、「標的遺伝子」と称する)を、第一のターゲティングカセットに含まれるRRSsを認識するリコンビナーゼを用いた部位特異的組み込みにより導入し;最後に、大量の組換えタンパク質を産生できる安定発現細胞を選択/単離することにより取得し得ることを見出した。元の遺伝子を標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列と直接的に置換することもできる。
【0007】
上記方法に適した元の細胞が、ヒトミエローマおよびハイブリドーマ細胞、およびヒトのヘテロハイブリドーマ細胞(H−CB−P1のようなヒト−マウスのヘテロハイブリドーマ細胞を含む)のような特定の哺乳動物細胞であり、基本的にヒトのグリコシル化パターンを有するタンパク質を生産することをさらに見出した。
【0008】
本発明を用いると、対象の組換えタンパク質をコードするいかなる遺伝子も前記の特定の哺乳動物細胞に安定的に導入することが可能である。本発明を用いると、組換えタンパク質をコードする対象の遺伝子は、高発現する細胞遺伝子座に、好ましくは染色体の活性部分の高活性細胞プロモーターに近接して組み込まれる。本発明を用いると、RRSsで囲まれた代替遺伝子を有する各種起源の前駆細胞系を作製することができる。本発明を用いると、代替遺伝子を、適当なリコンビナーゼにより触媒されるRRSsでの部位特異的組換えにより、組換えタンパク質をコードする対象遺伝子と交換でき、結果として最終の高収量発現細胞を生ずる。
【0009】
最後に、ヒト−マウスのヘテロハイブリドーマが非常に明確なヒトのグリコシル化パターンを提供することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
より具体的には、本発明は、
(1)ヒトの糖鎖付加パターンを本質的に有する標的遺伝子産物を安定的に高収量で発現できる細胞を調製する方法で、その方法が
(a)ヒト細胞またはヒトの雑種細胞(元の細胞; starting cell)には必須ではない、元の遺伝子産物(starting gene product)を安定的に高収量で発現できる元の細胞を選択すること;
(b)元の細胞ゲノム内の元の遺伝子産物の座をスクリーニングすること;
(c1)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、機能化前駆細胞を得るために、一つ以上のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含む第一の機能DNA配列に置き換えること;および
(d)標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む第二の機能DNA配列を、ステップ(c1)で得られた機能化前駆細胞に、第一の機能配列で取り込まれたRRSを認識するリコンビナーゼを用いて挿入すること、または
(c2)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列に直接置き換えること、
を含む方法;
(2)(1)の方法の好ましい実施態様であって、上記の元の細胞がBリンパ球由来の不死化細胞である(好ましくは、ヘテロハイブリドーマH−CB−P1(DSM ACC 2104)のようなヒト−マウスのヘテロハイブリドーマであって、機能DNA配列の組み込みがIg座(好ましくは、前記細胞の再編成されたヒトIg座)で行われる);
(3)上記(1)または(2)の方法により得られうる標的遺伝子産物を高収量発現できる細胞;
(4)上記(1)または(2)で定義される、工程(a)から(c1)を含有する機能化細胞を調製する方法;
(5)上記(4)に定義される前駆細胞;
(6)上記(3)に定義される細胞を培養することを含有する、標的遺伝子産物を高収量発現する方法;
(7)H−CB−P1由来の細胞を培養することにより得られうる標的遺伝子産物、
を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は元の哺乳動物細胞、特にヒト細胞またはヒト雑種細胞を安定高収量発現細胞に形質転換する方法を提供する。連続的な組換え体の発現を達成するために、組換え産物をコードする遺伝子を細胞のゲノムDNAに組み込む。細胞DNAへの組換え遺伝子の組み込み部位により発現レベルを高度に決定する。それゆえ、ここで表される方法は組換え遺伝子の細胞中のゲノムの高度に転写活性を有する部分への組み込みを含む。組換えタンパク質をコードする対象遺伝子を非常に強力な組換えプロモーターの支配下に置くか、または高活性の細胞プロモーターの下流に該遺伝子を組み込むことにより、高活性の細胞プロモーターの支配下に置くことができる。
【0012】
本発明の方法(1)の好ましい実施態様において、元の細胞は元の遺伝子産物を、好ましくは、少なくとも0.3fmol/細胞/日の量のポリペプチド鎖(約90kdのタンパク質に関して30pg/細胞/日に等しい)で、より好ましくは、1fmol/細胞/日以上の量(約90kdのタンパク質に関して100pg/細胞/日に等しい)で分泌する。そうでなければ、元の細胞が元の遺伝子産物を分泌しない場合では、高発現する、好ましくは非必須の細胞内または膜タンパク質、または高発現する非コードRNAをコードする遺伝子を選択する。
【0013】
別の好ましい実施態様では、元の細胞は初期の、不死化または融合細胞、もしくはその遺伝的に修飾された細胞である。それゆえ、元の細胞は初期細胞、不死化細胞(例えば、Bリンパ球由来の不死化細胞)または腫瘍細胞、もしくはその遺伝的に修飾された細胞、雑種細胞、一般的にタンパク質製造に用いられる、HEK293、遺伝的不死化または不死化細胞系との融合により初期細胞から作製されるPER.C6ヒト細胞系のような細胞系から選択され、好ましくはヒトのハイブリドーマまたはヘテロハイブリドーマ細胞(例えば、ヒト−マウス、ヒト−ラットなど)であり、もっとも好ましくは、ヒト−マウスのヘテロハイブリドーマH−CB−P1(DSM ACC 2104;ZIM517として以前に引用した)である。
【0014】
元の細胞がヒト細胞またはヒトのヘテロハイブリドーマ(例えば、上記定義のような細胞)であるなら、前記雑種細胞またはヘテロハイブリドーマは少なくとも一つのヒト染色体を含有し、および/または、ヒトの翻訳後修飾ができることが好ましい。元の遺伝子産物がヒト遺伝子であることが特に好ましい。
【0015】
元の遺伝子産物は好ましくは、抗体、サイトカイン、ホルモン、酵素、移送タンパク質、貯蔵タンパク質、構造タンパク質などのような分泌タンパク質から選択される。元の遺伝子産物はあるいは、選択された元の細胞の主要産物である。非常に安定なIgMの発現がH−CB−P1で観察され、あるいはスクリーニング法で選択される。スクリーニングは、マイクロアレイ発現分析、2Dタンパク質ゲル電気泳動、定量的PCR、RNAse保護、ノーザンブロット、ELISAおよびウェスタンブロットを含む個々の、または複合の方法に基づくものである。これらの個々の方法の能力と感度は当業者には既知である。
【0016】
本発明の方法により任意の組換えタンパク質を産生することができる。好ましい標的遺伝子産物として、酵素、特にプロテアーゼ、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、サイトカイン、レセプターまたはその可溶型(例えば、膜透過ドメインまたは細胞内ドメインを欠くレセプター)、全長の抗体または抗体ドメイン、およびこれらのタンパク質群のドメインを合わせた融合タンパク質があげられるが、これに限定されない。
【0017】
工程(a)、(b)、(c1)および(d)を含む実施態様(1)の最初の選択肢において、元の遺伝子の置き換えはワンステップ置き換え法により行われ、ここで元の細胞は第一の機能配列を含むベクター構築物と接触し、前記第一の機能配列は不活性化し、部分的または完全に元の遺伝子産物をコードする遺伝子と置き換わる。あるいは、置き換えは二工程または複数工程法により行われ、元の遺伝子産物をコードする遺伝子は削除、または不活性化され、続いて第一の機能配列を含むベクターと接触する。前記第一の機能配列は削除された/不活性化された元の遺伝子産物の部位に組み込まれる。
【0018】
元の遺伝子の場所への第一の機能配列の特異的組み込みは、標的配列または近接する配列に相同な、ベクター中の第一の機能配列に隣接する配列により促進される。これらの隣接配列は、元の細胞のラムダ、コスミド、pacまたはbacライブラリーから得られるか、元の細胞のDNAを鋳型として用いたPCRにより生成される。標的遺伝子の場所への第一の機能配列の特異的組み込みから得られる細胞クローンの割合(パーセンテージ)は、二重選択法を用いることによりさらに増加する。ここで、陽性選択マーカーとして第一の機能配列の一部を含み、陰性選択マーカーは相同隣接配列により第一の機能配列から分離される。相同交換により、陰性選択マーカーなしで、陽性選択マーカーを組み込むことができる。要請選択マーカーの例としては、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、ネオマイシン、あるいはグルタミン合成酵素遺伝子があげられ、HSV tkまたはシトシンデアミナーゼが陰性選択マーカーである。マーカーおよびこれらの適用方法は当業者に既知である。
【0019】
相同交換から得られた細胞クローンを、第一の機能配列から発現される遺伝子産物の要素の存在と元の遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子不活性化により同定した。これらの細胞クローンは機能化前駆細胞を表す。
【0020】
第一の機能配列は、loxP、frt、ラムダ様ファージのatt Lとatt R、レソルバーゼまたはファージC31インテグラーゼの認識部位から選択される一つ以上のRRS(s)を含有する。前記認識部位により、例えば修飾されたloxPおよびfrt部位だけでなく、ΦC31インテグラーゼの(野生型の)認識部位により得られる、一方向の組み込みが提供されることが好ましい。第一の機能配列はさらに、マーカー配列、分泌タンパク質遺伝子、プロモーター、エンハンサー、スプライスシグナル、ポリアデニル化シグナル、IRESエレメント等から選択される配列を含むことができる。
【0021】
標的遺伝子産物の産生細胞を作製するために、機能化前駆細胞(実施態様(1)の第二の選択肢の工程(c2)で得られるような産生細胞がまだない場合は、以下を参照せよ)、例えば、PBG03クローンD3(DSM ACC2577)を次いで、第二の機能配列を含む第二のベクターと接触させる。第二の機能配列は、第一の機能配列中に存在する標的遺伝子および前記リコンビナーゼのRRS(s)を含有する。第二の機能配列はさらに、プロモーター配列、マーカー配列、第一の機能配列のRRSとは異なるリコンビナーゼ認識配列等を含有する。
【0022】
第二の機能DNA配列の組み込みを、アクセサリータンパク質(例えば、Cre、Flp、ΦC31インテグラーゼ、レソルバーゼ等)の存在、または非存在下でのリコンビナーゼのRRSの認識により、行った。これらのリコンビナーゼとアクセサリータンパク質、これらのタンパク質をコードするmRNA、もしくは、一過性発現をするためのウイルスまたは非ウイルスベクターが、第二の機能配列の供給とともに、その直前に、もしくは、その直後に供給される。
【0023】
元の遺伝子の場所に第二の機能配列を含むクローンの純粋な集団を、再構築機能選択マーカー遺伝子を用いた選択により得ることができる。例として、第一の機能配列を用いて導入した不活性化ATG欠失選択マーカー遺伝子を、活性プロモーターと第二の機能配列をもつインフレーム−ATGコドンの供給により再構築できる。
【0024】
本発明の実施態様(1)の第二の選択肢(工程(a)、(b)および(c2)を含有する)において、元の遺伝子産物をコードする遺伝子を直接(すなわち、前駆細胞の供給なしに)、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列(以降、簡単に「第三のDNA配列」と称する)と置き換えることができる。前記第三のDNA配列を前述のように、一工程または複数工程の方法で取り込むことができる。第三のDNA配列はさらに、前述の第一および第二のDNA配列と同様の(プロモーター、マーカー等のような)機能配列を含む。本発明の実施態様(1)の第二の選択肢は、たった一つの標的遺伝子産物が産生され、その結果、前駆細胞の産生が必要ないならば、特に好ましい。
【0025】
本発明の好ましい実施態様(2)において、元の細胞は好ましくは、ヒト−マウスのヘテロハイブリドーマ細胞、好ましくはヘテロハイブリドーマ細胞H−CB−P1(DSM ACC2104)である。機能DNA配列の組み込みを、Ig座で、好ましくはハイブリドーマ細胞のヒト再編成Ig座(例えば、重鎖または軽鎖(λまたはκ))の一つで行うことができる。再編成免疫グロブリン座は、ハイブリドーマを生じるBリンパ球の成熟過程で生殖系列の染色体構造から修飾された機能Ig遺伝子(重鎖λまたはκ)周辺のゲノム配列である。IgH座は染色体14q32.33に位置する。H−CB−P1において、この場所は、μイントロンを介してCμ配列(DD 296 102 B3)に隣接した、D遺伝子を介してJH6遺伝子に隣接した、再編成され、アフィニティ成熟したVH1−2遺伝子により形成される。H−CB−P1−IgH座の再編成VDJ領域の配列を配列番号:12に規定する。
【0026】
本発明の実施態様(3)および(5)の細胞はH−CB−P1(DSM ACC2104)に由来することが好ましい。さらに、本発明の実施態様(3)において、標的遺伝子産物は抗体であることが好ましい。そのような場合、細胞は好ましくはPBG04(DMS ACC2577)である。特に、抗体の発現に用いられる上記細胞において、軽鎖が不活性化され、同一の、または異なる標的遺伝子産物をコードする遺伝子で置き換えられていることが適している。
【0027】
その上、前記のように、H−CB−P1由来の細胞系の発現により得られうる標的遺伝子産物は、独特の、基本的なヒトグリコシル化パターンを有している。
【0028】
治療用途のための糖タンパク質、特に抗体は、N結合グリカンのような翻訳後修飾は哺乳動物のみで生じ、それらはこれらのタンパク質の薬学的特性に実質的な影響をもつので、典型的には哺乳動物細胞で製造される。完全に処理されたNグリカンは、コアとしてフコースを、末端にシアル酸をもつ二触角(バイアンテナリー; biantennary)構造を形成する(図15)。生理的条件下で、大部分のタンパク質は、完全な構造の先が切り取られた形をしている。グリコシル化が完了する程度は、細胞型だけでなく、培養条件にも依存する。
【0029】
シアル化、末端シアル酸のグリカンへの付加の程度は変化し、ヒト血液中の抗体で、30−40%である。しかし、シアル化されたタンパク質が高いパーセンテージであると、血液中で治療タンパク質の半減期は増加する。H−CB−P1由来の細胞系、例えばPBG04は、実施例5に見られるように、糖タンパク質の製造に広く用いられているCHO細胞およびNS0細胞に比べ、高度にシアル化された糖タンパク質を産生する。治療用糖タンパク質について、ガラクトース添加前の末端のグリカン(G0構造)が低含量であることが好都合である。そのため、G0糖タンパク質は二量体化しやすく、補体に依存した細胞毒性を調節する抗体の能力が減退する。PBG04の遺伝的組成により、G0構造が低いもの(ローラーボトル工程でレプチン−Fcの4.3%)を用いて、より完全なプロセシングが起きる。
【0030】
一般的なバイアンテナリー構造は全ての哺乳動物で形成される一方、いくつかの特異的な構造(個々の糖の間の結合)はヒトに特異的、あるいはヒトが完全に除外される。これらの構造は同様に生物学的特性に影響する。それゆえ、ヒト特異的な修飾を生成するために必要な酵素を供給し、特殊な結合の原因であるヒト細胞には存在しない酵素を欠損する、治療用途の糖タンパク質を製造するために、細胞を用いることは好適である。そのような細胞は全くヒト由来であるか、またはヒト染色体の一部を含んでいる。後者の細胞において、ヒト特異的なグリコシル化酵素がヒトに存在しない細胞を支配することが重要である。
【0031】
ノイラミン酸がN-アセチルノイラミン酸またはN-グリコリルノイラミン酸として付加されると、後者はマウス細胞の主たる構造となる。N-グリコリルノイラミン酸は旧世界猿とヒトのグリカンには存在しない。それらは免疫原性であり、治療用タンパク質に対する抗体の形成をもたらす。
【0032】
さらに、マウス細胞はもう一つのグリコシル化酵素であるアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼを含んでいる。これはgal残基をグリカンの露出したgal残基に転移する反応を仲介する。そのような結合はまた、酵母に見出され、防御として、ヒトはこの構造に対する抗体を予め有している。認識により、免疫複合体が形成され、その結果、腎障害を起こす。レプチン−Fc由来のPBG04の1.3%だけがアルファ1,3 galを含んでいる。
【0033】
ほんの一握りのヒトタンパク質が分岐したN−アセチルグルコサミンを含んでいる。それ自体、生物学的特性に影響はしないが、酵素複合体がコアのフコシル化を仲介する別の酵素を阻害する。しばしば、分岐したN−アセチルグルコサミンをもつタンパク質において、コアのフコースがなくなり、より効果的なFc−ガンマ受容体の結合と、抗体に依存した細胞性細胞毒性(ADCC)の促進をもたらす。それゆえ細胞は、コアでないフコシル化タンパク質の割合を増加するための(1,4)−N−アセチルグルコサミントランスフェラーゼIIIを発現するように操作された。(米国特許第6,602,684号)
【0034】
コアのフコースのない高含量の糖タンパク質はまた、マウス細胞で得られる。しかし、これらのタンパク質はマウスタンパク質に特徴的な、不利な特性を含む。ヒトと、正しい染色体組成細胞をもつマウスの特異的な雑種細胞は両者の有利な特性を合わせることが可能である。PBG04のようなH−CB−P1由来の細胞系はそのような細胞系である。
【0035】
本発明はさらに、以下の実施例により説明されるが、これらは発明を限定するものではない。
【0036】
細胞系H−CB−P1は、ベルリン・ブーフ(Berlin Buch)、ロベルト−レスル通(Roberto−Rossle−Str.) 10(DDR−1115)の「ドイツ民主共和国自然科学アカデミー微生物学中央研究所(Zentralinstitut fur Molekularbiologie, Akademie der Wissenschafteen der DDR)」に、1990年3月16日に、ZIM−0517として寄託され、ドイツ、ブラウンシュバイク(Braunschweig) 38124、マシュローダー・ヴェーク(Maschroder Weg) 13のDSMZ(ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsch Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH))に、2000年12月12日に移管され、受託番号DSM ACC2104を付与された。PBG03クローンD3(pVHCμCEShobFcblas)をPBG04とリネームし、DMSZに2002年9月18日に、DSM ACC2577として寄託した。
【実施例】
【0037】
材料と方法
材料:
DNAクローニング法
ゲノムDNAの単離: T25 cm2 フラスコの細胞をトリプシン処理し(下記「トリプシン処理」の章を参照せよ)再懸濁した細胞ペレットを1.5 mlエッペンドルフチューブに移し、200 μlのPBSを添加した。チューブを5分間、13,200 rpmで遠心し、上清を捨て、ペレットを2 mlの溶液Aに再懸濁した。懸濁液をファルコンチューブ(15 ml)に移した後、133 μlの10% SDSと333 μlのプロテアーゼKを添加した。55℃で3時間のインキュベーション、または室温で一晩のインキュベーションを続けて行った。懸濁液を607 μlの6 M NaClと混合し、遠心(4300 rpm、4℃、20分)前に15秒間ボルテックスで撹拌した。上清をファルコンチューブ(15 ml)に移し、2.5 mlの100% エタノールと混合した。界面に形成された糸状のDNAの沈殿をピペットチップで取り、1/2 TE緩衝液に再懸濁した。DNAを4℃で保存する前に、56℃で完全に溶解した。
【0038】
PCR: PCR法をゲノムDNA配列の単離(調製用PCR)、またはあるDNA配列の検出(分析PCR)のために用いた。
【0039】
調製用PCR: 調製用PCR反応(50 μl)をExpand High Fidelity PCRキット(ロッシュ(Roche))を用いて、製造者の指示に従って準備した(20−30 ngの鋳型、5 μlの15 mM MgCl2緩衝液(10×)、5 μlのdNTPミックス、0.5 μlのそれぞれのプライマー(30 nM)、0.5 μlのポリメラーゼを水で50 μlにした)。PCR産物をQIAquick purification kit(キアゲン(QIAGEN))を用いて精製した。
【0040】
分析PCR: 分析PCR反応(10 μl)をTaqポリメラーゼキット(キアゲン)を用いて、製造者の指示に従って準備した(10 ngの鋳型、1 μlの10×緩衝液、0.5 μlのdNTPミックス、0.1 μlのそれぞれのプライマー(30 pM)、0.1 μlのTaqポリメラーゼを水で10 μlにした)。
【0041】
PCRサイクルのプログラムは、プライマーのアニーリング温度(表2を参照せよ)と予想されるPCR産物の長さ(伸長時間と温度が決定される;表1を参照せよ)により、それぞれの産物により変化する。
【表1】
【表2】
【0042】
プラスミドDNAの増幅、単離および定量: 大腸菌形質転換体を1 ml、30 ml、または100 ml培養で生育させ、プラスミドDNAをそれぞれMini−、Midi−、またはMaxi−プラスミド精製キット(キアゲン)を用いて単離した。製造者の指示に従った。DNA濃度を分光光度計で、260 nmと280 nmの吸収を測定することにより定量した。
【0043】
制限酵素による消化: プラスミドDNAを、1 μgのDNAあたり1単位の適当な制限酵素で、業者の推奨する緩衝液と温度を用いて消化した(表3を参照せよ)。分析に二つ以上の制限酵素が必要ならば、可能ならば、反応を同時消化で行った。さもなければ、反応液のカラム精製工程(キアゲン)を介在させて、経時的に単一の消化を行った。
【表3】
【0044】
5’突出末端をもつDNAの末端修復: EcoRIで作られるような5’突出を「平滑」にするために、消化したDNAを製造者の指示に従って、クレノウ(Klenow)断片(ロッシュ)で処理した。末端を埋める反応を熱不活性化工程(65℃、20分)により停止し、DNAをエタノール沈殿するか、または直接ゲル精製にかけた。
【0045】
ベクターDNAの脱リン酸化: 直鎖化したベクターDNAが適合する末端と自己ライゲーションすることを防ぐために(下記の「ライゲーション」を参照せよ)、DNAを製造者の指示に従い、アルカリホスファターゼ(AP)(ロッシュ)を用いて脱リン酸化した。APを熱により不活性化し(65℃、15分)、ライゲーション反応に用いる前に、DNAをゲル精製した(電気泳動については、下記の「アガロースゲル電気泳動」を参照せよ)。
【0046】
TOPOクローニング: PCR増幅産物をインビトロジェンのTOPOベクターにクローニングした。TOPOクローニングキットの指示に従い、精製されたPCR産物(0.25−2 μl)を塩溶液(0.5 μl)と混合し、水を加えて容量を2.5 μlとした後、TOPOベクター(0.5 μl)を添加した。室温で30分間のインキュベーションの後、反応チューブを氷上に移し、反応液の2 μlを「ワンショット化学的コンピテント大腸菌(one shot chemically competent E.coli)」に添加し、細胞を氷上で30分間インキュベートした。細胞に熱ショック(42℃、30秒)を与え、直ちに氷上に戻し、室温のSOC培地を250 μl添加した。混合液をカナマイシンまたはアンピシリンのいずれかを含むLBプレートに播く前に、形質転換反応液を37℃で1時間、振盪(300 rpm)しながらインキュベートした。プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0047】
ライゲーション: 全てのライゲーション反応を、0.1−1 μgの脱リン酸化ベクターと過剰量のインサートを用いて、10 μlの容量で行った。反応液は2 μlのT4ライゲーション緩衝液(Gibco BRL)と1 μlのT4リガーゼ(ロッシュ)を含み、16℃で2時間、または4℃で一晩インキュベートした。ライゲーション反応液を細菌に形質転換した。
【0048】
不要な非組換え体のレベルを下げるために、自己ライゲーションしたベクターに唯一の制限部位があるならば、ライゲーション反応液を適切な制限酵素で反応後消化した。消化後、ライゲーション反応液を、再溶解したDNAを再び形質転換反応に用いる前に、アクリルアミド存在下で、エタノール沈殿した(4℃、14,000 rpm、15分の遠心)。
【0049】
コンピテント細菌の形質転換: コンピテント大腸菌XL2(−70℃で保存)を氷上で融解し、ライゲーション反応液(氷上保存、上記「ライゲーション」を参照せよ)または1−100 ngのプラスミドDNA(再形質転換)のいずれかと混合し、氷上で20分間インキュベートした。続いて、形質転換反応液を熱ショック(30−60秒、42℃)に付し、チューブを氷上に戻した。205 μlのSOC培地(抗生物質なし)を添加し、反応液を37℃で45分間、振盪(300 rpm)しながらインキュベートした。形質転換反応液を抗生物質(カナマイシン(40−60 μg/ml)またはアンピシリン(50−100 μg/ml)のいずれか)を含むLBプレートに播き、37℃で一晩インキュベートした。細菌のコロニーをカウントし、形質転換反応の効率を計算した。
【0050】
アガロースゲル電気泳動: DNA断片をその長さに従って、0.7−1.5% アガロースゲルで分離した。アガロースを1×TAE緩衝液に溶解し、2 μlの臭化エチジウム/100 mlのアガロースを添加した。アガロースを溶解し、トレイに注いでセットした。DNA試料をローディング緩衝液オレンジG(Orange G)と混合し、水平ゲルにのせ、ランニング緩衝液として1×TAEを用いて、40−90 Vで泳動した。DNA/臭化エチジウム複合体をUV光で可視化した。
【0051】
DNA断片のゲル精製: DNAをアガロースゲルで分離し(40−80 V)、対象のDNAバンドをメスで切り出した。QIAquickゲル抽出キット(キアゲン)を用いて、製造者の指示に従って、DNAをアガロースブロックから抽出した。
【0052】
細胞培養
トリプシン処理: 接着細胞をトリプシンを用いて回収した。まず培地を除去し、細胞単層をクエン酸緩衝液(予め37℃に暖めておく)で洗浄した。少量のトリプシンを直接細胞単層に添加し、37℃で3−5分間インキュベートした。5% FCSを添加したPBG 1.0 培地を添加することにより、トリプシン処理を停止させた(表4を参照せよ)。細胞懸濁液をファルコンチューブ(50 ml)に移し、10分間遠心した(800 rpm、30℃)。細胞ペレットを新鮮な培地に再懸濁し、該細胞を電気穿孔法またはさらなる実験に用いた。
【表4】
【0053】
細胞のカウンティング
細胞をトリプシン処理した後、ノイバウワーチャンバー(ヘマトサイトメーター)でカウントした。少量の細胞懸濁液をチャンバーに入れ、該チャンバーを顕微鏡下に置いた。チャンバーの四つの四角のうちの一つの中の細胞だけをカウントし、mlあたりの細胞数を得るために、細胞数を104倍した。生細胞と死細胞を区別するために、カウント前に細胞をトリパンブルーで染色した。死細胞は青くなり、一方生細胞は色素を取り込まなかった。
【0054】
形質転換
H−CB−P1細胞の電気穿孔法: 標準的な電気穿孔法の反応では、10 μgの直鎖化したプラスミドDNAを用いた。培養培地を除去し、H−CB−P1単層をクエン酸緩衝液で洗浄し、トリプシン処理した(上記「トリプシン処理」を参照せよ)。細胞ペレットをOpti−MEM(予め37℃に暖めておく)に再懸濁し、mlあたり3×106細胞とした。700 μlの細胞懸濁液を電気穿孔法用キュベット(peqLab;EQUBIO 4mm)に移し、直鎖化したDNA(10 μg)を添加した。細胞を250 V、1500 μFで電気穿孔し、直ちに予め暖めた、5% FCSを添加したPBG 1.0 培地を入れたT75ボトルに移し、37℃、5% CO2でインキュベートした。
【0055】
選択
H−CB−P1細胞の選択: 電気穿孔したH−CB−P1細胞を2日間、37℃、5% CO2で培養した。2日目、培養培地を除去し、非接着細胞を培養培地の遠心により回収した。1 mlの培養培地(上清)を後の一過性発現試験のために凍結した。トリプシン処理した細胞単層と遠心により培養培地から回収した細胞を合わせて、沈殿とした。細胞を5% FCSを添加したPBG 1.0 培地に再懸濁し、1×106細胞/ml、1×105細胞/ml、1×104細胞/mlの希釈液を作製した。それぞれの希釈液に5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシンを添加した。選択培地を4日目、7日目、10日目に交換し、H−CB−P1クローンの生育を顕微鏡下で制御した。8日目と10日目の間に、生細胞が目視できた。13日目、クローンをトリプシン処理により回収し、細胞を96ウェルのプレートに播いたときに、ウェルに5細胞または1細胞が含まれるように、細胞ペレットをPBG 1.0 培地に懸濁した。選択圧(5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシン)をその間維持した。10日目、陽性細胞クローンと陰性細胞クローンを区別するために、細胞を免疫染色した。細胞培養培地を除去し、細胞により産生される組換えタンパク質を認識する蛍光標識された抗体(2 μg/ml)を添加した標準培地に置き換えた。抗体懸濁液を5% FCSを添加したOptiMem 1に置き換える前に、4時間、細胞単層上に置いた。細胞単層を蛍光顕微鏡で観察した。テキサスレッド結合抗体を用いる場合、470−480 nmのスペクトルを透過するUVフィルター(WG)の顕微鏡を用いた。励起したテキサスレッド標識抗体は590 nmのスペクトルの光を放出する。330−355 nmのスペクトルを透過するUVフィルター(WU)をAMCAに結合した抗体を可視化するために用いた。励起AMCAの放射光は青色のスペクトル(420 nm)を生じた。大きく、強い蛍光のクローンのみを考慮した。一つのウェルに単一のクローンのみとし、該細胞をさらにひろげた。一つのウェルに一つのクローン以上がある場合、個々のクローン(細胞)をマイクロキャピラリーでつり上げさらにひろげるために、新しい96ウェルプレートに移した(以下の「マイクロキャピラリーによるつり上げ」を参照せよ)。
【0056】
マイクロキャピラリーによるつり上げ: マイクロキャピラリーピッキング装置として、ジョイスティックにより制御される可動アームについているキャピラリーを用いた。マイクロキャピラリーとアームをフードの内側に、ジョイスティックを外側から制御した。対象のクローンを免疫染色法(上記「H−CB−P1の選択」の項に記載)により同定する場合、マイクロキャピラリーをクローンの上に置き、真空ポンプでキャピラリー内を陰圧にし、対象の細胞塊をキャピラリーに吸引した。アームを96ウェルプレートの新しいウェル上へ動かし、細胞をその中に注入した。
【0057】
凍結保存: 長期間、細胞を保存するために、トリプシン処理した細胞を1×106から1×107細胞/mlで再懸濁した。細胞を遠心(700 rpm、10分)により沈殿させ、上清を除去した。細胞を冷却した前ならし培地(900 μl)に再懸濁し、凍結バイアルを180 μlのDMSOと720 μlのFCSで満たし、900 μlの細胞懸濁液をDMSO/FCS溶液中に移した。凍結バイアルを24時間、特別な凍結容器で保存し、緩やかに細胞を凍結させた。長期間の保存のために、凍結バイアルを液体窒素タンクへ移した(−196℃保存)。
【0058】
タンパク質産物の検出
EC−ウェスタンブロット(増強化学発光): hobFC抗体の検出のために、20 μlの細胞培養上清を10 μlの5% SDSと混合し、2分間、97℃でインキュベートした。細胞培養培地はIgM抗体を含むと予想されるので、培養培地は処理しなかった。メンブラン(アマシャム−ファルマシア(Amersham−Pharmacia);ハイボンド−P)を最初にメタノールでリンスし(1分)、水で3回洗浄し(1分)、プロットトランスファー緩衝液に浸した3 MM 濾紙片に置く前に、メンブランをプロットトランスファー緩衝液に浸した。5 μlの前処理した培養培地(hobFC抗体)または5 μlの未処理の(IgM抗体)培養培地をメンブランにスポットし、1分間インキュベートした。メンブランをブロッキング緩衝液に置き、振盪しながら、30分間インキュベートし、T−PBSでの5分間の洗浄を3回行った。ブロッキングしたメンブランを検出抗体溶液(IgG 1:2000、およびIgM 1:5000)に置き、2時間インキュベートした。T−PBSでの2分、5分および10分のさらなる洗浄を続けた。メンブランを現像液(アマシャム−ファルマシア、ECL)中に置き、1分間インキュベートした。最後に、水分をどかし、3 MM 濾紙に載せ、乾燥しないようにセロファンでラップした。放射光を暗室で観察した。
【0059】
実施例1: H−CB−P1細胞のIgM領域に特異的なターゲティングベクターの調製
抗体が高発現し、タンパク質が分泌されることがよく知られているので、組換え遺伝子をIgM配列領域に挿入した。それゆえ、最終的なターゲティングベクターには標的とされるゲノムIgM配列と100%相同性を有する配列が必要である。基本のターゲティングベクターpVHCμでは、長さが2 kbのVH領域と7.4 kbのCμイントロン領域を選択した(図3を参照せよ)。両者を校正活性をもつポリメラーゼ(プルーフスタート・ポリメラーゼ(キアゲン))を用いたPCRの断片として単離し、pCR4BluntTOPOベクター(インビトロジェン)にサブクローニングし、最終的にpVHCμと命名した一つのベクターに合わせた(図3を参照せよ)。
【0060】
プラスミドpVHCμCESHhobFcとpVHCμHhobFcの調製: 基本のターゲティングベクターpVHCμは内在性カセットをもたない。CEプロモーター、代替遺伝子hobFc、三つのFRT組換え部位、さらにハイグロマイシン耐性遺伝子およびATG欠失ネオマイシン遺伝子を含む内在性カセットをベクターpCESHhobFcからBstDI−SwaI断片として単離した。断片の末端をKlenowポリメラーゼで埋め、PmeIで消化し、脱リン酸化した基本のターゲティングベクターpVHCμとライゲートした。得られたターゲティングベクターをpVHCμCESHhobFcとした。
【0061】
CESプロモーター構築物を欠くが、内在性カセットのその他の部分を全て含む第二のベクターpVHCμHhobFcをさらに構築した。BstBI−Bstl107I断片をpCESHhobFcから単離し、末端を埋めた。pCESHhobFcのBstl107I制限部位は、frt wt部位とそれに続くhobFc遺伝子のすぐ上流にあり、それゆえ単離したBstl107I−BstbI断片はプロモーターを欠いている。断片を前にPmeIで消化したpVHCμベクターにライゲートし、得られたベクターをpVHCμHhobFcとした。pVHCμCESHhobFcとpVHCμHhobFcの両ベクターにおいて、内在性カセットの活性のある耐性マーカー遺伝子はハイグロマイシン耐性遺伝子であった。ハイグロマイシン遺伝子の代わりにブラストサイジン遺伝子を含む別のセットのベクターも作製した。
【0062】
pVHCμCSHhobFcblasとpVHCμhobFcblasの構築: 内在性カセット中のマーカー遺伝子としてブラストサイジン遺伝子をもつターゲティングベクターを作製するために、ベクターpcDNATRDをブラストサイジン遺伝子のドナーとして用いた。最初の工程として、ハイグロマイシン遺伝子とブラストサイジン遺伝子の交換があげられる。このために、ブラストサイジン遺伝子をEcoRI−SalI断片として、pcDNATRDから単離した。内在性カセットベクターpcESHhobFcもEcoRI−SalIを用いて開環し、これによりハイグロマイシン遺伝子をATG欠失ネオマイシンの部分とともに除去した。ブラストサイジン遺伝子を含む断片を開環したpCESHhobFcにライゲートし、得られたベクターをpCEShobFcblasdeletedと命名した。
【0063】
第二工程は、偶然に除去されたATG欠失ネオマイシン遺伝子の再挿入であった。そのために、ATG欠失ネオマイシン遺伝子を包含する断片をpCESHhobFcから単離し、開環したベクターpCEShobFcblasdeletedに挿入した。得られたベクターをpCEShobFcblasとした。このベクターをブラストサイジン遺伝子のドナーベクターとして、pVHCμCSHhobFcとpVHCμHhobFcに用いた。BamHI−SalI断片をpCESHhobFcblasから単離し、BamHI−SalIで開環したベクターpVHCμCESHhobFcに挿入し、pVHCμCESHhobFcblasを生じさせた。CESプロモーターを欠く対照ベクターpVHCμhobFcblasを作製するために、ベクターpVHCμHhobFcもまた、BamHI−SalIで消化し、再びpCEShobFcblasから単離したBamHI−SalI断片をそこにライゲートした。
【0064】
実施例2: hobFcクローンの選択
電気穿孔法: H−CB−P1細胞をプラスミドpVHCμCshobFcblas、pVHCμhobFcblas、pVHCμHhobFcおよびpCShobFcblasを用いて、電気穿孔法で処理した。トランスフェクション効率を調べるために、細胞をプラスミドpGFPN1VAでトランスフェクトし、模擬対照として、細胞を水試料を用いて、電気穿孔処理した。トランスフェクション効率は約20%であることが明らかとなった。電気穿孔処理後2日目に、トランスフェクトしたプラスミドに応じて、ハイグロマイシンまたはブラストサイジンのいずれかを培養培地に添加した。模擬トランスフェクト細胞が全て死滅した場合、他のトランスフェクション反応の細胞を集め、96ウェルプレートのウェルあたり1細胞または5細胞のいずれかの密度で再度播いた。細胞を、適当な抗生物質を添加した培地で培養し続けた。
【0065】
選択条件を最適化するために、細胞を電気穿孔処理後2日目に、T75フラスコ中20 mlに対して104細胞、105細胞、または106細胞播いた。培地には、5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシンを添加した。14日目、cm2あたりのクローン数を調べた。クローンの最高数は、CESプロモーターを欠くプラスミド(pVHCμhobFcblas)でトランスフェクトした1×106細胞を播いたフラスコで得られた。細胞をCESプロモーターをもつプラスミドでトランスフェクトすると、1/3のクローン数となった。さらに、これらのクローンの生育はCESプロモーターをもたないものよりも悪かった。
【0066】
抗生物質がもつ、タンパク質産生クローンの選択に対する効果: T75フラスコのクローンの拡張に続き、クローンをトリプシン処理し、96ウェルプレートに5細胞/ウェルで再度播いた。培養培地には、5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシンのいずれかを添加した。播種後10日目に、細胞をテキサスレッドを結合した抗IgG抗体とAMCA標識したIgMに対する抗体を用いて染色した。ブラストサイジンを用いて培養した細胞では、高濃度の抗生物質を用いると、陽性クローンは減少するという結果を示した。10 μg/mlのブラストサイジンを用いると、5 μg/mlの場合に比べて、100%以上のhobFcの陰性クローンを観察した。しかし、10 μg/mlのブラストサイジンを用いて培養した細胞を含む96ウェルプレートの最初の3列をカウントし、プレート全体の結果を出したが、5 μg/mlのブラストサイジンを用いて培養した細胞を含む96ウェルプレートは全ての列をカウントした。
【0067】
蛍光標識した抗体を用いた選択の利点: 免疫蛍光染色法を用いて、多数のクローンを迅速にスクリーニングできる。直接免疫法を用いて得られた結果は、標的配列のゲノムDNAへの正しい組み込みの最初の兆候であった。発現しないクローンをこの方法で容易に検出した。免疫蛍光染色法は技術的に容易で、メチルセルロース染色法よりも低濃度の抗体を必要とし、細胞の生育に障害を与えない。顕著な傷害なしに、トリプシン処理や細胞を新しい培養器に移すためのマイクロキャピラリーつり上げの前に、細胞を免疫染色することができる。
【0068】
実施例3:IgM座への相同な挿入の検出
ターゲティングベクターをデザインするため、再編成した免疫グロブリン重鎖座を、抗体のcDNA配列とヒトゲノム配列の情報を基に、組み立てた。IgMの産生がターゲティング法によりだめになることを確実にするために、ATGを含む完全なリーダー配列、V、DおよびJ遺伝子をターゲティングベクターから除き、1回の相同組換え事象によりゲノムから削除した。それゆえ、置き換え型のターゲティングベクターはIgM座と同一の遺伝子型の配列を含み、hobFc遺伝子、ブラストサイジンおよびATG欠失ネオマイシン耐性遺伝子と直接交叉できる。第14番染色体上に唯一の再編成された活性のあるIgM座が元の細胞系H−CB−P1に存在するので、相同組換え事象は、蛍光抗体染色と抗IgM抗体を用いた上清のイムノブロッティングにより検出されるIgMの発現を完全に止めてしまう。
【0069】
IgMとIgGのウェスタンブロット(ドットブロット): ドットブロット法を、直接免疫染色法で得られた結果を検証するために用いた。これらのクローンの上清(培地)について、IgMとIgGが存在するかを試験した。上清においてIgM陰性、IgG陽性であれば、相同組換えが起きたと結論できた。
【0070】
組み込まれた標的配列の検出のためのPCR: ターゲティングカセットがIgM座に組み込まれたかを検証するために、フォワードプライマーV5(配列番号:7)およびリバースプライマーV6(配列番号:8)またはV7(配列番号:9)と、鋳型として細胞クローンから単離したゲノムDNAを用いたPCR反応を準備した。プライマーV5は、ターゲティングベクターに存在するVhprom断片の外側のゲノムV遺伝子プロモーター配列に結合し、リバースプライマーV6は、CESプロモーター内側に結合し(それゆえ、CESプロモーターをもつプラスミドでトランスフェクトした細胞の場合のみ用いられる)、プライマーV7はhobFc遺伝子の内側に結合する。記載したプライマーの組合せを用いると、PCR産物の存在は両方のプライマー結合配列がともに局在すること、すなわち相同組換えに完全に依存する。PCRアッセイの感度を増加するために、一回目のPCR産物を鋳型として、プライマーVHpromF(配列番号:1)とVHpromR(配列番号:2)を用いたネストPCR反応に用いた。最終的なネストPCR産物をHincIIとDraIの制限酵素消化にかけ、得られた配列が正しいことを確認した。これら全てのアッセイから、PBG03クローンH6(pVHCμhobFcblas)、D4(pVHCμhobFcblas)、E11(pVHCμhobFcblas)、D3(pVHCμCEShobFcblas)およびG8(pVHCμhobfcblas)には正しく標的配列が組み込まれていた。クローンD3(pVHCμCEShobFcblas)をPBG04とリネームし、ドイツ微生物・細胞培養コレクション(DSMZ)に寄託した。
【0071】
実施例4:標的細胞クローンを作製するための組換え
クローンpVHCμCEShobFcblas D3(PBG04)を、第二の機能配列(frtwt、GFP ORFおよびポリアデニル化シグナル、ATGとfrt5に続く最小プロモーター)を含有するベクター2、およびflpリコンビナーゼの機能発現ユニットを含有するプラスミドpflpで、トランスフェクション試薬エフェクテン(effectene)(キアゲン)を用いて、トランスフェクトした。ベクター2はGFP発現ユニットを動かすプロモーターを含まない。機能化細胞(PBG04)は、200 μg/mlからのジェネティシン選択に感受性である。ベクター2は、ジェネティシン耐性を賦与するネオマイシン耐性遺伝子がない。予想されるように、緑色蛍光はトランスフェクション後1−4日では検出できなかった。ジェネティシンを用いた選択の2週間後、GFPを強く発現する個々の安定クローンを検出できた。GFPの発現は、機能プロモーターに近接して組み込まれるかに依存する。ジェネティシン耐性は、ベクター2のATGに続くネオ耐性遺伝子の再構築に依存する。全ての場合において、frtwとfrt F5の間の配列を置き換え、機能的にCESプロモーターとGFPをリンクするとともに、ATG欠失ネオマイシン遺伝子をATGとリンクしたと結論する。
【0072】
実施例5:レプチンFcのグリコシル化パターンの研究
PB604のレプチンFcをローラーボトル培養で産生し、アフィニティクロマトグラフィ、ゲル濾過および膜濾過を含む一般的な工程で精製した。タンパク質をトリプシンで消化し、得られたペプチドをPNGase F消化により脱グリコシル化した。グリカンを2−アミノ−ベンズアミドで標識し、Phenomenex Hypersil APS−2カラムのHPLCで分離した(図16)。さらに、表5に示した個々の画分の特徴を調べるために、脱シアル化した、標識試料をMALDI−TOF−MS(BRUKER BIFLEXTM)にかけた。
【0073】
Fc上の単一のN−グリコシル化部位は、37%がシアル化された複合オリゴ糖構造をもち、この値はヒト血液中の抗体のシアル化の平均に近似する。シアル酸をさらにシアリダーゼ処理、DMB標識、およびBischoff Hypersil−ODSカラムによる分離により調べ、シアル酸リファレンスパネル(オックスフォード糖質科学(Oxford GlycoSciences))と比較した。主として、N−アセチルノイラミン酸を見出した。2%だけが、マウスミエローマ細胞で支配的な型である、免疫原性であることが示された、N−グリコリルノイラミン酸であった(Noguchi,A. et al.,J.Biochem,17(1):p.59−62 (1995))。ヒト細胞では作られず、前から存在する抗体によりクリアランスが増加することが知られている、α1,3 Gal構造はグリカンの1.3%にだけ見出された。上記の結果を表6に要約した。
【表5】
【表6】
【0074】
実施例6:PBG04の軽鎖ラムダ座に対するターゲティングベクターの調製
再編成したラムダ鎖座の構造を既知のラムダ遺伝子のcDNAとヒトゲノム配列をアラインすることにより同定した。遺伝子は、可変遺伝子、すでに合体しているJおよびHセグメントからなる。V3−19が可変遺伝子として同定された。
【0075】
この方法は定常遺伝子座が100%同一の遺伝子コピーを含むために、該遺伝子を同定するには不適当であった。PCRは、既知のリーダー配列と定常領域遺伝子間にある独特の介在配列のプライマーに基づく。プライマーV81、V83(それぞれ、配列番号:13と14)は、予想される制限パターンを示し、それゆえ、H−CB−P1の再編成されたラムダ遺伝子を構成する遺伝子(配列番号:21)としてJ2toH2を同定できる、正しいサイズのPCR産物をもたらした。この情報に基づき、再編成された座の配列を提示し、ターゲティングベクターを構築した。
【0076】
可変遺伝子V3−19のコーディング配列の5’上流に隣接する領域を、Provestartポリメラーゼ(キアゲン)を用いて、プライマーV89とV94(それぞれ、配列番号:15と18)で作製した。4kb断片をpPCR4blunttopo(インビトロジェン)にクローニングした。3プライム隣接領域を2工程で増幅した:重複PCR産物をプライマーV90 V91とV115 V116(それぞれ、配列番号:16、17、19および20)を用いて作製し、両断片に存在する一個所のSphI部位を介して並べた。隣接配列を単一ベクターPVLCLにクローニングした(配列番号:22)。
【0077】
重鎖座の挿入とは独立に遺伝子の挿入を行うために、類似ではあるがヘテロ特異的なfrtに基づく交換システムを設計した。5’3’の方向に、ヒトアルファ(1)アンチトリプシン遺伝子、ハイグロマイシン耐性マーカー、wt frt部位、およびATG欠失ヒスチジノール耐性マーカーに続く、frt F3部位、CMV EF1アルファ雑種プロモーターを含む。これらのエレメントをpVLCLにクローニングし、pVLCLaathygを作製した。
【0078】
frt wtとF5の部位は組換えを起こさないので、特異的な交換ベクターは重鎖座と軽鎖座を排他的に標的とすることができ、それぞれ、ネオマイシン耐性マーカーとヒスチジノール耐性マーカーに対するプロモーターと開始コドンを提供する。選択性を増加させるために、交換ベクターはfrt部位に対して異なるオープンリーディングフレームの開始コドンを含む。結果として、ベクターの誤ったfrt部位への取り込みは、それぞれの抗生物質への耐性を生じない。
【0079】
PVLCLaathygを電気穿孔法を用いて、PBG−04にトランスフェクトした。細胞をT75フラスコに播き、200 μg/mlのハイグロマイシンで選択をした。3週間で得られたクローンを希釈クローニング法で単離し、相同交換で得られたクローンを、蛍光標識した抗ヒト ラムダ鎖抗体を用いて、免疫蛍光シグナルなしで同定した。得られた細胞クローンを、アルファ1アンチトリプシンの発現で解析した。これらのクローンは高レベルで発現される二つの独立のトランスジーンを共発現するのに適している。好ましくは、これらの遺伝子は抗体の重鎖および軽鎖の遺伝子である。flpリコンビナーゼを用いた単一の交換反応で、重鎖および軽鎖の遺伝子をそれぞれの場所に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】概念の概観、遺伝子のfrt部位におけるIgH座への部位特異的挿入を含む高収量発現細胞系を作出するための多段階工程。 H−CB−P1のIgH座を図1aおよび図1bの上側の図式で表す。IgH座は可変遺伝子プロモーター、続いてタンパク質リーダー配列および、再編成され次にエンハンサーEμ、MARおよびCμコーディング配列をもつ特異的V、DおよびJ遺伝子を含んでいる。相同組換えの標的配列を大理石模様で示す。ベクター1(ターゲティングベクター)の隣接配列因子「Vhprom」と「Cμ」、およびゲノムDNAとの相同組換えを介して、隣接配列の間にある第一の機能化配列がゲノムDNAに導入され、組換えPBG03ゲノムが得られる。第一の機能化配列は、frt部位(frtF5、frtF3およびfrt wt)、人工強力プロモーターCES(図1a)または追加プロモーターなし(図1b)を第一の発現遺伝子(hobFc)の上流に含有する。加えて、ブラストサイジンまたはハイグロマイシン耐性遺伝子、およびATG欠損ネオマイシン遺伝子が第一の機能化配列の一部である。組換えゲノムは染色体DNAに組み込まれた第一の機能配列を有する。 FLPリコンビナーゼは、組換えH−CB−P1ゲノムのfrtF5とfrtF3部位、またはfrt wtとfrtF3部位、およびベクター2(真の目的の遺伝子が導入され、人工の、または内在性のVHプロモーターから発現される)との組換えを触媒する(それぞれ図1aおよび図1b)。frt wtとfrtF3との間にある第一の機能化配列の部分は、組換え後にATG欠損ネオマイシン遺伝子と同一のオープンリーディングフレームを有するATGが続く弱いプロモーターに置き換えられる。得られたゲノムはhobFc遺伝子およびブラストサイジンまたはハイグロマイシン耐性遺伝子を消失し、代わりに目的の遺伝子(標的遺伝子)および機能neo遺伝子を有する。
【図2】ターゲティングベクターの内在カセット(CEShobFcblas)。 CESプロモーター、hobFc融合遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子および開始コドン(ATG)欠損ネオマイシン遺伝子を含む内在カセットの詳細な構造を示す。より詳細には、内在配列は改良frt部位(frtF5)、続いて初期CMVプロモーター/エンハンサーエレメントおよび延長因子アルファ遺伝子の第一イントロンを含むハイブリッドプロモーター構造を含む。次の要素は、frt野生型部位、続いてhobFc融合遺伝子(hobFc)およびSV40ポリアデニル化シグナル(SV40PA)である。ブラストサイジン耐性遺伝子の発現を制御する弱いSV40プロモーターが続く。最後の要素は、改良frt部位(frtF3)およびそれに続くATG欠損neo遺伝子である。改良frt部位F3およびF5は同一部位で組換えを起こすが、野生型frt部位およびF5またはF3それぞれでは組換えを生じない。frt F3部位はATGを欠く隣接するオープンリーディングフレームを形成するようにneo遺伝子の上流に位置する。
【図3】隣接領域VhpromとCμを含む中間体ベクターpVCμのクローニング法。 2 kbのVHプロモーター配列を、PBG03細胞のゲノムDNAから、フォワードプライマーVHpromF(配列番号:1)とリバースプライマーVHpromR(配列番号:2)を用いて増幅した。PCR産物VHpromをpCR 4BluntTOPOベクター(インビトロジェン)にクローニングし、得られたベクターをpVHと命名した。7.4 kbのCμ領域をH−CB−P1のゲノムDNAから、二つの重複断片、すなわちCμMitteRとCμMitteFとして増幅した。プライマーCμintV(配列番号:3)とCμMitteR(配列番号:5)から産物CμMitteRが生じ、プライマーCμMitteF(配列番号:6)とリバースプライマーCμintR(配列番号:4)から断片CμMitteFが生じる。両断片をpCR 4BluntTOPOベクター(インビトロジェン)にクローニングし、得られたベクターをpCμMitteRおよびpCμMitteFとした。両方のベクターを制限酵素SpeIとDraIIIで開環し、pCμMitteRのSpeI−DraIII断片を開環したpCμMitteFに連結することにより、完全長のCμ配列を再構築した。得られたpCμは完全長のCμ領域(Cμイントロン)を有する。VHプロモーター配列およびCμ配列を、pVHおよびpCμの両者を制限酵素SpeIとPmeIで消化し、分離したVhpromのPmeI−SpeI断片をホスファターゼ処理した開環ベクターpCμに挿入することにより、一つのベクターpVHCμに結合した。
【図4】ターゲティングベクターpCESHhobFcおよびpVHCμHhobFcのクローニング法。 高活性プロモーターCESとhobFc融合遺伝子を含むターゲティングベクターpVHCμCESHhobFcを、pCESHhobFcから単離した末端を埋めたSwaI−BstBI断片を、PmeIで消化し、脱リン酸化したpVHCμベクターにライゲートすることにより作製した。hobFc融合遺伝子を有し、CESプロモーターを持たないターゲティングベクターpVHCμHhobFcを、pCESHhobFcから単離した末端を埋めたBst1107−BstBI断片を、PmeIで消化し、脱リン酸化したpVHCμベクターにライゲートすることにより作製した。
【図5】ブラストサイジン耐性をもつターゲティングベクターpVHCμCEShobFcblasおよびpVHCμhobFcblasのクローニング法。 プラスミドpcDNATRDをブラストサイジン遺伝子のドナーとして用いた。ハイグロマイシン遺伝子配列をベクターpCESHhobFcからFRT5およびネオマイシン配列とともに除去するために、ベクターをEcoRIとSalIで消化し、脱リン酸化した。ブラストサイジン耐性遺伝子配列を含むpCDNATRDのEcoRI−SalI断片を前に開環したpCESHhobFcベクターにライゲートし、得られたプラスミドをpCEShobFcblasdeletedと命名した。Frt F5配列とATG欠失ネオマイシン配列をpCESHhobFcからSalI−SalI断片として単離し、pCEShobFcblasdeletedのSalI部位に再挿入した。得られたプラスミドpCEShobFcblasをpVHCμCESHhobFcと共にpVHCμCEShobFcblasを作製するために用いた。hobFc配列とブラストサイジン遺伝子を含有するBamHI−SalI断片をpCEShobFcblasから単離し、BamHIとSalIを用いて開環したベクターpVHCμCESHhobFcに挿入し、pVHCμCEShobFcblasを得た。ベクターpVHCμhobFcblasを、hobFc遺伝子とブラストサイジン遺伝子を含むBamHI−SalI断片を、BamHIとSalIで消化したベクターpVHCμHhobFcにライゲートすることにより作製した。
【図6】H−CB−P1クローンの免疫染色。 pVHCμCESHhobFcblasをもつH−CB−P1細胞のトランスフェクションにより得られたH−CB−P1クローンを、テキサスレッド結合抗ヒトIgG、ヤギのFγ断片特異的抗体またはAMCA結合抗ヒトIgM、ヤギのFc5μ特異的抗体を用いて免疫染色した。左カラムはテキサスレッド結合抗体で染色し、UV WGフィルターで可視化した二つのH−CB−P1クローンを示す。右カラムには、AMCA結合抗IgM抗体で染色し、UVフィルターWUにより可視化した後の同一クローンを示した。上部パネルのクローンではIgGのみの染色が明らかであり、下部パネルのクローンでは両抗体による染色が観察される。最初のクローンは相同組換えから得られ、他のクローンは機能配列の非正統的挿入を含んでいる。
【図7】H−CB−P1クローンの直接免疫染色とクローンのさらなる拡張。 細胞の生存度を危険にさらすことなしにH−CB−P1クローンが免疫染色されること、および続いて、染色された細胞の拡張が可能であることが示されている。96ウェルプレートで10日間培養されたH−CB−P1クローンをテキサスレッド結合抗IgG抗体で免疫染色した。通常の光学顕微鏡で可視化した免疫染色前のクローンの写真を最上部左パネルに示した。テキサスレッド結合抗IgG抗体で免疫染色した同一クローンを最上部右パネルに示した。下部パネルはトリプシン処理後のウェルの写真である。下部左パネルに示したように、通常の光学顕微鏡下で写真を撮影すると、細胞は観察されない。右パネルはUVフィルターWUを通した同一ウェルを示している。細胞は完全にウェルからはがされ、蛍光抗体の沈殿がウェルに残り、細胞表面には接着していない。
【図8】個々のクローンの細胞培養上清の抗IgMドットブロット。 以下のクローン、1:pVHCμhobFcblas−D6;2:pVHCμhobFcblas−G8;3:pCEShobFcblas−A3;4:pVHCμCEShobFcblas−B4;5:pVHCμCEShobFcblas−D3;6:pVHCμCEShobFcblas−G8、の上清をメンブラン上にスポットし、ECR染色法を行った。最初の細胞集団は均一にIgMを産生するので、IgM発現を検出できないクローンは、ターゲティングベクターにより調節されるIgM H遺伝子の不活性化の結果である。相同隣接配列を欠くpCEShobFcblasのトランスフェクションにより生じたクローンA3はIgM座を標的とすることができず、IgMを発現する。
【図9】個々のクローンの細胞培養上清の抗IgGドットブロット。 以下のクローン、1:pVHCμhobFcblas D6;2:pVHCμhobFcblas D6(1:2希釈);3:pVHCμhobFcblas−G8;4:pVHCμhobFcblas G8(1:2希釈);5:pCEShobFcblas A3;6:pVHCμCEShobFcblas B4;7:pVHCμCEShobFcblas D3;8:pVHCμCEShobFcblas D3(1:2希釈);9:pVHCμCEShobFcblas D3(1:10希釈);10:pVHCμCEShobFcblas G8;11:hobFc標品 500 ng/ml;12:hobFc標品 50 ng/ml IgG、の上清をメンブラン上にスポットし、抗IgG抗体を用いてECR染色法を行った。
【図10】PCRによる相同組換えの検出。 相同組換え事象が(ターゲティング)ベクターとH−CB−P1細胞のIg座の間で起きているかを試験するために、PCR法を適用した。組換えにより、ATG欠損ネオマイシン遺伝子に続く、hobFc遺伝子および耐性遺伝子(ハイグロマイシンまたはブラストサイジン)がゲノムV遺伝子プロモーター配列とエンハンサーEμの間に組み込まれる。Vhprom断片の外側のゲノムV遺伝子プロモーター配列に結合するフォワードプライマーV5(配列番号:7)を、最初の機能配列内に特異的に結合するプライマーV6またはV7(それぞれ配列番号:8と9)と組み合わせた。PCR産物の存在は両方のプライマーが結合する配列の共存、すなわち相同組換えに強く依存する。陽性であることを確認するために、陽性と推定されるPCR産物を、プライマーVhpromFとVhpromR(それぞれ配列番号:1と2)を用いたネストPCR反応に用いた。a:プライマーの位置、b:PCR産物の電気泳動分析左:第一のPCR V5、V7レーン1:1kbラダー(インビトロジェン);レーン2:クローンpVHCμhobFcblas H6;レーン3:クローンpVHCμCEShobFcblas B10;レーン4:クローンpVHCμhobFcblas D4;レーン5:クローンpVHCμhobFcblas D8;レーン7:陰性コントロール H−CB−P1右:ネストPCRレーン1:1kbラダー(インビトロジェン);レーン2:陰性コントロール H−CB−P1;レーン3:クローンpVHCμCEShobFcblas H6;レーン4:クローンpVHCμhobFcblas D4;レーン5:クローンpVHCμhobFcblas E11
【図11】選択圧なしでのhobFcの発現。 細胞を3ヶ月間選択圧なしで培養した。発現を調べるために、細胞を105細胞/mlの密度で播種した。24時間後、細胞培養上清を集め、抗ヒトFc抗体を用いたウェスタンブロット(ドットブロット)にかけた。上清を左から右へ、無希釈、1:2希釈および1:10希釈の順にフィルターにのせた。左:クローンpCEShobFcblas A3(ランダム挿入)、中央上 pVHCμhobFcblas G8;中央下 pVHCμhobFcblas G8;右 pVHCμCEShobFcblas D3発現はhobFc遺伝子を含む機能化配列の相同的挿入の結果得られるクローンにおいて安定である。
【図12】モデル標的遺伝子としてGFPを用いた標的細胞クローンの生成。 クローンpVHCμCEShobFcblas D3(PBG04と改名)を第二の機能配列(frtwt、GFPオープンリーディングフレームおよびポリアデニル化シグナル、ATGおよびfrtF5に続く最小プロモーター)を含有するベクター2、およびflpリコンビナーゼの機能発現ユニットを含有するプラスミドpflpでトランスフェクトした(注:ベクターは、発現させるための機能プロモーターが欠失しているので、元の細胞ではGFPを発現できない)。G418を用いた選択の2週間後、GFPを高発現する個々の安定クローンを検出できる。G418耐性同様、GFP発現は相同組換え事象に依存する。
【図13】ヘテロハイブリドーマH−CB−P1における再編成の同定。 H−CB−P1由来の軽鎖遺伝子および重鎖遺伝子のcDNAの配列を決定し、データベースの配列と比較した。重鎖遺伝子を構成するゲノム遺伝子は、相同性から、再編成されていないゲノム配列と同一であった。V1−2、D1、J6およびμの同定を基に、再編成された座のゲノムマップを構築した。この情報を用いてPCRプライマーを設計し、5’から可変遺伝子V1−2プロモーターを伸長し、D、Jおよびμイントロン配列を含むが、可変遺伝子のATGは含まれないそれぞれの断片を増幅し、ターゲティングベクターを構築するために用いた。 ラムダ軽鎖可変遺伝子V3−19を同様に相同性検索により同定した。座が100%同一の遺伝子コピーを含んでいるので、このアプローチは定常遺伝子を同定するには不適であった。定常領域遺伝子間の介在配列のプライマーに基づくPCRから、H−CB−P1の再編成されたラムダ遺伝子を構成する遺伝子として、J2およびH2が同定された。
【図14】H−CB−P1の染色体分析。 GTGバンディング、左パネル68−94染色体、が見出された。大部分はスペクトル核型分析でマウスの染色体として同定された(中央および右パネル)。H−CB−P1内のヒト染色体を、特異的に標識したヒト染色体ライブラリーを用いたハイブリダイゼーションにより同定した。8本の完全なヒト染色体、すなわち4、5、7、10、14、17、18、22番染色体、さらに、4、8、9、10、11、14、16番染色体の断片を同定した。ヒトIgH座特異的なプローブを用いたハイブリダイゼーションの結果、完全な14番染色体上に単一のIgH座があることが明らかとなった。
【図15】哺乳類糖タンパク質のN結合オリゴ糖構造の概略図。 レプチン−Fc分子は二つのN結合オリゴ糖、Fcドメインのそれぞれの鎖に一つを含む。
【図16】レプチンFcのアミノ相−HPLC。 PBG−04のレプチンFcをローラーボトル培養で産生し、アフィニティクロマトグラフィ、ゲル濾過および膜濾過を含む一般的な方法により精製した。タンパク質をトリプシンで消化し、得られたペプチドをPNGase F消化により脱グリコシル化した。グリカンを2−アミノ−ベンズアミドで標識し、Phenomenex Hypersil APS−2−カラムのHPLCにより単離した。ピーク番号は、MALDI−TOF−MS分析で用いた画分を表す。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの糖鎖付加パターンを有する組換え遺伝子を安定的に、高収量で発現できる細胞を確立し、任意の標的遺伝子を挿入できる安定普遍前駆細胞を確立するための偏在/普遍的な方法に関する。本発明はさらに、前記方法により得られうる細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の生産は異なる用途にとって重要である。タンパク質の構造研究(合理的な薬剤の設計および薬剤の最適化はそれらに基づくものである(Antivir.Chem.Chemother.,12 Suppl.,43−49(2001)))、タンパク質(酵素)の工業用途および組換えタンパク質の臨床用途は、その効果的な生産の必要性を増加させる。2000年2月現在で、米国製薬工業協会の調べによれば、20個のモノクローナル抗体を含む122個の生物製剤が第三相試験またはFDA認可待ちのいずれかの状態にあった(K.Garber,2001,Nature Biotech. 19,184−185)。
【0003】
用途に応じて、組換えタンパク質の未変性構造および翻訳後修飾(例、グリコシル化)が必須である。バイオテクノロジーの「ペット」生物である大腸菌(E.coli)のような原核生物は、翻訳後修飾を導入する能力を欠いている。真核細胞のみが、機能的に活性のあるタンパク質を生産するためにしばしば必要とされる、翻訳と同時に、および翻訳後に必要な細胞の機構を有している。各種の異種タンパク質の生産のための各種の真核生物によるシステムが存在する。例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、またはクリベロマイセス(Kluyveromyces)属由来の真菌の発現システムが確立している(HollenbergとGelissen(1997)、Current Opinion in Biotechnology 8,554−560)。時折、真菌で遭遇するプラスミドの不安定性の問題を回避するために、異種タンパク質をコードする配列が、相同組換えにより、真菌の染色体に理想的に組み込まれる。さらに、真菌の発現システムで遭遇する問題は、異種タンパク質の過剰グリコシル化と、不正なオリゴマー化および不十分なリガンドの取り込みのような不正なフォールディングである。昆虫細胞における異種タンパク質の発現−異種タンパク質をコードするDNAはまた、組換えにより染色体に取り込まれるが−は、これらの問題を回避する。しかし、昆虫細胞はシアル酸とシアルグリカンを生産する能力を欠いている。末端のシアル酸残基は、多くの複合糖質において様々な生物学的役割を果たしている。植物はまた、組換えタンパク質の生産に用いることができる。しかし、これらの異種発現システムでは、抽出と精製が困難であることが現実に障害となっている。
【0004】
哺乳動物発現システム、培養細胞、ならびにトランスジェニック動物にはこれらの不都合はない。組換えタンパク質を培養哺乳動物細胞で一過的に、あるいは構成的(安定的)に生産できる。組換え体の一過性発現では、組換えタンパク質をコードするベクターDNAを細胞に導入し、一般的には細胞DNAに組み込まない。組換えタンパク質の発現力価は初期では高い。しかし、ベクターDNAが複製されないので、ベクターDNAはそれぞれの細胞増殖で希釈され、それゆえ、発現力価は低下する。ベクターDNAまたはベクターDNAの一部だけが非正統的に細胞のゲノムDNAと組み換わることは殆ど無く、組換えタンパク質をコードする遺伝子は安定的にゲノムに組み込まれる。組換えタンパク質をコードする遺伝子が選択マーカーと結合している場合、このカセットをもつ細胞を安定形質転換細胞として同定、単離することができる。安定形質転換体は、異種タンパク質が連続的に生産される利点を有する。発現力価は主として、プロモーターコンストラクトの強さ、染色体中の組み込み部位、コピー数および問題の組換えタンパク質の型により決定される。多くの強力なプロモーターが市販されているが、それらの転写活性は関連する転写因子の細胞レベルと組み込まれる部位のクロマチン構造に依存して変化する。例えば、染色体DNAのスキャフォールド−、またはマトリックス接着領域(S/MARエレメント)内での組み込みにより、プロモーター活性−それにより異種遺伝子の発現−が増大し、隣接するクロマチンによる不活性化から保護されることになる。それゆえ、特異的な細胞において高活性のプロモーターを選択し、染色体の活性部分へ組み込むことが非常に望ましい。好ましくは、低コピー数の異種遺伝子が一般に、多コピー遺伝子よりも安定に発現するので、単一の組み込みが望ましい。
【0005】
単一の、予め選択された高活性の座における組み込みは相同組換えにより達成できる。この方法は、典型的にはマウス胚性幹細胞に適用されるのだが、ヒト起源の体細胞では極めて効率が悪く、大規模のスクリーニングの努力が必要である。その上、殆どのヒト永久細胞系は、これらの細胞系が通常は倍数体であり、2個所以上の同一座を標的とすることが困難となるので、完全に所与の標的遺伝子の発現が止まることが望まれる場合、適用できない。リコンビナーゼ、例えばCre、flp、C13、とそれぞれの標的部位(RRS)を用いた部位特異的組換えが実行可能な代替案である(Feng,Y.Q. et al.,Journal of Molecular Biology,vol.292(4),p.779−785(1999);Schlake,T. et al.,Biochemistry,Am.Chem.Soc.,vol.244(1−2),p.185−193(October 2000);Fussenegger,M. et al.,Trends in Biotechnology,vol.17(1),p.35−42(January 1999);Groth,A.C. et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of USA,vol.97(11),p.5995−6000(May 2000))。このアプローチでは、単一のRRSをもつプラスミドを染色体に単一のRRSをターゲットするために用いることができる。この方法には、しかし、ある限定がある:すなわち、逆反応、プラスミドの切り出しが分子間の組換えで、組み込みよりも高速に起きるので、全く効率が悪い。第二に、細菌の遺伝子を含む全プラスミドが組み込まれる。第一の問題を解決するために、例えば、flpとcreの両者に対する異種特異的な標的部位を用いて、一方向性を確立した。これらのRRSをそれぞれのリコンビナーゼは認識するが、組換えを成功させるためには同一部位が必要であり、切り出し反応は排除される(Karreman S. et al.,Nucleic Acids Res.,vol.24(9),p.1616−1624(1996);Trinh,K.R. et al.,J. of Immunol. Methods,vol.244,p.185−193(2000))。しかし、ターゲティングプラスミドはそれでも染色体の単一の好ましい位置に組み込まれなければならない。そのようなまれな組み込みを見出すための大規模なスクリーニングの努力が必要である。これらのクローンはしばしば二つ以上のコピーのプラスミドを含み、不完全なコピーを含み、細菌の配列を組み込みから排除することができない。これらの細菌の配列は、標的領域をしばしば不活性化する哺乳動物細胞により認識される。それとは別に、ターゲティングカセットをレトロウイルスベクターにより組み込むことができる(Karreman S. et al.,Nucleic Acids Res.,vol.24(9),p.1616−1624(1996))。これらのベクターは染色体内の活性部位を標的とし、完全長のカセットのみが組み込まれ、単一の組み込み部位を作出するように感染量が調節される。しかし、ITRsに隣接する発現ユニットはまた、非活性化される。さらに、このシステムの使用は、発現するタンパク質の治療用途を排除するように政府発表機関に制限される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を考慮すると、組換えヒト糖タンパク質を高収量で産生する細胞を得るための対象の産物をコードする任意の遺伝子をもつ細胞系の形質転換/変換の方法、特に厄介なスクリーニング操作を必要としないか、ほとんど必要としない方法が望まれている。驚いたことに、高収量でヒト翻訳後修飾の特性を有する組換え糖タンパク質を発現する細胞が、ヒトまたは基本的にヒト雑種細胞(以下、単に「元の細胞(starting cell)」と称する)で非必須の高発現する細胞遺伝子(以下、単に「元の遺伝子(starting gene)」と称する)を最初に同定し;第二に、元の遺伝子を、部位特異的組み込みのためのリコンビナーゼ認識部位(RRSs)と随意に各種の機能配列を含有する「代替」遺伝子を含む第一のDNA配列と(例えば、適当なターゲティングカセットを用いることにより)、相同組換えにより直接的に置換し、この前駆発現細胞(機能化細胞)の安定クローンを選択/単離し;第三に、標的遺伝子産物(タンパク質)をコードする対象遺伝子(これ以後、「標的遺伝子」と称する)を、第一のターゲティングカセットに含まれるRRSsを認識するリコンビナーゼを用いた部位特異的組み込みにより導入し;最後に、大量の組換えタンパク質を産生できる安定発現細胞を選択/単離することにより取得し得ることを見出した。元の遺伝子を標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列と直接的に置換することもできる。
【0007】
上記方法に適した元の細胞が、ヒトミエローマおよびハイブリドーマ細胞、およびヒトのヘテロハイブリドーマ細胞(H−CB−P1のようなヒト−マウスのヘテロハイブリドーマ細胞を含む)のような特定の哺乳動物細胞であり、基本的にヒトのグリコシル化パターンを有するタンパク質を生産することをさらに見出した。
【0008】
本発明を用いると、対象の組換えタンパク質をコードするいかなる遺伝子も前記の特定の哺乳動物細胞に安定的に導入することが可能である。本発明を用いると、組換えタンパク質をコードする対象の遺伝子は、高発現する細胞遺伝子座に、好ましくは染色体の活性部分の高活性細胞プロモーターに近接して組み込まれる。本発明を用いると、RRSsで囲まれた代替遺伝子を有する各種起源の前駆細胞系を作製することができる。本発明を用いると、代替遺伝子を、適当なリコンビナーゼにより触媒されるRRSsでの部位特異的組換えにより、組換えタンパク質をコードする対象遺伝子と交換でき、結果として最終の高収量発現細胞を生ずる。
【0009】
最後に、ヒト−マウスのヘテロハイブリドーマが非常に明確なヒトのグリコシル化パターンを提供することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
より具体的には、本発明は、
(1)ヒトの糖鎖付加パターンを本質的に有する標的遺伝子産物を安定的に高収量で発現できる細胞を調製する方法で、その方法が
(a)ヒト細胞またはヒトの雑種細胞(元の細胞; starting cell)には必須ではない、元の遺伝子産物(starting gene product)を安定的に高収量で発現できる元の細胞を選択すること;
(b)元の細胞ゲノム内の元の遺伝子産物の座をスクリーニングすること;
(c1)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、機能化前駆細胞を得るために、一つ以上のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含む第一の機能DNA配列に置き換えること;および
(d)標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む第二の機能DNA配列を、ステップ(c1)で得られた機能化前駆細胞に、第一の機能配列で取り込まれたRRSを認識するリコンビナーゼを用いて挿入すること、または
(c2)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列に直接置き換えること、
を含む方法;
(2)(1)の方法の好ましい実施態様であって、上記の元の細胞がBリンパ球由来の不死化細胞である(好ましくは、ヘテロハイブリドーマH−CB−P1(DSM ACC 2104)のようなヒト−マウスのヘテロハイブリドーマであって、機能DNA配列の組み込みがIg座(好ましくは、前記細胞の再編成されたヒトIg座)で行われる);
(3)上記(1)または(2)の方法により得られうる標的遺伝子産物を高収量発現できる細胞;
(4)上記(1)または(2)で定義される、工程(a)から(c1)を含有する機能化細胞を調製する方法;
(5)上記(4)に定義される前駆細胞;
(6)上記(3)に定義される細胞を培養することを含有する、標的遺伝子産物を高収量発現する方法;
(7)H−CB−P1由来の細胞を培養することにより得られうる標的遺伝子産物、
を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は元の哺乳動物細胞、特にヒト細胞またはヒト雑種細胞を安定高収量発現細胞に形質転換する方法を提供する。連続的な組換え体の発現を達成するために、組換え産物をコードする遺伝子を細胞のゲノムDNAに組み込む。細胞DNAへの組換え遺伝子の組み込み部位により発現レベルを高度に決定する。それゆえ、ここで表される方法は組換え遺伝子の細胞中のゲノムの高度に転写活性を有する部分への組み込みを含む。組換えタンパク質をコードする対象遺伝子を非常に強力な組換えプロモーターの支配下に置くか、または高活性の細胞プロモーターの下流に該遺伝子を組み込むことにより、高活性の細胞プロモーターの支配下に置くことができる。
【0012】
本発明の方法(1)の好ましい実施態様において、元の細胞は元の遺伝子産物を、好ましくは、少なくとも0.3fmol/細胞/日の量のポリペプチド鎖(約90kdのタンパク質に関して30pg/細胞/日に等しい)で、より好ましくは、1fmol/細胞/日以上の量(約90kdのタンパク質に関して100pg/細胞/日に等しい)で分泌する。そうでなければ、元の細胞が元の遺伝子産物を分泌しない場合では、高発現する、好ましくは非必須の細胞内または膜タンパク質、または高発現する非コードRNAをコードする遺伝子を選択する。
【0013】
別の好ましい実施態様では、元の細胞は初期の、不死化または融合細胞、もしくはその遺伝的に修飾された細胞である。それゆえ、元の細胞は初期細胞、不死化細胞(例えば、Bリンパ球由来の不死化細胞)または腫瘍細胞、もしくはその遺伝的に修飾された細胞、雑種細胞、一般的にタンパク質製造に用いられる、HEK293、遺伝的不死化または不死化細胞系との融合により初期細胞から作製されるPER.C6ヒト細胞系のような細胞系から選択され、好ましくはヒトのハイブリドーマまたはヘテロハイブリドーマ細胞(例えば、ヒト−マウス、ヒト−ラットなど)であり、もっとも好ましくは、ヒト−マウスのヘテロハイブリドーマH−CB−P1(DSM ACC 2104;ZIM517として以前に引用した)である。
【0014】
元の細胞がヒト細胞またはヒトのヘテロハイブリドーマ(例えば、上記定義のような細胞)であるなら、前記雑種細胞またはヘテロハイブリドーマは少なくとも一つのヒト染色体を含有し、および/または、ヒトの翻訳後修飾ができることが好ましい。元の遺伝子産物がヒト遺伝子であることが特に好ましい。
【0015】
元の遺伝子産物は好ましくは、抗体、サイトカイン、ホルモン、酵素、移送タンパク質、貯蔵タンパク質、構造タンパク質などのような分泌タンパク質から選択される。元の遺伝子産物はあるいは、選択された元の細胞の主要産物である。非常に安定なIgMの発現がH−CB−P1で観察され、あるいはスクリーニング法で選択される。スクリーニングは、マイクロアレイ発現分析、2Dタンパク質ゲル電気泳動、定量的PCR、RNAse保護、ノーザンブロット、ELISAおよびウェスタンブロットを含む個々の、または複合の方法に基づくものである。これらの個々の方法の能力と感度は当業者には既知である。
【0016】
本発明の方法により任意の組換えタンパク質を産生することができる。好ましい標的遺伝子産物として、酵素、特にプロテアーゼ、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、サイトカイン、レセプターまたはその可溶型(例えば、膜透過ドメインまたは細胞内ドメインを欠くレセプター)、全長の抗体または抗体ドメイン、およびこれらのタンパク質群のドメインを合わせた融合タンパク質があげられるが、これに限定されない。
【0017】
工程(a)、(b)、(c1)および(d)を含む実施態様(1)の最初の選択肢において、元の遺伝子の置き換えはワンステップ置き換え法により行われ、ここで元の細胞は第一の機能配列を含むベクター構築物と接触し、前記第一の機能配列は不活性化し、部分的または完全に元の遺伝子産物をコードする遺伝子と置き換わる。あるいは、置き換えは二工程または複数工程法により行われ、元の遺伝子産物をコードする遺伝子は削除、または不活性化され、続いて第一の機能配列を含むベクターと接触する。前記第一の機能配列は削除された/不活性化された元の遺伝子産物の部位に組み込まれる。
【0018】
元の遺伝子の場所への第一の機能配列の特異的組み込みは、標的配列または近接する配列に相同な、ベクター中の第一の機能配列に隣接する配列により促進される。これらの隣接配列は、元の細胞のラムダ、コスミド、pacまたはbacライブラリーから得られるか、元の細胞のDNAを鋳型として用いたPCRにより生成される。標的遺伝子の場所への第一の機能配列の特異的組み込みから得られる細胞クローンの割合(パーセンテージ)は、二重選択法を用いることによりさらに増加する。ここで、陽性選択マーカーとして第一の機能配列の一部を含み、陰性選択マーカーは相同隣接配列により第一の機能配列から分離される。相同交換により、陰性選択マーカーなしで、陽性選択マーカーを組み込むことができる。要請選択マーカーの例としては、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、ネオマイシン、あるいはグルタミン合成酵素遺伝子があげられ、HSV tkまたはシトシンデアミナーゼが陰性選択マーカーである。マーカーおよびこれらの適用方法は当業者に既知である。
【0019】
相同交換から得られた細胞クローンを、第一の機能配列から発現される遺伝子産物の要素の存在と元の遺伝子の少なくとも一つの対立遺伝子不活性化により同定した。これらの細胞クローンは機能化前駆細胞を表す。
【0020】
第一の機能配列は、loxP、frt、ラムダ様ファージのatt Lとatt R、レソルバーゼまたはファージC31インテグラーゼの認識部位から選択される一つ以上のRRS(s)を含有する。前記認識部位により、例えば修飾されたloxPおよびfrt部位だけでなく、ΦC31インテグラーゼの(野生型の)認識部位により得られる、一方向の組み込みが提供されることが好ましい。第一の機能配列はさらに、マーカー配列、分泌タンパク質遺伝子、プロモーター、エンハンサー、スプライスシグナル、ポリアデニル化シグナル、IRESエレメント等から選択される配列を含むことができる。
【0021】
標的遺伝子産物の産生細胞を作製するために、機能化前駆細胞(実施態様(1)の第二の選択肢の工程(c2)で得られるような産生細胞がまだない場合は、以下を参照せよ)、例えば、PBG03クローンD3(DSM ACC2577)を次いで、第二の機能配列を含む第二のベクターと接触させる。第二の機能配列は、第一の機能配列中に存在する標的遺伝子および前記リコンビナーゼのRRS(s)を含有する。第二の機能配列はさらに、プロモーター配列、マーカー配列、第一の機能配列のRRSとは異なるリコンビナーゼ認識配列等を含有する。
【0022】
第二の機能DNA配列の組み込みを、アクセサリータンパク質(例えば、Cre、Flp、ΦC31インテグラーゼ、レソルバーゼ等)の存在、または非存在下でのリコンビナーゼのRRSの認識により、行った。これらのリコンビナーゼとアクセサリータンパク質、これらのタンパク質をコードするmRNA、もしくは、一過性発現をするためのウイルスまたは非ウイルスベクターが、第二の機能配列の供給とともに、その直前に、もしくは、その直後に供給される。
【0023】
元の遺伝子の場所に第二の機能配列を含むクローンの純粋な集団を、再構築機能選択マーカー遺伝子を用いた選択により得ることができる。例として、第一の機能配列を用いて導入した不活性化ATG欠失選択マーカー遺伝子を、活性プロモーターと第二の機能配列をもつインフレーム−ATGコドンの供給により再構築できる。
【0024】
本発明の実施態様(1)の第二の選択肢(工程(a)、(b)および(c2)を含有する)において、元の遺伝子産物をコードする遺伝子を直接(すなわち、前駆細胞の供給なしに)、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列(以降、簡単に「第三のDNA配列」と称する)と置き換えることができる。前記第三のDNA配列を前述のように、一工程または複数工程の方法で取り込むことができる。第三のDNA配列はさらに、前述の第一および第二のDNA配列と同様の(プロモーター、マーカー等のような)機能配列を含む。本発明の実施態様(1)の第二の選択肢は、たった一つの標的遺伝子産物が産生され、その結果、前駆細胞の産生が必要ないならば、特に好ましい。
【0025】
本発明の好ましい実施態様(2)において、元の細胞は好ましくは、ヒト−マウスのヘテロハイブリドーマ細胞、好ましくはヘテロハイブリドーマ細胞H−CB−P1(DSM ACC2104)である。機能DNA配列の組み込みを、Ig座で、好ましくはハイブリドーマ細胞のヒト再編成Ig座(例えば、重鎖または軽鎖(λまたはκ))の一つで行うことができる。再編成免疫グロブリン座は、ハイブリドーマを生じるBリンパ球の成熟過程で生殖系列の染色体構造から修飾された機能Ig遺伝子(重鎖λまたはκ)周辺のゲノム配列である。IgH座は染色体14q32.33に位置する。H−CB−P1において、この場所は、μイントロンを介してCμ配列(DD 296 102 B3)に隣接した、D遺伝子を介してJH6遺伝子に隣接した、再編成され、アフィニティ成熟したVH1−2遺伝子により形成される。H−CB−P1−IgH座の再編成VDJ領域の配列を配列番号:12に規定する。
【0026】
本発明の実施態様(3)および(5)の細胞はH−CB−P1(DSM ACC2104)に由来することが好ましい。さらに、本発明の実施態様(3)において、標的遺伝子産物は抗体であることが好ましい。そのような場合、細胞は好ましくはPBG04(DMS ACC2577)である。特に、抗体の発現に用いられる上記細胞において、軽鎖が不活性化され、同一の、または異なる標的遺伝子産物をコードする遺伝子で置き換えられていることが適している。
【0027】
その上、前記のように、H−CB−P1由来の細胞系の発現により得られうる標的遺伝子産物は、独特の、基本的なヒトグリコシル化パターンを有している。
【0028】
治療用途のための糖タンパク質、特に抗体は、N結合グリカンのような翻訳後修飾は哺乳動物のみで生じ、それらはこれらのタンパク質の薬学的特性に実質的な影響をもつので、典型的には哺乳動物細胞で製造される。完全に処理されたNグリカンは、コアとしてフコースを、末端にシアル酸をもつ二触角(バイアンテナリー; biantennary)構造を形成する(図15)。生理的条件下で、大部分のタンパク質は、完全な構造の先が切り取られた形をしている。グリコシル化が完了する程度は、細胞型だけでなく、培養条件にも依存する。
【0029】
シアル化、末端シアル酸のグリカンへの付加の程度は変化し、ヒト血液中の抗体で、30−40%である。しかし、シアル化されたタンパク質が高いパーセンテージであると、血液中で治療タンパク質の半減期は増加する。H−CB−P1由来の細胞系、例えばPBG04は、実施例5に見られるように、糖タンパク質の製造に広く用いられているCHO細胞およびNS0細胞に比べ、高度にシアル化された糖タンパク質を産生する。治療用糖タンパク質について、ガラクトース添加前の末端のグリカン(G0構造)が低含量であることが好都合である。そのため、G0糖タンパク質は二量体化しやすく、補体に依存した細胞毒性を調節する抗体の能力が減退する。PBG04の遺伝的組成により、G0構造が低いもの(ローラーボトル工程でレプチン−Fcの4.3%)を用いて、より完全なプロセシングが起きる。
【0030】
一般的なバイアンテナリー構造は全ての哺乳動物で形成される一方、いくつかの特異的な構造(個々の糖の間の結合)はヒトに特異的、あるいはヒトが完全に除外される。これらの構造は同様に生物学的特性に影響する。それゆえ、ヒト特異的な修飾を生成するために必要な酵素を供給し、特殊な結合の原因であるヒト細胞には存在しない酵素を欠損する、治療用途の糖タンパク質を製造するために、細胞を用いることは好適である。そのような細胞は全くヒト由来であるか、またはヒト染色体の一部を含んでいる。後者の細胞において、ヒト特異的なグリコシル化酵素がヒトに存在しない細胞を支配することが重要である。
【0031】
ノイラミン酸がN-アセチルノイラミン酸またはN-グリコリルノイラミン酸として付加されると、後者はマウス細胞の主たる構造となる。N-グリコリルノイラミン酸は旧世界猿とヒトのグリカンには存在しない。それらは免疫原性であり、治療用タンパク質に対する抗体の形成をもたらす。
【0032】
さらに、マウス細胞はもう一つのグリコシル化酵素であるアルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼを含んでいる。これはgal残基をグリカンの露出したgal残基に転移する反応を仲介する。そのような結合はまた、酵母に見出され、防御として、ヒトはこの構造に対する抗体を予め有している。認識により、免疫複合体が形成され、その結果、腎障害を起こす。レプチン−Fc由来のPBG04の1.3%だけがアルファ1,3 galを含んでいる。
【0033】
ほんの一握りのヒトタンパク質が分岐したN−アセチルグルコサミンを含んでいる。それ自体、生物学的特性に影響はしないが、酵素複合体がコアのフコシル化を仲介する別の酵素を阻害する。しばしば、分岐したN−アセチルグルコサミンをもつタンパク質において、コアのフコースがなくなり、より効果的なFc−ガンマ受容体の結合と、抗体に依存した細胞性細胞毒性(ADCC)の促進をもたらす。それゆえ細胞は、コアでないフコシル化タンパク質の割合を増加するための(1,4)−N−アセチルグルコサミントランスフェラーゼIIIを発現するように操作された。(米国特許第6,602,684号)
【0034】
コアのフコースのない高含量の糖タンパク質はまた、マウス細胞で得られる。しかし、これらのタンパク質はマウスタンパク質に特徴的な、不利な特性を含む。ヒトと、正しい染色体組成細胞をもつマウスの特異的な雑種細胞は両者の有利な特性を合わせることが可能である。PBG04のようなH−CB−P1由来の細胞系はそのような細胞系である。
【0035】
本発明はさらに、以下の実施例により説明されるが、これらは発明を限定するものではない。
【0036】
細胞系H−CB−P1は、ベルリン・ブーフ(Berlin Buch)、ロベルト−レスル通(Roberto−Rossle−Str.) 10(DDR−1115)の「ドイツ民主共和国自然科学アカデミー微生物学中央研究所(Zentralinstitut fur Molekularbiologie, Akademie der Wissenschafteen der DDR)」に、1990年3月16日に、ZIM−0517として寄託され、ドイツ、ブラウンシュバイク(Braunschweig) 38124、マシュローダー・ヴェーク(Maschroder Weg) 13のDSMZ(ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsch Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH))に、2000年12月12日に移管され、受託番号DSM ACC2104を付与された。PBG03クローンD3(pVHCμCEShobFcblas)をPBG04とリネームし、DMSZに2002年9月18日に、DSM ACC2577として寄託した。
【実施例】
【0037】
材料と方法
材料:
DNAクローニング法
ゲノムDNAの単離: T25 cm2 フラスコの細胞をトリプシン処理し(下記「トリプシン処理」の章を参照せよ)再懸濁した細胞ペレットを1.5 mlエッペンドルフチューブに移し、200 μlのPBSを添加した。チューブを5分間、13,200 rpmで遠心し、上清を捨て、ペレットを2 mlの溶液Aに再懸濁した。懸濁液をファルコンチューブ(15 ml)に移した後、133 μlの10% SDSと333 μlのプロテアーゼKを添加した。55℃で3時間のインキュベーション、または室温で一晩のインキュベーションを続けて行った。懸濁液を607 μlの6 M NaClと混合し、遠心(4300 rpm、4℃、20分)前に15秒間ボルテックスで撹拌した。上清をファルコンチューブ(15 ml)に移し、2.5 mlの100% エタノールと混合した。界面に形成された糸状のDNAの沈殿をピペットチップで取り、1/2 TE緩衝液に再懸濁した。DNAを4℃で保存する前に、56℃で完全に溶解した。
【0038】
PCR: PCR法をゲノムDNA配列の単離(調製用PCR)、またはあるDNA配列の検出(分析PCR)のために用いた。
【0039】
調製用PCR: 調製用PCR反応(50 μl)をExpand High Fidelity PCRキット(ロッシュ(Roche))を用いて、製造者の指示に従って準備した(20−30 ngの鋳型、5 μlの15 mM MgCl2緩衝液(10×)、5 μlのdNTPミックス、0.5 μlのそれぞれのプライマー(30 nM)、0.5 μlのポリメラーゼを水で50 μlにした)。PCR産物をQIAquick purification kit(キアゲン(QIAGEN))を用いて精製した。
【0040】
分析PCR: 分析PCR反応(10 μl)をTaqポリメラーゼキット(キアゲン)を用いて、製造者の指示に従って準備した(10 ngの鋳型、1 μlの10×緩衝液、0.5 μlのdNTPミックス、0.1 μlのそれぞれのプライマー(30 pM)、0.1 μlのTaqポリメラーゼを水で10 μlにした)。
【0041】
PCRサイクルのプログラムは、プライマーのアニーリング温度(表2を参照せよ)と予想されるPCR産物の長さ(伸長時間と温度が決定される;表1を参照せよ)により、それぞれの産物により変化する。
【表1】
【表2】
【0042】
プラスミドDNAの増幅、単離および定量: 大腸菌形質転換体を1 ml、30 ml、または100 ml培養で生育させ、プラスミドDNAをそれぞれMini−、Midi−、またはMaxi−プラスミド精製キット(キアゲン)を用いて単離した。製造者の指示に従った。DNA濃度を分光光度計で、260 nmと280 nmの吸収を測定することにより定量した。
【0043】
制限酵素による消化: プラスミドDNAを、1 μgのDNAあたり1単位の適当な制限酵素で、業者の推奨する緩衝液と温度を用いて消化した(表3を参照せよ)。分析に二つ以上の制限酵素が必要ならば、可能ならば、反応を同時消化で行った。さもなければ、反応液のカラム精製工程(キアゲン)を介在させて、経時的に単一の消化を行った。
【表3】
【0044】
5’突出末端をもつDNAの末端修復: EcoRIで作られるような5’突出を「平滑」にするために、消化したDNAを製造者の指示に従って、クレノウ(Klenow)断片(ロッシュ)で処理した。末端を埋める反応を熱不活性化工程(65℃、20分)により停止し、DNAをエタノール沈殿するか、または直接ゲル精製にかけた。
【0045】
ベクターDNAの脱リン酸化: 直鎖化したベクターDNAが適合する末端と自己ライゲーションすることを防ぐために(下記の「ライゲーション」を参照せよ)、DNAを製造者の指示に従い、アルカリホスファターゼ(AP)(ロッシュ)を用いて脱リン酸化した。APを熱により不活性化し(65℃、15分)、ライゲーション反応に用いる前に、DNAをゲル精製した(電気泳動については、下記の「アガロースゲル電気泳動」を参照せよ)。
【0046】
TOPOクローニング: PCR増幅産物をインビトロジェンのTOPOベクターにクローニングした。TOPOクローニングキットの指示に従い、精製されたPCR産物(0.25−2 μl)を塩溶液(0.5 μl)と混合し、水を加えて容量を2.5 μlとした後、TOPOベクター(0.5 μl)を添加した。室温で30分間のインキュベーションの後、反応チューブを氷上に移し、反応液の2 μlを「ワンショット化学的コンピテント大腸菌(one shot chemically competent E.coli)」に添加し、細胞を氷上で30分間インキュベートした。細胞に熱ショック(42℃、30秒)を与え、直ちに氷上に戻し、室温のSOC培地を250 μl添加した。混合液をカナマイシンまたはアンピシリンのいずれかを含むLBプレートに播く前に、形質転換反応液を37℃で1時間、振盪(300 rpm)しながらインキュベートした。プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0047】
ライゲーション: 全てのライゲーション反応を、0.1−1 μgの脱リン酸化ベクターと過剰量のインサートを用いて、10 μlの容量で行った。反応液は2 μlのT4ライゲーション緩衝液(Gibco BRL)と1 μlのT4リガーゼ(ロッシュ)を含み、16℃で2時間、または4℃で一晩インキュベートした。ライゲーション反応液を細菌に形質転換した。
【0048】
不要な非組換え体のレベルを下げるために、自己ライゲーションしたベクターに唯一の制限部位があるならば、ライゲーション反応液を適切な制限酵素で反応後消化した。消化後、ライゲーション反応液を、再溶解したDNAを再び形質転換反応に用いる前に、アクリルアミド存在下で、エタノール沈殿した(4℃、14,000 rpm、15分の遠心)。
【0049】
コンピテント細菌の形質転換: コンピテント大腸菌XL2(−70℃で保存)を氷上で融解し、ライゲーション反応液(氷上保存、上記「ライゲーション」を参照せよ)または1−100 ngのプラスミドDNA(再形質転換)のいずれかと混合し、氷上で20分間インキュベートした。続いて、形質転換反応液を熱ショック(30−60秒、42℃)に付し、チューブを氷上に戻した。205 μlのSOC培地(抗生物質なし)を添加し、反応液を37℃で45分間、振盪(300 rpm)しながらインキュベートした。形質転換反応液を抗生物質(カナマイシン(40−60 μg/ml)またはアンピシリン(50−100 μg/ml)のいずれか)を含むLBプレートに播き、37℃で一晩インキュベートした。細菌のコロニーをカウントし、形質転換反応の効率を計算した。
【0050】
アガロースゲル電気泳動: DNA断片をその長さに従って、0.7−1.5% アガロースゲルで分離した。アガロースを1×TAE緩衝液に溶解し、2 μlの臭化エチジウム/100 mlのアガロースを添加した。アガロースを溶解し、トレイに注いでセットした。DNA試料をローディング緩衝液オレンジG(Orange G)と混合し、水平ゲルにのせ、ランニング緩衝液として1×TAEを用いて、40−90 Vで泳動した。DNA/臭化エチジウム複合体をUV光で可視化した。
【0051】
DNA断片のゲル精製: DNAをアガロースゲルで分離し(40−80 V)、対象のDNAバンドをメスで切り出した。QIAquickゲル抽出キット(キアゲン)を用いて、製造者の指示に従って、DNAをアガロースブロックから抽出した。
【0052】
細胞培養
トリプシン処理: 接着細胞をトリプシンを用いて回収した。まず培地を除去し、細胞単層をクエン酸緩衝液(予め37℃に暖めておく)で洗浄した。少量のトリプシンを直接細胞単層に添加し、37℃で3−5分間インキュベートした。5% FCSを添加したPBG 1.0 培地を添加することにより、トリプシン処理を停止させた(表4を参照せよ)。細胞懸濁液をファルコンチューブ(50 ml)に移し、10分間遠心した(800 rpm、30℃)。細胞ペレットを新鮮な培地に再懸濁し、該細胞を電気穿孔法またはさらなる実験に用いた。
【表4】
【0053】
細胞のカウンティング
細胞をトリプシン処理した後、ノイバウワーチャンバー(ヘマトサイトメーター)でカウントした。少量の細胞懸濁液をチャンバーに入れ、該チャンバーを顕微鏡下に置いた。チャンバーの四つの四角のうちの一つの中の細胞だけをカウントし、mlあたりの細胞数を得るために、細胞数を104倍した。生細胞と死細胞を区別するために、カウント前に細胞をトリパンブルーで染色した。死細胞は青くなり、一方生細胞は色素を取り込まなかった。
【0054】
形質転換
H−CB−P1細胞の電気穿孔法: 標準的な電気穿孔法の反応では、10 μgの直鎖化したプラスミドDNAを用いた。培養培地を除去し、H−CB−P1単層をクエン酸緩衝液で洗浄し、トリプシン処理した(上記「トリプシン処理」を参照せよ)。細胞ペレットをOpti−MEM(予め37℃に暖めておく)に再懸濁し、mlあたり3×106細胞とした。700 μlの細胞懸濁液を電気穿孔法用キュベット(peqLab;EQUBIO 4mm)に移し、直鎖化したDNA(10 μg)を添加した。細胞を250 V、1500 μFで電気穿孔し、直ちに予め暖めた、5% FCSを添加したPBG 1.0 培地を入れたT75ボトルに移し、37℃、5% CO2でインキュベートした。
【0055】
選択
H−CB−P1細胞の選択: 電気穿孔したH−CB−P1細胞を2日間、37℃、5% CO2で培養した。2日目、培養培地を除去し、非接着細胞を培養培地の遠心により回収した。1 mlの培養培地(上清)を後の一過性発現試験のために凍結した。トリプシン処理した細胞単層と遠心により培養培地から回収した細胞を合わせて、沈殿とした。細胞を5% FCSを添加したPBG 1.0 培地に再懸濁し、1×106細胞/ml、1×105細胞/ml、1×104細胞/mlの希釈液を作製した。それぞれの希釈液に5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシンを添加した。選択培地を4日目、7日目、10日目に交換し、H−CB−P1クローンの生育を顕微鏡下で制御した。8日目と10日目の間に、生細胞が目視できた。13日目、クローンをトリプシン処理により回収し、細胞を96ウェルのプレートに播いたときに、ウェルに5細胞または1細胞が含まれるように、細胞ペレットをPBG 1.0 培地に懸濁した。選択圧(5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシン)をその間維持した。10日目、陽性細胞クローンと陰性細胞クローンを区別するために、細胞を免疫染色した。細胞培養培地を除去し、細胞により産生される組換えタンパク質を認識する蛍光標識された抗体(2 μg/ml)を添加した標準培地に置き換えた。抗体懸濁液を5% FCSを添加したOptiMem 1に置き換える前に、4時間、細胞単層上に置いた。細胞単層を蛍光顕微鏡で観察した。テキサスレッド結合抗体を用いる場合、470−480 nmのスペクトルを透過するUVフィルター(WG)の顕微鏡を用いた。励起したテキサスレッド標識抗体は590 nmのスペクトルの光を放出する。330−355 nmのスペクトルを透過するUVフィルター(WU)をAMCAに結合した抗体を可視化するために用いた。励起AMCAの放射光は青色のスペクトル(420 nm)を生じた。大きく、強い蛍光のクローンのみを考慮した。一つのウェルに単一のクローンのみとし、該細胞をさらにひろげた。一つのウェルに一つのクローン以上がある場合、個々のクローン(細胞)をマイクロキャピラリーでつり上げさらにひろげるために、新しい96ウェルプレートに移した(以下の「マイクロキャピラリーによるつり上げ」を参照せよ)。
【0056】
マイクロキャピラリーによるつり上げ: マイクロキャピラリーピッキング装置として、ジョイスティックにより制御される可動アームについているキャピラリーを用いた。マイクロキャピラリーとアームをフードの内側に、ジョイスティックを外側から制御した。対象のクローンを免疫染色法(上記「H−CB−P1の選択」の項に記載)により同定する場合、マイクロキャピラリーをクローンの上に置き、真空ポンプでキャピラリー内を陰圧にし、対象の細胞塊をキャピラリーに吸引した。アームを96ウェルプレートの新しいウェル上へ動かし、細胞をその中に注入した。
【0057】
凍結保存: 長期間、細胞を保存するために、トリプシン処理した細胞を1×106から1×107細胞/mlで再懸濁した。細胞を遠心(700 rpm、10分)により沈殿させ、上清を除去した。細胞を冷却した前ならし培地(900 μl)に再懸濁し、凍結バイアルを180 μlのDMSOと720 μlのFCSで満たし、900 μlの細胞懸濁液をDMSO/FCS溶液中に移した。凍結バイアルを24時間、特別な凍結容器で保存し、緩やかに細胞を凍結させた。長期間の保存のために、凍結バイアルを液体窒素タンクへ移した(−196℃保存)。
【0058】
タンパク質産物の検出
EC−ウェスタンブロット(増強化学発光): hobFC抗体の検出のために、20 μlの細胞培養上清を10 μlの5% SDSと混合し、2分間、97℃でインキュベートした。細胞培養培地はIgM抗体を含むと予想されるので、培養培地は処理しなかった。メンブラン(アマシャム−ファルマシア(Amersham−Pharmacia);ハイボンド−P)を最初にメタノールでリンスし(1分)、水で3回洗浄し(1分)、プロットトランスファー緩衝液に浸した3 MM 濾紙片に置く前に、メンブランをプロットトランスファー緩衝液に浸した。5 μlの前処理した培養培地(hobFC抗体)または5 μlの未処理の(IgM抗体)培養培地をメンブランにスポットし、1分間インキュベートした。メンブランをブロッキング緩衝液に置き、振盪しながら、30分間インキュベートし、T−PBSでの5分間の洗浄を3回行った。ブロッキングしたメンブランを検出抗体溶液(IgG 1:2000、およびIgM 1:5000)に置き、2時間インキュベートした。T−PBSでの2分、5分および10分のさらなる洗浄を続けた。メンブランを現像液(アマシャム−ファルマシア、ECL)中に置き、1分間インキュベートした。最後に、水分をどかし、3 MM 濾紙に載せ、乾燥しないようにセロファンでラップした。放射光を暗室で観察した。
【0059】
実施例1: H−CB−P1細胞のIgM領域に特異的なターゲティングベクターの調製
抗体が高発現し、タンパク質が分泌されることがよく知られているので、組換え遺伝子をIgM配列領域に挿入した。それゆえ、最終的なターゲティングベクターには標的とされるゲノムIgM配列と100%相同性を有する配列が必要である。基本のターゲティングベクターpVHCμでは、長さが2 kbのVH領域と7.4 kbのCμイントロン領域を選択した(図3を参照せよ)。両者を校正活性をもつポリメラーゼ(プルーフスタート・ポリメラーゼ(キアゲン))を用いたPCRの断片として単離し、pCR4BluntTOPOベクター(インビトロジェン)にサブクローニングし、最終的にpVHCμと命名した一つのベクターに合わせた(図3を参照せよ)。
【0060】
プラスミドpVHCμCESHhobFcとpVHCμHhobFcの調製: 基本のターゲティングベクターpVHCμは内在性カセットをもたない。CEプロモーター、代替遺伝子hobFc、三つのFRT組換え部位、さらにハイグロマイシン耐性遺伝子およびATG欠失ネオマイシン遺伝子を含む内在性カセットをベクターpCESHhobFcからBstDI−SwaI断片として単離した。断片の末端をKlenowポリメラーゼで埋め、PmeIで消化し、脱リン酸化した基本のターゲティングベクターpVHCμとライゲートした。得られたターゲティングベクターをpVHCμCESHhobFcとした。
【0061】
CESプロモーター構築物を欠くが、内在性カセットのその他の部分を全て含む第二のベクターpVHCμHhobFcをさらに構築した。BstBI−Bstl107I断片をpCESHhobFcから単離し、末端を埋めた。pCESHhobFcのBstl107I制限部位は、frt wt部位とそれに続くhobFc遺伝子のすぐ上流にあり、それゆえ単離したBstl107I−BstbI断片はプロモーターを欠いている。断片を前にPmeIで消化したpVHCμベクターにライゲートし、得られたベクターをpVHCμHhobFcとした。pVHCμCESHhobFcとpVHCμHhobFcの両ベクターにおいて、内在性カセットの活性のある耐性マーカー遺伝子はハイグロマイシン耐性遺伝子であった。ハイグロマイシン遺伝子の代わりにブラストサイジン遺伝子を含む別のセットのベクターも作製した。
【0062】
pVHCμCSHhobFcblasとpVHCμhobFcblasの構築: 内在性カセット中のマーカー遺伝子としてブラストサイジン遺伝子をもつターゲティングベクターを作製するために、ベクターpcDNATRDをブラストサイジン遺伝子のドナーとして用いた。最初の工程として、ハイグロマイシン遺伝子とブラストサイジン遺伝子の交換があげられる。このために、ブラストサイジン遺伝子をEcoRI−SalI断片として、pcDNATRDから単離した。内在性カセットベクターpcESHhobFcもEcoRI−SalIを用いて開環し、これによりハイグロマイシン遺伝子をATG欠失ネオマイシンの部分とともに除去した。ブラストサイジン遺伝子を含む断片を開環したpCESHhobFcにライゲートし、得られたベクターをpCEShobFcblasdeletedと命名した。
【0063】
第二工程は、偶然に除去されたATG欠失ネオマイシン遺伝子の再挿入であった。そのために、ATG欠失ネオマイシン遺伝子を包含する断片をpCESHhobFcから単離し、開環したベクターpCEShobFcblasdeletedに挿入した。得られたベクターをpCEShobFcblasとした。このベクターをブラストサイジン遺伝子のドナーベクターとして、pVHCμCSHhobFcとpVHCμHhobFcに用いた。BamHI−SalI断片をpCESHhobFcblasから単離し、BamHI−SalIで開環したベクターpVHCμCESHhobFcに挿入し、pVHCμCESHhobFcblasを生じさせた。CESプロモーターを欠く対照ベクターpVHCμhobFcblasを作製するために、ベクターpVHCμHhobFcもまた、BamHI−SalIで消化し、再びpCEShobFcblasから単離したBamHI−SalI断片をそこにライゲートした。
【0064】
実施例2: hobFcクローンの選択
電気穿孔法: H−CB−P1細胞をプラスミドpVHCμCshobFcblas、pVHCμhobFcblas、pVHCμHhobFcおよびpCShobFcblasを用いて、電気穿孔法で処理した。トランスフェクション効率を調べるために、細胞をプラスミドpGFPN1VAでトランスフェクトし、模擬対照として、細胞を水試料を用いて、電気穿孔処理した。トランスフェクション効率は約20%であることが明らかとなった。電気穿孔処理後2日目に、トランスフェクトしたプラスミドに応じて、ハイグロマイシンまたはブラストサイジンのいずれかを培養培地に添加した。模擬トランスフェクト細胞が全て死滅した場合、他のトランスフェクション反応の細胞を集め、96ウェルプレートのウェルあたり1細胞または5細胞のいずれかの密度で再度播いた。細胞を、適当な抗生物質を添加した培地で培養し続けた。
【0065】
選択条件を最適化するために、細胞を電気穿孔処理後2日目に、T75フラスコ中20 mlに対して104細胞、105細胞、または106細胞播いた。培地には、5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシンを添加した。14日目、cm2あたりのクローン数を調べた。クローンの最高数は、CESプロモーターを欠くプラスミド(pVHCμhobFcblas)でトランスフェクトした1×106細胞を播いたフラスコで得られた。細胞をCESプロモーターをもつプラスミドでトランスフェクトすると、1/3のクローン数となった。さらに、これらのクローンの生育はCESプロモーターをもたないものよりも悪かった。
【0066】
抗生物質がもつ、タンパク質産生クローンの選択に対する効果: T75フラスコのクローンの拡張に続き、クローンをトリプシン処理し、96ウェルプレートに5細胞/ウェルで再度播いた。培養培地には、5 μg/mlまたは10 μg/mlのブラストサイジン、または200 μg/mlまたは400 μg/mlのハイグロマイシンのいずれかを添加した。播種後10日目に、細胞をテキサスレッドを結合した抗IgG抗体とAMCA標識したIgMに対する抗体を用いて染色した。ブラストサイジンを用いて培養した細胞では、高濃度の抗生物質を用いると、陽性クローンは減少するという結果を示した。10 μg/mlのブラストサイジンを用いると、5 μg/mlの場合に比べて、100%以上のhobFcの陰性クローンを観察した。しかし、10 μg/mlのブラストサイジンを用いて培養した細胞を含む96ウェルプレートの最初の3列をカウントし、プレート全体の結果を出したが、5 μg/mlのブラストサイジンを用いて培養した細胞を含む96ウェルプレートは全ての列をカウントした。
【0067】
蛍光標識した抗体を用いた選択の利点: 免疫蛍光染色法を用いて、多数のクローンを迅速にスクリーニングできる。直接免疫法を用いて得られた結果は、標的配列のゲノムDNAへの正しい組み込みの最初の兆候であった。発現しないクローンをこの方法で容易に検出した。免疫蛍光染色法は技術的に容易で、メチルセルロース染色法よりも低濃度の抗体を必要とし、細胞の生育に障害を与えない。顕著な傷害なしに、トリプシン処理や細胞を新しい培養器に移すためのマイクロキャピラリーつり上げの前に、細胞を免疫染色することができる。
【0068】
実施例3:IgM座への相同な挿入の検出
ターゲティングベクターをデザインするため、再編成した免疫グロブリン重鎖座を、抗体のcDNA配列とヒトゲノム配列の情報を基に、組み立てた。IgMの産生がターゲティング法によりだめになることを確実にするために、ATGを含む完全なリーダー配列、V、DおよびJ遺伝子をターゲティングベクターから除き、1回の相同組換え事象によりゲノムから削除した。それゆえ、置き換え型のターゲティングベクターはIgM座と同一の遺伝子型の配列を含み、hobFc遺伝子、ブラストサイジンおよびATG欠失ネオマイシン耐性遺伝子と直接交叉できる。第14番染色体上に唯一の再編成された活性のあるIgM座が元の細胞系H−CB−P1に存在するので、相同組換え事象は、蛍光抗体染色と抗IgM抗体を用いた上清のイムノブロッティングにより検出されるIgMの発現を完全に止めてしまう。
【0069】
IgMとIgGのウェスタンブロット(ドットブロット): ドットブロット法を、直接免疫染色法で得られた結果を検証するために用いた。これらのクローンの上清(培地)について、IgMとIgGが存在するかを試験した。上清においてIgM陰性、IgG陽性であれば、相同組換えが起きたと結論できた。
【0070】
組み込まれた標的配列の検出のためのPCR: ターゲティングカセットがIgM座に組み込まれたかを検証するために、フォワードプライマーV5(配列番号:7)およびリバースプライマーV6(配列番号:8)またはV7(配列番号:9)と、鋳型として細胞クローンから単離したゲノムDNAを用いたPCR反応を準備した。プライマーV5は、ターゲティングベクターに存在するVhprom断片の外側のゲノムV遺伝子プロモーター配列に結合し、リバースプライマーV6は、CESプロモーター内側に結合し(それゆえ、CESプロモーターをもつプラスミドでトランスフェクトした細胞の場合のみ用いられる)、プライマーV7はhobFc遺伝子の内側に結合する。記載したプライマーの組合せを用いると、PCR産物の存在は両方のプライマー結合配列がともに局在すること、すなわち相同組換えに完全に依存する。PCRアッセイの感度を増加するために、一回目のPCR産物を鋳型として、プライマーVHpromF(配列番号:1)とVHpromR(配列番号:2)を用いたネストPCR反応に用いた。最終的なネストPCR産物をHincIIとDraIの制限酵素消化にかけ、得られた配列が正しいことを確認した。これら全てのアッセイから、PBG03クローンH6(pVHCμhobFcblas)、D4(pVHCμhobFcblas)、E11(pVHCμhobFcblas)、D3(pVHCμCEShobFcblas)およびG8(pVHCμhobfcblas)には正しく標的配列が組み込まれていた。クローンD3(pVHCμCEShobFcblas)をPBG04とリネームし、ドイツ微生物・細胞培養コレクション(DSMZ)に寄託した。
【0071】
実施例4:標的細胞クローンを作製するための組換え
クローンpVHCμCEShobFcblas D3(PBG04)を、第二の機能配列(frtwt、GFP ORFおよびポリアデニル化シグナル、ATGとfrt5に続く最小プロモーター)を含有するベクター2、およびflpリコンビナーゼの機能発現ユニットを含有するプラスミドpflpで、トランスフェクション試薬エフェクテン(effectene)(キアゲン)を用いて、トランスフェクトした。ベクター2はGFP発現ユニットを動かすプロモーターを含まない。機能化細胞(PBG04)は、200 μg/mlからのジェネティシン選択に感受性である。ベクター2は、ジェネティシン耐性を賦与するネオマイシン耐性遺伝子がない。予想されるように、緑色蛍光はトランスフェクション後1−4日では検出できなかった。ジェネティシンを用いた選択の2週間後、GFPを強く発現する個々の安定クローンを検出できた。GFPの発現は、機能プロモーターに近接して組み込まれるかに依存する。ジェネティシン耐性は、ベクター2のATGに続くネオ耐性遺伝子の再構築に依存する。全ての場合において、frtwとfrt F5の間の配列を置き換え、機能的にCESプロモーターとGFPをリンクするとともに、ATG欠失ネオマイシン遺伝子をATGとリンクしたと結論する。
【0072】
実施例5:レプチンFcのグリコシル化パターンの研究
PB604のレプチンFcをローラーボトル培養で産生し、アフィニティクロマトグラフィ、ゲル濾過および膜濾過を含む一般的な工程で精製した。タンパク質をトリプシンで消化し、得られたペプチドをPNGase F消化により脱グリコシル化した。グリカンを2−アミノ−ベンズアミドで標識し、Phenomenex Hypersil APS−2カラムのHPLCで分離した(図16)。さらに、表5に示した個々の画分の特徴を調べるために、脱シアル化した、標識試料をMALDI−TOF−MS(BRUKER BIFLEXTM)にかけた。
【0073】
Fc上の単一のN−グリコシル化部位は、37%がシアル化された複合オリゴ糖構造をもち、この値はヒト血液中の抗体のシアル化の平均に近似する。シアル酸をさらにシアリダーゼ処理、DMB標識、およびBischoff Hypersil−ODSカラムによる分離により調べ、シアル酸リファレンスパネル(オックスフォード糖質科学(Oxford GlycoSciences))と比較した。主として、N−アセチルノイラミン酸を見出した。2%だけが、マウスミエローマ細胞で支配的な型である、免疫原性であることが示された、N−グリコリルノイラミン酸であった(Noguchi,A. et al.,J.Biochem,17(1):p.59−62 (1995))。ヒト細胞では作られず、前から存在する抗体によりクリアランスが増加することが知られている、α1,3 Gal構造はグリカンの1.3%にだけ見出された。上記の結果を表6に要約した。
【表5】
【表6】
【0074】
実施例6:PBG04の軽鎖ラムダ座に対するターゲティングベクターの調製
再編成したラムダ鎖座の構造を既知のラムダ遺伝子のcDNAとヒトゲノム配列をアラインすることにより同定した。遺伝子は、可変遺伝子、すでに合体しているJおよびHセグメントからなる。V3−19が可変遺伝子として同定された。
【0075】
この方法は定常遺伝子座が100%同一の遺伝子コピーを含むために、該遺伝子を同定するには不適当であった。PCRは、既知のリーダー配列と定常領域遺伝子間にある独特の介在配列のプライマーに基づく。プライマーV81、V83(それぞれ、配列番号:13と14)は、予想される制限パターンを示し、それゆえ、H−CB−P1の再編成されたラムダ遺伝子を構成する遺伝子(配列番号:21)としてJ2toH2を同定できる、正しいサイズのPCR産物をもたらした。この情報に基づき、再編成された座の配列を提示し、ターゲティングベクターを構築した。
【0076】
可変遺伝子V3−19のコーディング配列の5’上流に隣接する領域を、Provestartポリメラーゼ(キアゲン)を用いて、プライマーV89とV94(それぞれ、配列番号:15と18)で作製した。4kb断片をpPCR4blunttopo(インビトロジェン)にクローニングした。3プライム隣接領域を2工程で増幅した:重複PCR産物をプライマーV90 V91とV115 V116(それぞれ、配列番号:16、17、19および20)を用いて作製し、両断片に存在する一個所のSphI部位を介して並べた。隣接配列を単一ベクターPVLCLにクローニングした(配列番号:22)。
【0077】
重鎖座の挿入とは独立に遺伝子の挿入を行うために、類似ではあるがヘテロ特異的なfrtに基づく交換システムを設計した。5’3’の方向に、ヒトアルファ(1)アンチトリプシン遺伝子、ハイグロマイシン耐性マーカー、wt frt部位、およびATG欠失ヒスチジノール耐性マーカーに続く、frt F3部位、CMV EF1アルファ雑種プロモーターを含む。これらのエレメントをpVLCLにクローニングし、pVLCLaathygを作製した。
【0078】
frt wtとF5の部位は組換えを起こさないので、特異的な交換ベクターは重鎖座と軽鎖座を排他的に標的とすることができ、それぞれ、ネオマイシン耐性マーカーとヒスチジノール耐性マーカーに対するプロモーターと開始コドンを提供する。選択性を増加させるために、交換ベクターはfrt部位に対して異なるオープンリーディングフレームの開始コドンを含む。結果として、ベクターの誤ったfrt部位への取り込みは、それぞれの抗生物質への耐性を生じない。
【0079】
PVLCLaathygを電気穿孔法を用いて、PBG−04にトランスフェクトした。細胞をT75フラスコに播き、200 μg/mlのハイグロマイシンで選択をした。3週間で得られたクローンを希釈クローニング法で単離し、相同交換で得られたクローンを、蛍光標識した抗ヒト ラムダ鎖抗体を用いて、免疫蛍光シグナルなしで同定した。得られた細胞クローンを、アルファ1アンチトリプシンの発現で解析した。これらのクローンは高レベルで発現される二つの独立のトランスジーンを共発現するのに適している。好ましくは、これらの遺伝子は抗体の重鎖および軽鎖の遺伝子である。flpリコンビナーゼを用いた単一の交換反応で、重鎖および軽鎖の遺伝子をそれぞれの場所に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】概念の概観、遺伝子のfrt部位におけるIgH座への部位特異的挿入を含む高収量発現細胞系を作出するための多段階工程。 H−CB−P1のIgH座を図1aおよび図1bの上側の図式で表す。IgH座は可変遺伝子プロモーター、続いてタンパク質リーダー配列および、再編成され次にエンハンサーEμ、MARおよびCμコーディング配列をもつ特異的V、DおよびJ遺伝子を含んでいる。相同組換えの標的配列を大理石模様で示す。ベクター1(ターゲティングベクター)の隣接配列因子「Vhprom」と「Cμ」、およびゲノムDNAとの相同組換えを介して、隣接配列の間にある第一の機能化配列がゲノムDNAに導入され、組換えPBG03ゲノムが得られる。第一の機能化配列は、frt部位(frtF5、frtF3およびfrt wt)、人工強力プロモーターCES(図1a)または追加プロモーターなし(図1b)を第一の発現遺伝子(hobFc)の上流に含有する。加えて、ブラストサイジンまたはハイグロマイシン耐性遺伝子、およびATG欠損ネオマイシン遺伝子が第一の機能化配列の一部である。組換えゲノムは染色体DNAに組み込まれた第一の機能配列を有する。 FLPリコンビナーゼは、組換えH−CB−P1ゲノムのfrtF5とfrtF3部位、またはfrt wtとfrtF3部位、およびベクター2(真の目的の遺伝子が導入され、人工の、または内在性のVHプロモーターから発現される)との組換えを触媒する(それぞれ図1aおよび図1b)。frt wtとfrtF3との間にある第一の機能化配列の部分は、組換え後にATG欠損ネオマイシン遺伝子と同一のオープンリーディングフレームを有するATGが続く弱いプロモーターに置き換えられる。得られたゲノムはhobFc遺伝子およびブラストサイジンまたはハイグロマイシン耐性遺伝子を消失し、代わりに目的の遺伝子(標的遺伝子)および機能neo遺伝子を有する。
【図2】ターゲティングベクターの内在カセット(CEShobFcblas)。 CESプロモーター、hobFc融合遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子および開始コドン(ATG)欠損ネオマイシン遺伝子を含む内在カセットの詳細な構造を示す。より詳細には、内在配列は改良frt部位(frtF5)、続いて初期CMVプロモーター/エンハンサーエレメントおよび延長因子アルファ遺伝子の第一イントロンを含むハイブリッドプロモーター構造を含む。次の要素は、frt野生型部位、続いてhobFc融合遺伝子(hobFc)およびSV40ポリアデニル化シグナル(SV40PA)である。ブラストサイジン耐性遺伝子の発現を制御する弱いSV40プロモーターが続く。最後の要素は、改良frt部位(frtF3)およびそれに続くATG欠損neo遺伝子である。改良frt部位F3およびF5は同一部位で組換えを起こすが、野生型frt部位およびF5またはF3それぞれでは組換えを生じない。frt F3部位はATGを欠く隣接するオープンリーディングフレームを形成するようにneo遺伝子の上流に位置する。
【図3】隣接領域VhpromとCμを含む中間体ベクターpVCμのクローニング法。 2 kbのVHプロモーター配列を、PBG03細胞のゲノムDNAから、フォワードプライマーVHpromF(配列番号:1)とリバースプライマーVHpromR(配列番号:2)を用いて増幅した。PCR産物VHpromをpCR 4BluntTOPOベクター(インビトロジェン)にクローニングし、得られたベクターをpVHと命名した。7.4 kbのCμ領域をH−CB−P1のゲノムDNAから、二つの重複断片、すなわちCμMitteRとCμMitteFとして増幅した。プライマーCμintV(配列番号:3)とCμMitteR(配列番号:5)から産物CμMitteRが生じ、プライマーCμMitteF(配列番号:6)とリバースプライマーCμintR(配列番号:4)から断片CμMitteFが生じる。両断片をpCR 4BluntTOPOベクター(インビトロジェン)にクローニングし、得られたベクターをpCμMitteRおよびpCμMitteFとした。両方のベクターを制限酵素SpeIとDraIIIで開環し、pCμMitteRのSpeI−DraIII断片を開環したpCμMitteFに連結することにより、完全長のCμ配列を再構築した。得られたpCμは完全長のCμ領域(Cμイントロン)を有する。VHプロモーター配列およびCμ配列を、pVHおよびpCμの両者を制限酵素SpeIとPmeIで消化し、分離したVhpromのPmeI−SpeI断片をホスファターゼ処理した開環ベクターpCμに挿入することにより、一つのベクターpVHCμに結合した。
【図4】ターゲティングベクターpCESHhobFcおよびpVHCμHhobFcのクローニング法。 高活性プロモーターCESとhobFc融合遺伝子を含むターゲティングベクターpVHCμCESHhobFcを、pCESHhobFcから単離した末端を埋めたSwaI−BstBI断片を、PmeIで消化し、脱リン酸化したpVHCμベクターにライゲートすることにより作製した。hobFc融合遺伝子を有し、CESプロモーターを持たないターゲティングベクターpVHCμHhobFcを、pCESHhobFcから単離した末端を埋めたBst1107−BstBI断片を、PmeIで消化し、脱リン酸化したpVHCμベクターにライゲートすることにより作製した。
【図5】ブラストサイジン耐性をもつターゲティングベクターpVHCμCEShobFcblasおよびpVHCμhobFcblasのクローニング法。 プラスミドpcDNATRDをブラストサイジン遺伝子のドナーとして用いた。ハイグロマイシン遺伝子配列をベクターpCESHhobFcからFRT5およびネオマイシン配列とともに除去するために、ベクターをEcoRIとSalIで消化し、脱リン酸化した。ブラストサイジン耐性遺伝子配列を含むpCDNATRDのEcoRI−SalI断片を前に開環したpCESHhobFcベクターにライゲートし、得られたプラスミドをpCEShobFcblasdeletedと命名した。Frt F5配列とATG欠失ネオマイシン配列をpCESHhobFcからSalI−SalI断片として単離し、pCEShobFcblasdeletedのSalI部位に再挿入した。得られたプラスミドpCEShobFcblasをpVHCμCESHhobFcと共にpVHCμCEShobFcblasを作製するために用いた。hobFc配列とブラストサイジン遺伝子を含有するBamHI−SalI断片をpCEShobFcblasから単離し、BamHIとSalIを用いて開環したベクターpVHCμCESHhobFcに挿入し、pVHCμCEShobFcblasを得た。ベクターpVHCμhobFcblasを、hobFc遺伝子とブラストサイジン遺伝子を含むBamHI−SalI断片を、BamHIとSalIで消化したベクターpVHCμHhobFcにライゲートすることにより作製した。
【図6】H−CB−P1クローンの免疫染色。 pVHCμCESHhobFcblasをもつH−CB−P1細胞のトランスフェクションにより得られたH−CB−P1クローンを、テキサスレッド結合抗ヒトIgG、ヤギのFγ断片特異的抗体またはAMCA結合抗ヒトIgM、ヤギのFc5μ特異的抗体を用いて免疫染色した。左カラムはテキサスレッド結合抗体で染色し、UV WGフィルターで可視化した二つのH−CB−P1クローンを示す。右カラムには、AMCA結合抗IgM抗体で染色し、UVフィルターWUにより可視化した後の同一クローンを示した。上部パネルのクローンではIgGのみの染色が明らかであり、下部パネルのクローンでは両抗体による染色が観察される。最初のクローンは相同組換えから得られ、他のクローンは機能配列の非正統的挿入を含んでいる。
【図7】H−CB−P1クローンの直接免疫染色とクローンのさらなる拡張。 細胞の生存度を危険にさらすことなしにH−CB−P1クローンが免疫染色されること、および続いて、染色された細胞の拡張が可能であることが示されている。96ウェルプレートで10日間培養されたH−CB−P1クローンをテキサスレッド結合抗IgG抗体で免疫染色した。通常の光学顕微鏡で可視化した免疫染色前のクローンの写真を最上部左パネルに示した。テキサスレッド結合抗IgG抗体で免疫染色した同一クローンを最上部右パネルに示した。下部パネルはトリプシン処理後のウェルの写真である。下部左パネルに示したように、通常の光学顕微鏡下で写真を撮影すると、細胞は観察されない。右パネルはUVフィルターWUを通した同一ウェルを示している。細胞は完全にウェルからはがされ、蛍光抗体の沈殿がウェルに残り、細胞表面には接着していない。
【図8】個々のクローンの細胞培養上清の抗IgMドットブロット。 以下のクローン、1:pVHCμhobFcblas−D6;2:pVHCμhobFcblas−G8;3:pCEShobFcblas−A3;4:pVHCμCEShobFcblas−B4;5:pVHCμCEShobFcblas−D3;6:pVHCμCEShobFcblas−G8、の上清をメンブラン上にスポットし、ECR染色法を行った。最初の細胞集団は均一にIgMを産生するので、IgM発現を検出できないクローンは、ターゲティングベクターにより調節されるIgM H遺伝子の不活性化の結果である。相同隣接配列を欠くpCEShobFcblasのトランスフェクションにより生じたクローンA3はIgM座を標的とすることができず、IgMを発現する。
【図9】個々のクローンの細胞培養上清の抗IgGドットブロット。 以下のクローン、1:pVHCμhobFcblas D6;2:pVHCμhobFcblas D6(1:2希釈);3:pVHCμhobFcblas−G8;4:pVHCμhobFcblas G8(1:2希釈);5:pCEShobFcblas A3;6:pVHCμCEShobFcblas B4;7:pVHCμCEShobFcblas D3;8:pVHCμCEShobFcblas D3(1:2希釈);9:pVHCμCEShobFcblas D3(1:10希釈);10:pVHCμCEShobFcblas G8;11:hobFc標品 500 ng/ml;12:hobFc標品 50 ng/ml IgG、の上清をメンブラン上にスポットし、抗IgG抗体を用いてECR染色法を行った。
【図10】PCRによる相同組換えの検出。 相同組換え事象が(ターゲティング)ベクターとH−CB−P1細胞のIg座の間で起きているかを試験するために、PCR法を適用した。組換えにより、ATG欠損ネオマイシン遺伝子に続く、hobFc遺伝子および耐性遺伝子(ハイグロマイシンまたはブラストサイジン)がゲノムV遺伝子プロモーター配列とエンハンサーEμの間に組み込まれる。Vhprom断片の外側のゲノムV遺伝子プロモーター配列に結合するフォワードプライマーV5(配列番号:7)を、最初の機能配列内に特異的に結合するプライマーV6またはV7(それぞれ配列番号:8と9)と組み合わせた。PCR産物の存在は両方のプライマーが結合する配列の共存、すなわち相同組換えに強く依存する。陽性であることを確認するために、陽性と推定されるPCR産物を、プライマーVhpromFとVhpromR(それぞれ配列番号:1と2)を用いたネストPCR反応に用いた。a:プライマーの位置、b:PCR産物の電気泳動分析左:第一のPCR V5、V7レーン1:1kbラダー(インビトロジェン);レーン2:クローンpVHCμhobFcblas H6;レーン3:クローンpVHCμCEShobFcblas B10;レーン4:クローンpVHCμhobFcblas D4;レーン5:クローンpVHCμhobFcblas D8;レーン7:陰性コントロール H−CB−P1右:ネストPCRレーン1:1kbラダー(インビトロジェン);レーン2:陰性コントロール H−CB−P1;レーン3:クローンpVHCμCEShobFcblas H6;レーン4:クローンpVHCμhobFcblas D4;レーン5:クローンpVHCμhobFcblas E11
【図11】選択圧なしでのhobFcの発現。 細胞を3ヶ月間選択圧なしで培養した。発現を調べるために、細胞を105細胞/mlの密度で播種した。24時間後、細胞培養上清を集め、抗ヒトFc抗体を用いたウェスタンブロット(ドットブロット)にかけた。上清を左から右へ、無希釈、1:2希釈および1:10希釈の順にフィルターにのせた。左:クローンpCEShobFcblas A3(ランダム挿入)、中央上 pVHCμhobFcblas G8;中央下 pVHCμhobFcblas G8;右 pVHCμCEShobFcblas D3発現はhobFc遺伝子を含む機能化配列の相同的挿入の結果得られるクローンにおいて安定である。
【図12】モデル標的遺伝子としてGFPを用いた標的細胞クローンの生成。 クローンpVHCμCEShobFcblas D3(PBG04と改名)を第二の機能配列(frtwt、GFPオープンリーディングフレームおよびポリアデニル化シグナル、ATGおよびfrtF5に続く最小プロモーター)を含有するベクター2、およびflpリコンビナーゼの機能発現ユニットを含有するプラスミドpflpでトランスフェクトした(注:ベクターは、発現させるための機能プロモーターが欠失しているので、元の細胞ではGFPを発現できない)。G418を用いた選択の2週間後、GFPを高発現する個々の安定クローンを検出できる。G418耐性同様、GFP発現は相同組換え事象に依存する。
【図13】ヘテロハイブリドーマH−CB−P1における再編成の同定。 H−CB−P1由来の軽鎖遺伝子および重鎖遺伝子のcDNAの配列を決定し、データベースの配列と比較した。重鎖遺伝子を構成するゲノム遺伝子は、相同性から、再編成されていないゲノム配列と同一であった。V1−2、D1、J6およびμの同定を基に、再編成された座のゲノムマップを構築した。この情報を用いてPCRプライマーを設計し、5’から可変遺伝子V1−2プロモーターを伸長し、D、Jおよびμイントロン配列を含むが、可変遺伝子のATGは含まれないそれぞれの断片を増幅し、ターゲティングベクターを構築するために用いた。 ラムダ軽鎖可変遺伝子V3−19を同様に相同性検索により同定した。座が100%同一の遺伝子コピーを含んでいるので、このアプローチは定常遺伝子を同定するには不適であった。定常領域遺伝子間の介在配列のプライマーに基づくPCRから、H−CB−P1の再編成されたラムダ遺伝子を構成する遺伝子として、J2およびH2が同定された。
【図14】H−CB−P1の染色体分析。 GTGバンディング、左パネル68−94染色体、が見出された。大部分はスペクトル核型分析でマウスの染色体として同定された(中央および右パネル)。H−CB−P1内のヒト染色体を、特異的に標識したヒト染色体ライブラリーを用いたハイブリダイゼーションにより同定した。8本の完全なヒト染色体、すなわち4、5、7、10、14、17、18、22番染色体、さらに、4、8、9、10、11、14、16番染色体の断片を同定した。ヒトIgH座特異的なプローブを用いたハイブリダイゼーションの結果、完全な14番染色体上に単一のIgH座があることが明らかとなった。
【図15】哺乳類糖タンパク質のN結合オリゴ糖構造の概略図。 レプチン−Fc分子は二つのN結合オリゴ糖、Fcドメインのそれぞれの鎖に一つを含む。
【図16】レプチンFcのアミノ相−HPLC。 PBG−04のレプチンFcをローラーボトル培養で産生し、アフィニティクロマトグラフィ、ゲル濾過および膜濾過を含む一般的な方法により精製した。タンパク質をトリプシンで消化し、得られたペプチドをPNGase F消化により脱グリコシル化した。グリカンを2−アミノ−ベンズアミドで標識し、Phenomenex Hypersil APS−2−カラムのHPLCにより単離した。ピーク番号は、MALDI−TOF−MS分析で用いた画分を表す。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの糖鎖付加パターンを本質的に有する標的遺伝子産物を安定的に高収量で発現できる細胞を調製する方法で、その方法が
(a)ヒト細胞またはヒトの雑種細胞(元の細胞)には必須ではない、元の遺伝子産物を安定的に高収量で発現できる元の細胞を選択すること;
(b)元の細胞ゲノム内の元の遺伝子産物の座をスクリーニングすること;
(c1)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、機能化前駆細胞を得るために、一つ以上のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含む第一の機能DNA配列に置き換えること;および
(d)標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む第二の機能DNA配列を、ステップ(c1)で得られた機能化前駆細胞に、第一の機能配列で取り込まれたRRSを認識するリコンビナーゼを用いて挿入すること、または
(c2)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列に直接置き換えること、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
(i)元の細胞が元の遺伝子産物を、好ましくは少なくとも0.3 fmol/細胞/日のポリペプチド量、および、より好ましくは1 fmol/細胞/日以上の量分泌し;および/または
(ii)元の細胞が初代不死化または融合細胞、またはその遺伝的改変細胞であり;および/または
(iii)元の細胞がヒトの雑種細胞であるならば、元の遺伝子産物はヒト遺伝子であり;および/または
(iv)元の遺伝子産物が分泌タンパク質、例えば抗体、サイトカイン、ホルモン、酵素、移送タンパク質等から選択される、
方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法であって、元の細胞がBリンパ球、好ましくはヒトミエローマまたはハイブリドーマ、またはヒトのヘテロハイブリドーマ、および、より好ましくはヒト−マウスのヘテロハイブリドーマH−CB−P1(DSM ACC 2104)である方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法であって、機能DNA配列の挿入が前記元の細胞の再編成Ig座で、好ましくは再編成免疫グロブリンH座またはλ座で行われる方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の方法であって、元の遺伝子産物の座が
(i)既知である、またはマイクロアレイ発現解析、2Dタンパク質ゲル電気泳動、定量的PCR、RNAse保護、ノーザンブロット、ELISA、ウェスタンブロットおよびそれらの組み合わせを含むスクリーニング手順により決定される;および/または
(ii)本質的にヒトの糖鎖付加パターンを与えるように選択される、
方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の方法であって、元の遺伝子の置換が
(i)ワンステップ置換法により行われる、ここで元の細胞は第一の機能配列を含むベクター構築物に接触し、前記第一の機能配列が元の遺伝子産物をコードする遺伝子を置換する;または
(ii)2または複数ステップ法により行われる、ここで第一の遺伝子産物をコードする遺伝子が削除または不活化され、および続いて第一の機能配列を含むベクター構築物に接触し、前記第一の機能配列が削除または不活化された元の遺伝子産物の部位で取り込まれる、
方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の方法であって、第一の機能配列が
(i)loxP、frt、ラムダ様ファージのattLおよびattR部位、およびレソルバーゼまたはファージC31インテグラーゼの認識部位から選択される一つ以上のRRS、好ましくは一方向の挿入ができるRRS、例えば改良loxP部位、frt部位等を含み;および/または
(ii)さらに、マーカー配列、分泌タンパク質、プロモーター、エンハンサー、スプライスシグナル、ポリアデニル化シグナルおよびIRES因子から選択される機能配列を含み;および/または
(iii)標的遺伝子または隣接する配列に相同な配列でベクターにつながっている、
方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の方法であって、
(i)第二の機能DNA配列の挿入が、第二の機能配列の送達とともに、その直前、もしくはその直後に、第一の機能配列中に存在するRRSを認識するリコンビナーゼを送達することにより行われ;
(ii)インテグラーゼがCre、Flp、ΦC31インテグラーゼ、レソルバーぜ等から選択され;
(iii)標的遺伝子産物が酵素、ホルモン、サイトカイン、受容体、抗体、抗体ドメイン、前記遺伝子産物を含む融合タンパク質等から選択され;
(iv)第二の機能DNA配列がさらに、プロモーター配列、マーカー配列、スプライスドナーおよびアクセプター配列、第一の機能配列のRRSとは異なるリコンビナーゼ認識配列等から選択される機能配列を含む、
方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一つに記載の方法であって、元の遺伝子産物をコードする遺伝子が直接、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列と置き換えられる、方法。
【請求項10】
請求項1から6記載のステップ(a)から(c1)を含む機能化細胞の調製方法。
【請求項11】
請求項10記載の機能化細胞。
【請求項12】
請求項1から9記載の方法により得られうる標的遺伝子産物を高収量発現できる細胞。
【請求項13】
標的遺伝子産物が抗体、好ましくは細胞がPBG04(DMS ACC2577)である、請求項12記載の細胞。
【請求項14】
H−CB−P1(DSM ACC2104)に由来する、請求項11、12もしくは13記載の細胞。
【請求項15】
さらに不活化された、または同一標的遺伝子産物または異種標的遺伝子産物をコードする遺伝子で置換されたその軽鎖を有する、請求項13または14記載の細胞。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか一つに記載の細胞を培養することを特徴とする標的遺伝子産物の高収量発現方法。
【請求項17】
請求項14または15記載の細胞を培養することにより得られうる標的遺伝子産物。
【請求項1】
ヒトの糖鎖付加パターンを本質的に有する標的遺伝子産物を安定的に高収量で発現できる細胞を調製する方法で、その方法が
(a)ヒト細胞またはヒトの雑種細胞(元の細胞)には必須ではない、元の遺伝子産物を安定的に高収量で発現できる元の細胞を選択すること;
(b)元の細胞ゲノム内の元の遺伝子産物の座をスクリーニングすること;
(c1)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、機能化前駆細胞を得るために、一つ以上のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含む第一の機能DNA配列に置き換えること;および
(d)標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む第二の機能DNA配列を、ステップ(c1)で得られた機能化前駆細胞に、第一の機能配列で取り込まれたRRSを認識するリコンビナーゼを用いて挿入すること、または
(c2)元の遺伝子産物をコードする遺伝子を、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列に直接置き換えること、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
(i)元の細胞が元の遺伝子産物を、好ましくは少なくとも0.3 fmol/細胞/日のポリペプチド量、および、より好ましくは1 fmol/細胞/日以上の量分泌し;および/または
(ii)元の細胞が初代不死化または融合細胞、またはその遺伝的改変細胞であり;および/または
(iii)元の細胞がヒトの雑種細胞であるならば、元の遺伝子産物はヒト遺伝子であり;および/または
(iv)元の遺伝子産物が分泌タンパク質、例えば抗体、サイトカイン、ホルモン、酵素、移送タンパク質等から選択される、
方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法であって、元の細胞がBリンパ球、好ましくはヒトミエローマまたはハイブリドーマ、またはヒトのヘテロハイブリドーマ、および、より好ましくはヒト−マウスのヘテロハイブリドーマH−CB−P1(DSM ACC 2104)である方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法であって、機能DNA配列の挿入が前記元の細胞の再編成Ig座で、好ましくは再編成免疫グロブリンH座またはλ座で行われる方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の方法であって、元の遺伝子産物の座が
(i)既知である、またはマイクロアレイ発現解析、2Dタンパク質ゲル電気泳動、定量的PCR、RNAse保護、ノーザンブロット、ELISA、ウェスタンブロットおよびそれらの組み合わせを含むスクリーニング手順により決定される;および/または
(ii)本質的にヒトの糖鎖付加パターンを与えるように選択される、
方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の方法であって、元の遺伝子の置換が
(i)ワンステップ置換法により行われる、ここで元の細胞は第一の機能配列を含むベクター構築物に接触し、前記第一の機能配列が元の遺伝子産物をコードする遺伝子を置換する;または
(ii)2または複数ステップ法により行われる、ここで第一の遺伝子産物をコードする遺伝子が削除または不活化され、および続いて第一の機能配列を含むベクター構築物に接触し、前記第一の機能配列が削除または不活化された元の遺伝子産物の部位で取り込まれる、
方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の方法であって、第一の機能配列が
(i)loxP、frt、ラムダ様ファージのattLおよびattR部位、およびレソルバーゼまたはファージC31インテグラーゼの認識部位から選択される一つ以上のRRS、好ましくは一方向の挿入ができるRRS、例えば改良loxP部位、frt部位等を含み;および/または
(ii)さらに、マーカー配列、分泌タンパク質、プロモーター、エンハンサー、スプライスシグナル、ポリアデニル化シグナルおよびIRES因子から選択される機能配列を含み;および/または
(iii)標的遺伝子または隣接する配列に相同な配列でベクターにつながっている、
方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の方法であって、
(i)第二の機能DNA配列の挿入が、第二の機能配列の送達とともに、その直前、もしくはその直後に、第一の機能配列中に存在するRRSを認識するリコンビナーゼを送達することにより行われ;
(ii)インテグラーゼがCre、Flp、ΦC31インテグラーゼ、レソルバーぜ等から選択され;
(iii)標的遺伝子産物が酵素、ホルモン、サイトカイン、受容体、抗体、抗体ドメイン、前記遺伝子産物を含む融合タンパク質等から選択され;
(iv)第二の機能DNA配列がさらに、プロモーター配列、マーカー配列、スプライスドナーおよびアクセプター配列、第一の機能配列のRRSとは異なるリコンビナーゼ認識配列等から選択される機能配列を含む、
方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一つに記載の方法であって、元の遺伝子産物をコードする遺伝子が直接、標的遺伝子産物をコードするDNA配列を含む機能DNA配列と置き換えられる、方法。
【請求項10】
請求項1から6記載のステップ(a)から(c1)を含む機能化細胞の調製方法。
【請求項11】
請求項10記載の機能化細胞。
【請求項12】
請求項1から9記載の方法により得られうる標的遺伝子産物を高収量発現できる細胞。
【請求項13】
標的遺伝子産物が抗体、好ましくは細胞がPBG04(DMS ACC2577)である、請求項12記載の細胞。
【請求項14】
H−CB−P1(DSM ACC2104)に由来する、請求項11、12もしくは13記載の細胞。
【請求項15】
さらに不活化された、または同一標的遺伝子産物または異種標的遺伝子産物をコードする遺伝子で置換されたその軽鎖を有する、請求項13または14記載の細胞。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか一つに記載の細胞を培養することを特徴とする標的遺伝子産物の高収量発現方法。
【請求項17】
請求項14または15記載の細胞を培養することにより得られうる標的遺伝子産物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2006−500937(P2006−500937A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540785(P2004−540785)
【出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011027
【国際公開番号】WO2004/031383
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505123882)プロバイオゲン アーゲー (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011027
【国際公開番号】WO2004/031383
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505123882)プロバイオゲン アーゲー (4)
【Fターム(参考)】
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