説明

ヒトアポリポタンパク質A−IIのアミノ酸断片又はその改変体を含有する炎症性疾患予防・治療剤

【課題】炎症性サイトカインの産生、ケモカイン産生或いはT細胞増殖を伴う肝炎、リウマチなどの炎症性疾患に対して副作用の少ない予防・治療剤が強く望まれていた。
【解決手段】アポリポタンパク質A−IIの断片である配列番号2記載の範囲に存在し、少なくとも配列番号23記載のアミノ酸配列を含む、あるいは、配列番号4、配列番号5記載のアミノ酸配列を含む8個〜30個のアミノ酸よりなるペプチド及びその改変体が、炎症性サイトカイン、ケモカインの産生抑制、又はT細胞の増殖を抑制し、それらを含む製剤が炎症性疾患を予防・治療することができることを突き止め、前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性サイトカインの産生の抑制、ケモカイン産生の抑制或いはT細胞の増殖を抑制するペプチド又はその改変体及びそれを含有する炎症性疾患予防・治療剤である。更にいえば本発明は、ヒトアポリポタンパク質A−IIのアミノ酸配列において抗炎症性の作用部位を持つペプチド又はその改変体及びそれを含有する炎症性疾患予防・治療剤である。
【背景技術】
【0002】
炎症性サイトカインの産生、ケモカイン産生或いはT細胞の増殖に重要な役割を果たしているのは免疫担当細胞である。血中・骨髄中などに存在するリンパ球(T細胞、B細胞、単球、好中球など)や脳、肝臓などの様々な臓器に常在する細胞(マクロファージ、樹状細胞、血管内皮細胞、組織の実質細胞など)などの免疫応答に関わる全ての細胞が免疫担当細胞であり、これらの細胞から免疫応答を活性化する液性因子としてサイトカイン、ケモカインや各種炎症性物質などが分泌される。また液性因子の他に細胞間相互作用により効果を発揮する細胞性免疫も活性化される。
【0003】
免疫系活性化の端的な現象としての炎症は、細菌感染や化学作用、物理作用により身体組織が傷害を受けた時に免疫系が働き、それによって腫れや痛み、発熱などを起こすなどの生体防御反応によって生体に出現した症候である。このような炎症部位では様々な炎症性サイトカイン、ケモカインが産生され、炎症部位に多くのリンパ球が浸潤する。主な炎症性サイトカインとして、TNF−αがあるが、このほかに、IFN−γ、MCP−1などもよく知られている。また、抗原によってリンパ球が活性化された場合には、リンパ球の中の1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)がインターロイキン2(IL−2)、インターフェロン−γ(IFN−γ)などのサイトカインを産生し、産生されたIL−2及びIFN−γによって、リンパ球、特にT細胞が増殖及び分化することが知られている。
【0004】
MCP−1(monocyte chemoattractant protein−1)は単球走化活性因子(monocyte chemotactic and activating factor:MCAF)とも呼ばれ、その構造的及び機能的類似点より、IL−8とファミリーを構成する。単球特異的遊走活性及び好酸球ヒスタミン遊離作用等を有し、炎症や生体防御等に深く関与していると考えられる。特に、単球の走化及び活性化作用から、各種の炎症、自己免疫疾患、動脈硬化や腫瘍などへの関与が、また、好塩基球活性化作用から、アレルギー反応への関与が推測されている。
【0005】
MCP−1は単球及びマクロファージに作用して、炎症局所への走化性の亢進と活性化を促す役割を担っており、いくつかの炎症反応の進展に関わっていると考えられている。従って、MCP−1の作用を抑制する物質がこれら炎症反応の予防或いは治療に役立つと考えられ、MCP−1に対するモノクローナル抗体(特許文献1)、抗体フラグメント(特許文献2)、レセプタータンパク質(特許文献3)が報告されている。しかし、MCP−1の作用を抑制する物質は、臨床にはまだ使用されていない。
【0006】
TNF−αは、主にマクロファージから産生され、好中球、線維芽細胞、リンパ球(T細胞)、NK細胞、肥満細胞などからも産生されて、腫瘍細胞を障害する(抗腫瘍効果)が、内因性発熱物質でもある。低濃度のTNF−αは、血管内皮細胞に作用し、接着分子の発現を増強し、IL−1、IL−6などのサイトカインの産生を促進させる。高濃度のTNF−αは、肝臓で、急性期蛋白質の産生を促進し、IFN−α産生を抑制する。
【0007】
TNF−αは、何らかの原因によって過剰に生産され続けるとリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、2型糖尿病などさまざまな疾病を引き起こす。そのため、このような病気に罹患した患者に対してTNF−αなど炎症性サイトカインの産生を抑制する薬剤が開発されており、イブプロフェンやインドメタシン等既存の抗炎症剤の他、サリドマイド誘導体(非特許文献1参照)、ピラゾロン誘導体(非特許文献2参照)、スベリヒユ科植物のアルカロイド(特許文献4参照)、プロテオグリカン(特許文献5参照)、HDL、アポリポタンパク質A−I及びアポリポタンパク質A−II(特許文献6参照)などが報告されている。
【0008】
最近では、炎症性サイトカインの作用を抑えることによってリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、2型糖尿病等の炎症性疾患を治癒するめにTNF−α阻害薬が開発され、治療に大きく貢献している。しかしその一方で、TNF−αモノクロール抗体製剤では、点滴後アナフィラキシー様症状(発熱、呼吸困難、気管支痙攣、血圧低下、血管浮腫、チアノーゼ、蕁麻疹)の発現や、投与後3日以上経過したあとに重篤な遅効性過敏症(筋肉痛、発疹、発熱、掻痒、浮腫、蕁麻疹)の発現が見られることがあり、さらに重要な副作用として、免疫を強力に抑制するので感染症(敗血症、真菌感染症を含む日和見感染症)に罹患しやすくなる。
【0009】
IL−2は、主としてT細胞(CD4+、CD8+)が分泌するサイトカインで、133個のアミノ酸よりなる。IL−2はT細胞増殖因子(TCGF)とも呼ばれ、T細胞を増殖させるが、IL−2はT細胞ばかりでなく、B細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球等にも作用を及ぼすことが知られている。そして、これら細胞の細胞表面にはIL−2受容体が発現おり、免疫及び炎症反応の重要な調節因子である。
IL−2産生抑制により、慢性関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬及び組織移植片の拒絶反応などの疾患状態で治療効果を示すことが予想される。
【0010】
IFN−γは、活性化されたT細胞で産生され免疫系と炎症反応に対して調節作用を有し、多くの疾患で組織中や血液中に検出される。IFN−γが病態形成に強く関与していると考えられる疾患には、ウィルス感染症、ウィルス以外の微生物による感染症、慢性関節リウマチ、SLE等の膠原病、動脈硬化、糖尿病、劇症肝炎、悪性腫瘍、川崎病等が挙げられる
【0011】
T細胞はリンパ球の一種で、骨髄で生産された前駆細胞が胸腺での選択を経て分化成熟したものである。正常なT細胞は哺乳動物の免疫応答の不可欠な部分であるが、T細胞の異常な増殖により、病態が発症する場合がある。例えば、自己免疫疾患として、全身性狼瘡エリテマトーデス、慢性関節リウマチ及び多発性硬化症がある。T細胞は免疫応答の不可欠な部分である。したがって、T細胞増殖の抑制を目的とする治療法は自己免疫疾患を治療するために非常に望ましい。
【0012】
ヒトアポリポタンパク質A−IIは人の血液中に常在する高密度リポタンパク質(HDL)の主要な構成成分であり、その化学構造はすでに明らかにされていて、配列番号1に示した77個のアミノ酸からなるポリペプチドである。このヒトアポリポタンパク質A−IIは、HDL中では通常第6残基目のシステインでジスルフィド結合したダイマーとして存在することが知られている(非特許文献3)。
【0013】
ヒトアポリポタンパク質A−IIの活性部位として、N末端から数えて17番目から30番目(17−30)までのアミノ酸配列及び51番目から60番目(51−60)までのアミノ酸配列を有するペプチドが知られている(特許文献7)。しかし、その他活性部位についての具体的な記載はなく、抗炎症又はサイトカインを抑制するアミノ酸配列についてもなんらの記載もない。また、ウシアポリポタンパク質A−IIについては、抗菌活性(特許文献8参照)について記載されている。ウシアポリポタンパク質A−II,ウシアポリポタンパク質A−IIフラグメント及びヒトアポリポタンパク質A−IIについては、線維芽細胞増殖活性(特許文献9参照)を示すとの記載はあるが、抗炎症又はサイトカインを抑制するアミノ酸配列についてはなんらの記載もない。
【0014】
炎症を抑制するペプチドとして、アポリポタンパク質A−Iのフラグメント(特許文献6参照)、TNFやIL−6等サイトカインを抑制するペプチド(特許文献10)、ケモカインレセプターCCR3のアンタゴニストポリペプチド(特許文献11)、ApoE受容体結合ペプチド(特許文献12)等が知られているが、アポリポタンパク質A−IIのフラグメントでの知見はない。
【特許文献1】特許第3920215号公報
【特許文献2】WO2004/024921号公報
【特許文献3】特開平9−238688号公報
【特許文献4】特開2003−26586号公報
【特許文献5】特開2007−131548号公報
【特許文献6】特表2004−500105号公報
【特許文献7】WO87/02062号公報
【特許文献8】特許第3734885号公報
【特許文献9】特許第3913537号公報
【特許文献10】特開2004−196707号公報
【特許文献11】特開2001−29079号公報
【特許文献12】特表2005−511514号公報
【非特許文献1】S. Niwayama et al., J. Med. Chem., 39, 3044−3045, 1996
【非特許文献2】M.P. Clark et al., J. Med. Chem., 47, 2724−2727, 2004
【非特許文献3】The Lipid Vol.2, No.3 243−249, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明課題は、ヒトアポリポタンパク質A−IIのアミノ酸配列中の抗炎症性作用部位を持つペプチドを含む副作用のない炎症性疾患の治療、予防剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、77個のアミノ酸からなるヒトアポリポタンパク質A−II(配列番号1)のアミノ酸配列からの種々の断片ペプチドを調製し、それぞれの各種生理学的特性を精査した結果、ある特定のペプチド断片が抗炎症性を有することを見いだし、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)配列番号2に記載のペプチドおいて、8個〜30個の連続したアミノ酸からなるペプチド又はその改変体を含んでなる炎症性疾患予防・治療剤。
(2)8個〜30個の連続したアミノ酸からなるペプチド又はその改変体がMCP−1、TNF−α、IFN−γ又はIL−2の産生抑制、もしくはT細胞の増殖を抑制するものである(1)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(3)8個〜30個の連続したアミノ酸からなるペプチドが配列番号23のペプチドを含むものである(1)又は(2)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(4)配列番号2に記載のペプチドにおいて、配列番号4又は配列番号5のペプチドを含む20〜30個の連続したアミノ酸からなる(1)又は(2)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(5)ペプチドの改変体が、1つ以上のアミノ酸の置換、1つ以上のアミノ酸の欠失、1つ以上のアミノ酸の付加、あるいはS−S結合の連結によりにより生成したものである(1)〜(4)のいずれかに記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(6)ペプチドの改変体が、N末端のアセチル化又はピロ化或いはC末端のアミド化により生成したものである(1)〜(4)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(7)1つ以上のアミノ酸の置換が、アスパラギン或いはセリンからアラニンに置換されたものである(5)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(8)1つ以上のアミノ酸の置換が、L体のアミノ酸からD体のアミノ酸への置換により生成したものである(5)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(9)1つ以上のアミノ酸の付加が、極性アミノ酸によりなされたものである(5)記載の炎症性疾患予防・治療剤
(10)極性アミノ酸の付加が、スペーサーアミノ酸を介してなされたものである(9)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(11)炎症性疾患が、炎症時に炎症性サイトカイン、ケモカイン或いはT細胞の増加を伴うものである(1)記載の炎症性疾患予防・治療剤。
(12)炎症性サイトカイン、ケモカイン或いはT細胞の増加を伴う疾患が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、全身性脈管炎、細菌性骨髄炎、皮膚炎、乾癬、糖尿病、肝炎、リウマチ、感染又は自己免疫疾患に伴う神経障害、神経因性疼痛、虚血再環流障害、脳炎、ギラン・バレー症候群、パーキンソン病、動脈硬化症、代謝症候群(メタボリックシンドローム)、心不全、心筋症、心筋梗塞、脳梗塞、クローン病、移植片体宿主疾患又は移植拒絶反応からなる疾患である(11)に記載の炎症性疾患予防・治療剤。
である。
【0017】
上記記載の各ペプチドは、「固相法」又は「液相法」として知られるペプチド合成法により、調製することができる。例えば、社団法人日本生化学会編集『生化学実験講座』、第1巻、「タンパク質IV」、第207〜495頁、1977年、東京化学同人発行及び社団法人日本生化学会編集『新生化学実験講座』、第1巻、「タンパク質VI」、第3〜74頁、1992年、東京化学同人発行などにはペプチド合成の詳細が記載されている。また、Fmoc(9−フルオレニルメトオキシカルボニル)固相合成法を用いてペプチド合成機にて合成することができる。すなわち、合成する各ペプチドのC末端に相当するアミノ酸が導入されているFmocアミノ酸を樹脂に結合させ、(I)Fmoc基の脱保護と洗浄、(II)Fmocアミノ酸の縮合と洗浄、の操作を繰り返してペプチド鎖を延長し、最後に最終脱保護反応させて、目的とするペプチドを合成することができる。
【0018】
本発明のペプチドは化学合成により調製されたものに限定されず、例えば、上記(1)〜(13)に記載されたペプチドを生産する場合には、細胞中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、DNAクローニング部位、ターミネーター等を有する発現ベクターに、該ペプチドをコードしたポリヌクレオチドを組換え作製した発現ベクターを用いてよい。この発現ベクターで宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養し、この培養物から目的のペプチドを単離、精製することによりこの発明のペプチドを採取してもよい。宿主として、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞などを適宜用いてもよい。
【0019】
この発明のペプチドは、単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば、限外ろ過、ゲルろ過、SDS−PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどのペプチド又は蛋白質を精製するための方法が用いられ、必要に応じて、これら方法を適宜組合せてもよい。そして、最終使用形態に応じて、精製したペプチドを濃縮、また必要に応じてさらに凍結乾燥して、液状又は固状にすればよい。
【0020】
さらに、本発明のペプチドは、通常当業者の技術常識に従ってアミノ酸の置換、欠失、或いは付加を行うことができる。すなわち、電荷密度、疎水性、親水性、サイズ及び形状などの物理的性質の公知の類似性に基づき改変が可能となる。
【0021】
たとえば、個々のアミノ酸を置換する場合、LeuをSerに、又はその逆にSerをLeuに置換することができ、ThrをSer(又はその逆)に置換することが可能である。
【0022】
また、ペプチドのC末端をアミド化、N末端のアセチル化などの修飾によってペプチドの両末端の電荷を打ち消して安定なものにすることもできる。また標的となる細胞の膜透過性向上やペプチドの溶解性向上のため、1個ないし複数個のアルギニンやリジン等の親水性アミノ酸をペプチドに直接付加、又はスペーサーとなるアミノ酸を介して本ペプチドに付加することもできる。このスペーサーとなるアミノ酸として、プロリンやグリシン等が用いられる。
【0023】
また、システイン残基間のS−S結合を利用したペプチドの環状化、二量体化することによりペプチドの安定性及び活性の向上に有用な場合がある。また、グルタミンがペプチドのN末端にある場合にカルボキシル基とアミノ基の分子内縮合によりピロ化してピログルタミン酸に変化することがあり、その場合は、グルタミンの代わりにピログルタミン酸を付加することもできる。
【0024】
本発明のペプチドは、そのままで或いは公知の薬学的に許容される担体や賦形剤等と混合した医薬組成物として経口又は非経口的に投与することができる。
本発明のペプチドを含む薬剤の形態のとしては、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、軟こう剤、硬膏剤、パップ剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、注射剤などが挙げられる。
【0025】
本発明のペプチドの投与量は、患者の年令や疾患の程度により異なるが、一般には経口投与の場合には1日当たり0.1μg/kg〜500mg/kg体重、好ましくは1μg/kg〜200mg/kg体重、より好ましくは5μg/kg〜100mg/kg体重、静脈内、筋肉内或いは皮下投与の場合には1日当たり0.1μg/kg〜500mg/kg体重、好ましくは0.5μg/kg〜200mg/kg体重、より好ましくは1μg/kg〜100mg/kg体重である。投与回数は、経口投与で1日1〜3回、注射では1日1〜2回に分けて投与することができる。
【0026】
本発明のペプチドは通常の方法に従って製剤化することができる。例えば、賦形剤、補形剤、希釈剤、香味剤、香料、甘味剤、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、界面活性剤、基剤、溶剤、充填剤、増量剤、溶解補助剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、崩壊剤、噴射剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、保湿剤、帯電防止剤、無痛化剤などを組合せて用い、製剤として製造することができる。
【0027】
本発明のペプチドの投与経路は、経口、非経口と特に制限はないが、静脈投与、筋肉投与、皮下投与、皮内投与、経肺・経鼻などの粘膜投与等の非経口投与が好ましい。
【0028】
本発明による炎症性疾患の予防・治療剤を、注射剤として製する場合には、常法に従い、精製されたペプチドの一定量に、例えば注射用水、生理食塩液、或いはPBS(0.1Mリン酸緩衝食塩水)などを加えて溶解又は均一に懸濁させるか、薬理的に許容される天然/又は合成の界面活性剤(たとえばレシチン類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ひまし油類など)を添加して分散剤とするか、所望により基材油脂を加えたものを乳化機を用いて乳化分散剤とする。さらに、これらには必要に応じて溶解補助剤(安息香酸ベンジル等)、アルコール類(一価或いはポリエチレングリコールなどの多価いずれでも良い)、ブドウ糖やその他の等張化剤(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、アスコルビン酸などの酸化防止剤などと配合してもよい。
このようにして得られた薬液は、必要に応じて除菌フィルターでろ過して無菌の薬液とし、通常適当なアンプル等に無菌的に充填して製剤とするか、必要に応じてバイアルに充填し、乾燥させた用事溶解製剤として医療の場に供する事ができる。
【0029】
また、前項に記載した成分から、噴霧剤に適した安定剤、保存剤などの添加剤成分を選択し、吸収促進剤、帯電防止剤などをさらに添加し、液状或いは乾燥微粉末としてよい。局所への噴霧にあたり、液状噴霧剤とするか又は経肺投与或いは経鼻投与に適した粒子サイズの微粉末又は乾燥固体として適宜剤形を選択することができる。
【0030】
ペプチドは、投与されるとしばしば体内循環から速やかに除去されるので、比較的短時間においてのみその薬理学的活性を示すこととなる。従って、治療に有効とする状態を維持するためには、生物活性のある物質を比較的大量且つ多回に投与することが好ましい。ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの共重合体、及びポリプロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、又はポリプロリンのような水溶性ポリマーを共有結合させてそれを修飾した物質は、対応する未修飾の物質と比べて、静脈内投与後の血中においてより長い半減期を示すことが知られている。このような修飾は、水溶液への物質の溶解度を増大させ、凝集を阻止し、物質の物理的及び化学的安定性を増大させ、物質の免疫原性及び反応性も著しく減少させる場合がある。その結果、未修飾の物質に比べてより少ない投与回数で、或いはより少ない用量で、このようなポリマー物質付加体を投与することによって、所望のインビボ生物活性を達成することができる。
【0031】
ポリエチレングリコール(PEG)は、毒性が低いことから、それを結合させることは特に有用である。また、PEGを結合すると、異種性化合物の免疫原性及び抗原性を効果的に減少できることがある。ペプチドのアミノ基と反応させるのに有用なPEG試薬としは、分子量2000〜30000までの高純度のものだけでなく、メトキシPEGアミン、マレイミド、カルボン酸などの活性化PEG誘導体も存在し、これらPEGを結合するために用いてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の炎症性疾患予防・治療剤の有効物質は、ヒトアポリポタンパク質A−IIのアミノ酸配列において抗炎症性の作用部位を持つペプチド又はその改変体であり、副作用がないか又は殆ど副作用がなく、極めて安全で且つ確実な効果を発揮する炎症性疾患予防・治療剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に実施例、実験例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0034】
以下の実験例、実施例、試験例を通じて、アミノ酸の表示については、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、フェニルアラニン(Phe)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、アスパラギン(Asn)、プロリン(Pro)、グルタミン(Gln)、アルギニン (Arg)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、バリン(Val)、トリプトファン(Trp)と3文字表示とする。
実験例1(ペプチドの合成)
【0035】
配列番号2〜22のペプチドは、ペプチド自動合成機(433A型:Applied Biosystems社製)を用い、樹脂に固定したアミノ酸誘導体に、1個ずつアミノ酸をカルボキシル末端側から結合させていく方法(固相合成法)により合成した。
【0036】
配列番号8で表されるペプチドを以下のようにして合成した。
ペプチドのC末端残基に相当するアミノ酸(Ala)が導入されているFmoc−Ala−樹脂を上記ペプチド合成機の反応容器にセットし、合成機に添付されているソフトウエアーに従って、活性化剤として、1−[ビスジメチルアミノメチレン]−1H−ベンゾトリアゾリウムー3−オキシドーヘキサフルオロホスフェイト(HBTu),1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)とジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して反応槽に加えて反応させた。得られた樹脂をピペリジン含有N−メチルピロリドン中で緩やかに攪拌してFmoc基を除いた。次にC末側から2番目のアミノ酸(Pro)を繋ぐため、Fmoc−Pro−OHに先と同様の試薬を加えて活性化したものと、先のFmoc基を除いた樹脂に結合しているアミノ酸に反応させた。ここで生成したFmoc−Pro−Ala−樹脂から再びFmoc基を除き、同様の方法で活性化させたFmoc−Gln(Trt)−OH/PyBOP溶液と反応させ、C末側から3番目までのアミノ酸を含むFmoc−Gln(Trt)−Pro−Ala−樹脂を合成した。
【0037】
さらに逐次同様の操作で各アミノ酸を付加し、目的とする保護ペプチド樹脂
(Fmoc−Ala−Gly−Thr(tBu)−Glu(OtBu)−Leu−Val−Asn(Trt)−Phe−Leu−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−Phe−Val−Glu(OtBu)−Leu−Gly−Thr(tBu)−Gln(Trt)−Pro−Ala−樹脂)を合成した。
【0038】
なお、ペプチド合成に使用したアミノ酸は以下に示したものを用いた。これらのアミノ酸は、L体又はD体が用いられ、アセチル化、ピロ化等の修飾したアミノ酸も用いられた。
( )内は残基部分の反応基を保護する保護基を表す。:
Fmoc−Ala−OH、Fmoc−Cys(Trt)−OH、Fmoc−Asp(OtBu)−OH、Fmoc−Glu(OtBu)−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−His(Trt)−OH、Fmoc−Ile−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Met−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH、Fmoc−Pro−OH 、Fmoc−Gln(Trt)−OH、Fmoc−Arg(Pbf)− OH、 Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Thr(tBu)−OH、Fmoc−Val−OH、Fmoc−Trp−OH 、Fmoc−Tyr(tBu)−OH
【0039】
上記説明において使用されている略語の意味は以下の通りである。:
Trt=トリチル、
Pbf=N−2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンンゾフランー5−スルフォニル、
Boc=t−ブトキシカルボニル、
tBu=tert−ブチル、
OtBu=tert−ブトキシ
HBTU=2−(1H−ベンゾトリアゾルー1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムーヘキサフルオロホスフェイト
【0040】
まず、上記のように合成し得られた保護ペプチド樹脂(Ala−Gly−Thr(tBu)−Glu(OtBu)−Leu−Val−Asn(Trt)−Phe−Leu−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−Phe−Val−Glu(OtBu)−Leu−Gly−Thr(tBu)−Gln(Trt)−Pro−Ala−樹脂)のピペリジン処理で、N末端Fmoc基を脱保護した。
【0041】
次にN−メチル−2−ピロリジノンにて洗浄後、メチレンクロライドにて洗浄し、さらに窒素ガスを吹き付けることにより乾燥させた。
樹脂を取り出し、クリベージ溶液を加え、反応させることにより側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切り出しを行い、配列番号8に記載のペプチドからなる粗ペプチドをエーテル沈殿とした後、沈殿をろ取した。
【0042】
また、配列番号8以外の配列番号2〜22に記載のペプチドを含む粗ペプチド溶液についても、これらと同様の操作を行って調製した。また、D体ペプチドはD体のアミノ酸を用いた。
実験例2(ペプチドの精製)
【0043】
実験例1で得た粗ペプチド溶液を、ODSカラム(YMC ODS, 30×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開、精製し、目的物を含む分画を集め凍結乾燥し、配列番号2〜22に記載のアミノ酸配列を有するトリフルオロ酢酸塩体ペプチドを得た。
実験例3(C末端アミドペプチドの作製)
【0044】
48−67(C末端アミドペプチド)番のペプチド(配列番号11)で表されるペプチドの合成を以下のようにした。実施例1と同じペプチド自動合成機を用いてC端末アミド作製用 Rink−Amide MBHAを出発樹脂単体とし、C端末から配列に従って各Fmoc−アミノ酸誘導体を原料として逐次ペプチド鎖の延長を行った。合成し得られた保護ペプチド樹脂にピペリジン処理によりN末端Fmoc基を脱保護し、続いてトリフルオロ酢酸を用いて、側鎖保護基の除去と樹脂からの切り出しを行い、粗ペプチド溶液を得た。実験例2と同様に精製し、配列番号11のトリフルオロ酢酸塩体ペプチドを得た。配列番号11以外の配列番号12、13、15、20、22に記載のペプチドを含む粗ペプチド溶液についても、これらと同様の操作を行って調製した。
実験例4(ジスルフィド結合型環状化ペプチドの作製)
【0045】
配列番号12で表されるペプチドの合成を以下のようにした。実施例1と同じペプチド自動合成機を用いてC末端がアミドの場合はC端末アミド作製用 Rink−Amide MBHAを出発樹脂単体とし、C端末から配列に従って各Fmoc−アミノ酸誘導体を原料として逐次ペプチド鎖の延長を行った。合成し得られた保護ペプチド樹脂にトリフルオロ酢酸を用いて側鎖保護基の脱保護と樹脂からの切り出しを行った。得られた粗ペプチド溶液を50%酢酸水溶液とし、ヨウ素水溶液を混ぜて反応させジスルフィド結合型環状化ペプチドとした。環状化の進行を高速液体クロマトグラフにて確認後、実験例2と同様に精製し、配列番号12のトリフルオロ酢酸塩体ペプチドを得た。配列番号12以外の配列番号13及び16に記載のペプチドを含む粗ペプチド溶液についても、これらと同様の操作を行って調製した。
実験例5(ジスルフィド結合型二量体ペプチドの作製)
【0046】
配列番号21で表されるペプチドの合成を以下のようにした。実施例1と同じペプチド自動合成機を用いてC末端がアミドの場合はC端末アミド作製用 Rink−Amide MBHAを出発樹脂単体とし、C端末から配列に従って各Fmoc−アミノ酸誘導体を原料として逐次ペプチド鎖の延長を行った。合成し得られた保護ペプチド樹脂にトリフルオロ酢酸を用いて側鎖保護基の脱保護と樹脂からの切り出しを行った。得られたチオール基遊離の粗ペプチド溶液を50%酢酸水溶液とし、ヨウ素水溶液を混ぜて反応させジスルフィド結合型二量体ペプチドとした。二量化の進行を高速液体クロマトグラフにて確認後、実験例2と同様に精製し、配列番号21のトリフルオロ酢酸塩体ペプチドを得た。配列番号22に記載のペプチドを含む粗ペプチド溶液についても、これらと同様の操作を行って調製した。
実験例6(塩交換)
【0047】
配列番号4及び11で表されるペプチドについては、トリフルオロ酢酸塩体を酢酸水溶液に溶解し、ダウエックスイオン交換樹脂にて塩交換し酢酸塩体とした。
実験例7(ペプチドの純度)
【0048】
実験例1〜6で取得したペプチドは、PBSにて溶解しペプチド溶液として、ODSカラム(YMC ODS, 4.6×150mm),(Inertsil ODS−3, 4.6×250mm)又は(Inertsil PREP ODS, 4.6×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開し、吸光度220nmを測定することにより純度を確認した。
その結果を次に示す。
配列番号2のペプチドは96.8%、
配列番号3のペプチドは95.9%、
配列番号4のペプチドは97.9%、
配列番号5のペプチドは98.7%、
配列番号6のペプチドは92.1%、
配列番号7のペプチドは95.4%、
配列番号8のペプチドは94.2%、
配列番号9のペプチドは95.9%、
配列番号10のペプチドは95.4%、
配列番号11のペプチドは99.6%、
配列番号12のペプチドは96.3%、
配列番号13のペプチドは97.6%、
配列番号14のペプチドは98.6%、
配列番号15のペプチドは98.9%、
配列番号16のペプチドは97.5%、
配列番号17のペプチドは98.4%、
配列番号18のペプチドは98.4%、
配列番号19のペプチドは95.0%、
配列番号20のペプチドは99.3%、
配列番号21のペプチドは99.2%、
配列番号22のペプチドは98.4%
上記の通り、いずれも高純度のペプチドが得られた。
配列番号2〜22のぺプチドについて純度を測定したクロマトグラムを図1〜21に示した。
【0049】
ただし、配列番号1は国際公開番号WO/2008/133225に準じて製造した。
実験例8(試験管内活性測定)
【0050】
「ヒト単球様細胞株THP−1由来マクロファージを用いた試験:MCP−1産生」
ペプチド(配列番号2、3、10、11、12及び13)の生理活性は、リポポリサッカライド(LPS)刺激下、MCP−1の産生量を測定し、無作用であるPBSでの産生量と比較し、MCP−1産生抑制活性として評価した。同様に配列番号1も実施した。
すなはち、ヒト単球性細胞株THP−1を96穴プレートに2×10/well(100uL/well)で播種した、その際にホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)を終濃度100nMで添加し37℃、5%CO条件下で3日間培養した。新たにPMA含有培地(100uL/well)と交換しさらに24時間培養を行なった。細胞を洗浄後、別に実験例1〜6で取得したペプチドを、もしくは溶媒コントロールのPBSを50uL/wellで添加し、刺激としてLPS(E. coli 0111:B4、Sigma社製)を終濃度0.1μg/mLとなるように50uL/wellで加え37℃、5%CO条件下で9時間もしくは24時間培養した。その後、培養上清中のMCP−1(Human CCL2/MCP−1 Quantikine ELISA Kit; R&D社製)を測定した。
結果を表1及び表2に示す。なお、以下の表における「値」は、n=2の平均値(%)である。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

表1に示されるように、配列番号13で15%及び配列番号11で22%までのMCP−1産生抑制を示し、その他のペプチドも配列番号1に比べMCP−1産生抑制を示した。また、表2に示されるように、配列番号3では0.01〜0.125mg/mLの濃度範囲にて用量依存的なMCP−1産生抑制を示した。
【0053】
実験例9(試験管内活性測定)
「ラットミクログリア細胞を用いた試験:TNF−α産生」
ペプチド(配列番号5,7,8,9及び11)の生理活性は、リポポリサッカライド(LPS)刺激下、TNF−αの産生量を測定し、無作用であるPBSでの産生量と比較し、TNF−α産生抑制活性として評価した。同様に配列番号1も実施した。
すなわち、ラット新生児由来ミクログリア細胞を住友ベークライト社より購入し、同社Nerve−Cell Culture System<ミクログリア>の培養方法に従い一週間ほど培養してから試験系に用いた。培養後ミクログリア細胞はミクログリア用細胞培養液(住友ベークライト社)に懸濁し、5×10cells/wellで96well細胞培養用プレート(コーニング社)に播種して一夜培養した。培養液をミクログリア用試験液(住友ベークライト社)に交換し、別に実験例1〜6で取得したペプチドもしくは溶媒コントロールのPBSを50uL/well添加し、最終濃度25ng/mLとなるようにLPS(E. coli 0111:B4、Sigma社製)を150uL/well加えて37℃、COインキュベーターで4時間培養した。上清を回収し、上清中のTNF−α(Rat TNF−alpha Quantikine ELISA Kit; R&D社製)を測定した。
その結果を表3、表4に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

表3に示されるように、配列番号8で0%、配列番号9で1%、配列番号7で18%及び配列番号11で19%までのMCP−1産生抑制を示し、その他のペプチドも配列番号1に比べTNF−α産生抑制を示した。また、表4に示されるように、配列番号11では0.025〜0.25mg/mLの濃度範囲にて用量依存的なTNF−α産生抑制を示した。
【実施例1】
【0056】
リポポリサッカライド(E. coli 0111:B4、Sigma社製)を用いて発症させた炎症モデルマウスを用い、炎症性サイトカインであるTNF−α生成の亢進が、本発明のペプチド製剤で抑制されること確認した。
まず、実験1〜6で得られたペプチド(配列番号8)をPBSに溶解し、濃度0.25μg/mlの澄明な溶液とした。これを、0.22μmの口径のフィルター(ミリポア社製)でろ過し、ペプチド製剤を作製した。
実験用に、8週齢の雄性Balb/cマウス(日本チャールス・リバー社製)18匹を準備した。そのうちの6匹に、このペプチド製剤を、ペプチドとして5μg/kgの用量で、静脈内に単回投与した(ペプチド投与群)。10分後、ペプチド投与群の6匹と他の6匹(対照群)の計12匹に、リポポリサッカライド溶液10mg/kgを腹腔内に単回投与した。一方、ペプチド溶液及びLPS溶液のいずれも投与しなかったマウス6匹を正常群とした。
ペプチド溶液を投与してから2時間後に炭酸ガス麻酔下で腹部大動脈より採血してEDTA加血漿を得た。この血漿中の腫瘍壊死因子(TNF−α)値を測定し、それぞれ平均±標準誤差を算出した。TNF−α値に関する統計学的解析は、正常群に対する対照群と対照群に対するペプチド投与群の効果について、それぞれスチューデントのt検定(Excel、Microsoft)を行った。その結果を図22に示した。
図22に示されるように、対照群では、正常群と比較して血漿中のTNF−α値の増加が顕著に認められた。しかし、対照群で認められたTNF−α値の増加は、ペプチド製剤投与群では顕著に抑制された。ペプチド投与群において、ペプチド投与によると思われる副作用は見られなかった。
【実施例2】
【0057】
λ−Carrageenanを用いて発症させたカラゲニン誘発足蹠浮腫モデルを用い、血漿由来ヒトアポリポプロテインAII(pAPO)及びアポリポプロテインAIIの断片ペプチド(配列番号8)の浮腫抑制効果について検討した。
5週齢の雄性ICRマウス(日本チャールス・リバー社製)16匹を準備し、そのうち12匹に生理食塩液で1.0w/v%に調製したλ−Carrageenan(和光純薬社製)溶液を、左後肢の足蹠に50μL/足の用量で局所投与し、足蹠浮腫モデルを誘発させた。この12匹中、4匹はλ−Carrageenan溶液投与30分前に、pAPOの生理食塩溶液をpAPOとして4mg/kgの割合で静脈内単回投与し(pAPO群)、別の4匹には配列番号8の生理食塩溶液を、ペプチドとして5μmg/kgの割合で静脈内に単回投与した(ペプチド群)。又別の4匹には、λ−Carrageenan以外何も投与せず対照群とした。残る4匹については、何も投与せず、正常群とした。これら16匹について、λ−Carrageenan投与前及び投与1、3、5及び7時間後に左後肢の足根関節部腫脹をノギスで測定し、それぞれ平均±標準誤差を算出した。その結果を図23に示した。
図23に示したとおり、対照群では左後肢の腫脹が顕著に認められた。これに対し、pAPO群では5時間目より抑制効果が見られたが、ペプチド群では1時間目より明らかな抑制効果が見られ、7時間目まで効果が持続したことから、配列番号4、配列番号5或いは配列番号22のアミノ酸を含む本配列番号8のペプチドにおいて、炎症性疾患症状の効果的な軽減が確認され、その効果は、断片ペプチドより投与量の多かった血漿由来ヒトアポリポプロテインAIIに比べ、驚く程度に勝っていた。
【実施例3】
【0058】
「マウスCD4陽性T細胞を用いた試験:IFN−γ産生」
ペプチド(配列番号4、11及び14)の生理活性は、コンカナバリンA刺激下、IFN−γの産生量を測定し、無作用であるPBSでの産生量と比較し、IFN−γ産生抑制活性として評価した。同様に配列番号1も実施した。
すなわち、Balb/cマウスより脾臓を摘出し、脾臓細胞を取得した。脾臓細胞をFITC標識抗CD4抗体(ベクトンディッキンソン社)で処理し、FITCビーズ(ミルテニー社)を用いてCD4陽性T細胞を単離した。96穴プレートに1×10/well(100uL/well)で播種後、種々の濃度のペプチド、もしくは溶媒コントロールのPBSを50uL/wellで添加し、刺激としてコンカナバリンAを終濃度1μg/mLとなるように50uL/wellで加え37℃、5%CO条件下で24時間培養した。その後、培養上清中のIFN−γを特異的なELISA(Mouse IFN−gamma Quantikine ELISA Kit; R&D社製)にて測定した。
その結果を表5、表6に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

表5に示されるように、配列番号4で8%、配列番号11で12%及び配列番号14で18%までのIFN−γ産生抑制を示した。また、表6に示されるように、配列番号4では0.25〜1mg/mLの濃度範囲にて用量依存的なIFN−γ産生抑制を示した。
【実施例4】
【0061】
「ヒトCD4陽性T細胞を用いた試験:細胞増殖」
ペプチド(配列番号10、11、13、15、20及び22)の生理活性は、抗CD3抗体と抗CD28抗体による刺激下、細胞増殖活性を測定し、無作用であるPBSでの産生量と比較し、細胞増殖抑制活性として評価した。同様に配列番号1も実施した。
すなわち、ヒト血中よりCD4陽性T細胞をCD4+T細胞単離キット(ミルテニー社)で単離した。抗ヒトCD3抗体固相化96穴プレートに5×10/well(100uL/well)で播種後、種々の濃度のペプチド、もしくは溶媒コントロールのPBSを50uL/wellで添加し、さらに刺激として抗ヒトCD28抗体を終濃度5 μg/mLとなるように50uL/wellで加え37℃、5%CO条件下で96時間培養した。その後、培養上清液にて細胞増殖活性をWST−1法(Premix WST−1 Cell Proliferation Assay System; タカラバイオ社製)にて測定した。
その結果を表7、表8に示す。
【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

表7に示されるように、配列番号11で9%、配列番号20で11%、配列番号15で12%及び配列番号10で14%までの細胞増殖抑制活性を示し、その他のペプチドも配列番号1に比べ細胞増殖抑制活性を示した。また、表8に示されるように、配列番号13では0.03125〜0.125mg/mLの濃度範囲にて用量依存的な細胞増殖抑制活性を示した。
【実施例5】
【0064】
「マウスCD4陽性T細胞を用いた試験:IL−2産生」
ペプチド(配列番号4、5、6、11及び14)の生理活性は、コンカナバリンA刺激下、IL―2の産生量を測定し、無作用であるPBSでの産生量と比較し、IL−2産生抑制活性として評価した。同様に配列番号1も実施した。
すなわち、Balb/cマウスより脾臓を摘出し、脾臓細胞を取得した。脾臓細胞をFITC標識抗CD4抗体(ベクトンディッキンソン社)で処理し、FITCビーズ(ミルテニー社)を用いてCD4陽性T細胞を単離した。96穴プレートに1×10/well(100uL/well)で播種後、種々の濃度のペプチド、もしくは溶媒コントロールのPBSを50uL/wellで添加し、刺激としてコンカナバリンAを終濃度1μg/mLとなるように50uL/wellで加え37℃、5%CO条件下で24時間培養した。その後、培養上清中のIL−2を特異的なELISA(Mouse IL−2 Quantikine ELISA Kit; R&D社製)にて測定した。
その結果を表9、表10に示す。
【0065】
【表9】

【0066】
【表10】

表9に示されるように、配列番号4、5及び11で18%までのIL−2産生抑制を示し、その他のペプチドも配列番号1に比べIL−2産生抑制を示した。また、表10に示されるように、配列番号14では0.25〜1mg/mLの濃度範囲にて用量依存的なIL−2産生抑制を示した。
【実施例6】
【0067】
「ヒトCD4陽性T細胞を用いた試験:IL−2産生」
ペプチド(配列番号5、7、10、11、14、16、17、18、19及び21)の生理活性は、抗CD3抗体と抗CD28抗体による刺激下、IL―2の産生量を測定し、無作用であるPBSでの産生量と比較し、IL−2産生抑制活性として評価した。同様に配列番号1も実施した。
すなわち、ヒト血中よりCD4陽性T細胞をCD4+T細胞単離キット(ミルテニー社)で単離した。抗ヒトCD3抗体固相化96穴プレートに5×10/well(100uL/well)で播種後、種々の濃度のペプチド、もしくは溶媒コントロールのPBSを50uL/wellで添加し、さらに刺激として抗ヒトCD28抗体を終濃度5 μg/mLとなるように50uL/wellで加え37℃、5%CO条件下で96時間培養した。その後、培養上清中のIL―2を特異的なELISA(Human IL−2 Quantikine ELISA Kit; R&D社製)にて測定した。
その結果を表11、表12に示す。
【0068】
【表11】

【0069】
【表12】

表11に示されるように、配列番号11で0%、配列番号10で4%、配列番号18で8%及び配列番号17で14%までのIL−2産生抑制を示し、その他のペプチドも配列番号1に比べIL−2産生抑制を示した。また表12に示されるように、配列番号11では0.0625〜0.25mg/mLの濃度範囲にて用量依存的なIL−2産生抑制を示した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
炎症性サイトカインの産生、ケモカイン産生或いはT細胞増殖を伴う炎症性疾患の患者に対し、少量の本ペプチドを用いることで、副作用の伴わない予防・治療が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号2)
【図2】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号3)
【図3】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号4)
【図4】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号5)
【図5】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号6)
【図6】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号7)
【図7】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号8)
【図8】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号9)
【図9】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号10)
【図10】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号11)
【図11】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号12)
【図12】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号13)
【図13】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号14)
【図14】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号15)
【図15】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号16)
【図16】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号17)
【図17】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号18)
【図18】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号19)
【図19】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号20)
【図20】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号21)
【図21】ペプチドの純度を確認した逆相クロマトグラフィーの結果(配列番号22)
【図22】LPS誘発炎症モデルマウスにおけるTNF−α測定結果
【図23】カラゲニンによる浮腫誘発モデルマウスのペプチドによる抑制効果
【符号の説明】
【0072】
図22における符号
**:p<0.01(正常群に対して)
##:p<0.01(対照群に対して)
図23における符号
○:正常群、●:対照群、×:pAPO群、◆:ペプチド群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に記載のペプチドおいて、8個〜30個の連続したアミノ酸からなるペプチド又はその改変体を含んでなる炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項2】
8個〜30個の連続したアミノ酸からなるペプチド又はその改変体がMCP−1、TNF−α、IFN−γ又はIL−2の産生抑制、もしくはT細胞の増殖を抑制するものである請求項1記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項3】
8個〜30個の連続したアミノ酸からなるペプチドが配列番号23のペプチドを含むものである請求項1又は2記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項4】
配列番号2に記載のペプチドにおいて、配列番号4又は配列番号5のペプチドを含む20〜30個の連続したアミノ酸からなる請求項1又は2記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項5】
ペプチドの改変体が、1つ以上のアミノ酸の置換、1つ以上のアミノ酸の欠失、1つ以上のアミノ酸の付加、あるいはS−S結合の連結によりにより生成したものである請求項1〜4のいずれかに記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項6】
ペプチドの改変体が、N末端のアセチル化又はピロ化或いはC末端のアミド化により生成したものである請求項1〜4記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項7】
1つ以上のアミノ酸の置換が、アスパラギン或いはセリンからアラニンに置換されたものである請求項5記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項8】
1つ以上のアミノ酸の置換が、L体のアミノ酸からD体のアミノ酸への置換により生成したものである請求項5記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項9】
1つ以上のアミノ酸の付加が、極性アミノ酸によりなされたものである請求項5記載の炎症性疾患予防・治療剤
【請求項10】
極性アミノ酸の付加が、スペーサーアミノ酸を介してなされたものである請求項9記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項11】
炎症性疾患が、炎症時に炎症性サイトカイン、ケモカイン或いはT細胞の増加を伴うものである請求項1記載の炎症性疾患予防・治療剤。
【請求項12】
炎症性サイトカイン、ケモカイン或いはT細胞の増加を伴う疾患が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、全身性脈管炎、細菌性骨髄炎、皮膚炎、乾癬、糖尿病、肝炎、リウマチ、感染又は自己免疫疾患に伴う神経障害、神経因性疼痛、虚血再環流障害、脳炎、ギラン・バレー症候群、パーキンソン病、動脈硬化症、代謝症候群(メタボリックシンドローム)、心不全、心筋症、心筋梗塞、脳梗塞、クローン病、移植片体宿主疾患又は移植拒絶反応からなる疾患である請求項11に記載の炎症性疾患予防・治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−120937(P2010−120937A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245167(P2009−245167)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000231648)日本製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】